1976年リリース、6枚目のオリジナル・アルバム。これまではR&Bチャートの上位常連といったポジションだったのが、このアルバムではビルボード3週連続1位を獲得、初のプラチナ・ディスクもゲットしている。
ちなみにこのアルバム、すごく厳密に言うと純粋なオリジナルではなく、同名映画のサントラ盤といった体裁になっている。まだ映画『Taxi Driver』で注目される前のHarvey Keitelがプロデューサー役で出演、Earthも「The Group」という名称で出演し、実際の演奏や稚拙な演技を披露しているのだけど、お察しのように客入りは不振、今世紀に入るまではほぼ封印状態、カルト映画の称号を与えられていた。多分、契約の関係もあってEarthの名称が使えなかったことと、実際の演奏シーンがほんのちょっぴりというグダグダ感も影響したんじゃないかと考えられる。
当時のEarthにそれほどのネームバリューがなかったことが不発の要因だったといわれているけど、70年代のアメリカ映画界においてはまだインディペンデント発のブラック・ムービーの勢いが残っていたはずなので、やり方次第ではCurtisの『Superfly』クラスのヒットも狙えたんじゃないかと思うのだけど。監督だって同じSig Shoreだし。
やっぱEarthの名前使ってないのが痛いよな。もうちょっと盛り上げろよCBS。
初期のEarthはリーダーMaurice Whiteのジャズ・コンプレックスから由来する、プログレっぽさを加味したジャズ・ファンクが主流だったのだけど、当然大衆にアピールするものではなかった。
もともとRamsey LewisのバンドのドラマーがキャリアのスタートだったMaurice、その師匠からインスパイアされたサウンドを自己流に解釈して、自らのアフロ・アメリカンのルーツに基づくカリンバの音色を導入した。さらにバンド名からも想像つくように、スケール感の大きいコンセプトをアルバムごとに掲げ、他のソウル/ファンク・バンドとの差別化を図った。
その辺がわかりやすいのが、『地球最後の日』、『ブラック・ロック革命』、『太陽の化身』といった大仰な邦題。当時の洋楽担当ディレクターは音楽への思い入れが強い人が多く、その強さあまりにアーティストの意図を大きく曲解してとんでもないタイトルをつけることも多々あったけど、この場合は想いと実像とがシンクロした稀有な例である。その後もタイトルだけにとどまらず、長岡秀星がビジュアル・イメージを手がけることによって、スペクタクルかつ宗教色が強くなるのだけれど、それはもう少し後の話。
70年代に入ってからのジャズ・ファンク界はChick Corea率いるReturn to ForeverやHerbie Hancockらを始めとする、いわゆるMiles残党勢がジャズ寄りの中心として、対してGraham Central StationやTower of Powerらがソウル/ファンク寄りのサウンドで棲み分けされていたのだけど、こうして並べて見ると当時のEarthのポジションの中途半端さが見えてくる。 ジャズにしてはプレイヤビリティ的にちょっと弱いし、かと言ってソウル/ファンク目線で見れば、妙に小難しいノリのめんどくさいコンセプトが強すぎたため、どっちつかずという印象が強い。
その初期の路線がもう少し売れていれば、今ごろジャズ色の濃いP-Funk的なサウンドになってたのかもしれないけど、あいにく大きな支持を得ることができず、レコーディング契約も切れてしまったこともあって、活動休止に追い込まれてしまう。
そういった反省もあったのか、CBSとの再契約をきっかけとしてコンセプトの軌道修正、特に前作『Open Our Eyes』からMaurice自身がプロデューサーとしてレコーディングの全権を握るようになってからは、サウンドのコンテンポラリー化を積極的に推し進めるようになる。
初期の基本リズムだった複雑なアフロ・ビートを後退させ、明快な16ビートを前面に押し出すようになったことが一番大きいのだけど、目に見えてわかりやすい変化がホーン・セクションPhoenix Hornsの導入。4人編成のゴージャスな金管サウンドによってアンサンブルに厚みが加わり、よりダンス・フロアへのアプローチが強まった。時代を経るに連れてサウンドからアフロ要素は少なくなり、そのうちカリンバの音色も減少、アフロの面影を感じるのはビジュアル面、頭髪だけになってゆく。
そのコンテンポラリー化と並行して、世間では空前のディスコ・ブームが到来、わかりやすいキャラクター設定と明快なリズム・アンサンブルによって、彼らはチャートの常連になって行くわけだけど、そのディスコ・タッチの楽曲と並走するように、バンド・キャラクターも次第に類型化してゆく。前述したように、長岡秀星のジャケット・イラストもスケール・アップのインフレが止まらない状態、それに比例してステージ・コスチュームやセットも次第にスペイシーでファンタジックなものに変貌してゆく。
