231位 Tom Petty and the Heartbreakers 『Damn the Torpedoes』
(309位→315位→231位)

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 粗野で土臭いアメリカン・ロックでありながら、適度なポップ性と繊細さを併せ持つ、ハートブレイカーズ名義の3作目が大きくランクアップ。興味はなくとも耳に入ると受け入れてしまう、ほどほどフックの効いた泣きのメロディは、アラフィフ以上のアメリカ人にとっての心のふるさと。
 日本ではもちろん、もはや本国アメリカでも気軽にラジオで聴くことはなくなったサウンドだけど、トラップやフューチャー・ベースで疲弊した耳には優しい音である。無理にリズムを取ったり踊ったりしなくてもよく、ふと口ずさんでしまうだけの歌。いいんだよ、そのくらいでさ。
 トム・ペティをちゃんと聴いたことはなかったけど、何となく想像してた通り、そこかしこに散りばめられている、ディランへの強いリスペクト。「もしもディランが8ビートで歌ったら」「ディランが切なくウェットなバラード歌ったら、こんな感じだな」など、ほぼすべての楽曲がトム・ペティ流ディラン解釈を中心に制作されている。
 多くのディラン・フォロワーと違って彼らの場合、あくまで表面的なメロディ・センスやヴォーカル・スタイルに特化しており、深読みしようと思えばキリがない歌詞への言及は薄い。もし彼がソロ弾き語りでのデビューだったら、もっと多層構造の比喩暗喩を多用した、いわゆる拗れたシンガー・ソングライターで終わっていたのかもしれない。
 バンド・スタイルによるデビューだったことが幸いして、いい意味で表面的なサウンド・アプローチに踏みとどまったことが、「ディラン・テイストを持ったロック・バンド」としての成功に結実したわけであって。彼らが浅いって言い切るわけじゃないけど、変に理屈をくっつけちゃうと、ザ・バンドみたいになってたかもしれないし。
 で、ハートブレイカーズ、この邦題『破壊』リリース以降も思い上がることなく、地道なツアーと堅実なアルバム制作を続けてゆく。シンセ?打ち込み?なんだそれ、って按配で。
 全然話は飛ぶんだけど、トム・ペティって、ジャクソン・ブラウンとキャラかぶるよな。サラサラの金髪ボブって点だけなんだけど。
 前回231位はQueen 『A Night at the Opera』。今回は128位。




232位 John Coltrane 『Giant Steps』
(103位→103位→232位)

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 「スウィングしなけりゃ意味ないね」というジャズ・スタンダードの名曲があるけど、これをスウィングと言えるのかどうか。ジャズ沼にハマってる人なら、無理やりこじつけて「スウィングしてる」って擁護するのだろうけど、世間一般で言うところのモダンジャズとは大きく乖離している。
 多分、リリース当時はその異質ぶりに戸惑うジャズ・ファンも多かったと思われる。リリースから60年を経て、そのはみ出し加減はむしろ増している。
 どこにもカテゴライズしづらい、どこにも属さないジャズ、いや音楽こそが、当時のコルトレーンの理想だったのだろう。まだジャズの物差しで測ることはできるけど、おそらくここがギリギリのラインだった。
 これ以降のコルトレーンは、既存のジャズ言語・ボキャブラリーの徹底的な解体を進めてゆく。自分の発する音のみがジャズであり、そして、既成ジャズのフォーマットを次々に上書きしてゆく。
 ひとつの小節の中に、あらん限りの音の礫を詰め込むモード奏法をアップデートし続けたコルトレーン。遂には小節の区切りからも解放されたフリー・フォームというメソッドを手に入れ、死の寸前まで、自己解体と上書きは続けられた。
 このアルバムについては、昔レビューしているので、詳しいところはこちらで。書き足りないところは多々あるので、いつかちゃんと書き直そう。




 他のアルバムのランキング補足として、妻アリス・コルトレーン『Journey in Satchidanada』が、初登場446位。志半ばで息絶えた夫の遺志を引き継いでいるのかいないのか。
 前回232位はKinks 『The Kink Kronikles』。今回は圏外。初期ビート・グループ期は、今回ランクインなし。




233位 Tori Amos 『Little Earthquakes』
(初登場)

