folder 1987年リリース、3枚目のオリジナル・アルバム。日本でも好セールスを記録した前作『Our Favorite Shop』から2年、第1期の総決算的なライブ・アルバム『Home & Abroad』 を挟んでのリリースになっている。UK2位でゴールド・ディスク獲得といった成績はほぼ前作並みだけど、”Shout to the Top”や”Walls Come Tumbling Down”などのわかりやすくキャッチーなシングル・ヒットが収録されていないため、印象としてはちょっと地味である。
 ちなみにUSでは最高122位と低迷しており、ブリティッシュ・インベイジョン真っ只中の80年代中期にしてはちょっと低い数字。ていうかPaul Weller、この作品、またはスタカンに限らず、全キャリアを通してアメリカ市場とのマーケットとの折り合いが悪いことで有名である。あれだけクセの強いCostelloやJoe Jacksonでさえ、ビルボード・チャートの上位に食い込んでいるのに、その無視されっぷりはどうにも謎である。
 その辺が気になったので、ジャム、スタカン、そしてソロのビルボード・チャートを調べてみたところ、まぁひどい扱いだこと。ジャム時代は『Sound Affects』が72位、スタカンでは『Cafe Bleu』の56位、それでやっと最高位である。微妙に音楽性は違うけど、ClashやらTears for Fearsやらがトップでブイブイ言わせてる中、彼らにもチャンスはあったはずなのだけど、頑固な英国気質が災いしたんだろうか。
 それにも増して、ソロ時代に至ってはデビュー以来、チャートインすらしない状況が続いている。すっかり大御所ポジションを確立した本国UKでは、今もアルバムが出ると上位に入るくらい安定しているというのに、この落差は極端過ぎる。まぁ今さら本格的なアメリカ進出しようだなんて、思ってないだろうし。

 これまでの第1期は、固定メンバーがPaulと鍵盤担当のMick Talbotのみ、ライブではサポート・メンバーを導入、レコーディング時は曲ごとにコラボを変えるフレキシブルな構成だった。多彩なジャンルを幅広く取り扱うよろず屋的な体制は、モッズ・パンクのイメージに囚われて息苦しさを感じていたジャム時代の反省から来るものだった。勝手に固定されたアーティスト・イメージをなぞる安定路線よりむしろ、それまで培ったキャリアをかなぐり捨てて新体制で臨むその潔さは、賛否両論を巻き起こした。普通に考えるなら、別プロジェクトや変名を使って異ジャンル交流を図るのが安全策なのだけど、そういった中途半端を許さないのがこの男である。
 とは言っても、多分2人でやれる事はやり尽くしたのか、それともよっぽど新メンバー2人が気に入ったのか、このアルバムからのスタカンはもう少しバンドっぽい4名編成になる。

styc87

 1人はドラマーのSteve White。スタカンが解散して以降もPaulとは長らく行動を共にしており、よほど相性が良かったと思われる。デビュー以来、ほぼずっとPaul関連でしか名前を見なかったのだけど、近年はお互いマンネリ気味なのか、ソロ・ワークも多くなっている。とは言ってもその別バンドにはMickもおり、しかもPaulとの親交も続いているので、三者の関係は程良い距離感を保っている、といったところ。
 で、もう1人がバック・ヴォーカル兼時々メインに立つこともある女性ヴォーカルDee C. Lee。Wham! のバック・コーラスとして名が知られるようになったところをPaulがスカウトし、前作から準メンバー扱いで加入している。スタカンだけでなく、Paulの全キャリア中、1、2を争うクオリティの大名曲”Lodgers”での名演が注目を浴びることになり、正式加入に至った次第。
 そのソウル・ディーヴァの降臨にPaulはたちまち虜になる。あまりに気に入ってしまったため、彼女のために自らソロ・デビューの段取りに奔走すると共に、なし崩しのようにイチャイチャして入籍までしちゃったくらいの惚れ込みよう。まぁ解散後の音楽性の変化もあって、10年後には離婚してしまうのだけど。

