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  かつては小学生がメインユーザーだったガチャガチャも、おそらく少子化もあってか、対象年齢も客層も、深く広くなりつつあって久しい。どこの誰が惹かれるのか想像できないニッチなモノから、ほぼ縮小模型のような高クオリティのミニチュア・モデルも含め、毎月何百もの新アイテムが発売されている。
 あれだけ多種多様なラインナップだったら、誰であってもどれかひとつくらいはツボにハマってしまうもので、俺もカメラやオーディオ、楽器や家電のフィギュアをいくつも集めていたりする。つい先日、発売されたKORGレトロ・シンセのガチャをコンプするため、北海道の中途半端な田舎のイオンモールで、100円玉握りしめて10回くらい回したりして。
 そんなチョロいアラフィフ親父〜それ以上の世代に狙いを定めたのであろう、ビートルズのアルバム・ジャケットを加工したピンズが、去年発売された。えぇ、もちろん回しましたよ『Rubber Soul』と『Revolver』出るまで。
 デヴィッド・ボウイは『Low』『Heroes』『Ziggy Stardust』希望だったのだけど、ことごとく違うのしか出ないので、潔くあきらめた。その後もストーンズとキッス、エアロスミスやボン・ジョビが続いたけど、そんなに思い入れもないのでパス。
 日本じゃあまり人気ないはずのザ・フーを店頭で見た時は、一瞬オッと思ったけど、これもパス。さすがに売れなかっただろうな、と勝手に推測。
 ザ・フーより日本で名の知られているバンドはいくらでもいそうなものだけど、ライセンス関係でいろいろあるのだろう。イメージに沿わないだのエージェントがふっかけてくるだの、大人の事情がついて回るのは、どの業界にだってある。
 で、シンガー・ソングライター系で初のリリースとなったのが、お待たせしましたビリー・ジョエル。主要アルバムはほぼ網羅されており、まさしく俺世代、リアタイで聴いていたアラ還周辺をカモとしたアイテム登場である。
 長らく幻のデビュー作とされていた『Cold Spring Harbor』はじめ、出世作『Stranger』や今回の『An Innocent Man』もしっかり押さえられている。ただこの3枚、どれもモノクロ・ジャケットなので、見た目のインパクトはちょっと物足りない。細部までしっかり表現した、こだわりのコレクターズ・アイテムと受け止めた方がよい。
 欲を言えば、俺が初めて買った『Songs in the Attic』を入れてほしかったのだけど、これはスタジオ・オリジナルじゃなくてライブだったためか、除外されている。カラーだから映えるんだけどな。
 同じく良デザインの『ビリー・ザ・ベスト』、これは日本でもバカ売れしたので、強引にねじ込んでも良かったんじゃないか、と。余計なお世話だな。
 音源販売でかつてのような利益を生み出すことが難しくなったこのご時世、あの手この手のキャラクター・グッズへシフトチェンジするのは、ビジネスの常道である。日本人の特徴である、精巧な細工物へのこだわりと収集・分類癖双方を満たす、しかも1回500円とリーズナブルなので、いいことづくめ。
 俺的にはデザインが秀逸なジャズ名盤やモータウン系をシリーズ化してほしいのだけど、今後の売れ行き次第だろう。ディランやジョン・レノンあたりは、アイテム数も多く、そこそこ売れそうだけど、許諾が難しいかな。

