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  マジか。スライダーズが再びステージに立つ。ただ、これが本格的な活動再開なのかどうか。
 -と、実は春頃に書き出して、大方書き終わっていたのだけど、ズルズル引き伸ばしてるうちに武道館はおろか、ライジング・サンも終わってしまった。いつの間に月日は流れ、ただいま全国ツアー真っ最中。すっかりタイミング逃してしまった結果、今に至る。
 現時点で唯一のニュースソースである公式サイトでは、ツアー詳細やグッズ物販など、ほぼ業務連絡のみで、至ってシンプル。よくあるツアーメンバーの集合写真や動画メッセージなんてのは、一切なし。相変わらずの無愛想ぶりだ。
 多くのファンからすれば、再結成自体が奇跡だったため、メンバー自ら情報発信するなんて誰も期待してなかったし、そういう意味で言えば予想通り、逆説的にファンのニーズに沿ってはいる。そんな中、饒舌とは決して言えないけど、ジェームスと蘭丸は時々、X(旧Twitter)でつぶやいていたりして、時代の変遷を感じたりするのだけど、孤高のハリーは相変わらず。逆に饒舌だったら、それはそれで、なんかイヤ。
 ここ数年、ハリーのソロでズズとジェームスが客演したり、ほぼ四半世紀ぶりにハリーと蘭丸によるJOY-POPSが再結成ツアーしたりで、徐々に再結成の機運が高まりつつあったのは確かである。ただ2020年、ハリーが肺ガンを発症して長期休養に入ったため、それどころではなくなってしまう。
 その後、体調も徐々に回復し、いつも通りのマイペースでソロ始動、どうにかスケジュール調整やら根回しやらが済んで、このタイミングでの再結成となった。いくら周りがどうこう言ったり動いたとしても、結局はハリー次第なのだ、このバンド。
 傲慢なワンマンではないけど、ハリーが「また一緒にやる」と言えば、周りはせっせと動いてしまうのだ。だって、また見たいから。
 いまのところ、ツアーファイナルは10/26大阪で、追加公演の予定はなさそう。実はメンバーの中で最もアクティブに活動しているのがジェームスで、11月からライブハウス・ツアーが予定されている。
 スライダーズ再結成以降、5月武道館から8月ライジング・サンまで中途半端なブランクがあったのだけど、この間にもジェームス、地方中心にライブハウスを巡っている。おそらく彼のツアーが先に決まってて、それ前提でスケジュール組んだんじゃないかと思われる。フロント2トップじゃなくて、ジェームスがキーパーソンだったなんて、人生ってやっぱわかんない。
 正直、ソロツアーをキャンセルしてスライダーズでやった方が、集客も収益も段違いなはずだけど、あくまでソロ活動優先という方針が徹底していることが、この活動状況から見えてくる。蘭丸あたりはおそらく、麗蘭以外は全部すっ飛ばして、スライダーズに専念したいんだろうけど。
 今後は多くのベテラン・バンド同様、各自ソロを優先、何年かに一度、スケジュール合わせて短期集中で活動し続けてゆくのだろうか。今どきは「解散」って言い切るより、「長い長い活動休止→適当な頃合いで再始動」ってパターン多いし。
 ジェームスのソロツアーが11月いっぱいまでなので、年末にまた何か動きがあるかもしれない。フェス関連で考えられるのがカウントダウン・ジャパン、またはニューイヤー・ロックフェスといったところ。
 WOWWOWが武道館生中継を仕切っていた流れから、長期密着してるかもしれないし、いろいろ妄想は尽きない。一回くらいシャレでテレビ出演、例えばMステかSONGSあたりが、ダメもとでオファーしてみるとか。もうしてるのかな。

 1990年、10枚目のスタジオ・アルバムとして、『Nasty Children』がリリースされた。特別、ヒットシングルが収録されているわけでもなく、ドラマCMのタイアップも、当然あるわけがない。
 いくつかの音楽雑誌でのインタビュー程度のプロモーションだったにもかかわらず、オリコン最高12位と、なかなかのチャートアクションを記録している。ユーミンバブル真っ只中の百花繚乱なラインナップの中、無骨な彼らのサウンドは、明らかに異色だ。よく売れたよな。
 ライブ動員も好調で、フェスに出演したらメインアクト待遇、CDセールスも安定していたのだけど、地味目な楽曲中心で構成されたこのアルバム以降、メディア露出も少なくなってゆく。おそらくハリーの意向が強く働いたのか、ライブ中心にシフトしたのも束の間、次第に活動ペースもスローダウンし、第一線からフェードアウトしてしまう。
 約5年の沈黙を経て、スライダーズは最期の力を振り絞って、2枚のスタジオ・アルバムを残す。でも、そこまでだった。

 そんな彼らの活動経緯をザックリ分けると、おおよそ3期に大別される。
 ① デビュー〜『天使たち』まで
 ② それ以降〜1度目の長期休養
 ③ 活動再開から解散まで。

