251位 Elton John 『Honky Château』
(353位 → 359位 → 251位)

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 このアルバムで初の全米No.1を獲得し、以降は世界をターゲットとしたアーティストとして、底なしのポップモンスターに変容していくエルトン。この頃はまだ奥手のシンガーソングライターに過ぎなかった。環境は人を変える。
 今を持って代表曲の「ユア・ソング」でアメリカ市場に進出し、その後も畳み掛けるようなリリース攻勢で知名度を爆上げしていた頃の作品は、どれも丁寧に作られたポップソングで、珠玉という形容がふさわしい。60年代のサイケやハードロックに疲れてしまった、または着いていけなかった大衆層にとって、彼の歌はちょうどいい心地よさがあった。
 バラードからロックンロール、はたまたホンキートンクまで多彩に詰め込んだ彼の曲は、バラエティに富んでおり、それでいて破綻が少ない。皮肉でも何でもなくて、親子三代安心して聴けるアーティストというのは少なく、それでいて一定以上のニーズがある。だからこそ、ビリー・ジョエルがあれだけ売れていたわけだし。
 ほぼ同時代に活躍したギルバート・オサリバンと比べ、ビジュアルは圧倒的に不利であったし、むしろ日本では「アローン・アゲイン」の方に根強い支持があったのだけど、旺盛な量産力とエンタメに徹した芸人根性が、彼の武器だったと言える。ファンへのサービス精神という面においては、圧倒的にエルトンの方が徹底していたし。
 オサリバン同様、ここ日本ではベスト・アルバムで済まされてしまうアーティストだけど、長い下積みからの解放感と承認欲求にあふれた70年代の作品は、やっぱ聴いてみると興味深い。90年代以降の大御所演歌歌手みたいになっちゃった彼もまた、むせ返るほどのロマンチストぶりと煩悩とが交差して、それはそれでまた見てて面白いんだけど、丹精なハンドメイドを堪能するなら、この時代ははずせない。
 前回251位はDavid Bowie 『Low』。今回は206位。




252位 Devo 『Q: Are We Not Men? A: We Are Devo!』
(439位 → 442位 → 252位)

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 俺世代にとってはディーヴォ、ニューウェイヴ色が強かった頃の「すすめ!パイレーツ」のパロディ画像が真っ先に思い浮かぶ。まだ「愛と正義と友情」路線の前、主に本宮ひろ志一派の作品が多かった頃の週刊少年ジャンプのラインナップの中、ポップアート色を強めていた江口寿史の作品は、そこだけ別世界の時空が流れていた。思えばYMOもクラフトワークも佐野元春も、これで知ったんだよな。
 なので、実際に音を聴いたのはずっと後だった。多分、そういうのは俺だけじゃないはず。国内盤も少なければ輸入盤屋もそんなにない当時、海外ニューウェイヴの作品を入手するには、いくつもの障壁があったのだ。
 あの「サティスファクション」を、パンク・スタイルのテクノポップでカバーするというコロンブスの卵的発想は、多くのポストパンク・バンドから一歩も二歩も抜きん出ていた。そんなぶっ飛んだアイディアを思いつきだけに止めず、まぁ冗談半分だったとしても形にしちゃったことは共学に値する。って、そこまではちょっと言い過ぎか。
 いわばアイディア優先の一発芸、ある種の工業規格のようなビジュアル・イメージといい、話題を集めるだけ集めたら早期撤収してしまいそうなバンドなのだけど、案外長持ちしており、一旦解散した後に再結成までしちゃってる。しかも、現在進行形で活動中だ。どうだ、まいったか。
 一応、日本にはほぼ彼らの直系とも言うべきポリシックスがおり、彼らの特徴であるコンセプチュアルなキッチュさは受け継がれているのだけど、まぁ一部の意識高い系に支持されるだけにとどまっている。イヤどっちのバンドも志は嫌いじゃないんだけど、面白がるだけで終わっちゃって、何度も聴く気にはなれないんだよな。
 前回252位はJay-Z 『The Blueprint』。今回は50位。




