近年でこそレア・グルーヴ/ディープ・ソウル・ジャンルでの再評価が著しいBetty Wrightだけど、日本ではまだ知名度は低く、小沢健二"ラブリー"の元ネタ"Clean Up Woman"の引き合いくらいでしか、紹介される機会がない。「Betty Wright」で検索すると、必ず「小沢健二」か「ラブリー」のワードがくっついてくる、マイアミ・ソウルのゴッド・マザー、2011年リリースの、今のところ最新作。
タイトルだけ見ると、彼女の伝記映画のサウンドトラックと勘違いしてしまいそうだけど、映画とは何の関係もない。長いキャリアの中で浮き沈みを経験した、ドラマティックな彼女の人生をコンセプト・アルバムで表現した、ということなのだろう。
タイトルだけ見ると、彼女の伝記映画のサウンドトラックと勘違いしてしまいそうだけど、映画とは何の関係もない。長いキャリアの中で浮き沈みを経験した、ドラマティックな彼女の人生をコンセプト・アルバムで表現した、ということなのだろう。
改めて調べてみて驚いたことに、このBetty、今ではただの懐メロ歌手だと思っていたのだけど、最近では主にソウル界のフィクサー的存在として、確固たる地位を築いている。あのJoss Stoneのデビューにも一枚噛んでいたとのことで、ただ単に表舞台から遠ざかっていたわけではない。日本のディナー・ショーに出稼ぎにやって来る往年のソウル・シンガーとは違って、ほぼ自分の采配で活動できているのは、相当なやり手のはず。特に魑魅魍魎な有象無象が暗躍するアメリカのショー・ビジネス界で堂々と渡り合っているのだから、なかなかしたたかな面もあるのだろう。
そんなBettyが再び表舞台に躍り出る為、ちょっと力を借りたのだが、現在その影響力はヒップホップ界だけに留まらず、あらゆるジャンルとのコラボ・プロデュースで名を馳せるクリエイター集団The Rootsである。
スクラッチやサンプリング、DJミックスなど、いわゆる自らの演奏スキルに重きを置かず、コーディネート力や自己プロデュース能力が重んじられるヒップホップというジャンルの中、敢えて異端とも言うべき生音にこだわり、バンド的なグルーヴを感じさせる音を出す、ちょっと変わったグループである。
もともとジャジー・ヒップホップという、このジャンルの中でも比較的メロディアスなカテゴリーの人たちなので、ロック/ポップス・リスナーの耳を持つ人でも入りやすいはず。
スクラッチやサンプリング、DJミックスなど、いわゆる自らの演奏スキルに重きを置かず、コーディネート力や自己プロデュース能力が重んじられるヒップホップというジャンルの中、敢えて異端とも言うべき生音にこだわり、バンド的なグルーヴを感じさせる音を出す、ちょっと変わったグループである。
もともとジャジー・ヒップホップという、このジャンルの中でも比較的メロディアスなカテゴリーの人たちなので、ロック/ポップス・リスナーの耳を持つ人でも入りやすいはず。
ここのリーダーQuestloveがなかなかのヤリ手、というか、現在のアメリカ音楽シーンのけん引役の一人として、大きな役割を果たしている。初期のErykah BaduやD'Angeloのブレイクにも貢献し、最近ではJohn Legendとのコラボでも話題になった。
とにかく色々と顔を出すのが好きなのか、アメリカの深夜トーク番組でハウス・バンドを務めているため、お茶の間での認知度も高い。この番組に出演することによって、ヒップホップ以外のジャンルとの接点も爆発的に増え、おかげでプロデュースやコラボの依頼も引く手あまたとのこと。
日本ではあまり話題にならないけど、世界的な影響力はかなりのものだ。
とにかく色々と顔を出すのが好きなのか、アメリカの深夜トーク番組でハウス・バンドを務めているため、お茶の間での認知度も高い。この番組に出演することによって、ヒップホップ以外のジャンルとの接点も爆発的に増え、おかげでプロデュースやコラボの依頼も引く手あまたとのこと。
日本ではあまり話題にならないけど、世界的な影響力はかなりのものだ。
そんな若手のムーヴメントに触発されたのか、彼ら主催のイベントに快く出演して接点を得たのが、今回の主役Betty。大御所扱いと言えば聴こえは良いが、一般的な知名度はかなり低迷して、ヒット・チャートからもすっかりご無沙汰だった状況から一転、彼らと組んだことによって、ビルボードR&Bチャートで27位まで上昇、底力を見せつけた。
一般的に往年のシンガーがカムバックする際、よく用いられる手段が過去のレパートリーのリメイクなのだけど、大抵これに若手クリエイターが絡むと、変にバック・トラックに凝ってしまい、中途半端なダンス・チューンに変貌してしまう場合が多い。
EDMやオート・チューンに支配されたサウンドでは、熟練のヴォーカルのニュアンスは伝わりにくく、どうしても不必要にシャウトしたり、がなり立てたりしないとサウンドに負けてしまう。結果、どうにもアンバランスで聴きづらい、変調され過ぎたヴォーカル・トラックになってしまう。「大胆なモデル・チェンジ」との謳い文句でリリースされたはいいが、大抵の場合は不評に終わる。古株ファンからは愛想を尽かされ、若者からは見向きもされない。