 細かい線引きするとキリがないけど、ファンもメディアも、だいたいこんな印象なんじゃないかと思われる。ズズの骨折やら夜ヒット出演やらJOY-POPS始動やら蘭丸ソロ活動やら、いろいろな角度での節目はあるのだけど、厳密にしちゃうとめんどくさいしわかりづらいので、その辺は割愛。
 ① 「初期ストーンズのフォーマットを借用してるけど、むしろブルース要素の強いガレージパンク」が出発点。地道なライブ活動によってバンドの演奏レベルは向上、また各メンバーの音楽嗜好が楽曲に反映されて、ブルース一辺倒からの脱却が垣間見える。
 「粗暴な荒々しさ」っていうか、ほぼそれしか印象にない『SLIDER JOINT』から2年強で『夢遊病』に行き着いてしまった彼ら。楽曲のベーシックな部分は大きく変わってないけど、ドラッグのトリップ状態を想起させるダウナーなテイストは、のちのUS音響派に直結している。そこまではちょっと盛りすぎだけど、同時発生的にアメリカ・インディーでもその萌芽があったのは確か。
 ②  名実ともにスライダーズ黄金期。固定ファンに支えられてライブ動員もレコードセールスも増え、当初から不変だったふてぶてしいキャラが、この辺から浸透してゆく。
 外部プロデューサーやスタジオミュージシャンの積極起用によって、従来のベーシックなロックコンボにホーンやシンセが加わり、ライトユーザーにも敷居が低くなっている。2023年現在もライブ定番であり、認知度の高い「Angel Duster」「Boys Jump the Midnight」は、うっすら耳にしたことのある人も多いはず。
 この時期のネタを引っ張ると長くなるし、以前まとめて書いてるので、できればこっちを参照。




 アクは強いしとっつきづらいし、話しかけてもロクな返事が返ってきた試しがない。とはいえ、まったく浮世離れしてるわけでもなく、おそるおそる頼んでみれば、大抵のことはやってくれる。
 表情は計りづらいけど、案外悪い気はしてなさそう。まぁ相当気は使うけど。
 そんなスライダーズだったけど、この『Nasty Children』前後あたりから、様子が変わってくる。ズズ骨折による最初の活動休止以降、蘭丸のソロ活動が活発になったあたりから、多彩なコンテンポラリー王道路線のレールからはずれ、粗野で朴訥なサウンドへ回帰してゆく。
 周囲の提案を受け入れて、一応付き合ってはみたけど、やっぱ性に合わないのを自覚したのか。もともとハリー、メジャーデビューに前向きじゃなかったし。

 書き下ろした曲をメンバーに聴かせ、アンサンブルを揃える。ライブでやってみて反応見ながら、またリハで、いろいろ直したり削ったり足したり。そうやって少しずつ、レパートリーを増やしてゆく。
 できるだけライブのテンションそのままで、レコーディングに挑む。客前じゃないため、調子合わせるのでまたひと苦労だけど、現場でまたいろいろ試したり。
 完パケした素材をもとに、またライブで調整してみたりアドリブかましたり。初期のスライダーズは、そんな好循環ループが成立していた。手間も時間もかかるけど、結局のところ、それが一番効率がいい。
 人気も知名度も上がってゆくに従って、ライブ本数も会場もスケールアップしてゆく。本人たちの知らないうちにスケジュールがどんどん埋められ、余裕がなくなってくる。
 ふとした合間にギターをいじる余裕も少なくなり、制作ペースも落ちてくる。とはいえ、アルバムのリリーススケジュールは決まっているため、スタジオ入りするギリギリまで苦心惨憺し、どうにかこうにかひねり出す。
 スタジオ入りしてもできてない場合もあり、そうなると、いろいろ妥協せざるを得ない。ライブやリハで試すプロセスはすっ飛ばされ、充分練り上げられないまま、録って出しが当たり前になる。
 楽曲のクオリティが落ちたわけではない。たとえハリーがちょっとスランプだったとしても、そこはバンドの強み、どうにか形にはなる。
 ただ、ハリーが頭の中で描いていた仕上がりとは、微妙に違ってくる。いくら気心知れているメンバーとはいえ、本当のところは誰もわからない。みんな自分のことでさえ、隅々までわかってるとは言い切れないのに。

 前作『Screw Driver』以降、スライダーズのリリース・ペースは落ち、主にライブ主体の活動にシフトしてゆく。アルバムリリース→プロモーションツアーの円環ループを、おそらく自らの意思で断ち切った彼らはその後、ひたすらステージに立ち続けた。
 エピックとのリリース契約もあるから、いくらかはスタジオに入って音合わせしたり、デモ作成くらいはしていたのだろうけど、思うような形にならなかったのかもしれない。幅は広がったけど、深みが足りない。または、その逆かもしれないし。
 で、『Nasty Children』。長期休養に入ること前提で作られたのか、素っ気なく先祖返りしたような楽曲で占められている。
 以前のような引きの強いキラーチューンはなく、ロックコンボの原点に返ったシンプル・イズ・ベスト。キャリアを重ね、いろいろ潜り抜けた後でしか出せない熟練の深みはある。あるのだけれど。
 ハリーが抱えている闇はもっと深く、もっと暗かったのかもしれない。




