folder 1980年リリース、バンドとして7枚目のアルバム。驚異的な多作で知られる70年代のToddだけど、前年はソロ・アルバムのリリースはなし、Utopiaとして『Adventures in Utopia』をリリース、続けてこのアルバム制作と、バンド活動のウェイトが大きくなっていた時期である。もともと当初の構想だったアメリカン・ハード・ポップ・プログレ路線(長い…)から大きく方針転換した『Adventures ~』がUS最高32位をマーク、シングル・カットされた”Set Me Free”も27位と大きく飛躍したおかげもあったため、戦略的に考えて、バンド活動に専念する方が得策という判断もあったのだろう。まぁ単にステージでガンガンギターを弾きたかったから、ツアーを続けていたのもあるけど。

 で、そんな好評を受けてバンド内のコンビネーションやアンサンブルは絶好調だったため、多分その勢いでドサクサまぎれに作られたのが、このアルバム。
 ジャケットを見てわかるように、全編Beatlesからインスパイアを受けて作られた楽曲が収録されている。あまりBeatlesに興味がない人でも、聴くと「あぁ、何となくあの曲っぽい」とわかってしまう、コンセプトはマニアックだけど間口の広いアルバムである。このフレーズはあの曲からで、このフィルインはあそこから、と重箱の隅をつつくように分析するのも良し、Beatlesマニア数人で集まってカルト・クイズに興じるも良し、いろいろと使い勝手の良いアルバムである。
 あるのだけれど、イコール大衆性とコミットしているかといえば、そんなことは口が裂けても言えそうにないアルバムでもある。
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 まぁBearsvilleレーベルだからリリースできたようなものの、普通のメジャー・レーベルなら二の足を踏みまくる、個人的な趣味性の強い内容のアルバムである。
 普通、まぐれ当たりでもスマッシュ・ヒットが生まれたのなら、畳み掛けるように二番煎じ三番煎じと、似たようなテイストのサウンドを続けてリリースするのが常套手段である。Bearsvilleもそういった路線を期待していたはずだし、業界歴の長いToddなら、そんなことはわかっていたはず。わかってはいても、どうしてもやりたくて仕方がなかったのだろう。
 結果、チャート・アクションは最高65位でストップ、何とも中途半端な結果に終わってしまった。このアルバム・リリースから少し後、John Lennon暗殺の悲報が世界中を駆け巡り、当時はオールディーズのカテゴリーにまで落ちぶれていたBeatles、ここからいま現在も続く再評価ブームが始まることになる。そういった経緯もあって、このアルバムも一応Beatlesつながりということで、便乗売り上げが見込まれたはずなのだけど、事情が事情なだけに沈痛なムードが蔓延する中、ちょっとおふざけ要素が強く受け取られたのか、話題にさえ上ることもなく忘れられていった。
 ただでさえ売れる要素がないのに、また間が悪すぎる。

 冒頭に書いたようにUtopiaというバンド、「一応」マルチ・プレイヤーであるToddが、スタジオでシコシコ地道に組み立てる密室ポップの反動で、ライブでもっとガンガンギターを弾きまくりたいという、思春期の中学生のような動機で始めたものである。ずっと自室でゲーム三昧の日常に飽きて、たまに外でヤンチャして発散というガキのメンタルと大して変わらないものだけど、まぁ男っていくつになってもそんなもの。
 で、当初はKansasや初期Journeyのような、仰々しいドラマティックな長尺コンセプト・ナンバーばかりやっていたのだけど、ライブを重ねるにつれてバンド・アンサンブルの方に関心が向いてきたのか、次第に曲が短くなっていった。サウンドの方向性もそれに連れてプログレの要素が薄くなり、いつの間にポップの側面が強くなっていった。
 当時のToddは家庭の問題も抱えていたため、そのせいかソロ・アルバムは次第に内省的なトーンになりつつあった。その反動で、ライブでは細けぇことはヌキにして、とにかく盛り上がろうぜ的な心境だったことも、要因のひとつ。
 そんな事情もあって、いつの間にかUtopia、シングル・ヒットも狙えるキャッチー路線に移行してしまった。

