folder 2015年も末にリリースされたばかりの、初のクリスマス・アルバム。相変わらずの平常運転、いつも通りの60年代ヴィンテージ・ソウルっぷりである。

 考えてみると、近年クリスマス・アルバムといえば定番曲を集めたコンピレーションが主流で、単独アーティストによる作品はほとんど聴いてなかったのだけど、調べてみると結構な数のアルバムがリリースされており、単に俺がそういったイベントから縁遠くなっていただけだった。
 Mariah Careyはド定番として、今年はKylie Minogueが参戦しており、Mary J.BligeやRod Stewartまで、錚々たるメンツが名を連ねている。どちらにせよ、どれも俺の趣味とは微妙にズレてる人たちばかりである。
 ちなみにここ日本では、アイドルやアニメ関連での企画物は多々あるけど、アーティストがしっかり本腰入れて作ったものは少ない。十分生活に根ざしたイベントだと思うのだけど、あまり需要がないのか季節商品に力を入れるのに気が進まないのか。
 全然関係ないけど、調べてみてちょっと気になっちゃったのが、これ。

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 前回のレビューでもちょっと触れたように、ヴォーカルのSharon、胆管ガンの手術成功後、間髪を入れずにオリジナル・アルバム『Give the People What They Want』をリリース、グラミー賞にノミネートされるほどの絶賛を受けたのだけど、この秋にガンが再発したと公表、「今後は化学療法を受けながら病魔と闘ってゆく」というステイトメントを発表した。遅咲きのキャリアのため、年齢はすでに50オーバーだけど、肉体的にガンの進行は予断を許さない。長い目で付き合ってゆくしかないのだ。

 公式サイトを見てみると、この夏からTedeschi Truksとのツアーを開始、最近ではドキュメンタリー映画が製作されるほどの多忙さのため、取り敢えず病状的には安定はしているらしい。単発ではあるけれど、余裕を持った日程のツアーも年末からスタートするので、無理しない程度に頑張ってほしい。
 でも、ペース配分とか考える人じゃないよな、きっと。

 そんな不穏な状態の中でリリースされた、突然のニュー・アルバムである。
 このように手馴れたスタンダード曲を交え、企画ミニ・アルバム的スタイルでのリリースは、多分Sharonの都合上、オリジナルを充分に練り上げる時間がなかったためと思われる。まぁどちらにしろ、彼らのようなライブ主体のバンドでは、スタジオでじっくり音を作るより、本番一発せーので合わせるほうが性に合っているので、結果的にそんなに音は変わらないけど。

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 デビュー当時から所属しているDaptoneは、2002年にニューヨークで設立された60〜70年代のソウル/ファンク/ジャズをベースとしたアーティストを専門に扱うレーベルで、彼女が看板アーティストの1人。
 基本、過去タイトルのリイシューではなく、新規録音が主体であり、一応自社スタジオも構えている、ちゃんとしたレーベルである。しかもそこのスタジオ機材が、今どきヴィンテージのアナログ・テープ使用というところも徹底している。メンテナンスやエンジニアリングも含め、収益優先で考えたらとてもできることじゃないけど、理想のサウンドを求めた結果なのか、どのアーティストのリリースにおいても、このスタイルを貫き通している。
 そんな頑固な姿勢によるレーベル運営は、短期的に回収できるビジネス・モデルではないけど、全世界を相手にすることによってどうにか成り立つことが可能であり、地味ではあるけど、どのカタログもロング・テール型のセールスを記録している。

 彼女の他にも、Charles Bradley やLee Fields、Budos Bandなど、70年代から進化を止めてしまったようなオールド・スタイルのアーティストを多々抱えているのだけど、まぁ日本じゃほとんど名前を知られてない人ばかりである。オールディーズ系の発掘は世界一進んでいる日本だけど、現役のアーティストに対しては紹介すらされない状況、それは昔から。
 Stylisticsなどの甘茶系スウィート・ソウルの需要は昔からあるのだけれど、彼女にようなアッパー・チューンを主体としたファンクネスはあまり受け入れられないのも、メロウな旋律につい惹かれてしまう日本人の特徴でもある。
 なので彼らのアルバム、Sharonを除いてほとんどは、日本発売さえ見送られているのが現状である。
 そんな中でもSharon はすでに6枚のアルバムをリリース、他のアーティストも着実にキャリアを重ね、地味ではあるけれどコンスタントな活動状況なので、海外においてはそれなりのニーズがあることがわかる。なので、なにも無理して日本くんだりまで来てプロモーションしなければならない必然性もない。別に日本だけが上客ではないのだ。

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 で、Daptone 、日本で例えるなら若手演歌歌手専門レーベルみたいなものだけど、取り巻く環境はどこも同じらしく、ドサ回りともいえる地道なロードによって活動を維持している。これもどこの国でも言えることだけど、トラディショナルなジャンルは案外息が長いのだ。
 ただ、日本の演歌の平均的ユーザーが後期高齢者で占められているのに対し、Daptone のアーティストらは老若男女バランス良い分布となっている。実際、若手アーティストとのコラボも多く、年齢層の若いフェスにも普通に参戦している。若手との交流が上手く行ってるのは、ベテランが偏見を持たないこと、そして若手がきちんとリスペクトしていること、それでいながらナァナァにならず、真摯な姿勢で音楽に対して向き合っていられる環境だからなのだろう。

