folder Style Councilは実質5年強という短い活動期間ながら、商業的にもクリエイティブ的にも大きな実績を残している。容易に全貌がつかめぬほど大量のリミックス12インチ・シングルをマーケットに放出、いくつかの名曲はヒットチャートでも優秀なセールスを記録した。反サッチャリズムで盛り上がっていた80年代UKロック・シーンの空気を反映して、痛烈な社会批判や労働問題を取り上げた歌詞は、そのチャラいサウンドとのギャップによって、主に若者層の支持を集めた。
 Jam時代より過激かつ直接的になったメッセージやイデオロギーの羅列は、新規ファンの取り込みに大きく貢献したけれど、表層的な変化を嫌い、本質から目を逸らすかつてのファンは、年を追うごとに離れていった。保守的なんだよな、ガチのパンクスって。

 とは言っても、解散から30年経った現在、彼らの実績がクローズアップされるのは、ほぼ最初の2枚『Cafe Bleu』か『Our Favorite Shop』までであり、その後の活動については触れられることも少ない。
 ヒットメイカーとアジテーターとのダブル・スタンダードを実現した前期と比べ、急速にクラブ・シーンへ傾倒したPall Wellerが、黒人音楽へのコンプレックスを露わにした『The Cost of Loving』以降は迷走、それに連れてセールスもガタ落ちになり、自然消滅となったのが、後期のStyle Council である。ざっくりまとめ過ぎたかな。
 なにしろ最後のアルバム『Modernism』なんて、あまりの変節さゆえ、レコード会社にリリースを拒否されたくらいだもの。音楽性に節操がなかったユニットとはいえ、さすがにディープ・ハウスはイメージとかけ離れ過ぎ。営業かける方も困っちゃうよな。

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 初期パンク〜モッズ・サウンドでスタートしたJamは、Paulのクリエイティブ面での覚醒によって、次第にソウル/ファンクのエッセンスが激増、従来の3ピース・バンドでは表現するのが難しくなったため、人気絶頂の中、解散の途を選ぶ。同じ3人編成でも、Policeのようにならなかったのは、プレイヤーとしてのポテンシャルの違いが大きかったから。あっちはだって、パンクの威をかぶったベテラン揃いだもの。
 そんな経緯を経てPaulが立ち上げたのが、Style Councilである。この時点で保守モッズ・ファンの多くは離れていったけど、Paul的にはそれも織り込み済みだった。ここでPaulは、既存のパンク/モッズからキッパリ足を洗い、片っぱしから未踏のジャンルを吸収して、「何でもアリ」の新たな音楽性を開拓していったのだった。そのためには、夜のクラブ活動にも真剣にならざるを得ないわけで。
 根は生真面目なPaul、そっち方面を突き詰めるにも全力である。

 「スタイル評議会」という名前が象徴するように、あらゆる音楽スタイルを吸収・咀嚼し、メジャー・シーンでも受け入れられる商品に加工して幅広く普及させることが、初期スタカンのコンセプトだった。
 痛烈な政治・社会批判や怒りを、性急なビートとラウドなガレージ・サウンドでもって直截的に表現したJam時代のメソッドと違って、80年代の浮ついたムードの上澄みをうまくすくい取り、ボサノヴァやネオアコといった、パッションとは正反対のサウンドでデコレートしていた。「現地調査」と称した夜のクラブ活動によって、時代のトレンドを先読みしたそのサウンドは、Jam時代よりも耳障りよくキャッチーなナンバーが多かったため、彼らに大きな成功をもたらした。
 ただ、そんなソフト・サウンドとは裏腹に、レッド・ウェッジ支援やサッチャー批判など、歌う内容はJamよりはるかに過激で直接的だったため、時に賛否両論を巻き起こすこともある、何かとお騒がせユニットであったことも確か。なのに、パンクの連中って上っ面だけで判断しちゃうんだよな。

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 結果的に「シャレオツな音楽」の代名詞となってしまったスタカンだったけど、何も自らトレンディ路線を推し進めていたわけではない。前述の夜のクラブ活動に影響を受けて、当時はまだマイナーだった初期ハウスやヒップホップ、レアグルーヴなどの雑多な音楽を好んで聴いていたPaulが、「自分たちでもできるんじゃね?」と思いつきで始めたのがきっかけである。それがたまたま、クラブやカフェバー文化とシンクロしただけで。
 Jam末期〜スタカン結成に至る80年代中期というのは、既存のロックを打ち破る存在だったはずのパンクが疲弊、次第に様式化しつつあった頃である。パンクやニューウェイヴの中でも「型」が定まりつつあり、真にプログレッシブなアーティストにとって、ロックというジャンルは窮屈になっていた。
 そんな状況に置かれていたPaulが選んだのが、ロックからの脱却であり、言ってしまえば「ロック以外なら何でもいい」といった覚悟でもって、同好の士であるMick Talbotに声をかけたのだった。

