何かと物議を醸したヒップホップ・ユニットRoots とのコラボ・アルバム『Wise Up Ghost』 以来、5年振りのオリジナル・アルバムとなる。さらに遡ってImposters名義だと、『Momofuku』以来10年振り。さらにさらに、その10年の間にリリースされた『Secret, Profane & Sugarcane』と『National Ransom』はソロ名義、しかも思いっきりレイドバックした、マジのカントリー・アルバムだった。どちらも通好みの趣味性が強いアルバムなので、きちんと商業性を意識したアルバムというのは、ずいぶん久し振りということになる。 特にこの5年、まとまった新作はなかったのだけど、だからといって隠遁していたわけではない。オフィシャル・サイトより詳しくマニアックな、唯一無二のニュース・ソースであるwikiを見ると、ソロやバンド名義を使い分けて、年間100本近くのライブを世界中で行なっている。ここ最近、コステロ名義のアルバム・リリースは、ベストやライブ・アーカイブばかりだったけど、単発的にあちこちのプロジェクトに顔を出し、音源提供したりしている。まぁこういうのは昔からだけど。
とっくに還暦を迎えているはずなのに、活動ペースは何ら昔と変わってない。むしろ音楽以外の活動、トーク・ショーのホストや自伝執筆など、若い頃より行動範囲は確実に広がっている。
なので、あまりブランクが空くこともなく、案外話題が提供されていたので、まぁ元気でやってるんだな、と思ってはいたのだけど、そんな矢先、今年の夏アナウンスされたのが、悪性腫瘍の手術というニュースだった。俺を含め、世界中のコステロ・ファンは居ても立っても居られなかっただろうけど、幸い回復も早く、みんなホッとした。俺もホッとした。
そんな不穏なニュースからさほど間を空けず、『Look Now』のリリース・インフォメーションが届いた。世界中の音楽ファンが喜び、そして俺も喜んだ。
デビューしてからずっと創作ペースが落ちることがなかったコステロ。リリース契約の関係でブランクが空くことは何度かあったけど、5年も空いたのは多分初めてなんじゃないかと思われる。前述したように、ライブ・パフォーマーとしてはずっと第一線で活動していたため、現場感覚が失われたわけではない。
21世紀に入ってからの音楽業界の主流が、音源リリースからライブ活動にシフトしてしばらく経つけど、もともとデビューから一貫して、ライブ活動に主軸を置いてきた人なので、活動ペースにあまり変化はない。ただ21世紀に入ってからは、アルバム・プロモーションのためのツアーは少なくなる。
以前、巨大ルーレットを回して針の止まった曲をプレイする「Spinning Wheel Tour」がちょっとだけ話題になったけど、あの時もニュー・アルバムがあったわけではない。コステロだけではなく、アルバム宣伝のためのライブ自体が少なくなっているのが、今のご時世なのだ。
それが顕著になったのが、2010年代に入ってから。コステロもまた、新曲リリースの機会が格段に少なくなる。
オフィシャルでリリースされた楽曲が少ないとはいえ、単純に「創作ペースが落ちた」「才能が枯渇した」というのは早計である。ここまでのキャリアを振り返ってみると、そんな短絡的な理由じゃないのは、ファンなら誰でも知ってるはず。
今はもう廃盤だけど、かつてライコからリリースされていた、『My Aim is True』から『All This Useless Beauty』までの2枚組デラックス・エディションを持っているファンも多いと思う。持ってない人もいるかもしれないけど、たぶん「多い」という前提で進める。
リイッシュー・レーベルとして評価が高かったライコの丁寧な編纂によって、1枚目がオリジナル・テイク、2枚目には各曲のデモ・テイクとアルバム未収録曲が詰め込まれていた。『Get Happy』なんて50曲入りだもの、そりゃファンならみんな買うでしょ。
ユニバーサル移籍後も、アルバムごとに結構な量のボーナス・トラックを収録したりして、ソングライティングへの意欲は失われていない。近年はあまり流出しなくなったけど、ブートレグ・サイトを覗いてみると、スタジオ・アウトテイクもあちこちで見つけることができる。興味があったら探してみな、大声でお勧めはできないけど。
さすがにペースは落ちているだろうけど、息を吐くように作曲する人なので、今さら特別な行為じゃないんだろうけど、ベテランゆえの問題も出てくる。歳を経るにつれ、レベルの水準は上がってゆく。以前なら充分アベレージ越えだったとしても、今の基準で測ると「発表できるレベルに達してない」と、ボツにしちゃう曲も多いんじゃないかと思われる。
それとやっぱり、環境の劇的な変化。ストリーミング・サービスの普及に伴うCDメディアのマーケット縮小によって、欧米ではとっくの昔に、音楽出版は旨味がないビジネスになってしまっている。
労力に見合うリターンが、以前より比べものにならないくらい少なくなっちゃったので、いくら曲を書いても報われない。そりゃ新曲書くより、ライブで定番曲歌う方に向かうわな。モチベーションだって違ってくるし。