253位 Pink Floyd 『The Piper at the Gates of Dawn』
(343位 → 347位 → 253位)

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 60年代サイケ・ムーヴメントに芽吹いた、多くの徒花的バンドのひとつ、ピンク・フロイド。鬱々と苦悩する同名プログレ・バンドとは、別ものと捉えた方がよい。じゃないと混乱する。
 LSDでラリラリ状態の客ウケを狙った、サビなし・オチなしの冗長なインプロビゼーションと、当時は最先端だったチンケなライト・ショウは、ごくごく小さなコミュニティでささやかな盛り上がりを見せていた。エキセントリックな言動と思わせぶりなアバンギャルドを演じられれば、そこそこ話題を集めた時代だった。
 当時から鬼才扱いされていたシド・バレットの楽曲は、フロイド本体の活動と連動して、これまでも何回か再評価ブームがあった。隠遁して以降、謎に包まれた私生活を続けたレジェンドをリスペクトする者は後を立たず、特に今世紀に入ったあたりから妙にリコメンドの機運が高まって、40周年記念エディションまで作られる始末。
 イヤイヤ持ち上げ過ぎだって。暗示と示唆が交差する散文的な楽曲は、良く言えば豊穣なイマジネーションの産物だけど、はっきり言っちゃえば、収拾不可能な未完成品ばかり。それこそハイな状態だったら神が見えるかもしれないけど、シラフだと繰り返し聴くものではない。
 シドのセンス一本でメジャー・デビューに漕ぎ着けたバンドは、予想外のシドの脱退によって、方針転換を余儀なくされる。感性は凡庸だけど、一応のドラマツルギーを持っていたロジャー・ウォーターズが後釜に収まり、眉間にシワ寄せた絶望と疎外感は、計らずも世界に広く受け入れられることになる。
 壮大かつ空虚なドラマを描き切ったことで、ウォーターズはバンドの終息を決断、ソロへ転向する。その後釜に収まったデヴィッド・ギルモアは、2人のようなセンスもドラマ性も持っていなかった。ただ、置いてきぼりにされたファンのニーズを的確に捉え、大衆が望むパブリック・イメージのフロイドを演じ切った。
 初期型フロイドは、シドのオーバーロードによって短命で終わり、そして伝説となった。ルーツや原点というには、あまりに装いが違いすぎる。
 多分、GS関連なら誰か1人くらいカバーあるんじゃね?と思っていたのだけど、探してみたら意外な人がやっていたよオリジナル・ラブこと田島貴男。しかも邦題「エミリーはプレイガール」をまんま引き継いで、しかも自分で和訳してる。
 強い自信とキャラに満ちあふれた人なので、もう何を歌っても田島貴男になってしまうのだけど、それがここではうまく作用している。フワッとした曖昧なビートロックが、どっしり腰の座った正統派ロックになっている。歌うまいよなぁ、この人って。




 前回253位はBruce Springsteen 『The River』。今回は圏外。って、えぇっ!? 無理やり『Nebraska』ねじ込むくらいなら、ちゃんとこっちを評価しようよ。そりゃ耳タコかもしれないけど、やっぱ「ハングリー・ハート」は名曲に間違いない。




254位 Herbie Hancock 『Head Hunters』
(498位 → 圏外 → 254位)

