1979年にリリースされた、Joe Jacksonのデビュー・アルバム。この手のストレートなロックン・ロールには固定的なファンがついているらしく、デビューにもかかわらずそこそこの売り上げ、UKでは最高40位まで上がっている。 上がっているのだけれど、実はそれ以上に、アメリカではなんとビルボード最高20位まで上がっている。単純に両国人口比率で考えると、ほぼ4倍の開きがあり、しかも順位的にも倍なので、8倍の開き。ちょっと単純すぎる計算だけど、当初よりイギリスよりアメリカで好評を得たことは間違いない。
1979年デビュー当時のツアー・データがファン・サイトで公開されているのだけれど、推移を見てみると、最初こそ地元イギリスを中心に回っているけど、この年の後半ではアメリカ・カナダが中心となっており、その成果が実を結んだのか、その年の内にアメリカでゴールド・ディスク(売り上げ50万枚以上)を獲得している。
(当時から)髪も薄くて男臭くてムサ苦しいメンツのUKパンク・ロッカーとしては、大成功の部類に入るんじゃないかと思う。キャリアのスタートからアメリカで好セールスを記録したという点と、シンプルなロックンロール・サウンドという共通項から、当初はElvis Costelloとセットで紹介されることが多かった。
以前も書いたようにこの人、もともとは根っからのロック/パンクの人ではなく、Royal Academy of Musicという、王立の由緒正しき音楽アカデミーにて、きちんとクラシックを中心とした音楽理論を学んできた人であり、本来ならポピュラー音楽畑の人ではない。クラシック業界から挫折した末にこちら側へやってきた、意に沿わない形でのデビューであり、当時の本人の心境としては、なかなか複雑だったんじゃないかと思われ。
ほんとは高度な作曲理論を習得していたり、プレイヤーとしても演奏スキルがめちゃめちゃ高いにもかかわらず、敢えてそれを封印してレベルを落とし、パンク~ニューウェイヴ・ムーヴメントの勢いに乗ってデビューしたというのは、Policeとも共通している。
そういえば、どちらも所属レーベルは同じA&M、何かと共通項の多い人である。
デビュー・アルバムとは、そのアーティストの今後の方向性がすべて詰まっている羅針盤のようなもの、とよくたとえられるけど、特にJoeの場合、ここに収録されているほぼ半数の曲が、今でもライブの定番レパートリーであり、結果代表曲となっているものも多い。
特に3枚目『Beat Crazy』までは名曲のオンパレードであり、ここまでのラインナップだけで充分ライブが成立してしまうというのも、スゴイ話。アンコールにチョロっと”Stepping Out”でも歌っておけば完璧だ。
別にデビュー当時から成長していないわけではない。
この後Joeは『Beat Crazy』まででストレートなロック・ナンバーを一旦究め、その後はジャズやらラテンやら現代音楽やらを交えた、Joe独自のジャンルレスな音楽を形作ってゆく。それはそれで好評なのだけど、古くからのファンから見れば、ライブの締めやアンコールでは、やっぱり拳を振り上げて”One More Time”がサイコー、というノリになってしまうのだ。
近年のライブはロック・バンド・スタイルではなく、ピアノ・トリオ編成が多いこと、またJoe自身の体力的な問題もあって、初っ端からトバシまくり、オール・スタンディングとはいかないけれど、興が乗るに連れて、鍵盤を叩きつけ唾を飛ばしまくって熱唱するJoeのテンションは、昔から変わってない。
アルバムごとに変遷しまくる音楽性のため、一言ではカテゴライズしにくい人なのだけど、一応このアルバムと2枚目までは、ほぼセットと言って良いほど音楽性が似ており、パンク/ニュー・ウェイヴ系のサウンドとして分類されている。まぁ俺個人としてはむしろ、パンクの前にちょっとだけ盛り上がったパブ・ロック系だと思うのだけれど。
ヴォーカル/ピアノ、ギター、ベース、ドラムという4ピース、ロック・バンドとしての基本、必要最低限のメンバーのみでサウンドは作られており、余計なエフェクト成分が入っていないことが、時代性を超えて通用する音なので、逆にいつまでも古びた感じがないことが、この時期の魅力なんじゃないかと思う。
時代を象徴する、これ見よがしなモノ・シンセの音色、もう少し歴史を下ると80年代特有のゲート・エコーや、残響音をカットしたバス・ドラなどが出てくるのだけれど、そういった最新鋭のサウンドやトレンドには、昔から関心を持たない人である。このような一貫したサウンド・ポリシーが、ミュージシャンとして、そしてそれ以上に真摯な音楽家としての矜持の正しさが感じられる。
小手先でいじくり回した音色にこだわるのではなく、きちんとした楽曲を、きちんとした演奏で再現すること。
そのためには、バンド・アンサンブルを緻密に構成したり、有名無名を問わず、腕の良いミュージシャンと組む、リハーサルは入念に、ライブではいつも真剣勝負、現場での鍛錬によって、さらに演奏・作曲スキルは向上してゆく。
書いてみれば至極当たり前のことなのだけど、当たり前のことに精力を傾けることは、何においても大事なことだ。
デビュー当時の時代背景としては、やはりパンクの全盛期、既成概念にとらわれた旧来のロックを否定・破壊行動に向かったと思われているけど、ファッション的な要素を抜きにして、純粋に音楽的な意義で考えると、正確には原点回帰というニュアンスの方が近い。
プログレに代表される、冗長で高尚なものになってしまった音楽ビジネスを一旦リセットし、シンプルでコンパクトなロックンロールへのリスペクトというのが、パンク・ムーヴメントの音楽的な成果である。
