1988年リリース、ジミー・ペイジの実質ソロ・デビューアルバム。US最高26位UK最高27位と、どっちも似たようなチャート・アクションで終わっている。オーストラリアやカナダ、スウェーデンなど、他の国もなぜか揃えたように、ほぼ20位代に収まっている。
この年のビルボード年間チャートを見てみると、トップ3がジョージ・マイケル、映画「ダーティ・ダンシング」のサントラ、デフ・レパードとなっている。もう少し経てば、オルタナ/グランジ勢の台頭してくるのだけど、この時期のロック系は世代交代前の息切れ甚だしい。
なので、トップ20内に入っているロック・バンド系も少なく、6位にガンズ、10位にエアロ、19位ホワイトスネイクという程度。目新しいのはガンズぐらいだけど、でも彼らも旧来ハード・ロックの流れだしな。
ちなみに、ペイジの盟友ロバート・プラントは、この頃ソロが絶好調、ギリ20位にランクインしている。もっと下位を見ると、ドッケンやL.A.ガンズ、シンデレラやグレイト・ホワイトらL.A.メタル勢ががんばってたみたいだけど、今も昔も興味ないから、よぉわからん。
ちなみに、100位は俺の好きなプリンス『Lovesexy』。当然だけど、『Outrider』は圏外。全米ツアーも比較的真面目にやってたはずなんだけどな。
日本のチャート・アクションは見つからなかったのだけど、おそらく渋谷陽一の猛プッシュがあったからか、レコード会社の力の入れようは結構なものだった記憶がある。大通りの玉光堂入り口でワーナー洋楽のキャンペーンやってて、このアルバム買った時に、アルバム・ジャケットがプリントされたTシャツをもらったんだった。アレどこにしまったんだろ。
厳密に言えばペイジ、ZEP解散後にソロで映画『Death Wish II』のサントラを手掛けている。いるのだけれど、ペイジ色をゴリゴリ押し出しているわけでもない。
しかもこの映画、70年代にスマッシュ・ヒットしたチャールズ・ブロンソン主演「狼よさらば」の続編という体ではあるけれど、実際はブロンソンにあやかっただけのB級アクションであり、ペイジとの関連がよくわからない。
ZEP解散の煽りで収入が激減したマネージャー:ピーター・グラントあたりが、日銭欲しさに安請け合いしたか。小銭もおろそかにしないペイジもまた、片手間で引き受けちゃったのか。どちらにせよブランド・イメージ的には、受けるオファーじゃなかったよな。
ZEP解散時で36歳のペイジ、まだ創作意欲が衰えるはずもなく、第2のキャリア形成を真面目に考えていた。このサントラ仕事以外にも、目立ったところでは、時を同じくイエスを解散したクリス・スクワイアとバンド結成に動いた結果ポシャったり、元バッド・カンパニー/クイーンのポール・ロジャースとスーパー・バンド:ファームを結成して2枚アルバム出したけど、ヒットしたのかどうかウヤムヤのうちにフェードアウトしたり。
ネームバリューで押し通すゲスト出演や客演以外にも、おそらく世に出ていないプロジェクトやオファーも無数にあると思われ、そうなると、ペイジがどこまで覚えているか。多分、忘れちゃってることも多いんだろうな。
ハニードリッパーズって、謎のプロジェクトもあったし。アレは多分、レコード会社主導の企画モノだったんだろうな。思いのほか売れたけど。
で、セールスもそんなに良くない、っていうか関与していたこともあまり気づかれない、そんな『Death Wish II』をなかったことのようにしたペイジ、やっと本格的なソロ・プロジェクト始動を決心する。ただ、まだ心持ちだけで、具体的に何かするわけではない。
「伝説のバンド」ZEPの元リーダーとして、中途半端なモノは出せない。世間を震撼させる、高いクオリティと新機軸、強いインパクトが必要なのだ。
一応、レコード会社には「2枚組にするつもりだ」とハッタリかました。この時点ではもちろん、手元に何かあるわけでもない。
ただ、ディレクターの期待値を上げることはできる。往年の名作『Physical Graffiti』を夢想するのは勝手だし、良い気分にさせることで、予算も多少多めに引っ張れるという計算もある。
一時代を築いたロック界のレジェンドから見れば、レコード会社は限度額∞のATMに過ぎず、ましてやディレクターなんて、単なる小間使い以上の存在ではなかった。なので、スタッフサイドからコントロールしたりアクションを起こしたりするなど、もっての外だった。
何しろペイジ、自前でスタジオを持っているため、ディレクターが進捗管理できるはずもない。たまに短いフレーズやリフを試したりしてるっぽいけど、それもどこまで形になっているか。
