folder 2012年リリース、スウィング・ジャズの巨匠:デューク・エリントンのトリビュートをテーマに据えた、ジョー・ジャクソン17枚目のオリジナル・アルバム。デュークのイラストが描かれたジャケットには、どデカくジョーの名前がクレジットされているけど、メインでヴォーカルを取っているのは4曲だけで、その他の曲はインストやゲスト・ヴォーカルで構成されている。
 ここでの彼は、アーティストというより、むしろ総合プロデューサー的な立場で関わっているため、純粋なオリジナルというには、ちょっと微妙な作品である。どのトラックにおいても、何らかの形で演奏に参加してはいるので、ジョー監修のオムニバスと言った方が、通りは良い。
 なので、「Steppin’ Out」の人の新譜と早合点して買っちゃうと、ハズレを引いた気になって後悔してしまう。いねぇか、そんなヤツ。

 「デューク・エリントンの楽曲を21世紀の解釈で演奏する」というコンセプトのもと、ジャズを問わず、あらゆるジャンルのミュージシャン/アーティストがキャスティングされているのだけど、これがまぁ予測不能のメンツ。常連のVinnie Zummoや、新世代のソウル・ディーヴァになるはず「だった」シャロン・ジョーンズはまだわかるとして、スティーヴ・ヴァイとイギー・ポップまで来ると、これまでのコネクションからすれば予測不能、まるで飛び道具のような人選である。
 各々のこれまでの経歴から見て、ジョー自らがオファーしたとは考えづらいので、多分に第三者のコーディネーターに依るモノだと思われる。ていうか、このアルバムの企画・主旨そのものが、ジョーの発想によるものではなく、発売元であるユニバーサル系列の新興ロック・レーベル「Razor&Tie」主導のものと受け取った方が、スッキリする。
 これまでほぼ接点のないジョーがオファーして動く連中ではないし、正直、デュークへのリスペクトがどれだけのものなのか、それもちょっと怪しいメンツも混じっている。ジョー単体の企画で、彼らに見合うギャラが払えるかといったら、「それもちょっと…」て感じなので、やっぱ強力な後ろ盾があってのアルバム制作だったんじゃないか、と思われ。

920x920

 多くのベテラン・アーティストの例に漏れず、近年のジョーはライブを主軸に活動している。長期的なリリース契約にありつけなくなった実情もあるけど、出版印税に頼れなくなった昨今、早い段階でシフト・チェンジしていたのは、ある意味、結果オーライでもある。
 ライブ会場も大規模なものではなく、もっぱら2000人程度の小規模ホール中心のため、ほとんどは3ピースのピアノ・トリオという、コンパクトな編成で活動している。
 『Duke』のツアーは、さすがに3人で賄いきれるサウンドではなかったため、近年にしては珍しく、7人編成で回っていた。ただ、これは特殊な例。経費も抑えられ、小回りの効く3〜4名でのステージが、定番となっている。
 このくらいの編成だと、メンバー間の意思疎通も容易で、何かとメリットも多いのだけど、反面、サウンドのバリエーションが限定され、こじんまりしたモノで終わってしまうのが、弱みといえば弱み。アカデミックな楽理と広範な知識に長け、あらゆるジャンルに造詣が深い人なので、本体なら、ゴージャスな大編成のバンド・スタイルが合うはずなのだけど、今のジョーのポジションでそれを維持してゆくのは、ちょっと難しい。

