2013年リリース、オリジナルとしては多分6枚目か7枚目かのアルバム。結成されたのは1985年だけど、アシッド・ジャズの名門その名も「Acid Jazz」レーベルからデビューしたのが1990年なので、キャリアとしてはそれほど長いわけではない。
なのに、なんでこんな曖昧なカウントになるのかと言うと、USとUKとで収録曲が違っていたりリミックス盤がリリースされていたりで、その辺がどうもはっきりしない。それに加えてヒップホップ・アーティストとのコラボものやライブ・アルバム、まぁこの辺はいいとしても、やたらとベスト盤が多いのもディスコグラフィを混乱させている要因である。しかもここに来日記念盤として、日本独自規格のアイテムもあったりする。
それだけ粗製乱造寸前のリリース状況にもかかわらずこの『Forward』、前回のオリジナル・アルバム『Get Usedto It』から7年のインターバルがある。それだけニーズがあってのリリース・ラッシュという見方もできるけど、その辺は実のところそう簡単でもなく、何やら契約のトラブルによって、思うようなリリース計画が立てられなかった事情もあるらしい。その辺にケリがつくまでは、大人同士のキナ臭い取り引きもあったんじゃないかと思われるけど、それについてはこのインタビューでもある程度語られている。何かと複雑な経緯があったらしく、ここでも慎重に言葉を選んではいるけど、ほとんどの作詞・作曲を手掛けるリーダー兼コンポーザーのAndrew Levyが、その辺をできるだけ正直に語っている。
まぁいろいろめんどくさい事情が絡んではいたのは察せられるけど、そういった権利関係をどうにかクリアして、久し振りにリリースされたのが、これ。この後はリリース関係も活発化して、コンスタントなリリースを続けている。
「1980年代にイギリスのクラブシーンから派生したジャズの文化。ジャズ・ファンクやソウル・ジャズ等の影響を受けた音楽のジャンル」というのが、wikiから丸々コピペしたアシッド・ジャズの定義。代表的なアーティストとして、JamiroquaiとIncognitoがこのジャンルの2大巨頭として永く君臨しており、そこからちょっと遅れたところで後塵を拝しているのが、このBrand New Heaviesといった具合。彼らの後に続くのがJames Taylor Quartet やCorduroyらで、ここら辺から一気に小粒になる。
ジャンル発祥から四半世紀が過ぎようというのに、未だ創成期のレジェンド達を超える存在が出てこない、ジャンルのピークが90年代でMAXに達してしまい、サウンドの進歩があまり見られないことも、イマイチ伸び悩みの要因でもある。
21世紀に入ってからもSnowboy やOmarらの新世代がシーンの活性化を図っており、実際ファン層も拡大しているのだけれど、反面、彼ら自身はアシッド・ジャズにそれほど強い執着は無さそうにも感じられる。何も好きこのんで斜陽気味のジャンルに義理立てする必要もないし、逆にこだわり過ぎて小さくまとまってしまうのもつまらない。
レコード会社サイドからすれば、何がしかのジャンル付けを行なわないとプロモーションがめんどくさくなるし、一時の勢いはないとはいえ、過去の実績と根強いニッチなニーズを考慮すると、大きな爆発力はないけど、確実な収益を見込めるジャンルであることは間違いない。なので、レジェンド枠のアーティストらはいつまでもアシッド・ジャズにカテゴライズされ続けることになる。アーティスト・サイドとしても、そういった看板の方が食いっぱぐれが少ないので、まぁいつも通りといった具合になる。
逆に言えばこのジャンル、あまり大幅な構造改革は歓迎されない傾向にある。どのバンドも基本、ヴォーカル&インストゥルメンタルといった構成なのだけど、アルバムごと曲ごとにヴォーカルが変わることも多いため、一見自由な音楽性として捉えられがちだけど、前述した定義のフォーマットを大きく逸脱することは、ほとんどない。一応、時代に即した音作りとして、流行りのエッセンスを入れることもなくはないけど、基本は「アーバンでトレンディでハイソサエティな世界」、独り暮らしの高層マンションや深夜のドライブのカーステが似合う世界観は変わらない。
なのでこのアシッド・ジャズ、サウンドの基本フォーマットはライトな70年代ファンク&ソウルとファンキー・ジャズの程よいミックス、と相場が決まっている。有名無名を問わず、多くのアーティストはその配合比率の微妙な違いのみ、キャリアを通してもほぼ一貫した音楽性を維持している。他のジャンルだと、バンドの技術スキルや音楽性の変化に伴って、デビュー時と最新作とではまったく別物になっている場合も多いのに、このジャンルにおいては、はっきり言って新旧それほどの差は感じられない。そりゃ90年代の全盛期と現在とでは取り巻く環境も違うけど、ベーシックな部分は盤石である。ある意味、すでに完成され尽くしたジャンルとも言える。