この変遷がMauriceの思惑通りだったのか、それとも成り行きにまかせちゃった末のものなのか。たぶんどっちもだと思われるけど、追い風状態に乗ってしまうと、もはや自身の考えなど及ぶべくもない。
で、このアルバム『That's The Way Of The World』だけど、後年になるに従い商業化の波に押されて類型的なディスコ・バンドに変容してゆく前、キャッチーでありながら骨太のソウル/ファンク・バンドの面影を色濃く残した姿が残されている。「宇宙のファンタジー」がどうも苦手という人なら、まずはこちらを、とおススメできる作品である。
Earthのメジャー化に大きく貢献したとされるのが、Mauriceと並ぶもう1人のフロントマンPhilip Baileyである。
この機会に雑誌やネットでEarthの記事をいくつか探して読んで見たのだけど、まぁ見事に正反対。有能なビジネスマン的思考でバンドを統率するMauriceに対し、どちらかといえば生粋のミュージシャン・シップ、はっきり言っちゃえばあんまり難しいこと考えてないんじゃないかと思われるPhilipとの対比が面白い。どっちもMaurice的だったらいがみ合うだろうし、両方Philip的だったらクリエィティブなバンド運営は難しい。この辺のバランスが絶妙だったことが、他の同種のソウル/ファンク・バンドより大きくブレイクできた要因だったんじゃないかと思う。
なので、この人は純粋なシンガーであって、いわゆる管理者、リーダーシップをとるような柄ではない。徹底的な現場主義なのだ。
後にPhil Collinsプロデュースによってソロ・シングル”Easy Lover”を大ヒットさせたけど、正直ほかのソロ・アルバム、ていうか”Easy Lover”以外の楽曲の印象は薄い。あれこそ正に「ヴォーカリストPhilip Baileyをフィーチャリングすることを想定して作られたPhil Collinsのサウンド・プロダクション」であって、その後Philip自身がセルフ・プロデュースしたアルバムは、どうにもフォーカスがボケたものが多い。素材としては極上なのだけど、彼を活かせるのは料理人次第、自己プロデュースというのがかくも難しい、という好例である。
サウンド面・ビジネス面両方の総合プロデューサーとしてバンドを統括するMauriceと、彼によってしっかり構築されたサウンドの中を自由奔放に動き回るPhilipとの二枚看板によって、Earthは70年代ディスコ・ブームの立役者となった。ほぼすべての日本人が連想する「70年代ディスコの映像」といえば、スペイシーなコスチュームに身を包んで”Fantasy”や”Let’s Groove”をプレイする彼らの姿が思い浮かぶはず。70年代風俗が紹介される際、ほぼ必ずと言っていいくらいの高確率で使用される、あのシーンだ。いま見ればチャチイ映像効果、レーザー光線の乱舞もセットでね。
抜けの良い男性的なアルトのMauriceと、中性的なファルセットを自在に操るPhilipとのヴォーカルの対比によって、時に類型的になりがちなディスコ・サウンドにバラエティを持たせ、泡沫ディスコ・バンドと一線を画すことができたんじゃないかと思われる。独りでやれることには限界があるのだ。
PhilipだけじゃなくMauriceもまた、ソロで”I Need You”という必殺メロウ・チューンをヒットさせているのだけど、けっきょくソロはこのシングルを含む1枚しかリリースしていない。一発屋はちょっと言い過ぎかもしれないけど、せっかくいい感じのアダルトR&Bアルバムを作ったのだから、「もうちょっとソロ活動に力を入れても良かったんじゃないの?」と言いたくなってしまう。
ただPhilipもMauriceも双方、やはり自分のホーム・グラウンドはEarth、Earthのメンバーによって奏でられるサウンド、そして互いのヴォーカルとの相乗効果によって、オリジナリティあふれるグルーヴ感が生まれることがわかったのだろう。
ビギナーズラックで単発ではうまく行くけど、継続させることは難しい。これも長く内部にいるとわからないことである。そういった意味でソロ活動という名の冷却期間は正解だった。
でも、そのMauriceももういない。
これから先、彼らのコラボを聴くことはできない。
近年はステージ活動から引退してもっぱらプロデュース活動のみで、ライブの場に立つことは滅多になかったけど、それでもEarthの精神的支柱としてかけがえのない存在ではあったはず。失ってから存在感の大きさを思い知らされる場合は多々あるけど、彼の場合、その場におらずとも存在感を放つことのできる、貴重なキャラクターだったのだ。
今後のEarthはPhilip主導で活動継続してゆくものだと思われるけど、具体策はまだ出ていない。今後の動向が待たれる。
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1. Shining Star
