folder 思えば5枚目のアルバム『Medicine Man』のあたりから、Bamboosのコンセプトはズレ始めていたのだった。
 「JB’sとMetersが合体したらどうなるんだろう?」といった、ディープ・ファンク・バンド結成にはありがちな、ていうか飲み屋のヨタ話みたいな動機からスタートした彼らではあったけれど、初っぱなからゴリゴリのスタンダード・インスト・ファンク「Tighten Up」で注目を集めた。その後も地道なライブ活動で地道な支持を集め、地味ながらも正統派バンドとして基盤固めをしていたのだったけれど。
 レギュラー・メンバーとしてKylie Auldistが加入して、基本のバンド・グルーヴに厚みを持たせることに成功したまではよかったのだけど、年を追うにつれ、ゲスト・ヴォーカルによるナンバーが多くなってゆく。ポピュラリティの獲得にそれは寄与したのだけれど、それと引き換えに初期の無骨さは削られて丸くなり、バンドのアイデンティティは希薄化していったのだった。

 メイン・ヴォーカル不在のディープ/ジャズ・ファンク・バンドの場合、インストばかりでは、アルバムの流れにメリハリがなくなるため、1〜2曲程度、ゲストを迎えてヴォーカル・ナンバーを入れることが多い。中にはBudos Bandのように、意地でもインストしかやらねぇ、というバンドもいるにはいるけど、CD/LPデビューを果たした大抵のバンドは、多くがこのセオリーに従っている。
 本来のBamboosはインスト・ファンクの要素が強く、ライブではバンドの存在感の方が強い。音源では大きくフィーチャーされているKylieも、ステージでは出ずっぱりというわけでもなく、バンド・アンサンブルがメインとなるナンバーでは、出しゃばらず引き立て役に徹している。
 ライブでは、無骨でアグレッシブな面を見せることも多い彼ら、なのに近年のかしこまり過ぎた音源では、存在感は薄れつつある。ゴリゴリのファンクネスを求めて近年の作品に手を出すと、肩透かし感がハンパない。そこで目立っているのは、バンドでもKylieでもなく、ゲスト・ヴォーカルだもの。これじゃまるで、二流のコンテンポラリー・ポップ・バンドだ。

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 ゲストの比率が多くなったということは、相対的にKylieの存在感が薄れてきた、ということでもある。
 Bamboos 参加前から、オーストラリアのジャズ・ファンク界隈では有名だった彼女、いわゆるゲスト・ヴォーカル職人として、あらゆるバンドからオファーが絶えなかった。アンサンブルのグレードをワンランク上げてしまうKylieの声は、どのバンドのサウンドにも有機的に溶け込んだ。
 Bamboosもまた、力強い彼女のヴォーカルによって濃密なグルーヴ感が生まれ、セールス・知名度とも飛躍的に上がっていった。ヒットの相乗効果として、Kylieの評判が上がると共に、客演やユニット参加も多くなってゆく。当然、レコード会社もそんな彼女を放っておくはずがなく、自然とソロ活動にも意欲的になってゆく。
 多忙によってセッション参加率の減ったKylieの代わりに、Bamboosは積極的にゲスト・ヴォーカリストを迎えるようになる。彼女の穴を埋めるのに、既存路線のインスト・ファンクだけでは、明らかに不足だった。
 ライブ・オンリーの趣味的なバンドなら、原点回帰もアリだったかもしれないし、実際、バンド・メンバーもそれでよかったのかもしれないけど、リーダーLance Fergusonは、もっと上のステージを狙っていた。一旦、上を見てしまうと、足元を見直すのは、恐ろしく勇気がいるのだ。
 Kylieによって拡大したファン層の維持、さらにオーストラリア国内でのメジャー化を進めるため、ゲスト・ヴォーカルとのコラボは欠かせぬ要素だった。