 直球ビート・パンクからフル・オーケストラによる現代音楽まで、守備範囲の広いジョーであるけれど、その作風は大まかに4つに分別される。

1. ロックンロールをベースとしたビート・パンク。ロック・コンボの基本フォーマットである4ピースから放たれる、無骨で無愛想で、でも無粋ではないエモーションの塊。
2. ジョーのピアノを中心とした、ベース+ドラムのトリオ・スタイル。メロディアスなバラードから、打楽器的に鍵盤を叩きまくるロック・スタイルまで、思ったよりバリエーションは豊富。ベン・フォールズ・ファイブのルーツ。
3. サウンドやメッセージではなく、スタイルやアプローチに統一性を持たせたコンセプト・アルバム。ライブ一発録りやらガチのスウィング・ジャズやら、キャリア通しての一貫性はないけど、一作ごとのトータリティへのこだわりは強い。『Duke』はここに分類される。80年代全盛期は、おおよそこのスタイルで製作された。
4. ここまで挙げてきたモノとは、全然違うベクトル。アンチ・ポピュラーとでも形容すればいいのか、不可知論に支配された現代音楽。理解なんかされなくても全然構わない、自己満の極地。不退転の覚悟でポップ廃業宣言したはいいけど、閉鎖的かつ権威主義な現代音楽コミュニティからは相手にされず、次第に気に病んで隠遁状態に陥ってしまったのが、ジョーの世紀末。

 すごくザックリしたまとめだけど、だいたいこんな感じ。もっと細かくすることもできるけど、めんどくさいし本題から外れちゃうので、この辺で。

huge_avatar

 「大所帯のバックバンドを維持できるほどのライブ動員が見込めないため、中ホール・クラスでの公演が主戦場となっている近年のジョー」と言いたかったのだけど、考えてみれば、昔からスタジアム/アリーナ・クラスのアーティストじゃなかったよな、音楽性からいって。前述した、どのタイプのサウンド・アプローチにおいても、マス・ユーザーを対象にしたものではない。
 そんな観客動員やホール規模を考えれば、ライブにしてもレコーディングにしても、消去法的に2.のスタイル主体になってしまうのは、やむを得ない部分がある。そりゃ1.のタイプでも全然いいんだけど、体力的にもテンション的にも、長く継続できるものではない。
 そんな2.の作風で作られたのが、近年の『Fool』と『Rain』なのだけど、印象に残るメロディ・ラインやフレーズを使って、コンパクトかつ端正にまとめている。「良いメロディをシンプルな楽器構成で鳴らす」、いまの身の丈に合った素直なアルバムとなっている。
 いるのだけれど、でも―。
 なんかつまらん。あんまりワクワクしない。予測不能の驚きや、振り回されるほどのインパクトには欠けている。
 なぜなのか―。
 ほんとはこのレビューも、当初は『Fool』をテーマに書き進めていたのだった。いつも通り何回も聴き返し、実際、原稿も8割がた仕上げたのだけど、なんかピンと来ない。
 なので、イチから書き直し。同じ端正な作りでも、『Duke』の方がずっと面白い。

 何かと引き出しの多い人ではあるけれど、結局のところ、世界中のジョー・ジャクソン・ファンが求めているのは、1.か3.のタイプである。ごくまれに、達観したような2.の作風が好きな人もいるんだろうけど、聴いてて面白いモノではない。素材の味を活かしたシンプルな味付けはわかるけど、余計なパーソナリティを滲ませると、途端につまらなくなってしまうのが、ジョー・ジャクソンの音楽の特性である。
 ジャズなりラテンなり、あらゆるジャンルのエッセンスをちょっとずつ拝借して、自分なりに混合比率を変えたり隠し味を入れたりして、国境も人種も超越したオリジナリティ。そんな世界観に彩られた音楽こそ、彼のポテンシャルが最も発揮できるフィールドであるはずなのだ。中途半端なメッセージ性や心情吐露なんかは極力排除して、思想もイデオロギーも関係ない次元でこそ、彼の音は自由奔放に響く。
 ピアノ・トリオによるサウンドは、多少の音楽的妥協と制約はあれど、ジョーのメガネにかなった熟練プレイヤーが揃えられ、安定しつつスリリングなアンサンブルを奏でている。ヒットチャートの前線からはずれて久しく、もう戻ることもないんだろうけど、それでも現役感を忘れず、地道に真面目に歌い続けていてくれるのは、素直に嬉しい。ポスト・パンク世代の中ではまだ元気な方だし、あんまり多くを望むことはできないけど―。
 でも、それだけじゃ、ちょっと寂しくもある。

