ビートルズ内ランキングでは『Abbey Road』にトップを譲り渡した形になったけど、正直、このアルバムは2番手ポジションが似合っているので、格落ち感は見られない。サイケやフラワー・ムーヴメント華やかなりし、1966年という時代の空気をダイレクトに反映した作風なので、『Abbey Road』よりも時事性やアクがちょっと強い。スタンダードと呼ぶには、王道からちょっとズレているのだ。
90年代後半あたりから、これと『White Album』推しが多くなったのは、ドン詰まりとなったメジャー発ロックへのアンチテーゼとして、グランジやDTMの勃興とリンクしている。マス・プロダクトの完成度を求めるのではなく、未整理でクセの強いマテリアルにシンパシーを感じてしまう時代傾向が、遡ってリスペクトされた格好。
リリースから半世紀を経たにもかかわらず、いまだミステリアスな部分も多い「Tomorrow Never Knows」の強烈なオーラは、「なんかよぉわからんけど、とりあえず推しとこ」とのたまう半端な事情通を大量に輩出した。今世紀初頭は「『Revolver』推しとけば通ぶれる」雰囲気が蔓延していたけど、近年はそれも流動的になっている。
ちなみに、前回11位のElvis Presley 『The Sun Sessions』は、今回78位。「ロック」じゃなくて「ロックンロール」。この世代になると、もはやレジェンドを通り越して「教科書や百科事典に載ってる人」レベル。研究資料としてはいいけど、純粋に楽しめる人はかなり絞られる。
このアルバムも古今東西、あらゆるカバー・ヴァージョンが存在するのだけど、やはりここは定番の金沢明子「イエロー・サブマリン音頭」。民謡歌手であった彼女が大滝詠一に直指名され、「風立ちぬ」テイストの楽曲を期待してたのに、スタジオで歌わされたのがコレ。日本の音頭と大英帝国ポップスとの邂逅が行なわれた、歴史的瞬間でもある。
リリース当時はアイドル的な人気や徹底的なエンタメ路線が敬遠されたこともあったけど、21世紀に入ってからはクオリティの高さが純粋に評価されるようになってきた。68位→68位だった『Off the Wall』も、今回は36位と大きく順位を上げた。『BAD』も200位→203位→194位と安定したポジション。
音楽面以外の話題が多くなってしまったことによって、『BAD』以降の作品のランキング入りはなし。キャリア一新となった意欲作『Dangerous』の再評価は、また次回かな。
記憶に新しい時代のアルバムはまだわかるとして、エピック期のジャクソンズに投票する人はいなかったのかね。プレ『Off the Wall』という見方もできる『Triumph』の存在も忘れないでほしい。
前回12位のMiles Davis 『Kind of Blue』は、今回31位。それでもまだジャズ・アルバムの中ではトップ。人材不足が深刻な課題となっていたジャズ界だけど、21世紀に入ってからは、ヒップホップを通過した活きのいい若手が台頭してきている。そろそろロバート・グラスパーあたりに譲ってほしいよな、このポジションは。
情報のタイムラグはハンパなかったけど、今より確実にお茶の間との距離が近かった80年代洋楽シーンにおいて、マイケルは圧倒的な知名度を誇っていた。「飼っていたチンパンジー:バブルスの話題が、ワイドショーでもしょっちゅう取り上げられていた」と言えば、そのアイドル並みの人気の察しがつくだろう。
映画制作並みの予算をかけた「Thriller」のPVや、モータウン記念イベントで初披露したムーンウォークの鮮やかさなど、アメリカ・エンタテイメントとの圧倒的な差は、遥か遠い東洋の島国の民にとっては、垂涎の的だった。入念なマーケティングに基づいたプロデュース・ワークと、惜しみなく注がれる大量のバジェットは、すべてクオリティとカタルシスに帰結する。
それは、金と時間と才能が揃えばできるものではない。さらに、作品に殉ずる覚悟と、強い意志が必要なのだ。
マイケルは、身をもってそれを証明している。それが、『Thriller』だ。
いまだ世界一のセールスを誇るアルバムのため、カバーは山ほどあり、日本でも当時から、歌番組やバラエティで歌われたりしているのだけど、音源で残されているものとなると、グッと少なくなる。朝倉美希が「Billy Jean」を、日本語オリジナル歌詞でカバーしているのだけど、オケはそのまんまコピペ、ヴォーカル・スタイルも試行錯誤したのか、マイケルに寄せててちょっと苦しそう。
でも、歌い上げるBメロになるとガラッと雰囲気が変わり、いつもの「HERO」っぽい歌唱が聴ける。
主にジャズ/ゴスペルのフィールドで活動していたアレサ、クイーン・オブ・ソウル伝説のスタートとなった、アトランティック移籍後初のアルバム。「ゴチャゴチャ云わねぇで、いいからまず「Respect」聴いとけ」と、多くのソウル・ファンは語る。俺も同感だ。