上から問い詰められたスタッフが、ようやく決死の思いでお伺いして見ると、悪びれる様子もなく「デモテープ盗まれた」って。「…まだ何もやってないなコイツ」って思いつつも、それを面と向かって言えるはずもなく。
そんなこんなで時は過ぎ、さすがにペイジの威厳も通じづらくなってくる。そんな中、ロバート・プラントが一曲ゲスト参加してくれるメドがついたので、やっと本腰を入れることになる。
当初のコンセプトは、ZEP以降のビジョンを提示するはずだったのだけど、営業戦略的にプラントがいる・いないとでは、商品価値がまるで違ってくる。まぁ成り行きで再結成、もしくは新ユニット結成って流れの方が、レコード会社もファンも喜ぶし。
ソロが好調なプラントは渋るかもしれないけど、スタジオに入れてしまえばこっちのもの。とにかく褒めておだてて「もうワンテイク」「もう一曲」って引き伸ばせば、あとはどうにかなるんじゃね?と。
「おそらく再結成を持ち出してくるに違いない」と警戒するプラント、単に昔のよしみでお付き合いするスタンスは微塵も変えず、ほんとに一曲だけでスタジオを後にしてしまう。客観的に見ても、この時点でペイジに肩入れしても、プラントのメリットはあまりない。
強引に事を進めて、ここでプラントとの関係性をおじゃんにするのは得策ではないと判断したペイジ、とりあえずプロモーションのネタができただけで良し、と思うことにする。プラントのセッションを軸にして、本格的にリズム・セクションと一緒にデモテープ作りを開始する。
想定以上のスロー・スタートに加えてリリース・スケジュールが前倒しされたことによって、当初の「2枚組」「新機軸」というコンセプトを練る時間がなくなってしまう。今からパーマネントなバンドを結成する余裕もなく、ペイジ自ら歌う選択肢もなかったため、客演に頼らざるを得なくなる。
自薦他薦いろいろなヴォーカリストを試してみるけど、どうもみんなピンと来ない。それなりに名実併せ持つ者ばかりのはずなんだけど、どうしてもみんなプラントみたいになってしまう。でも、どれも多かれ少なかれZEP成分入っている曲ばかりなので、そんな唱法にならざるを得ない。
9曲中7曲のトラックのドラム、ジェイソン・ボーナムが叩いている。プレイ・スタイルがペイジのお気に入りだった、というより、客寄せパンダ的な意味合いの方が多かったと思われる。
この時点でのジェイソンは、まだ「ボンゾの息子」以上のものではなく、プロとしての実績はほとんどなかった。主にペイジの後ろ盾を借りた仕事がほとんどだったため、ほぼ言いなりだった。
なので、どのプレイもボンゾっぽいテイストになってしまう。また結構サマになってるんだコレが。
そういう意味で言えばペイジ、プレイヤーの特性を的確に捉えた優秀なプロデューサーではある。まぁ自分自身を客観的に見れない分、ZEP寄せを回避できなかったのだけど。
せめてジョン・ポール・ジョーンズにでも声かけておけば、ブルース/ハード・ロック以外のテイストも足せたのかもしれないけど、多分断られたんだろうな、お互いメリットないし。プロモーションするにも、彼じゃキャッチコピー的に弱いしな。
そもそもの話、ペイジ/ZEPのファンが新機軸を求めていたかといえば、それもちょっと違うわけで。当初の構想をチャラにして現実路線で行くと、初期ZEPのブルース/ハード・ロックにフォーカスしたサウンド・コンセプトに行き着く。
ただ、そっくりそのまんまじゃ、さすがにレコード会社も難色示したりするので、一応は80年代のサウンド・プロダクトも取り入れている。「単なるZEPのコピーじゃないっ」というエクスキューズを入れるため、伏線を張ることは必要なのだ。
ギター・プレイや音処理など、いろいろ求めるとキリがないけど、少なくとも「ジミー・ペイジのアルバム」をあらかじめ想定していた層にとっては、充分期待に応える仕上がりにはなっている。少なくとも、日和って半端なAOR/フュージョンに逃げるより、クリエイターとしては誠実な対応である。
ギタリストの技量の尺度が速弾きで語られていた時代にありながら、テクニックやテクノロジーに頼らず、悠々たる横綱相撲を披露した勇気は、もう少し評価されてもいい。「古くさい」だの「泥くさい」だの、そういう批判は見当違いなのだ。
…なんか80年代ロキノンっぽい感じになっちゃったな。
1. Wasting My Time