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 レコーディング主体のディープ・ファンク・バンドというのは、世界中にほぼ存在しない。ほとんどすべてのバンドは、ライブを中心に据えた活動形態をとっており、Bamboosもまた同様である。
 そのメインであるライブでは、その都度、音源と同じゲストを呼ぶことはできないため、ヴォーカルはKylieのみとなる。なので、きちんとイコライジングされたレコーディング音源とは一味違う、普段着のBamboosがライブでは堪能することができる。
 かっちりプロデュースされたCDやシングルで、幅広いライト・ユーザーへアピールし、コアなファンに向けては、いつも通りの荒々しいライブ・バンドとして。そんな表裏一体の使い分けでもって、円滑なバンド運営を図れるはずだった。の、だけど
 課外活動で引く手あまたのKylieがBamboosに割く時間は、ますます減っていった。レコーディングでは、ゲストでつなげばどうにかなるけど、ライブではそうはいかず、どうしても常駐ヴォーカルが必要になる。
 ネーム・バリューのあるKylieが参加するかしないかで、ライブ動員も全然違ってくる。彼女のスケジュール次第でライブ日程が組まれるため、自然とライブ本数は減ってゆく。
 リーダーとして調整役に回らなければならないLanceもまた、ソロ活動というかいろいろなユニットに顔を出したり客演したりで、Bamboosに専念できない状態が続いていた。また世話好きの好事家だから、何でもホイホイ引き受けちゃうんだよな。

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 そんなわけで、なかなかメンバー全員が顔を合わせることができず、レコーディング主体の活動になっていたBamboosだったけど、皮肉にも一般的な人気は高まってゆく。
 著名ゲストを揃えたクセの少ない楽曲は、ヒット・チャートとの相性も良く、セールスも着実に伸びていった。一応、ディープ・ファンクの本分として、アルバムにはインスト・ナンバーやKylieヴォーカルの曲も入ってはいたけど、それもほんの付け足し程度、全般的にファンク臭は薄れてゆく。
 6枚目の『Fever in the Road』では、長年在籍したTru Thoughtsから、海外進出を前提としたPacific Theatreに移籍、セールス的には成功した。国内でのポジションも固まり、ここから本格的に世界へ羽ばたく雰囲気だった。
 その後、これまでたびたびゲスト参加していたTim Rogersとのコラボ・アルバムでは、もう俺の知ってるBamboosは、どこにもいなかった。確かに国内でのポジションはTimの方が上だし、彼らもその心づもりだったんだろうけど、ディープ・ファンクの香りはどこにもなかった。そこにいたのは、無難な演奏をこなすバックバンドだった。
 これじゃ別に、彼らじゃなくてもいい。スタジオ・ミュージシャンを使っても、なぁんも変わらない。
 そんなわけで、彼らとちょっと距離を置くようになっていった。

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 流れが変わったのが、サイドプロジェクトのCookin' on 3 Burners、2016年「This Girl」の世界的大ヒットだった。厳密に言えば、彼ら単体名義ではなく、フランスのDJ Kungs によるリミックス・ヴァージョンが注目されたのだけど、まぁ細かいことは抜き。とにかく彼らの存在は世界中に知れ渡り、ゲスト・ヴォーカルKylie の株も大幅に上がった。
 そんな勢いも借りてリリースされたソロ・アルバム『Family Tree』は、80年代ユーロビート・リバイバルの時流に乗ったサウンドをバックに、テンションMAXで歌い倒す快作となった。同じオーストラリアの歌姫Kylie Minogueをビルドアップして泥臭くした、強烈なダンス・ビートは、世界中のパリピを狂喜乱舞させるはずだった。
 通常の流れだと、このまま世界ツアーや各国のメジャー・アーティストとのコラボでステップアップしてゆくのだけど、なぜか彼女、グローバル展開へはあまり積極的ではなかった。Bamboosの面々をバックに従えた国内ツアーを終えると、そのままアルバム制作に移行する。
 で、できたのがこの『Night Time People』。



 そこらの自称ディーヴァ程度なら、軽く蹴散らしてしまうポテンシャルを有するKylie。 プロトゥールスで無理やりかさ増しされたデジタル・ビートなら、いとも簡単にねじ伏せてしまう。長年に渡って鍛え上げたれた強靭な喉は、向かうところ敵なしである。
 だからこそKylie、キンキンして無機質のDTMサウンドは物足りなく感じたのだろう。自分のポテンシャルを最大限引き出すためには、やはりフィジカルなサウンド、生のバンド・グルーヴじゃないとダメなのだ。
 一旦、外の空気を吸ってみないと、わからないことはいくらだってある。久々に一緒にツアーを回って気付いたのは、彼女が先だったのか、それともバンドだったのか。とにかく思い立ったら即行動、バンド再始動に向けて動き出す。