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 以前にTodd、ソロ・アルバム『Faithful』でBeatlesナンバー”Rain”と”Strawberry Fields Forever”の2曲を、音色からアレンジまでまんま完コピで作っているのだけど、それとはまた別のベクトルで、「これだけBeatlesが好きなんだから、もう俺がBeatlesになっちゃえばいいんじゃね?」という強烈なリスペクトの産物が、このアルバム。
 同じ方向性のアーティストといえば、真っ先にRattlesの名前が思い浮かぶけど、あれはパロディ。どこか毒があって小バカにしてる部分も見受けられるけど、Toddの場合はほんとにBeatlesになりたいんだという願望が嵩じての道楽であって、ちょっと方向性が違っている。まぁ傍目から見れば似たり寄ったりだけど。

 世の中には所謂Beatlesカバー・バンドというのが多数生息しており、その分布は世界中すみずみに至るわけだけど、そのほとんどはファッションも含めた完コピ、4ピースで演奏しやすい初期のナンバーに集中している。マッシュルーム・カットにスリム・スーツ、フロントマン2人がリード・マイク1本挟んで顔を付き合わせる、パブリック・イメージのBeatlesそのまんまのスタイルである。
 たまに末期の『Let it Be』『Abbey Road』系、70年代風ロック・バンド・スタイルのカバーをするバンドもいるけど、どちらかと言えばThe BandやAllman Brothersの系譜にあたるサザン・ロックのテイストが強く、いわゆるBeatlesらしさは希薄である。スタジオ・テクニックが主流となる中・後期の作品はライブでの再現が難しく、Paulでさえも90年代に入るまではライブではほとんどプレイしなかったくらいなので、アマチュア・バンドならさらにハードルが高くなる。
 で、「俺がBeatles」的なToddのこのアルバム、さすがプロだけあって特定の時期だけをフォローするのではなく、全キャリアを網羅した一大ストーリー絵巻といった構成になっている。Beatlesに憧れた少年が経験を積んでプロのミュージシャンとして独り立ちし、原点回帰としてこれまで得てきたスキルを投じて影響を受けたサウンドに、ちょっぴりオリジナリティを加えてまとめた研究成果が、この『Deface the Music』である。

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 で、このアルバムはそのFAB 4それぞれの要素が入っているのだけど、そのBeatlesへの惜しみないオマージュ・リスペクトは盛りだくさん、一途な思いが現れている。入念にアーカイブを分析しコラージュし順列組み合わせを駆使したそのサウンドは「もし俺がBeatlesだったら」という切実な思いの賜物である。
 ただ難を言えば、その思い入れが強すぎた弊害なのか、これまでのToddの持ち味が限定的なものとなっており、小さくまとまり過ぎちゃってるのも事実。憧れのBeatlesサウンドに少しでも近づきたいのと、世界中のBeatlesマニアの溜飲を下げることが目的化してしまって、Toddお家芸の不安定な揺れのメロディやコード進行が損なわれてしまっている。なので、シングル・ヒットの必須条件である明快なサビやフック・ラインが足りず、「あぁよく出来てるね似てるよね」程度で終わってしまってるのが、何とも惜しい。
 世界中に蔓延るBeatlesマニアだったら「あ、ここのフレーズはここから取ってきてあの曲と組み合わせて」など、前述したカルト・クイズに興じられるかもしれないけど、これまでToddやUtopiaを知らない人にいきなりこれをオススメするのは、ちょっと無理がある。

 一般的にToddのオススメアルバムといえば、大抵『Something / Anything?』か『A Wizard, A True Star』の二択であり、そこら辺はここ20年くらいそんなに変わってない。
 じゃあUtopiaのオススメは何だ?と言われると、これが案外難しい。何しろ初期と中期以降ではまったく別の音楽性なので、極めてカテゴライズしづらいバンドなのだ。
 アメリカン・ハード・ロック好きならデビュ・ーアルバムと『RA』を押さえておけば良いのだけど、中期以降は明確なアルバム・コンセプトの薄いものが多く、トータル性としてはどれもチョット惜しい感じになってしまっている。
 そうすると、消去法的にこのアルバムが一番キャッチーでコンセプト的にもまとまっているということになってしまう。なんかこれじゃない感がハンパないけど、決してBeatlesという存在がヒップじゃなかった時代背景を考えると、敢えてこの時期にこれを出してきたToddの漢気を評価したい。
 ただ単に思いつきでやってみた感も否めないけど。


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1. I Just Want to Touch You
 邦題"抱きしめたいぜ”…、ってマンマじゃん。初期Beatlesの一番キャッチーな部分からオイシイ所を引っ張ってきてまとめた印象。中盤サビが”From Me To You”っぽい。一応シングル・カットされているのだけれど、チャート・インせず。
 PVがまんま初期の雰囲気のTVショー出演を模した作りなので、これだけでも見る価値はある。 