 1983年夏にリリースされたこのアルバム、日本でも結構売れていた記憶なので、本国アメリカなら当然1位だった、と勝手に思っていたのだけど、実際は最高4位だった。当時で700万枚とバカ売れしていたのに、まだ上がいたのか。
 1983年のビルボード・アルバム・チャートを調べてみると、この年は2月までメン・アット・ワークが1位独占、その後は6月までマイケル・ジャクソン 『Thriller』、以降はほぼポリス『Synchronicity』の独壇場。年末でまた『Thriller』が奪還、という推移。
 前年82年のリリースだよ『Thriller』って。ほんとモンスター・アルバムの異名にふさわしい。
 ついでなので年間チャート。リリース時期の関係なのか、83年ではチャートインしておらず、次の年84年からカウントされている。
 1位はなんと、前年に続き『Thriller』。足かけ3年だよ、モンスター超えのクリーチャーだよもう。
 そして意外だったのが2位、なんとヒューイ・ルイス&ザ・ニュース 『Sports』。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」挿入歌「The Power of Love」の相乗効果と勘違いしていたのだけど、このアルバムには未収録。それ以前に「The Heart Of Rock & Roll」でブレイクしてたんだった。シンプルでノリのいいロックンロールは、新旧問わずアメリカ人の大好物だ。
 3位は、日本でも当初は良質なR&Bポップ・シンガーとして、のちにデフォルメされたモノマネで知られていたライオネル・リッチー 『オール・ナイト・ロング』。インパクト濃いルックスとムーディーなポップ・ソングとのギャップが印象的だったけど、こんなに売れてたんだリッチー。
 で、やっと4位に登場『An Innocent Man』。3作ともキャリアハイか出世作なので、中堅のビリーにとって、ちょっと分が悪い。
 ちなみにUKでは、こちらも年間最高2位。「やっぱ『Thriller』最強だよな」って思っちゃったあなた。実は大間違い。
 1984年の大英帝国大衆音楽番付を制したのは、なんとライオネル・リッチー。あんな斜め読みしかできない皮肉屋連中ばかりの国で、なんであんな人畜無害なスムース・ポップが刺さったんだ?おそらく人前ではバカにされそうなので、大っぴらには言えないけど、家でコッソリ聴いて涙していた英国人が多かったんじゃね?と勝手に思っている。多分、きっとそうだ。
 そして、ここ日本でもオリコン最高3位、50万枚以上のセールスを記録している。ちなみにこのアルバム、日本で最初にCD化された洋楽なのだけど、今では同時リリースされた邦楽『ロンバケ』の方を記憶している人の方が多い。
 つくづく、損な立場に追いやられたアルバムである。

 『An Innocent Man』の前作『Nylon Curtain』は、ビリーにとって大きなターニング・ポイントとなる作品だった。大都会ニューヨークの孤独と葛藤、ささやかな幸福を繊細なピアノで綴る吟遊詩人は、ベトナム戦争を経て、次第に右傾化してゆくアメリカへのジレンマを赤裸々に訴えた。
 「アメリカ/ニューヨーカーの良心」と称されたポップ・スターのメッセージ性、そしてささやかなサウンドの実験的アプローチは、批評家やメディアではおおむね好評を得た。ただ、「素顔のままで」「ロックンロールが最高さ」のようなわかりやすいキラー・チューンがなかったため、セールス的には伸び悩んだ。
 この頃のビリーは、バイク事故によるケガでレコーディングが中断したり、デビュー前から苦楽を共にしてきたマネージャー兼妻との離婚があったり、何かと踏んだり蹴ったりの状況だった。どちらも性急なスターダムの代償であり、巡りめぐった因果もあるのだろうけど、「負の感情をダイレクトに反映させた」っていうのは単純すぎるけど、あながち間違ってない気もする。
 そんな反省を活かしてか、『An Innocent Man』は一転して、ユーザーライクな作品になる。音楽家としての彼のルーツである、1950〜60年代のドゥーワップやソウル、オールディーズ・ポップスへのリスペクトを強く打ち出している。夢と希望に満ちあふれた時代のアメリカへのオマージュとして、シンプルでストレートなパワー・ポップと、心象風景や恋愛の機微を丁寧に表現したバラードで占められている。
 アーティスト・エゴよりエンタメ性を前面に押し出した『An Innocent Man』は、世界中でも好評を博した。ただ、行き場を失ったエゴが消え去るわけではない。
 それは静かに、澱のように溜まる。

