この時期に活動していたバンドの例に漏れず、彼らもまたポスト・パンク以降の系譜に分類される。デビュー以前はもっとハードなニュー・ウェイヴ系パンクをやっていたのだけど、80年代に入ってからのファンカラティーナ?ニュー・ロマンティックの隆盛に乗っかって、もともとの資質だったモータウン?フィリー・ソウルのエッセンスを導入、これまでのキャリアをチャラにしてのデビューだった。ただメンバー中に美形キャラ担当がいなかったため、もともとパーリーピーポー的ゲイ・ファッションに適性のあったヴォーカルBoy Georgeを前面に立て、他バンドとの差別化を図った次第。他のメンバーは至ってノーマルな出で立ちだったけど、その極端なコントラストが逆にGeorgeの特異性を引き立たせていた。
ただそのGeorge、メイクは確かにうまいのだけど、そもそもの作りがマッチョ系のゴツゴツした骨格で、しかも身長のわりに頭がデカかったため、他のニューロマ系バンドのような美形キャラで押し通すには、ちょっと無理があった。その異形さはむしろ嘲笑の対象になることが多く、彼のイラストやポートレートはいつも顔面が大きくデフォルメされ、さながらピエロ的な扱いだった。
前年にリリースしたシングル”君は完璧さ”の大ヒットによって火がついてからは、破竹の勢いでスターダムを駆け登り、その人気は”Time”で決定的になった。この時期のシングル攻勢は神曲を連発しており、バンドの勢いが窺える。
山のようなライブや取材、TV出演をこなしながら、そんな過密スケジュールだったにもかかわらず、丁寧なスタジオ・ワークで作り上げたのがこのアルバム。UK1位US2位だけじゃなく、前回レビューしたWham!同様、日本でもオリコン・チャート1位を獲得したのだから、その勢いがわかっていただけるはず。
1984年のオリコン年間チャートは1位がMichaelの『Thiriller』で2位が映画『フラッシュダンス』のサントラのワンツーフィニッシュ、洋楽勢が上位独占している。ほかにもVan HalenやDuran Duranも50位以内に食い込んでいる。別にこの年だけが強かったわけではなく、80年代までのアルバム・チャートは洋楽が結構な割合でランクインしていた。輸入盤を取り扱う店がまだ少なく、国内プレスしか選択肢がなかったこの時代、ラジオでも有線でもテレビでも、あらゆる場所で音楽があふれていた。
80年代初頭の日本のアーティストのほとんどが、フォークやニュー・ミュージックを引きずっていることによって、どこか垢抜けなかったのに対し、彼らを含むブリティッシュ・インベイジョンの連中は、どれもスタイリッシュに洗練され、当時の日本人ではなし得ないキラキラしたオーラをまとっていた。
その代表格がDuran DuranやSpandau Balletらのニュー・ロマンティック勢で、特に「ミュージック・ライフ」での支持が厚く、毎号何かにつけては特集記事やグラビアで露出が切れずにいた。もともとミーハー層のユーザーを対象にした雑誌なので、その辺はニーズが合致してたのだけど、少女マンガに出てくるような美形キャラがどこでどう捻れていったのか、「絶世の美少年にデフォルメされた彼らが同性愛に走ってメンバーとイチャイチャする」といった内容の同人誌が出回るようになり、それが今に繋がる腐女子のルーツになったのは、また別の話。
「シンセ・サウンドをベースとして、のちのユーロビートにも繋がる性急なBPMビートに乗せて、小粋なステップを踏みながらプレイする」という基本フォーマットのサウンドのため、一部のヒット曲を除いてはあまり顧みられる機会も少ないニューロマ勢だけど、まだ洋楽コンプレックスの強かった日本においての人気は絶大だった。後になって聴いてみると、ダイナミック・レンジの狭いチープなサウンドにはアラが目立つことも多いのだけど、当時はこれが最先端とされていたのだ。
