133000363885513113353_ssbi_20120223222718 1987年リリース7枚目のアルバム。好セールスを記録した前作『天使たち』の勢いもあってオリコン初登場3位という、愛想もキャッチーさもないバンドにしてはかなりの好成績を収めた。ライブ中MCもなく、唯一最後にサンキュー、アンコールはなし。いま思えば相当の大物である。

 1987年といえば、レコードとCDとの出荷数がイーブンになった頃、なので音楽業界全体がメディアの世代交代の波に乗って、活況を呈していた。それと並行して、インディーズ・シーンで活動していたアーティストらが徐々に頭角を現してきており、ロキノンやパチパチを筆頭とした雑誌メディアも尻馬に乗って部数を増やしていた。
 空前のバンド・ブームが本格化するのはもう少し後なのだけど、この頃からライブハウスでの青田買いが始まり、ほぼ下積みも無しでいきなりデビューするバンドが相次いだ。その中には今でも第一線で活躍している者もいるけど、その他大多数は時代の徒花、アマチュアに毛が生えた程度の連中も少なくなかった。
 なので、大方の泡沫バンドは青春の1ページに黒歴史を残して時代に埋もれていった。

 実際にインディーズ・シーンを盛り上げたのは、宝島周辺のキャプテンやナゴム所属のアーティストが主だったのだけど、その現象をうまく商売に転化し、利益を生むシステムを作り上げたのがソニーである。80年代初頭から独自に行なっていたSDオーディションの開催によって、バンド・ブームの牽引役となるアーティストらを囲い込み育成し、来るべきブームに備えて下地作りを行なっていたのは、慧眼だったのか、それとも単なる偶然だったのか。どちらにしろ、当時のソニー・スタッフがめちゃめちゃ有能だったことに違いはない。

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 で、その本格的なブーム到来前から着実にファン層を広げていたスライダーズ、基本はStonesフォロワー的なステレオタイプのブルース・ロックだったのだけど、外部から招聘したプロデューサー佐久間正英によって、「スライダーズ・メジャー化計画」が行なわれていた。
 ベーシックなサウンドは残しながらも、DX7系のキラキラエフェクトやブラス・セクションを導入して、ライト・ユーザーの獲得を図った。素材剥き出しの無骨なサウンドを壊さない程度にマイルドなデコレーションを施し、「ちょっとワルでルーズなロックンロール・バンド像」というのは、バンド側としては本意じゃなかったかもしれないけど、甘いポップ・ロックに飽きた層には充分アピールできたんじゃないかと思う。

 サウンド面のイニシアチブを握るのは、多くの曲を書き、ヴォーカルも務めるハリーなのだけど、このアルバムではもう1人のギター担当である蘭丸の発言力が増している。佐久間のサウンド・デザインを積極的に吸収し、バンド・サウンドをその方向へ導いていったのは、彼の貢献が大きい。これまで消極的だった異ジャンルの導入、特にファンク・テイストのサウンドなんかは、蘭丸がいなければありえなかったわけで。
 当然ハリーはその辺無関心を装ってたのだけど、まぁ不貞腐れた顔をしながら「オーライベイベェ」なんて調子で、バンド・サウンドの活性化に付き合ったんじゃないかと思われる。リズム隊はまぁいつも通り。

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 そういったスライダーズのメジャー化は、デビュー当時からの古いファンには迎合路線と映り、賛否両論分かれたのだけど、サウンドのルーティン化を回避するためには、新しい血の導入は必然だったというのが、俺の見解。
 どのバンドでもそうだけど、ファンのニーズに応えることが使命感となって、拡大再生産のループにはまってしまうと、マンネリの末のいがみ合いか懐メロ化に陥ってしまう。
 どうしても彼ら、「和製ストーンズ」という枕詞で形容されがちだけど、和製ストーンズと称されたバンドはこれまでも多々あったわけで、しかもそのほとんどは短命である。イメージが固定化されてしまうと、柔軟な変化に対応できないのだ。
 で、そんなバンドの総本山であるStonesもまた、ただバカ正直に古典ブルースばかりやってたわけではなく、節目ごとに新メンバーの入れ替えやらファンクに傾倒したりディスコまがいの曲をやったり、オーバー・プロデュースとも言えるEDMバリバリのサウンドにまで手をつけた挙句、今世紀に入ってからやっと落ち着いたのか、原点回帰的なシンプルなロックンロールに帰属した次第。

