481位 Belle and Sebastian 『If You're Feeling Sinister』
(初登場)

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 通称ベルセバ、90年代ロキノンでもよくフィーチャーされていたベル・アンド・セバスチャンの実質デビュー作が初登場。音の雰囲気から何となく、メロコア以降のアメリカインディーの人たちと勝手に思っていたのだけど、スコットランド出身だった。
 ちゃんと通して聴いてみると、どの曲もそんなに盛り上がらずオチもない、わかりやすいサビメロもない80年代ネオアコの進化系。ピッチフォークで持ち上げられそうなセンス先行の音は、どこに行き着きようもない浮遊感を漂わせ、いつの間にか何となく終わる。
 所属レーベル:ラフトレードつながりで、スミスの影響が見え隠れする瞬間もあるけど、ジョニー・マー的ポジションのメンバーがいないせいもあって、アルバムの流れ的に起伏は少ない。引き出しが少なく手持ちの技も少ないけど、そういうのを求めるバンドではないのだろう。
 変にうがった見方をせず、朝のFMだったら抵抗なく受け入れられる、そんな音である。もしかすると歌詞が「深い」のかもしれないと思って調べてみたけど、そんなウリでもないらしい。
 あんまり難しく考えないでいい、それでいてちょっと引っかかりのある音。もしかしてそんな思惑で鳴らしているのかもしれない。
 前回481位はD'Angelo 『Voodoo』。今回は28位。




482位 The Pharcyde 『Bizarre Ride II The Pharcyde』
(初登場)

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 これまでまったく存在を知らなかった、主に90年代中心に活動していた西海岸ラップグループのアルバムが初登場。日本版wikiもないくらい知名度はないし、このアルバムもリリース当時はUS最高75位と中途半端なポジションだったけど、なぜか地味に売れ続けて4年後にゴールド認定という、まるで演歌みたいな売れ方をしている。
 2004年以降、アルバムは制作されておらず、時々シングル単体のリリース以外は各自のソロ活動中心。かと思えば、時々思いつきみたいにライブで再集結したりして、フラフラ行き当たりばったりの活動状況らしい。
 グループ活動にそんなにこだわりがないのか、メンバーも脱退したり再加入したり、いろいろ落ち着かない。どこかのタイミングでブレイクの兆しはあったはずなので、そこでもうちょっと本腰入れてたら、状況は違っていたはずなのに、その辺がちょっと残念。
 いろいろツッコミどころの多いグループではあるけど、個人的に音はすごく気に入っている。それほどヒップホップには食いつかない俺だけど、ジャジーなトラックからはデ・ラ・ソウルっぽさ、それを打ち消すようなアッパーなバカっぽいチューンとのコントラストがバラエティに富んでて飽きずに最後まで聴ける。
 一応、来日実績もあるみたいだけど、全盛期を過ぎてからだったため、そんなに話題にもならず、世界を股にかけたドサ回り感が否めない。こういう音にもっと早めに出逢っていたら、ヒップホップへの向き合い方も、も少し違っていたのかもしれないなー、と黄昏れる53歳の秋。
 前回482位はSteve Earle 『Guitar Town』。今回は圏外。




483位 Muddy Waters 『The Anthology』
(38位 → 38位 → 483位)

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 少しでもロックを聴きかじっているなら、誰でも名前くらいは知っているけど、ほぼ聴かれる機会の少ないシカゴブルースの大御所マディ・ウォーターズの2枚組ベストが、前回から大きくランクダウン。「オールタイムベスト」というランキングの性質上、「こういった古典もひとつくらい入れとかなくちゃ」と意識的にチョイスした人も多かったのだろうけど、もうそんな忖度する世代も少なくなったということか。
 ほぼ考古学のフィールドに入ってしまった古典ブルース、「ひょっこりひょうたん島」や「シャボン玉ホリデー」同様、かなり強引にレトロバイアスでもかけない限り、まっ正面から向き合うのは至難の業だ。これはリスナー側だけではなく、黒人アーティスト全般でも言えることで、若手のブルースマンはほぼ白人ロック側の出自が多いのが現状。
 現在、メジャーの黒人ブルースプレイヤーで思い浮かぶのは―、誰かいたっけ?もしいるのならそれは俺の勉強不足だけど、多くがヒップホップに流れているのも事実である。それでもしぶといごく少数の原理主義者に支えられ、次回ランキングでもギリギリ踏みとどまる可能性は、あるにはある。手厚い保護が必要なジャンルなのだ古典ブルースって。
 そんなネガティヴな見方を一旦抜きにして、フラットな気持ちで聴いてみるとー、イヤやっぱ古い。80年代から洋楽に興味を持った俺世代からすると、ほぼワンパターンなリフからスタートするジャンプブルースは、馴染みのあるものではない。
 おそらく本国アメリカでも「おじいちゃんが聴く音楽」なので、どこを褒めればいいのかちょっと悩む。あ、でも問答無用の圧は強い。リアタイで聴いてたら、強いインパクトを受けることだろう。
 他のランキングは、『Folk Singer』が277位→282位ときて、今回は圏外。『Muddy Waters at Newport 1960』が344位→348位ときて、今回は圏外。
 前回483位はGang of Four 『Entertainment!』。今回は273位。