そのDuran Duranも、全盛期は嬉々としてお子様向けポップ・ソングを垂れ流していたのだけど、サイド・プロジェクトのPower StationとArcadiaでの活動を経て、本格的なロック・サウンドを目指そうと覚醒した。メンバー・チェンジや脱退が相次いだことを契機として、ヒット・シングル中心の活動からオーソドックスなロック志向へと大きくシフト・チェンジした。すぐに結果は出なかったけど、地道な活動がバンド・イメージの変化に寄与し、いまでは安定したポジションを手に入れている。でもこの頃はそんなことには無自覚な、ただのチャラ男集団に過ぎなかったけど。
「全世界を相手にするにはちょっとムリがあるけど、まだ洋楽コンプレックスが根強く残ってる日本だったら、なんとかなるんじゃないか」と踏んだのか、80年代は日本での活動に大きくウエイトを置いたバンドも少なからずいた。すでに世界を相手にしていたはずのPoliceも日本語ヴァージョンのシングルを出していたし、特にほぼ日本での活動がメインだったG.I.Orangeなんて、しょっちゅう来日していた。外タレのくせに「夕焼けニャンニャン」にも出演していたりして、実に幅広い活動ぶりである。
ていうかお前ら、何がしたかったんだ。
後に日本語を交えた”戦争のうた”という、まんま脳天気なプロテスト・ソングをリリースしたり、あのDavid Bowieも出演していた『焼酎・純』のCMに出演するなど、日本での露出も高かったCulture Club、てかGeorge。
奇妙かつコミカルにデフォルメされたイラストは、マンガや週刊誌でも取り上げられることが多く、音楽に興味のない小学生でも存在くらいは知られているくらいだった。興味がなかったとしても、”カーマは気まぐれ”のフレーズ「カーマカマカマカマ」は気軽に口ずさめるチビッ子は多く、それだけお茶の間への浸透度は高かった。
ロックの世界ではBowieをルーツとした「男のお化粧文化」は浸透していたけど、80年代初頭において、男のメイクはまだキワモノ的扱いだった。YMOや忌野清志郎らに顕著なように、爬虫類的な物珍しさ、どこか腫れ物に触るような態度で接するのが一般的だった。
そんな中Georgeのファッションは、自身ではスタイリッシュにキメているはずなのだろうけど、そのアンバランスな体型とのコントラストがどこか滑稽で、スキが多かった。身近にいればキモいけど、傍目で見る分には親しみやすくわかりやすいという、ある意味貴重なキャラクターを有していた。
そんな彼らの音楽性が注目されたのは、もっと後の話。ティーンエイジャー向けのお手軽ダンス・ポップが主流だったニューロマ勢の中では、ソウル/ファンク・テイストが強かったため、うるさ型のリスナーでもCulture Clubだけは別格という人も多かった。とは言ってもちょっと恥ずかしさもあって、堂々と公言する者は少なかったけど。
実際、このアルバムもしっかり練られたサウンドを展開しているのだけど、当時はビジュアルの奇抜さばかりが先行して、そこまで論じられなかったのが実情。普遍的なポップスとして優秀なのはもちろんだけど、ほぼバンド自身によるサウンド・メイキングの妙はもっと評価されてもよい。
彼ら同様、現役当時は「売れ線狙いのお子様ポップ」と揶揄されてたけど、後にリスペクトするアーティストが続々名乗りを上げたことで再評価の機運が高まったのが、T.Rex。彼ら、ていうかMarc Bolanも全盛期はシングルがバカ売れしたことによって「ガチャガチャしたグラム・ポップ」の烙印を押されていたけど、彼の死後は「伝説のポップ/ロック・アーティスト」としての評価が決定的となり、今でもコアなファンが増殖し続けている。当時はティーンエイジャー向けの他愛のないポップ・ミュージシャン的扱いだったけど、その影響を受けたティーンエイジャー達が楽器を手に取るようになってアーティストとなり、Bolanをリスペクトした作品を聴いたリスナーがそこからまた影響を受けて、さらにルーツを遡ってパイオニアであるBolanに行き着き…。好循環による連鎖によってエッセンスが脈々と受け継がれてゆくことは、個人としてのリターンは少ないだろうけど、アーティストとしては幸福な状況である。
でも今のところ、「Culture Clubに影響を受けてバンドを始めました」というアーティストは聞いたことがない。俺世代のDNAには確実に残っているはずなので、有形無形でも影響は受けているはずなのに。
やっぱ言いづらいのかな?
