141位 Pixies 『Doolittle』 (222位→227位→141位)

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 長らく「フランク・ブラック」かと思っていたのだけど、いつの間にもとの「ブラック・フランシス」に再改名してたんだなフランク・ブラック。俺的にはフランクの方が馴染み深いんだけど。
 ほぼ3コード・ワンアイディアの曲ばっかなので、どの曲も2分台、一番長い「No.13 Baby」で3:53だって。そんな思いっきりの良さとシンプルなバンド・サウンドは、多くのフォロワーを生み出している。
 「どっぷりCMJ御用達アーティストだよな」って思ってたら、デビューはイギリスの4ADレーベルからだって。耽美的なコクトー・ツインズやバウハウスのイメージが強かったんだけど、このピクシーズあたりから4AD、アメリカのインディ・シーンの青田買い始めたんだな。
 で、最初アレクサでそこそこの音量で聴いた時は、全然ピンと来なかったのだけど、夜になって、もう一度イヤフォンで大音量で聴いてみると、アラ全然印象違うわ。「やっぱこういうサウンドって、デカい音で聴かなくちゃ」という、当たり前のことに改めて気づかされた冬の夜。
 思えば、80年代のUSインディー・ロック・シーン、ソニック・ユースやダイナソーJr.、バッド・ブレインズなど、ポスト・パンク以降/プレ・グランジ世代のアーティストが続々登場し、ライブ・シーンを賑わしていた。いたのだけれど、当時の日本の音楽メディアはUK寄りの報道が多く、特にインディー/アングラ・シーンとなると、US界隈の情報はあんまり入って来なかった。もしかすると俺が見逃していただけで、実際はそこそこ発信されていたのかもしれないけど、でも80年代ロキノンでの扱いは少なかったよな。
 なので、いま挙げたUS勢のほとんど、俺はほぼ後追いである。リアルタイムで聴いてたら、また違った人生だったのかもしれないな。
 他のランキングは、『Surfer Rosa』311位→317位→390位。
 前回141位はB.B.King 『Live at the Regal』。今回は299位。
 で、そんなピクシーズをちゃんとリアルタイムで聴いていたのが、多分、俺とほぼ同世代と思われる向井秀徳率いるナンバーガール。代表曲と言い切っちゃっても差し支えないシングル「透明少女」のカップリングで、「Wave of Mutilation」をカバー。
 もともとナンバーガール自体、この時期のUSオルタナ・バンドのエッセンスを濃縮還元した側面があるので、ほぼ真っ向勝負の正当なカバーにまとめている。







142位 Bruce Springsteen 『Born in the U.S.A.』 (85位→86位→142位)

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 日本でスプリングスティーンの名が広く知られるようになったのは、『Born to Run』ではなく、このアルバムからである。一応、「明日なき暴走」や「ハングリー・ハート」のヒットによって、そこそこ名前は知られてはいたのだけど、同じ米シンガー・ソングライターなら、わかりやすいヒット曲を多数持つビリー・ジョエルの方が、断然人気があった。
 わかりやすいポップ性よりもメッセージ性を求めるのなら、誠実かつ理論はっぽいジャクソン・ブラウンがいた。取り上げるテーマや作風はスプリングスティーンとかぶる部分も多いのだけれど、西海岸コネクションを活かしたバンド・サウンドや、シュッとした見映えのブラウンの方が、当時は支持を得ていた。
 『Born in the U.S.A.』とほぼ同時期、ブラウンもまたリベラル思想を強く打ち出した楽曲を発表しているのだけど、明快で力強い「Born in the U.S.A.」 の圧の前では、静かで繊細な彼の訴えは軽く吹き飛んだ。思えば、ここが双方にとっての分岐点だったよな。
 ベトナム帰還兵の置かれた惨状や悲劇を綴ったタイトル曲は、アッパーでテンション高いサウンドによってポジティブな意味合いに曲解され、当時の大統領選で恣意的に悪用された。本人も「やっちまった」って思い直したのか、その後のライブでは、歌詞のテイストに沿って、切々と歌い上げるアコースティック・スタイルでプレイすることが多くなった。
 まぁ正直、ラジオでサビだけ切り取って聴いちゃうと、みんなアメリカ賛歌って思っちゃうよな、しかもあの曲調だし。俺だって長い間、そう思ってたもの。
 他の曲はといえば、賛否両論分かれるパワステ・サウンドが良い方向へ作用した「No Surrender」や「Bobby Jean」みたいな佳曲もあったりする。なんだかんだ言っても当時のトレンドだったパワーステーション・スタジオ、ドラム・サウンドの処理が良かったりするので、この組み合わせは正解。
 でも「Cover Me」の12インチ・ミックスは、ちょっといただけなかったな。どこに需要あったんだ、ディスコ仕様のスプリングスティーンなんて。
 60年代・70年代を疾走してきたベテラン・アーティストの多くが陥った、80年代クライシスの例に漏れず、やたらMTVを意識したような「Dancing in the Dark」も俺的には好きなんだけど、スプリングスティーン信者にはウケ悪いんだろうな。ただコロンビアのスタッフ目線で見れば、ワールドワイドな展開を考えると、このような時代に即したアプローチは必然だったんだろうな、とちょっと上から目線で思う。
 ここまでネガティヴなことばっか書いてるけど、それもまた愛情の裏返し。多感な10代に耳タコで聴いてきたアルバムであり、どの曲もしっかり想い出として刻み込まれていたりする。
 前回142位はPhil Spector 『A Christmas Gift for You』。今回は圏外。それと、R.I.P.。