近年のジャズ・ファンクにも同じことが言えるのだけど、もともと高い演奏スキルが要求されるジャンルのため、基本、プレイヤビリティに長けた敏腕プレイヤーらが自然と集まることになる。もともとライブで演奏するのが好きな連中がほとんどなため、音楽性の進化なんて小難しいことは考えず、とにかく好きなプレイができてりゃそれでオッケーさ、というアーティストが多い。
なんかこう書いてると、アシッド・ジャズとはほんと行き詰まりのジャンルのように思われそうだけど、それでも新陳代謝は図られているし、実際根強いニーズはある。カップ・ヌードルのCMにまで登場したJamiroquaiはお茶の間での認知度は上がったし、IncognitoなんてVenturesとタメを張るくらい、何かにつけしょっちゅう来日している。FMやテレビでのムーディーなBGMにおいても需要が高く、ちょっとシャレオツなショップやサロンにおいてもインテリアの一部として機能する、汎用性の高い音楽である。前述のアーバンでトレンディな空間演出には格好のアイテムでもある。
なので、ある程度使用される空間が限定される分だけ、ちょっと損してるきらいはある。はっきり言ってしまえばバブリーな、チャラい印象が先立ってしまうジャンルである。先入観さえ抜いてしまえば、高い音楽性に裏づけされている完成度の高い音楽だというのに。
で、このBrand New Heavies、アシッド・ジャズの中では代表的ではあるのだけど、バンド・サウンドのベクトルが強いため、二大巨頭とは方向性がちょっと違っている。極端な話、ヴォーカルを入れなくても成立するトラックも多く、サウンドだけ取り出すと「ファンク成分多めのジャズ・ファンク」といったスタイルである。
そもそもの成り立ちがインスト・ファンク・バンドとしてスタートし、メジャー・デビューにあたって女性ヴォーカルN'Dea Davenportが加入したといういきさつなので、よくある「サウンド・クリエイター+女性ヴォーカル」という構図とは微妙に違っている。バンド・サウンドを前提として楽曲が構成されているので、いわゆるウワモノであるヴォーカルをいろいろ変えても、根本的なところはほとんど揺るがない。アシッド・ジャズの常道であるソウルフルなヴォーカルにこだわらず、ヒップホップ/ラップ系のアーティストとも積極的にコラボしていたりするところが、他のアシッド・ジャズとの差別化となっており、ジャンルに収まらない活動を行なっている。
まぁそれがすべてうまくハマっているわけでもなく、新機軸がイマイチ馴染まない時はN'Deaを呼び戻したりなど、それなりに試行錯誤しているようである。安定したバンド運営だけを考えるのなら、彼女固定で活動すればよいものの、きっとそういった路線だけでは彼らのアーティスト・エゴは満たされないのだろう。
そういった意味で、Brand New Heaviesはアシッド・ジャズの範疇に収まらないバンドである。
ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ
Pヴァイン・レコード (2013-05-08)
売り上げランキング: 61,494
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1. Forward
ややオリエンタルなテイストなキーボード・ソロと、軽く心地よいリズムとの対比が絶妙なインスト・ナンバー。ただ心地よいだけじゃなく、構成的にもメリハリがあるので、飽きが来ない。こういうのってどこかで聴いたような…、そう、YMOだった。
2. Sunlight
ここでディーヴァN'Dea登場。冒頭のハミングだけで、バンドの雰囲気を一変させる。そう、ここは輝かしかった90年代。サビに向かうに従って徐々に盛り上がりを見せるカノン・コードは日本人的にもめちゃめちゃシックリ来る。演奏陣もまた、時たま見せる白玉コード、荘厳かつリズミカルなストリングス、チャラいホーン・セクション.どれを取っても王道アシッド・ジャズ。下手な小細工も入れず、高らかに復活をアピールしている。
3. Do You Remember
多彩なサウンドを展開するBrand New Heavies、今度は一気に80年代、プレ・ユーロビートな世界へ跳ぶ。ドラムは軽く、シンセ・ベースも当然軽い。すべての音はきちんと鳴ってるはずなのに、まるでここだけリマスターしていない80年代のCDのような響き。でもそこがStock Aitken Waterman的なレトロ・フューチャー。
再びヴォーカルはN’Deaだけど、こういったライトなダンス・チューンも普通に歌いこなしてしまうのが、この人の味。
4. On The On
と、ここでリズムのボトムが一気にグッと下がる。ここでのヴォーカルはドラムのJan Kincaid。正直、そんな上手いわけでもなく、さりとて味があるわけでもないまぁやりたかったんだろうね。正直、バック・ヴォーカルのDawn Josephがメインで歌った方がいいんじゃないかと思ってしまうのだけど、まぁやりたかったんだろうね。
