471位 Jefferson Airplane 『Surrealistic Pillow』
ロック名盤ガイドではほぼ常連、老舗バンド:ジェファーソン・エアプレインの初期代表作が大きくランクダウン。リアタイで聴いてた人はおそらく70オーバー、この頃からずっと追っかけてるファンって、日本ではちょっと考えづらい。むしろ80年代のスターシップを覚えている人の方が、圧倒的に多いと思われる。
でスターシップ、一応、前身バンドの主要メンバーが関わっているため、系図的につながってはいるのだけど、もう「どうしちゃったんだ」と呆れてしまうくらい、まったくの別バンド。老舗バンドのブランディングに乗っかって、ひと儲け企んだレーベルの操り人形と化したグレイス・スリック一同は、生気のない眼を取り繕う貼りつけた笑顔で、「シスコはロックシティ」を歌っていたのだった。日本でも大ヒットした彼らだけど、長い目で見れば失ったものの方が多かったはず。
そんな黒歴史は置いといて、彼らについて俺が知ってたのは、懐かしのロック番組で聴いた「White Rabbit」くらいで、あとはほぼ無知。「ドアーズと同じ頃のサイケデリック・ロック」という大ざっぱな予備知識だけで聴いてみた。
そんな先入観とはだいぶ違い、曲によってヴェルヴェッツのようなアシッドフォーク風味だったり、サイケなファズギター先行のロックもあったりして、ひとことで言い表わせるサウンドではない。むしろ、意識的にひとつのカテゴリーに捉われないようにしている、とっ散らかった音楽。変に奇声を上げたり斜め上な不協和音もなく、楽曲それぞれのアプローチは極めて常道にもかかわらず、サラッと聴き流すことを許さない、そんな音楽。
誰とも似ていないオンリーワンの音楽であり、彼らの存在自体をひとつのジャンルとして確立しようとする、そんな気迫が感じられる。人と違っていることを恥と感じず、むしろ個性的であることが賞賛された、そんな60年代の音楽。
他のランキングは、『Volunteers』が366位→373位ときて、今回は圏外。
ちょっと意外だったけど、YOASOBI幾田りらが、ショート動画で「あなただけを」をカバー。もともと歌唱力はしっかりしてる人なので、オリジナルの不穏さは微塵もないけど、良質のポップソングとして聴ける。仰々しい60年代サイケで紛れてしまっているけど、このメロディを活かすには、こんな風に素直にファニーなアプローチが、むしろ正解だったんじゃないか、とも思う。
ちなみに幾田りら、このYouTubeチャンネルでは様々なジャンルにトライしており、ジャーニー「Separate Ways」はまだわかるとして、ディープ・パープル「Burn」、クラッシュ「London Calling」までカバーしている。他にもマイク・オールドフィールドからRun-D.M.C.まで、まぁ守備範囲広い。
前回471位はRichard & Linda Thompson 『I Want to See the Bright Lights Tonight』。今回は485位。
472位 SZA 『Ctrl』
これで「シザ」と読む、2020年代アメリカR&Bシーンのトップを爆走する女性シンガーSZAデビュー作が初登場。2018年、タレント渡辺直美がアメリカのアパレルCMで彼女とコラボしたのが話題になったらしいけど、ゴメン全然覚えてない。
ガチで今どきのメインストリームなので、「どうせありがちな量産型トラップじゃね?」と勝手な先入観で聴いてみたのだけど、いい意味でちょっと違ってた。ヴォーカルは思ってたより粗くワイルドで、時々エイミー・ワインハウスみたいに聴こえる時もある。
ワールドワイドなマスを想定しているため、基本は時流に合わせたコンテンポラリー仕様なのだけど、記名性の強い声質が予定調和をほんの少し崩し、それがアクのある個性として確立している。近年の傾向である豪華ゲストとのコラボ、ここでもケンドリック・ラマーが顔出ししているのだけど、正直そんなに面白くない。むしろ完全ソロ曲の方が、いろいろ遊びもあったりクセもあったりして楽しめる。