誰も幸せになれないのだ。
EDMやオート・チューンに支配されたサウンドでは、熟練のヴォーカルのニュアンスは伝わりにくく、どうしても不必要にシャウトしたり、がなり立てたりしないとサウンドに負けてしまう。結果、どうにもアンバランスで聴きづらい、変調され過ぎたヴォーカル・トラックになってしまう。「大胆なモデル・チェンジ」との謳い文句でリリースされたはいいが、大抵の場合は不評に終わる。古株ファンからは愛想を尽かされ、若者からは見向きもされない。
誰も幸せになれないのだ。
それに引き替えQuestlove、彼の場合、オリジナルへの造詣が深いため、きちんとリアルタイムの音でありながら、オールド・ウェイヴからの信頼も厚い。これはThe Roots特有のサウンド・メイキングにも由来する。もともと生音のバンド・サウンドをベースにして、スパイス的にエフェクトやサンプリングを混ぜ込む手法なので、バック・トラックとヴォーカルとのミスマッチ感が少ない。ちぐはぐな感じがないので、幅広い世代からの支持を得ているのも納得のサウンド・メイキングである。
QuestloveもBettyも、日本での認知度はまだまだ不十分のため、もっと評価されて欲しい。
ベティ・ライト:ザ・ムーヴィ
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ベティ・ライト・アンド・ザ・ルーツ
Pヴァイン・レコード (2012-03-07)
売り上げランキング: 176,189
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1. Old Songs
シンプルなバッキングに乗る、Bettyの熟練のヴォーカル。曲の構成自体はまさしく「Old Song」だけど、リズムの効いた伝統的なマイアミ・ファンクがオープニングに相応しい。
2. Real Woman (featuring Snoop Dogg)
スローなリズムのファンクに、ほんと合いの手程度にスパイスを加える若手のSnoop。この辺は貫禄に一歩譲ったのか、それほど個性を強く出していない。ソフトにうねるギターの音が心地よいアンビエント感覚。
3. In the Middle of the GAME (Don't Change The Play)
セッション風にBettyのカウントから始まる、出だしのギターの音が最高。それに乗せたエモーショナルなヴォーカル。
畳み掛けるようでいながら、情感あふれるロッカ・バラードのメロディも最高で、俺的にはベスト・トラック。
畳み掛けるようでいながら、情感あふれるロッカ・バラードのメロディも最高で、俺的にはベスト・トラック。
4. Surrender
オールド・スタイルのシンプルなバラード。
しかしこのQuestlove、本業はドラマーだけあって、どのトラックもリズムは立っており、どの音も存在感がすごい。ギターやベース、どのパーツを取ってもひとつひとつの音が太く、ズンッと響くのだ。これがスタジオ・ワークの妙、それだけ物量をかけたということなのだろう。
しかしこのQuestlove、本業はドラマーだけあって、どのトラックもリズムは立っており、どの音も存在感がすごい。ギターやベース、どのパーツを取ってもひとつひとつの音が太く、ズンッと響くのだ。これがスタジオ・ワークの妙、それだけ物量をかけたということなのだろう。
5. Grapes on a Vine (featuring Lil Wayne)
当時の若手筆頭株であるLil Wayneと組んだのはQuestloveの意向だったと思う。イキのいい若手を引っ張り込んだ結果、Bettyが発奮して熱量の高いトラックに仕上がったのだけど、気合負けしたのかLilがそれほど目立っていない。
2.同様、間奏でのライムが見せ場なのだが、Snoopほどは印象に残らない。Bettyのパートは血管が切れるくらいのパフォーマンス振り。
2.同様、間奏でのライムが見せ場なのだが、Snoopほどは印象に残らない。Bettyのパートは血管が切れるくらいのパフォーマンス振り。
6. Look Around (Be a Man)
ちょっぴり80年代初頭のディスコ・シーンを連想させる、比較的ポップな曲。
プリセットっぽいシンセの使い方など、あまりRootsっぽくないアレンジだけど、インパクトの強いサウンドが続いてしまったため、ここに敢えて脱力しちゃうようなトラックを挟み込んだのは、プロデューサーとしてのQuestloveのバランス感覚。
プリセットっぽいシンセの使い方など、あまりRootsっぽくないアレンジだけど、インパクトの強いサウンドが続いてしまったため、ここに敢えて脱力しちゃうようなトラックを挟み込んだのは、プロデューサーとしてのQuestloveのバランス感覚。
7. Tonight Again
ミドル・テンポの、これまたBettyの本領発揮のナンバー。こうした少し肩の力の抜けた曲を「聴かせ」られるようになったのは、Bettyがうまく年を重ねてきたからなのだろう。
