_SL1500_ 最近音沙汰ないけど何してんのかなぁ、と思ってたら、何の前触れもなく突然リリースされたSpeedometerの新作アルバム。前回レビュー時には、ユルいラウンジ風カバーのPharrell Williams 『Happy』がリリースされて、まだ本気出してないよなぁ、と思ってた矢先の出来事である。もしかすると、ただ単に俺がチェックしてなかっただけなのかもしれないけど、突然の急展開と思ってしまったのは、多分俺だけじゃないはず。

 前回のMartha Highとのコラボ同様、今回も単独名義ではなく、若手黒人男性シンガーJames Juniorとのコラボ作というスタイルになっている。これまで単独名義アルバムの構成パターンとして、ほぼ半数がインスト、もう半分で複数のゲスト・ヴォーカリストをフィーチャリングしてのヴォーカル・ナンバーという流れだったのだけど、今回はMartha同様、インストは2曲のみ、Jamesがほぼ出ずっぱりで歌っており、ちょっと泥臭いネオ・ソウル系、バラエティ色あふれたソウル系のヴォーカル・アルバムに仕上がっている。
 ナショナル・チャートのサウンドと比較しても、何ら引けを取らない作りになっており、「もしかしたら売れちゃうんじゃないか」とも思ってしまったけど、相変わらずのマイペースは変わらず、チャートの隅っこにすら顔を出す気配はなさそうである。ま、しょうがないか、レーベルがFreestyaleだし、日本じゃP-VINEだし。日本盤が出るだけ良しとしなくちゃな。

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 で、今回抜擢された謎のシンガーJames、詳細な情報がほとんどない。P-VINEはもちろん、この手のジャンルに強そうなネット・ショップのインフォメーションも、「新進シンガーである」という以上の事は書かれていない。
 なので自力でいろいろ調べてみると、10年くらい前からMyspaceに音源をアップして地道な売り込みを行なっていたようだけど、まぁアマチュアに毛が生えた程度の活動状況。もちろん、パッケージとして音源がリリースされるのは、これが初めてである。もしかすると、あまり公表されていないだけで、ほんとは実績のあるアーティストなのかもしれないけど、わかったのはこれくらいである。
 こうして書いてると、何か大したシンガーじゃないように思われてしまいそうだけど、いやいやジャズ・ファンク界はめちゃめちゃ裾野が広いため、無名でも熟練のテクニックを持つ者は、それこそ腐るほどいる。ましてやUK有数のジャズ・ファンク・バンドSpeedometerに見込まれたくらいだから、相応のポテンシャルはある。
 実際、聴いてもらえばわかってもらえるはずだけど、バンドと一歩も引かず渡り合い、曲によっては充分主導権を握っているものもある。

 数多あるUKファンク・バンドの中でも、Speedometerは極めてオーソドックスなスタイルのバンドである。全体的にファンク・テイストが濃いUKにおいて、正統派のジャズ成分が多いサウンドを展開しているので、へんなクドさや独特のクセも少なく、比較的ビギナーでも抵抗なく受け入れやすいのが特徴である。
 なので、ヘヴィーからライト・ユーザーまで幅広く支持を得ており、このジャンルの中ではセールスも安定している。そこまで大ヒットとまでは行かないけど、バンド運営的には余裕があるので、無理なプレッシャーも少ない。よって、マイペースな活動ができている。
 いるのだけれど、逆に言えば安定しすぎ。
 破綻が少ないのは結構だけど、それがサウンドにまで現れてしまっては、ちょっとまずいんじゃないかと思う。時にはベタな定番もいいだろうけど、そればかりじゃ飽きが来るのも早くなる。川の流れは止まってしまうと水は澱み、そして腐ってゆくのだ。

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 セールスの上昇に伴って、バンドのサウンドが予定調和なジャズ>ファンクに偏りつつあり、あのまま何の手立ても講じなければ、単なるラウンジ・ジャズ・バンドになってしまったことだろう。そういったヌルい状況に危機感を覚えたのか、前回行なった荒療治が、他の血を大々的に導入すること、それが大御所ソウル・ファンク・ディーヴァMartha Highとのセッションだった。
 彼女とは、そのまた前作『Shakedown』で共演済みだったのだけど、そこではひいき目に見たとしても、ディーヴァのド迫力に圧倒され、完全に気合負け・迫力負けしていた。バンドのHPを上げていかないと、とても太刀打ちできない相手である。そこで尻をまくって路線変更という安易な道には逃げず、敗北を糧として態勢を立て直し、ガチの再戦を挑んだことが、結果的にバンドとしては良い方向へ向くことになった。
 サシでぶつかり合ったコラボ作『Soul Overdue』は、Marthaのパワーに振り回されるギリギリのところでバンドが踏み止まり、拮抗したセッションとなった。前回はディーヴァの迫力に圧倒されてしまうところを、ねじ伏せるとまではいかないけど、なんとか五分の闘いにまでは持っていくことができた。自分たちのサウンド・ポリシーをゴリ押しするのではなく、Marthaの間合いに合わせ、時にはMarthaの勢いを利用して、全体的なグルーヴを創り出せるまでに至り、これが多分自信になったんじゃないかと思う。

