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 2018年にリリースされたボックス・セット『Every Move You Make The Studio Recordings』のボーナス・ディスクとして同梱された、ポリスのシングルB面集。オリジナル・アルバム5枚をアナログ仕様でまとめたもので、そこから漏れた楽曲を集めた、よく言えばレア・テイク集、悪く言っちゃうと寄せ集め。
 ポリスのボックス・セットは、1993年にリリースされた5枚組コンピレーション『Message in a Box: The Complete Recordings』がすでにあり、これが長いこと決定版とされていた。タイトル通り、全アルバム楽曲収録に加え、シングルB面曲や企画オムニバス、サントラ提供曲まで網羅されていたため、これがあればスタジオ音源は大方カバーできていたすぐれものである。
 そんなコンプリートに近いアイテムを作ってしまったことによって、その後のA&Mは延々、ポリス関連の営業戦略に苦心することになる。その後、発掘ライブがリリースされたり、再結成による盛り上がりがあったりはしたけど、多くのベテラン・バンド/アーティストのリイッシューで行なわれる、新たなボックス・セットの編纂や、一時流行った2枚組デラックス・エディションの企画は上がらなかった。
 何しろポリス、実質活動期間が6年程度でオリジナル・アルバム5枚、特にキャリアの初期〜中期は世界ツアーの合い間を縫ってスタジオに飛び込み、簡単な音合わせをしたらチャチャっとレコーディングを済ませる、といった按配だった。なので、レコーディングはしたけどボツにした未発表曲というのが、ほぼ皆無と言っていい。
 多少レコーディングに時間をかけられるようになった『Ghost in the Machine』『Synchronicity』期になると、当時のレコーディングのアウトテイクがブートレグで流通しているのだけど、これも既発表曲のデモや初期ヴァージョンばかりで、完全な未発表曲というのはなし。別な角度から見ると、ムダな時間がないため、物凄く経済効率の良いバンドだった、ということでもある。
 もともと個々が優れたプレイヤーだったこともあって、新人バンドにありがちなミステイクもなく、リテイクもほぼ存在しない。プライドも高く、血の気も多いメンツが揃っていたため、何かと怒声や殴り合いが絶えなかったバンドではあったけれど、メインのソングライター:スティングの才能については、他2名もリスペクトを惜しまなかった。
 中途半端なミュージシャン・エゴを剥き出しにしたインタープレイや冗長なソロを抑え、ヴォーカルとメロディを引き立たせるため、アンサンブルの調和に重点を置いた姿勢は、キャリアを通して揺るぐことがなかった。なので、ポリスの楽曲はどれも、時代を超えても風化しづらい普遍性を有している。
 ヘヴィー・ユーザー向けのアイテムが久しくなかったため、ポリス・ファンは長らく欲求不満を抱えていた。この先、新たな発掘音源の目処もなさそうだし、ハイレゾ音源ったって配信中心だから、リリースしたって地味だし。
 そんな中、近年のアナログ復興ブームに乗じてリリースされたのが、このアナログ・ボックスだったんじゃないかと思われる。正直、新味はまるでないけど、意匠を変えることで多少は話題になったんじゃないか、と。
 -で、ここまで書いていま知ったんだけど、CDボックス・セットも発売されてるらしい。なんだそれ。プレミア感まるでねぇや。

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 アナログ・ボックスで思い出したのだけど、確か『Synchronicity』リリース時、日本独自の企画でシングル10枚組ボックス・セットという企画があった。北海道の中途半端な田舎の高校生だった俺は、(多分)ロキノンの広告でそれを知り、穴が開くほどそのページを見つめたものだった。…ゴメン嘘だ。穴までは開いてない。
 特殊仕様のスリーブに収められた10枚の7インチ・シングル、しかもゴールド・カラー。さらに、シリアル・ナンバーが刻印された豪華木箱入り。
 それほどポリス・ファンじゃなくても食指が動く、当時のユーザーのツボを突きまくったアイテムだった。それだけ日本のマーケット・シェアがデカかったこと、さらにA&M担当者の熱意が強かったことの証でもある。


 ただ、当時の定価11,800円のこのボックスは、当然、高校生が気軽に買えるものではなかった。ポリス以外にもいろいろ興味が広かった俺にとって、すでに聴いたことがある音源のために大枚叩くのは、さすがにちょっとためらわれた。
 「せめて現物の姿だけでも一目」と、何軒ものレコード屋を探してみたのだけど、北海道の中途半端な田舎では入荷数も少なかったのか、お目にかかることはなかった。もし入荷していたとしても、金のある大人がさっさと予約で購入し、店頭に並ぶことはなかったのだろう。
 このレビューを書くまで、存在をすっかり忘れていた日本限定シングル・ボックス。ヤフオクでいくつか出品されているようだけど、見るとやっぱり欲しくなる。