5. A Little Funk In Your Pocket
で、そのDawnがメインとなる、いい感じのアシッド・ジャズ直球ナンバー。レゲエを基本リズムにファンキーで泥臭いギターがミスマッチ感を煽っているけど、これはこれでうまくハマっている。やっぱりサウンド・デザインがしっかりしてるから、ちょっとハズした音でも受け止めちゃうんだよな、きっと。
6. Addicted
一時期、FMのパワー・プレイとして流れまくったキラー・チューン。クレバーかつホットさを秘めたN’Deaのセクシーなヴォーカル。メロディ・パターンもほぼ固定、サビも大きな盛り上がりはないのだけど、これほどクールなダンス・チューンは久しぶり。やればできるじゃん。まぁすったもんだでできなかったんだけど。
7. Lifestyle
再びDawn。ここまで聴いてみて、歌い上げるグルーヴ・チューンをN’Deaに、リズムの強いダンス・チューンを彼女に振り分けているみたいだけど、その辺は長い経験の上でいい判断なんじゃないかと思われる。Dawnの場合、そのハスキーさがライトなリズムとの親和性は高いのだけど、ある意味アシッド・ジャズのフォーマットとしてはやや定石をはずしている。ただ、「それでも俺たちがやりゃ全部Brand New Heaviesさ」とでも言いたげに、様々な挑戦を行なっている。
8. Itzine
ドス黒いスラップ・ベースを前面に押し出した、ミドル・テンポのインスト・ファンク。ギターが入ると途端にフュージョンっぽくなってしまうのはご愛敬。ここは鉄壁のリズム・セクションの独壇場。ボトムがしっかりしているので、どうやっても上物のメロディが引き立つ仕組み。ホーン・セクションはアシッド・ジャズ・オールスターズ・プロジェクトSound Stylisticsからの絡みで参加しているので、そりゃもう手慣れたもの。
いわゆるスタジオ・セッション的なナンバーだけど、こんなのいくらでもできるんだろうな。
9. The Way It Goes
再びJan登場。ここで一気にガレージ・ロック的な空気になるのだけど、独特のコード進行にほどほどにファンキーなホーン・セクション、強いリズム・セクション。そう、この空間はSteely Dan。どうりで俺、居心地がいいはずだ。ほんといい意味でも悪い意味でも、Steely Danの新作といった趣き。俺的には好きな世界だけど、アシッド・ジャズ的には賛否両論だろうな。
10. Lights
俺的にこのアルバムのキラー・チューン。演奏陣とDawnとの拮抗したセッションが一番堪能できるのがこのトラック。ややおフレンチが入ってるところもツボ。地味なんだけどクセになる。それこそがアシッド・ジャズの本質でもある。チャラくてキラキラしてるだけじゃないんだよ。
11. Turn The Music Up
本編エピローグ的なインスト・ナンバー。と言いたいところだけど、Manhattan Transfer的にN’DeaとギターのSimon Bartholomewによるコーラスが入る。もしかして、メロディがうまく乗らなくて、こういった形でリリースしたんじゃないかと思ってしまうくらい、それほどキャッチーなナンバー。でも、これはこれでいいのかな。中途半端なメロディを乗せても、確かにこの享楽的な世界は壊れてしまうかも。
12. Heaven
さて、ここからは男の世界。キラキラした本編が終わり、ここからは男性ヴォーカルが3連発。本来ならN'Deaが歌いそうなところを、なぜかコーラスから何から男性で固めている。なので、どこかデモ・テープ的にも聴こえてしまう。歌いたかったのかな?
13. Spice Of Life
ここではさらにパブリック・イメージからかけ離れ、お子ちゃまの掛け声からスタートする、チープなリズム・ボックスを模したニュー・ウェイヴ的なナンバー。お遊び的なところを狙ってるのか、ここでのヴォーカルはギターのSimon。まるで脱力系オルタナのようなガレージ・サウンドは、まぁ真剣に取らない方が良い。
14. One More For The Road
ラストは荘厳としたストリングスからスタート、ラウンジっぽいリズムとホーンがムードたっぷり。男性ヴォーカル・パートでは多分、これが一番じゃないかと思われる。Janのヴォーカルは決してうまくはないけど、ゆったりした横揺れリズムと脱力感とがうまくマッチしており、独特の世界を創り出している。
気分はウエスト・コースト。70~80年代のAORが好きな人ならおススメ。
アシッド・ジャズについてはもうちょっと書いておきたいので、続きは次回、Incognitoで。
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