143位 The Velvet Underground 『The Velvet Underground』 (310位→316位→143位)

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 バナナやらウォーホールやらニコやら、なにかと話題も豊富だったデビュー・アルバム、ギスギスした人間関係の中、ギスギスした世界観を構築した「元祖グランジ」とも称される2枚目を経て、憑き物が落ちたかのようにスッキリした純音楽路線の3枚目。変な小技やスキャンダラスに頼らず、真面目に書いた曲をまっとうにレコーディングしたことによって、ヴェルヴェッツはホントの意味でロック・バンドとなった。
 なったのだけど、引っ掻き回し役のジョン・ケイルが抜けてから、リードの発言力が増してゆき、しまいには独裁体制を敷くようになってしまう。そうするとまた、人間関係は悪化してゆくわけで。当時のミュージシャンなんて、みんなエゴが強くて強調性ない連中ばかりなので、どうしてもこんな風になってしまう。
 この3枚目リリース前後の時代は、「ちゃんとしたロックンロールがやりたい」と主張するリードのビジョンが素直に反映されており、しっかりプロデュースされたアルバムになっている。なので、ある意味、ソングライターとしてのルーリードが覚醒した、またはソングライティング・スキルのピークを迎えた瞬間が、克明に記録されている。
 リードのアルバムすべてを聴いてるわけじゃないけど、そう錯覚してしまうほど美しい響きを奏でる、「Candy Says」の儚げなメロディ。本来なら、これを白鳥の最期の嘆きとするべきだったのだ。
 単体で強烈なインパクトを放つ前2枚とは方向性が違い、シンプルなロックンロールをソリッドに、美しいメロディをたおやかに。大きくまわり道を経ての原点回帰は、同時にアーティスト:ルー・リードの本来の意味でのスタートとなった。
 そんな抒情性とパッションの爆発とが混在した3枚目、俺的にはヴェルヴェッツのアルバムの中では一番気に入ってるのだけど、Amazonレビューでも同じようなコメントが多い。一番ちゃんとしてるもんな。
 でも、当時はセールス的に失敗、その後のヴェルヴェッツは主導権がコロコロ変わったりレーベルの干渉が強すぎたりで、混迷を極めてゆく。こういった紆余曲折も含めて、伝説なんだよなヴェルヴェッツ。
 前回143位はDr. John 『Gris-Gris』。今回は356位。
 日本人の琴線のツボにハマるメロディを持つ「Candy Says」なら、多分、誰かカバーしてるんじゃね?と探してみたところ、ヒットしたのが畠山美由紀というシンガー・ソングライター。ディスコグラフィーを見ると、昭和歌謡のカバー・アルバムもリリースしている人なので、J-POPなのか歌謡曲寄りなのか、その辺がちょっと曖昧。なんとなくだけど、一青窈と同じ路線なのかね。
 ダグ・ユールによるオリジナルも透徹として美しいんだけど、この曲はやっぱ、女性の方が透明感が映える。







144位 Led Zeppelin 『Physical Graffiti』 (70位→73位→144位)

