好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

ジョー・ジャクソン

「人間Joe Jackson」によるメッセージ・ソング - Joe Jackson 『Blaze of Glory』

folder 1989年リリース、Joe Jackson 8枚目のオリジナル・アルバム。10年ちょっとのキャリアの中で、サントラ2枚とライブ・アルバム、オーケストラと共演のインスト・アルバムも製作しており、A&M時代の彼が相当なワーカホリックであったこと、またアイディアが溢れまくっていたことが窺える。何となくの印象だけど、特別趣味もなさそうだし、ヒマさえあればピアノに向かっているようなイメージが強い。気分転換がヘタそうなので、そういった点が後に尾を引くことになるのだけど。
 で、今回はそのデビューから長く所属したA&Mでは最後のアルバムとなっている。ここでひとつの節目をつけて心機一転、新天地ヴァージン・レコードでキャリアの再スタートを図るはずだった。だったのだけど。

 80年代後期のJoe Jacksonと言えば、StingやPeter Gabrielと並び称される、今で言う「意識高い系」のミュージシャン的スタンスにあった。
 正統なクラシック教育というアカデミックなバックボーンがありながら、デビュー・アルバムで披露したシンプルな3コードのロックンロールを起点として、当時はまだキワモノ扱いだったワールド・ミュージックのエッセンスを導入、オンリーワンの無国籍サウンドを確立した。
 ここで重要なのが、当時のポスト・パンクの潮流の真っ只中にあったJoeのスタンス。「ロック以外の何か別のサウンド」と謳いながら、結局は旧来のロックにカテゴライズされるサウンドしか提示できなかった大方のニューウェイヴ・アーティストとは一線を画し、明確に「ロックとは違うサウンド」を志向していたのがJoeであり、またはPoliceだった。既存のロックとは別の地平を切り開くその姿勢は、逆説的にロック的でありパンクのイディオムと同調するのは、ある意味皮肉でもある。「オンリーワンこそがロックである」という証明にもなっている。
 ロックとは別の地平という点において、バンド・スタイルに捉われない方向性も模索していたJoe、キャリアの初期に制作されたサントラ『Mike’s Murder』は習作レベルの出来ではあったけれど、オーケストラと共演した現代音楽アルバム『Will Power』ではある程度の成果を出し(セールスは別)、短いスパンでリリースされたサントラ第2弾『Tucker』では、1940年代という時代設定に合わせた本格派スウィング・ジャズで全編をまとめている。まぁ以前、『Jumpin’ Jive』で同じアプローチで経験済みなので、その辺はお手のものか。とは言っても、何かと制約の多いハリウッド・メジャーの作品からの細かな要請をすべてクリアし、映像ともストーリーともフィットしたサウンドを提供、しかもアーティストとしての作家性も維持しているのだから、この仕事についてはもっと評価されてもいい。

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 それまでは主にポピュラーのフィールドで活動していたJoeだったけど、『Will Power』『Tucker』という、プレイヤーとしてでなくコンポーザーとして携わった一連のプロジェクトを経たことが、ひとつの節目となったと思われる。この時期、Joeはインタビューで「もうポップ・シンガーとしての自分の役割は終わりだ」という発言を繰り返している。従来のシンガー・ソングライターとしての表現手段に限界を感じ、もっと大編成のオーケストラを相手にしたコンポーザーとしての将来性に可能性を見出すのは、自然の流れである。そうなると、これまでのポピュラー・サウンドというのはルーティンでしかない。
 とはいっても現代音楽のフィールドは収益という面においては不安定この上なく、いまだ太っ腹なパトロンや、スポンサーのバックアップがないと成り立たない世界である。特にこの世界でまだ目立った実績のないJoeに対し、支援を申し出る者がいるはずもない。なので、必然的にこれまでのポピュラー・ミュージックとの二足の草鞋といった活動形態となる。
 中堅ポップ・シンガーとして、次のレコーディング契約が継続される程度にセールス実績を上げ、そこで得た活動資金を現代音楽方面へ投資する、というのがJoeの理想とする活動スタイルだったんじゃないかと思われる。アーティストとしてのアイデンティティを失わず、それでいて収支的にバランスの取れた経営計画は、今にして思えば理想論過ぎると思うのだけど、それを本気で考えていたフシがあったのは、それだけJoeのポピュラリティがミュージック・シーンに浸透していた証左でもある。

 『Blaze of Glory』では、これまで彼が培ってきた音楽の集大成として、総決算的なサウンドはもちろんのこと、全体がひとつのストーリー仕立てとして、歌詞においても半自伝的な内容が綴られている。楽曲によっては曲間のないシームレスな繋ぎとなっていたり、ドラマティックな展開のコンセプト・アルバムとなっている。これまでと比べてバラエティに富んだサウンドが展開されており、これまでの集大成といった力の入りようは充分感じ取れる。Joe自身の少年時代からスタートして、青年期を経、そして現代に至るまでの変遷を描いているらしいのだけど、正直訳詞は読んだことがない。
 ていうか俺、Joeの人生にさほど興味はなかったのだった。

