Folder 1986年リリース、3枚目のオリジナル・アルバム。一般的にはこのアルバム、「初期米米としては、スカしてかしこまったサウンド」という評価だけど、その「米米」というバイアスを外して聴いてみると…、いややっぱどっか変。頭からつま先までビシッとフォーマルにキメているにもかかわらず、ネクタイの趣味が超絶悪い、といった感じで、どこかヌケている。
 カスッカスなドラムと、シャリシャリのMIDIシンセに象徴される、そんな80年代ソニーのサウンド・カラーとは一線を画していたのが、初期の米米だった。だったのだけど、ライブでのはっちゃけ具合とスタジオ音源の無難さとのギャップが大きく、なかなかイメージが定まらなかったことが、ブレイク前の彼らの悲劇である。
 ソニー的にも「どうにかテコ入れを」と案じたのか、ここでは外部アレンジャーを起用して、サウンド・コンセプトの統一を図っている。さらに意味不明の箔づけとして、レコーディングはアメリカで行なわれている。
 とはいえ、スタッフもバンドも日本人で占められており、現地のミュージシャンを使った様子もなさそうなので、なんでわざわざアメリカなのか。wikiに載ってるように、単に「コメグニ」って言いたかっただけなのか。謎だ。

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 大方の80年代サウンドの例に漏れず、当時のソニーからリリースされた音源の多くは、ピーク・レベルが低めに抑えられていた。乃木坂でもあいみょんでも三代目でも何でもいいけど、2019年現在の音圧と比べてみると、その差は歴然。当時リリースされたCDのほとんどは、おおよそボリューム3つくらい上げないと、いまの音圧に太刀打ちできない。
 「音圧爆上げくん」に象徴される、近年の過剰なブースト・ミックスもアレだけど、ほんと昔のCDは音が小さい。「どうせ人間の耳には聴こえないんだから」と、不可聴領域をばっさりカットした結果、クリアではあるけれど、腰の入ってない音になってしまった経緯がある。
 レコード特有のスクラッチ・ノイズがないメリットばかりが喧伝され、いわゆるドンシャリなサウンドが、80年代は持てはやされていた。いたのだけれど、これが全面的に悪かったわけではない。ニュー・ウェイブ系やシンセ中心の音作りをしていたアーティストとの相性が良かったことも、また事実である。
 例えば当時のソニーの屋台骨を支えていたレベッカも、結成当初はレッド・ウォーリアーズ:シャケ主導によるギター・バンドだった。この時代は認知度も低くければセールスもパッとせず、メディアからはほぼ黙殺されていた。
 彼らのブレイクのきっかけとなったのは「ラブ・イズ・キャッシュ」から、シャケ脱退を機に、シンセ主体のサウンドにモデル・チェンジしてからだ。そういう意味で言えば、アーティストとソニーとの相性がうまくマッチングした好例と言える。
 スタジオの特性なりエンジニアのポリシーなり、はたまた時代性など、いろいろな条件が組み合わさって、レーベル独自のカラーが生まれてくる。80年代のソニー・サウンドは、重めのリズム・アプローチとは真逆を指向していたため、そのポリシーに沿ったアーティストを主にマネジメントしていた。または、ポリシーにフィットするよう、アーティスト・コンセプトのモデル・チェンジにも積極的に関与した。「魂を売った」って言われるアーティストも多かったよな、誰とは言わないけど。