 そういった恵まれた環境の中、Sharonも業界内ではウケが良く、Michael Buble からPhishまで幅広いアーティストとコラボしており、グラミー効果とドキュメンタリー公開時に行われた迫真のパフォーマンスによって、一般的な認知は高まっている。何しろあのめんどくさいPrinceともライブで共演しているくらいだから、実力のほどは言わずもがな。
 大物アーティストのサポートから場末のクラブでのささやかなセッションまで、ありとあらゆるオファーをこなすDap KingsもSharon 同様、経済的基盤を確保しつつ、外部セッションで得たクリエイティビティをバンド本体にフィードバックさせている。
 そういった好循環によって、過度にセールスを気にすることなく、とことん自分たちの好きな音楽をやってゆけるので、バンドとしてはいい状態が続いている。

 それでも危惧してしまうのは、やはりSharonの体調。あり余る精力が漲ってる彼女だけれど、決して楽観できる状態ではないので、お身体だけはお大事に。
 それとDaptone、綱渡りの経営だろうけど、できるだけそのまんまの規模で、これまで通りの仕事を続けてくれ。


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1. 8 Days (of Hanukkah)
 Hanukkahとはユダヤ教のイベントで、これがクリスマスにあたるらしいけど、よくわからん。8日間取り行われることがタイトルの由来。一般的にクリスマスと言えばやっぱキリスト教だけど、その辺分け隔てなく、みんなでクリスマスを祝いましょう的ムードが流れているオープニング・ナンバー。

2. Ain't No Chimneys In The Projects 
 そこからちょっとしっとりした、静かだけどパワフルなソウル・バラード。サックスのフレーズにジングルベルが挿入されているあたり、クリスマス・ムード。ビデオがアニメ仕立てになっており、本人たちは出演してないけど、これがなかなか可愛くて、それでいてちょっぴりホラー・チック。



3. White Christmas 
 スタンダードをファンキーにアレンジしたナンバー。こういうサウンドって、どこか泥くさくって、スタックス系、Otis Reddingへの経緯が感じられる。だってこれ、オケだけ聴いてたらまんま”Shake”だもの。でも、それがよい。

4. Just Another Christmas Song 
 イントロから再びジングルベル。パーティも序盤を過ぎ、一旦小休止、歓談の時間。思い思いにオードブルをつまみながらシャンパンやワインに口をつけ、プレゼントの交換。タイトルとは裏腹に、親密なムードの漂うミドル・バラード。



5. Silent Night 
 再びスタンダード・ナンバー。こちらはちょっとブルース調でカバー。スローなリズムはチーク・タイムにピッタリ。遠くで微かに聴こえるベルがムードを盛り上げている。しかしこれでアナログ録音なのだから、恐ろしいテクニック。

6. Big Bulbs
 タイトルはクリスマス・ツリーの飾り付けに使うライトのこと。もともとはSaundra WilliamsとStarr Duncanから成る女性二人組Dapettesのナンバーで、彼女らもコーラスに参加している。こういった曲をきちんと探してこれること、そんなところにアメリカという国の奥の深さを感じさせる。

7. Please Come Home For Christmas
 もともとはブルース・シンガーCharles Brownが1961年にリリースしたナンバーのカバーだけど、Bon JoviやEaglesのカバー”ふたりのクリスマス”の方が有名。オリジナルに敬意を表したスロー・ブルースになっており、日本人好みのナンバーになっている。

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8. Funky Little Drummer Boy
 ひと昔前のキャバレーっぽいバックとコーラス。パラッパラッパーというフェイク、タメの効いたリズム、ほとんどコード移行もない、いわゆる大人のクリスマス。クリスマスも仕事で遅くなり、単身赴任などで家に帰れないお父さんたちが独り、盛り場で過ごす聖夜のひととき。そういった人たちにも、平等にクリスマスは訪れる。

9. Silver Bells 
 オリジナルはBing Crosbyによる1951年のコメディー映画『The Lemon Drop Kid』の挿入歌。Elvis Presley、Stevie Wonder、Barry Manilowなどカバーも多く、アメリカでは”クリスマス・イヴ”的ポジションの大有名曲。俺は知らなかったけど。
 アメリカのゴールデン・フィフティーズを象徴するような、ポジティヴ感満載の曲に理屈はいらない。ここではバックも手堅い演奏、妙なアドリブもほとんどなく、パーティのハウス・バンドに徹している。

10. World of Love 
 Dap-KingsのギタリストBinky Griptiteが2007年にリリースしたソロ・シングル。ここだけ彼がリードを取っており、普段はなかなかメインに出てこないながら、なかなか堂々とした正統派ソウル・バラード。ストリングスの使い方もスリリングかつ効果的。60年代末にリリースされたまま埋もれてた発掘レア・グルーヴ系ナンバーと言われても見分けがつかないくらいの仕上がり。褒め言葉だよ、言っとくけど。



11. God Rest Ye Merry Gents 
 パーティも終わり。蛍の光的クロージング・ナンバー。歌姫Sharonも袖に引っ込んでしまい、あとはバンドが閉店まで延々と、好き放題なアドリブをかましながらの自由なセッション。




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