Folder 1985年リリース、バンドとして4枚目のアルバムだけど、これまでの3枚が6曲前後収録のミニ・アルバムだったため、フルとしてはこれが最初。バンド自身もここからが実質的なファースト・アルバムとして認識しており、ちょっと長めの助走だったことを述懐している。

 当時彼らが所属していたのが、ソニー内に設立された、あの後藤次利率いるFitzbeat。LPレコード、7インチ・シングルの価格がそれぞれ2,800円、700円だった時代に、今で言うブロックバスター的なコンセプトをブチ立て、アルバム1,500円シングル500円という低価格路線でスタートした。ソニーが抱えるロック/ポップス系アーティストを廉価で短いスパンで提供することを目的として、基本アルバムは6曲のミニ・アルバム仕様、シングルも片面のみという販売スタイルだった。
 これは当時、結構話題になり、当初はレーベル・オーナー後藤を始めとして、レベッカや聖飢魔IIも同様のスタイルでリリースしていたのだけど、その肝心の後藤が多忙を理由に早々と離脱してしまってから、初期コンセプトの破綻が始まる。もともとこういった形態のパッケージをアーティスト側が望んでいたわけではなく、今で言うマキシ・シングルが普及していない当時においては、やっぱり通常のフル・アルバムがスタンダードであり、取り敢えずメジャー契約にありつくために同意しただけ。ミニ・アルバムの速報性は評価できるけど、作り手側からすれば、やはり格落ち感は拭えないのだ。
 もともとバンド自体のポテンシャルが高かった聖飢魔II同様、レベッカもまたフル・アルバム志向へとシフトしてゆく。

goh-hotoda-nobuhisa-kawabe-rebecca-interview-2

 この時期のソニー手法というのが、いわゆる青田買いである。ライブハウスで活きのいいバンドを見つけると、すぐに担当ディレクターを仕向け、業界事情やバンド強化のアドバイスやらで徐々に囲い込み、ある程度モノになった時点で自社オーディションに参加させて入賞させ、箔をつける、というパターン。まぁどこのレコード会社でもやっていたことであり、今でも状況はそんなに変わっていない。
 当時のソニーはまだ設立して10年ちょっと、音楽出版事業としてはまだまだ基盤が脆弱で、他のメーカーと比べてドル箱アーティストは数えるほどしかいなかった。他社の売れっ子を引っ張って来れるほどのブランド・イメージも確立されていなかったため、自前で新人アーティストを育成していかなければならなかった。
 この辺の事情は、マガジン/サンデー創刊から大きく後れを取っていた少年ジャンプが、大御所ではなく、編集者が新人漫画家と二人三脚で作品づくりを行ない、のちの快進撃の下地となったストーリーと重なる部分がある。

 そのように手塩にかけた新人ミュージシャンをさらに成長させるため、自社主催イベントにまとめて参加させたり、先輩ミュージシャンのライブやレコーディングにコーラス要員として起用したり、または自社制作のPV紹介番組にブッキングしたりなど、のちのビーイング系やモーニング娘。系列にも応用された、自社内メディア・ミックスの先駆けとなったのが、このソニー商法だったんじゃないかと思う。

hqdefault

 マドンナ”Material Girl”のパクリと揶揄された3枚目のシングル“Love is Cash”のスマッシュ・ヒットによって、お茶の間レベルでも認知されるようになったレベッカ、初のフル・アルバムとして発売されたいのが、この『Maybe Tomorrow』。オリコン最高1位はもちろんのこと、年間チャートでも安全地帯、クワタ・バンドに次いで3位という、女性ヴォーカルの新人ロック・バンドとしては、初の快挙である。何しろ130万枚も売れたので、雨後の筍のごとくコピー・バンドが出現して、のちのバンド・ブームの礎になったくらいだから、そりゃあもう大騒ぎで。

