421位 M.I.A. 『Arular』
単純に「MIA」で検索すると、V系バンドのギタリストが最初に出てくるので、ちゃんとドット入れようね。入れたら入れたで不穏なワードが出てくるけど。
サウンドだけ聴くと、普通にノリの良いトラップ/ヒップホップなのだけど、wikiを見るとカバーストーリーがいろいろ盛りだくさんで、そっちの方が気になってしまう。
芸名の由来が「Missing in action = 作戦行動中行方不明」と、まずポップシーンには縁の薄いワードが冒頭にある。詳しいところはwikiを見て欲しいところだけど、彼女にとって音楽とは単なる娯楽ではなく、ひとつの切実な表現/伝達手段であることがわかる。
一種のプロテストソングではあるけれど、単にストレートに想いや考えを押しつけるのではなく、きちんとエンタメとして成立させて幅広く流通させているのが、過去のメッセージシンガーとの違い。ガチな思想はわかるし否定はしないけど、普通のダンスポップと差異がないと感じてしまう。
言葉やメッセージはともかくとして、もうちょっとサウンドに引っかかりがあればいいんだけど。
他のランキングは第2版で『Kala』が393位初登場だけど、今回は圏外。
前回421位はVarious Artists 『The Best of the Girl Groups, Volume 1』。今回は圏外。
422位 Marvin Gaye 『Let's Get It On』
今ランキングで堂々1位となった『What’s Going On』に劣らない代表作のはずなのに、こっちは大きくランクダウン。いまだ地道に生き残っているクワイエットストームの源流『Midnight Love』もガン無視なので、いろいろフィルターがかかっているのは否定できない。
ベトナム戦争から黒人差別に及ぶ当時の社会問題を嘆いた、強く静かなパッションの産物である『What’s Going On』の舌の根も乾かぬうちに、「一発ヤリたいんだぜベイベェ」ってのたまっちゃうものだから、そりゃ聴いてる方からすればズッコケてしまう。時系列で追う必要のない現在でさえ、そのギャップは萌えに達しない。
ポリリズミックなアプローチや多重ヴォーカルの多様など、従来モータウンサウンドからの脱却という点は『What’s Going On』も『Let's Get It On』も同じベクトルなのだけど、扱うテーマはほぼ真逆。どっちがホントのマーヴィンなのかといえば、突き詰めてゆくと「どっちも同じ」という結論に達する。
もともとマーヴィン、歌詞やテーマに深く拘泥した人ではない。愛も平和も単なる創作の取っ掛かりでしかなく、むしろサウンドメイキングやヴォーカライズへウェイトを置いていた。
どんなテーマであっても自分のカラーに染め上げ、それがオリジナリティになってしまう。さすがに『離婚伝説』はあけっぴろげ過ぎたけどね。
このアルバムについては前回書いているので、詳しくはこちらで。そこでも書いてるけど『Distant Lover』はスタジオテイクより、ライブヴァージョンの方が映えるナンバー。
80年代サウンドに造詣の深い西寺郷太率いるノーナ・リーヴスが、「Ain’t No Mountain High Enough」をカバーしているのだけど、女性ヴォーカルがなんとヒックスヴィルの真城めぐみ。ストレートな直球カバーだけど、彼女の歌声は力強く、それでいて優しい。月並みでこんな言い方しかできないけど、ほんと好きなんだよ彼女の歌。
前回422位はRonettes 『Presenting the Fabulous Ronettes Featuring Veronica』。今回は494位。
423位 Yo La Tengo 『I Can Hear the Heart Beating As One』
名前だけは知ってたけどこれまで聴く機会がなく、いまさっき初めて聴いたヨ・ラ・テンゴのアルバムが初登場。1997年リリースなので、グランジ以降の人たちだと勝手に思っていたのだけど、案外キャリアは長く、80年代中盤から活動していたらしい。
