Folder 80年代の華麗な幕切れを象徴する、ジュリー29枚目のシングル「TOKIO」は、1980年1月1日にリリースされた。曲調もコスチュームも演出も、シングルごとにガラリと変え、その都度、センセーショナルな反響を巻き起こしていたのだけど、この曲が与えたインパクトは特に、それまでのイメチェンを軽く超えていた。
 ひとつのロール・モデルとしていたと思われる70年代のデヴィッド・ボウイが、「トム少佐」やら「ジギー・スターダスト」やら「シン・ホワイト・デューク」やら、アルバムごとにキャラクターを変えていたのに対し、ジュリーはさらに速いペース、3ヶ月ごとにイメージチェンジを繰り返していた。一般的に歌手やタレントを売り込む場合、キャラクター・イメージが浸透するまで、あまり路線変更しないのが常だけど、そんな常套手段を当時のジュリーは選ばなかった。
 「常に変化し続ける」ことが規定路線となり、「次はどんなスタイルでビックリさせるんだ?」と、逆に期待感を煽らせたのが、結果的に作戦勝ちだった、ということである。バラードからシャンソン、オールディーズまで、あらゆるジャンルを取り込んだ唯一無二の歌謡ロックと、軍服をモチーフにしたり上半身シースルーだったりと、常にお茶の間の意表をついたコスチュームは、北海道の中途半端な田舎の小学生にも、強烈なインパクトを与え続けたのだった。
 近年の平井堅が、そんなジュリーのメソッドをなぞっているのか、シングルごとに曲調や演出を変えているけど、いまいちインパクトは弱い。ジュリーのように、楽曲コンセプトから希求されたビジュアルではないので、「単なる変わり者」で終わってしまっているのが、ちょっと惜しい。

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 ジュリー史的に、この「TOKIO」はキャリアの大きな節目となっている。これ以降も歌謡界のルーティンに則って、3ヶ月ペースのシングル・リリースを続けてゆくのだけど、次第に歌謡ロックの範疇からはみ出すことが多くなってゆく。
 いち早くニュー・ウェイヴ・テイストを取り込んだ先見性、過激さを増してゆくビジュアル・センスなど、様々な要素が絡み合っての結果なのだけど、その大元となったのが、この時期に行なわれた制作ブレーンの大幅改革であることは、意外と知られていない。ていうか俺も今回、初めて知ったことだけど。
 ソロ転向後のジュリーの制作ブレーンは、プロデューサー:加瀬邦彦と井上堯之バンドが中核となっていた。キーボード:大野克夫による作曲と、作詞家:阿久悠のタッグによる楽曲を、歌謡ロックのフォーマットでアレンジするのが黄金パターンとなっていた。「勝手にしやがれ」も「時の過ぎゆくままに」も、その手法でシングル・ヒットにつながった。
 とはいえ、さすがに10年も同じ顔ぶれでやっていれば、引き出しも少なくなってくるし、ネタだって尽きてくる。安定した演奏テクニックに裏づけされた、盤石のアンサンブルを誇る井上堯之バンドは、ジュリーの大抵のオーダーに応えてはいた。いたのだけれど、熟年夫婦のような倦怠感が漂うのは、もう避けようがない。
 そんなルーティンをちょっとはずして新鮮味を加えようと、「TOKIO」の作詞は、ここ数作での常連だった阿久悠から、新進コピーライターとしてイケイケだった、糸井重里を起用している。無骨でありながら、繊細な男の美学を追求した世界観を捨て、ポップでチャラい浮き足立った言葉は、プラスチックな質感のパワー・ポップを希求した。そういう意味で、フットワークの軽い加瀬邦彦の起用は、「TOKIO」の世界観に見事にフィットしていた。
 のちに軽薄短小と形容される、80年代初頭の空気感を内包したテクノ風味の歌謡ロックは、70年代の旧タイプ:歌謡ロック・ジュリーを見事に一掃した。GSサウンドの延長線上で完成度を高めていったジュリーの歌謡ロックは、「TOKIO」を経ることによって、新たなステージへと移行した。
 ただ、ジュリーまたは加瀬邦彦によるコンセプトが先行し過ぎたのか、バンド・メンバーとの乖離が広がり、その破綻は瞬く間に訪れた。電飾が散りばめられた軍服風のコスチュームに加え、パラシュートは背負うわ当時としては珍しかったカラコンを装着するわ、一連のド派手で奇矯なパフォーマンスは、基本、オーソドックスなロック・サウンドを志向する井上堯之らの意に沿うものではなかった。
 「TOKIO」のヒットで沸く世評をよそに、彼らはジュリーのバックを続けることを拒否、長年続いたパートナーシップは解消、同時にバンドも解散となる。