 英国ロック・シーンにおいて不動の地位を確立したジャムに自ら終止符を打ったPaul、その後スタカンを結成した理由というのは、どれだけ多様な音楽性を展開しようとも、「The Jam」のクレジットでリリースするアイテムは、すべてモッズ・サウンドにカテゴライズされてしまうことにストレスを感じていたためである。
 Policeもそうだけど、ソウルやファンク、ボサノヴァまで幅広いジャンルをカバーしてゆくのに、トリオ編成ではどうしても無理が生じてくる。第一、メイン・ソングライターのPaulがいくら頑張ったとしても、他の2人はオーソドックスなロック以外への興味が薄いのだ。Policeと違ってリズム隊の2人とも、コンセプトに応じた柔軟なプレイもできそうにないし。
 そういったしがらみや制約の中で新たなサウンドを追求してゆくことに限界を感じ、もっと自由なメンバー構成で、バラエティに富んだ音楽をやってゆくために始めたのが、Style Councilというプロジェクトだった。
 デビュー・アルバム『Cafe Bleu』ではTracy thornがまるまる一曲ヴォーカルを取っていたり、ジャム時代には考えられなかったピアノ・バラードなど、ポスト・パンクの今後、イコール従来のロック・サウンド以外の方向性を示した楽曲が多く収録されていた。どの曲もコンセプトがバラバラでトーンが統一されていないため、一聴するととっ散らかった印象が強いけど、もともと初期はシングル中心のリリース戦略を強く打ち出していたため、ある意味狙い通りである。
 2枚目の『Our Favorite Shop』も基本は同様のコンセプト、それぞれ方向性の違うサウンドを持つシングルを集めたスタイルで構成されている。ここではほぼオリメン2名・新メン2名が中心となって音作りがされており、事実上バンド形態に近いものになっているけど、サウンドは当初のコンセプト通り、バラエティを持たせている。
 彼らが日本で知られるようになったのがこの頃、カフェ・バー文化から派生したシャレオツな音楽がもてはやされた時代である。ていうかPaul Wellerという存在自体、一般ロック・ファンにも認知されるようになったのが、この頃である。日本ではジャムの知名度なんてたかが知れていたし。

f067a205ca40ba1d168fbd08fc5a2b77

 で、この3枚目、実はリリース当時から、そして今をもって評判は芳しくない。数々のシングル・ヒットが収録された前2作と比べて、キャッチーでわかりやすい曲が少なく、正直言って地味である。これまでのスタカン・サウンドが、色とりどりの多ジャンルなバリエーションを揃えていたのに対し、このアルバムはハードな質感のホワイト・ソウル一色で統一されている。従来のスタカン・ファン、そしてPaulの変節を受け入れられなかったかつてのジャム・ファン、どちらにもコミットしないサウンドである。
 そういった視点で見ると、いまだまともな再評価がされていない、かわいそうなアルバムでもある。

 後期ジャムでもその傾向はあったのだけど、少年期のPaulにとってのアイドルだったCurtis Mayfieldを始めとする、ソウル/ファンク系のアーティストへの溢れんばかりのオマージュを込めた楽曲が多くを占めている。それらを単なるオールド・スタイルで再現するのではなく、当時ダンス・フロアを席捲していたハウス・ビート、特にJam & Lewisからインスパイアされたサウンドが強く打ち出されているのが、大きな特徴。
 これまではトップ40ヒットを軸としたユニット運営だったのが、ここではダンス・シーンへ大きく舵を切っているため、まだ少し残っていたロック的要素がここでは完全に切り捨てられている。こういった潔さはジャム時代から変化がない。思い切ったことを平気でやる人なのだ。
 リリース当時はロック中心のリスナーだった俺、ほんの2、3回流して聴いたくらいで長らく忘れていたけど、あれから四半世紀が流れ音楽的嗜好も変化、レアグルーヴを通過した耳で聴くと、オイシイ所だらけのアルバムである。いま聴くといろいろと気づかされる部分も多い。あんまり聴いてなかった分だけ、新鮮な感覚で聴くことができるのは幸せだ。

 なので俺的にはこのアルバム、80年代のブルー・アイド・ソウル/ホワイト・ファンクの中ではマスターピース的な扱いになっている。
 年を経て、経験を積むことでしか見えてこないものだってある。前評判や世評だけに捉われず、フラットな耳で聴けば、面白い音楽はまだまだいっぱいある。
 あんまり頑なになって、同じ音だけ聴いてても損だよ。
 俺も気づくのは遅かったけど。


The Cost of Loving
The Cost of Loving
posted with amazlet at 16.04.05
The Style Council
Polydor (2000-08-18)
売り上げランキング: 577,835



1. It Didn't Matter
 これまでの路線とは色合いの違う、クールなホワイト・ファンクでスタート。一応、日本ではマクセル・カセットテープのCMソングとして起用されて、そこそこ認知度があった。モノクロ・タッチの粗い画質のPV風映像はシャレオツ感満載だった。
 いまになって聴いてみるとサウンドはエレクトロ・ファンク、肝心のPaulのヴォーカルは変わらぬロック・テイストのため、このミスマッチ感が80年代を想起させる。普通にカッコいいのにね。
 シングル・カットされてUK最高9位。ちょっと地味過ぎたか。