80年代のロキノンってほぼUK一辺倒だったから、この時代のアメリカインディー系ってほぼ聴いてない。R.E.M.ですら、まともに紙面に載るようになったのって、90年代以降だったもんな。
当時のCMJチャートやカレッジロック系に多かった、UKニューウェイヴにインスパイアされたシューゲイザーもあれば、アンビエントなトラックもあったりして、リアタイで聴いてみたかった音が満載。ソニック・ユースみたいな側面もあれば、脱力したギターポップもあったりして、結構気にいっちゃったりもする。
「ロック(笑)」ってネガティヴに形容されてしまうことも多いけど、本国アメリカではいまだ根強い需要がある。みんながみんな、トラップやダンスポップばかり聴いてるわけではないのだ。
前回423位はDiana Ross & the Supremes 『Anthology』。今回は452位。
424位 Beck 『Odelay』
マジメにやってるのかテキトーにやってるのか、実は裏で隠れて努力してるかもしれないけど、多分そんなわけないだろうしキャラじゃねぇし。そんなベックの90年代を代表するアルバムが、あれランク落ちてるわ。
90年代アメリカ・オルタナを代表するアルバムとして喧伝され、実際、俺もロキノンにそそのかされて買った口だけど、当時はピンと来なくてさっさと売っぱらってしまった。ポップでわかりやすかった「Loser」と比べ、ロックの文脈とはまるで違うベックの先進性は、当時の俺のキャパを超えていたのだ。
サイケやフォークやヒップホップ、インド風味もエレクトロも盛り込んだ『Odelay』は、従来のポップ/ロックのセオリーをとことん回避し、文脈をはずしまくっている。様式美やルーティンを鼻で笑い、一聴してパロディみたいだけどシリアスに構築されたトラックは、どの先例にも当てはまらない。
「頭の中で流れる未知の音楽」という意味では、『Pet Sounds』と同じベクトルに属するアルバムなんじゃないか、と。ただあそこまで仰々しくならず、カジュアルに鼻歌混じりでこういった実験やコペルニクス的転回をやっちゃったものだから、いまだ誤解されてるんじゃなかろうか『Odelay』って。
アジカンが独自の日本語詞をつけてストレートにカバー。っていうか変化球投げづらい曲調なので、サウンド的には変にひねらなくて正解だったんじゃないかと。歌詞でいろいろ言葉遊びしてるけど、社会風刺や皮肉がステレオタイプなんだよな。そこが惜しい。
他のランキングは、『Sea Change』が432位→436位ときて、今回は圏外。
前回424位はBruce Springsteen 『The Rising』。今回は圏外。
425位 Paul Simon 『Paul Simon』
御年81歳、いまだ現役活動中。「ライブ引退する」と言った矢先からフェスに時々参戦、さらに新作レコーディング中。
「引退宣言?あれはウソだ」と開き直らんばかりに徘徊しまくるポール・サイモン、実質的なソロデビュー作は大きくランクダウン。このアルバムに限らず、長らくロック名鑑の安定株だったサイモン&ガーファンクルのアルバムも、軒並みランクダウンしている。でもそんなの関係ねぇ。
ポピュラー音楽全般に及ぶ功績は計り知れず、ソロでもヒット曲は多数あるはずなのに、特に日本では存在感の薄いポール・サイモン。総売り上げなら同世代のディランを軽く上回ってるのに、ブレーンの演出がヘタなのか、カリスマ性も薄い。
すれっからしの音楽マニアなら、カーペンターズやKISS同様、「ホントは君のこと好きなんだ」って口にしづらいけど、ふと思い出したように「僕とフリオと校庭で」を口ずさんでしまう。そんなこと人前じゃ言いづらいけど、でも身に染みついちゃってる人が、そっと票を入れたんじゃないかと思われる。
建前上、トップ10には入れづらいけど、50枚セレクト中の40位台に入れたユーザーが割と多かった。そんな結果が、この順位に収まったんじゃないかと想像する。日本で例えればチューリップやスタレビみたいな位置づけかな。
前回425位はGram Parsons 『Grievous Angel』。今回は圏外。
426位 Lucinda Williams 『Lucinda Williams』