1. COME OUT ON THE RUN 
 軽快なリフから始まるオープニング・チューン。キャッチーで覚えやすいメロディだし勢いもあるけど、重厚なリズムがどっしり地に足をつけて、浮わついた感を抑えている。
 少し前だったら高揚感あるサビメロで盛り上げてブーストかけるところだけど、手前で踏みとどまっている。
 求めている音は、そういうんじゃない。そういうことなのだろう。

2. CANCEL
 やや荒ぶったハリーのヴォーカルが印象に残る、こちらもネチッこいギターの音が煽るブルース・ロック。ライトユーザーへの配慮なんてカケラもない。

3. IT'S ALRIGHT BABY
 「多彩なアルバム構成?何それ?」的なワンパターンのブルース・ロック。前曲より、こっちの方が南部っぽさが強い。
 よく言えば様式美を追求した、シンプルなロックンロールではあるけど、単純な原点回帰ではない。キャリアを重ねたことで、デビュー時とはテクニックも解釈の仕方も違っている。
 伝統芸とはいえ、保守的ではない。単なるルーティンでは出せない音の厚みと重さは、ベテランならではの味。

4. FRIENDS
 ここでちょっとペースダウン。テンポゆるめでしっとりした、でもちゃんとロックンロールとして成立しているナンバー。
 切ないしっとり感は「ありったけのコイン」っぽい得意のアプローチだけど、ここではもっとカラッとした無常感、「歌はただの歌」という刹那さに満ちている。一時、ハリーの描く歌詞が深読みされたり意味性を深掘りする風潮があったのだけど、そういうめんどくさい外部の雑音を一笑に付してしまう潔さが、全編に流れている。 

5. LOVE YOU DARLIN'
 「レゲエ・ビートを取り入れたロック」じゃなくて、ロックバンドがプレイするルーツ・レゲエ。空虚でありながら重いリズムは、異様な存在感を放っている。
 日本のアーティストがレゲエにアプローチする際、大方はゆるく享楽的なビートにフォーカスする場合が多いのだけど、彼らの場合、当然だけどそんな陽キャな側面は見られない。通常セオリーである8ビートやファンクではなく、質感の違うリズムを選んだ必然が見えてくる。

6. THE LONGEST NIGHT
 ほぼ3コードで押し通した、シンプル極まりないロックンロール。ほんと愛想はないけど、この時期の彼らの本質に最も肉薄している。
 解釈のしようがないベタな歌詞や凝った捻りのない演奏など、結局、ハリーが志向していたのは、こういったサウンドだったんじゃなかろうか。偉大なるワンパターンを繰り返すことで、幅より深みを目指す。
 ひたすら愚直に基本パターンを繰り返す演奏。その円環の果てには、理想のサウンドが見えてくるのかもしれない。

7. ROCKN'ROLL SISTER
 そんなトラディショナルなルーツロックの深みに足を踏み入れながらも、現世との橋渡し的な役割を担っていたのが蘭丸だった。積極的に新たなアプローチをバンドに持ち込み、スライダーズがカビの生えたブルースもどきバンドに陥らなかったのは、明らかに彼の功績である。
 あるのだけれど、でも正直、彼のヴォーカル・ナンバーは…。歯切れ悪い物言いになってしまうけど、まぁそういうことだ。ハリーのちょっとひと息タイム的に、アルバム・ライブで一曲程度なら、まぁ。っていうところ。これ以上、言わせるなよ。

8. 安物ワイン 
 このアルバムの中ではメロディも明確で、『Bad Influence』あたりに入っていても違和感ないキャッチーなナンバー。歌詞は深読みしようがないくらい不器用な男のラブストーリーだけど、サウンドの素っ気なさと合わせるなら、このくらいベタでいい。
 無理やりシングル切ったら、そこそこ好評だったんじゃないかと思うのだけど、もうシングル・リリースなんて興味なかったんだろうな、この時期。ジャケット撮影したりPV作ったりで時間取られるより、ライブがしたい。そんな心境だったのだろう。

9. PANORAMA
 ラス前にフッと力を抜いたロッカバラード。おおよそスライダーズ、以前はサイケやファンク・テイストの楽曲があったり、辛うじて「多彩」と形容できる瞬間もあったのだけど、もうこの辺からはロックンロールとバラードの2本立てしかない。
 朗々としたヴォーカルとカラッとしたリズム、無骨だけど憂いのあるギター。たったそれだけだけど、これらが合わさると…、やっぱモノクローム。彩りを求める人たちじゃないけど。

10. DON'T WAIT TOO LONG
 ラストはちょっと趣が違って、このアルバムの中ではポップ寄り。ギターの音も心なしか浮遊感あるし、リズムも軽やか。
 この時代においても、決して新しい音ではなかった。ユーミン・バブルやバンドブームが華やかだった反面、こういったアウト・オブ・デイトな音楽にも、確実な需要があった。
 ヒット曲を否定する気はないけど、こういう音もないと、風通しが悪くなる。