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 前回が五分五分の真剣勝負だったのに対し、今回のSpeedometerのエンジン出力は8割くらい、イキのいい若手に胸を貸すといった感じである。Marthaの時のような緊張感はないけれど、自分たちの自己主張はしつつ、極力Jamesに花を持たせるようなプレイを見せている。
 どちらもエゴが強すぎると散漫になるし、お互いが譲り合い過ぎても、漫然としたプレイになってしまうのだけど、ここではヴォーカルと演奏がイイ感じでバランスが取れている。
 きちんとしたコンテンポラリー・サウンドながら、アルバム1枚を中だるみさせことなく聴き通させてしまうのが、今のSpeedometerの実力なのだろう。


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1. Don’t Fool Yourself (feat. James Junior)
 60年代スタックス・ソウルの伝統を汲んだ、キャッチーなメロディ・ラインのソウル・ナンバー。すっかり歌モノのバッキングが手慣れたバンドの面々だけど、それにひるまずオリジナリティを前面に出したヴォーカルを披露している。

2. Bad Note (feat. James Junior)
 ホーン・セクションがもろソウル・レビュー・スタイルなので、ちょっと気づかないけど、メロディ・ラインは正統なR&B。もっとムーディに仕上げれば、スムース・ジャズでも通用するクオリティなのだけど、そうはしないのがこのバンドの肝の据わったところ。まぁ似合わないしね。ヴォーカルはねっとりしたスロウ・ファンク・スタイルで、このミスマッチ感が絶妙。

3. No Turning Back (feat. James Junior)
 タイトル・ナンバーで、しかもスウィング・ジャズ・スタイル。新人とはいえ、今回のフロントマンを務めているくらいだから、テクニックの幅の広いヴォーカルを聴かせている。中盤のブレイクの軽さもまた、レンジの広さを見せつけている。
 でも、このスタイルでアルバム1枚なら、ちょっとキツイ。やっぱり1、2曲程度のスパイス的な使い方なら、アリ。



4. Just the Same (feat. James Junior)
 かなり泥臭いディープ・ソウル。これはちょっと思ったのだけど、案外女性ヴォーカルの方が映えるナンバーだったんじゃないかと思う。それこそ前回のMartha、またはSpeedettesを呼び戻すとか。
 でも、曲とマッチしないから別のヴォーカルを呼ぶ、という態度なら、それはバンドではないのだ。敢えて若いJamesに課した試練、そしてそれをきちんとバッキングするメンバーたち、それによって信頼関係が生まれるのだ。

5. Orisha's Party
 少しBPMを速くした、バンド全体のグルーヴが感じられるインスト・ナンバー。若いヴォーカルに刺激されたせいもあるのか、ここはみんな良いところを見せようと必死。若手に胸を貸す、なんて余裕ばっかりぶっこいていられない。ミュージシャンなのだから、やっぱり目立ってナンボである。

6. Troubled Land (feat. James Junior)
 アフロ・ジャズっぽいオープニングに、ホーン・セクションが気合が入るナンバー。長い長いイントロの後、スロウ・ファンク・スタイルで肩の力を抜いて歌うJames。ここはバンドの力が強い。ビッグ・バンドでのJBスタイルのファンクは、やっぱり強い。しっかしゴチャ混ぜだな、この曲。Metersも入ってるし、イイとこどり。
 LPでは、ここまでがA面。
 


7. Middle of the Night (feat. James Junior)
 爽やかなフルートの調べから始まるオープニングに乗せて、70年代っぽいニュー・ソウルのウィスパー・ヴォイスからスタート。この曲もそうだけど、シャウター・スタイルの人ではない。微妙な陰影を表現する人なので、ファンク色の強いバンドではなく、Speedometerにはよくマッチしていると思う。

8. Mirage (feat. James Junior)
 ファンク・マナーの則ったギター・カッティングがカッコイイ。こういったシンプルな音をきれいに聴かせられるLeigh Gracieを始めとした、バンドの底力が垣間見えてくる。こういった疾走感、Jamesはすごく歌いやすそう。メロディもすごく立ってるし。

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9. I Showed Them (The Ghetto) [feat. James Junior]
 ここでボサノヴァが登場。ジャズの素養があるので、バンドはこういったことも全然できると思うけど、あくまで自分のスタイルを崩さず、世界観に溶け込んでいるJamesもナカナカ。”Do it Again”なんか歌ってくれたら、結構サマになるんじゃないかと思う。

10. Homebreaker (feat. James Junior)
 今度はノーザン・ソウル。オルガンと、アクセント的に使われてるプリセット音源のストリングスが、チープでありながら逆にソウル・スピリッツを感じさせる。ドラムやベースが前面に出てなくても、充分にファンキーに演奏できることを証明したナンバー。






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