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 11歳からバイオリンとピアノを嗜んでいたJoe Jackson。あらゆる楽器をちょっとの努力で習得してしまうマルチな才能はとどまるところを知らず、16歳からパブやバーで演奏、机上の論理に収まらない現場のスキルを得ることになる。
 その後、本格的に楽理と作曲を学ぶため、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックに奨学生として入学する。音楽以外、これといって趣味のないJoeであるからして、そこで勉学に演奏活動に励み、将来はオーケストラの作曲家になることを目指していたけど、幼少時からアカデミックな教育を受けていた同級生との格差に絶望、クラシックの道は諦め、興味を惹かれつつあったロックの世界に身を投じることになる。
 地元ポーツマスのバーやパブで演奏活動を続けながら大学を卒業、その後もいくつかのバンドを転々としながら実地経験を積み、クラブ専属のピアニスト兼音楽監督としての職を得る。それと並行して、デモテープを作ってはレコード会社に送る地道な作業も続けていた。そのうちのひとつがA&Mの目に留まり、レコード・デビューの道筋をつけることになった。

 -以上が、ほぼwikiから引っ張ってきたデビューまでのあらすじ。順風満帆とまでは行かないけど、それほど大きな起伏もない、ごく普通のミュージシャン・ヒストリーである。デビュー後も、音楽的変遷への言及は多々あるのだけれど、ストーリーにとって重要なファクターである枝葉の部分については、取り立てて大きなエピソードもない。
 「悪徳マネージャーの搾取がひどかった」とか「厳格な両親への反抗が創作意欲の原点である」とか「ホモセクシャルというコンプレックスの反動が、ショー・ビジネスへの憧憬を募らせた」など、何かしらストーリーのフックとなるエピソードでもあればまた違うのだけど、そんなこともなさそうである。
 いやいや邦訳されてないだけで、もっとエグいエピソードのひとつやふたつはあるんじゃないの?といったゲスの勘繰りで、英語版のwikiや例のJoe Jackson Archiveも探してみたのだけど、やはり特筆するほどのことはなさそうである。Joe自身のプライバシー保護が徹底しているのか、もしかしてとても公表できないエピソードもあるのかもしれないけど、とくにそんな感じでもなさそうである。

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 今回レビューするため、初めて訳詩を読んでみたのだけど、正直あまり面白いものではない。よくありがちな青年期の苦悩、また戦後40年を経た社会情勢を皮肉な視点で振り返る、といった生粋の英国人的なテーマを取り上げているのだけれど、どれもステレオタイプな視点なので、独自性があるものでもない。新聞の社説やニュース番組のコメンテーター相手にグチってる、街角インタビューのオヤジと大差ないレベルである。
 これがRay DaviesやPete Townshendだったら、ストーリーの骨組みは同じだとしても、もっと屈折した視点や自身のトラウマをさらけ出したりして、起伏の富んだストーリーをいくらでも量産できるのだろうけど、Joeにそこまでのストーリーテリングを求めるのは酷なのかもしれない。ていうか、そういったイメージの人じゃないし。

 言葉によるストーリー展開よりむしろ、純粋なサウンドの組み立て方・編成の妙で独自性を築き上げてきたのが、Joeの本質である。自我を全開にさらけ出すタイプのシンガー・ソングライターではないのだ。どちらかといえばサウンド・コンセプト重視の人である。
 「シンプルなロックンロールやるぞ」「第三世界のサウンドを取り込むぞ」「時代遅れだけどスウィング・ジャズ・スタイルでアルバム作るぞ」「観客に沈黙を強制して全曲新作でライブ・レコーディングするぞ」「世界中の都市をテーマに曲を作ってアルバムにまとめるぞ」など、何がしかの縛り、大喜利で言うお題的なものがあった方が、この人の場合、クオリティも高くまとまったものができる。A&M時代のアルバムは、ほぼこういったテーマがひとつ設定されていたため、自然とサウンドに統一感が生じ、結果的にアルバム・コンセプトが明確なものとなっている。
 ただ、『Blaze of Glory』ではサウンド・コンセプトよりも、むしろストーリー性の方に重点が置かれ、しかも要のサウンドもひとつのテーマに縛られず、言ってしまえば小品集を組曲的に再構成したような構造となっている。なので、「これまでのアルバムのオイシイところを寄せ集めた」とポジティヴに捉えれば、決して悪いアルバムではない。ないのだけれど、半自伝的なストーリー・コンセプトが主体となっているため、曲単体のポテンシャルが落ちてしまっているのも事実。他のアルバムと比べて、後のライブで再演されるような曲が少ないことが、それを証明してしまっている。
 言ってみれば、『Sgt. Pepper’s』をシャッフルして聴いても魅力が伝わらないように、通して聴かなければイマイチ伝わりづらいアルバムなのだ。でも、ストーリー展開の薄いコンセプト・アルバムって、聴いててもちょっとダルいよね。
 そういった「ストーリー性」やら「個人的感情」やら「メッセージ」やら、ウェットな感性とは無縁のドライなスタンスで、雑多な音楽性を次々と吸収して新たなオンリーワンのサウンドを創り上げてゆくのが、彼の魅力だったのだ。
 書いてみて、ようやく気づいた。
 そうだよ、理屈じゃないんだよ。