この例に漏れず、ほぼ互助会化している豪華ゲストのコラボって、ガチでやるとエゴのぶつかり合いになって収拾つかないので、無難なトラップ/スムース・ヒップホップに落ち着いてしまうことが多い。まぁゲスト羅列した方がプロモーションもしやすいんだろうけど、作品クオリティとは直結しないのもまた事実。
思ってるほど相乗効果も宣伝効果もないので、そろそろやめた方がいいんじゃね?とこのアルバムを聴いて思った次第。ソロで聴いた方が全然イイし彼女。
前回472位はGeorge Michael 『Faith』。今回は151位。
473位 Daddy Yankee 『Barrio Fino』
447位バッド・バニーと並び、世界中にレゲトン・ブームを広めた立役者ダディー・ヤンキー4枚目のアルバムが初登場。今年、WBCに出場した大谷翔平との2ショットをインスタに上げたことが大きいニュースになったのは、記憶に新しい。
あんなガチガチのセキュリティを難なくクリアしただけでもすごい事なのに、その上、大谷自身もウェルカム状態って、何者なんだ?って思ってたのだけど、彼だったんだね。イヤ大物だったんだなダディー。
昔から多民族国家であったアメリカだけど、エンタメ界で猛威を振るっているのがラテン系で、中でもプエルトリカンのラテン・トラップは大きなシェアを有している。テンション勝負・アゲアゲ感優先の音楽は、特に多くのプロスポーツ界において、番組BGMやら登場テーマやらで使用頻度が高い。特に野球選手にファンが多く、結構な割合で2大巨頭の出番は多い。
ただこのダディー、数年前から引退するだのしないだの、フワフワした態度でいるらしい。もうプレイヤーとして大抵のことは成し遂げただろうし、あとはプロデューサー/ファウンダー的なポジションに落ち着くんだろうか。ある意味、フォーマットとして確立した感のあるレゲトンというジャンル、今後は自分のクローンみたいなのいっぱいこしらえておけば、多分10年くらいは安泰だろう。
前回473位はThe Smiths 『The Smiths』。今回は圏外。
474位 Big Star 『#1 Record』
現役活動時は成功に恵まれなかったけど、解散してから現在に至るまで、若いバンドからのリスペクトが絶えないビッグ・スターのデビュー作。考えてみると尊大なのか大風呂敷なのか、どっちにしろ盛大に名前負けしちゃったバンドだったよな。そんな雑なところが逆に愛おしいっていうか。
前回よりややランクダウンしてはいるけど、そんなのは誤差誤差。現役時にリリースされた3枚のアルバムすべてが今ランキングに入っており、これはなかなかの快挙。快挙なはずだけど、それが騒がれないのもまた彼ららしい。
ゴリゴリのロックのつもりでもポップなメロディが立ってしまい、演奏テクニックもそこそこだしルックスも垢抜けてなく冴えない。ロックスターであろうと背伸びしてるけど、オーラはそんなに感じられない。
ロックの王道を歩もうとデビューしたけど、所属したレーベルがソウル専門のスタックスだったことが、彼らの不幸だった。ロックを売り出すノウハウを持たないスタッフに翻弄され、このデビュー作はシーンに黙殺された。
ロックバンドというフォーマットが残る限り、彼らへのリスペクトが絶えることはない。R.E.M.にも通ずるファンとの信頼関係は、後進へ連綿と語り継がれる。
前回474位はManu Chao 『Proxima estacion: Esperanza』。今回は圏外。
475位 Sheryl Crow 『Sheryl Crow』
そういえば最近、名前聞かないな。調べてみると最後のアルバムが2019年、以降はほぼセミリタイアして表舞台に立っていないことを、いま知った。90年代、日本でも大きな人気を得たシェリル・クロウの実質デビュー作が初登場。
R&B/ヒップホップのブラックミュージック勢にシェアを奪われ、お手軽なダンスポップ以外の選択肢がなかった90年代女性シンガー界において、新たな切り口をこじ開けたのが、彼女とアラニス・モリセットだった。オーソドックスなバンドサウンドの復権を謳いながら、ワイルドネスとフェミニンを共存させた2人の歌は、広範なライトユーザーを獲得した。カーCDで流しても恥ずかしくない、ちょうどよい熱量のロックサウンドは、グランジ/オルタナについていけない中流層にも受け入れられた。