484位 Lady Gaga 『Born This Way』
(初登場)

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 先日、ストーンズの新作リリースライブにゲスト参加、すっかり大御所感漂っていたけど、実はまだ37歳のレディー・ガガ2枚目の出世作が初登場。ホイットニーやマドンナもそうだったけど、「デビュー作だと思ってたのが実は2枚目だった」というパターンが、女性アーティストでは多い。
 今どき2流のハードコアメタルでも見かけないキワものアルバムジャケットや、過剰な承認欲求をあらわにした色モノファッションコーディネートなど、お騒がせ芸能ニュースネタの反面、収録されているトラックはどれも丁寧に作られている。大人のスタッフと精鋭のブレーンによって、きめ細かく大胆に、マーケティングに則ったサウンドで埋められている。こういう時、アメリカのエンタメ界は時間も予算も潤沢にかける。
 メイン曲以外も全力投球、全曲シングル候補で埋め尽くされているため、通して聴くと力の抜きどころがない。ただ、このアルバムがリリースされた2011年といえば、iTunesが勢力拡大していた頃、アルバム単位から単曲でのダウンロードへ移行する過渡期だったことを思い出す。
 コンセプトアルバムという概念が形骸化した現代を先取りした、シャッフル再生に適した構成なのかもしれない。なので、適当に気に入ったトラックだけシャッフルするのが正解なのだろうな、と言いごちて53歳の秋は過ぎゆく。


 土屋アンナが自身のYouTubeチャンネルで「Born This Way」をカバー。意表を突いたジャズバラード・アレンジは、ネイティブな発語と抜群の表現力との相性が良い。33位エイミー・ワインハウスの時にもちょっと触れたけど、案外洋楽カバーにも積極的で、バラエティ主演時とはまた違う側面とのギャップが面白い。
 前回484位はMott the Hoople 『All the Young Dudes』。今回は圏外。




485位 Richard and Linda Thompson 『I Want to See the Bright Lights Tonight』
(471位 → 471位 → 485位)

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 レディー・ガガから大きな落差、家でゆったり聴きたいリチャード・トンプソンの初期代表作がランクイン。程よく音に隙間があって聴きやすいし、トータル40分弱のサイズ感もちょうどいい。
 ブリティッシュフォークの老舗バンド:フェアポート・コンベンション出身のリチャード・トンプソン、どちらもロック名盤ガイドには欠かせない名前だけど、ちゃんと聴いたことはなかった。ヴァン・モリソンやジョニ・ミッチェル同様、どちらも日本ではほぼ知名度の少ない人たちなので、聴く機会がなかなかない。
 そんなミュージシャンズ・ミュージシャン、俗に言う通好みの人だけど、実際聴いてみると、やっぱり地味。基本、トラッドフォークがベースなので、キャッチーなサビメロや口ずさみたくなるフレーズもない。サービスなんて度外視した老舗食堂の如く、朗々とした演奏が展開される。
 ただ彼の弾くギター、わかりやすい速弾きやトリッキーなプレイもないけど、一音一音の重さと深さは感じ取れる。ベース音を強調したアルペジオや歪みなく細やかなストロークは、まどろみの中に緊張感を生み出している。
 安直なブルーススケールやチョーキングに頼らず、とことん基本を追求した末に奏でられた音は、強い確信に支えられている。愛想はないけどめちゃめちゃうまいチャーハン作る食堂のオヤジみたいなものだな。
 他のランキングは、『Shoot Out the Lights』が329位→332位ときて、今回は圏外。
 前回485位はPearl Jam 『Vitalogy』。今回は圏外。




486位 John Mayer 『Continuum』
(初登場)