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 話を米米に戻すと、彼らの真骨頂であるファンク・ベースのサウンド・アプローチは、当時のソニーのカラーとは、あまりフィットしていなかった。まぁソニーに限らず、ホーン・セクションを擁するバンドのプロデュースは難しい。
 集団による同時演奏から生まれるグルーヴ感をスタジオで再現するのは、プレイヤー側としてもテンションを上げるのが困難だし、エンジニア側からしても、効果的にレコーディングするノウハウに乏しい。キチンと録るには手間も時間もかかるし、そもそもそこまで演奏テクニックをウリにしたバンドではないので、そこにリソースを注ぐのもなんか違うし。
 演奏陣やスタッフの試行錯誤をよそに、カールスモーキー石井はといえば、さらにパフォーマーとしての才能に磨きをかけ、大がかりなスナック芸キャラを固めつつあった。言ってしまえば彼にとって、グルーブ感やらアンサンブルなんてのは瑣末なことであって、極端な話、ミカン箱の上でカラオケをバックに歌うこともアリだったはず。そういえば紅白でも似たようなコトやってたよな。
 本来、卓越したヴォーカリスト立ったはずのジェームズ小野田もまた、歌よりコスチュームやメイクに凝るようになり、シュークリームシュらもまた同様。反応の薄いレコード購買層よりも、直接リアクションを受けるライブ・オーディエンスの方を向くようになるのは、これまた自然の摂理。

 「やるならちゃんとしたプレイを聴かせたい」演奏陣と、「いやいや客ウケするステージがやりたいんだ」というフロント陣との意見のぶつかり合いがしょっちゅうだった米米。みんな大人になった近年こそ、深刻な衝突はなくなったけど、年がら年中顔を突き合わせていた当時は、血で血を洗う内部抗争が日常茶飯事だった(ウソ)。
 プレイヤー主導でアンサンブルを聴かせるタイプの楽曲は、ライブでは好評を期していたけど、そのテンションをスタジオに持ち込んだらアラ不思議、ショボい仕上がりになってしまう。ライブではド迫力なはずなのに、CDになると低ビットレートのMP3にグレード・ダウンしてしまう。なぜなのか。
 前述したように、80年代のソニーのサウンド・アプローチでは、彼らを活かすミックスができなかった/ノウハウに欠けていた。せっかくのブラス・アンサンブルも、変にエフェクトかけ過ぎちゃって響きが軽いんだもの。

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 ライブのテンションをそのまま持ち込もうとするから喧々囂々しちゃうのであって、だったらいっそ、ライブ感を無視しちゃえば?てな経緯で制作されたのが、この『Komeguny』である。やっとたどり着いた。
 意外なことに、米米の楽曲の多くは、カールスモーキーの手によるモノである。作詞はともかくとして、ロクに楽器も弾けなければ音楽の素養もまるでないはずなのに、彼が紡ぎ出すメロディは、多くの人たちをいまも魅了している。
 多分に、鼻歌レベルのデモ・テープを素材として、職人肌の演奏陣らがあれこれ肉付けしての結果なのだろうけど、そのメロディの求心力は、80年代アーティストらの中でも飛びぬけている。あれだけチャラくて調子良いくせして、なので、あんまり認めたくないけど、持って生まれたポテンシャルが段違いなのだろう。
 何しろ、生まれて初めて作った曲が「Shake Hip」だった、というくらいだし。

 とはいえ、この時点での米米は、まだブレイクとは程遠い状況にあった。良いフレーズ・キャッチ―なサビはあるけど、どれもワン・アイディアのまま充分な形に膨らんでおらず、印象のボケた感じになっている。これがライブだったら、強引にグルーヴしちゃうのだけど、スタジオではそんな相乗効果も生まれにくい。初期の米米の楽曲は、得てしてそんなのが多い。
 プレイヤビリティにこだわりの強い演奏陣と、ノン・ミュージシャンであるカールスモーキーとは、愛憎半ばの関係だった。基本のコード進行さえ知らず、感性の赴くまま奏でられる彼のメロディは、楽理的に見れば、いびつなモノも多かったのは事実である。
 本人が鼻歌で歌う分にはいいけど、ここに演奏を載せるとなると、ルール無視の変な転調や不協和音を整えなければならない。そこで演奏陣の出番となる。
 「これは音楽的に間違ってる」と言われても、反論の仕様がない。感覚的にはコッチの方がいいはずだけど、それを覆せるほどの理論武装ができないため、従わざるを得ない。よって、演奏陣らの手によって、メロディは直され、アンサンブルは組み直されてゆく。
 ただそんな彼らも、カールスモーキーよりは音楽的ではあるけれど、プロのバンドとしては所詮駆け出し、そこまで引き出しが多いわけではない。演奏しやすく無難にまとめられたメロディに、無難な演奏をつけてゆく。
 無難なプロデュースによって作られた無難なトラックは、納期に合わせてアルバムにまとめられる。何においても無難なので、セールスもそこそこで終わってしまう。