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 そんな舞台裏のゴタゴタが当時のお茶の間に伝わるはずもなく、ジュリーはほぼ毎日のようにテレビに出ずっぱり、歌にバラエティに芝居にで、喝采を浴びていた。正直、バック・バンドの面々が変わっていても、ほぼ誰も気にならなかった。
 GS人脈で固められていた井上堯之バンドから一新、のちに「エキゾティックス」と改名する新バンド・メンバーたちは、これまでとはベクトルの違う音楽性にあふれていた。歌謡ロックの延長線上のサウンド・アプローチから、UKニュー・ウェイヴ/ニュー・ロマ的なサウンドの導入を構想していたジュリーにとって、メンバーの刷新は必然だった。
 従来の職業作家や、いわば身内のGS人脈による楽曲制作スタイルの固定をやめ、トレンドに沿ったニュー・ウェイヴ以降の若手ソングライターを積極起用、時流やコンセプトの流動化にも即時対応できるバンド・アンサンブルの強化。これらが、ジュリー:80年代の基本コンセプトだった。
 これまでとは毛色の違った人脈形成を進めることができたのは、ソロ・シンガーであり芸能人である前に、生粋のバンドマンだったジュリーの意向が強かったと思われる。加えて、当時の所属先だったナベプロは、ロック/ニュー・ミュージックの専門部署「ノンストップ」を手掛けており、そこには有名無名のクリエイターが多数在籍していた。当時はまだ無名だった山下久美子や大沢誉志幸をはじめ、新進気鋭のアーティストやソングライターが凌ぎを削っており、その後のジュリーのアルバム制作にも関与してくることになる。

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 セルフ・パロディのようなジャケットといいコンセプトといい、『G.S.I LOVE YOU』は後ろ向きな企画に思えてしまうけど、先入観抜きで聴いてみれば、そんな疑念は一掃される。単なるノスタルジーではない、ニュー・ウェイヴのフィルターを通した80年代仕様のサウンド・プロデュースによって、非・歌謡曲ユーザーにもアピールする内容に仕上がっている。
 当時、サウンド・プロデューサーとして頭角をあらわしていた伊藤銀次、また、その彼の強いプッシュによって、ブレイク前の佐野元春が参加していることも、世代交代を強く印象づけている。2人に共通していたのは、様式化しつつあった70年代日本のロック・シーンに馴染めず、独自の路線を模索していた点にあった。
 そう考えると、同様にロック・シーンからは「GS上がりが」とつまはじきにされ、歌謡界でも、どのグループ派閥にも属さず、独立独歩の姿勢を貫いていたジュリーもまた、似たようなものだった。