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 なんとなく「神経質なアラニス・モリセット」「ケイト・ブッシュ・フォロワーのカレッジ系シンガー・ソングライター」というイメージだったのだけど、どっちも半分当たって半分的はずれだった。打ち込み要素の多いシンフォニック・ポップというジャンルは、今でこそ当たり前だけど、90年代初頭のアメリカでは案外いそうでいなかったポジション。
 オルタナ全盛だった当時の世相とは相反しており、当時もUS最高54位とパッとしないチャート・アクションだったのだけど、現在までにダブルプラチナ(200万枚)を獲得しており、ロングテールな売り上げを記録している。なにしろエンタメ関連のマーケットがデカいアメリカ 、ニルヴァーナやメタリカには背を向けたニッチなユーザーも、かき集めるとこのくらいになる。
 ジャケットのアートワークやタイトルから、ほのかに香ってくるニューエイジ&スピリチュアル臭が、気になる人は気になるかもしれない。こういった憑依型の女性アーティストの作品って、製作時のメンタルの浮き沈みがクオリティに影響することが多々あるんだけど、さすがにデビュー作だけあって、かっちりプロデュースはされている印象。
 日本だったら安藤裕子が一番ポジションとして近いのかな、と何となく思う。メジャーではあるんだけれど、時々思わぬ脱線をする、っていう意味で。でもトーリの方が、自己プロデュースがしっかりしているのかも、とも思ったりする。
 前回233位はThe Byrds 『Mr. Tambourine Man』。今回は287位。




234位 Black Sabbath 『Master of Reality』
(294位→300位→234位)

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 今ごろ気づいたけど、ドラムが軽いんだな、サバスって。ハード・ロック/ヘヴィメタ系バンドといえば、バスドラの響きの重さとスネアの手数の多さがひとつの基準になっているはずだけど、リズム・セクションの目立たなさといったら。
 もしかして1曲目だけ例外的に軽いのかと思って、リズム・パート中心にもう一回聴き直してみたけど、やっぱり軽いよな。ミックスやチューニングがどうしたという問題ではなく、ズシンと腹に来る重さが物足りない。
 逆に、トニー・アイオミのパワー・コード中心のギター・プレイは重く、淫靡な邪悪さが強調されている。とにかくギターが主役なのだ。
 正直、『Paranoia』より知ってる曲が少なく、要は地味なアルバムということなんだけど、「ギター弾いてみたい」「バンドやろうぜ」といった訴求力は、こちらの方が上。日本では、そういったバンドキッズの後押しを担ったのがパープルだったのだけど、世界的には圧倒的にサバスの方がファンも多いし格上である。
 日本人好みのペンタトニックなメロディが少なく、わかりやすいヒット・シングルが収録されているわけでもない。ハード・ロック一辺倒と思いきや、クラシックからインスパイされたようなプログレ・フォークみたいな曲も入ってたりして、一筋縄ではいかない。そういう意味では、彼らの多面性/その後の方向性を示唆した重要作でもある。
 それにしてもオジー・オズボーン、敢えて言っちゃうけど歌ヘタだよな。ハード系は勢いで乗り切ってるけど、場違いなバラードとなると、一本調子さが引き立ってしまう。
 まぁそういう芸風に批判もあるけど、どんなものでもやり続けてたら、味となり、また権威になる。実際、いまだヘヴィメタ界の重要なアイコンとして機能しているし。
 4作目『Vol.4』収録の「Changes」をHi-STANDARDがカバーしている。オリジナルは突然変異とも言える王道バラードで、オジーのほど良くウェットなヴォーカルが映える名曲なんだけど、そんなイメージはまったく無視して、いつも通りのハイスタ節。正直、こっちの方がソリッドでカッコいい。




 前回234位はSimon & Garfunkel 『Bookends』。今回は圏外。「ミセス・ロビンソン」や「冬の散歩道」収録の名盤なんだけど、ヒット曲多すぎてマニアには敬遠されたのかな。




235位 Metallica 『Metallica』
(249位→255位→235位)