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 年末来日予定のジョン・メイヤー3枚目のアルバムが初登場。今回の来日公演は最安値シートで4万以上という高騰ぶりが話題になったけど、ステージ前最高クラスでも5万円なので、ブルーノート東京という会場を加味すれば、そこまで非常識な価格でもない。
 これでB席1万・アリーナ10万くらい開きがあれば、それこそ鬼畜の所業と突っ込まれても仕方ないけど、400人程度のキャパなため、むしろ公平で良心的な価格設定じゃないかとも思う。でもやっぱ高いけどね。
 デビュー時は「ブルースの新星・救世主」と持ち上げられていたのもいまは昔、女性が絡んだゴシップネタが先行していたけど、実際に聴いてみると、90年代ワーナー期クラプトンをモチーフとした、モダンブルースが展開されている。CDでのリスニングを想定した、大きくはみ出さずカッチリまとまったサウンド。
 ルーツのひとつであるマディ・ウォーターズと比べると、当たり前だけど音質もいいしアレンジ・構成もきちんと練り上げられている。ここを入り口として遡ってゆくならいいけど、無理して古い音源ありがたがらなくたっていいんだよ。こっちの方が技術も表現力も上なんだから。
 ただ数十年後にジョン・メイヤーが50年代レジェンドらと肩を並べているかといえば、それはちょっと疑問。おそらく本人的にもそんなところは目指していないと思うけど、フォロワーよりファウンダーの方が支持を得るのは自然の摂理。
 もうちょっとはみ出したプレイしてもいいと思うんだけど、スタジオテイクはどうしてもこんな風に強力脱臭しまうのかな。それこそライブならもっとくだけてアグレッシブなのかもしれない。
 前回486位はEarth, Wind & Fire 『That's the Way of the World』。今回は420位。




487位 Black Flag 『Damaged』
(336位 → 340位 → 487位)

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 アメリカンハードコア・パンクの祖:ブラック・フラッグのデビュー作が大きくランクダウン。ニューヨーク周辺、東海岸発祥の初期パンクムーブメントが、アート寄りで知的な印象だったのに対し、彼ら西海岸勢は頭より躰、飛んで叫んでナンボでしょ的な勢い優先、スピリットはロンドンパンクに通ずるところが多い。
 この辺のサウンドって偏見だけど、アメリカ映画でよくある「隠キャのナードが部屋に引きこもって爆音で聴いている」イメージがあり、でもそんなに間違ってないと思う。発育途上のティーンエイジャーが好む、一般的には通過儀礼的な音楽なのだけど、CD/レコードに詰め込まれた熱量はハンパないため、ほかのジャンルでは代替不能、なので分別ある年齢になっても聴き続ける熱狂的なファンに支えられている。
 彼らや元祖Xなど、のちの90年代グランジとも地続きなこのジャンルは、時代を問わず一定の需要があり、いまも形を変えてシーン形成している。日本の東京ロッカーズ周辺もそうだけど、いまだ現役で活動しているミュージシャンも多く、それなりのニーズがあるということなのだろう。
 ファンもアーティストもそろそろお互い、後期高齢者に差し掛かっているはず。なので、ヘッドバンキングやモッシュは控えようね。日常的に節制している割合は少ないはずなので、ケガするとシャレにならないから。
 前回487位はCyndi Lauper 『She's So Unusual』。今回は184位。




488位 The Stooges 『The Stooges』
(185位→185位→488位)

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 3枚目『Raw Power』が惜しくも圏外になってしまったけど、初期3枚中2枚が今ランキングにチャートインしているストゥージーズのデビュー作。堂々94位にランクインしていた『Fun House』と比べて大きく順位を落としているけど、正直、どっちを聴いても明らかな差はない。
 普通、こういうのってデビュー作こそ至高って原理主義者多いはずなんだけど、みんな定番はずして裏を攻めたら、こんな風になっちゃったのかね。2枚シャッフルして聴いたら、どっちがどっちだか、わかる人は相当ディープなマニアだ。
 何しろ半世紀以上前の作品なので、ピークバランスやダイナミックレンジなんてお構いなし、とにかく他人と違って目立つための爆音サウンドは、時空を超えて人の胸ぐらを掴んで揺さぶりまくる。平穏無事に健やかに育っていたティーンエイジャーは暴力衝動に煽られ、チープなレコードプレーヤーをボリュームMAXでガンガン鳴らす。
 ヘンリー・ロリンズも彼らにそそのかされて、ブラック・フラッグを結成した。時代は巡る。
 前回488位はHusker Du 『New Day Rising』。今回は428位。




489位 Phil Spector & Various Artists 『Back to Mono (1958-1969)』
(64位 → 65位 → 489位)