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 なんとハンコックのランクインは、これ一枚だけ。今もしつこくサンプリング・ソースで使い倒されている『処女航海』も『Takin’ off』も『Future Shock』も、初版から影も形もない。なぜだ。
 ジャズにファンクのリズムを持ち込んだのがマイルスだったことは厳然たる事実だけど、それを幅広く普及させたのはハンコックである。混沌としたテイクが山積みとなり、それらをプロデューサー:テオ・マセロに丸投げ、あとは勝手にせーや的態度のマイルスに対し、普及型のフォーマットを模索し、ダンスフロア仕様にブラッシュアップしたのが、彼の大きな功績だった。
 偉大なるフロンティアだったマイルスの後塵を拝してる印象のハンコックだけど、単なるフォロワーに終わらなかったのは、マイルス同様、異ジャンル交流に積極的だった点が大きい。ある程度、枠組みが決まってしまって自家中毒に陥っていた60年代ジャズに敬意を払いつつ、「俺こそがジャズ」と言わんばかりに、続々新基軸を打ち出していった70年代のハンコックは、マイルスとはまた別の意味でのオリジネイターである。
 スタンダード・ジャズとジャズ・ファンクの狭間を気ままに往来しながら、この10年後に「rockit」でヒップホップに急接近、その後も10年に一度のペースで覚醒して、ハウスやテクノ、レイヴを取り込んだ作品をリリースしている。既成ジャズの破壊→再構築とも言えるし、大胆な拡大解釈という見方もあるけど、その時代のヒップな音楽という定義で考えると、ハンコックはメインストリームのジャズをやり続けている。
 そんな70年代初頭の空気をたっぷり詰め込んだ『Head Hunters』、音の端々から感じられるのは、トップ・クリエイターだったジミヘンの影響。「カメレオン」のソロ・パートで展開される、制御不能な乱れ打ちのテンション・コードからは、強いリスペクトが窺える。
 前回254位はOtis Redding 『Complete & Unbelievable: The Otis Redding Dictionary of Soul』。今回は448位。




255位 Bob Dylan 『The Freewheelin' Bob Dylan』
(98位 → 97位 → 255位)

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 いにしえのロック名盤ガイドでは、フォークの名盤として常連組だったこのアルバムも、世代交代のあおりを喰って、もはやこんなところに。今回のランキングで、ジョニ・ミッチェル 『Blue』が2位にランクインしたように、骨組みだけのシンプルなアコースティック・サウンドは、今も根強い支持はあるのだけれど、「それはディラン、あんたじゃない」ということなのか。パーソナルで内省的な『Blue』が象徴するように、時代は内向きの個を欲している。
 とはいえ『Freewheelin' 』、アナログA面は「風に吹かれて」に始まり、以降も「北国の少女」「戦争の親玉」「くよくよするなよ」「Hard Rain」と続く有名曲のてんこ盛り。オリジナルは聴いたことなくても、無数のカバーが存在する楽曲が並んでいるので、メロディを記憶している総数はかなりにのぼる。ただB面に入ると、退屈しちゃうんだよないつも。
 様々な暗喩や解釈やこじつけや思わせぶりが混在するディランの作詞術は、当時としては飛び抜けていたことは察せられるけど、それはちょっと置いといて、メロディについて。言葉やフレーズの普遍性が初期ディランの独自性を際立たせたことは周知の事実だけど、そういった先入観で聴いてみると、固い言葉と案外フィットしたメロディの秀逸さと、実は多彩なヴォーカル・テクニックが浮き上がってくる。
 ステレオタイプのディラン物真似で顕著なように、ここでも吐き出し叩きつけるような一本調子ではあるんだけれど、フレーズごとに細かな抑揚をつけたりして、曲調に応じてニュアンスを付け加えている。特にのちのロック転向を暗示させる「Hard Rain」では、荒ぶりを抑えきれない若きディランの叫びを聴くことができる。
 商業化とは背を向けた、反骨のプロテストやトピカル・ソングを歌うシンガーが跋扈していたこの時代、ディランだけがなぜ生き残ったのか。それは汎用性が高く、味つけ次第ではポップソングへも換装可能なメロディの力が大きかったんじゃないのか。そんな使い勝手の良さは、実は案外、見過ごされてるんじゃないかと思う。
 ディランのカバーはこうしている今も絶えず量産されているはずだけど、俺的に「風に吹かれて」といえば、やっぱりこれに落ち着く。多感な時期に出会ったRCサクセション。