Blaze of Glory
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Joe Jackson
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1. Tomorrow's World
 Joeの生まれた1950年代からの視点で描かれた、希望あふれる未来への賛歌。まぁそういった内容は別として、サウンド的にはA&M期の頂点と言ってよいクオリティとなっている。この一曲の中に多くのアイディアが詰め込まれ、ドラマティックな展開が幾度も訪れる。
 この曲を起点として、コンセプト・アルバムに展開していったのだろうけど、あいにくサウンド的なトータリティは継承されず、イデオロギーのみがアルバム・コンセプトとして設定されたため、どれもこの曲ほどの仕上がりには至らなかった。
 それくらいレベルが段違いに素晴らしいナンバー。



2. Me And You (Against The World)
 前曲のVinnie Zummoによるギターのアルペジオからシームレスで続く、ストレートなロック・ナンバー。この曲もアルバムの中では俺的には好みのナンバー。『Big World』で完成の域に達した、「ギターをメインとしないロック・ナンバー」の発展形として、自信に満ちあふれたJoeのヴォーカルが清々しくて圧巻。

3. Down To London
 ちょっとカリビアン・テイストの入った軽快なピアノを弾きながら、『Body & Soul』期の発展形のサウンドがここにある。ほぼデュエットと言っても良いほど前面に出ているJoy Askewのバッキング・ヴォーカルもツボを得ている。
 いやぁ、ここまで3連発、ほんと好きなんだけど。このままの感じで突っ切れば傑作だったのに。ここから俺的に、あんまり聴き返してない世界。

4. Sentimental Thing
 タイトル通り、非常にセンチメンタルなバラード・チューン。ポピュラー系というかロックンロール誕生以前、ほんと40~50年代のポップ・ナンバー的な趣きを感じさせる。この辺の曲にどんな需要があるのか、俺もまだその領域には達してないのでわからないけど、ぶっちゃけてしまえば退屈。まぁアルバム構成的にはこういった箸休め的ナンバーも必要。

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5. Acropolis Now
 ギリシャの政治・軍事的な拠点となった都市アクロポリスをテーマとしたインスト・チューン。Joeお得意の中近東テイストの入った無国籍サウンドと、正統派ロック・スタイルのVinnie Zummoのギター・ソロをミックスさせている。まぁでも、ただそれだけかな。あんまりタイトルとも関係なさそうだし、コンセプト・アルバムの幕間的ナンバー。

6. Blaze Of Glory
 珍しくアコースティック・ギターの弾き語りから始まる、入りはちょっとカントリーっぽいナンバー。これはこれで新境地的なサウンドとなっている。どこか「人間Joe Jackson」的な質感となっているのが、俺的にはちょっと気に食わない。まぁ個人的な感想だけど。

7. Rant And Rave
 ラテン・テイストの強い、『Beat Crazy』期の発展形的サウンド。良質なダンス・チューンとしては最高なのだけど、国家テロを扱った時事放談的な内容が水を差す。まぁ、でも俺的に英語のヒアリング能力はほぼ皆無なので、そんなに気にはならないけど。内容知っちゃうと印象が違ってくる。

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8. Nineteen Forever
 リリース当時からちょっとだけ話題になった、「35歳にはなりたくない、俺は永遠に19歳」と歌った当時34歳のJoe。そう言った気持ちを忘れずにいたい、という気持ちはわかるのだけど、ハゲかけたおっさんが歌うのは、当時からちょっと厳しいものがあった。松本伊代とはスペックが違いすぎるのも、不自然さが漂う要因でもある。

9. The Best I Can Do
 このアルバムの中でも白眉の出来となった傑作バラード。『Night & Day』サウンドの上位互換と呼んでも差し支えない、センチメンタリズムを可能な限り排除しながらも、聴く者の感情に訴えかけるものがある。そうだよ、Joeはやっぱりこうでなきゃ。なのに、こんな地味な曲順になってしまったのが非常に惜しい。せめて前半に入れて欲しかった。



10. Evil Empire
 国家間の冷戦状態を歌った、いわゆるプロテスト・ソングにカテゴライズされるアコースティック・ナンバー。まぁステレオタイプな社会批判なので、そこまで独自の視点があるわけでもない。こういったことも歌ってみたかったのだろう。だろうけど、誰もJoeにそんなのは求めてない。そういうことだ。

11. Discipline
 全編「修練」ともいうべきアブストラクトなナンバー。これまでのパーツを分解して再構築したような、そこかしこにエッセンスは残っているので、アバンギャルドな印象はそこまではない。まぁ10.でも言ったけど、Joeファンからすればあまりニーズのないナンバーである。

12. The Human Touch
 締めは正統なJoe Jacksonとしてのバラード・ナンバー。甘すぎずウェットにならず、それでいてエモーショナルな部分もきちんと残されている、ハードボイルドという言葉が最も似合っている。歌詞はちょっと陰鬱としているのだけど、サウンド的にはこれまでの良質なエッセンスのみを抽出して練り上げられた、今後の可能性も感じ取れる作りとなっている。なってはいたはずだったのだけど。




 その陰鬱とした加減が歌の中だけで納まっているのなら良かったのだけど、次作『Laughter & Lust』のセールス不振によって鬱病が表面化、しばらくポップ・シーンから遠ざかってしまうことになる。それまでほぼ順風満帆でキャリアを重ねてきたJoe Jackson、初めての挫折を味わうことになる。


