folder 1976年リリース、2枚組にもかかわらず、アメリカだけで1000万枚以上を売り上げた、問答無用のモンスター・アルバム。当時の日本でもオリコン40位にチャートインしているくらいだから、その勢いがなかなかのものだったことは想像できる。
 それくらいメジャー過ぎるアルバムなので、ほんとは最初、この次にリリースされた『Journey through the Secret Life of Plants』を取り上げようと思っていたのだけど、やっぱりやめてこっちにした。なぜかといえば…、単純につまんねぇ。
 「最終的に未公開となったドキュメンタリー映画のサウンドトラック」というインフォーメーションから、すごく期待値を下げて聴いてみたのだけど、いやいやこれはちょっと。同じインスト主体なら、変名でリリースした『Alfie』の方が数段マシに思えてしまう。
 Stevieの死生観と人生賛歌が反映された、ニューエイジの先駆け的に、ゆったりマッタリな音世界は、クオリティは高いんだろうけど、楽しめるものではない。一応最後まで聴いてみたけど、正直2度目はないな。
 で、この『Secret Life』、『Key of Life』から3年ぶり、満を持してのニューアルバムということで、モータウン社内は一段と盛り上がった。何しろ前作が未曽有の大ヒットだったものだから、営業サイドも初回プレスを高めに設定、イケイケモード全開でプロモーションを展開しようとした。
 そんな浮かれモードの中でただ1人、完成テイクを聴いた社長Berry Gordyだけは、危険な兆候を感じ取る。即座に営業を呼び出し、プレス枚数を大幅に減らすことを指示した。社長の気まぐれだ何だ、現場サイドはブーブー不満を漏らしたけど、フタを開けてみれば何とやら。アーティスティック寄り過ぎるサウンドはヒット要素に欠けており、メディアのほとんどは微妙な反応、当然、セールスも伸びなかった。
 何しろ2枚組だもの、単純に考えて返品在庫だって倍になるわけだから、販売計画だって慎重にならざるを得ない。リスクを最小限に抑えたという意味で、やっぱりBerry Gordyは辣腕経営者だった、と言える。まぁレコード会社経営なんて、バクチみたいなもんだし。

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 Stevie Wonder といえば、「音楽の天才だ」「すごい人だ」というのは、普通の音楽好きの間ではなんとなく通じると思う。じゃあ、「どうゆう風にすごいのか」と聞かれると、帰ってくる答えは千差万別になるはず。
 「幼少の頃から作詞・作曲をこなすマルチプレイヤー」という声もあれば、「70年代ニュー・ソウル・ムーヴメントのオピニオン・リーダーとして、大量のマテリアルを残した」という意見もある。80年代で確立された「愛と平和の人」というイメージもあるし。多分、世間一般ではこの印象が一番強いのかな。
 ただそれって、見た目のアーティスト・イメージであって、アーティスティック面・創作面とは、あんまり関係ない。芸歴も長いから、「何となくすごい人」というのは伝わっているんだけど、「名曲をいっぱい作った人」という認識がほとんどじゃないだろうか。

 テクニカル面でよく語られるのは、ジャズや古いブルースなど、ソウル以外の幅広い音楽的素養、それらを自在に組み合わせた独特のコード進行、そこから派生する天性のリズム感。音楽雑誌でStevieが形容される際の常套句である。間違ってはいない。いないのだけど、曖昧な表現だ。小難しそうに書いちゃうから、本質が伝わってこないのだ。
 もっと砕いて言っちゃえば、要するにこの人の才能とは、「何をどうやっても音楽になってしまう」ということ。
 何の準備も構想もなく、ただピアノの前に座り、適当にコードを押さえてスキャットしても、それがちゃんと形になってしまう。もっとラフなやり方で、手拍子に合わせてフフンとハミング、これでまた一曲。ドレミファソラシドだって、彼の手にかかれば、全然違う色合いになってしまう。チビッ子が書き殴った適当なアルファベットをコード表に見立て、即興でメロディつけちゃうことだって、お手のものだろうし。
 彼が動けばリズムが生まれ、唇が動けばメロディになってしまう。「生きてること即ち音楽」を無意識に体現できてしまうのが、Stevie Wonderのほんとの凄さだ。
 とは言ってもこのメロディ、Stevieが奏でる旋律は彼独自のものであり、簡単に歌いこなせるものではない。行き先不明・自由奔放なメロディラインは、ピッチを合わせることだけで精いっぱい、並のシンガーだったら実力不足が露呈してしまう。そりゃそうだ、作った本人が、整合性なんて考えてないんだから。
 よほど自信のあるシンガーじゃないと手をつけられない、それもまたStevie の生み出す楽曲の凄みである。