 正直、初期3枚のミニ・アルバムは曲を寄せ集めただけの印象が強い。収録されている曲も、なんかひとつ物足りない感じで、いかにもディレクターの指示に沿って作りました感が漂っている。もともとライブ活動中心だったレベッカ、レコーディング作業に不慣れな部分もあって、細かな詰めなどは、どうしてもスタッフへ委ねる部分が多かったのだろう。
 なので、俺もこの辺の作品は一回サラッと聴いた程度で、あまり印象に残ってない。もう二度三度聴く気になれないというのはつまり、その程度のクオリティという事である。
 それがこのアルバムからは、大きく雰囲気が変わる。サウンドの感触、音のボトムがグッと下がり、シンセ・サウンド中心だったチャラついたテイストから一転、リズム・セクションを前面に押し出すことによって、ハード・ロック的なテイストとファンクのグルーヴ・エッセンスが投入され、本格的なバンド・サウンドを志向するようになってきている。
 直近のシングル”Love is Cash”から較べると、この大胆なモデル・チェンジは、結構ギャンブルだったんじゃないかと思う。普通なら、次のシングルやアルバムもこの路線を踏襲して、ヤマハDX7使いまくりのチャラいガールズ・ポップ路線を続ける方が、短期的な戦略としては常道だったはず。しかしバンド側も、そしてスタッフ・サイドももっと長期的な視点で考えていたのか、敢えて流行に流されることのない、長期的なビジョンを見据えたサウンド作りを行なっている。
Z322019148

 当時から演奏力構成力に定評のあったレベッカは、1980年代のUKニュー・ウェイヴ〜ポスト・パンクの流れにも通ずる、重厚なサウンドとテーマを持ってレコーディングに挑み、ソニーというレーベル・カラーとマッチさせることによって、ポピュラリティーもキープしたアルバムを創り上げた。

 当時はソニーのアーティスト全体のレベルも高かったため、レベッカだけが突出していたわけじゃないけど、後年聴き直してみても、そのサウンド・デザインは今でも充分通用するレベルに仕上がっている。
 こういったバンドが日々量産され、クオリティはもちろんのこと、商業性もきちんと考慮された作品が続々輩出されていた、それこそがソニーの全盛期、80年代である。

 実のところ、俺がこのアルバムを手に入れたのはずっと後のことだけど、どの曲もみんな覚えているという不思議。そう、レベッカのこのアルバムは、友達の家に行けば高確率で誰かが持っている、わざわざ自分で買わなくてもよいアルバムだった。
 収録曲である”フレンズ”は、今でもカラオケの定番だし、高校の文化祭のコピバンでレベッカを歌った同世代女子も多い。実際の数字上に表れたセールス・データ以上に、特にピン・ポイントで40代以上には凄まじい影響力のあったアルバムであり、バンドである。



1. Hot Spice
 発売時のキャッチ・コピーが「明日へ飛翔しつづけるレベッカの最新超強力アルバム!!」というもので、リーディング・トラックとしてはピッタリのナンバー。ノリが良く、歌詞は特別内容もなし。だけど、それがいい。意味なんてあるもんか。
 ゲート・エコーの効いたドラムとサンプリング・ヴォイスのコンビネーション、ファンクとロックをうまく融合させたギター・カッティングなど、演奏陣の聴きどころも多い。

2. プライベイト・ヒロイン
 改めて聴いてみると、Nokkoのヴォーカル・テクニックに驚かされる。適所にビブラートを利かせ、緩急を使い分けた表現は、やはり天性のディーヴァだったのだろう。ただ音程が取れてるだとか声質が良いというのではなく、サウンドに応じた声色を選べるだけの幅があるというのは、ポテンシャルの高さという他にない。それを的確にバッキングする演奏陣も抜群の安定感。

 “Tonight 悲しみはプライベイト ひとりで踊ってる
  つよがりな ヒロインなの“

かつて日本のガールズ・ロックはアバズレ感が強く、またはエキセントリックなサブカル系の女子など、大多数の普通の女の子とは乖離した場所で鳴っていたのだけど、レベッカ以降、等身大の女の子がちょっぴり背伸びした範囲の歌詞を歌うアーティストが増えた。こういったのは、80年代ソニーの功績のひとつ。



3. Cotton Time
 UKニュー・ウェイヴの香りが強く漂う、イントロだけ聴いてるとDuran Duranのようなサウンドを、この時代の日本のバンドで表現できるのはレベッカだけだった。いやもちろん、もっと先鋭的なアーティストはいたのだけれど、きちんと大メジャーのソニーの設備と予算を使うことによって、海外と同じクオリティにできたのは、やはりバンドの基礎体力の違い。頭でっかちな理屈だけじゃできないのだ。
 メロウなサウンドとシックなメロディ・ライン、そしてNokkoのウェットになり過ぎないヴォーカル。

 “Three Step Cotton Time
  明日になれば またつらいことの繰り返し
  Four Step Cotton Time
  やさしい このひと時を 夜よどうぞ奪わないで“
  