 クリエイティヴを追求した『Nylon Curtain』は、アーティスト:ビリー・ジョエルとして、必要な通過儀礼の産物だった。ただ、マーケットの反応は微妙だったため、早急な軌道修正を図らざるを得なくなる。
 市場のニーズを的確に捉えた『An Innocent Man』の大ヒットによって、これ以降のビリーはエンターテイナー色を強めてゆく。繊細な都会的センスとニューヨーカーの感情の機微を巧みに表現していたピアノ・マンの面影は、遥か深い靄の向こうへ行ってしまった。
 このまま割り切って、エルトン・ジョン路線に全振りしたって、誰も非難しなかったはずなのに、真摯なアーティストとして、常にバージョン・アップしなければならない呪縛に囚われていたのは…、ちょっと真面目すぎたんだろうな。そんな肩肘張らず、エルトンの爪の垢でも煎じて飲ませてやれば…って、そういえばこの2人、合同で世界ツアーやってるんだった。
 いわば原点回帰で取り組んだ一過性のものだったはずなのに、思いのほか大衆ウケが良かったことで、ビリーはその後、人知れず迷走してゆく。キャッチーなポップ・ソングと政治的・社会的なメッセージとの融合を試行錯誤し続けるのだけど、遂に満足ゆく結果は出せなかった。



1. Easy Money
 ソウル・ショウのオープニングを想起させる、景気のいいホーン・セクションとファンキー・リズム。基本シンプルな構成だけど、中盤の転調Bメロは、単なるノスタルジーに終わらせないビリーのバランス感覚が伺える。
 ちなみに、どの曲にもインスパイア/オマージュのクレジットが記されており、この曲はジェームス・ブラウンとウィルソン・ピケットに捧げられている。まんまじゃねぇかと言いたいだろうけど、そこが狙いなので、ツッコむのは野暮。

2. An Innocent Man
 3枚目のシングル・カットとして、US10位を記録したアルバムタイトル曲。ビリーが編み出してきたメロディの美味しいところを、ギュッと凝縮した名バラード。
 一応、ベン・E・キング/ドリフターズに捧げられているのだけど、そういう説明がいらないくらい、アレンジといいヴォーカル・スタイルといい、すべてがバランス良く整っている。
 もともとこのアルバム、前妻との離婚以降に交際を始めた2番目の妻クリスティ・ブリンクリーに捧げられている。彼女が交際していたカーレーサーが事故で亡くなり、ひどく落ち込んでいた頃、ビリーはまめに連絡を取り、心の支えになろうとした。
 「僕は誠実な男だ」。
 そんなメッセージも込めているのか、情熱的な一世一代のハイトーン・ヴォイスが、高らかに響いている。

3. The Longest Time
 4枚目のシングル・カットとして、US14位を記録した、この時代としては珍しいオール・アカペラのポップ・バラード。当時から日本でも人気の高い曲であり、アカペラに限って言えば、山下達郎よりもポピュラーだった。
 そんな山下達郎もカバーしていた「So Much in Love」含め、過去のドゥーワップ・ソングへの敬意を表している。普通ならコーラス・グループをバックに歌うところを、ハンド・クラップや全パート含め、丁寧な多重録音でやり通したところに、愛情の深さを感じる。

4. This Night
 邦題「今宵はフォーエバー」。前曲同様、ドゥーワップ・スタイルを用いた、悠々たるバラード。サビ・パートのベートーヴェン「悲壮」のメロディ引用が話題になった。
 間奏の無骨なサックスがニューヨークの夜景を連想させ、日本ではその映像コンセプトで、ソニーがステレオ(CD?)のCMを制作していた記憶。
 なぜか日本とイギリスでのみシングル・リリースされており、それぞれ78位・88位と中途半端なヒットに終わっている。でもリアタイで聴いてるアラフィフ・アラ還は多いはず。