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 なので、特別本人が意識していなくても、アイディアはどんどん溜まってゆく。スタジオに入っちゃえば、沈思黙考する必要もない。何しろ音さえ出しちゃえば、ほぼそれでいっちょ上がり、ってな具合だし。
 そんな膨大なマテリアルの中から厳選されたいくつが世に出ているわけだけど、当然、1枚のアルバムを仕上げるためには、その何倍にも及ぶ没テイクが存在する。どれを完成品に仕上げてどれをボツにするのか、そのジャッジは当然Stevieが握っているのだけど、その基準は、彼のみぞ知る領域である。
 発表されれば大ヒット間違いなしと思われる名曲だって、アルバム・コンセプトに合わなかったり、はたまたその日の気分次第で、ボツになっている可能性もある。肩慣らし程度のセッションで閃いた魅力的なフレーズだって、「なんか違う」の一言でボツになってるかもしれないし。天才の基準とは、我々庶民とは全然違うモノサシなのだ。
 よほど著作権管理がしっかりしているのか、これまで未発表テイクの流出もほとんどないし、過去のアーカイブのデラックス・エディションも、興味がないみたいである。『Key of Life』のアニバーサリー企画の一環で、欧米で再現ライブが行なわれたけど、お蔵出しを追加した音源リリースはなかったし。
 新曲を作っても、ライブで発表して終わり、アルバムにまとめる気力もなさそうなのが、近年のStevieの状況である。まぁこのご時勢、新曲作ったって売れないしね。

 そんなStevieも、ライティング・ハイのピークにあった70年代は、取り憑かれたようにレコーディングを繰り返していた。閃いたアイディアを、思いついた先から、録って出し録って出し。録音が追いつかないほどの勢いを持ったアイディアの洪水は、『Key of Life』でピークに達する。
 ただここで全部出し切っちゃったのかそろそろ休みたかったのか、プロモーションを終えたStevieは、表舞台から姿を消してしまう。3年のブランクを置いて発表された『Secret Life』は、悟りを開いてしまったかのように禁欲的なサウンドでまとめられていた。確かにクオリティは高いんだろうけど、まぁあとは前述したような具合。その後は「愛と平和」の一直線、強い記名性はキープしながら、幅広い客層に愛されるコンテンポラリーな作風に移行して行く。
 まるでクリエイティヴィティの枯渇を予見していたような、そんな追い立てられる危機感を持ち、先陣を切って音楽シーンを疾走していたのが、70年代のStevie である。

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 1973年、『Innervisions』 完成後、Stevie を乗せて運転していた従兄弟の車が交通事故に遭う。重傷を負った彼の容態はかなり深刻で、4日間,生死の境を彷徨うことになる。意識が回復してからも、しばらくは味覚・嗅覚を失い、復帰するまでにはかなりの期間を要した。
 そんな状況の中、次回作『Fulfillingness' First Finale』のリリース・スケジュールは決まっていたため、万全な体調ではなかったにもかかわらず、Stevieは無理を押してスタジオ入りした。幸い、ほんとんどのベーシック・トラックは事故前に完成済みだったので、Stevie の負担は最小限で済んだ。
 3部作の最後を飾った『First Finale』は、前2作『Talking Book』『Innervisions』で顕著だった才気煥発さは薄れ、「Creepin」を代表とした穏やかなバラード中心に構成されている。精神・肉体とも癒しを求めていた、当時の彼の心境が強く反映されている。

 十分な休息を取った後、Stevieは再びレコーディングの現場に復帰する。ライティング・ハイの状態は変わらない。曲はいくらでも湧き出てくる。ただ、生死を彷徨う4日間を境として、彼は明らかに別人となっていた。
 一時的とはいえ、5感のうち3つを失ったことによる喪失感、それに伴う人生観と死生観の変化は、創作スタイルにも大きな変化を及ぼした。
 これまで強力な技術ブレーンとして、3部作の制作に大きく関与したMalcolm CecilとRobert Margouleffとは、契約がらみの問題でパートナーシップを解消していた。どちらにしろ、これまでの濃密なレコーディング作業を経て、Stevie 自身の技術スキルも向上、ほぼエンジニアの助けも借りずに、アナログ・シンセの操作は独りでできるようになっていた。それに加えて、ごく少人数で行なっていた3部作のレコーディングと違って、『Key of Life』に集約された音楽性は、明らかにベクトルが違っていた。

