401位 Blondie 『Blondie』
(初登場)

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 146位『Parallel Lines』に続き、2枚目にランクインしたのは1976年リリースのデビュー作。ちなみに当時の邦題は『妖女ブロンディ』。当時の女性ロックアーティスト、おおかたそんな売り方ばっかり。
 収録曲も「戦えカンフーガールズ」やら「恐怖のアリ軍団」など、どうせ日本盤の売り上げったってタカが知れてるから、ディレクターが適当な邦題つけたんだろうな、って思って原題を見ると、何のことはない、ストレートな直訳だった。バンドもまたテキトーだったのか。
 そんな一発屋狙いなタイトルに反し、サウンドは案外まとも、きちんとプロデュースされている。ライブハウス上がりのバンドにありがちな、ダビング最小限の一発録りという安直な作りにはなっていない。キャッチーなメロディとざっくりガレージ感漂うアンサンブル、そして案外腰の座ったデボラのヴォーカルとが、うまくブレンドされている。
 初期衝動の捌け口の産物であったUKパンクが、シンプルなリズムとビートに乗せて社会批判や怒りを表現していたのに対し、NYパンクの系譜に属するブロンディは、当初からマスに希求するエンタメ性とポップなメロディを打ち出していた。どちらもロックの原点回帰をルーツとしながら、多少の下世話さはあったにしても、広く伝わりやすい話法を志向していた。遅かれ早かれ、ブレイクするのは必然だったと言える。




 1999年の再結成時にリリースされたシングル「Maria」、日本でもヒットした韓国映画『カンナさん大成功です!』の劇中で、主演のキム・アジュンが韓国語でカバーしていた。日本公開に向けてプロモーション用のシングルが制作されたのだけど、シンガーに抜擢されたのが梨花。そう、あの梨花。
 モデル主体の活動からテレビタレントへシフトチェンジしていた頃の音源だけど、もともと歌手でデビューしていたこともあって、普通にうまい。セックスシンボルとしてのデボラ・ハリーとはまったく重ならない、ガチのヴォーカル・パフォーマンスは必聴。
 前回401位はRed Hot Chili Peppers 『Californication』。今回は286位。




402位 Fela Kuti & Africa 70 『Expensive Shit』
(初登場)

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 1997年に亡くなってから、急に再評価が高まったフェラ・クティの代表作が初登場。今では普通に使われている「アフロビート」という言葉は彼が創造したとされ、その界隈ではいまだ神格化されている。らしい。名前は聞いてたけど、ちゃんと聴くのはこれが初めて。
 建国以来、いつの時代も政情不安だったナイジェリアに生まれたクティ、ロンドン留学時代に受けた人種差別の反動で、アフリカ民族のアイデンティティと政治的メッセージをポリリズミカルに演奏するアフロジャズを発明する。時代的に、公民権運動に由来するブラックパンサーやマルコムXが一種のスターとなっていた頃で、意識高いアフリカンの一部は、そのイデオロギーに共感し、突き動かされた衝動を音楽や暴力で表現していた。
 薬物と未成年淫行の容疑で収監されたクティ、濡れぎぬが晴れてすぐ釈放されたものの、官憲の横暴への怒りは収まらず、自宅を有刺鉄線で囲んで「カラクタ共和国」と命名、勝手に独立宣言してしまう。このアルバムは、そんな国家との対立中に生まれたもので、収監時、執拗に排泄物提出を強要されたことが制作動機とされている。
 その後、カラクタ共和国は1000人を超える軍隊によって破壊され、クティも逮捕される。国際的に注目を浴びていた裁判は非公開で行なわれたのだけど、そこで何がしかの裏取引でもあったのか、「2度とカラクタを名乗らないこと」を条件に、ほぼ無罪放免でクティは釈放される。
 その後間もなく、彼はバンドの女性コーラス27人と合同結婚式を執り行なうのだった。なんだその急展開。
 ここまで音についてまったく触れてこなかったけど、正直、エピソードを追ってく方が面白い人である。沼にハマったら、いろいろ見えてくることもあるかもしれないので、興味のある人は聴いてみて。聴いたあと、どんな感じか俺に教えて。
 前回402位はNAS 『Illmatic』。今回は44位。




403位 Ghostface Killah 『Supreme Clientele』
(初登場)