女性オルタナカントリーシンガー:ルシンダ・ウィリアムズの再デビュー作が、98位『Car Wheels on a Gravel Road』に続き2枚目のランクイン。
このジャンルは日本ではシェリル・クロウが圧倒的に知名度も人気も高いため、あまり知られていないけど、「再デビュー作」と書いたように芸歴は長い。80年代初頭に純正カントリーシンガーとして、アルバム2枚リリースしているのだけど、これがほぼまったく売れなかったため、レコーディング活動から撤退してしまう。
ほぼ10年の時を経て、このアルバムで再デビューを果たすに至るのだけど、そのレーベルがなんとラフトレード。スミスやギャラクシー500やキャバレー・ヴォルテールやらほぼUK、しかもクセ強いメンツばかりの、インディ御用達のレーベルをわざわざ選ぶだなんて、騙されたとしか思えない。イヤ偏見なんだけど。
アメリカでの営業力が強いとは思えないラフトレードゆえ、リリース当時はこのアルバムもまったく売れなかったのだけど、『Car Wheels on a Gravel Road』のブレイクによって後追いで評価されたので、どうにか報われている。よかったね。
オルタナカントリーというよりはむしろルーツロック寄りのバンドサウンドで、ブルースナンバーもあったりして、ラフトレードのくせにマーケティングを意識したバラエティ感が演出されている。クロウのように女性ならではの感情吐露みたいなディープさはないので、こっちの方がポップに聴くことができる。
前回426位はCheap Trick 『Cheap Trick at Budokan』。今回は圏外。
427位 Al Green 『Call Me』
ここ10年は何してるのか音沙汰もなく、ほぼ引退状態にあるアル・グリーン全盛期の代表作はランクダウン。
今年77歳だって。ダイアナ・ロスやジミー・ペイジと同い年なんだな。同年齢のジェフ・ベックは先日亡くなったし、いずれにせよ終活に向かっててもおかしくない年頃だ。ポール・マッカートニーやストーンズは別の生き物なので、アレと比べちゃいけない。
全盛期ハイ・レーベルの作品なだけあって、同時期のマーヴィン・ゲイと比べて、声に艶があるイケイケ感がビンビン伝わってくる。そんな彼を「好きか?」って問われれば「別に」って答えちゃうけど、喉ひとつでのし上がってきた芸人根性は、生半可なソウルシンガーを寄せつけない。
日本ではほとんど人気のない彼だけど、現在のアメリカではどんな立ち位置なんだろうか。おそらく日本で言えば大御所演歌歌手、サブちゃんみたいなポジションと思われるのだけど、彼のように若手が慕ってくるかと言えば、そんな懐の深さがあるように見えない。10年以上前にジョン・レジェンドとコラボしてるらしいけど、ギリギリその世代までだよな、リスペクトしてるのって。
ウィリー・ネルソンやハンク・ウィリアムスらカントリー系のカバーを取り入れた作品だけど、彼が歌えば全部コテコテのソウルになってしまう。どんな楽曲も自分の方に引き寄せ、強引にねじ伏せてしまう胆力は、この世代の芸人ならでは。
前回427位はPeter Wolf 『Sleepless』。今回は圏外。
428位 Hüsker Dü 『New Day Rising』
80年代アメリカを代表するポストパンク/ハードコアの代表的バンド:3枚目のアルバムが前回よりランクアップ。名前だけは知ってたバンドだけど、ちゃんと聴くのはこれが初めて。
基本は激しいタテノリパンクだけど、思ってたよりメロが立ってる。もう少しあと、ピクシーズがこんな感じだったけど、彼らがロールモデルだったんだろうな。
「90年代、シュガーでブレイクしたボブ・モールドが前にやってたバンド」という程度の認識は、やっぱロキノンの影響。リアタイで聴いてなかったのは惜しまれるけど、日本盤出てたのかな?多分、出てたとしても、おそろしく品薄だったと思われるため、北海道の中途半端な田舎では叶わなかったかも。
日本でも21世紀に入ってからほんの一瞬、ハイスタや10-FEETがチャート入りするメロコアブームがあったのだけど、それもこれもAKB48に侵食されて立ち消えてしまった。ああいったムーブメント、また来ないかな。今ならもっと柔軟に受け入れられるんだけど。