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 当時の最先端シンセTONTOを中心に構成された3部作でのサウンドは、公民権問題やベトナム戦争など、時代のイノベーターとしての代弁者的役割、社会的弱者への強烈なエールを含んでいた。ほとんど宅録に近いセルフ・レコーディングで生み出された音は、隅々までコントロールされ、入念に研ぎ澄まされていた。
 でもその音は、他人の介在を拒む。自己完結を目指して構築された空間は、それ以上の広がりを見せない。ここで展開されているStevie Wonder ワールドは、突き詰めて考えてゆくと、Stevie個人のエゴに収れんするのだ。
 『Key of Life』レコーディングには、総勢130名以上のミュージシャンが参加している。他者との関わり・多様な解釈を強く求めるため、ほとんどの曲はバンド・スタイルや大人数のコーラスで録音されている。
 モザイク様にからみ合った有機的アンサンブルは、強力なマン・パワーとなってサウンドをブーストする。それをバックに歌うStevie、ヴォーカルからにじみ出てくるのは、神への感謝と未来への希望。そのメッセージはあまりにストレートで力強く、中途半端な揶揄を寄せつけない。

 アーティストがいきなり「生への感謝/神へのリスペクト」なんかを語り始めたら、スピリチュアルにかぶれたか、はたまた日本語ラップにかぶれちゃったんじゃないかと思われがちだけど、ここでのStevie からは、そんな胡散臭さは感じられない。そりゃそうだよな、実際、そんな状況に出くわしちゃったんだから。
 実体験による言葉や行動は、重い説得力を増す。『Key of Life』で奏でられる音から放出されているのは、圧倒的なポジティブ・強い信頼感だ。斜め上から放たれる「すれっからしの皮肉」なんて吹き飛ばしてしまう、強靭な音楽の力、そしてそれを形成するマン・パワー。
 問答無用、とやかく言わせない音楽の誕生である。



Songs in the Key of Life
Songs in the Key of Life
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Stevie Wonder
Motown (2000-05-02)
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1. Love's in Need of Love Today 
 邦題「ある愛の伝説」。バックコーラスを含め、演奏はほぼStevieの宅録状態。当時の最先端機材ヤマハGX-1を駆使して創り上げられたサウンドは、無機的な感触はほとんどない。
 2001年に勃発した米国同時多発テロから10日後に行なわれたベネフィット・ショウ『America : A Tribute to Heroes』に出演したStevieは、Take 6をバックコーラスに従えて、この曲をプレイした。普遍性を持つ楽曲は、時代状況を軽く飛び越えて、どの世代にもダイレクトに響く。



2. Have a Talk with God 
 邦題「神とお話」。スピリチュアルというよりはむしろ哲学的対話と言った印象の歌詞。1.に続いて宅録によるスロウ・ファンクは、もはやStevieの十八番といったところで、冷静ながら熱いパッションが込められている。
 リリースされてから30年後、Snoop Doggとのコラボで再注目された。こちらも時代を超えた普遍性を持つ。

3. Village Ghetto Land
 『Innervisions』に入ってても違和感ない、荒廃したゲットーの現状を静かに熱く歌い上げるStevie。シンセ音源によるストリングスの調べが、静かな怒りの序曲として、また鎮める力として作用する。

4. Contusion 
 夕方のFMの天気・交通情報のBGMでよく使われていた、案外耳馴染みの深いインスト・チューン。ギターを弾くのは、前作から参加のMichael Sembello。アルファベットで綴るより、カタカナで「マイケル・センベロ」と書いた方が、通りは良い。
 1983年、映画『Flashdance』挿入曲としてシングルカットされた「マニアック」は、日本でもスマッシュ・ヒットした。なので、アラフィフ世代にとってマイケル・センベロといえば、ギタリストといったイメージがあんまりない。

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5. Sir Duke
 3枚目のシングルカットながら、US1位・UK2位と大ヒットを記録した、数多いStevieの代表曲の中のひとつ。タイトルにあるように、Duke Ellingtonに捧げられたものだけど、その他にもCount BasieやGlenn Miller、サッチモやElla Fitzgeraldなど、スウィング時代のジャズ・レジェンド達にも敬意を表している。
 4人編成のホーン・セクションをバックに、高らかに謳われるジャズや音楽への憧憬は、Steveの原点であり、バンド・スタイルで演じたのが正解だった。スタジオ内で黙々打ち込みするような楽曲じゃないしね。