で、『Look Now』。
通常、コンボ・スタイルでのレコーディングだったらある程度の期間、スタジオにこもって一気呵成に作り上げるのが一般的だけど、今回はバラバラの時期に行なわれた、いくつかのセッションを組み合わせたスタイルになっている。20年振りの競演となったバート・バカラックとの作品は、ここでは2曲のみだけど、これまでも断続的にセッションを繰り返していた事実が明らかになっている。まだ25曲ほどストックがあるらしいのだけど、それらは後日小出しにされるのか、それとも充分なレベルに達していなかったのかさて。
今回のアルバムのテーマは、そのバカラックとのアルバム『Painted from Memory』、そして82年リリースの『Imperial Bedroom』との融合だ、とコステロはコメントしている。実際に聴いてみると、あまりロックっぽさを感じないサウンドで統一されているため、前者は雰囲気的にわかるけど、後者については、なんかピンと来ない。
これまでコステロのアルバム・レビューをさんざん書いてきた俺だけど、『Imperial Bedroom』にはまだ手をつけていない。要するに、「俺の好きなアルバムたち」とはちょっと違う、俺にとってあんまり思い入れの少ないアルバムでもある。
ニューウェイブの流れを汲んでデビューしたコステロ、基本、ライブ映えする楽曲を中心にレパートリーを増やしていた。それはそれで好評だったけど、でもキャリアを重ねるにつれ、ロックだけでは表現しきれないテーマも出てくる。いつまでもシンプルなパワー・ポップだけでは、せっかくのSteve Nieveも宝の持ち腐れだったし。
もっとワールドワイドな市場に色目を使おうとしたのか、ここではライブ仕様、4ピースで再現しやすいアレンジやアンサンブルを一旦チャラにして、スタジオ・テクニックを駆使したサウンドに挑戦している。主にソングライティングにはギターを使用していたコステロ、ここではそれをピアノに変えたことによって、今までと違うコード進行を多用している。スタジオさえ1つの楽器として捉えるGeoff Emericのプロデュースによって、後期ビートルズを彷彿させる、ライブ・パフォーマンスを前提としないサウンドに仕上がっている。
コステロの中に眠っていたビートルズDNAを全面開放した自信作だったはずなのだけど、マーケットの反応は芳しいとは言えなかった。あれだけ地味だった前作『Almost Blue』さえUKでゴールド獲得しているのに、『Imperial Bedroom』はゴールドに届かなかった。マジか?俺もいま知ったわ。
そんな結果を踏まえてコステロ、サウンドにこだわるんだったら、もっとキャッチーに、もっと徹底的にやらなくちゃダメだ、と思い直したのか、当時の売れっ子Clive Langer & Alan Winstanleyにプロデュースを依頼、トップ40ソングとも引けを取らない、ポップ・スター路線を志向することになる。
まぁこれも、結局頓挫するんだけどね。
いわゆるMOR、コンテンポラリー色の強いアレンジから強いパッションは感じられない。だからと言って、リラックスできる癒しのサウンドでもないんだよな。言っちゃえば、「イイ感じでうまく枯れたよなぁ」といった印象。
とはいえコステロ、昔からサウンドの振り幅が激しい人として知られている。地味なサウンドの後はラウドなサウンドに回帰する、そんなのを幾度も繰り返している。『King of America』の後の『Blood & Chocolate』 、『Juliet Letters』の後の『Brutal Youth』、前述した『Painted from Memory』の後の『When I Was Cruel』といった具合で、ひとつの音楽性にとどまらないのが、彼の魅力でもあるのだ。
なので、本当のコステロ・ファンは、むしろこの後に淡い期待を抱いている。近いうちにラウドなロック・アルバムに回帰するんじゃないか、と。
すでにそれを期待しながら、今日も俺はコステロを聴く。
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1. Under Lime
イントロはCCRっぽいフォーク・ロック調だけど、次第にコーラスやホーンが入ってきて、ビートルズのオマージュ的なアレンジ。その辺がちょっぴり『Imperial Bedroom」っぽい。昔だったらシングル候補だったんだろうけど、もうそんなの興味ないんだろうな。リリースしたって、大して意味ないだろうし。
ベーシックな部分はImpostersの演奏だけど、中盤の能天気なコーラス・ワークなど、いろいろ遊びも交じっててやりたい放題。誰が仕切ってんだと思ってプロデューサーを調べてみたら、Sebastian Krysという、もともとラテン畑の人。グロリア・エステファンやシャキーラを手掛けてた人らしい。まったく畑違いじゃん。
2. Don't Look Now