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ここに来て覚醒、2015年型のJoe Jackson - Joe Jackson 『Fast Forward』

folder ほぼ事前アナウンスも無く突如リリースされた、Joe Jacksonの2015年ニュー・アルバム。この11月時点の情報では、今のところ日本リリースの予定はなし。前作『Duke』は一応、直輸入仕様でリリースされてはいるのだけど、正直俺も日本盤の現物は見たことないし、多分今回もそのうちどこかからリリースされるかもしれないけど、同じような扱いなんじゃないかと思う。
 だいたい日本でのJoeの扱いといえば、『Night & Day』周辺の作品くらいしかインフォメーションされておらず、あとはせいぜいデビュー・アルバム『Look Sharp!』がニュー・ウェイヴ期の代表作としてピックアップされるくらい。まぁ世界レベルにおいても似たような認知しかされていないので、ここ30年くらいは地道な活動に甘んじている状況である。近年は来日もしてくれなくなったから、取り上げる目立った話題もないという悪循環。

 そんなわけで、日本にはあまり情報は入ってこないけど、それでも精力的に活動は続けている。アルバム・リリースの間隔が広くなっているのは、ほかのベテラン・ミュージシャン同様、致し方ないことだけど、ライブ活動はコンスタントに行なっている。アルバム・プロモーション目的のツアーだけでなく、恒常的なライブ活動をメインに据えたミュージシャンが多くなっているのは、世界的な傾向である。

 パンク~ニュー・ウェイヴ期は4ピース編成のストレートなロック・バンド・フォーマット、『Night & Day』以降のアーバンAOR路線では、ホーン・セクションを導入した大編成ビッグ・バンド、21世紀に入ってからのJoe Jackson Bandリユニオンを経て、近年はさらにシンプルな3ピース編成、自身のピアノ&ヴォーカルにドラム、ベースを率いて、主にEU圏内を中心に公演活動を行なっている。身軽なフォーマットゆえ、基本、小さな会場を小まめに回るスタイルになっているのは良しとしても、もっとライブ感あふれるダイナミズムを見せてもらいたいのも正直なところ。

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 そういった想いもあって、以前『Big World』のレビューで書いたのが、現在の基本フォーマットである3ピース・スタイルだけじゃなく、単発でもいいから別のコラボレーションを試してみるのもアリなんじゃないかという内容。
 今のJoeのセールスから考えると、パーマネントな形での大所帯バンド編成を維持してゆくことは困難なので、逆にJoeが単身どこかの国へ乗り込んで、イキのいい地元のジャズ・ファンク・バンドとガッツリコラボしたら、面白いんじゃないかと。たとえば日本にも、いろいろ個性的かつテクニカルなバンドが揃っているので、ある程度まとまった期間滞在してもらって、じっくりサウンドを練り上げてみれば、と書いたのだけど。

 で、今回のアルバム。舞台は日本じゃなかったけど、結構俺が書いたことに近いコンセプトになっている。ニューヨーク、アムステルダム、ベルリン、ニューオーリンズ各地でのセッションから4曲ずつセレクトし、1枚のアルバムにまとめている。レコードで言えば、2枚組ABCD面の構成となっており、一応各面ごとにサウンド・スタイルも変えている。なかなかめんどくさい作業だったと思われるけど、我々が気にすることではない。
 こういうのが好きな人なのである。

 深刻な鬱状態を無為に過ごした90年代を経て、今世紀に入ってからのJoeはフル・スロットルの活動ぶりである。初期Joe Jackson Bandを再結成して、全盛期とまったく変わらぬハイ・テンションのロックンロール・アルバム『Vol.4』を発表後、それに伴う世界ツアーのライブ・アルバム『Afterlife』も併せてリリース、その後もシンガー・ソングライター的なソロアルバム『Rain』を経て、トリオ編成のヨーロッパ・ツアーを行ない、こちらもライブ・アルバム『Live Music Europe 2010』をリリース、で、前述のDuke Ellingtonトリビュート・アルバム。
 近年は『Rain』から繋がる、ピアノ中心のサウンドになっていたのだけど、同じアプローチであるはずの『Night & Day』とは違ってホーン・セクションもなくなっちゃって、ちょっと寂しいサウンドになってしまい、このまま枯れて行っちゃうのかなぁと思ってたのが正直なところ。

Joe-Jackson

 で、ここに来て突然覚醒したのか、あらゆるジャンルを縦横無尽にサヴァイヴするJoeの復活である。俺が求めてたジャズ・ファンクも入ってるし、従来のストレートなロック・ナンバー、またフィドルを効果的に使用した実験色強いポップナンバーも収録されている。
 思えば80年代のJoeは、「いかに既存のロックから遠ざかるか」をテーマに、ジャズやラテン、カリプソなどあらゆるジャンルの音楽を飲み込み咀嚼して、従来のロック/ポップ・ユーザーへわかりやすい形にして届けていた。そのジャンルレスな活動スタイルは、唯一無二オンリーワンのもので、音楽への純粋たる求道者的な佇まいは、多くの音楽通だけでなく、幅広いすべての洋楽リスナーにもアピールするものだった。
 それが近年では、その求道者たる方向性が純化の方へ向かってゆき、雑多な音楽性が薄れていた。キャリアを積んだアーティストが向かう方向としては必然なのだろうけど、新しい音楽に接した時の驚きも薄れてゆくのは、ちょっと寂しい気もしていた。
 そんな流れから急展開、雑食性のJoe Jacksonの再始動である。
 