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 アーティスト名:ゴーストフェイス・キラー。誰かと思ったら、ウータン・クランの人だった。グループ活動が落ち着いた頃にリリースした2枚目のソロが 初登場。
 ギャングスタラップを通過して来なかった人生なので、他のラッパーと比べて差異があるのかどうかもわからないけど、当時は人気があったらしい。こういう機会がないと聴くこともないけど、まぁステレオタイプのギャングスタ。
 ここに至るまで何枚かのギャングスタを経て、
 「じゃあウータンって、何がすごいのか?」
 「単なるクリエイター集団っていう以上に、何か際立った点があるのだろうか?」
 という疑問が生じた。
 もしかして、受け手の俺に問題があって、実はちゃんとした聴きどころやポイントを見失っていたんじゃなかろうか。できるだけ謙虚な姿勢でネット情報を探ってみた。
 Q. ウータン・クランって、何がすごいの?
 A. ウータン・クランはニューヨークのスタッテン・アイランド出身のヒップホップグループです。 メンバーは非常に多く、ラッパーや周りのプロデューサーを合わせれば10名を超えます。
 彼らのすごいところはそれぞれのメンバーがソロでアルバムを発売し、しかもそれがヒットしていることです。
 薄い情報だ。上部の情報だけで肝心なところは何も触れてない。サウンド面には興味ないのだろうか、この回答者。
 「ウータンの特徴は、拍を無視したラップにある」。と書いてる人がいた。なるほど。詳しくはこちらで。




 それを踏まえてもう一度聴いてみた。みたけど、やっぱ印象は変わらない。
 そもそも事前学習してから聴く時点で、体質に合わないのだ。なので、聴く前と同じ結論。
 前回403位はLynyrd Skynyrd 『(pronounced 'leh-'nerd 'skin-'nerd)』。今回は381位。




404位 Anita Baker 『Rapture』
(初登場)

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 80年代ブラコンシーンを席巻したアニタ・ベイカーの2作目が初登場。グロリア・エステファンやメアリー・J. ブライジもそうだけど、この頃の女性R&Bサウンドは長い間、刹那な流行りモノとして低く見られていた。
 ほんとはみんな、アーバンでトレンディなムードに酔いしれていたはずなのに、表立って「こういうのも好き」とは言いづらかったんだよな。人に聞かれた時はスカして「普段聴くのはR.E.M.とスミス」って言ってたけど、日常的に耳にする機会が多かったのは、こういうサウンドだったのだ我々アラフィフ世代は。
 80年代以降はあまり目立った活動はしてなかったアニタ、アメリカを拠点にマイペースで、たまにラスベガスでリサイタルするパターンなのかと思ってたら、どうやら今年いっぱいで引退するらしい。まだ60を少し過ぎたくらいなので、体力的な問題とは言い難い。
 おそらくだけど、音楽だけに打ち込める環境に恵まれなかったのだろう。魑魅魍魎や山師が跋扈するアメリカの芸能界は、タフじゃないと生きていけないし、優秀なエージェントが必要不可欠だ。
 日本でも小洒落たシーンでよく使われていた「Sweet Love」は、みんな耳馴染みあるんじゃないかと思われる。実は人材難だった80年代女性ブラコンシンガーとして、貴重な存在だった彼女の早い引退が惜しまれる。
 前回404位はDr. John 『Dr. John's Gumbo』。今回は圏外。




405位 Various Artists 『Nuggets: Original Artyfacts from the First Psychedelic Era』
(194位 → 196位 → 405位)

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 60年代アメリカのガレージ/サイケデリックロックのシングルコンピレーションが、今回は大きくランクダウン。ビッグ・スターやニューヨーク・ドールズなど、70年代パンク前夜のバンドは今ランキングで高く評価されているのだけど、あまりに定番過ぎてみんな投票しなかったのか、またはある種の役割を終えたのか。どっちだろ。
 ラインナップを見ると、ほぼ聴いたことないバンドの名前が並んでいるのだけど、U2がリスペクトしていたエレクトリック・プルーンズやサイケの代表的バンド:13thフロア・エレベーターズ、トッド・ラングレンがいたナッズなど、知ってる名前もそこそこある。「無名のカルトバンドのレアシングル集」と思っていたのだけど、実際は全曲トップ40に入った中ヒットであり、「そこそこ知ってる楽曲が入ってるオムニバス」という位置づけがほんとのところらしい。
 のちにパティ・スミスのバンドでギタリストとして名を為すレニー・ケイが、エレクトラのオファーを受けてまとめたものであって、もし彼が無名のままだったら、そのまま単なるヒット曲集として歴史に埋もれていたかもしれない。日本で例えれば、ちょっと古いけど『ビート・エキスプレス』みたいなものかな。アレも結構レアなシングルオンリーの曲があったりして、一時、中古屋で探しまくったもの。
 実際、収録されているアーティストの多くはワンヒットワンダーであるため、変に気張って歴史の重要な1ページと思う必要はない。単なるヒット曲集って扱いが本来はふさわしい。
 あ、みんなそれに気づいて票入れなかったのかも。それなら納得。
 前回405位はBig Star 『Radio City』。今回は359位。