jjackson13

 あくまで単発の企画だったため、続編の可能性は薄い『Duke』のプロジェクトだけど、コンポーザーのスキルを活かせたこと、またそれを業界内外に知らしめることができたのは、大きな収穫だったはず。同じスウィング・ジャズをテーマとして、直球勝負すぎて評判も悪かった『Jumpin’ Jive』とは違い、現代風にリアレンジされた『Duke』の楽曲は、コンテンポラリーな商品価値も高く、クオリティも平準化されている。
 ポスト・パンクの看板を引っ提げながら、あえてストレートなスウィング・ジャズで真っ向から突っ込み、潔く玉砕したジョー・ジャクソンは、もういない。クライアントの意向に沿って、与えられた環境とテーマの意図を汲み、それ以上の作品を生み出すのが、職人ジョー・ジャクソンの心意気である。
 アーティスティックな矜持を保ちつつ、きちんと商品流通できるクオリティのアルバムをプロデュースできることが、業界内でも知れ渡ったのは事実である。なので、制作サイドがこういった企画をもっとオファーすればいいんじゃないかと思うのだ。
 毛色の違うアーティストとのコラボもそつなくこなせるので、自分が前面に立たなくても、コンポーザーとしての役割は十分果たせる。変に純正リーダー・アルバムにこだわらず、そういった方面に営業をかければ、いい仕事するんじゃないかと思うのだけど。


The Duke
The Duke
posted with amazlet at 19.12.28
Joe Jackson
Razor & Tie (2012-06-26)
売り上げランキング: 223,831



1. Isfahan
 1967年に作られた楽曲なので、ほぼ晩年の作品という位置づけ。ジャズ史的にはフリー/アバンギャルド全盛だったはずで、当時からすでにノスタルジーっぽく受け取られていたんじゃないかと思われる。そんな時代背景を取っ払った21世紀にオリジナルを聴いてみると、ジョニー・ホッジスのメロウなサックス・プレイは、まったり聴き惚れてしまう。
 俺的に「変な音やフレーズをを出したがる超速弾きギタリスト」という印象のスティーヴ・ヴァイ、ここではホッジスのメロディを忠実に再現している。「こういったのもできるんだぜ」的な、大人しいプレイ。まぁその辺は大人だよ、自分のアルバムじゃないし。

2. Caravan
 前曲とクロスフェードで始まる1936年のナンバー。このようなコンセプト・アルバムの場合、ジョーはクロスフェードを多用する。ゆるやかな構成の組曲が好きなんだよな。
 アフロ・キューバンの中ではわりと有名な曲で、1フレーズくらいなら誰でも耳にしたことがあると思われるスタンダードを、ソリッドなギター・ロックと中近東テイストで新味を加えている。女性ヴォーカルのSussan Deyhimはイラン出身のアーティスト/俳優で、ピーター・ガブリエルやオーネット・コールマンらとも共演している、行動範囲の広い人。



3. I'm Beginning to See the Light / Take the "A" Train / Cotton Tail
 ここで初めてジョーのヴォーカルが登場。『Body & Soul』期にしばし見られたジャズ方面へのリスペクトが強いサウンド・プロデュースとなっている。大きくフィーチャーされているヴァイオリン・ソロは、ジャズ・アーティスト:レジーナ・カーターによるもの。ジャズ・ヴァイオリンのソロイストというのは、かなりレアな存在だけど、いわゆるコンテンポラリー・ジャズ寄りの人なので、ジャズ畑以外の人にも聴きやすい。ここでウマが合ったのか、その後の『Fast Forward』でも再共演している。