アトランティック3作目の『Lady Soul』は、84位→85位→75位と安定した支持。今回初登場『Amazing Grace』は154位にランクイン。アンチ・ポピュラー音楽でありながら、完全版がリリースされたことにより、そのヴォーカル・パフォーマンスの凄みが高評価を呼んだ。低迷期とされていた70年代の作品も、レア・グルーヴ周辺の再評価が後押しし、『Young Gifted and Black』も初登場388位。
前回13位の『Velvet Underground & Nico』は、今回23位。全然関係ないけど、昔ユニクロで買ったバナナ・ジャケットのプリントTシャツが、ついにボロボロになり、この前処分した。まったく関係ねぇな。
もちろん彼女以前にも、パワフルな女性ヴォーカリストはいたのだけれど、そんな中でアレサが一歩も二歩も抜きん出たのは、ただ力で押すのではなく、その声の中にしなやかさが備わっていた点にある。時に強く、そしてたおやかな気品と振る舞いを備えた声とピアノは、幼少時から教会音楽で育まれた才能がベースとなっている。ディープなゴスペルからディスコ、はたまたバカラックまで、何でも自分のフィールドに引き込んでしまうポテンシャルは、唯一無二の才能だった。
もともとオーティス・レディングの曲だった「Respect」を本歌どりしちゃったのがアレサで、さらに時空を超えてそこに乗っかったのが、日本が誇る山崎まさよし。全編洋楽カバーのアルバム「COVER ALL YO!』より。
現役最高齢のロック・バンドが、遂にベスト10陥落。いくら老いたとはいえ、いまだ「ステレオタイプのロック」で連想するのはストーンズ・タイプのモノだし、雑誌名からして、ストーンズがベスト10に入ってても、誰もヤボな詮索はしないと思うのだけど、そこに世代交代とポリコレ遵守を断行した、編集サイドの覚悟が見えてくる。
他のランキングを見てみると、『Let it Bleed』が32位→32位→41位と微減。ビートルズ同様、こちらも50周年エディション効果で下落に歯止めがかかった。でも同年代リリースの『Beggars Banquet』は、58位→58位→185位と大きく後退。ジャケットがややこしいからかね。同様に、『Sticky Fingers』も63位→64位→104位、こちらも後退。
何かと契約関係のややこしいストーンズの場合、独立前/独立後でレーベルが違い、ベスト盤の選曲もきっちり線引きしなくちゃならない取り決めがあるのだけど、その独立前のアルバム推移を見ると、『Aftermath』が109位→109位→330位、116位→116位の『Out of Our Heads』に至っては、今回ランク外。アメリカ編集版の『Now!』も、179位→180位→圏外、『Between the Buttons』も351位→357位→圏外と、軒並み総崩れ。ミック・ジャガー的には「してやったり」だな。
とはいえ、独立以降の『Tattoo You』も209位→213位から圏外。『Some Girls』も266位→270位→468位とギリ瀬戸際。ロートルには例外なく容赦ない「Rolling Stone」の姿勢は、今後に活きてくるだろうか。
とにかくレコーディング「だけ」に集中するつもりで、人里離れたキースの別荘に、メンバー全員泊まり込んだはいいけど、酒やドラッグが始終飛び交い、さらに怪しげなブローカーやらグルーピーやら事情通やらが、入れ替わり立ち替わり。煩悩と誘惑が渦巻くカオスな状況だったにもかかわらず、「なんかよくわからんけど、なんとかなっちゃった」作品集。
メンバーからスタッフから、みんながみんな、ラリってトンデて記憶が曖昧だけど、なんかいろいろ試してみたら、良さげな曲ばっか量産しちゃったんで、あるだけ詰め込んだら、こんな大作になっちゃった的な、刹那な行き当たりばったり感が漂っている。こう書いちゃうと、その場しのぎのやっつけ仕事的だけど、そもそも各メンバーのポテンシャルが高い分だけ、逆にタガの外れた状態を作り出したことが、クオリティの高さに直結した。
多分、もう二度と作ることのできないアルバム。
初版48位から15位と大きく票を伸ばし、ヒップホップのジャンルでは最高位となったパブリック・エネミー。歴史的見地で言えば、アフリカ・バンバータやRUN D.M.C.も並ぶけど、インパクト重視のシングルではなく、アルバムとしてまとまったコンセプトの提示という点において、彼らの圧勝となった。3枚目の『Fear of a Black Planet』も296位→302位→176位と、着実にランクアップ。代わりとは言ってなんだけど、デビュー作『Yo! Bum Rush the Show』は、初版489位のみの登場で、以降は圏外。
これまでラップ/ヒップホップをちゃんと聴いてこなかった人生だったのだけど、さすがに「Bring the Noise」と「Don't Believe the Hype」くらいは聴いたことある。聴いただけだけどさ。