ドラムの音はかなりいじっており、リヴァーヴも強いため、こちらも80年代を連想させるのだけど、ドラムの音ではこれが一番好き。
ドラムの音はかなりいじっており、リヴァーヴも強いため、こちらも80年代を連想させるのだけど、ドラムの音ではこれが一番好き。
8. Hollywould (featuring Robert "The Messenger" Bozeman)
不穏なオープニングのシンセ・サウンドの奥から聴こえる、Bettyの呪術的な語り。見ての通りHollywoodの造語だけど、享楽的なハリウッドばかりではないことを歌っているのだろう。ライブ映えしそうな曲。
80年代シンセ・サウンドを多用しながら、これもやはりミックスや録り方が上手いのだろう。チープでありながら、決して安っぽく聴こえないのが、このQuestloveのスキルの高さの証明である。
80年代シンセ・サウンドを多用しながら、これもやはりミックスや録り方が上手いのだろう。チープでありながら、決して安っぽく聴こえないのが、このQuestloveのスキルの高さの証明である。
9. Whisper in the Wind (featuring Joss Stone)
師弟共演というところだけど、まぁ師のアルバムということもあって、Jossのヴォーカルはちょっと控えめ。タイトル通りのウィスパー・ヴォイスで、軽くコーラスをかぶせる程度に抑えている。まともに組み合って勝てる相手じゃないし、そもそも軽めの曲なので、ムキになって歌うものではない。きちんとプロデュースされているアルバムなので、やはりBettyが気持ちよく歌えるようなアレンジ・構成にまとめられている。
10. Baby Come Back (featuring Lenny Williams)
今回初めて名前を聴いたのだけど、長いキャリアを誇るベテラン男性R&Bシンガーとの共演。
Luther VandrossとMarvin Gayeが合わさったような声質はメロウさを引き立たせ、パワフルなBettyとの対比を狙ったと思われるけど、ここはやはりBettyのカラーが強い。まぁ主役だから当然なのだけど、バランスとしては上手く釣り合っていると思う。
ただLennyのパートだけ聴いてると、ごく普通のR&B系バラード。
Luther VandrossとMarvin Gayeが合わさったような声質はメロウさを引き立たせ、パワフルなBettyとの対比を狙ったと思われるけど、ここはやはりBettyのカラーが強い。まぁ主役だから当然なのだけど、バランスとしては上手く釣り合っていると思う。
ただLennyのパートだけ聴いてると、ごく普通のR&B系バラード。
11. So Long, So Wrong
イントロからオールド・スタイルのポップ・ソウルが飛び出す。
軽めのバック・トラックだが、Bettyが入るとソウルフルなヴォーカルが曲調を支配する。これもギターの音が和んでお気に入り。
軽めのバック・トラックだが、Bettyが入るとソウルフルなヴォーカルが曲調を支配する。これもギターの音が和んでお気に入り。
12. You and Me, Leroy
本編ではラストの曲。この人のロッカ・バラードはほんと引き込まれる。
ちなみにLeroyが誰の事なのか、多分にBettyと同じ70年代に活躍していたLeroy Hutsonのことと思われるが、彼もディスコ・ブーム以降は不遇の時代が長く続いた。
ほぼ同じ境遇を歩んできたBettyにとって、彼は戦友でもあるのだろう。曲もどこかしらLeroyっぽい瞬間がある。
ちなみにLeroyが誰の事なのか、多分にBettyと同じ70年代に活躍していたLeroy Hutsonのことと思われるが、彼もディスコ・ブーム以降は不遇の時代が長く続いた。
ほぼ同じ境遇を歩んできたBettyにとって、彼は戦友でもあるのだろう。曲もどこかしらLeroyっぽい瞬間がある。
13. The One
スタンダードな正攻法バラード。良く言えば、アルバムのバラエティとして、こういった側面もあります、ということなのだろう。悪く言えば、凡庸な曲なので、わざわざBettyやQuestloveがやるべき曲とは思えない。
アルバムのコンセプトにはそぐわなかったため、ボーナス・トラック扱いにしたんじゃないかと思われる。
アルバムのコンセプトにはそぐわなかったため、ボーナス・トラック扱いにしたんじゃないかと思われる。
13. Go! (Live)
もともとは2009年リリースのシングルのライブ・ヴァージョン。もちろんこの頃は、まだRootsとの繋がりはないのだけど、そもそもアルバム・リリースのきっかけとなったのが、このシングルのグラミー賞ノミネートであったため、本人はおろか、復活を待ち望んだ往年のファンにとっても思い入れの深い一曲。
ボーナス・トラック扱いではあるが、何にせよアルバムに収録されたのは喜ばしいこと。
ボーナス・トラック扱いではあるが、何にせよアルバムに収録されたのは喜ばしいこと。
Platinum Collection
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