406位 The Magnetic Fields 『69 Love Songs』
(- → 465位 → 406位)

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 90年代のアメリカインディーを代表する、日本ではほぼ知られていないマグネティック・フィールズ、3枚組の大作が前回より大幅ランクアップ。タイトル通り69曲のラブソングが収録されているのだけど、どの曲もほぼ3分未満、バラエティ豊かなジャンルの楽曲が収録されている。
 リーダーのステファン・メリットがほとんどの楽器を自分で演奏しているため、良く言えばマルチミュージシャンなのだけど、テクニックにはあまりこだわらない、ていうか、テクニックで聴かせる楽曲があまりないため、その凄さが伝わってこない。トッド・ラングレンみたいだな。
 もともとは「100曲のラブソングを書いてライブ演奏する」っていうのが初期構想で、アルバム制作は後になって決まったことだった。実際、2部構成で7回、全69曲演奏ライブを行なっているのだけど、本人的には100曲やりたかったんだろうな。多分、そのうちやるかもしれないし。
 シンプルな演奏とポップなメロディはゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツに通ずる部分も多く、彼らが好きな人なら受け入れやすいんじゃないかと思われる。個人的には、他のアルバムも聴いてみたいと思った人たち。
 前回406位はPJ. Harvey 『Rid of Me』。今回は153位。




407位 Neil Young 『Everybody Knows This Is Nowhere』
(206位 → 210位 → 407位)

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 盟友デヴィッド・クロスビーの訃報を受け、さすがに落ち込んでるんじゃないかと思われる荒馬:ニール・ヤング、クレイジーホースとの初共演作が前回より大きくランクダウン。初顔合わせの肩慣らしというか互いに探り合いというか、ここではまだオーソドックスなカントリーロック。その後のハチャメチャぶりを知ってるだけあって、まだおとなしく聴こえる。
 無指向性でありながら確固たる主張、常に手抜きせず全力投球前のめり。休んでるところなんて見たことない。ほぼ毎年、最低1枚はニューアルバムをリリースするワーカホリックぶり。身内にいたら疲れちゃうタイプの人だな。周囲の人を振り回しまくる俺流主義。
 この時期はクレイジーホースとソロ、そして盟友CSN&Yと、複数のチャンネルを持っていたヤング、ずば抜けた多作の為せる技であり、しかもどれも手を抜いた形跡がない。圧倒的な仕事量と才能の前には、誰もがひれ伏せざるを得ない。
 年を経るごとにギターの音は歪み、リズムも激しさを増してゆくクレイジーホース。まだ旅の途中である2023年の彼らの音は、バイオレンスな轟音と亡くなった友への嘆きで満ちあふれている。
 それらのルーツである『Everybody Knows This Is Nowhere』の音は、まだナイーブで透徹とした響きを奏でている。ずいぶん遠くまで来てしまったんだな。




 クロスビーとほぼ同時期、高橋幸宏もまた天国の住人となった。幸宏については近い将来、きちんと書く。
 「ニール・ヤングという人は、声を聴いているだけでも悲しくなる。果たして彼は、悲しい歌を歌っていたんだろうか、歌おうとしていたんだろうか、という疑問が湧いてくることがあるんです」。
 あまり接点がなさそうだけど、これまで3曲、彼の曲をカバーしている幸宏。彼が歌う「The Loner」は軽やかに響く。声質はまるで違うけど、その歌声はヤング同様、とても切なく悲しくなる。
 前回407位はThe Clash 『Sandinista!』。今回は323位。




408位 Motörhead 『Ace of Spades』
(初登場)

