folder 今回はドイツはハンブルグを中心に活動する、Mighty Mocambosのご紹介。隣接する国が多いEU圏内という地の利を活かして、近隣国への出張ツアーも度々行なっている。ミュージシャンとして活動する彼らのもう一つの顔として、プライベート・レーベルMocamboを主宰しており、他のアーティストのプロデュース・ワークや客演はもちろんのこと、レーベル運営の些末な事務作業も行なわなければならず、なかなか自分たちの作品にまで手が回らないようである。
 そのせいもあって、2006年よりレーベル・スタートにもかかわらず、今のところバンドとしての純粋なオリジナル・アルバムは1枚のみ。ヨーロッパ系のジャズ・ファンク/ディープ・ソウル・ファンにとっては、非常にヤキモキさせる存在である。

 で、今回のアルバム、ほぼ全編ゲスト・ヴォーカルGizelle Smithをフィーチャーしているため、厳密に言えばオリジナルではないのだけれど、バックのサウンドはほぼメンバー9人でまかなっているので、細かいことは言いっこなしで。むしろ、インスト中心のアルバムよりも、歌入りのこちらの方が喰いつきが良いと思う。実際、リリース当時にはタワレコでリコメン指定されていたそうだけど、あいにく俺はその頃、そっち方面のサウンドには興味がなかったので、ほぼスルーだった。
 当初はシングルのみのコラボの予定だったのだけど、それが世界中のDJやらクリエイターに絶賛されたことがきっかけとなって、アルバム制作に発展したという経緯である。Kenny DopeやKeb Dargeという、特にUKダンス・シーンでは絶大な信頼を誇るプロデューサーらによってリコメンドされることによって、前評判が高まった。

MightyMocambos

 ジャズ・ファンク/ディープ・ファンクというジャンル自体、もともとポピュラーなジャンルではないので、大きなセールスには結びつきづらいことは永年の課題である。多分、これから先もこの状況は続くだろうけど、大きくメジャー展開していない分だけ急速に衰退してゆくことも考えづらく、見方を変えると、細く長く続けてゆくためには手堅い分野でもある。
 リリース形態がシングル中心というのも、他のジャンルにはあまり見られない特徴である。アルバム制作ともなれば、まとまった資金と時間が必要となるが、レーベル側もそこまで資本投下できるほど余裕があるはずもない。好きこのんでこういったジャンルに手を出しているくらいだから、経営自体もカツカツである。まぁ好きでやっているのだから仕方がないのだけど、もう少し売れ線狙いでやってもいいんじゃないかと、余計な心配までしてしまうくらいである。
 何しろ、世のジャズ・ファンク・バンドのほとんどはインスト中心、アルバムともなればヴォーカル・ナンバーもあるが、それもせいぜい2~3曲程度、ほんと何度も言うが、もうちょっと損益考えてもいいんじゃないの、と心配してしまうようなリリースを平気で行なっている。

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 で、シスター・ファンクの歌姫として、ソロにコラボに忙しく働くGizelle Smith、UKマンチェスターを飛び出してからは、まだ若いはずなのにすっかりディーヴァの風格を醸し出し、熟練ミュージシャンらを相手取って、ファンキーにダイナミックに、そしてセクシャルなヴォーカルを聴かせている。
 サウンドとしては典型的なパーティ・チューン。これ以上でもこれ以下でもなく、妙に腰の据わったディーヴァがひたすら歌いまくりシャウトしまくり、踊る踊る踊る。
 Mighty Mocambosも百戦錬磨のミュージシャン揃いのはずなのだけど、ここでは完全にGizelleが主役である。熟練ゆえの余裕なのか、好き放題パフォーマンスさせておいて、掌で踊らせてやってる風情が思い浮かび、どことなく微笑ましくさえある。

 とんでもなく革新的な作品でもなければ、時代を象徴する名盤でもない。多分、「60~70年代にかけてのディスコ・ブーム前夜にひっそりリリースされたシスター・ファンクのレア物」と言っても通用してしまうくらい、シンプルかつストレートな正統ファンクである。
 決して時代を動かすようなサウンドではないし、知らない人は知らないままで、ほんとこのまま埋もれてしまうんじゃないかと思えてしまうアルバムなのだけど、まぁこういうのもいいんじゃない?と、つい微笑んでしまうようなアルバムである。
 Mighty Mocambos自身も、大それた野望などは持ち合わせていないはず。彼らにとって重要なのは、CDやyoutubeの向こうにいるリスナーではなく、あくまで目の前のオーディエンスたちである。活動ベースであるライブハウスで、彼らを躍らせ興奮させ、そして演奏する自分たちもハイになることが重要なのだ。


This Is Gizelle Smith & the Mighty Mocambos
Smith & Mighty
Legere Recordings (2012-10-19)
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01. Working Woman
 まんまJB系のどストレート・ファンク。Lynn CollinsやVicky Anderson直系のノリノリ・ナンバー。このシングルが発売された途端、世界中のDJらが狂喜乱舞して取り上げまくったのも無理はない。これだけパワフルなヴォーカルなのに、音割れも歪みもせず、きれいに響かせているのは、よほどのテクニックがないと難しいはず。