Fast Forward
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(New York Sessions)
1. Fast Forward
 クレジットにはないけど、ピアノはほぼJoe自身だと思われる。時代を超えたスタンダードとなるべき、悠然と堂々としたメロディ・ライン。目先の流行りに捉われない、Joeオリジナルのサウンド。自信に満ちあふれたオープニング・ナンバー。



2. If It Wasn't For You
 ちょっとポップめながら、疾走感あふれるビート・ロックになっているのは、盟友Graham Mabyがリズムを引っ張っているから。もう「あ、うん」の呼吸なんだろうね、この2人って。ドラムのBrian Bladeはもっぱらジャズのフィールドで活躍してた人らしいのだけど、今どきのジャズ・ミュージシャンだけあって、ロック系のビートも難なくこなせる人。サプライズはないけど、安心して聴くことができるリズム・セクション。

3. See No Evil
 Tom Verlaineといえば、あの70年代NYパンク・シーンのTelevisionのあの人かと思ってたら、ほんとそうだった。Joe恒例のカバー・シリーズだけど、今回は結構意外なところを突いてきた。
 なので、これまでTom Verlaineは聴いたことがなかったのだけど、Youtubeで初めて聴いてみたところ…、まんまじゃねぇか、これ。Bill Frisellが手慣れた感じでプレイしている情景が思い浮かぶ。

4. Kings Of The City
 珍しく、リズム・ループ使用だけど、アーバンチックなバラードに合っている。80年代を彷彿とさせる、メリハリの効いたナンバー。『Body & Soul』期っぽくて、往年のJoeが好きな人にはズッパマリなはず。

 Bill Frisell - guitar 
 Brian Blade - drums
 Graham Maby - bass 
 Regina Carter - violin

(Amsterdam Sessions)
5. A Little Smile
 ここからはオランダ録音。19世紀から活動しているロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とのセッションを収録。クラシックはほとんど知らないので、調べてみると200年超の歴史を誇る由緒正しいオーケストラ。ポピュラー・ミュージックとの共演はほとんどなかったらしいけど、アカデミックな楽理を学んでいたJoeとの相性は、まぁ悪くはない。
 Joeも完全にアウェーながら、ピアノ一本でオーケストラのサウンドに挑んでいる。



6. Far Away
 ここでゲスト・ヴォーカルを取るMitchell Sinkは、若干14歳の少年だけど、ブロードウェイにも出演歴のある、れっきとしたミュージカル・スター。壮大なドラマの幕間のような曲なので、単体では聴く気はないけど、アルバム単位ではメリハリとして、大きく作用している。
 ストリングス・アレンジもこれ見よがしではなく、控えめかつドラマティック。これまでの経験上、Joeにとってはお手のもの。

7. So You Say
 その6.をInterludeにしたかのような、こちらもドラマティックな小品。どことなく日本人好みなメロディは、ムード歌謡っぽく聴こえる瞬間もあり。布施明あたりが歌ってくれたらハマりそうだけど、さすがにちょっと古いか。徳永かな、今だと。

8. Poor Thing
 このAmsterdam Sessionをコーディネートしたのが、ダブルStefanなのだけど、この2人、もともとは地元オランダのバンドZuco 103の中心メンバー。ブレイクビーツとブラジル音楽のハイブリッド・サウンドをメインとしているのだけど、嫌みにならない程度のラテン・テイストはなかなかクール。ボサノバっぽさがシャレオツ。
 ここではそのラテンっぽさはほとんどなく、完全にJoeのカラーになっている。もともと脱ロック的なサウンドを志向していた時期もあるJoe、いつもと違うリズム・パターンになっても、即座に対応できちゃうところは、さすがベテラン。



 Stefan Kruger - drums 
 Stefan Schmid - keyboards
 members of Royal Concertgebouw Orchestra 
 Mitchell Sink - vocals

(Berlin Sessions)
9. Junkie Diva
 ドイツのセッションなのに、3人中2人はアメリカ人。ベースのGregはアバンギャルド方面で長らくやってた人で、主な共演者がJohn Zone、Tom Waits、Ornette Colemanと、錚々たるディープなメンツ。Earlは基本ジャズの人だけど、Jeff BeckやThe Theともレコーディングしたりなど、こちらも守備範囲の広い人。Dirkは地元ドイツで様々なコンセプチュアルなユニットに顔を出してるギタリスト。なので、ちょっとプログレ臭がある。
 そんなメンツを集めてできたのが、なぜかこんなストレートなAOR的ロック。いやいいんだけど、いい意味でちょっと拍子抜け。メンツで音を聴くのではない、あくまで出来上がった音で判断しないとね。

10. If I Could See Your Face
 と思ってたら次。ノイズ系ギターが延々鳴りまくっている。Joeのオルガンもクラシックっぽい弾き方でプログレ臭バリバリ。なかなかドラマティックな構成となっており、こういったのがやりたかったんじゃないかな、ベルリンでは。
近年、こういった曲には女性ヴォーカルをサブで入れてたりしてたのだけど、ここではJoeが独りで頑張っている。そうだよ親父、できるだけ独りで歌ってくれよ。

