Folder
 1986年リリース、オリジナルのフル・アルバムとしては2枚目。大ブレイクした前作『Maybe Tomorrow』のおかげでセールスも高め安定、オリコン最高1位、年間総合でも14位をマークしている。10月発売だったため、次の年にも年間30位にチャートインしているのだけど、考えてみれば、ほんの2ヶ月足らずの売り上げで上位に食い込んじゃうのだから、当時の彼らの勢いが窺い知れるデータである。

 当時のCBSソニー邦楽部門は、彼らと松田聖子とハウンド・ドッグが稼ぎ頭だった。すでに10代のカリスマだった尾崎豊のインパクトは鮮烈だったけど、セールス面では3者には及ばなかった。
 のちのクリエイターやミュージシャン志望者に大きな影響を与えた尾崎ゆえ、死後も論じられることが多いけど、広範な層に満遍なく売れていたのは、むしろレベッカの方だ。衝撃的だった幕引きによって過剰に伝説化されているけど、当時の尾崎の評価は、リアルタイム世代である俺の周りでも、結構好き嫌いが分かれていた。
 いい意味での選民思想があった尾崎のファン層に対し、当時のレベッカには、ファン層自体が存在しなかった。特定の層というより、みんな持ってるんだもの。
 以前のレビューでも書いたけど、当時、俺はレベッカのアルバムを買ったこともレンタルしたこともない。ないのだけれど、この時期のアルバムは、今でもほぼ全曲、鼻歌でそらんじることができる。
 レベッカのアルバムは、当時の音楽好きな少年少女のマスト・アイテムだった。なので、友達の家に行けば、高確率で彼らのレコードがあった。わざわざ自分で買わなくても、レベッカやTM、ハウンド・ドッグやBOOWYは、勝手に耳に入ってきた。俺の中で彼らのサウンドとは、麻雀のBGMとして刷り込まれている。

maxresdefault (1)

 結成当初はラウドなギター・ロック主体だったレベッカは、デビュー直前でコンセプトの変更を余儀なくされる。ライトなシンセ・ポップ路線を提唱するソニーの提案を、リーダーのシャケが一蹴、デビュー直前に脱退してしまう。
 窮余の策として、キーボード土橋安騎夫がバンマスに就き、その後もバンド運営の要となる。ただ、突然の無茶ぶりだったせいもあって、急にリーダーシップを発揮できるはずもない。しかも当時のソニーだから、何かとバンドに干渉したがる。リーダー交代とデビュー間際のせわしなさで混乱中のバンドと、手っ取り早く売れ線サウンドを押し付けたがるソニー。対ソニーどころか、バンド内部でも思惑が噛み合っていなかったのが、初期のレベッカである。
 ソニーとしてはぶっちゃけると、キャラの強いNOKKOさえいれば、演奏陣はいくらでもすげ替えが効くと思ってた節がある。もし当時のNOKKOがソニーにうまく丸め込まれていたら、ZARDみたいになっていた可能性もある。
 彼らが所属していたソニー内レーベル「フィッツビート」は、創設者である後藤次利のポリシーが反映されて、アーティストの意向を尊重する方針が貫かれていた。いたのだけれど、その意向、バンド自体のポリシーがあやふやだったとしたら、事情はちょっと違ってくる。
 ヴォーカルがいてギターがいて、ベース、ドラム、キーボードがいる。一応、体裁は整っている。でも、彼らが何をしたいのか、何を表現したいのか、ある程度のビジョンがないと、サウンドはまとまらない。「せーの」で最初の音を出せたとしても、方向が定まっていなければ、次の音は出せないのだ。