2. Crystal Ball
 ちょっとワイルドなヴォーカル・スタイルはJohnから由来するもの。こちらは”Can’t Buy Me Love”からインスパイアされたナンバー。

3. Where Does the World Go to Hide
 “I'm Happy Just To Dance With You”のコードをメジャーにしたようなポップ・ナンバー。多分、他の成分もいろいろまぜこぜになっているのだろうけど、正直そこまでのマニアではないので、特に初期のナンバーになると解析が難しい。

4. Silly Boy
 “Help”をベースとして作られた疾走感が印象的なナンバー。これも『For Sale』期のサウンドからいろいろ引っ張ってきてると思うけど、ちょっと解析不能。マニアの人ならギターのフレーズやベース・ラインでわかるのだろうけど、そこまで詳しくないのはご勘弁。なんか間違い探しみたいでイヤじゃん、そういうのって。

5. Alone
 “And I Love Her“がベース。XTCが『Skylarking』で引用したのがこのテイスト。ただのマージ―ビート・バンドとは違う、ソフト・サウンド面のBeatlesにはToddも注目していた。
 シングル・カット第2弾としてリリースされているらしいけど、こちらもチャート・インせず。

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6. That's Not Right
 “Eight Day's A Week”そのまんま。ていうか邦題が”エイト・デイズ・ア・ウィーク・イズ・ノット・ライト”。どの曲も元ネタが併記されており、最初輸入盤で聴いてた俺は後付けでこの事実を知ったわけだけど、こういったネタばらしってのはあまりいただけない。面白さが半減しちゃうじゃないの。

7. Take It Home
 こちらもまんま”Day Tripper”。邦題は” ドライヴ・マイ・カー・トゥ・ホーム”と、まったく関係なし。こういった無関係な邦題の方が、逆にネタ解明に躍起になるので面白い。
 Beatlesつながりを抜きにして、優秀なビート・ロックに仕上がっている。Utopia特有のコーラス・ワークも絶品。

8. Hoi Poloi
 “Penny Lane”へのオマージュが強く表れたナンバー。特有のホーン・アレンジもきちんとテイストを理解の上、再現している。

9. Life Goes On
 “Eleanor Rigby”をシンフォニック・ハード・ロック風にレストアしたナンバー。ていうか邦題が”エリナー・リグビーはどこへ”。ストリングスと置き換えたシンセの音色が80年代にしてもチープだけど、ここはまぁシャレで。
 あまり作り込み過ぎてもこういうのって、周囲がシラけてしまうもの。ま、Roger Powellあたりもめんどくさそうに付き合ったんだろうけど。

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10. Feel Too Good
 “Getting Better”だよなぁ、と思って最後まで聴き、邦題を見ると、” フィクシング・ア・ホール・イズ・ゲティング・ベター”。そうか、”Fixing a Hole”だったか。
 俺が高校生の時、Beatlesが初めてCD化されることになって、そのとき神格化されていたのが『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』で、最初はありがたがって聴いていたのだけど、次第にその内輪の世界観が退屈と思ってしまってからは、ほとんど聴くこともなくなってしまった。
 なので、この時期のアルバムは俺的にちょっと思い入れが浅い。『Rubber Soul』なら結構わかってるはずなのだけど。

11. Always Late
 邦題が” マックスウェルズ・シルバー・ハンマー・イズ・オールウェイズ・レイト”と、まるっきり”Maxwell's Silver Hammer”。SEの入れ方は多分”You Know My Name”っぽい。そこに初期っぽいコーラス・ワークを入れてるので、ここではUtopiaとしてのオリジナリティがあふれている。

12. All Smiles
 “Michelle”だよね、これも。だって邦題も”ミッシェルの微笑み”。日本盤の担当ディレクターは、もうちょっとヒネリとか考えなかったのかね。ただこれを聴いてから元ネタを聴くと、当時のPaulのベース・プレイの凄さがわかってしまう。歌うベースってこういうことなんだよな、きっと。

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13. Everybody Else is Wrong
 直球勝負の”Strawberry Fields Forever”。って、以前『Faithful』でやったじゃん、完コピで。どこかやり遂げられなかった部分があったんじゃないかと思われる。中盤から"I'm The Walrus"も入ってきて、Toddなりのサイケ浮遊ワールドが展開される。
 もっとエフェクトを効かせたら雰囲気出そうなのに、なぜかほとんどノン・エコーのスタジオ・セッション的なサウンドになっている。




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