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 どっちつかずで停滞していた米米をブレイクさせるため、カールスモーキーをメインとしたメロディ路線は、この時点での最良の選択だったと言える。何かとわだかまりのある両者を取り持つ役割として、共同プロデュース&外部アレンジャーとして起用されたのが、中崎英也という人物。
 「1980年、バンド「WITH」のメンバーとしてキング・レコードよりデビュー。1985年のWITH解散後は、作曲家・プロデューサーとして活躍している」。
 Wikiではかなりあっさり紹介されているけど、提供曲を見て、ちょっと驚いた。俺が知ってるだけでも、
 アン・ルイス 「Woman」
 小柳ゆき 「あなたのキスを数えましょう」
 鈴木雅之 「もう涙はいらない」。
 これ全部、中崎氏の作曲・プロデュースによるものである。どれも大ヒットしてるじゃないの。しかもしかも、少女隊「素直になってダーリン」まで書いてるじゃないか!って、誰も知らねぇか、こんなの。
 メンバー全員が一枚岩のミュージシャン・タイプではなく、サムいギャグとアートかぶれと昭和歌謡とが一緒くたとなって、なんだか出所不明のオーラを纏っていた初期の米米は、一部の好事家によって支えられていた。ただ、そんなライブハウス上がり特有の「アングラ的ニュー・ウェイブ」臭も、アルバム2枚程度なら許されるけど、中堅どころになると、そろそろ飽きられてくる。
 ソニー的にも、先行投資の時期は過ぎて、そろそろ資本回収か引き上げを考える頃合いである。音楽を中心とした運命共同体ではないので、このままだったらバンドは空中分解してもおかしくなかった。
 そんな事情もあってか『Komeguny』、 ちゃんとしたプロの手による、ある程度目鼻立ちの整ったアルバムになっている。ここでメロディ・タイプの楽曲をしっかり作り込む機会を得たことが、のちの大ブレイクに繋がったんじゃないかと、今になって思う。


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1. Only As A Friend
 地味な良曲ではあるけれど、「いかにも80年代っぽいポップスだ」「無難にまとめてスカしてる」だ、古参ファンにはあんまり評判はよろしくない。確かに「瞳をそらストップモーション」って歌詞はちょっとどうかと思うけど、そこだけクローズアップして揶揄するのも、ちょっと早計。歌詞をきちんと聴いてみると、案外ビジュアライズで映像的、ストーリー展開もちゃんと練り上げられている。
 「恋愛には誠実なホスト」を演ずるカールスモーキーのヴォーカルによって、二流のハリウッド映画のような世界観が展開されている。褒め言葉だよ、これって。

2. sûre danse
 エモーショナルなヴォーカルと演奏だった、一番最初のライブ・ヴァージョンがレコーディング時に大幅に改変され、ここでは無難にこじんまり、万人向けに聴きやすいポップ・ファンクに仕上げられている。
 本人たちとしても思い入れが相当強かったらしく、その後も2度、リアレンジしたヴァージョンがリリースされているけど、世間的に印象が強いのは、初音源化となるこのヴァージョンなんじゃないかと思われる。テレビのライブ番組でオリジナルに近い形で演奏されていたのを見た覚えもあるけど、結局、「それはそれ」といった具合で、当時ヘビロテされていたPVの印象が刷り込まれている。