 そもそもハリー自身はメジャー・デビューそのものに難色を示しており、「いつもの感じでいつものように、それでオッケーさベイベェ」って心の中で思いながら、マイペースなライブ活動さえ続けられればそれでよかったのだろうけど、SDオーディションへの出場を説得した蘭丸からすれば、それだけでは満足できなかったのだろう。
 その後のキャリアを見てもわかるように、「ラブラブあいしてる」から麗蘭まで、幅広いバイタリティーの持ち主である蘭丸、一番初めの課外活動が甲斐よしひろのソロ・プロジェクトであったように、何がなんでもロックンロールの人ではない。外の世界を見ることによって、中にいては見えてこないものも見えてくるはず。

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 で、そんな蘭丸を傍目で見て、ハリー自身にも心境の変化があったのか、それとも前から漠然と思ってはいたのか。
 この時代から、ハリーの書く詞の世界観が大きく広がりを見せることになる。
 まぁベーシックなロックンロールの基本フォーマットである、酒だ女だ暴力ばかりではネタも尽きるだろうし、違ったテーマを取り上げてみたくもなる。長く続けることによって、初めて見えてくることもあるのだ。
 ソニー系アーティストをわかりやすく皮肉った”Easy Action”や、シンプルに削ぎ落とされた言葉ながら、予想以上に詩情あふれる”風が強い日”など、ロックンロールにしては文学性の強い歌詞は、特に理屈っぽいロキノン周辺で絶賛された。ただのStonesのパクりじゃないことを表明した、真にオリジナルの傑作である。
 「シンプルなロックンロールをどう発展させてゆくのか」。
 Keith Richardsの名言だけど、それをすでに日本のロックンロール・バンドが実践していたのだ。

 ほんとはここからツアーも始まるはずだったのだけど、ズズの負傷によって予定がすべて白紙となり、スライダーズは活動休止を余儀なくされる。
 もしこのままツアーを行なってアルバム製作に入ったら、バンドのキャラクターからして、サイケデリック・ポップ寄りのサウンドに振り切れちゃうこともありえたかもしれない。そのテンションを鎮めるためなのか、ハリーと蘭丸はユニットJoy-Popsにて、スライダーズとはちょっと違ったアプローチのシングルを制作、うまくガス抜きが行なわれた。
不意のアクシデントが彼らにとってのクール・ダウンとなってリフレッシュできたため、その後の方向性がブレずに済んだことは、バンドとしても良い結果になった。


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1. ダイヤモンドをおくれよ
 ルーズなテンポのロックンロールからスタート。

  ダイヤモンドをおくれよ オレたちに
  くだけちった 昨日 引きかえに

 ライブ・ヴァージョンはスタジオよりテンポが速く、こちらの方が俺は好み。いつも思うことだけど、蘭丸、あんまり歌わない方がいいと思う。

2. ドント・ウォナ・ミス・ユー
 心なしかポジティヴなテイストのロックンロール。何しろハリーの声が明るい。サビでのハネ具合もちょっとカワイイ。

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3. イージー・アクション
 先行シングル・カットされた、話題作であり問題作。当時ブームとなったカリスマ系アーティストを思いっきりおちょくった歌詞が、ごく一部で物議を醸した。モデルとなったのが大友康平やら尾崎豊やらと言われているが、真偽は今も不明。
 とにかくどのフレーズも皮肉が効いてて、抜粋するのも難しいくらいだけど、ほんの一部だけ。ここが一番好き。