 ある意味、「売れること」を目的としたユニットだったため、「売れ線に走った」という批判は当たらない。だって、そこ狙ってやってるんだもの。そういったポピュラリティの獲得と並行して、より真摯な主張を楽曲に織り込むことによって、彼らはクールな存在であり続けた。
 映像に残された彼らのライブを見ればわかるはずだけど、ライブ・セットやコスチュームはあか抜けて洗練されたものだけど、彼らのパフォーマンスは原初パンク・スタイルと何ら大差ない。汗まみれで客席にツバを飛ばし、全力でがなり立てるPaulの姿から、優雅さを感じることはできない。そこにいるのは、感情のおもむくまま、激情とパッションのみで突っ走る、単なるひとりのミュージシャンだ。

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 『ポップ・グループの告白』という自虐的なタイトルを掲げ、静謐なピアノ・ソロを中心に構成された、クラシカルな組曲のA面。打ち込み率の高いダンス・チューン中心のB面、という正反対の構造を持つ『Confessions of a Pop Group』。これまでより、かなり挑戦的なコンセプトである。
 ホワイト・ファンクに急接近した『Cost of Loving』まではどうにか着いてこれた既存ファンも、多くはさすがにここで挫折した。実際、俺もそうだったし。この後は、人気もセールスも一気に下降の一途をたどる。
 俺も含めて、大多数のファンがPaul に求めていたのは「強い確信」である。どんなジャンル・どんなサウンドであろうとも、そこには必ず彼独自のスタンスや視点があった。根拠はなくとも強い信念のもと、自信たっぷりに「これでどうだっ」と提示する潔さこそが、彼の魅力だったのだ。
 それがここでのPaul 、正直自信なさげである。そりゃ、自信に満ちあふれた奴が「独白」なんてしないよな。前ならもっと、問答無用で強気で推してたはずなのに。

 リリースされてすぐ購入したけど、何度も聴き返す気になれず、早々と売っぱらってしまった記憶がある『Confessions of a Pop Group』。ちゃんと聴くのは、およそ30年振りである。せっかくなので、極力先入観を持たずに聴いてみた。
 フラットな視点で聴いてみると、多分Paul、A面では80年代の『Pet Sounds』 をやりたかったんじゃないかな、というのが俺の印象。「海だ車だサーフィンだ」の印象しかなかった初期Beach Boysのイメージを覆す、躍動感のかけらもない老成したサウンドは、Brian Wilsonの悲痛な叫びを具現化したものだった。
 当時のPaul がBrianほど追い詰められていたのかは不明だけど、Jam時代からずっと、音楽的には順風満帆だった彼にとって、思っていたほど歓迎されなかったソウル/ファンク路線の不振は、いわば初めての挫折だった。絶対的な確信が揺らいだまま、「こんなのはどうかな?」と恐る恐る吐き出す心情吐露は、『Pet Sounds』ほどの求心力を持たなかった。

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 対してB面、不器用でゴツゴツした仕上がりだけど、現場感覚を持ってクラブ活動に勤しんだ成果があらわれて、こちらの方がずっとリアルな響きである。ボトムの弱いシンセ・ビートは80年代ダンス・サウンドの特徴ゆえ、今となっては低音の物足りなさが目立ってしまうけど、実際のクラブ・シーンにかなり接近した、メジャー発サウンドのひとつである。
 スタカンという先入観によって、逆に損してる部分の方が多いサウンドである。情報を隠して匿名でのリリースだったら、評価は違ってたんじゃないかと思われる。

 もし、B面のコンセプトのみでアルバム全体をまとめていたら、後期の評価はもう少し違ったものになっていたかもしれない。まったく別コンセプトのサウンドを強引にひとつにまとめちゃうから、どっちつかずの評価になってしまったわけで、最初っから2枚に分けるなりすれば、まだマーケットも寛大だったことだろう。Paulのソロとスタカンって棲み分けすれば、「まぁこういったのもアリなんじゃね?」という可能性もあったはず。そういった流れなら、『Modernism』のぞんざいな扱いも回避できたんじゃないかと思われる。
 ただ、A面サウンドでまとめるにも、そこにはPaul 以外の絶対的なコンポーザーの存在が必要になる。要するに、彼のそばにVan Dyke Parksはいなかった。そういうことだ。
 明確なコンセプトを立てられぬまま、単に葛藤する内面をさらけ出してしまっただけのA面は、表層的には流麗であるけれど、そこに確信はない。あるのは、ナルシシズムな迷いだけだ。
 その迷走は、ユニット消滅まで続くことになる。


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Style Council
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「Piano Paintings」
1. It's a Very Deep Sea
 Mickによるピアノ、奥方Dee C. Leeと共に丹念に重ねられたコーラス、そして淡々と丁寧に紡がれるPaulのヴォーカル。はるか遠くから奏でられる、波音とカモメの鳴き声。ほぼハイハットのみ参加のSteve White。ほぼメロディだけで構成されているはずなのに、きちんとリズムが立っているのは、やはりこのメンツだからこそ。
 英国人が歌う海は深く、そして空はどこまでも灰褐色で、そして低い。そう、北の海は重く深い。