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 サバスに引き続きメタル勢。通称『Black Album』。
 サバスの後に聴くと、リズムもギターもヴォーカルも、メタリカの方が疾走感もハンパないし、正直うまい。コンセプトもテクニックもまだ手探りだった70年代と比較するのはちょっと強引だけど、メタリカの方がドスっとした低音が効いててハードさが増している。
 メタリカがカテゴライズされているスラッシュ・メタルとは、大枠で言えばヘヴィメタからの派生ジャンルであり、ハードコア・パンクの要素も多く含まれている。なので、80年代ヘヴィメタの象徴とされるNWOBHMやLAメタルとはちょっと路線が違い、超絶ハイパー・ギターソロや絶叫ハイトーン・ヴォイス、おどろおどろしい悪魔的なコンセプトや歌詞という要素は薄い。
 ボン・ジョビやモトリー・クルーに代表される、メジャー展開によるメタルのコンテンポラリー化、明快なメロディラインとサビ、メロウさを帯びてくる長尺ギターソロに対し、「気合入ってねぇんじゃね?」とアンチを突きつけたのが、アンスラックスやメガデス、そしてメタリカら当時のアングラ勢だったと言える。
 ヘヴィなリズムと高速BPM、LAのスカッとした空気を暗黒に突き落とす世界観は、考えてみれば原初のヘヴィメタル、サバスのコンセプトに回帰している。みんな、サバスを聴いて育ってきた人たちだもんな。
 そして、キャリアを重ねるごとに余計な演出や世界観を脱ぎ捨て、純粋な音のダイナミクスを追求し続けたのがメタリカであり、ひとつの到達点を迎えたという自信と確信が、セルフ・タイトルとして結実した。一様なスラッシュだけじゃなく、ブルースやバラードなど多種多様、「どんな曲だって、俺たちがプレイすれば全部メタリカだ」という境地に達している。
 前回235位はPatsy Cline 『The Ultimate Collection』。今回は229位。




236位 Daft Punk 『Discovery』
(初登場)

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 惜しくも今年活動終了してしまった、みんな大好きダフト・パンク。そんな積極的に聴くわけじゃないけど、「Get Lucky」も「One More Time」もたまにラジオで流れるとつい聴いちゃう、それがダフト・パンク。
 松本零士によるアートワークやPVから、イロモノみたいな印象を持っていた人も多かったはずだし、多分すぐ消えちゃうんだろうなって思っていた人も多かったはずだけど、それでもマイペースで飄々と走り続けて四半世紀。なんで解散しちゃったんだろうな。ユルくダラダラ続けてたって、批判されるようなキャラじゃなかったのに。
 俺的にはダフト・パンク、「90年代後半くらいから活動が地味になったペット・ショップ・ボーイズが抜けて、空いた枠にすっぽり収まった」って印象だった。80年代のOMDに端を発する、シンセポップ・デュオ/ユニットは、時代を問わず、そこそこの需要がある。
 そういえば、ティアーズ・フォー・フィアーズもアメリカではバカ売れしたはずなんだけど、今回ランクインしてないな。何でだろ。
 ちなみにペット・ショップ、調べてみると、欧米や日本では勢いは落ちたけど、EU界隈ではまだまだ第一線でメイン・アクト扱いだった。それを上回るほど、ダフト・パンクの人気が凄すぎただけであって。
 で、『Discovery』、テクノ・ポップからフューチャー・ファンクに至るまで、多彩なタイプの楽曲で構成されており、どの曲からシャッフルして聴いても楽しめる。要は今どき当たり前のアルバム構成。
 何回か聴いているダフト・パンクだけど、大抵、どんなアルバムだったか忘れている。なので、聴き返す時はいつもフラットな状態なので、単純に「次はどんな曲?」っていう楽しみがある。
 わかりやすいヒット曲もいいんだけど、例えば10ccみたいなインストもあったりして、その辺から彼らのルーツが透けて見えたりする。そんな粗探ししたりするのも、結構楽しかったりづる。
 他のランキングでは、「Get Lucky」収録の『Random Access Memories』が初登場295位。
 前回236位はJackie Wilson 『Mr. Excitement!』。今回は圏外。初期モータウンで活躍した男性シンガーなんだけど、楽曲に恵まれなかった印象だな。




237位 Willie Nelson 『Red Headed Stranger』
(182位→183位→237位)