11. The Blue Time
 Joeには珍しく、変則アフロ・ビートを使用。大きくフィーチャーされてないので目立たないけど、コード多用のJoeのピアノにはフィットしている。タイトル通り、夜の深い闇を思わせる、佳曲バラード。

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12. Good Bye Jonny
 1930年代ベルリンで流行したキャバレー・ソングとのことだけど、なんで知ってんだ、こんな曲?ご当地ソング的な扱いなんじゃないかと思われる。まぁテクニック云々をどうこうって曲じゃないしね。

 Greg Cohen - bass
 Dirk Berger - guitar 
 Earl Harvin - drums 

(New Orleans Sessions)
13. Neon Rain
 ニュー・オーリンズとJoeとのコラボレーションは全然予想がつかず、これがアルバム一番のクライマックス。もともとヨーロッパ的な視点から第三世界の音楽を加工輸入していた人なのだけど、これまでブルース界隈のアプローチはなかったため、ちょっと意外だった。
 大勢の野太い男性コーラスが入ってること自体、これまでの流れではなかったこと。このキャリアにして、彼の中で何かが変わろうとしているのだろうか。

14. Satellite
 ニュー・オーリンズ・セッションの主軸は、地元のジャズ・ファンク・バンドGalacticが全面的にバッキングを担当。ブルースやヒップホップ・テイストも強い、ほんと何でもありのバンドで、多分このアルバムの中のメンツでは、もっとも知名度が高いはず。まぁ日本じゃ無名だけどね。Donald Harrisonという人は、これはもうメインストリーム・ジャズの第一線で活動しており、リーダー・アルバムも多数リリースしている人。なので、これはかなり贅沢なセッションとなっている。
 これまでのJoeと同じようなギター・カッティングなのに、同じように聴こえないのは、やはり土着性が強いリズムのおかげ。同じようなプレイのはずなのに、色合いが違って見えるのがバンド・マジック。

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15. Keep On Dreaming
 これもいつものJoeと同じコード進行のはずなのに、セカンド・ラインのリズムによって、全然違うテイストに感じてしまう。泥臭いJoeというのもなかなか悪くない。バンド自身も、逆にここまでロックに接近したサウンドはあまりないので、新鮮だったんじゃないかと思う。リズムもそうだけど、Joe自身のピアノ・プレイにタメがあるのも、なかなかの趣き。

16. Ode To Joy
 ラストはあまりしんみりとしないのが、Joeのアルバムの定石。新しいリズム、質感に強く惹かれたのか、ここではJoe、自分の歌は少し引っ込め、Galacticにリードを委ね、楽しそうにキーボードをプレイしている。



 Stanton Moore - drums
 Robert Mercurio - bass
 Jeff Rains - guitar 
 Donald Harrison - saxophone



 各セッションで4曲のみレコーディングということはないはずなので、今後何らかの形でアウトテイクがリリースされると思うのだけど、各パートずつアルバム1枚作れるくらいのマテリアルが残ってたなら、面白い展開になるんじゃないかと、何かと想像は尽きない。
 楽しみだな、こりゃ。



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純度100%のロックンロールなデビュー作 - Joe Jackson 『Look Sharp!』

folder 1979年にリリースされた、Joe Jacksonのデビュー・アルバム。この手のストレートなロックン・ロールには固定的なファンがついているらしく、デビューにもかかわらずそこそこの売り上げ、UKでは最高40位まで上がっている。
 上がっているのだけれど、実はそれ以上に、アメリカではなんとビルボード最高20位まで上がっている。単純に両国人口比率で考えると、ほぼ4倍の開きがあり、しかも順位的にも倍なので、8倍の開き。ちょっと単純すぎる計算だけど、当初よりイギリスよりアメリカで好評を得たことは間違いない。

 1979年デビュー当時のツアー・データがファン・サイトで公開されているのだけれど、推移を見てみると、最初こそ地元イギリスを中心に回っているけど、この年の後半ではアメリカ・カナダが中心となっており、その成果が実を結んだのか、その年の内にアメリカでゴールド・ディスク(売り上げ50万枚以上)を獲得している。
 (当時から)髪も薄くて男臭くてムサ苦しいメンツのUKパンク・ロッカーとしては、大成功の部類に入るんじゃないかと思う。キャリアのスタートからアメリカで好セールスを記録したという点と、シンプルなロックンロール・サウンドという共通項から、当初はElvis Costelloとセットで紹介されることが多かった。

 以前も書いたようにこの人、もともとは根っからのロック/パンクの人ではなく、Royal Academy of Musicという、王立の由緒正しき音楽アカデミーにて、きちんとクラシックを中心とした音楽理論を学んできた人であり、本来ならポピュラー音楽畑の人ではない。クラシック業界から挫折した末にこちら側へやってきた、意に沿わない形でのデビューであり、当時の本人の心境としては、なかなか複雑だったんじゃないかと思われ。
 ほんとは高度な作曲理論を習得していたり、プレイヤーとしても演奏スキルがめちゃめちゃ高いにもかかわらず、敢えてそれを封印してレベルを落とし、パンク~ニューウェイヴ・ムーヴメントの勢いに乗ってデビューしたというのは、Policeとも共通している。
 そういえば、どちらも所属レーベルは同じA&M、何かと共通項の多い人である。
 
