一般的にEW&Fのイメージと言えば、”September”や”宇宙のファンタジー”、ちょっと踏み込んでも”Boogie Wonderland”などのディスコ・クラシック系が有名で、それ以前はどんなサウンドだったのかは、あまり知られていない。実のところ、俺も長らくそのイメージが強く、ヒット曲以外のナンバーはほとんど関心がなかったのが事実。あくまで俺の先入観だけど、「大人数のアフロたちが大げさなコスプレで、ステップを踏みながら愛と自由を歌ってる集団」というのは、それほど間違ってないんじゃないかと思う。
こうした先入観とは裏腹に、海外のレア・グルーヴ界隈でEW&Fの人気は高く、特にディスコ・サウンドへの転身によって、(当時としては)時代のトレンドとなる以前、まだ70年代ジャズ・ファンクの香りが強い頃の泥臭いサウンドに、圧倒的な人気がある。
俺がEW&Fを知ったのはまだ小学生の頃、音より先に、まずビジュアル面での出会いだった。5歳上の従兄弟の部屋へ遊びに行くと、大量にあった週刊少年チャンピオンやジャンプの単行本を読み耽るのが楽しみだった。当時の従兄弟は高校中退してガソリン・スタンドでバイトをしており、自分で使える金に余裕があったのだ。次第にマンガよりレコードの量が多くなってくるのは、まぁ年頃ならではの変化である。で、その中にあったのがEW&Fの『Faces』のLPだった。
見てもらえばわかるように、なかなかインパクトの強いジャケットである。いまどき宗教法人のパンフレットだって、ここまで胡散臭くはない。そんな妖しげなデザインは、まだ歌謡曲程度しか興味のなかった小学生にとっては、得体の知れない抵抗感のほうが強かった。勝手に聴くと従兄弟に怒られそうだったので、結局聴かずじまいで終わってしまった。
ちなみにその従兄弟、当時はEW&Fのメンバー同様、アフロでキメていた。なので、なんだか別世界の人になっちゃった感が強く、そうした経緯もあって、ディスコ以降のEW&Fには未だ馴染めずにいる。
で、そんな俺がきちんとEW&Fを聴くようになったのは、前述したようにレア・グルーヴ経由、海外のミックス・テープに紛れ込んでいた”Sun Goddess”がきっかけだった。俺が最初に聴いたのは、Ramsey Lewisのヴァージョンである。もともとはスタンダードなジャズ・ピアニストだったのが、60年代からジャズ・ファンク的サウンドに感化されて、一時期サイケな作品を量産していたのだけど、そんな中で俺の気を引いたのが、この曲である。
この『Gratitude』にも同曲が収録されており、最初はそのRamseyのカバーだと思っていたのだけど、クレジットを見ると、作曲がMaurice White、EW&Fのリーダーその人である。何だかサウンドがそっくりで、雑なカバーだなぁと思ってたら、何のことはない、大元は同じだったわけだから、無理もない。
ちなみにこのアルバム、LPでは2枚組なのだけど、ちょっと変則的な構成になっており、レコードでいうABC面が各地のライブ・ダイジェスト、D面がスタジオ・テイクとなっている。前作の『That's the Way of the World』(邦題『暗黒への挑戦』)がビルボード1位を獲得したため、CBSとしてはここで畳み掛けるようにひと勝負打ちたい、との思惑と、バンド側のマテリアル不足とを解消する折衷案だったと思われる。CDだとまるまる1枚に収められているため、その制作意図がわかりづらくなっているのは、まぁ致し方ないとしても、そこら辺を意識して聴いてみると、ライブとスタジオ・テイクとの質感の違いが如実に表れている。
ライブ・テイクは”Sun Goddess”などのジャジー・テイストの入ったファンク・チューンを柱として、各セクションのソロ・プレイをフィーチャーした長尺の曲が多いのだけれど、スタジオ・テイクでは、エアプレイに向いた3分程度のコンパクトなナンバーが並んでいる。
ある意味、ここがEW&Fのターニング・ポイントと言える。これまでの総集編的なジャズ・ファンク仕様のライブ・テイクと、今後の方向性を提示したソリッドなダンス・チューンとの分岐点。
EW&Fだけに当てはまるわけではないのだけど、当時の彼らのように、スタジオよりむしろステージで威力を発揮するタイプのサウンドは、昔からアメリカではウケが良い。延々と続くギター・カッティングや、入れ替わり立ち替わりで吹きまくるホーン・セクション、ヴォーカル・パートはほんのちょっぴりなのに、ジャム・セッションの演奏が1時間以上続くことも珍しくない。