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 これまでどんな活動をしてきて、どんなヒット曲があったのか。実績や功績はよくわからないけど、ずっと昔からカントリー界では「大物」とされてきたウィリー・ネルソン。
 よくわからない大御所感を醸し出しながら、「USA for America」にも参加していたウィリー・ネルソン。同じヒゲ面だから、ケニー・ロジャースと印象かぶってたんだよな。当時はケニー、デュエット請負人でチャートにもそこそこ顔出してたから、80年代リアルタイム組にとっては、彼の方が印象深い。
 オルタナでもカントリー・ポップでもない、いわば正統派のカントリーの人であり、特にこの75年リリースのこのアルバムでは、雄大な大陸感を連想させる正統ブルー・グラスでまとめている。伝統を重んじるスタイルを貫く人は、いつの間に重鎮に持ち上げられちゃうんだよな、どの世界でも。
 ややジャンルは違うけど、日本なら南こうせつ的ポジションなのかね。かぐや姫で大ヒット後は、地元大分に戻ってセカンド・ライフ満喫してるけど、ニュー・ミュージック界隈には依然とデカい影響力持ってる、みたいな。
 なので、伝統の最後の砦として、無難なカントリー・フォーク路線を地道に続けているのかと思っていた。表向きはジャンルを代表する重鎮として、そして、アメリカエンタメ界の裏で暗躍する大御所フィクサーとして。
 もうちょっと突っ込んで調べるため、近年の作品も聴いてみたのだけど、年齢を重ねて声もいい感じに潰れて、ジョニーキャッシュみたいなヴォーカルになっている。シェリル・クロウとのコラボはまだ予想の範囲内だけど、スヌープ・ドッグとやってるのを聴いた時は、ちょっとビックリした。
 だからといってヒップホップ感はまったくなく、アダルトな雰囲気漂う普通のカントリー・バラードなんだけど、なんでコラボしたんだろ。ってさらに調べてみると、どうやら2人ともジョイント愛好家という共通項があるらしい。これ以上は書きづらいんで、あとは各自勝手に調べて。
 他のランクインは、スタンダード集『Stardust』254位→260位、今回は圏外。聴きやすいのは、むしろこっちかも。
 前回237位はThe Who 『My Generation』。今回は圏外。オリジナル再発で一時は盛り上がったんだけど、ピーク過ぎちゃったか。




238位 Kraftwerk 『Trans Europe Express』
(250位→256位→238位)

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 今年に入ってロックの殿堂入りのニュースが届いたクラフトワーク、いまに続くジャーマン・テクノ路線としては3枚目のアルバムが、前回とほぼ同じポジションを維持。彼らにそこまで強い思い入れはない俺だけど、クラフトワークのランクインが『ヨーロッパ急行』1枚のみっていうのは、ちょっと物足りないんじゃない?って思ってしまう。初期3枚以外では凡作として名高い『Electric Cafe』まで入れろとは言わないけど、出世作である『アウトバーン』、それと90年代以降の再評価のきっかけとなった『The Mix』。
 みんな忘れちゃったのか?そんなに興味薄い俺だって、ちょっと偏り過ぎじゃね?って思ってしまう。
 アバンギャルドなクラウト・ロックとしてデビューした彼らだったけど、3枚目まではドイツ限定のローカル・バンドに過ぎず、国内シーンでもほぼ黙殺された存在だった。初期メンバーも続々抜け、どん詰まりの状況から一転、いわばこれも実験音楽の一環だったと思われるけど、ミニムーグを主体とした電子楽器を導入して作られたのが、新機軸サウンドの『アウトバーン』だった。
 その後もざっくり言うと、モジュラーシンセ→MIDI→ラップトップ→ノーパソと使用機材も変遷し、加えて機材開発にも積極的に関与したりしている。日本で例えれば明和電機だな。あ、こっちが後追いだから、いわばオマージュってところか。
 で、『ヨーロッパ急行』。もう半世紀近く前の音源だけど、デジタル機材には精通している彼らゆえ、オリジナルの音像を保ったまま、現在のリスニング環境にも対応したリマスタリングが施されており、アナログ音源特有の音の痩せはない。初リリース時は、このマシンっぽいスカスカ感が逆に新鮮だったんだろうけど、現在に最適化されたサウンド調整によって、単純に耳馴染みの良いインストとして機能している。
 で、クセの強いBGMとして聴いてみると、無限ループするミニマル・ビートを飽きなく聴かせているのは、時々アクセントのようにあらわれるメロディ、ヴォコーダーでブーストされたヴォーカルだったりする。クラウト・ロック時代にはあまり強く打ち出せなかったけど、無機的な電子音のコントラストとして、親しみやすい旋律を組み合わせたことは、明和電機も見習ってほしいな。
 大人の事情でいろいろあったけど、結構アクティヴに活動していた21世紀YMOが、ライブで「放射能」をカバー。クラフトワーク自身も出演しているフェスなので、昔の彼らなら毒の効いたパロディってところなんだけど、フェス・タイトルが『NO NUKES 2012』で政治的な臭いがちょっと強いし、そこで「放射能」かよ。悪意ともパロディとも言えないし、一体何をやりたかったんだか。