俺的に「ラップ」と聞いて連想するのはこの時代の音で、サンプリングもモロわかりやすい引用が多いため、正直聴きやすい。「隣りのブロックのクソッタレがどうした」など、身近な周辺雑記の垂れ流し程度でしかなかったメッセージ性に、政治・社会問題に加え、ストリート・カルチャーの要素もぶち込んで先鋭化させたのは、彼らの大きな功績のひとつである。
ちなみに前回15位のJimi Hendrix Experience 『Are You Experienced?』は、全般的なベテラン排除の煽りをくらい、今回は30位とやや後退。アラフィフの俺世代でも、ジミヘンはすでに伝説の人、いわば「教科書に載ってる」レベルの人。下の世代ともなれば、「切手やお札レベルの偉人」という認識なんじゃないかと思われる。
初期UKパンク勢では最高位にランクイン。取り敢えず、「ピストルズより上」って結果は、「Rolling Stone」の良心だな。直接音楽とは関係ない、スキャンダラスなエピソードや暴言で話題を繋いだピストルズに対し、純音楽主義を貫いいたクラッシュの姿勢は、誠実だったと言える。
他のランクインを見てみると、デビュー・アルバム『The Clash』は78位→81位→102位と、ちょっと後退。対して3枚組の問題作『Sandinista!』が400位→407位→323位とランクアップ。「UKパンクのオリジネイター」という位置づけから、「異ジャンルを取り込んだミクスチャー・ロックのルーツ」といった風に、ポジションが変化しつつあるのだろうか。
それならそれで、「ベスト10に入れてて良かったんじゃないの?」と勝手に思ってしまう。確かにロートルの部類だけど、もうちょっと柔軟に考えようよ、何も『Cut the Clap』入れてくれ、ってゴネてるわけじゃないんだから。
ロック・バンドが2枚組アルバムをリリースすると、各メンバーが自己主張しすぎて、アレコレ詰め込みすぎるケースが、得てして多い。結果、冗長でフォーカスがボヤけて散漫な出来になることが多いのだけど、このアルバムの場合、その「まとまりの無さ」さえ魅力に転化してしまっている。
ロカビリー/レゲエ/ソウル/その他もろもろに至るまで、「俺たちがプレイすれば、何だってパンクさっ」の精神のもと、直球・変化球を織り交ぜたバリエーションの豊富さは、凡百のパンク・バンドを軽々と凌駕している。そういった意味で言えば、イニシアチブを取ったミック・ジョーンズの姿勢は、今も終始一貫している。
名前は知ってるし、多分ラジオでも聴いたことあるんだろうけど、意識してちゃんと聴いてないので、詳しく知らないカニエ・ウエスト。音楽そのものより、スピリチュアルな言動や大統領選出馬など、周辺情報ばかりが耳に入ってきて、気軽に入りづらくなっちゃったカニエ・ウエスト。
経歴に沿って順繰りに羅列してゆくと、デビュー作『The College Dropout』は2版298位→74位、2枚目『Late Registration』が2版118位→117位、3枚目『Graduation』は初登場204位、4枚目『808s and Heartbreak』が初登場244位、そして5枚目が『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』。さらにもうひとつ、Jay Zとのコラボ・アルバムを飛ばして、『Yeezus』が初登場269位。取り敢えず羅列してみたけど、どれがどれだかわからない。
変に知ったかぶりすると恥かきそうなので、『The College Dropout』までに予習しておこう。
『血の轍』より下になったことの賛否両論はさておき、どうにかベスト20に残ったのは妥当な評価。ジミヘン同様、彼もまた、多くの若い世代からすれば歴史上の人物なわけで、ましてやノーベル賞まで授賞しちゃったくらいだから、ぞんざいな扱いはできないし、特にこのアルバムなんて、ロック歴史学の必修単位でもあるし。
お勉強的に聴くことはあれど、今や日常的にルーティンで聴くようなサウンドではない。なので、ちょっと扱いに困ってしまうアルバムでもある。
「ディランがロック」というキャッチコピーの通り、当時としては「電気楽器」の導入はシーンにとって衝撃だったことは何となく理解はできるけど、時代性を考慮しないフラットな耳で聴けば、「ロック風のフォーク」といった按配である。フォーク=ロックというには、詞の力が強いんだよな。
ライブ映えすることもあって、世の中には星の数ほど「Like a Rolling Stone」のカバーが存在する。ストーンズのライブ・ヴァージョンは有名だし、日本でもクワタバンドがライブでカバーしていたりもするのだけれど、ここは原典に最も忠実と思われる、友部正人のライブ・ヴァージョンを。
シンプルかつ簡素なバッキングを背に、超意訳の日本語歌詞を朗々とマイペースに歌う友部。ディランと共に歩み、活動してきた男の言葉は、飄々としていながら、とても重い。