51wjyHzSDzL._SL500_

 バンドのベクトルが定まらないまま、ほぼ見切り発車のような状態で、レベッカはメジャー・デビューする。初期の3枚は、スタジオ作業に慣れていなかったせいもあって、ディレクターの意向に沿った形で制作が進められている。デビュー以前のギター・ロックと、ソニー推奨のシンセ・ポップとが混在した、よく言えば80年代UKニュー・ウェイブ的なサウンドが展開されている。言ってしまえば、「とっ散らかってまとまりがない」っていうか。
 セールス的な盛り上がりを見せず、手探り状態が続いた中、ちょっと手応えを感じたのが、3枚目のシングル「ラブ・イズ・キャッシュ」だった。あまりに露骨すぎるパクリゆえ、元ネタを書くのもめんどくさいのではしょるけど、初めてオリコンにチャート・イン、知名度爆上げのきっかけとなった。いま調べて知ったんだけど、最高30位だったんだな。イヤイヤ、もっと売れてるでしょ。
 「ラブ・イズ・キャッシュ」は、アンサンブルこそチープだったけど、NOKKOのアグレッシブなヴォーカルが全体を引っ張り、レベッカ・オリジナルの一体感を生み出していた。もちろんマドンナ様々(言っちゃった)ではあるけれど、マーケットの反応は正直だった。ニーズはやっぱり、NOKKOにあったのだ。
 ここで演奏陣がネガティブに受け取ってしまったら、そのままいじけたZARD状態になったのだろうけど、彼らはもっと前向きに捉えた。
 -じゃあ、NOKKOのヴォーカルがもっと映えるように、アンサンブルの中心をNOKKOに据えたとしたら?彼女の存在をもっとフィーチャーして、それをしっかり支えるサウンドを構築したら、もっと良くなるんじゃね?
 類型的な従来ロック・バンドのテイストを薄め、NOKKOが歌ってて気持ちよくなるよう、歌謡曲のメロディ構造を持ったロッカバラード。それが「フレンズ」だった。
 さらにさらに、その勢いで制作されたのが、大ヒット作『Maybe Tomorrow』である。

18810

 さらに畳みかけるように、突っ走る勢いのまま製作されたのが『Time』なのだけど、レベッカ・ディスコグラフィーの中では、過渡期的な作品として捉えられている。レベッカ・サウンドの頂点とされているのは、次作『Poison』という評価が一般的である。
 シックなパープルを基調とした、アーティスティックなジャケット・デザインの『Poison』と違って、『Time』は地味。地味やシンプルを通り越して、素っ気ないくらいである。段ボールみたいなクリーム地にシャレオツなロゴ、というデザインは、なんか100均グッズのよう。ダイソーに売ってたぞ、こんな表紙のノート。
 契約消化的な『Blond Saurus』の手抜き具合は仕方ないとして、ミリオン超えのアルバムのあとなんだから、もうちょっと気合い入れても良かったんじゃないの、と余計なお世話を焼きたくなってしまう。コンピレーションの『Olive』だって、もうちょっとやる気ありそうなデザインなのに。

 ただ逆に考えると、敢えて無記名性を感じさせるアートワークも、NOKKOのキャラやビジュアルのインパクトに頼らず、バンド・アイデンティティの確立があったからなのでは、と今にして思う。
 当時、ロック・バンドの要と言えば、断然ギターだった。シャケ主導だった初期レベッカも、ギター中心のアンサンブルが多かった。ただ肝心のシャケがいなくなり、シンセ主体のバンド・サウンドに方針転換するのだけれど、「フレンズ」までは消化不良気味だった。
 ディレクターの意向に沿ってシンセ・ポップをやってはみるものの、それまでのギター・バンドの地が出てしまって、うまく混ざり合わない状態が長く続いた。圧倒的なポテンシャルを有するNOKKO主体の体制になるまで、演奏陣の踏ん切りがつかなかったことも、一因ではある。この辺はミュージシャンのプライドに関わる問題なので、致し方ない部分でもある。
 バンドの商業的な成功が、メンバー個々の自信に繋がり、その後のレベッカの成長に繋がった。このままZARDスタイルに移行していたら、多分、後年までリスペクトされることはなかっただろう。
 リーダー土橋の自信は、バンド・サウンドの確信に繋がった。単純な8ビートには収まらない重厚なリズム・セクションを基盤に、多彩な音色のシンセをメロディ楽器のメインに据えた。それまでフロントだったギターは後退させ、ファンク要素のリズム・カッティングが主体となった。
 ユーリズミックスやマドンナによるダンス・ビート主体のエレ・ポップがチャートを賑わせていた欧米の音楽トレンドを鑑みると、それらも歴史的な必然だったと言える。


TIME
TIME
posted with amazlet at 19.02.06
レベッカ
キューンミュージック (1994-11-02)
売り上げランキング: 165,883