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 「2枚組なんて高い」「聴くのダルい」という多くの意見通り、俺もこれまで手を出してなかっ、たZEP6枚目のスタジオ・アルバム。契約枚数消化のため、ボツ曲をかき集めて無理やり2枚組に仕立て上げた感があったのだけど、実際に聴いてみると、そこまでグダグダな印象じゃなかった。
 2枚目までで、ほぼ現在も通用するハード・ロックのスタイルを確立して以降、ZEPはさらにそこから、多様な音楽ジャンルの獲得に向けてチャレンジを続けてきた。ポップなフォークもあればグルーヴィーなファンク・ロックもあり、一様なハード・ロックのフォーマットに収まらないスタイルの追求は、特に極東日本においては渋谷陽一を夢中にさせた。
 ハイパー・ハード・ロック・チューンと、抒情的でフォーキーなメンタリティという手札をフル活用したピークが4枚目だったとするなら、そのどちらにも当てはまらない、進化し続けるバンドのプロセスの中でこぼれ落ちた楽曲が、ここでは無造作に収録されている。もしかすると、ジミー・ペイジがそれなりに熟考して構成しているのかもしれないけど、それほどコンセプチュアルな様子は見られない。
 なので『Physical Graffiti』、どこまでがジミー・ペイジの思惑通りだったのかは疑問だけど、結果的にいい意味で、バラエティ色豊かなラインナップで構成されている。ちょっとこれまでと違うアプローチの曲・アレンジで、アベレージは充分クリアしているんだけど、でもアルバム・コンセプトに合わなかったり、曲順の収まりどころが悪かったり、そんな理由で収録できなかった曲を、ノン・コンセプトで再構成した、と思いたい。
 で、いきなり話は飛ぶけど、思い起こすこと30数年前、アトランティック・レコード設立30周年イベントが地上波で生中継され、メイン・イベントとして、ZEPの再結成ライブが行なわれた。裏ビデオ並みに画質の悪い白黒映像の「Communication Breakdown」でしか見たことのない俺にとっての初ZEPは、このアルバムの収録曲「Kashmir」だった。
 それまで渋谷陽一によって語り継がれていた「生ける伝説」を目の当たりにするため、まだウブだった俺は、ドキドキしながら彼らの出番を待ったのだった。ブラウン管の調子が悪かったのか、思いのほかちょっと横長のジミー・ペイジがステージに現われ、レスポールを弾き始めたのだった。
 …その後もヒット・メドレーは続いた。まぁこれ以上は触れない。
 前回144位はN.W.A. 「Straight Outta Compton」。今回は70位。
 4枚目の時に紹介できなかったけど、奥田民生が「Black Dog」をカバーしている動画があったので、ここで。日本で行われているフェスやイベントへの出席率がめちゃめちゃ高い民生、自分がメインじゃない時ほど俺様度がアップし、このRSRなんて特に大規模なもんだから、めっちゃ無責任さが増している。
 ただそこは芸歴の長いエンターテイナー、きちんと見せどころを作りつつ、それでいて存在感はしっかり残し、盛り上げるだけ盛り上げてから次へ放り投げる、そんないい意味でのやりっぱなし感はさすが。ベテランはこうでなくちゃ。






145位 Eminem 『The Marshall Mathers』 (298位→244位→145位)