6. I Wish
 邦題が「回想」だというのを、実はいまさっき知った。邦題、あったんだ。別に「アイ・ウィッシュ」でいいんじゃね?
 大抵、プログレ界隈でフェンダー・ローズはリード楽器として使用され、幻想的なメロディを奏でたりするムード装置的な役割が強いのだけど、ここではほぼリズム楽器限定で使用されており、その分、冗長さがカットされてソリッドさが強く浮き出ている。
 大人数によって演奏されるStevieのファンクは、汗臭さが感じられないのが特徴。熱さはあるんだけど、どこか覚めている。そこが二流ファンクとの決定的な差でもある。

7. Knocks Me Off My Feet
 再び宅録による、静謐かつエモーショナルなヴォーカルが印象的なバラード。Luther VandrossやJeffrey Osborneなど、いわゆるブラコン系シンガーによってカバーされているけど、仏作って魂入れずっていうのか、雰囲気カバーで終わってしまっている。なので、開き直ってStevieクリソツに仕上げたGeorge Michaelヴァージョンが一番デキが良かったりする。

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8. Pastime Paradise
 Coolioによる「Gangsta's Paradise」の方が有名になってしまった、こちらもGX-1によるストリングスが強いインパクトを残すゴスペル・バラード。サンプリングし甲斐のあるトラックは、時代を経ても風化なんて関係ない。
 しかしここまでカバーについて書いてきたけど、変な正攻法バラードよりも、ヒップホップ勢による分解・再構築したトラックの方が出来がいいな。変に深読み・咀嚼して完コピするよりも、ノリの良さ優先で勢いで作っちゃった方が、結果的にStevieの本質に近づいている、って感じ。
 ただ、そんな正攻法も変化球も関係なく、我流を突き通して自分のモノにしちゃってるのが、Patti Smith。このオバちゃんでは、Stevieも恐らく歯が立たない。

9. Summer Soft
 序盤は地味なピアノ・バラードだけど、徐々に楽器が増えてバンドのテンションも上がり、カノン進行によるメロディに引っ張られてヴォーカルも力強くなってゆく。Ronnie Fosterによるオルガン・プレイは、多分彼の一世一代の名プレイ。メンバー全員が持てる力を出し切って、Stevieのテンションに必死に追いついている。俺的に、『Key of Life』主要曲以外では、もっとも好きな曲。
『Key of Life』セッションでは終盤でレコーディングされた曲で、ほんとはアルバム収録の予定はなかったのだけど、ギリギリの段階で収録が決まった、というエピソードがある。神様のいたずらによってお蔵入りを免れた、奇跡の楽曲。



10. Ordinary Pain
 LPで言えば1枚目ラスト、前半はStevieヴォーカルによるゆったりしたバラード、後半はなんとMinnie Riperton,、Deniece Williams、Syreeta Wrightら豪華メンツをコーラスに従えて、Shirley Brewerによるゴスペル・タッチのコール&レスポンス。豪華な舞台装置ながら、歌われている内容は痴話喧嘩の罵詈雑言。まぁ何でもアリだよな。

11. Isn't She Lovely
 殺気立った前曲から一転して、愛娘Aishaの声からスタートする、ほんとにラブリーなポップ・チューン。Stevieという人の守備範囲の広さがあらわれている。
 Stevieの強い意向により、なぜかアメリカではシングルカットされておらず、よって目立ったチャート・アクションは残していないのだけど、間奏のハーモニカ、フェンダー・ローズによる柔らかなリズム、そしてAishaを囲んだ家族の笑い声。「愛と平和の人」Stevieといえば、この曲を挙げる人も多い。午後ティーのCMソングとしてもお馴染み。