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 3年前のリリースだったため、この『Every Move You Make The Studio Recordings』の存在自体は知ってはいたのだけど、『Flexible Strategies』の存在は、実は知らなかった。だって、単なるアナログ・ボックス・セットだと思ってたんだもの。そこまでチェックしてなかったよ。
 前述したように、解散(正確には活動休止中)してからもう35年、新たな音源もなければ話題もそんなにない。ロック史的な評価やポジションもすでに確立してしまい、この後、急に再評価されるような気配もない。
 フリートウッド・マックがTikTokでフィーチャーされて全米No.1になったことは記憶に新しいけど、スティングが現役バリバリで活動している状況だと、そんな偶然も起こりそうにない。変に時流に捉われなかった分、リバイバルしづらいキャラと音楽性が、ここで仇となっている。
 で、そんなレア音源集『Flexible Strategies』の存在を知ったのが、去年の話。ライブ・ブートまでチェックしているヘヴィー・ユーザーの俺からすれば、目新しさのないラインナップである。『Message in a Box』が手元にあれば、プレイリストの組み合わせでコレを作っちゃうことも可能である。めんどいから、そんなことしないけど。
 ボックスを買わないと手に入らない、レア・アイテムの特典として、ビギナーのポリス・ファンなら喜ぶのかもしれないけど、そもそも今どき、ポリスのライト・ユーザー自体が少なそうだし、やっぱりマニア向けアイテムということになるのかね。一応、「アビー・ロード・スタジオでの最新リマスター音源」という触れ込みだけど、もともと録音の良いバンドだったし、う〜ん。
 ただ、ちょっとだけ擁護させていただくと、アーカイヴ・ビジネスで生計を立てている多くのベテラン・アーティストと比べれば、ポリスはずっと良心的な方である。メーカーの担当者からすれば、新たな企画の立てようがなくて苦労しているんだろうけど、音質の悪いデモ音源やリハーサル・テイクまでかき集めてボックス化しちゃう、どこかのアーティストと比べれば、ずっとマシである。
 「ヘヴィー・ユーザーは騙せない」と悟ったのか、それとも「どうせオマケだし」と開き直っちゃったのか、この『Flexible Strategies』も後日、独立してリリースされたのだけど、フィジカルでの販売はナシで配信のみ。多少やましい気持ちもあったんだろうか。

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 「ポリスの全音源収録」と謳っているわけではないけど、これが新たな決定版とすると、問題は他の残りの楽曲。『Message in a Box』には収録されていたけど、今回見送られた楽曲の立ち位置はどうなってしまうのか。
 ポリスの二大黒歴史として挙げられるのが、まずひとつ目、来日記念でリリースされた「De Do Do Do, De Da Da Da」の日本語ヴァージョン。アーティストというよりまだ若手バンド(これも嘘)というポジションだった当時のポリスが、多分、「クイーンも日本語で歌ってから人気が上がった」というヨタ話にそそのかされてレコーディングした珍品である。
 ちなみに日本語詞を担当したのが湯川れい子。「ドゥドゥドゥデダダダは愛の言葉」って邦題は失笑ものだけど、原曲の詞が詞だけに、充分健闘したんじゃないか、とは思う。ていうか、同情しちゃうよな、こんな力技の仕事。
 もうひとつが「Don't Stand So Close to Me ‘86」、邦題「高校教師」の1986年ニュー・レコーディング・ヴァージョン。既発表のリ・アレンジというパンチの弱さに加え、肩透かしのショボさも相まって、US46位・UK24位と、セールス的にもショボかった現役時代最後のシングル。
 『Synchronicity』のワールド・ツアー終了後、ソロ活動に専念していたスティングのスケジュールが空いた時点から、ポリスのアルバム・レコーディングはスタートした。この時点でのバンドの状態は公式では「活動休止中」、解散するとかしないとかの話題は、まだなかった。
 ただ、メンバーの想像以上に作業は進まず―、ていうか、すっかりソロ・アーティスト然としていたスティングが曲を書いてこず、また手持ちの曲も出そうとしなかった。「誰もが誰かのきっかけ待ち」という状況が長らく続き、取っ掛かりとして手をつけたのが、「高校教師」のリ・アレンジだった、という次第。
 オリジナルからテンポをグッと落としたことでスティング色が濃いわ、レコーディング途中でスチュワート・コープランドが鎖骨骨折でドラムを叩けず、已むなくプログラミングでの参加になるわ、アンディ・サマーズは相変わらず自分の持ち分以外の仕事はしないわで、メンバーにとっても「無かったことにしたい」と思うのも無理はない。結局、どうにかまともに仕上がったのはこの一曲だけで、リリースされた時点ではすでに事実上解散状態だったという、まことにいわくつきのトラックである。
 他の未収録音源もなんらかの形でサルベージしてほしいけど、個人的にこの2曲は、早急にご検討願いたい。メンバーの意向もあるんだろうけど、全音源コンプしたいのがヘヴィー・ユーザーの願いなんだから、その辺はどうにか説得しようよ。
 ついでに、豪華木箱入りシングル・ボックスの復刻も、できたらぜひ。今なら即買いできるよ、大人だもの。