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 ヒップホップというより、ラップ。速射砲の如く、息つく間もなく放たれるライムの洪水。リズム感やフロー・スキルに重点を置いてる印象はない。
この企画を初めてから、未知の領域:ヒップホップをかじるようになった俺だけど、主にサンプリング・ソース、聴いたことがあるフレーズに注目する傾向が強い。ラップ・スキルの優劣はまだそんなに詳しくないけど、これまでの音楽リスニング歴のおかげもあって、トラックメイクのセンスは何となく判断がつくようにはなった。
 なったのだけど、そういった聴き方に当てはまらないのが、エミネムである。多くのヒップホップはバック・トラックに耳が行きがちだけど、彼のラップは、それ単体で充分成立してしまう説得力がある。
 そりゃエミネムなので、トラックメイクも入念に作り込んでいるのだろうけど、極端な話、チープなビート・ボックスひとつで多くの人を惹きつけることも楽にやってのけられる人である。リアル「8 Mile」の世界でのし上がってきただけあるよな。
 人種で分けるのはあまりよろしくない話だけど、安定した実績と実力を併せ持つ白人ラッパーって、エミネム以外に思い浮かばない。あまり詳しくない俺が無理やりしぼり出してみても、ほぼ一発屋のヴァニラ・アイスくらい。
 多分、エミネム・フォロワーみたいな白人ラッパーは、世界中にウジャウジャいるんだろうけど、彼ほどポピュラーな存在になった者はいない。まだ生きてるのに伝記映画が作られるくらいだから、そこと肩を並べるのは、なかなか高いハードルである。
 ビースティくらいじゃないの?純粋な白人ヒップホップ/ラップ・アーティストって。でも、彼らももう解散しちゃったし。
 ロックもファンクもヒップホップもまとめて取り入れた、レッチリやレイジのようなミクスチャー系は生き残っているけど、彼らもまた「ベースはロック・サウンド」、ヒップホップは「主要なエッセンス」という意味合いであって、決してメインではない。そうなると、白人でラップ・メインで継続的な活動をしているのは、エミネムくらいしか残らないのだ。
 そんな現状なので、エミネムの独占状態は今後もしばらく続くんじゃないかと思われる。ていうか、もうオンリーワンの存在なんだなエミネム。別に持ち上げるつもりはないんだけど、結果的にそうなってしまう。
 他のランキングを見てみると、出世作『The Slim Shady』が270位→275位→352位、『The Eminem Show』初版314位、以降圏外。
 前回145位はSteely Dan 『Aja」。今回は63位。





146位 Blondie 『Parallel Lines』 (140位→140位→146位)

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 とにかく、どんな手を使ってでもスターダムにのし上がりたい―。ロック・グルーピー上がりのデボラ・ハリーをセックス・シンボルに見立て、「お手軽かつセクシャル強調のポップ・ロック・バンド」と勝手に思っていたブロンディ。多分、前半部はおおむね間違っていないのだろうけど、アルバム一枚通して聴いてみると、ガラッと印象が変わるないい意味で。
 日本では、ソリッドなハード・ロック・チューン「Call Me」の印象が強く、実際、俺もほぼその印象なのだけど、案外、曲調はバラエティに富んでおり、一本調子ではない。先入観として、こういった女性ヴォーカル・メインのバンドやユニットって、プロデューサーの力が強く、操り人形みたいな扱いをされたメンバーはやる気なし、って場合が多いのだけど、そういった感じでもないみたい。
 こじれたアーティスティック気取りや、アングラ志向が多かったNYのパンク/ニュー・ウェイヴ・シーンの中で、彼らは異色の存在である。時代背景と出身母体がシーン動向とシンクロしていたため、歴史的にはそのカテゴリで括られることが多いけど、メジャー仕様のアレンジやメロディは、明らかに浮いている。
 どう無理やり紐付けしても、パティ・スミスやテレヴィジョンと同じ括りで語れるとは思えない。多様性という共通項でいえば、トーキング・ヘッズとギリギリかぶるかもしれないけど、イヤ強引だなやっぱ。
 なので、「パンクっぽさも残しつつ、そこを基点にブレイクしたポップ・ロック・バンド」というのが、最もふさわしい視点なんじゃないかと思われる。そこはかとなく漂うオールディーズ風味も、ある程度の戦略に則っていたわけで、しかもそれがお仕着せでやるのではなく、バンド側の緻密なセルフ・プロデュースの賜物だった、ということで。
 強烈なカリスマ性を望んでいる風でもなく、過度にマーケットのニーズに振り回されるでもない。すごく訴えたいメッセージを込めているわけではないけど、多くの楽曲がスタンダードとして残っている、そんなすごいブロンディ。
 眉間に皺寄せて、小難しく悩みもがくアーティストが多かった70年代ロック・シーンに身を置きながら、「そんなめんどくさいことばっか考えてないでさ、いい曲を好きなように歌ってる方が楽しいじゃん」というユルい姿勢が、結局、後世まで生き残ったという事実。「Marquee Moon」をラジオで聴くことは難しいけど、「Heart of Glass」は気軽に口ずさむことができる。そういうことなのだろう。
 他のランキングは、デビュー作『Blondie』初登場401位。
 前回146位はJefferson Airplane 『Surrealistic Pillow』。今回は471位。
 「Heart of Glass」なら誰かカバーしてるだろ、って探してみたところ、思わぬ伏兵登場、wink。もともとカバーでブレイクした人たちだけど、同時代のユーロビートばっかと思ってたら、アルバムでやってたよ「Heart of Glass」。しかもなぜか、デボラ・ハリーのソロ曲までカバーしている。なんだ、スタッフにブロンディ・ファンでもいたのか。
 アレンジは、シーケンス・ビートをベースにしたいつものユーロビート仕様なので、まぁみんなが想像する通りのwinkサウンド。こういった打ち込みにも充分フィットするメロディが秀逸なんだけど、結構オリエンタルな音階なんだな、初めて気づいたよ。