02. The Time Is Right For Love
 基本、アッパー系はどれも同じような曲調なのだけど、飽きさせずに聴かせるのは、ヴォーカル・演奏ともテクニックがモノを言う。多分それほど予算も時間もかけられなかっただろうし、スタジオ機材だってそれほど最新鋭なモノではない。ジャズ・ファンク系のバンドの常として、サウンドはあまりいじらないだろうし、余計なエフェクトをかけるわけでもない。クリアでしかもガッツのあるバッキングだけど、Gizelのヴォーカルもまたクリアに響いている。
 歌がうまいのは当たり前だけど、その歌をどう聴かせるか、どのようなテクニックで響かせるかがきちんとわかっているヴォーカリストである。

03. Gonna Get You
 一時期ミックス・テープでよく使われてた、疾走感あふれるナンバー。力強いブラス・セクションに絡まり纏わりつくリズム・ギターが絶品。中盤のブレイクでのGizelleとコーラスがまた脱力しててちょっぴりエロい。

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04. Out of Fashion
 ちょっとだけマイナー系のサウンド、ややトーンを落として、ビッチっぽく吐き捨てるような歌い方によって、曲の表情を浮かび上がらせている。珍しく、終盤でちょっとスペイシーなエフェクトが聴ける。

05. Coffee High
 こちらは正統なバラード・ファンク。しっかし古臭いコーラス・アレンジだな、ほんと。曲調やバンドのカラーには合っているのだが、まぁ売れないよな、そりゃ。もしかしたら10年くらい後にレア・グルーヴ・リバイバルのブームが来たら、Marva Whitneyあたりのフォロワーとして再発見されるかもしれない。
 


06. Hold Fast
 ソリッドなインスト・ファンク。時々尺八っぽく響くフルートとギター・カッティングとのユニゾンがカッコイイ。こちらも時代性を感じさせない。

07. Snake Charmer
 60年代スパイ映画のサントラ調。怪しげなオルガンに合わせて囁くGizelle。メロディを追うのではなくモノローグを多用しており、なお一層ミステリアスなファンク・ミュージックが闇の底を蠢いている。

08. Love Alarm
 メロディー、ヴォーカルとも色気が合って、アレンジの方向性が違っていれば、もう少し別の可能性もあったんじゃないかと示唆させる曲。少しテンポを落としてブラスを引っ込め、リズムを強調してヴォーカルにエコーをかけてやればあら不思議、アシッド・ジャズになっちゃった。そうすればクラブ・シーンだけでなく、もう少し広い範囲でもかけられるんじゃないかと思ってしまうのだけど、狙ってるのはそこじゃないだろうし、多分彼らとしてどうでもいいことなのだろう。

09. Everything Holds Blame
 03.に続くバラード・ナンバー。何ていうか、曲調が完全に男性仕様である。Otis Redding用に作られたベーシック・トラックに、無理やりGizelleが割り込んで歌い飛ばした感が強い。しかし、これもベースと言いドラムと言い、リズムがねちっこくていいな。
 


10. Free Vibes –Instrumental-
 ブリッジ的なインスト・ナンバー。箸休めとして、こういった曲も必要である。ブラスを強めにした、ジャズ・ファンク系のバンドとして、コンパクトにまとめている。

11. Magic Time Machine
 こちらも一時期、FMでよく流れていた記憶がある。スロー・テンポなラテン・ファンクなのだけれど、妙なグルーヴ感があるのは、やはりGizelleもそうだが、百戦錬磨の盤石のサウンドを誇るMocambosならでは。やや歌謡曲っぽいメロディーが、俺を含む日本人にはシンパシーを感じるのだろう。

12. Nothing For Nothing
 これもよく聴いた。ビッチ風の投げやりでパワフルなヴォーカルがマッチしている。またこれにビッチなコーラスが被ると、怪しげな場末のクラブの雰囲気がムンムン匂ってくる。一本調子になってしまいがちだが、何しろ短いナンバーなので、飽きずに聴かせてしまう。
 
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 あっという間の37分。CDならちょうど半分の収録時間だけれど、どの曲もテンションが高いので、物足りなさは感じない。どの曲も2~3分くらいのため、テンポもいいし、飽きる前に終わってしまうので、パーティBGMとしてもぴったり、踊るにもちょうどいい塩梅である。これがライブとなると、もっと演奏部分を膨らませて、とんでもないグルーヴの嵐になるのだろうけど、レコード(CDではない)でお試し感覚となれば、ちょうどいいくらいだと思う。
 こういったアルバムは無数にリリースされているのだけど、日本ではなかなか情報も入ってこないので、自分からアクティヴに動くしかないのが現状。
 あとはP-VINE、あんたらにかかってる。


The Future Is Here
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Légère Recordings (2011-10-17)
ショウダウン
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