 そんなわけで『Night Time People』。今回、恒例のゲスト・ヴォーカリストはなし、ほぼKylie出ずっぱりで、直球勝負のディープ・ファンクが展開されている。水を得た魚のように、これまで以上に好き放題がなりたてるKylie、そしてそんな野放図ぶりをしっかり受け止める、盤石のバンド・アンサンブル。前作で特に顕著だった、耳ざわりの良いポップ要素は抑えられている。代わりに強調されているのは、無骨かつしなやかなグルーヴ感。
 一応、新機軸として、DJをフィーチャーしたお遊びもあるにはあるけど、以前のようにそれが売りになっているわけではない。ここでの主役は、あくまでBamboosだ。


NIGHT TIME PEOPLE
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01 Lit Up 
 先行シングルとして、オフィシャルサイトでもいち早くアップされた、復活を大々的にアピールしたパワー・チューン。トイ・ピアノっぽいイントロから遊び心満載、そこから一気にボルテージ・アップ。だけどバンドはクレバーで、Kylieも余力を残した歌いっぷり。そう、ショウはまだ始まったばかりなのだ。
 ちなみにミックスを手掛けたのが、往年の名エンジニアBob Clearmountain。こういったメリハリのある音は、さすが堂に入ったところ。



02 Stranded
 一転して、Kylieソロでも行けそうなポップ・ナンバー。ソウル色はあまりないけど、サウンドのわりに重い響きのバスドラが、バンドの存在感を引き立てている。

03 Golden Ticket
 で、ここでちょっとソウル色が強くなる。ノーザン・ソウルだな、いい感じのストリングスも入ってるし。先人へのリスペクトを表した、軽快なナンバー。ブラス・セクションがずっと出ずっぱりなのも、通常営業のBamboosらしさ。

04 Salvage Rites
 少しダークな趣きの、ロックっぽさも加味したナンバー。以前だったらもっと甘めに仕上げていたんだろうけど、そこはKylieが歌うだけあって、ボトムの効いたロッカバラードとして成立している。

05 Pony Up
 ライブ映えしそうな、重めのファンク・チューン。演奏陣とのコール&レスポンスが聴きどころ。ほど良い緊張感が全体を支配し、一触即発予測不能のセッションとなっている。彼らとしては珍しく、オルタナ風のディストーション・ギターでのソロが聴ける。

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06 Night Time People
 タイトル・トラックは、モノローグ風に早いテンポのヴォーカルからスタート。ゴリゴリのファンクかと思ったら、案外凝った構成なので、聴き進めると面白い。

07 Backfired
 ルーズなタッチのモダン・ブルース。ブルースという性質上、演奏の方が目立っており、ブラスが特にあれこれ技の出しまくり。Lanceのギター・ソロも出てくる。でもこの人、ほんとブルース色は薄いよな。普通にリズム切ってる方がしっくり来る。あ、でもあんまりしつこくないから、それはそれでいいのか。

08 War Story
 ファニーなノーザン・ソウル風のイントロは、Kylieのソロっぽい。あれだけ豪快ななりをして、これだけパワフルな歌いっぷりだというのに、可愛らしさが漂うというキャラクターは、ある意味貴重。

09 You Should've Been Mine
 60年代ソウルへのリスペクトを踏まえながら、よりポップに、そしてパワフルさを付け加えた、壮大なスケールを想起させるミドル・バラード。今後、彼らのスタンダードとして残るべきアンセム。

http-365daysinmusic.com-wp-content-uploads-2013-09-The-Bamboos

10 San Junipero
 ラス前は恒例のインスト・ナンバー。たっだ1曲ではあるけれど、以前のアルバムのように、演奏陣が隅に追いやられている感はまったくない。Kylieの歌があってこそのBamboosであり、そして逆もまた同様。モダンでありながら、どこか泥臭い。そんな彼らの熱いステージがイメージできる。

11 Broken (feat. J-Live)
12 Broken (feat. Urthboy) 
13 Broken (feat. Teesy)
 で、ボーナス・トラック的なここから3曲、バンドによるベーシック・トラックをもとに、3人のラッパーが絡んだ珍品。よくこんなこと、アルバムでやるよな。普通、シングルの企画だろうに。そこら辺にも手を出すところが、また彼ららしい。普通には終わらせないぞ、という気骨のあらわれか。
 リズミックでオーソドックスなJ-Live、ちょっとギャングスタっぽくルーズなノリのUrthboy、Tessyなんてドイツ語で独特だし。ラップ系はあんまり詳しくない俺だけど、各人フィーチャーする箇所が微妙に違っているので、聴き比べるのもなかなか面白い。





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