5. Tell Her About It
 アルバム・リリース前に先行シングル・カットされた、邦題「あの娘にアタック」。まぁ大筋では間違ってない。
 US1位UK4位を記録した、ビリーの全キャリアを通しても代表曲のひとつ。日本では最高58位だったけど、この頃の洋楽は圧倒的にアルバム>シングルだったため、しょうがない。
 一聴して察しがつくように、モータウン・リスペクトがハンパない。日本であまりピンと来ないけど、スモーキー・ロビンソン/ミラクルズの人気は絶大なもので、アメリカではいまだに敬愛を表明する者が後を経たない。
 エド・サリバン・ショーへのオマージュを込めたPVも必見。楽しくて、ハッピーな気持ちになる。
 …なんか頭悪い例えだけど、ホントそんな感じなのだ。

6. Uptown Girl
 2枚目のシングル・カット。US最高3位を記録した、このアルバムを象徴する軽快なポップ・チューン。クセの強いブロンクス訛りによって、日本では「とっつぁんガール」と聴こえてしまうことが、当時話題になった。刷り込みのせいか、いま聴いてもそうとしか思えない。
 60年代、ビーチ・ボーイズと人気を二分したフランキー・ヴァリ&フォー・シーズンズをモチーフとしている、とのことだけど、フィル・スペクター成分も入ってる。要は理屈のいらない、能動的なポップ・ソング。
 ほぼリリック中心で面白みのない近年のPVと違い、MTV初期の作品あるあるで、他愛のないラブ・ストーリーと稚拙な演技の本人出演が見どころ。自動車修理工場を舞台とし、コメディ要素も入れることによって、庶民の代弁者:ビリーを演出していたりもする。

7. Careless Talk
 アルバムも中盤に入り、この辺りから個人的趣味をダイレクトに反映したナンバーが続く。スモーキー・ロビンソン同様、アメリカでは人気の高いサム・クックっぽさを強調した、無骨なR&Bチューン。
 日本と海外とで、リスペクトの度合いがまるで違うシンガーの一人であるサム・クック、海外ベテラン・アーティストのインタビューを読むと、影響を受けた歌手として、結構な確率で彼の名が出てくる。物憂げなメロディと内省的な歌詞、抑え気味のバッキングに乗せて、感情の機微を細やかに表現したヴォーカルは味わい深い。
 シングルになっていないけど、個人的にオススメな曲。

8. Christie Lee
 リトル・リチャードとジェリー・リー・ルイスに捧げられた、ポップで弾けた純正ロックンロール。敢えてプレスリーと言わないところに、現役アーティストとしてのプライドを感じさせる。
 ロックンロール・ナンバーのマナーに忠実に、3分間に収めたところは、やはりプロの仕事。この手の曲はダラダラ演るべきではない。

9. Leave a Tender Moment Alone
 邦題「夜空のモーメント」。シングル・カットも5枚目ともなると勢いも落ちて、US最高27位。「地味だけど、いいメロディだなぁ」と、個人的に昔から好きだったのだけど、オマージュしたのがスモーキー・ロビンソンだって。なるほど、と納得。
 全編で流れる、客演トゥーツ・シールマンスの叙情的なハーモニカが、この曲最大のポイント。あくまでヴォーカルを引き立たせるため、出過ぎず出しゃばらずなプレイに徹しているけど、やはり惹きつけられてしまう。

10. Keeping the Faith
 ラストはベティ・ライト「Clean Up Woman」にインスパイアされた、比較的ビリーのオリジナル色濃いナンバー。小沢健二「ラブリー」の元ネタ、と言えばわかりやすいかもしれない。でも、そんなに似てないよな。
 シングル・カット最後の6枚目で、US最高17位。俺の好きな「夜空のモーメント」より上だったんだ。まぁ、わかりやすいしノリやすいアップテンポだしな。