3. 浪漫飛行
 のちの大ヒット・ナンバーも、当時は単なるアルバム収録曲のひとつに過ぎず、そこまで話題になったわけではなかった。打ち込み主体の演奏ゆえ、バンド・メンバーの関りが薄いこと、な米米というよりはカールスモーキーのソロっぽいテイストだったこともあって、当時のファンの間では「別モノ」扱いされていた。だってカールスモーキーのくせにスカし過ぎなんだもの。
 この曲が大きく脚光を浴びたのは、リリースから3年後、JAL沖縄キャンペーンのイメージ・ソングに抜擢されたことによるものだけど、書き下ろし新曲を差し置いて旧曲が引っ張り出されるなんて事態は、この時期は珍しかったはず。それだけ楽曲のパワーが強かったということなのだろう。



4. Collection
 UKシンセ・ポップをモチーフとしたバッキングがカッコいいナンバー。ここは演奏陣が結構前面に出ており、軽めのポップ・ファンク風味が時代性を感じさせるけど、いや普通にいま聴いても全然イケる。演奏陣に華を持たせたのか、カールスモーキーの存在感が薄い。と思ったら、ほぼノン・リヴァーブ。まぁスタジオ向けの曲だよね。

5. Primitive Love
 深いドラム・リヴァーブと厚めのコーラス、キラキラしたシンセに噛ませるアコギのストローク。世を席巻した80年代ソニー・サウンドのモデルケースが、これ。でもヴォーカルはジェームズ。しかも真面目にスカしてやがる。そのミスマッチ感を楽しむのが上級者。

6. Make Up
 シンディ・ローパーみたいなポップ・ファンクに、歌謡曲テイストのメロディが乗り、そのサウンドの中を縦横無尽に駆け巡るカールスモーキー。洋楽テイストをうまく吸収した良曲だけど、考えてみればアメリカ録音だったか。ライブ感というのとはまた別に、きちんとスタジオで作り込んだら案外うまくできちゃった的な曲。
 今の俺的には結構好みのサウンドだけど、当時はあんまり印象に残ってなかった。レコードでいえばB面だけど、そういえばA面ばっか聴いてたよな。

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7. Misty Night
 パワー・ステーション以降のデュラン・デュランといった感じの、当時のUKポップ・ファンクを想起させる良曲。地味だけど、演奏陣も結構頑張ってる。意味なく速弾きギターも入ってたりして、この辺はヘッド・アレンジ感が残っている。あと一歩で突き抜けそうで突き抜けない、ちょっとフック弱めのサビメロが、逆にアンサンブルの自由度を増している。

8. Hollywood Smile
 バブル臭漂う高層階のピアノ・バー、飛び入りでピアノの前に座り、弾き語りを始めるカールスモーキー。次第に興が乗り、なぜか偶然居合わせた演奏陣、ついでにこれまた偶然に立ち寄ったBIG HORNS BEE。そんな情景を描きたいがためだけに作られたナンバー。インチキ・ジャズ風味が珍しいけど、ただそれだけ。アルバムの中の箸休め的なポジション。

9. Hustle Blood
 うまくピッチを取ろうとするジェームスがこんなにつまらないなんて、っていうのを露呈してしまった楽曲。ちょっとハードなTMネットワークっぽいので、宇都宮隆ヴォーカルの方がしっくり来るかもしれない。シンセをうまくリンクさせたハードな産業ロックとして、演奏の出来は良いので、ちょっともったいない。時代的に、アニメ「キン肉マン」や「北斗の拳」との曲タイアップもアリだったんじゃないかと、個人的には思う。

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10. Twilight Heart
 ラストはちょっとオリエンタル・テイスト漂うバラード。ヴォーカルはなんとフラッシュ金子、サックスの人。たゆたう大河の流れの如き、ニューエイジ臭漂うサウンドと、フワッとしたヴォーカル。なんでこれがラストなの?他にもっといい曲あったんじゃないの?と思ってしまうけど、まぁプロデューサーの判断なんだろうな。
 最後くらい、遊びのウンコ曲入れちゃった方が米米らしいのだけど、最後まで二の線だったな、『Komeguny』。



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