アラン・パーソンズ・プロジェクトのレギュラー・ヴォーカリストとして知られているジョン・マイルズとのハードロック・チューンでオープニング。80年代らしくトリートメントされたクリアな音質がミスマッチだけど、ラジオでのエアプレイを考えると、当時はこれで正解。
ゴツゴツしたZEPサウンドを時流に合わせて、うまくヴァージョンアップしている。シングル切ってもよかったんじゃね?と勝手に思う。
2. Wanna Make Love
引き続きジョン・マイルズ、こちらは往年のZEP成分てんこ盛り。ヴォーカルもプラントに寄せている。っていうか、このバッキングに立ち向かうなら、あのシャウトが必要になる。
『II』や『III』を彷彿とさせる泥臭さは往年のファンも納得せざるを得ない。中盤の危なっかしいギター・ソロも、これはこれで味がある。変にピッチ調整して無難にまとめるより、このはみ出し具合こそがペイジ=ZEPの本質だったのだな、と首肯。
3. Writes of Winter
多分タイトル通り、冬に作られたと思われるギターインスト。「Black Dog」を彷彿させるプレイ。
80年代メタルっぽくクリアで分離の良い音がやや残念だけど、変にテクニックに走らず走れないペイジのハード・ドライビングなプレイをソリッドにまとめている。グラミーのベスト・ロック・インストゥルメンタルにノミネートされたのも納得。
4. The Only One
ここでようやくプラント登場。お待たせしました実質上のメイン・トラック。
名曲「Rock and Roll」を想起させる、アップ・テンポなハード・ロック。シンプルなアンサンブルによって、2人のインタープレイが引き立っている。
『Ⅳ』のアウトテイクのブラッシュ・アップと言われれば、思わず納得してしまうくらいの出来。「なんだ、やればできるじゃないの」と外野は思ってしまうけど、このテンションでフルアルバムはキツいんだろうな、お互いに。
5. Liquid Mercury
『Physical Graffiti』以降の、ちょっと構成に凝り出した頃のサウンドっぽいインスト・ナンバー。ペイジ以外の演奏がもっとキャラ立ちしていれば、もっとドラマティックな長めの組曲へ発展させることも可能だったのだけど、まだジェイソン駆け出しだしな、しゃあない。
消化不良なリズムを背負って、「ちょっとがんばらなきゃ」と気負ったのか、凝ったフレーズや技を奮発している。結果的に、ペイジのポテンシャルが限界近くまで引き出されている。ピンチをうまくチャンスに変えてるな。
6. Hummingbird
ここから3曲、『Death Wish II 』でも共演したベテラン・ヴォーカリスト:クリス・ファーロウを迎えている。名前は知ってたけどよく知らないファーロウ、欧米ではどうやら重鎮らしい。
演奏スタイルはスロー・ブルースで、ヴォーカルは泥くさいソウル・テイストという、あまりないタイプの曲。一回聴くと忘れそうにない、そんなアクと圧の強いヴォーカル。
なので、主役であるはずのペイジの影はちょっと薄い。おそらく同世代であるはずだけど、やはり手練のベテランはあなどれない。
7. Emerald Eyes
ここでインターバル的なインスト。ここでペイジ、初めてアコギを手にする。エフェクトでごまかせない分、ちょっと不安だったけど、イヤ普通に味わい深い。
80年代後半にこのスタイルを持ってくるのは、なかなか勇気がいるか、はたまた何も考えてないか。多分、後者だ。
「俺は俺のやり方でやるぜ」って姿勢が感じられる。そんな俺様イズムでありながら、ギターの音色がマジで綺麗。
8. Prison Blues
再びファーロウ登場。タイトル通り、コッテリ濃厚ブルース。ペイジのスライド・ギターが火を噴くぜ。
「You Shook Me」みたいなイントロで始まり、6.ではファーロウにやや押され気味だったところを、ここでは充分拮抗している。互いの見せ場を作りつつ、ほぼジミー・ペイジ・オンステージ。リサイタルって言った方がハマるかもしれない。
80年代テイストのクリアな音質も何のその、時代性をまるっきり無視したセッションからは、バチバチな緊張感が漂っている。
9. Blues Anthem
感傷的なファーロウのヴォーカルが印象的な、アルバムのラスト・トラック。ギター・シンセまで引っ張り出してきて、ドラマティックなフィナーレを演出している。
案外、この曲が最もバランス良く構成されているんじゃないか、と。オーソドックスなスロー・ブルースではあるけれど、締めはベタな方が後味も良い。

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