  世界を変えるなんて できない相談だぜ
  いつもトビキリ Rock’n’ Roll
  オレたちゃこれだけ

  鼻歌で Easy Action
  横目で Bye Bye
  悪いけど Easy Action
  かまわず やらせてもらうぜ

 スライダーズのPVはシンプルだけど珍しいアプローチのものも多く、特にこれは異色。ロック・バンドなのに演奏せず、ただスタジオ内でダベりながら飲んでるだけ。でも、それが普段着っぽくて良い。ハリーと蘭丸が談笑してる様、ジェームスが氣志團っぽい扮装でいるのを楽しむのも一興。



4. ベイビー、途方に暮れてるのさ
 本格的なレゲエ・ナンバー。当時の日本のロック・アーティストで、ここまで本格的なレゲエ・ビートを使ったバンドはあまりいなかった。モッズがちょっとやってたくらいで、メジャー・アーティストではほぼ皆無だったはず。この辺はClashの影響も多分ある。
 享楽的なカリビアン・レゲエではなく、陰鬱としたムード漂うジャマイカン・レゲエになっているのは、やはり硬派なロック・バンド。なので、歌詞も重く澱んでいる。
 突き抜ける空は青いはずなのに、ここだけはどんより雲が下りている。

5. 道
 気怠さの漂うダウナーなミドル・ナンバー。タイトル同様、一歩間違えれば演歌のようなメロディ・ラインが情緒的だけど、そこは80年代ソニー・サウンドのプロダクションによるクリアな音質がウェットさを和らげている。
 聴いていると、いつもジャックスを連想してしまう。彼らがハードなギターとリズムを手に入れたら、こんなサウンドを創っていたのかもしれない。

6. サンシャイン・アイ・エンジェル
 60年代UKサイケデリックを思わせる、蘭丸のソロ・ナンバー。賛否両論あるだろうけど、俺的には彼のソロ・ヴォーカルに興味はない。だって、甘いんだもん。

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7. ホールド・オン
 ソリッドで疾走感あふれるノリのよいロックンロール。キャッチーでありながら危うさも持ち合わせた、Stonesのエッセンスをうまく日本的にアレンジできたナンバー。スライダーズのパブリック・イメージをいい意味で凝縮しているので、ファンの間でも人気に高かった曲。Youtubeで見た、この曲から”Boys Junp the Midnight“へ繋がる流れには、鳥肌が立ってしまう。

8. Hyena
 アルバムも後半だというのに、アッパーなナンバーが続く。もっと曲順を前に置いてもよかったんじゃないかと思われるけど、まぁ今さら大きなお世話か。

9. ドント・ストップ・ザ・ビート
 ミドル・テンポのファンク・テイストなポップ・ナンバー。パワー・ポップなサウンドは大抵、もっと鍵盤系やブラス系やらを入れてゴチャゴチャし過ぎて音が汚れてしまいがちだけど、ここではリズム隊が頑張ってリードしているため、下品なひびきになっていない。サビも覚えやすいので、シングル・カットもされており、PVも作られている。相変わらずソニー系PV紹介番組『ez』の流れで制作されているため、変な方向に凝り過ぎたビジュアルになっている。ドーランを塗りたくったハリーの肌の質感が妙。



10. 風が強い日

  丘に登って 見渡していると
  ざわめいた街並 まるで嘘のようさ
  きっとみんな 自分だけの場所を
  守ることに 夢中なんだろう



 ラストを締めくくるのは、これまでの喧騒とは打って変わって、穏やかなスライドの調べ。ベース・ラインも丁寧にリズムを運ぶ。ハリーは相変わらずの酒灼けの喉だけど、なんかそれさえも緩やかな流れに乗って心地よく聴こえる。
 こういった世界観もありなんだな、とスライダーズに対して見方が変わってしまった、今でも大事に歌われているナンバー。




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