前回428位はThe Police 『Outlandos d'Amour』。今回は圏外。
429位 The Four Tops 『Reach Out』
絶対的なリーダーだったリーヴァイ・スタッブスが2008年に亡くなり、ひとつの区切りがついたはずのフォー・トップス、唯一オリメンのDuke Fakirがグループを引き続き、活動してるかどうかはともかく、いまだ存続中。らしい。
そのデュークは現在、回顧録を執筆中、それを原作としたミュージカルが、今年中にブロードウェイで開催予定、とのこと。アル・グリーン同様、こっちもすっかり終活モードだな。
412位ミラクルズの時にも書いたけど、モータウン全盛期を支えたグループのひとつだったにもかかわらず、日本ではほぼ人気のないフォー・トップス。「フォー・トップス」で検索すると昔のジャニーズのグループが出たりして、おそらく一般的には、こっちの方が知られているかもしれない。
一応、男性コーラスグループというカテゴリなのだけど、どのトラックでもほぼリーヴァイの独壇場、豪快で圧の強いヴォーカルが前面に出て、他のメンバーの印象は薄い。
コーラスグループ特有の流麗なハーモニーは一切ない、ムーディとは無縁のマッチョイズム。キャラも濃ければ胸毛も濃い、そんな男性ホルモンが充満しており、モータウン特有のチャラいポップソウルとは一線を画している。
なので、モータウンの枠を取っ払い、スタックスやアトランティック系の泥臭さを求める人なら、スッと入ってこれる。2004年に結成50周年の2枚組ベストがリリースされており、むしろそっちの方がモータウン時代を俯瞰したセットリストになっているので、興味ある人には、そっちの方がおすすめ。
おそらくゴスペラーズあたりがやってるんじゃね?と思ってた「Reach Out」だけど、まったく予想外のところでカバーしてたよ川村かおり。辻仁成率いるエコーズ「Zoo」のカバーでデビューした彼女、結構カバーには恵まれていたけど、洋楽の、しかもレトロソウルにまで手を出していたとは予想外だったな。
90年代前半にフィットした、前向きな日本語歌詞とキラキラなダンスビートアレンジによって別曲みたいになっているけど、まだ希望にあふれた時代の楽曲と言う意味ではシンクロしている。まだバブルの残り香あった時代だもんな。
前回429位はBrian Eno 『Another Green World』。今回は338位。
430位 Elvis Costello 『My Aim Is True』
121位『This Year’s Model』に続き、コステロのデビュー作が2枚目のランクイン。初期キャリアに評価が集中しているのはまだいいとして、1枚目と2枚目とで、なんでここまで差がついちゃったのか。
この時点ではまだアトラクションズは結成されておらず、演奏しているのが後のヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのメンバーだったことも、ややマイナスポイントだったのかもしれない。実質的なデビュー作は『This Years Model』って認識なのかねアメリカでは。
このアルバムからの収録曲も、ほぼ半数がいまだライブのセットリストに入っており、それだけ根強い人気があることが窺える。もう何度もこすった曲だけど、演れば確実にウケてしまう。「アリソン」だけのアルバムじゃないことは強く言っておきたい。
このアルバムについては以前書いているので、詳しくはこちらで。近年、ジャパンカルチャーづいてるコステロ、マーチンに続いて「アニソン界の新人」デビューしたらウケるかもしれない。
多分、以前もどこかで紹介したパリス・マッチの洋楽カバーアルバム『Our Favourite Pop』、とってもジャジーな「アリソン」が聴ける。オシャンティー過ぎるかもしれないけど、もともとこういう作風の人たちだもん。
前回430位はVampire Weekend 『Vampire Weekend』。今回は圏外。