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 ストゥージーズ同様、こちらも前回から大きくランクダウン、2021年に獄死を遂げたフィル・スペクターの4枚組ボックスセット。文字通りの波瀾万丈の人生を体現した人であり、後半生は自ら作り上げた虚像と過剰な被害妄想に苛まれた。  
 晩節は汚しまくったけど、音楽は残る。マディ・ウォーターズ同様、顧みられることも少なくなったけど、大きな足跡を残したフロンティアであることに変わりはない。
 日本では主に80年代以降、大滝詠一によるスペクター/ウォール・オブ・サウンドの布教によって、マニア以外にも名前はそこそこ知られていたように思う。『Be My Baby』以外の曲はほぼ知らないし、そこまで突っ込んで知る気はなかったけど、「君は天然色」のようにミッチリ詰まった音の塊とポップなメロディであることは、何となく知られていた。
 レコードの針が飛ぶギリギリまでヴォリュームを上げ、ギュウギュウ詰め込まれた音の塊は、大量のカロリーを内包している。誰かが間違えたらやり直し、編集の効かない一発録りセッションは途方もなく長く、しかもずっと緊張が絶えない。
 笑顔で歌わなければならないロネッツの表情は引きつり、ちょっとのミスも許されないミュージシャンらは冷や汗のかきっぱなし。音響を優先したゴールドスタースタジオは狭いし息苦しいし、蒸された壁からは水滴がしたたり落ちる。
 最適な音のバランスを考えた楽器の配置やマイクセッティング、コンソールを操る指先のマジックによって、続々夢のサウンドは生み出された。でもその全盛期は短く、ヒットメイカーの座から凋落したスペクターはその後、本業何やってるんだかわからない業界人ゴロに成り果ててしまう。
 わかりやすいくらいの栄枯盛衰。身に余る栄光は人を狂わせる。
 スペクターといえば「Be My Baby」、「Be My Baby」といえばロネッツ、俺の私見として、大滝詠一が布教するまでは日本ではまったく無名と思い込んでいたのだけど、wikiで見るとオリジナルリリース間もなく広田美枝子や伊東ゆかりがカバーしている。その後、70年代にも郷ひろみや林寛子しており、おそらく確認されている以外にも、洋楽カバーの定番としてそこそこ知られていたっぽい。フィル・スペクターとかウォール・オブ・サウンドというブランドはすっ飛ばされて、日本では「心地よいオールディーズ」として、大量のカバーが残されている。


 そんな数多あるバージョンの中で、オリジナルのコンセプトに最も忠実なんじゃんないかと思えたのが、Mi-Ke。ゆるいメロディに適当な日本語詞で油断してしまいそうだけど、そこは90年代J-POPシーンを席巻したビーイング軍団のパロディ部門担当のトップ、手練のブレーンとスタッフによって緻密に構築されたトラックと、盤石のヴォーカル&コーラスワークは、バブルの功罪をほのかに回顧させる。
 他のランキングは、『A Christmas Gift for You From Phil Spector』が142位→142位と来て、今回は圏外。
 前回489位はKISS 『Destroyer』。今回は圏外。




490位 Linda Ronstadt 『Heart Like a Wheel』
(163位 → 圏外 → 490位)

ダウンロード (1)

 初回ランキングから2回目で圏外→今回再浮上という、あまり見られないチャートアクションを見せるリンダ・ロンシュタットの初期代表作。最近名前聞かないなと思ってたら、ずいぶん前からパーキンソン病を患い、ほぼ引退状態とのこと。ミック・ジャガーが異常なだけで、普通の77歳だったらよくあるエピソードなんだよな。
 自ら曲を書くことはないけど、抜群の歌唱力とパフォーマンスは、同世代の才能を引き寄せる魅力を放っていた。恋多き女としてのフェロモンと併せ、多くの男性ファンを魅了してスターダムを駆け上がっていった。
 のちのイーグルスのメンバーやアンドリュー・ゴールド、J.D.サウザーなど、今カレ元カレが入り乱れ、普通ならまとまるはずのないメンツを束ねるのは、聖母の慈愛なのか妖女の囁きなのか。要はみんなリンダにイイとこ見せたいのか、楽曲も演奏にもガッツがハンパない。
 正直な話、実際に聴く前はもっと素直なカントリーロックと思っていたのだけど、ロックだったりソウルっぽかったり、曲調に応じて最適なスタイルをナチュラルに選択できるのは、これはもう感性の為せるワザ。後天的に身につくものではない。
 他のランキングは、『The Very Best of Linda Ronstadt』が320位→164位ときて、今回は圏外。
 前回490位はZZ Top 『Tres Hombres』。今回は圏外。