アメリカ国内だけで細々やってくのなら、それはそれで良いのだけれど、もっと広いフィールドで活動してゆくのなら、また違う戦略が必要となってくる。なにしろ広い国土なので、隅々までツアーで回るには、途方もない年月が必要だし、どうにも効率が悪い。特にEW&Fのような大所帯バンドだと、移動するだけでも膨大な経費がかかるし、その他もろもろの維持費もバカにならない。
なので、アメリカでブレイクするためには、ラジオのエアプレイが大きなカギになる。DJらに積極的に後押ししてもらえるよう、3分前後のオンエアしやすいサイズの曲が必要になる。そうすると、従来のような冗長なインプロビゼーション、壮大なスケールの組曲などは、逆に障害になる。
そういった事情もあって、彼らの曲は次第にコンパクトかつソリッドになってゆく。冗長なフレーズはタイトになり、サビもキャッチーでわかりやすくなった。もともとバンドのポテンシャルは相当なレベルだったので、起承転結を3分にまとめることは、ちょっとその気になれば難しいものではなかった。
その成果が、総合チャートでも1位を獲得した”Shining Star”だったという経緯。
この後は、一斉を風靡した長岡秀星のジャケット・アートが象徴するように、ステージ衣装も大げさにスペイシーになり、ビジュアルだけで見ると、二流のディスコバンドと大差ない。ただしこの『Gratitude』までは、その商業ポップ性とミュージシャンとしてのプライドがいい感じで拮抗して、絶妙なバランスで仕上がっている。
ディスコ以外のEW&Fはまだいろいろあるので、ここを入り口として聴いてみると、かなりの割合で先入観が払底されるんじゃないかと思う。
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1. Introduction - Africano/Power
当時のレイテスト・アルバム『That's the Way of the World』収録曲と、1972年リリース3枚目のアルバム『Last Days and Time』収録曲をつなげた、壮大なインスト・メドレー。ホーンが4人も自前のバンドでいると、やっぱり音の厚みはすごい。ソウル・ショウでよくあるように、まずはオーディエンスをホットに盛り上げるため、リズム・セクションを含めてのグルーヴ感は最強。
“Africano”はシングルとして、ディスコ・チャートで1位になった、とのこと。専門チャートとはいえ、インストでトップに立ったというのは、やはりこの当時のバンドのパワーと勢いが窺える。
2. Yearnin' Learnin
で、ここからヴォーカル陣が登場。引き続き、こちらも『That's the Way of the World』から。Philip Baileyリードによる、ややディスコよりのナンバー。それでもバックのパワーが強いので、軽さはない。この頃のPhilipはまだそれほどファルセットを多用していないので、悪く言えば普通のバンドだけど、この路線もカッコ良かったんじゃないかと思える。
オリジナルはテンポがゆったりしてタメがあるグルーヴなのだけど、俺的にはこっちのライブ・ヴァージョンのほうが好み。
3. Devotion
5枚目のアルバム『Open Our Eyes』に収録。シングル・カットもされており、ビルボード総合33位、ブラック・チャート23位まで上昇。ヒットしたことも納得できる、メロウなコーラスとPhilipのファルセットが印象的。夕暮れ時の野外ライブで聴いたら、そりゃもう大変なことになりそう。
オリジナルはひたすらメロウなのだけど、ここではリズムが前面に立っており、やっぱり俺的にはライブ・ヴァージョンのほうが好き。
4. Sun Goddess
俺がEarthに惹かれたきっかけとなったナンバー。Al McKayの気持ち良いギター・カッティングが延々と続き、そこからじゃジー・テイストな分厚いコーラス。Don Myrickによるアルト・サックス・ソロ。どの瞬間を切り取っても、これぞEarth!!といったプレイが聴ける。
ライブ・アルバムとしては珍しくシングル・カットされており、ビルボード総合44位、ブラック・チャート総合20位というのは、ほとんどインスト・ナンバーという条件としては、かなり健闘したんじゃないかと思う。