 1981年のオリコン年間アルバム・ランキングを見てみると、寺尾聡の「リフレクションズ」がぶっちぎりのトップで、次が「ロンバケ」、3位がアラベスク、といった布陣。中島みゆきやオフコースなど、フォーク/ニュー・ミュージックが全盛の頃であり、日本のロックは上位に入っていない。
 辛うじてロックと言えるのは横浜銀蠅くらいで、あとひねり出すとしたら、「キッスは目にして」のヴィーナスだけ、といった体たらく。いずれも、直球のロック・サウンドとは言いがたい。
 『G.S.I LOVE YOU』はオリコン最高23位、年間チャートには顔を出していない。職業作家が手掛けたロック「っぽい」サウンドはお茶の間でも認知されていたけど、「ちゃんとした」ロックの需要はまだごく少数だった、というのが窺える。
 当時の歌謡界のセオリーとして、テレビの歌番組出演でシングル認知→ヒットの余韻で地方営業というのが定番だった。アルバムとはヒット・シングルを集めたベスト盤であり、コンペに落ちたシングル候補曲や、あり合わせのカバー曲で曲数の帳尻を埋めるのが、これまた定石だった。
 当時のナベプロの稼ぎ頭であり、キャリアも重ねていたこともあって、ジュリーのアルバム制作環境は、比較的恵まれた方だった。バンドマン上がりということで、サウンドやコンセプトへのこだわりも強かったため、どのアルバムも丁寧に作られている。それにもかかわらず、シングル偏重の歌謡曲の論理が強かったせいで、まともなアルバム・プロモーションは行なわれなかった。それが当時のチャート・アクションに如実にあらわれている。
 丁寧にコンセプトを練り、新進気鋭のスタッフ/ブレーンの英知を結集した作品が、「歌謡曲だから」という偏見で見過ごされてしまったのは、その後の日本のロックの方向性において、大きな損失だった。ま、そこまではちょっと言い過ぎだけど。
 でも、ヒデキのレビューでも書いてきたように、シングルの埋め草・寄せ集めで構成されたアルバムではなく、ポリシーを持って手間ヒマかけて作られたモノが、固定ファン以外には、存在すら知られなかった―。それは、「歌謡曲だから」とまともに論評しなかった当時の音楽メディアの偏向ぶりが起因しているんじゃないかと思われる。

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 活動歴の長いジュリーのキャリアには、大きな転換点がいくつか存在する。当初は、シングル・チャートで大きくランクを落とした井上陽水との「背中まで45分」・『MIS CAST』を中心に書こうと思っていたのだけど、それはまた次回。


G.S.I LOVE YOU
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1. HEY! MR. MONKEY
 ジュリー作曲によるGSテイストのロックンロール。全体的にこのアルバム、伊藤銀次の嗜好によりビートルズっぽいアレンジが多いのだけど、ここはジュリーのルーツであるストーンズらしさが強く打ち出されている。60年代を意識したのか、初期ステレオっぽい位相のミックスも、曲調にフィットしている。

2. NOISE
 「Satisfaction」に思いっきり寄せた、ストレートなロック・チューン。実際に街で録られたSEオープニングやスナッピーの効いたスネア、ドスの入ったコーラスといい、ミックスの遊びがかなり前に出ている。ポスト・パンクを意識したサウンド・メイキングは凝りに凝っており、ストレートなバンド・サウンドじゃ古臭くなっちゃうことを回避しているんだろうけど、あれこれいじる前のネイキッド・ヴァージョンも聴いてみたいところ。

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3. 彼女はデリケート
 佐野元春作による、こちらもマージー・ビート色の濃いロックンロール。ジュリーのヴォーカルも、正統R&Rに準じたバディ・ホリー・スタイルで臨んでいるけど、これは元春のデモ・テープからインスパイアされたんじゃないか、と。
 俺がこの曲を知ったのは、多くの人同様、元春のセルフ・カバーで、そちらの方が基準になっているのだけど、E. Street Band色の強かったハートランドの演奏がアメリカン・テイストだったのに対し、ジュリー・ヴァージョンはUK色が強い。どっちがいい・悪いはないけど、こなれた演奏・ヴォーカルの元春ヴァージョンより、未完成でレアな味わいのジュリー・ヴァージョンの方が、曲のコンセプトに沿っているんじゃないかと、最近は思う。