147位 Jeff Buckley 『Grace』 (299位→304位→147位)

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 繊細なソングライティングと、感情を爆発させたヴォーカルによって、90年代シンガー・ソングライター界に確実に痕跡を残した、夭折のシンガー:ジェフ・バックリィ唯一のアルバム。ラジオで聴いてはいたけど、フルで聴くのは初めて。
 先入観で、同時代のk.d. langあたりと同じアプローチなのかと思っていたのだけど、半分はその通りで、半分は違った印象。歌をメインとした、単なるアコギ・メインのアンサンブルではなく、90年代グランジとも地続きのざっくりしたリズムが、程よくアクセントをつけている。
 唯一のオリジナルということで、どうしても賛否両論分かれやすい作品ではあるのだけれど、変な予備知識なく『Grace』単体で聴くと、過度なアレンジを抑えて瑞々しい感性にフォーカスした、しっかりプロデュースされたアルバムである。地味ではあるけど、CMJなどアメリカの良心的なメディアでは受け入れられる、儚げな若さと強靭な意思とが絶妙にブレンドされた音楽ではある。
 尾崎豊が10代3部作をリリースした後、方向性に思い悩んで迷走、その後、彼は悲劇的な結末を辿った。単純にジェフがそうだったとは言い切れないけど、張り詰めた糸は常にテンションがかかり、それは時に暴走する。それを自らで止めることは不可能なのだ。
 あまりに静かに落ち着いた、まるで達観したような「Hallelujah」の声色は、悩み多き青年の心の揺らぎを巧みに表現している。でも、青年とはそもそも、「悩み多き者であること」が当たり前なのだ。
 若き死を美化せず、変な予備知識を抜いた耳で聴いてみてほしい。好きか嫌いかを判断するのは、それからだ。
 前回147位はCrosby Stills Nash & Young 『Deja Vu』。今回は220位。
 ケミストリーの堂珍嘉邦がジェフの大ファンらしく、「Last Goodbye」をカバーしている。キャラがちょうどかぶるのか、ヴォーカル・スタイルはいつもの堂珍振りだけど、彼本来の繊細なアプローチが、うまくジェフのスタイルとシンクロしている。







148位 Frank Ocean 『Channel Orange』 (初登場)

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 79位『blonde』に続くランクイン。これまでフル・アルバムは2枚しかリリースしていないフランク・オーシャン、セールス・クオリティとも、近年のアーティストとしては、かなりの高打率である。
 前回のレビュー以降、他のアルバムを聴くのに忙しくて、何回もリピートしたり、他のトラックをチェックしていたわけではない。嫌いではないけど、まだ入れ込むほどじゃない。俺の中では今のところ、フランク・オーシャンとは、そういったポジションである。
 なので、前回なに書いたかすっかり忘れてたので、もう一回読み返してみた。「オラついてないヒップホップ」って書いてるな。なるほど。
 で、今回もおおむね『blonde』と似た印象なのだけど、『Channel Orange』の方が曲調も多彩で、しかもR&B色が強いこともあって、俺的にはこっちの方が好み。好きな曲を好きなアプローチで、変に肩に力が入っている風もなさそうなので、ゆったり聴きやすい。
 もともとフランク、ジャスティン・ビーバーやジョン・レジェンドらへ楽曲提供していた裏方のキャリアもあるため、別に周囲から言われなくてもコンテンポラリー対応できる、親しみやすいメロディ・センスが彼の武器である。一応、時流に則ってヒップホップやEDMのテイストを交えてはいるけど、例えピアノ一本でも、充分そのメロディアスの妙は伝わってくる。
 ファレル・ウィリアムスがプロデュースの「Sweet Life」なんて、キレまくってた頃の70年代スティーヴィー・ワンダーを彷彿とさせる。天衣無縫な転調とメロディを巧みに操るフランクのパフォーマンスは、穏やかながら確実にシーンに痕跡を刻みつけている。
 続く7曲目「Super Rich Kids」には、旧友アール・スウェットシャートが参加してラップを披露。ほどよくオラついた加減のアールとのコントラストが絶妙だな。
 前回148位はLed Zeppelin 『Houses of the Holy』。今回は278位。