2. The Story of Someone's Shoe
 60年代から活動しているフランスの老舗コーラス・グループSwingle Singersをフィーチャーした、クラシカルな味わいも深いアカペラ・チューン。出口のない虚無感と乾いたユーモア。英国人から見た『Pet Sounds』史観が如実にあらわれている。

3. Changing of the Guard
 ピアノのエコー感が増しただけで、初期スタカンっぽさ浮き出てくる。厚みのあるストリングスに合わせてか、Dee C. Leeのヴォーカルもやや抑え気味。こうして聴いてみると、リキが入った時のPaulって、ストリングスとも女性ヴォーカルともフィットしない。やはり彼はバンド・セットの方が声が映える。

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4. The Little Boy in a Castle / A Dove Flew Down From the Elephant 
 Mickのピアノ・ソロによるインタールード。同時代的に、坂本龍一タッチを狙ってるかと思われるけど、フレーズのつぎはぎで終わってしまっているのは、やはり向いてないから。逆に、ブギウギやジャズの感性は教授にはないものなので、そこは向き不向きがあるわけで。

5. The Gardener of Eden (A Three Piece Suite) 
 I) In the Beginning
 II) The Gardener of Eden
 III) Mourning the Passing of Time
 10分に渡る3部作という構成になっており、単調なストリングスの1部と3部はまぁどうでもいいとして、Dee C. Leeメインの2部が秀逸。いい意味でリズムを引っ込めたアシッドジャズといったムードで、後半のジャジーな展開はコンポーザーPaul Wellerの面目躍如。
 1部と3部をもう少し丁寧に作って、2部を5分程度にまとめた方がコンセプトもわかりやすかったんじゃないかと思うのだけど、まぁ拗らせすぎちゃったんだろうな。変に小難しいことやろうとすると、大抵は空回りしちゃうのが世の常であって。

「Confession Of A Pop-Group」
6. Life at a Top People's Health Farm
 シングル・カットされてUK最高28位にランクイン。ほぼ打ち込みで構成されたサウンドはDee C. LeeもMickの存在感もなく、ほぼPaulの独演会。レコードではちょうどB面トップ、A面の鬱屈さ地味さから一転して、威勢のいいサウンドはテンションが上がる。

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7. Why I Went Missing
 地味だ迷走していると、何かと評判の悪い後期スタカンだけど、このアルバムの中でも初期を彷彿とさせるさわやかなミディアム・バラード。うねるように絶好調なベースとDee C. Leeのソウルフルさが加わって、シャレオツ指数はかなりのアベレージ。エモーショナルかつフェイク感あふれるファンクっぽさこそが、彼らの魅力であることを思い起こさせてくれるナンバー。でも、そこにとどまり続ける人じゃなかったんだな。

8. How She Threw It All Away
 なので、「インチキ・ソウル風」な彼らを好むのなら、ツボが押されまくりなポップ・ソウル・チューン。サビがまるっきり「September」という指摘は、まぁその通りだと思う。でもいいじゃん、いい曲だし。『The Cost of Loving』も同じベクトルだけど、こっちの方がポップだし。
 シングルとしてはUK最高41位と不振だったけど、あまりに惜しい。



9. Iwasadoledadstoyboy
 ファンキーにひと綴りになってるけど、わかりやすく書けば「I Was A Dole Dads Toy Boy」。シンセ・ビートとサンプリングに負けじと、Mickのオルガン・ソロがなかなか健闘してるけど、でもただそれだけ。曲自体がほぼサビだけ、ワンフレーズでつくられているので、結局エフェクトに耳を傾けざるを得ないのだけど、そのサウンドがあまり芸がない。まぁこういったのをやりたかったんだよね、とお茶を濁そう。

10. Confessions 1, 2, & 3
 クラシカル・セットに挑戦した「The Gardener of Eden」を、今度は通常バンド・セットで再演すると、こんな感じに仕上がる。安心して聴けるアンサンブル。ビッグバンド・ジャズ的なアレンジは、ディーバDee C. Leeのポテンシャルを最大限に引き出す。やっぱ彼女って、メジャー・タッチは似合わんな。こういった憂いを感ずる楽曲でこそ映える声。でも、歓声のSEはいらなくね?それと、どこからが1で2なのか。それはちょっとヤボか。

11. Confessions of a Pop-Group
 ラストは「It Didn’t Matter」の進化形的なクールなシーケンス・ファンク。中盤のブレイクはいつもドキッとさせられるくらいカッコいいのだけど、やっぱ長いよな、これも。リミックス・ヴァージョンでもないのに9分はサイズデカすぎ。





GREATEST HITS
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