1. Dead End Job
 1978年のシングル「Can't Stand Losing You」のB面としてリリース。まだEU界隈を連日ドサ回りしていた頃の演奏で、「パンクって、こんな感じじゃね?」って風に勢い優先のストレート・パンク。
 「どうせB面だし」といった投げやり感は伝わってくるけど、さらに遊び心なのか実験性を追求したのか、左チャンネルでずっとサマーズが何か呟いている。どうやら新聞を読んでいるらしい。ちなみに「Can't Stand Losing You」の初版ジャケット、首を吊った人形が思いっきり写っているため、かなりセンシティヴ。とてもここでは紹介できない。

2. Landlord
 UK1位の出世作となったシングル「Message in a Bottle」のB面としてリリース。1.と同じくハードでシンプルなロックンロール。
 サマーズがかなりノッてるのか、それとも単調なプレイにすでに飽きてるのか、いちいちオブリガードをぶっ込んできている。そんな中でもスクエアなプレイのコープランド。

3. Visions Of The Night
 1979年のシングル「Walking on the Moon」のB面としてリリースされているけど、レコーディングされたのは1.と同じセッションのため、2年ほど寝かされてから世に出たトラック。「寝かせた」というよりは、没テイクを引っぱり出してきた感じかね。
 シンプルというよりは、単調で大味な印象。どんな経緯があったかは不明だけど、あのジョン・ケイルがプロデュースした、とのことだけど、どこまでの貢献度だったかも、ちょっと不明。ていうか、名義貸しただけだろ、こんな出来だったら。
 この時のテイクに満足行かなかったのか、再度『Outlandosd'Amour』のセッションでもリトライしているのだけど、こちらは未発表。多分、そんなに変わり映えしなかったのだろう。どれだけいじっても、何か変わりそうとは思えないシンプルさだし。

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4. Friends
 「高校教師」のUK盤シングルB面としてリリースされた、サマーズ作曲のインスト・ナンバー。1.同様、ここでもサマーズ、なんかミステリアスっぽいモノローグを挿入している。時期的に『Zenyatta Mondatta』セッション時に制作したと思われ、メンバー全員によるコーラスが、同じくインストだった「Reggatta de Blanc」っぽい。
 この時代にまでなると、アンサンブルも少し凝ってきて、ライブ仕様に捉われないオーバーダヴも多くなってくる。なので、3ピース・バンドとしては円熟期であり、一番面白い時代の貴重な演奏なのだけど、でもやっぱモノローグは余計。普通にインストで聴きたかったな。

5. A Sermon
 「高校教師」のUS盤シングル、またUKでは「De Do Do Do, De Da Da Da」のB面としてリリースされた、コープランド作曲によるロック・チューン。時系列・リリース順に収録されているはずだけど、何かここだけ急に古くさくなったな、って思って調べてみると、『Outlandos d'Amour』セッション時の音源だった。要はボツ音源のお蔵出し。
 なので、そりゃもちろんポリスの音源だから、同時代のバンドと比べてクオリティは高いんだけど、全体的にアンサンブルがこなれてないというか、演奏と歌がバラバラ。まぁB面だしな、ってことなのだろう。もうちょっとギターを引っ込ませた方がバランスが取れると思うんだけど、ひと世代上でプロ歴も長いサマーズに忖度しちゃったのかね。

6. Shambelle
 シングル「Invisible Sun」のB面としてリリースされた、サマーズによるインスト・チューン。変なモノローグや変拍子もない、ちゃんとしたロック・チューンとして仕上げられている。やればできるじゃん、アンディ。
 3人のプレイもしっかりしてるので、うまくコンセプトとマッチしていれば『Ghost in the Machine』に入れても良かったんじゃね?と勝手に思ってしまう。アンサンブルの様子から察するに、ヴォーカルを入れることを想定してレコーディングしてるようだけど、アンディがうまく歌えなかったのか、それともスティングに頼んだけど断られちゃったのか。いずれにせよ、その辺がちょっと謎っぽい。