149位 John Prine 『John Prine』 (450位→452位→149位)

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 ほぼ初めて名前を聞いた、カントリー・フォークのベテランのデビュー作が、大きくランクアップしている。去年、新型コロナによって亡くなったこともあって、アメリカでは話題になったんだろうか。
 試しに聴いてみたところ、ケニー・ロギンスやグラム・パーソンズのようなロック寄りではなく、括りとしてはジョン・デンバーのような、ゆったりのどかな作風である。穏やかに晴れた日曜の午後にダラッと聴いていたい、そんな音楽と例えれば、わかっていただけるだろうか。
 トッド・ラングレンの小ブームに端を発した、「地味な70年代シンガー・ソングライターの発掘CD化」というのが、90年代レココレ界隈で盛り上がっていたのだけど、そのラインナップの中でも記憶がない。大陸的な、カラッとしつつ落ち着いたサウンド・プロダクションなので、そもそも、日本じゃあんまりウケないのかな。
 のどかでマイペースな70年代を経て、多分に80年代のカントリー暗黒期を乗り切り、その後もマイペースを貫いたジョン・プライン。その後のカントリーは急激なコンテンポラリー化を図り、今では大きくダンス・ポップやEDMを取り込みつつ、形を変えて生き残り続けているのだけど、いわば彼のような王道路線もまた、時代を超えて地道な支持を集めていた。
 多分に音楽性が象徴するように、分け隔てなくフレンドリーな性格だったのか、スプリングスティーンやボニー・レイットなど、いわゆる同業アーティストからの支持も熱いジョン・プライン。トム・ペティあたりはまだわかるけど、なぜかプリンスと共作していたりもする。
 カントリーと殿下か。まったく共通点なさそうだけど、どこでどう繋がっていたのか。俺が知ってる殿下なら、カントリーとのコラボなんて、速攻断りそうなんだけどな。謎だ。
 前回149位はSantana 『Santana』。今回は圏外。





150位 Bruce Springsteen 『Nebraska』 (221位→226位→150位)

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 141位『Born in the U.S.A.』とほぼ同時進行で制作され、こちらが先にリリースされた。スプリングスティーン自身、フェイバリットとして挙げていることもあって、ディープなファンなら避けて通れない重要作であることは間違いないけど、正直、素人が最初に聴くアルバムではない。
 ていうか、安易に「ロックっぽくない」って否定すると、たちまち各方面から非難を受けそうな、扱いがちょっとめんどくさいアルバムでもある。「めんどくさい」って言っちゃったけど、さらに信者を煽ることになりかねない。
 ちょっと遡って、アメリカン・ロックからオールディーズ・タイプ、ロッカバラードや軽やかなポップ・チューンまで、思いつく限りのタイプの楽曲を「これでもか」と詰め込んだ2枚組『The River』にて、スプリングスティーンはキャリアのひとつの区切りをつけた。サウンド・アプローチの実験とボキャブラリーの放出を終え、王道アメリカン・ロックへ回帰する前に、また違った方向性を模索していた、というのが当時の状況だった。
 もともと簡素なフォーク・ロック・タイプのサウンドでデビューしたスプリングスティーン、数年に一度、原点回帰なのか情緒不安定なのか、時々、こういったアコースティック・サウンド一辺倒のアルバムを衝動的に作る傾向がある。『The Ghost of Tom Joad』然り『Devils & Dust』然り。アッパーなバンド・サウンドへ発展させることを前提とした、「設計図」としてのデモ・テイクではなく、「これが完成系なんだ」という強い意志を窺わせる、ギターとハーモニカ程度の殺風景なサウンド・プロダクションが特徴である。
 プライベート録音として秘蔵するのではなく、多くの完パケしたアウトテイクを差し置いてでもオフィシャル・リリースし続けるその意図は、誰にも知りようがない。もしかして、ディープなファンなら周知の事実なのかもしれないけど、その陰鬱とした私的な呟きは、安易な理解や共感を明らかに拒む。でも、それは吐き出されなければならなかったのだ。
 前回150位は同じくBruce Springsteen 『Darkness on the Edge of Town』。今回は91位。