どれだけ絶頂のアーティストでも必ずピーク・ハイのポイントがあり、誰もがみな永遠の右肩上がりではない。ブリティッシュ・インベイジョンによる追い風の影響もあって、この時期の彼らが抜きん出た人気と実力をを併せ持っていたのは事実。他のニューロマ系アーティストと比べても、楽曲のクオリティがハンパないレベルである。キャッチーで売れ線にもかかわらず、しっかりとスタンダードとして残っているのは、やはりこの時期の彼らのポテンシャルがMAXだった証拠である。
多分10年後20年後でも充分通用する、永遠のポップ・チューンたち。
誰だ、「80年代は空白だ」って言ったのは。
1. Karma Chameleon
初期モータウンをイメージさせるポップ・ソウル・ナンバー。いい感じでハーモニカも入ってるし。US・UKともにチャート1位を獲得。他16カ国でもナンバー1を記録している。トップ10ヒットまで集計したら、それはもう星の数ほど。アメリカでは年間チャート1位を獲得している。
見かけによらずGeorge のヴォーカルはマニッシュな声質なのだけど、ソフトなコーラス・アレンジとのコントラストが絶妙にマッチングしている。
当時、猫も杓子も導入していたシンセ機材をほぼ使わず、バッキングは手堅くドラムの音色もオーソドックス、ムダなオカズも入れずタイトなリズムに徹している。そんなサウンドの中でGeorgeはクールかつ丁寧に歌っている。
80年代が産んだ良質のマスターピース。
2. It's a Miracle
大ヒット・シングルに隠れがちだけど、これもニュー・ウェイヴとモータウンとの幸福な巡り合わせによるナンバー。ちょっと軽めのファンク・ビートが重くなくて心地好い。Jon Mossのドラムはアタック音が強いので、変に技巧を凝らしてしまうと、逆にクドくなってしまうので、このくらいのリズム・アレンジがちょうど良い。
『Colour by Numbers』からは5枚目のシングル・カットだったため、チャート的にはUS13位UK4位とスマッシュ・ヒットで終わったけど、それでもリリースから1年も経ってからのシングル・カットでもここまでチャートに食い込んでいるのだから、当時の人気のほどが窺える。
この曲に限らず、アルバムに全面参加しているのが女性バック・ヴォーカルのHelen Terry。めっちゃソウルフルなその歌声は、時にGeorgeを凌駕するほどで、グルーヴィー感ハンパないレベル。Incognitoよりはるか前にアシッド・ジャズの世界観を創り上げている。
ポップ路線からこのサウンドにうまくシフトしてゆけば、大ヒットは望めないけど息の長い活動を続けられたんじゃないかと思う。
3. Black Money
こちらはメロウなR&B調ナンバーに仕上げている。しっとりムーディーな隠れキラー・チューン。前曲同様、Helenが随所で吠えまくっている。
こういった曲を聴いていると、80年代UKアーティストの多くがIsley Brothersの影響を色濃く受けているのがわかる。Wham! もそうだけど、70年代のIsleyのまんまじゃんこれも。ただ以前も書いたと思うけど、Isley特有のファルセットが苦手な人にとっては、男要素が強く野太いGeorgeの声の方がメロディ・ラインに説得力が出て聴こえる。
4. Changing Every Day
鍵盤主体で作られたベーシック・トラックを発展させて作られたと思われる、ミドル・テンポ・ナンバー。こうしたジャジー・テイストのサウンドは、Style Councilに代表されるように、一時UKで大流行していた。この辺が後のアシッド・ジャズ・ムーヴメントに流れてゆくのだけど、それはもうちょっと後の話。