ここ日本ではFMのパワープレイでさんざんオンエアされていたこともあって、アルバムは持ってなかったけど、どの曲も印象に残っている。っていうかFMでしか聴かなかったな。
「FMでお腹いっぱいでCD買ってない」という意味では、インコグニートと同じ匂いがする。悪い意味じゃないよ。あくまで余談。
コブクロがカバーアルバム『ALL COVERS BEST』で「If It Makes You Happy」をカバー。そんなに小技を駆使するタイプの人たちではないため、至って素直なアプローチ。ソリッドな切れ味はないけど、穏やかなフォークロックに仕上げている。
前回475位はElvis Costello 『Armed Forces』。今回は圏外。
476位 Sparks 『Kimono My House』
ロック名盤ガイドでは長らくキッチュな泡沫バンド扱いされていたけど、21世紀に入ってからリスペクト熱が高まり、遂にドキュメンタリー映画まで公開されてしまったスパークスの初期代表作が初登場。後世に残る作品にする気がまったくないジャケットアートワークから察せられるように、とことんロックの王道から一歩も二歩も引いたスタイルは、サウンドにも反映されている。
なんとなくイメージからして、「10cc+クイーン」みたいな音なのかと思っていたのだけど、実際に聴いてみると、ほぼその通りだった。期待を裏切らない胡散臭さっていうか。
70年代ギターロックをベースに、オペラやクラシックや映画音楽やジャズやら、思いついたアイディアをごちゃ混ぜにしており、カオスはカオスなんだけど、基本は思ってたより真っ当なロックンロールになっている。ハッタリや飛び道具に紛れて巧妙に隠されてはいるけど、従来のロックを俯瞰で見ることで得られる批評的な視点、ポストモダンの立場で描いたロックの再構築というコンセプトが見えてくる。
末期のBOOWY〜布袋がモロに影響を受けた、フェイクな輝きを放つサウンドデザインは、日本の80年代サブカル層にも波及している。こういったアンチ/ポストロック的なアプローチは、昔から屈折した英国人のジョンブル魂が由来するものだったのだけど、彼らアメリカ出身だった。それにしてもイギリスっぽい音だよな。
前回476位はNotorious B.I.G. 『Life After Death』。今回は179位。
477位 Howlin' Wolf 『Moanin' in the Moonlight』
シカゴ・ブルースの第一人者ハウリン・ウルフのデビュー作が大きくランクダウン。前回ランキングまでは、まだロック中心史観によって、こういったルーツミュージックも上位だったけど、「もうそういう時代じゃない」ってことなんだろうな。
教科書に載る伝統芸能として、次回も下位ギリギリでランクインはするだろうけど、そのうちB.B.キングあたりとオムニバスでまとめられちゃう時代が来るかもしれない。かつてはギター少年の通過儀礼として、履修としての需要はあったけど、ギター自体がオワコンまっしぐらだし。
とはいえ、初期ストーンズがほぼ彼のパクリだったことから、間接的にこの辺のサウンドに馴染みがある世代が多いことも、また事実。年期の入ったブルース通の前では言いづらいけど、正直ロバート・ジョンソンより全然聴きやすい。
個人的にはこういったブルース、部屋の中で聴くよりカーステで聴いた方がしっくりくるし、世界観にハマりやすい。アメリカ映画のオープニングのように荒れた道をかっ飛ばせば、気分はすっかりディープサウス。
他のランキングは、『Howlin' Wolf』が233位→238位ときて、今回は圏外。
前回477位はMerle Haggard 『Down Every Road』。今回は284位。
478位 The Kinks 『Something Else by the Kinks』