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7. Flexible Strategies
 「Every Little Thing She Does Is Magic」のB面としてリリースされた、こちらはメンバー全員がクレジットされたインスト・ナンバー。サマーズのギター・ソロがフュージョンっぽいのと、リズム・セクションがファンク・アプローチなことから、「One World」との類似性が見えてくる。そっちの方が出来が良かったのか、はたまたここから「One World」に発展したのか。
 アルバム・タイトルに選ばれるくらいだから、メンバーそれぞれに思い入れがあるのかもしれないけど、その辺のコメントがないので不明。でも、メイン・トラックっていうほどのインパクトはないんだよな。

8. Low Life
 「Spirits in the Material World」のB面としてリリース。『Ghost in the Machine』とテクスチュアが違うな、と思って調べたら、『Reggatta de Blanc』セッションの没テイクだった。
 ライブやレコーディングを手伝っていたドイツのアーティスト:Eberhard Schoenerとのセッションで着想を得たスティングが書き上げた曲で、そのためかいつもと違うブルース・テイストがあるのはご愛敬。ほんとスティング、ブルースって似合わないよな。

9. Murder By Numbers
 彼ら最大のヒット「見つめていたい」のB面として、また『Synchronicity』日本盤CDのボーナス・トラックとしてリリースされていたため、このアルバムの中では比較的存在が知られているトラック。でも、いつの間にアルバムからは外されちゃったんだよな。まぁそれがバンド側の意向なんだろうけど。
 でも『Synchronicity』、アルバムを通して聴いてみると、サマーズ作の「Mother」やコープランド作「Miss Gradenko」など、アナログA面は何かとアラが目立つのも事実。ほぼスティングのソロであるアナログB面の完成度の高さが際立つゆえ、バンド内の不協和音が通底音として流れている。そんなスティングも、大トリの「サハラ砂漠でお茶を」が超絶地味なエンディングになっちゃってるし。
 そう考えると、曲順さえうまく調整すれば、「Murder By Numbers」も『Synchronicity』に組み込めたんじゃないか…、っていうのは大きなお世話。

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10. Truth Hits Everybody (remix)
 オリジナルは『Outlandos d'Amour』収録、このテイクは「見つめていたい」の2枚組シングル・セットとしてリリースされている。「リミックス」という表記になっているけど、実際はテンポも違えばアンサンブルもまるで違う、実質ニュー・レコーディング。
 ストレート・パンクのオリジナル・ヴァージョンと比べ、グッとテンポを落としてボトムの効いたサウンドは、確かに『Synchronicity』期。ちなみにこのトラック、正規にリリースはされているけど、コープランドが演奏した記憶がなく、実はスティング単独のデモ・レコーディングという説がある。
 このサイトでは「ギターがサマーズっぽくない」とのことだけど、イヤイヤちょっと雑ではあるけど、サマーズだろこの音は。


11. Someone To Talk To
 「Wrapped Around Your Finger」のB面としてリリースされた、サマーズ:ヴォーカルによるチューン。スティングが書いた初期ポリスの楽曲を82年のサマーズ主導でアレンジしたような、ちょっと古さが感じられるのは致し方ないことか。
 当時のサマーズはあのロバート・フリップと交流を深めていた頃で、当時、ハイペースで2枚のコラボ・アルバムをリリースしていた時期と一致する。向こうも向こうでクリムゾン関連で何かとこじれていた頃で、バンド内の立ち位置でこじれていたサマーズとの相性が良かったんじゃないかと思われる。
 フリップの影響を受けてこれや「Mother」みたいな曲を書いたとは思いたくないけど、少なくともソングライターとしての力量は、スティングに大きく引き離されたことは確かである。

12. Once Upon A Daydream
 「Synchronicity II」のB面としてリリース。当時、日本でも発売された12インチ・シングルのB面にも収録されており、思えばそれが初めて俺が買ったポリスのレコードであり、個人的に思い出深いトラックでもある。
 『Ghost In The Machine』セッションのアウトテイクらしいけど、すでに『Synchronicity』っぽさ、ていうかスティング:ソロのテイストが感じられる。作曲にはサマーズも噛んでいるらしいけど、スティング色が濃いため、あの変なアングラ臭は感じられない。