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 デビュー・アルバムとは、そのアーティストの今後の方向性がすべて詰まっている羅針盤のようなもの、とよくたとえられるけど、特にJoeの場合、ここに収録されているほぼ半数の曲が、今でもライブの定番レパートリーであり、結果代表曲となっているものも多い。
 特に3枚目『Beat Crazy』までは名曲のオンパレードであり、ここまでのラインナップだけで充分ライブが成立してしまうというのも、スゴイ話。アンコールにチョロっと”Stepping Out”でも歌っておけば完璧だ。

 別にデビュー当時から成長していないわけではない。
 この後Joeは『Beat Crazy』まででストレートなロック・ナンバーを一旦究め、その後はジャズやらラテンやら現代音楽やらを交えた、Joe独自のジャンルレスな音楽を形作ってゆく。それはそれで好評なのだけど、古くからのファンから見れば、ライブの締めやアンコールでは、やっぱり拳を振り上げて”One More Time”がサイコー、というノリになってしまうのだ。
 近年のライブはロック・バンド・スタイルではなく、ピアノ・トリオ編成が多いこと、またJoe自身の体力的な問題もあって、初っ端からトバシまくり、オール・スタンディングとはいかないけれど、興が乗るに連れて、鍵盤を叩きつけ唾を飛ばしまくって熱唱するJoeのテンションは、昔から変わってない。
 
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 アルバムごとに変遷しまくる音楽性のため、一言ではカテゴライズしにくい人なのだけど、一応このアルバムと2枚目までは、ほぼセットと言って良いほど音楽性が似ており、パンク/ニュー・ウェイヴ系のサウンドとして分類されている。まぁ俺個人としてはむしろ、パンクの前にちょっとだけ盛り上がったパブ・ロック系だと思うのだけれど。
 ヴォーカル/ピアノ、ギター、ベース、ドラムという4ピース、ロック・バンドとしての基本、必要最低限のメンバーのみでサウンドは作られており、余計なエフェクト成分が入っていないことが、時代性を超えて通用する音なので、逆にいつまでも古びた感じがないことが、この時期の魅力なんじゃないかと思う。
 時代を象徴する、これ見よがしなモノ・シンセの音色、もう少し歴史を下ると80年代特有のゲート・エコーや、残響音をカットしたバス・ドラなどが出てくるのだけれど、そういった最新鋭のサウンドやトレンドには、昔から関心を持たない人である。このような一貫したサウンド・ポリシーが、ミュージシャンとして、そしてそれ以上に真摯な音楽家としての矜持の正しさが感じられる。

 小手先でいじくり回した音色にこだわるのではなく、きちんとした楽曲を、きちんとした演奏で再現すること。
 そのためには、バンド・アンサンブルを緻密に構成したり、有名無名を問わず、腕の良いミュージシャンと組む、リハーサルは入念に、ライブではいつも真剣勝負、現場での鍛錬によって、さらに演奏・作曲スキルは向上してゆく。
 書いてみれば至極当たり前のことなのだけど、当たり前のことに精力を傾けることは、何においても大事なことだ。
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 デビュー当時の時代背景としては、やはりパンクの全盛期、既成概念にとらわれた旧来のロックを否定・破壊行動に向かったと思われているけど、ファッション的な要素を抜きにして、純粋に音楽的な意義で考えると、正確には原点回帰というニュアンスの方が近い。
 プログレに代表される、冗長で高尚なものになってしまった音楽ビジネスを一旦リセットし、シンプルでコンパクトなロックンロールへのリスペクトというのが、パンク・ムーヴメントの音楽的な成果である。
 そういった現状への不満から、ロンドンの街角レベルで芽吹いたのがパブ・ロック・ムーヴメントであり、それをもっとスキャンダラスに、そして大々的に展開したのが、パンク・ロックの勃興という次第。
 
 で、Joe Jackson、若いうちはメイン・ストリートの音楽をアカデミックな環境で学んでいたため、いわゆるスタンダードな音楽への造詣は深い。深いがゆえ、特に対極的な価値観のもの、先人によってほぼ完成され尽くされたクラシック漬けの人間が、既成概念の破壊をテーマとしたパンクと出会ってしまった場合、どうなるのか。
 強力な拒否反応を示すか、またはそのインパクトに当てられて深みにはまり込むか。その対極の差が広ければ広いほど、比例してその振れ幅も強くなる。

 てっとり早くメジャー・デビューするため、敢えて戦略的にシンプルなロックンロールを選択した、という見方も出来るけど、そうは言っても人間、まったく興味のない事をし続けられるようにはできていない。やりたくないことをやり続けても、どこかにガタがでるか、それともボロが出るかのどちらか。
 なので、まったく下心がなかったわけじゃないけど、それなりにリスペクトはしていた、と考える方が自然である。


Look Sharp! (Remastered)
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1. One More Time
 オープニングは渋めのロックンロール。バックは基本の3ピースなのだけど、驚きなのは、どのパートもサウンドに埋もれず、しっかりディティールが判別できること。デビューしたてのバンドなので、レコーディングにそれほど時間をかけられたわけでもない。
 これはもともとの演奏力、楽器のポテンシャルを最大限に引き出せるテクニック、から来るもの。いくら録音技術が良くたって、下手くそなら意味がない。既にそれだけのスキルを積み上げていたのだ。
 ちなみに、このアルバムからシングル・カットされた3枚目のトラックである。USカレッジ・チャートでは最高17位。