歴史ある英国の老舗バンドであるにもかかわらず、日本ではなかなかブレイクしきれないままフェードアウトしてしまった、そんなキンクスの初期代表作がランクダウン。英米では手堅い人気を得ていたはずだけど、兄弟ケンカ以外のネタだけで引っ張るのはもう限界か。そのポジションはギャラガー兄弟に取って代わられちゃったし。
それに加えて、英語圏ではもはや口に出すことも憚られるバンド名のため、いまのご時勢では何かとフィーチャーしづらい。今さらスマイルアップみたいに改名するわけにもいかないしな。
シンプルなパワーコードでガンガン押す、ハードロックのルーツとしてリスペクトされまくっている初期から一転、駅で出逢った一組のカップルを叙情的に描写した「Waterloo Sunset」収録のこのアルバム、通して聴くと「地味」以外の形容が見当たらない。普通にビートグループとしてやってく方がキャリア的に良かったんじゃないかと思うけど、考えてみれば彼ら、おそらくストーンズやビートルズ、フーと同じ土俵に立ってもキャラが薄いため、淘汰されるのを肌で感じてたんじゃないか、とも思う。
とはいえオープニングを飾る「David Watts」は、脱力してやる気のないオリジナルヴァージョンより、モッズ視点のソリッドな8ビートの方がふさわしかったんじゃなかろうか。後年、ポール・ウェラー率いるジャムが、それを証明してくれた。
意外なところで矢野顕子、2012年のライブアルバム『荒野の呼び声 -東京録音-』で「You Really Got Me」をカバー。オリジナルのラウド感はまったくなく、矢野顕子通常営業のピアノ&ヴォーカルパフォーマンスだけど、大ベテラン:ウィル・リー&クリス・パーカーによるリズムワークは豪快かつ繊細。原曲はもはやきっかけでしかない矢野ワールド。
前回478位はLoretta Lynn 『All Time Greatest Hits』。今回は圏外。
479位 Selena 『Amor Prohibido』
「セレーナ」と読む、80〜90年代に活躍したメキシコ出身ラテンポップ女性シンガーのアルバムが初登場。当時、日本盤も発売されていたらしいけど、全然知らなかった。当時のメインストリームロックとは対極の音楽なので、俺が知らなくても無理はない。
なんでいま、このタイミングでランクインしてきたのかは不明だけど、ますますカオス化しつつあるアメリカ人種問題の最中、エンタメ界においてもチカーノ系アーティストが、着実にポジションを確立しつつある。473位ダディー・ヤンキー同様、ロックがオワコン化しヒップホップがスターシステム化することによって、宙に浮いたシェアはラテン系もしくはカントリーに流れている。このランキングもまた、特に初登場組においてはそんな状況を反映させている。
ちなみにセレーナ、活動していたのは95年まで。不正な着服容疑で解雇された、彼女のファンクラブ元会長の逆恨みを受け、無慈悲にも銃殺された。
享年23歳。酷すぎる。
前回479位はFunkadelic 『Maggot Brain』。今回は136位。
480位 Miranda Lambert 『Weight of These Wings』
活動範囲はほぼ北米限定、日本ではほぼ知られていないけど、本国では盤石の人気を誇るミランダ・ランバートの6枚目が初登場。ジャケットのイメージから想像つくように、カントリーど真ん中の人。
とはいえ本流トラディショナル100%ではなく、ややロック寄りのオルタナカントリーのため、ルシンダ・ウィリアムスと同じ括りに属する。オーソドックスなバンドサウンドをベースとしているため、テイラー・スウィフトに通ずるダンスポップ風味はカケラもない。
テレビオーディション出身という出自は、日本の目線からすると二流っぽく感じられるけど、そこは層の厚いエンタメ大国アメリカ、企画モノ臭は見られない。これをもっとロックテイストを強くして、ギターにファズをかけるとシェリル・クロウみたいになるのだけど、そっち方面へ行かなくてもそこそこ安泰なのも、アメリカの幅の広さ深さ。
前回480位はRaekwon 『Only Built 4 Cuban Linx』。今回は219位。