曲自体のパワーももちろんだけど、7分という長尺にもかかわらず、ほとんど長さダルさを感じさせないのは、やはり作曲したMaurice Whiteの構成力の賜物。
5. Reasons
またまた『That's the Way of the World』より。ほとんどPhilipによるソロで、ライブの流れ的にはクール・ダウン的なメロウ・ナンバー。シングル・カットはされていないのだけど、なぜか俺も知ってたくらい有名な曲で、調べてみると数々のベストに収録されており、もともと人気の高い曲である。
ここでPhilipはほぼファルセットで通しているのだけど、時々Princeっぽく聴こえてしまうのは、多分この辺をモチーフとしているのだろう。
6. Sing A Message To You
Mauriceによる、まぁタイトルをひたすらコーラスで連呼しているナンバー。ここではブリッジ的な扱いだけど、フェード・インで入ってるということは、実際にはもっと長く、観客への煽りとして使われてたんじゃないかと思う。
コーラスもヴォーカルも、そして演奏もダントツで、この時期のEarthにはほんと隙がない。ライブではほんと最強だったんじゃないかと思えるけど、この熱気をうまくスタジオ・テイクで発揮することができなかった。そこがバンドとしての課題であり、なので重心をヴォーカル・パートに移したディスコ・サウンドへの傾倒は、流れ的にやむを得なかったんじゃないかと思われる。
7. Shining Star
『That's the Way of the World』収録、言わずと知れたEarthにとって総合シングル・チャート初の首位を獲得した、現在においてもキラー・チューンのポジションを守り続けているファンク・ナンバー。ほぼスタジオ・テイクと変わらないアレンジでプレイしているのは、やはりそれだけ自信作であった証拠。
スタジオ・テイクを聴いて驚くのは、実は3分にも満たないこと。これだけのグルーヴ感、キャッチーなメロディを濃縮して詰め込んでいる。完璧な曲。
8. New World Symphony
かなりジャズ・ファンク・テイストの濃いインスト・ナンバー。多分Mauriceがこういうのが好きだったんだろうけど、このラインナップの中では恐ろしく地味。いや、嫌いじゃないんだけどね。
でも、バンドとしての方向性が次第にプレイヤビリティと商業性との間で揺れ動く過渡期の中で、ヴォーカル&インストゥルメンタル・バンドとしてのアイデンティティを確立させたかったというのか…。
9. Sunshine
LPのC面ラストという、非常に中途半端な位置だけど、ここからが新緑スタジオ・テイク。タイトル通り、さわやかなミディアム・ナンバー。やはりPhilipがほぼメインで効果的なファルセットを多用している。
10. Sing A Song
思いっきりディスコ・ナンバーなのに、そこまでチャラく聴こえないのは、やはり作曲にAl McKayが絡んでいるから。ビルボード総合5位、ブラック・チャート1位は妥当。
11. Gratitude
俺的に想像してしまったのが、「さわやかなParliament」。グルーヴの強い演奏でタメもあるのだけど、ポップ性が強いのと、P-Funk勢ほどゴチャゴチャしていないところが、俺的には好み。
12. Celebrate
わずか3分足らずのナンバーなのに、曲調がコロコロ変わる、奇跡のような曲。ジャズとファンクとの融合、転調の嵐など、構成としては”Shining Star”に似てる。
13. Can't Hide Love
出だしはディープなファンクかと思ったら、ゴージャスなホーン・セクションのリードによる、ちょっと不思議なテイストのスロー・ナンバー。この曲だけ外注となっており、作者Skip Scarboroughは、LTDやDeniece Williams、Anita Bakerにも書いてる人。ラインナップを見ればわかるように、ジャジー・テイストのミディアム~スロー・ナンバーを得意としている。
シングルとして、ビルボード総合39位、ブラック・チャート11位とは、なかなかの成績で、俺的にはこういったナンバーは好きだけど、よくヒットしたもんだよなぁと思ってしまう。当時のディスコ・サウンドへ傾倒しつつあったEarthの流れとはちょっと違う気もするのだけど、やはりここは勢いなのだろう。
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