4. Mood Indigo
 デュークの代表曲であり、古今東西、様々なアーティストにカバーされているため、アプローチも人それぞれだけど、比較的オリジナルの色を残したアレンジとなっている。レジーナとジョー、それにVinnie Zummoがクレジットされているのだけど、ドラムの「Ahmir '?uestlove' Thompson」って誰だ?と思ってググってみると、ザ・ルーツのクエストラブだった。こんな素直な4ビート、叩けるんだ。ちょっとビックリ。

5. Rockin' in Rhythm
 スウィングというより、デキシーランドっぽい軽快さが特徴的なインスト・ナンバー。軽い響きのピッコロとジョーのトイ・ピアノ的なプレイ、重厚感のあるスーザフォンとのコントラストがうまく対照的に配置されている。
 知ったかぶりでサラッと「スーザフォン」って書いちゃったけど、知らない楽器だったので調べてみると、あぁオーケストラのアレか、って印象。こんなデカいんだ。

joe-jackson

6. I Ain't Got Nothin' but the Blues / Do Nothin' 'Til You Hear from Me
 ソリッドなギター・カッティングが気持ちいい、タイトル通りジャズ・スタンダードのブルース。Kirk Douglassはルーツのメンバーのため、クエストラブが引っ張ってきたメンツと思われる。
 ヴォーカルで参加しているシャロン・ジョーンズは、『I Learned the Hard Way』がヒットの兆しを見せ始めた頃で、あちこちのフェスに出演したり、このような客演も多くこなしていた。この後、胆管がんを発症して活動ペースが落ち、そして2016年11月18日、彼女はその歩みを止めた。
 個人的に、もっと生きていて欲しかったシンガーの一人である。



7. I Got It Bad (and That Ain't Good) 
 ストリングス・カルテットをメインに据えた、ジョーにとっては結構得意めのシットリしたバラード。珍しくVinnie Zummoがハーモニカを吹いているけど、ギター以外の楽器をプレイするのは珍しい。比較的あっさり目だけど、ウェットになり過ぎないのが、逆にいいのかな。これがスティーヴィー・ワンダーに吹かせたら、自由奔放、そっちが主役になっちゃうんだろうし。

8. Perdido / Satin Doll
 オランダ在住でブラジル音楽をプレイするバンド:Zuco 103の女性ヴォーカル:Lilian Vieiraをフィーチャーしたラテン・ポップ。で、レコーディングはアメリカだから、無国籍感がハンパない。でも、ジャズ・ファンクの世界だって、ドイツやスペインのレーベルからリリースされていたりするので、今どき国境がどうしたっていうのはナンセンスなのかもしれない。
 インターミッション的に、ジョーのピアノ・ソロが長く収録されている。最近、レコーディングではここまで弾いてなかったよな、確か。そう考えれば、貴重なトラックではある。

9. The Mooche / Black and Tan Fantasy
 スティーヴ・ヴァイとクエストラブと弦楽四重奏とをひとつにまとめちゃった、なかなか見られない組み合わせのトラック。こうなると、メインであるはずのジョーの影も薄い。ヴァイの変態性は大きくセーブされてはいるけど、爪痕はどうにか残している。せっかくならクエストラブも、ドラムだけじゃなくて、トラックメイカーとして関わってれば、もうちょっと面白いものができたのかもしれないのに、と勝手に思ってしまう。

maxresdefault

10. It Don't Mean a Thing (If It Ain't Got That Swing)
 ラストはオルタナの御大:イギー・ポップとの本格的なデュエット。オーソドックスなスウィングのルーティンに則ったアレンジになっているけど、モノローグやちょっとしたフレーズからにじみ出てくる毒は、やはり隠し切れない。
 ここまでかなり広い意味でデュークのモダン解釈のアレンジが並んでいたけど、ジャズ畑の人にも納得していただけるアプローチといえば、やはりコレになる。この感じで『Jumpin’ Jive』も作り直せばいいのに。