 前回255位はMetallica 『The Black Album』。今回は235位。




256位 Tracy Chapman 『Tracy Chapman』
(258位 → 263位 → 256位)

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 ディランに続き、こちらもフォーク・スタイルのシンガー。メジャー・デビューにあたって、さすがに簡素な弾き語りスタイルだとリスキーなので、小編成のフォーク・ロックでまとめている。
 ソウルやR&B成分を含まない黒人女性で、強いメッセージ性を前面に出したフォーク・シンガーは、当時としても稀有な存在で、多分、今もそんなにいないはず。そういった問題意識を訴えるのなら、今ならラップの方が効果的だし手っ取り早いはずだし。
 日本でも彼女のデビューは話題になり、このデビュー・アルバムも好意的な批評が多かった記憶がある。「Fast Car」のPVはMTVでも推されていて、結構な確率で見聴きした。
 愚直でありながら真摯な姿勢での訴え、長らく不当な扱いを受けたことをシンプルに、リアルな言葉と旋律で表現する彼女の音楽は、世界中から注目と称賛を受けた。ハードな言葉と静かな叫び、それらの世界観を壊さず、慎重にポップ・コーティングしたエレクトラのスタッフの助力も大きかった。
 世界中で一千万枚のセールスを記録したこのアルバムのインパクトが強すぎたのか、その後は地味なポジションに落ち着いている。どうやら地道に活動は行なっているらしいけど、21世紀に入ってからは、目立った話題は聞かない。
 本国アメリカでもこのデビュー・アルバムの評価は高く、80年代には冷淡なこのランキングでも、初版からほぼ定位置、大きな変動もなく、安定したポジションを維持している。大仰に拳を振り上げるのではなく、静かに諭すように現状を呟く彼女のスタイルは、大ざっぱなアメリカ人にも強く印象づけるものだった。
 ジョージ・マイケルやガンズがチャートを席巻していた中、ひっそり静謐な、それでいて凛として人種や男女差別を訴え続けたトレイシー・チャップマン。今よりずっと、幅広くカオスなチャート展開だった、そんな1988年。
  日本でカバーしている人なんていないんだろうなと思ってたら、意外なところにいた矢井田瞳。シングル「アンダンテ」のカップリングで「Fast Car」をカバーしている。
 味気ない日常をどうにか生き抜こうとする、そんなトレイシーの描く世界観を、ほどよくドライな質感の言葉にうまく移植している。歌う映像を見ると、ほんとにこの歌が好きなんだというヤイコの純粋なリスペクトが伝わってくる。




 前回256位はKraftwerk 『Trans-Europe Express』。今回は238位。




257位 Dolly Parton 『Coat of Many Colors』
(295位 → 301位 → 257位)

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 アメリカのエンタメ界の大御所で、「ザ・芸能人」という称号がふさわしい、そんなドリー・パートンの初期アルバムがランクイン。日本で例えれば和田アキ子や小林幸子あたりに相当するのかな?
 日本でも一応、名前は知られているけど、実際の音楽はそんなに伝わっておらず、ドラマにも結構出演しているので、マルチタレントという印象が強い。実際に聴いてみると、歌だけでも相当の実力なのだけど、カントリー界は裾野が広い分、実力派がゴロゴロ転がっていることもあって、そんな中から抜きん出るには、エンタメ路線に切り替えないと生き残れなかった、って流れ。
 ジョニー・キャッシュと出会ってカントリー・シンガーの道を志したテネシーの少女は、様々な紆余曲折を経て、着実にスターダムの階段を昇っていった。時にはライバルを蹴落としたり実力者におもねったり、あらゆる手管を使って、自分の信じる道を歩み続けた。
 デビューまでの狭き門を先んじてくぐり抜けるため、彼女は使えるものなら、何でも利用した。ドリーだけではなく、多くの少女たちがアメリカン・ドリームをつかむため、権力者に自らを献上し、押し退けて列に割り込んだ。ドリー・パートンの背後には、多くの夢破れた少女たちの屍が打ち捨てられている。
 全然関係ないんだけど、欧米では不定期に、彼女のバスト、豊胸手術が話題になっているらしい。もはや孫世代のリル・ウェインやドレイクも、曲の中でネタにしているので、アメリカ人にとっては定番ネタなのだろう。和田アキ子の「ゴッドねえちゃん」ネタみたいなものか。
 前回257位はWhitney Houston 『Whitney Houston』。今回は249位。