初の全米No.1を記録したアルバム先行シングル。力強いホーン・セクション、軽快なカッティングとオブリガード、要所を押さえたAl McKayのギター・プレイ、そしてMauriceとPhilipによる終盤のヴァース。タイトに磨き上げられたパーツのベスト・マッチングな組み合わせによって出来上がった、最高のファンクの理想形がここにある。
敢えてこの曲の欠点を挙げるとしたら、たった3分という中にすべてが適切に収められていること。ほんとあっという間の3分間とはこのこと、なのにその濃密さといったら。
あぁ、もっと聴いていたいのに。
2. That's The Way Of The World
メロウでありながら心地よいリズム・セクションのグルーヴ感によって、強いファンク・スピリットを感じさせるタイトル・チューン。普通のバンドなら甘いフィリー・ソウルに流れがちなところを、タイトな響きのドラムと、メロディを奏でるが如く流麗なベース・ラインがビターなテイストを加えている。
4枚目のシングル・カットとして、全米12位R&Bチャート5位という成績を残している。アルバムの半数をシングル・カットしているくらいだから、当時の勢いがそれほど凄かったことが窺える。
3. Happy Feelin'
こちらもやはりリズム・セクションが大活躍のファンキー・チューン。ほとんどジャム・セッションで作ったんじゃないかと思えるくらいバンド全体のノリが良い、と思ってたら、俺の持ってるCDのボーナス・トラックにこの曲のデモ・テイクが収録されており、ベーシックはほとんど一緒だった。
いまだアフロというコンセプトに未練があったのか、ほぼ完成形のトラックに無理やりカリンバを被せてしまうMauriceの意地が感じられる。この頃はまだチャラい路線に完全にふっ切れない部分もあったのだろう。
こちらも2枚目のシングルとして、ディスコ・チャートで1位を獲得。ほんとダンス機能に特化したトラックだけど、ここまでシンプルな構造でありながらサウンドに脆弱さが見当たらないのは、やはりバンドの基礎体力がものを言っている。
4. All About Love
邦題” 今こそ愛を”。Mauriceがほぼ出ずっぱりで歌い上げる珠玉のバラード。終盤のモノローグもまたムード全開。しっかし長い語りだよな、エロさがちょっと足りないけど。
その辺をもう少し開き直っていれば、Marvin Gayeは大げさとしても、ソロとしてLuther Vandrossのポジションくらいは余裕で行けたと思うのだけど、後の方向性を考えるとそれで良かったのかも。
アウトロのムーグの響きはジャズ・ファンクを通り越して、もはやプログレの香りさえ感じさせる。ここでまた無理やりアフロのエッセンスを注入しているのだけど、むしろ無国籍感がましてジャーマン・プログレっぽく響く。
5. Yearnin' Learnin'
ここからレコードB面。ダンス・ビートを強調した強力なファンク・チューン。もうちょっと下世話になればParliamentっぽくなってしまうところを、Mauriceの品の良さが程よいバランスで押さえている。
シングルにすればよかったのに、と聴くたびにいつも思ってしまう。
6. Reasons
Philipによるスウィートなミディアム・チューン。こちらももう少しメロウに寄るとただのStylisticsになってしまうところを、重厚なバンド・サウンドによって甘みを抑えている。このギリギリの見極めが絶妙だったのがこの時期のMauriceで、プロデューサーとしてのジャッジメントは安定感バツグン。
この後到来するディスコ・ブームの波に飲まれてしまうと途端に舵取りが甘くなってしまうのだけど、ここではまだ安心して聴ける。
7. Africano
アフロというよりは、まんまアフリカ民謡のイントロからスタート。ただしあくまで前奏という扱いで、ちょっとしたブレイクのあと、ほとんど関連性もない感じでソリッドなインスト・ファンクが続く。やっぱMauriceだよな、こういう仕事って。
この時期はまだディスコにどっぷり浸かってないので、こういったライブ映えするインスト・ナンバーも時々収録されている。でもEarthのクレジットでリリースするのは損だったかな。せっかくブラスが前面に出た良質のジャズ・ファンクなのに。当時ディスコ・チャート1位だったのもうなずけるクオリティ。
8. See The Light
邦題”神よ、光を”。ラストはPhilipメインのミディアム・ナンバー。この時期はあまりフィーチャーされていないのだけど、この曲ではコーラス・ワークが絶品。天使のささやきのようなPhilipのファルセットを包み込む和声は、邦題通り神々しいムードすら感じられる。やっぱり何も考えないで、適当に名付けしてるわけじゃないんだな日本のディレクターも。
これまであまりフィーチャーされてなかったパーカッションも、控えめながらソフト・タッチに空間を彩るように漂っている。ラストにふさわしい壮大なスケールを感じさせるジャジー・チューン。
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