12. Joy Inside My Tears
 ほぼ独りでレコーディングしたバラードだけど、何か1.と曲調が似てるので、あんまり印象に残らない。膨大な没テイクを押しのけてこの曲が残ったのだろうけど、もっと残すべき曲、あったんじゃない?

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13. Black Man
 タイトル通り、長い間、迫害され続けてきた黒人の地位向上と、人種を超えた融和を訴えた、攻撃的なファンク・チューン。アクティヴな時は、フェンダー・ローズを使うことが多いStevie。メロディ主体はGX-1と使い分けてるんだな。
 この曲でよく論議されてるのが、8分超という長さ。Stevieのヴォーカル・パートは5分程度までで、その後、舞台は学校(?)へ移り、女性教師が「世界で初めて信号機とガス・マスクを発明したのは?」、生徒の子供たちが大きな声で「Garret Morgan!黒人!」とコール&レスポンス・スタイルで応える、というのが延々と続く。取り上げられるのは黒人に限らず、白人やネイティヴ・アメリカン、日本人も含まれており、人種の垣根をぶち壊したいStevieの主張が色濃く反映されている。
 長いっちゃ長いんだけど、前半のファンキー・スタイル/後半のラップ・パート、というスタイルは、同じ手法を繰り返すことを潔しとしない、イノベイターStevieとしての矜持が刻まれている。

14. Ngiculela - Es Una Historia - I Am Singing 
 使用楽器に「Koto synthesizer」と表記されている、オリエンタル調のバラード。日本人からすると、とても琴には聴こえない「なんちゃって琴」的音色なのだけど、当時の日本に抱くイメージってこんなもんだったろうし、充分通じたのかな。他にもアフリカン・タッチのパーカッションも入っており、クレジットを見ると大勢のミュージシャンが参加しているのだけど、あんまり目立っていない。もっとミックスのバランス考えればいいのに、と余計な心配までしてしまう。別な見方だと、贅沢な使い方とも言える。

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15. If It's Magic
 ハープをフィーチャーした、ほぼStevie独りによるバラード。何となくハープの音色から着想を得たような曲で、それ以上の面白さはあんまりない。この程度のバラードなら、いくらでも作れそう。

16. As
 前曲の凡庸さから一転して、ここから怒涛の名曲連チャンモードに突入。スペシャル・ゲストのHerbie Hancockによるフェンダー・ローズは、要所を抑えたファンキーなプレイ。厚みのあるゴスペル・コーラスは、どっしりサウンドを支える。後半になってフィーチャーされるDean Parksによるギター・プレイもスパイス的な効果で曲を締める。
 マザー・アース的な主張が色濃い歌詞は、深読みすれば果てしない。終盤に近づくほどハイテンションになるヴォーカルと対照的に、支えるバッキングはクレバーなリズムを刻む。そのコントラストがメッセージを浮き立たせる。
 またGeorge Michaelだけど、Mary J Bligeと組んで秀逸なカバーを残している。「またGeorgeかよ」って言わないで。だってうまいし、味もあるんだもの。



17. Another Star 
 アルバム本編ラストを飾る、8分に及ぶトラック。サンバのリズムを基調としながら、ヒヤリとした感触があるのはなぜなのか。大規模なホーンセクションとコーラス、アフリカン・リズムによるアクセントは、ダンス・チューンとしてはすごく秀逸であるはずなのに。これも深堀りしてゆくと、底に見えるのは孤高の天才の諦念だ。
 レアグルーヴではお馴染み、Bobbi Humphreyによるフルート・プレイが少しだけ聴ける。

18. Saturn 
 スペーシーなシンセの音色は、ちょっぴりプログレ風味。あんまりソウルっぽさは感じられない、ちょっと実験的なトラックとも言える。だから番外編なのかな。「僕は土星へ帰るのさ」というメランコリックな歌詞がスピリチュアルだけど、そこはあまり深く突っ込まず、「ちょっとプログレしてみました」的に生温かな目で見てあげた方がいいと思う。

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19. Ebony Eyes 
 ラグタイム風の気軽なセッション、と言いたいところだけど、これもドラム後録りなんだな。このアルバム、そんな疑似セッション的な曲がとても多い。これも多分、トークボックスで遊んでみたかったのか、ほぼワンコード・ワンアイディアで作っている。
 まぁ番外編だから、ということで入れたんだろうけど、これよりもっといい曲がボツになったことを思うと、何だか悲しくなる。

20. All Day Sucker 
 ちょっと「Superstition」の続編っぽさも感じられる、凝った構成のファンク・チューン。こういったワンコードの曲だったら、そりゃいくらでも作れるんだろうけど、どうしても似通っちゃうんで、没になる確率も高いんだろうな。Princeだってそうだもの、アウトテイクにコッテコテのファンク・チューンが腐るほどあるんだけど、オフィシャルではなかなか出てこなかったし。

21. Easy Goin' Evening
 エピローグ的なインスト・バラード。ハーモニカの調べは眠気を誘い、そして静かな終幕の時へ。






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