258位 Joni Mitchell 『The Hissing of Summer Lawns』
(初登場)

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 邦題『夏草の誘い』は、サウンドとのミスマッチ感甚だしいのだけど、でもこれって直訳なんだよな。あながち間違ってはいないんだけど、でもやっぱ違和感ありありだよな。なんでジャケットで、大勢でデカいコブラ抱えてるんだよ、意味わかんねぇ。
 そんなギャップを狙ったのかどうかはさておき、ジョニ4枚目のランクイン、本格的にジャズ/フュージョン・サウンドへの転身を図ったこのアルバムが、今回初登場。ジャケットは地味だけど、中身はバラエティ色豊かで、個人的には大好きなアルバム。
 一般的にジョニの代表作としてピックアップされるのが、まず『Blue』。これはガチガチの定番。続いて、この『夏草の誘い』の前後に当たる『Court & Spark』か『逃避行』。そういえば今回、全部ランクインしてるんだよな。
 あと付け加えるとするなら、ジャズ/フュージョン期の総決算『Shadows & Light』といったところ。80年代以降は、あまり再評価されていない。彼女のディスグラフィーでは異端の『Dog Eat Dog』、俺は結構好きなんだけどな。ほんと虐げられてるよな、80年代のアルバムって。
 で、昔から高評価な主要アルバムに挟まれて、イマイチ地味な立ち位置だった『夏草の誘い』、何故だか年を追うごとに評価が高まっている。ジャズ系ミュージシャンを多く起用しながら、まだフォークの残滓が目立っていた『Court & Spark』を過渡期とするのなら、ジャズの文法をきちんと咀嚼して取り込んだのが、ここからだった。
 ジャズへの傾倒具合はその後も徹底され、ある意味、ファン不在まで行き着いた『Mingus』にて、一応の帰結点を見ることになる。そういう意味で言えば『夏草の誘い』、ちょっぴりメルヘンなタイトルがあらわすように、間口の広いアルバムである。
 前回258位はKinks 『The Kinks Are The Village Green Preservation Society』。今回は384位。




259位 Janis Joplin 『Pearl』
(124位 → 125位 → 259位)