 ていうか、その次に演奏される「Firecracker」の方が会場盛り上がってるっぽいし。
 前回238位はHowlin’ Wolf 『Howlin’ Wolf』。今回は圏外。ストーンズやクラプトンに影響を与えたブルースマン。彼ら自体がすでにレジェンドみたいなものだから、その上といったら、もう想像もつかないしリアルじゃないしな。




239位 Boogie Down Productions 『Criminal Minded』
(436位→-→239位)

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 80年代ロックを知る者にとっては、R.E.M.「Radio Song」にラッパーとして参加していたKRS・ワンがいたラップ・ユニットとして知られるブギ・ダウン・プロダクションズ。人種差別や収入格差、貧困問題などの社会問題に切り込んだコンシャス・ラップのはしりとされるのが、彼らを筆頭としたNY勢だった。単なるリズムの面白さや、ダンスBGMとしての機能が主だったヒップホップを、メッセージを伝える手段として使い始めたのが、彼らとされている。
 いわゆる「オラついてる」系のラップは、アンダーグラウンドでは流布していたのだけど、彼らがメジャーのグラウンドにアングラでのメソッドを持ち込んだことで、ヒップホップ・ジャンル全体の幅と奥行きが広がることになる。それまでのヒップホップといえば、「悪い奴らはみんな友達」「リズムボックスと他のレコードからのパクりとスクラッチ」という一様なイメージしかなかったのだけど、乱暴な例えで言えば、M.C.ハマーとアイス・キューブという両極端のキャラが共存できるようになった。
 「ラップによる社会告発、そして自己表現」というお題目は置いといて、聴いてて気に入ったのが9曲目の「Super Sue」。チープなリズム・ボックスによるシンプルなトラックだけど、その分、ちょっとしたエフェクトの仕掛けやサンプリング・ソース、クールに脱力した女性コーラスが散りばめられたりして、飽きずにずっと聴いていられる。結局のところ、ネイティヴな英語使いじゃない俺としては、こういったのが気に入っちゃうわけで。
 前回239位はMadonna 『Like a Prayer』。今回は331位。




240位 Sam Cooke 『Live at the Harlem Square Club, 1963』
(435位→439位→240位)

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 ライブ・レコーディングはしたけど、生前は発表されず、死後20年を経た1985年にようやく発売されたアルバム。さわやかでお行儀いいスタンダードを歌うシンガーという印象が一転した、オーティス並みにエキサイトしたステージが高音質で収録されている。
 代表曲である「Wonderful World」が象徴するように、やや活発なナット・キング・コールというのが、日本での大方のイメージだった。ハーレムというよりはラウンジ、ソウルっていうよりはスタンダードが似合うっていうか。
 彼が活動していた60年代は、黒人の権利主張や公民権問題が活性化していた時期だった。それと並行して、白人に追いつけ追い越せと、地位向上・ステイタスの獲得に奮起していた層もあった。
 初期のモータウンに代表されるように、彼らは白人シンガーと対等に見られるように、パリッとしたスーツを着込み、華麗なドレスに身を包んだ。泥くさいブルースを敬遠してクルーナーヴォイスを多用し、当時の高級クラブ「コパ」でワンマンショーを行なうことが、彼らのステイタスだった。
 クックもまたその例に漏れず、ライブ音源の残っている「コパ」を始めとしたラウンジでの公演を主体としていたのだけど、反面、ディラン「風に吹かれて」からインスパイアされたプロテスト・ソング「A Change Is Gonna Come」を発表している。主に白人層からの人気が高かったクックが、初めて同胞と向き合って書かれた、リアルな主張である。
 どの曲も強いエモーションに溢れているんだけど、俺的に耳を引いたのが「Twistin' the Night Away」。ロッド・スチュアートのヴァージョンで知ってたけど、オリジナルはもっとエキサイティングだったんだな。ロッドのは、あれはあれで好きなんだけど。
 で、その「Twistin' the Night Away」も古今東西さまざまなカバーが存在するのだけど、日本代表としてトータス松本。ていうか同名アルバムがあるのだけど、これがクックの同名オリジナルの完全カバー。ジャケットデザインから演奏から、はたまたレコードの針音にまでこだわった、マニアックかつディープな1枚。




 正直、両方のマニア以外には訴求しづらい、セールス的には厳しい企画ではあるけど、現役第一線でオーソドックスなソウル・マナーに則ったヴォーカリストは、もう彼しかいないので、どうにか機会を作ってやってもらいたいよな。
 他のランクインは、ベスト『Portrait of a Legend 1951-1964』が107位→107位→307位。
 前回240位はSteely Dan 『Can’t Buy a Thrill』。今回は168位。