4. 午前3時のエレベーター
 「Be My Baby」の黄金リズム・パターンを使った、ムッシュかまやつ作の三連ロッカバラード。ムッシュという人は、正直、あんまり詳しくなかったのだけど、こんな色気のあるメロディをかける人だった、と改めて気づかされた。もしかして、多くの音楽ユーザーは、ムッシュというソングライターの凄さを、充分にわかっていないのかもしれない。
 万人向けの大名曲ではないけれど、ふとラジオからかかると、つい耳が惹かれてしまう、そんな曲。それを狙っていたのかな。



5. MAYBE TONIGHT
 プレスリーの「冷たくしないで」を80年代にヴァージョン・アップさせたような、オールディーズ・タイプのロックンロール。ややゆったり目の、ベース・ラインが引っ張るアンサンブル、レトロなオルガンの響きでほっこりしてしまう。

6. CAFÉビァンカ
 伊藤銀次いわく、「ビートルズ『Till There Was You』を意識したアレンジ」と言ってしまっている、ほんとまんまのサウンド。週末夜更けのAMラジオから流れてきそうな、まったりした優しい響き。ニュー・ウェイヴだ80年代だ、って飾り文句を必要としない、エヴァーグリーンのカフェ・ビアンカ。

7. おまえがパラダイス
 アルバムと同時発売された、32枚目のシングル。オリコン最高16位、後期ビートルズっぽいテイストが、シングル候補として挙げられたのかね。メロディはオールディーズっぽく大人しめなのだけど、当時の歌番組の映像では、かなり気合の入った演奏とヴォーカルを見ることができる。
 海老茶のレザー・スーツを腕まくりし、スタンド・マイクでのオーバー・アクションは、お茶の間サイズを軽く飛び越えている。こんなのを毎週やっていたジュリーと、番組制作スタッフの気概がバシバシ伝わってくる。こんな熱気があったんだな、80年代って。



8. I'M IN BLUE
 のちに佐野元春がセルフ・カバーしており、そのヴァージョンは『Someday』に収録されているのだけど、改めて聴き返すまで、その存在を忘れていた。正直、俺の中ではあんまり印象に残らない、中庸な曲だったのだけど、これを聴いて印象が変わった。『Rubber Soul』期のフォーク・タッチを取り入れたアレンジ、声質的には元春より艶のあるジュリーのヴォーカルによって、レベルが確実に一段上がっている。

9. I'LL BE ON MAY WAY
 他の曲のアレンジ作業中に沸き上がった発想をモチーフとして、その場で収録が決まった、伊藤銀次作曲のフォーク・ロック。アコギの絡め方はKinks、コーラスなんかはBeach Boysなど、まぁいろんな要素が突っ込まれているけど、そんなミスマッチ感をジュリーのヴォーカルで強引にまとめてしまう、そんな力技が発揮された投入カロリーの高い曲。
 逆に言えば、これってジュリー以外には、歌いこなすのムリだな、きっと。

10. SHE SAID……
 自作曲ではないけど、ひそかに元春がバックコーラスで参加。まだ変声期前のような若々しい声。こうやって並べて聴いてみると、甘さとワイルドネスが同居した、色気のある声質は、唯一無二のものだよな。

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11. THE VANITY FACTORY
 ちょっとGSテイストからははずれた、ストーンズ・タイプのダークな味わいのロックンロール。テンポを上げれば、「My Generation」も入ってるかな、ギターのリフなんかは。
 元春ヴァージョンはテンポが上がり、ソリッドな仕上がり。ちなみにジュリーがコーラスで参加している。俺的にはこっちの方がオリジナルだけど、ジュリー・ヴァージョンの方が奔放なヴォーカルで「ロック」なんだよな。

12. G.S.I LOVE YOU
 ラストを飾るにふさわしい、ジュリー作のひっそりしたバラード。大仰なものではない、軽やかに、そしてそっと寄り添うかのような優しさにあふれている。まるで讃美歌のように、そのたおやかな響きは、聴く者の心を癒す。
 ―懐かしい宴はもう終わり、そろそろ現代へ帰る時間だよ、と。



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