 案外ネガティヴな歌詞だったことに気づかされる。ここはやはりバブルに浮かれる前の日本、70年代の延長線上だった80年代中期を象徴している。

4. 76th Star
 ちょうどハレー彗星が話題になった頃だったので、それにからめた歌詞が時代性を感じさせる。
 リズム・セクションも音自体はアウト・オブ・デイトなのだけど、基本的なリズムがしっかりしているので、今でも充分通用する。しかしボトムが低いサウンドだよな。

original

5. 光と影の誘惑 (Instrumental)
 UKポスト・パンクの流れを汲んだ、演奏陣によるナンバー。こういったナンバーをきちんとポップ・アルバムの流れに組み込めること、それはやはりきちんとしたサウンド・コンセプトに則ったもの、と考えたいのだけど、まさか時間が足りなくてヴォーカルを入れられなかった、ってわけじゃないよね?

6. ボトムライン
 ファンキーさを強調したCindy Lauperといった感じ。シングル・カットはされていないのだけれど、ライブでもよく演奏されていたため、ファン以外にも認知の高い曲。ダンス・ナンバーとしても優秀。



7. ガールズ ブラボー!
 ファンキーさとロック・テイスト、それでいて切ないポップ・メロディも内包した、きちんとしたプロによるナンバー。こういった凝った作りのサウンドを量産していたソニーのパワーも然ることながら、ハード・スケジュールの中、緻密なアンサンブルを構築した演奏陣も高いレベルの仕事をしている。
 ちなみに先日のMステ出演時、過去の出演シーンでNokkoが「バンドが自分たちの演奏を覚えてなくて、レコードを聴き直してライブの練習をしてる」と愚痴っていた。もしかしたらやっつけ仕事的なものもあったのかもしれないけど、できあがった音にそんな気配は感じられない。

8. フレンズ
 オリコン最高3位、年間チャートでも30位。しかも、14年後にドラマ『リップスティック』の主題歌として再リリースされた際も、オリコン最高6位まで上昇している。あのCDバブルの90年代にベスト10入りしているのだから、それだけ求心力の高い、恐ろしいパワーを秘めた曲。
 前述したように、あのチャラい”Love is Cash”の後にリリースされたシングルである。このモデル・チェンジは衝撃的だったことをリアルタイムで覚えている。

 “口づけを 交わした日は
  ママの顔さえも 見れなかった
  ポケットのコイン 集めて
  ひとつずつ 夢を数えたね“

 この友達が男の子なのか、それとも女の子なのか。どちらとも取れる、切ないティーンエイジャーの心の揺らぎを活写した歌詞。めちゃめちゃ大ヒットしながらも、決して使い古されることのない、永遠のエヴァーグリーンな時間。



9. London Boy
 シャッフル・ビートと"Be My Baby"のリズムをうまくクロスさせた、親しみのあるロッカ・バラード。結構複雑なリズム・パターンなのだけど、そこをサラッと歌いこなすNokkoだけど、もしかすると、こんな歌いづらいトラックにしやがって、と内心ムッとしてたかもしれない。

10. Maybe Tomorrow
 “Flashdance”と同じ音色のオープニングながら、壮大なスケールを感じさせる正統派バラード。

 “だけど明日は きっといいこと
  あると信じてたいの Maybe Tomorrow”

 このナンバーに象徴されるように、ソニー系のアーティストは総じてネガティヴな一面を持っており、単純な人生応援歌的な曲ばかり歌っているわけではないことに気づかされる。
「いいことあるさ」じゃなく、「いいことあることを信じていたい」と言い切ってしまう弱さをさらけ出してしまう勇気。
 元気100%のレベッカだけでなく、ちょっと切ない面も持ち合わせていること。
 リアルタイム世代がレベッカに魅かれる理由が、ここにある。



REBECCA IV~Maybe Tomorrow~
REBECCA IV~Maybe Tomorrow~
posted with amazlet at 15.09.26
レベッカ
ソニー・ミュージックダイレクト (2013-02-20)
売り上げランキング: 492
REBECCA: Super Hits
REBECCA: Super Hits
posted with amazlet at 15.09.26
REBECCA
Sony Music Direct (Japan) Inc. (2012-09-01)
売り上げランキング: 6,360
REBECCA LIVE'85~Maybe Tomorrow Tour~
レベッカ
ソニー・ミュージックダイレクト (2013-07-17)
売り上げランキング: 6,853