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 いにしえのロック名盤ガイドでは、大抵『Pearl』と『Cheap Thrills』がエントリーされていたものだけど、今回ランクインはこれだけ。後者に至っては、初回から影も形もない。
 ポップ・カルチャー史的には、RCサクセションもリスペクトしていた、ロバート・クラムによる『Cheap Thrills』のジャケット・アートワークのインパクトが強いと思っていたのだけど、もうそういう時代じゃないんだな。淋しい時代だな。
 「27歳で夭折した伝説のシンガーの遺作」というエクスキューズは、アメリカにおいても強い効き目があるらしく、順位は下がってるけど、いまだ根強い支持が集まっている。キュートなあやつり人形を求められていた女性シンガー市場において、まったく違う導線を引いたのがジャニスだった。その功績がとてつもなくデカいことは間違いない。
 死後半世紀経って、評価もほぼ固まってしまったジャニス。活動期間が短かったこともあって、新たな発掘音源も底をつき、今後の再評価はちょっと難しい。今年に入って、彼女がコツコツ作り上げていたスクラップブックが限定復刻される記事を見たけど、ネタ切れが深刻なことが窺える。
 誰が買うんだそんなの、と思いつつ、そこそこ需要はあるのかもしれない。海外直輸入のボックスセットって、やたらメモラヴィリアがオマケでついているし、とにかく何でもいいからジャニスの発掘アイテムを望んでいる熱狂的ファンにとっては、垂涎モノなんだろうか。
 で、『Pearl』、アルバム製作中にジャニスがオーバードーズで亡くなったため、インストのみだったり仮歌のトラックも混在しており、かっちりまとまってるわけではない。細かく聴けばアラも目立つんだけど、半世紀も経つと、そういうのも含めて味わい深くなってしまう。
 どうにかこうにか辻褄合わせて形に整え、リリースに漕ぎ着けたのが、わずか死後3ヶ月。まぁ商売としては正しい。
 近年ではグリム・スパンキー、古くはカルメン・マキやら寺田恵子やら、シャウト系の女性ヴォーカリストが一度はカバーしている邦題「ジャニスの祈り」。せっかくなら異ジャンルで誰かいないかと探してたら、ヒットしたのが平原綾香。
 長寿番組「題名のない音楽会」の記念企画ライブで、ビッグバンドを従えて歌っている。相当ロック寄りに気合いを入れたのか、真っ赤なドレスが目にまぶしい。
 ジャニスほどハスキーなはずもなく、当然、発声も正攻法でミスマッチかと思ったけど、聴き続けているとバックバンドとの相性も抜群で、いい意味で聴きやすい。こういったアプローチもアリなんだ、と思い直してしまう。




 前回259位はJanet Jackson 『The Velvet Rope』。今回は318位。




260位 The Slits 『Cut』
(初登場)

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 おそらく俺だけじゃなく、例のジャケット・アートワークの印象しか残っていない人が多いはず。そういう意味では、ディーヴォと似たくくりかな。
 なんで21世紀のこのタイミングでランクインしてきたのかは不明だけど、当時はまだ珍しかったUK発の女性ニューウェイヴ・トリオが、ここにきて初登場。アバウトなガレージ・パンクにダヴ/レゲエのエッセンスを合わせたのは、何でもアリだったこの時代においても突出したアイディアではあるんだけど、まぁ正直、やらされてる感は否めない。
 名前は知ってたけど「多分イロモノ」という先入観もあって、ちゃんと聴いたこともなければ詳細も知らなかったので、wikiを読んでみた。まだブレイク前のクラッシュの取り巻き、いわゆるバンギャの中からキャラが立ってるのを寄せ集めて結成されたのが、スリッツの原型となっている。
 そもそもの動機がこんな感じなので、音楽的な意義や目標なんて何もない。なんか周りにノセられて、あれよあれよという勢いでデビューしちゃったんじゃないかと思われる。ブラインド・フェイスやジミヘン『Electric Ladyland』らと肩を並べるジャケット・デザインも、周囲におだてられた末、あんな感じになっちゃったんだろうな。単純にインパクト重視で、音楽的な必然はまったくないもの。
 パンク/ニューウェイヴに限らず、女性だけのバンドの絶対数が少なかった70年代のUKでは、彼女たちの存在はインパクトあったんだろうけど、時代の仇花みたいなもので、長く続けるものではない。ノン・クレジットでネナ・チェリーがコーラス参加しているのをいま知ったけど、その後は全然違う路線に行っちゃってるので、どんな位置づけかはちょっと不明だし。
 あやつり人形とわかってはいながら、それでも自分たちなりの爪痕を残そうとする彼女らのひたむきさ、拙さゆえ勢いでねじ伏せてしまうスタイルは、それはそれでシリアスなんだけど、イヤ一回聴けば充分だわ。
 前回260位はWillie Nelson 『Stardust』。今回は圏外。






コメント

 コメント一覧 (1)

    • 1. ヨリミチ
    • 2021年12月12日 03:25
    • そのミュージシャンを知らない又は理解出来ない故にこき下ろしに終始するのなら、無理して総捲りレビューなどやらなくてもいいのでは?
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