バート・バカラックとの共作となった大人のアーバンなバラード。彼とのコンビでは、どうやっても名曲になっちゃうのは保証付き。時にイージー・リスニングになりがちなメロディを、コステロのアクがいい感じで作用してキリッと締めている。
ヴォーカル・スタイルは思いっきりベッタベタなんだけど、やっぱキャラクターが強い分、ロック・ユーザーの耳にも違和感ない仕上がりになっている。3分弱でコンパクトにまとめてるのが、大人の粋を感じさせる。
3. Burnt Sugar Is So Bitter
こちらもリリース前からインフォメーションされていた、Carole Kingとの共作。もともと1999年頃からステージではプレイされていた古い曲で、ここにきて正規レコーディングとなった。
ここではちょっぴりKing色が強いメロディとなっているのだけど、それをうまく自分のフィールドに取り入れながら、Kingのエッセンスもしっかり残す、バランスのとれたコラボレーションになっている。何気にPete Thomasの後半ドラム・プレイが圧巻。
4. Stripping Paper
並行して『Painted From Memory』も聴いていたのだけど、大きく変わったのがコステロのヴォーカル力の向上だった。いやうまくなってるわ、この人。以前だったらこのサウンド、このメロディだったらアーバンなAORに流されちゃってたところを、きちんとコステロ独自の色に染めてしまっている。
このトラックではバカラックは絡んでおらず、一聴するとコラボ曲なのかな?と勘違いしてしまったけど、すっかり自分の中に取り込んでしまっている。
5. Unwanted Number
ソリッドなロッカバラード。ここではコステロ自身もミニ・ムーグをプレイしており、このアルバムの中ではライブ映えしそうな楽曲。でもね、敢えて言うとコーラスはちょっと余計。Imposters単独で聴きたかったな。
6. I Let the Sun Go Down
中期ビートルズというより、以前コラボしたポール・マッカートニー色の強いポップ・バラード。甘く凝ったメロディ、そこにストリングスとコーラスが絡む。『Imperial Bedroom』のビジョンが強く反映されている。
以前はスキルやアイディアが至らず志半ばだったけど、ようやくここで形にできた。雑多な音を詰め込むでのはなく、然るべき音を、適切かつ最小限に配置することによって、アレンジの輪郭がはっきりした。
7. Mr. and Mrs. Hush
ダークに堕ちたビートルズのような、ちょっとソウル風味も入ったロック・ナンバー。こういったソリッドな楽曲はお家芸のようなもので、安心して聴ける。気の抜けたフレンチ・ホルンがちょっと余計だけど、お遊び的なものと思えば気にならない。昔からのコステロ・ファンには、最もウケはよいと思われる。
8. Photographs Can Lie
再びバカラック共作ナンバー。多分、2人でピアノやギターを介しながら、このレベルの楽曲はいくらでも書いてるんだろうけど、発表するかしないかの基準はどこにあるのだろうか。ハイレベル過ぎて、もはや常人には感知しえない世界。
プレイヤーとしてのバカラックのピアノは、伴奏に徹して抑制が効いている。ドヤ顔でしゃしゃり出ないところが、重鎮としてのこだわりか。
9. Dishonor the Stars
やっとここにきて、Imposters単独のトラック。コステロ自身の多重コーラスがダビングされているけど、ほぼ100%通常営業のスタイル。バカラック・スタイルをバンドでやってみた体のアレンジ・メロディになっている。でもwikiを見てみると、現時点でこの曲、最新ツアーでも披露されていない。ライブ映えしそうなのにね。
10. Suspect My Tears
Elton Johnあたりが歌うと、もっとウェットになっちゃうところを、独特のアクの強さで甘いアレンジにビターな風味を加えている。「Man Out of the Time」をヴァージョン・アップさせると、こんな感じになる。かつてはとっ散らかったサウンドでしか表現できなかったけど、ここに来てやっとビジョンが具現化できた。
11. Why Won't Heaven Help Me?
この流れにきて、フェンダー・ローズから始まるイントロで不意を突かれた。カクテル・ラウンジっぽいムードのサウンドをベースに、Impostersが徐々に絡んでくる。ある意味、このサウンドって新境地だよな。なんとなくディナー・ショーっぽいけど。
12. He's Given Me Things
ディナー・ショー風味をさらに強めるかのように、ラストは3たびバカラック。ヴォーカルもここに来て、かなりドラマティックかつ直情的。レコーディング・アーティストとしてのコステロの方向性は、今のところはこういったコンテンポラリー系なのだろう。
このサウンドではもうやり切ってしまった感が強い。なので、次回作だな。
弾けたコステロが聴きたくなってきた。
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