1. WHEN A WOMAN LOVES A MAN
 大ヒット・アルバムの次作ということで、プレッシャーもそれなりにあったはずだけど、圧倒的な自信を身につけたレベッカは、挑戦的だった。
 60年代ソウルをMIDI機材でアップ・コンバートしたミドル・テンポ。ポップだけれど、キャッチ―ではない。疾走感あふれるシンセ・ベースと、歌うようにメロディックな小田原豊のドラミング。NOKKOだけがウリじゃないんだぞ、と自己主張の強い演奏陣。そのせめぎ合いとつばぜり合いが、余裕の表情の裏で行なわれている。

2. LONELY BUTTERFLY
 6枚目のシングルで、オリコン最高6位。当時はあまり気づいてなかったけど、実はこれが最高傑作だと知ったのは、ずっと後になってからだった。あくまで歌を引き立たせる役目に徹した、演奏陣の手堅いプレイもさることながら、NOKKOのヴォーカルの表現力、緩急のつけ方と言ったらもう。

 愛がすべてを変えてくれたら
 迷わずにいれたのに

 さしてひねりもないけど、いろいろ詰まっている。10代・20代の女の子の頭の中で思ってること・感じてること。この言葉を伝えたいがために、ここにたどり着くために、NOKKOは歌ってるような気がするのだ、男の俺から見れば。
 女の子の気持ちは結局のところ、こういった部分でしか垣間見ることができないのだな。そう気づかされるもうすぐ50歳。



3. TIME 
 アイドル・バンド的な側面も持ち合わせていたはずのレベッカだったけど、こんなアフロ・ビートのインストをぶち込む荒業をかましたりもする。いや10代だったら絶対ピンと来ないって。
 ヴォーカル録りが間に合わなかったからインストになった、という感じでもなく、明らかな確信犯。ある程度売れることが見込めるから、こういったマニアックなインストを入れても許されちゃったりする。

4. (it's just a) SMILE
 「Be My Baby」のリズム・パターンで始まる、オールディーズ風バラード。高めのキーに果敢に挑むNOKKO。ちょっと気の抜けたコーラスは、聴く方も肩の力が抜ける。でも間奏でソウルフルなハモンドぶっ込んだりするのが、土橋の技。

5. GIRL SCHOOL
 前作のアウトテイクっぽさも感じられる、気合の入ったファンク・チューン。スタジオ・セッションのようなグルーヴ感がビンビン伝わってくる。
 こうして聴いていると、ほんとNOKKOだけのバンドじゃなかったことを改めて感じさせるアンサンブル。逆に言えば、この演奏に対抗できるのがNOKKOしかいなかった、という事実。

rebecca-e1429582164268

6. BOSS IS ALWAYS BOSSING
 Herbie HancockやBill Laswellの影響が、っていうより素直にインスパイアされたエレクトロ・ファンク。ほとんどインストみたいな楽曲で、NOKKOのヴォーカルもほぼエフェクト的な使い方。ほんとソニー系のバンドって、リズム隊はすごくいいんだよな。なので、この曲もギター・ソロの部分だけ途端に古臭く聴こえてしまう。どうせなら、ハモンド・ソロを延々入れてほしかった、とは贅沢な願い。

7. CHEAP HIPPIES
 低めのエレピ・リフがカッコいいロッカバラード。その後の「Olive」や「Moon」っとも地続きな、NOKKOのネガティブな内面がのぞく歌詞とのコントラストが絶品。多分、後にも先にも「失業保険」なんてフレーズを使うポップ・ロック・バンドなんて、彼ら以外にいない。

8. WHITE SUNDAY
 彼らの中では余り少ない正統バラード。「Maybe Tomorrow」ほどのスケール感はなく、歌詞もパーソナルな内容。なんとなく「フレンズ」のその後、といった感じがするのは、俺だけかな。

Z322019148

9. NEVER TOLD YOU BUT I LOVE YOU
 ギターがUKニュー・ウェイブ風味なのと、ドラムのミックスがバカでかい印象が強い、ある意味実験的な楽曲がラスト。挑戦的というよりは、アンバランス感が強い。歌が聴こえないじゃないの、これじゃ。俺のCDだけ?



REBECCA LIVE '85 ~Maybe Tomorrow Tour~
Sony Music Direct(Japan)Inc. (2014-05-12)
売り上げランキング: 29,620

REBECCA/Complete Edition
REBECCA/Complete Edition
posted with amazlet at 19.02.06
Sony Music Direct(Japan)Inc. (2014-04-02)
売り上げランキング: 4,512