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 UK発スラッシュメタルのゴッドファーザー:モーターヘッドの代表作が初登場。こう書いてるけど、ちゃんと聴いたことはない。バイカーっぽいジャケとレミーのカリスマ性はなんとなく知ってたけど、ヘヴィメタだもの、俺が聴いてるわけがない。
 彼らとジューダス・プリーストとの違いすらわからない俺が初めて聴いてみたわけだけど、これが案外悪くない。ウェット感のまるでない、疾走感とダイナミズムに特化した音は明快で機能的だ。
 世間一般のヘヴィメタルにも、スピード感はあるしラウドな音響はあるのだけど、時々出てくる情緒的なギターソロや類型的なハイトーンヴォイスは、俺の好みとは微妙にズレている。わかりやすいサビや内面を反映したバラードとか、そんなのはいらない。純粋な音響の快感以外は不要なのだ。
 システマティックと言ったら言い過ぎだけど、ファンに媚びるキャッチーなメロや速弾きギターソロなんてのもいらない。余計なファクターをとことん削ぎ落とさなければならないのだ。
 モーターヘッドの音は、そんな当たり前のことを教えてくれる。重くゴリゴリのギターリフとリズム、そして呪詛のようなヴォーカル。多分、他のアルバムも似たようなものなのだろうけど、同じテーマをブレずに追求し、純化させてゆくことが彼らのこだわりなのだ。
 前回408位はSinead O'Connor 『I Do Not Want What I Haven't Got』。今回は457位。




409位 Grateful Dead 『Workingman's Dead』
(259位 → 264位 → 409位)

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 リーダー:ジェリー・ガルシアの死による解散から四半世紀、ほぼ毎日のように発掘される膨大なアーカイブと派生バンドの活躍によって、いまだ根強く支持されているデッド4枚目のスタジオアルバムが、大きくランクダウン。オフィシャルリリースのアイテムがあんまり支持されていないのは昔から。
 当時の西海岸に溢れかえっていた、ヒッピーくずれのジャムバンドに過ぎなかった彼らが、ライブ活動以外にも目を向けて、スタジオレコーディングにも力を入れ始めたのが、この頃とされている。地元以外にもファンが生まれ、関係するスタッフも多くなると、全米もしくは世界を視野に入れた活動へシフトするのは自然の流れだったと言える。まぁ結果的に合わなかったんだけど。
 ライブステージで展開される、延々終わりの見えぬ無限ジャムセッションとは差別化した、ユルいけどコンパクトにまとまったアメリカーナサウンドが展開されている。カッコつけて言っちゃったけど、要は無難なカントリーロック。
 不特定多数のユーザーを相手にするなら、コンパクト路線は正しい選択ではある。何かひとつくらいシングルヒットでも出れば、それが呼び水となって新たな客層をライブに呼び込むこともできるし。
 まだ若かりしガルシアとその仲間たち、当時はそんな野心も多少はあったんじゃないかと思われる。ただメジャーが推す、アルバムリリースに合わせたパッケージツアーは性に合わず、次第にライブ中心の独自路線を追求してゆくことになる。
 前回409位はThe Doors 『Strange Days』。今回は圏外。




410位 The Beach Boys 『Wild Honey』
(初登場)

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 何かと曰くつきの『Smily Smile』の後にリリースされたため、長らく低評価どころか無視され続けていた『Wild Honey』が初登場だって。以前はリイッシュー企画にも上げられず、聴くことすらままならなかったのに。
 ブライアン・ウィルソン渾身の『Smile』は、彼のリタイアによって制作は頓挫、未完の大作として長らく棚上げされることになる。リリーススケジュールを変えることは許されなかったため、残りのメンバーが中途半端な素材をかき集め、どうにか突貫工事でまとめ上げたのが『Smily Smile』、さらにその3ヶ月後にリリースされたのが、このアルバム。
 自発的ではなかったとはいえ、泥縄的にメンバーらが主導権を握り、初期段階からレコーディングに関わり始めたのが、ここからとなる。ブライアンにほぼ丸投げしていたレコーディング作業を、何の準備もなく突然任されたため、手探り感やら無難な手抜き感も伝わってくる。
 ただ、当時はまず完パケさせることが最優先され、やっつけ仕事であっても納期に間に合わせることが善しとされていた60年代。何しろ毎月のように往年の名盤が誕生していた時期なので、踏みとどまることは許されなかったのだ。




 ハイスタの横山剣がソロアルバムで「ココモ」をカバーしている。出だしはゆったりペースだけど、最初のヴァースが終わると、やっぱいつものハイテンションなメロコア。ハワイアンな原曲はどこへやら、ムードもリスペクトもへったくれもない前のめりビートは、別の意味で小気味いい。
 前回410位はBob Dylan 『Time Out of Mind』。今回は圏外。