2. Right to Go
 モデル・チェンジはさらに続き、ここではラップ・パートの導入。ここではほとんどPaulもLeeも出番は少なく、メインを張るのはオールド・スクール系のthe Dynamic Three。正直存在すら知らなかった人たち。Paul思うところの、いわゆるロック畑の人がイメージするラップ像を忠実に再現しているのが彼ら。これなら無理やりPaul自身でで無理やり叩きつけるようなヴォーカルをとっても面白かったんじゃないかと思うけど、そこを狙ったんじゃないんだろうな。
 「よりよい未来のためだ。権利を行使しろ。さあ、投票だ」とアジテートする内容は、直接的なラップという手段が必要だった。

3. Heavens Above
 メロウなサックスの調べが印象的な、このアルバムのハイライト・チューン。ファンク色を抑えた軽快なフィリー・ソウルは、あ、こんな曲も書けるんだ、と再発見してしまった。と言っても、気づいたのは20年くらい経ってからだけど。
 同じハスキーな声質のLeeとのデュエットは相性バツグン、演奏もまた、甘いソウルだけに流れずに、ギターの音はロックの響きになっており、ドラムもいい感じに走っている。後半アウトロの長くカオスなコーダが気持ちよくて、ここだけずっと聴いていたいくらい。ある意味、ここが最終形だったんだろうな。



4. Fairy Tales
 サウンドはダンサブルなファンクなのだけど、メロディやコード進行が結構動いてフレキシブルなので、楽曲自体は前作『Our Favorite Shop』期に通ずるものを感じる。ある意味ファンクとは力技なので、こういった技巧的な曲調とはちょっとマッチしづらい。ミスマッチ感を楽しむという考え方もある。
 と思ってたら、この曲だけなぜかCurtis Mayfieldがプロデュース兼ミキサーを務めている。なんで?

5. Angel
 このアルバム唯一のカバーで、1983年Anita Bakerのデビュー・アルバムに収録、US最高5位にチャートインした出世作。オリジナルはジャジーなばらーどだったのを、ここではサウンドのボトムを太く、Leeが主役だけど、Paulも時々デュエットに参加している。しっかし合わねぇなPaulの声、こういったシットリ系のナンバーだと。
 シングルで切ってもよさそうなものだったのに、1.のチャート・アクションがイマイチだったせいもあるのか、そのままに終わった。もったいない。



6. Walking the Night
 これも1、2枚目のアルバムのテイストに近いジャジー・ナンバーなのだけど、やっぱりリズムのボトムが太くなった分だけ、シャレオツ感よりはライブ感覚を重視した音作りになっていることが窺える。ホーン・アンサンブルもそれ風だしね。
 なので、ソウル/ファンクっぽさを追求したこのアルバムの中ではちょっと浮いている。俺的にもファンキーさがない分だけ思い入れは薄い。ここではPaulがほぼソロで歌ってるけど、この曲こそLeeも入れればぴったりだったと思うのだけど。でもそれじゃ出すぎか。

7. Waiting
 イントロがほとんど”Long Hot Summer”なミディアム・バラードは、一応2枚目のシングル・カットなのだけど、UK52位と大幅に順位を落としてしまったため、印象が薄い。あまりに露骨に”Long Hot Summer”なため、別にこれじゃなくてもいいんじゃね?感が強い。自家中毒の始まりだったのかもしれない。

maxresdefault
 
8. The Cost of Loving
 タイトル・ナンバーは、Mickのオルガン・プレイが冴えるクールなファンク・ロック・チューン。Paulよりはむしろリズム隊中心で作られたようなナンバーで、この時期のバンドの絶好調さが見えてくる。シャッフルを多用したサビ、一聴してMickとわかる決め異性の強いオルガンの音色。

9. A Woman's Song
 ラストはLeeによるドライな響きのソウル・バラード。シンプルなバッキングに乗せて、Leeの抑えたヴォーカル、そしてそれに応えるように歌を邪魔せず、それでいて効果的なフレーズを繋ぐMickの鍵盤プレイ。派手なハモンドだけじゃない、メロウな一面を見せている。




Greatest Hits
Greatest Hits
posted with amazlet at 16.04.05
The Style Council
Polyd (2000-09-18)
売り上げランキング: 4,881
Complete Adventures
Complete Adventures
posted with amazlet at 16.04.05
Style Council
Polygram UK (1998-11-10)
売り上げランキング: 271,745