歌謡曲テイストも入ってるマイナー・コードは、日本人にも馴染みやすいサウンド。ちょっと切ない間奏のサックスが郷愁を誘う。アップ・テンポでもなくバラードでもない、こういった難しい曲もきちんとまとめてしまえるのは、やっぱバンド・コンディションが良好で、脂が乗っていた証拠。
5. That's the Way (I'm Only Trying to Help You)
A面ラストということで、ここは敢えてベタなバラード。ほとんどHelenとのデュエット状態。
後に彼女もソロ・デビューを果たし、最初こそいいスタートを切ったのだけど、次第に影も薄くなり、リリ-スも途絶えてしまった。サポートではイイ味出してはいても、ソロ・メインで活動するというのは、やはり具合がちょっと違ってくる。やはりGeorgeとのコンビネーション、それと当時のCulture Clubの作り出すサウンドが一番相性が良かったのだろう。
6. Church of the Poison Mind
B面トップはソリッドなドラムがリードするアップ・テンポ・ナンバー。アルバム先行シングルとしてリリースされ、UK2位US10位の好発進。こちらもアシッド・ジャズのルーツ系とも言えるほどソウル・テイストが濃く、よってHelenも大活躍。レアグルーヴ好きの人ならツボにはまるだろうけど、売れ過ぎちゃったせいもあって、そこまでの再評価に至っていない。通ぶってWorking Weekに「イイね! 」するより、素直にこちらを聴いてみてほしい。あまりのクールなグルーヴ感にぶっ飛ぶから。
7. Miss Me Blind
USでは6位まで上昇したのに、なぜかUKではシングル・カットされなかった、ニュー・ウェイブの香りの残るポップ・ロック・ナンバー。間奏でエフェクトの聴いた重いギターが入ったり、彼らの中ではソウル色が薄く、ややロック寄り。ギターのカッティングはファンク入ってるけど。日本でもシングル・カットされてるので、俺世代には馴染みが深い。
この曲でバック・コーラスを担当しているのが、かつてJody Watleyと活動を共にしていたJermaine Stewart。Shalamarのオーディションに落ちて一時は腐ってたけど、ここで一気に脚光を浴び、ソロ・デビューを果たすまでに至った。エイズによる短命が惜しまれるシンガー。
8. Mister Man
かなりポップ寄りだけどレゲエ・ナンバー。メロディはマイナーなので、その対比はちょっと面白い。バンドとしてのポテンシャルは最高潮だったため、いろいろなサウンドを試してみたくなったのだろうけど、まぁこのアルバムの中ではちょっと地味。曲順的にもあまり注目されないポジションだしね。Culture Clubというブランドを抜きにすれば、良質の80年代ポップ。
9. Stormkeeper
再びレゲエ・ナンバーが続く。ニュー・ウェイヴ~ポスト・パンクの連中はダヴ~レゲエとの相性が良いので、特にリズム隊はこういったサウンドに傾きがち。こればっかりだとヒット性が薄くなるので、アシッド・ジャズの原型的なサウンドの方がヒット性は強く、バンド運営としては正しい判断。
ただこういったプレイヤビリティの強いナンバーもやりたくなってしまうのは、ミュージシャンとしては避けられない。ラス前の息抜きとしては最適な曲順。
10. Victims
3枚目のシングル・カット。ここだけ急に音が分厚くなり、同年代サウンド的にドラマティックなサウンド。UKでは3位まで上昇したけど、USではシングル・カットされなかった。こういった大味なバラードはUKアーティストには向かず、アメリカ勢の方がうまい。俺的にも彼らにこういった方向性は求めていないので、正直「ふ~ん」といった印象。一体、何がしたかったのか。
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