2. Sunday Papers
 引き続き、今でもライブではほぼ定番となっているナンバー。すでにレゲエ・ビートを導入しており、やはり他のパンク・バンドとの差別化が図られている。昔から語られているけど、やはりこのバンドの要はGraham Mabyである。とにかく手数が多いのにうるさくなく、しかも適切なフレージングで曲をリードする。終盤でテンポ・アップしてパーティ・ソングっぽくなるのはご愛嬌。
 ちなみにこれは2枚目のシングル。USカレッジ・チャートでは最高20位、イギリスのデータは見つからなかった。それだけアメリカ主導で人気が出たのだろう。

   

3. Is She Really Going Out with Him?
 三たびライブの必須アイテム・ナンバー。これはJoeもかなりのお気に入りらしく、後年の『Live 1980-86』では様々なヴァージョン違いで3トラック収録しているくらいの別格扱い。この曲も様々なアレンジによって、長年親しまれているけど、この初期ヴァージョンが一番、というファンも多い。
 前曲同様、レゲエ・ビートが一部導入されていることも、エキゾチックなアレンジに一花添えている。
 これがデビュー・シングルであり、アルバム先行という形でリリースされた。UK13位でも充分スゴイのだけれど、アメリカではビルボード総合でなんと21位にチャート・インしている。そりゃ思い入れもあるよな、きっと。



4. Happy Loving Couples
 ちょっとモッズ・ビートの入ったビート・ロック。やっぱりベースだよな、この曲も。ここまでハードな質感のナンバーが続いたけど、ここで少しペース・ダウン。当時のJoeにしてはポップなメロディの、親しみやすい曲。

5. Throw It Away
 前曲が突然カット・アップされ、間髪入れず、Joeのカウントで始まる、疾走感溢れるドライヴ・ナンバー。一番パンクっぽいのが。多分この曲。Joeもここでは本腰を入れ、ピアノを弾きまくり、エコーまでかけている。中盤でのシャウトはどこか”Beat Crazy”を連想させる。
 ここはギターのGary Sanfordが頑張ってリフを弾きまくっている。

6. Baby Stick Around
 ここからB面スタート。
 こちらも性急な8ビートで、やはりライブの定番。盛り上がること必至である、ロカビリー成分もちょっぴり入った、暴力的なビートながら、覚えやすいメロディーが人気の高いナンバー。

7. Look Sharp!
 俺的にはDr. Feelgoodを連想させる、ステージで練り上げられたように演奏し慣れた体も感じとれるトラック。これも定番だよな、ブートでよく聴いてたし。
 ここでのバンドは比較的クール。リズムも走ることなく、スクエアなリズムをキープしている。はっちゃけるのはやっぱり、いつもJoe である。

8. Fools in Love
 こんなにレゲエばっかり入ってたっけ?というのが正直な感想。
 Policeもそうだけど、Joeもまた、当時のレゲエに溢れていたシリアスな部分、じっとりした冷や汗のようなサウンドを展開している。これも定番であり、名曲。
 USカレッジ・チャートでは9位まで上昇。こんなハードなサウンドがウケてしまうのが、アメリカという市場の大きさ、懐の深さである。



9. (Do the) Instant Mash
 これはJoeにしては珍しく、ロックン・ロールではなく、普通のロック。Garyによるオーソドックスなギター・リフが、それを象徴している。中盤でのJoeのハープがまた、中途半端なブルースを演じている。この人の場合、あまりブルースは似合わないし、こういったサウンドなら、Dr. Feelgoodの方がずっとうまい。

10. Pretty Girls
 これも何だかな、普通のロックかな。アルバム制作のためにかき集めたのか、それともサウンドの幅を持たせるため、敢えてこういったベタな曲にも手を出したのか。まぁいいんだけど、俺的にはそれほど印象に残ってなかった曲。

11. Got the Time
 冒頭のベース・ソロがおどろおどろしさを醸し出し、ヴォーカルも何かにせっつかれるような、テンポの速い曲である。一番わかりやすいフォーマットのパンク・ロックである。これも定番なんだよな、ライブの。特にこの曲、パートごとの見せ場がうまく設定されている曲なので、メンバー紹介に使われることも多い。
 USカレッジ・チャートでは11位まで上昇。




 デビューから『Beat Crazy』までは、ほぼブレることもなく、この路線を邁進してゆくのだけれど、しばらくすると他のジャンルに色目を使い始めるのは、これまたアーティストとしては致し方ないこと。ジャズやラテンなど、ポピュラー音楽の枠組みで貪欲に吸収しているうちはいいものの、時代を追うに連れて、バックボーンであるクラシックや現代音楽にも足を突っ込むようになる。
 そうなると音楽性と商業性との緩やかな乖離が進行し始め、下降してゆくセールスと共にJoeの精神状態も思わしくなくなり、遂には90年代に入ってからの活動は地味になって行く。

 この時代はまだそんなことも頭にない、純度100パーセントの純粋なロックンロールである。


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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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