そういった現状への不満から、ロンドンの街角レベルで芽吹いたのがパブ・ロック・ムーヴメントであり、それをもっとスキャンダラスに、そして大々的に展開したのが、パンク・ロックの勃興という次第。
で、Joe Jackson、若いうちはメイン・ストリートの音楽をアカデミックな環境で学んでいたため、いわゆるスタンダードな音楽への造詣は深い。深いがゆえ、特に対極的な価値観のもの、先人によってほぼ完成され尽くされたクラシック漬けの人間が、既成概念の破壊をテーマとしたパンクと出会ってしまった場合、どうなるのか。
強力な拒否反応を示すか、またはそのインパクトに当てられて深みにはまり込むか。その対極の差が広ければ広いほど、比例してその振れ幅も強くなる。
てっとり早くメジャー・デビューするため、敢えて戦略的にシンプルなロックンロールを選択した、という見方も出来るけど、そうは言っても人間、まったく興味のない事をし続けられるようにはできていない。やりたくないことをやり続けても、どこかにガタがでるか、それともボロが出るかのどちらか。
なので、まったく下心がなかったわけじゃないけど、それなりにリスペクトはしていた、と考える方が自然である。
1. One More Time
オープニングは渋めのロックンロール。バックは基本の3ピースなのだけど、驚きなのは、どのパートもサウンドに埋もれず、しっかりディティールが判別できること。デビューしたてのバンドなので、レコーディングにそれほど時間をかけられたわけでもない。
これはもともとの演奏力、楽器のポテンシャルを最大限に引き出せるテクニック、から来るもの。いくら録音技術が良くたって、下手くそなら意味がない。既にそれだけのスキルを積み上げていたのだ。
ちなみに、このアルバムからシングル・カットされた3枚目のトラックである。USカレッジ・チャートでは最高17位。
2. Sunday Papers
引き続き、今でもライブではほぼ定番となっているナンバー。すでにレゲエ・ビートを導入しており、やはり他のパンク・バンドとの差別化が図られている。昔から語られているけど、やはりこのバンドの要はGraham Mabyである。とにかく手数が多いのにうるさくなく、しかも適切なフレージングで曲をリードする。終盤でテンポ・アップしてパーティ・ソングっぽくなるのはご愛嬌。
ちなみにこれは2枚目のシングル。USカレッジ・チャートでは最高20位、イギリスのデータは見つからなかった。それだけアメリカ主導で人気が出たのだろう。
3. Is She Really Going Out with Him?
三たびライブの必須アイテム・ナンバー。これはJoeもかなりのお気に入りらしく、後年の『Live 1980-86』では様々なヴァージョン違いで3トラック収録しているくらいの別格扱い。この曲も様々なアレンジによって、長年親しまれているけど、この初期ヴァージョンが一番、というファンも多い。
前曲同様、レゲエ・ビートが一部導入されていることも、エキゾチックなアレンジに一花添えている。
これがデビュー・シングルであり、アルバム先行という形でリリースされた。UK13位でも充分スゴイのだけれど、アメリカではビルボード総合でなんと21位にチャート・インしている。そりゃ思い入れもあるよな、きっと。
4. Happy Loving Couples
ちょっとモッズ・ビートの入ったビート・ロック。やっぱりベースだよな、この曲も。ここまでハードな質感のナンバーが続いたけど、ここで少しペース・ダウン。当時のJoeにしてはポップなメロディの、親しみやすい曲。
5. Throw It Away
前曲が突然カット・アップされ、間髪入れず、Joeのカウントで始まる、疾走感溢れるドライヴ・ナンバー。一番パンクっぽいのが。多分この曲。Joeもここでは本腰を入れ、ピアノを弾きまくり、エコーまでかけている。中盤でのシャウトはどこか”Beat Crazy”を連想させる。
ここはギターのGary Sanfordが頑張ってリフを弾きまくっている。
6. Baby Stick Around
ここからB面スタート。
こちらも性急な8ビートで、やはりライブの定番。盛り上がること必至である、ロカビリー成分もちょっぴり入った、暴力的なビートながら、覚えやすいメロディーが人気の高いナンバー。
7. Look Sharp!
俺的にはDr. Feelgoodを連想させる、ステージで練り上げられたように演奏し慣れた体も感じとれるトラック。これも定番だよな、ブートでよく聴いてたし。
ここでのバンドは比較的クール。リズムも走ることなく、スクエアなリズムをキープしている。はっちゃけるのはやっぱり、いつもJoe である。
8. Fools in Love
こんなにレゲエばっかり入ってたっけ?というのが正直な感想。
Policeもそうだけど、Joeもまた、当時のレゲエに溢れていたシリアスな部分、じっとりした冷や汗のようなサウンドを展開している。これも定番であり、名曲。
USカレッジ・チャートでは9位まで上昇。こんなハードなサウンドがウケてしまうのが、アメリカという市場の大きさ、懐の深さである。
9. (Do the) Instant Mash
これはJoeにしては珍しく、ロックン・ロールではなく、普通のロック。Garyによるオーソドックスなギター・リフが、それを象徴している。中盤でのJoeのハープがまた、中途半端なブルースを演じている。この人の場合、あまりブルースは似合わないし、こういったサウンドなら、Dr. Feelgoodの方がずっとうまい。
10. Pretty Girls
これも何だかな、普通のロックかな。アルバム制作のためにかき集めたのか、それともサウンドの幅を持たせるため、敢えてこういったベタな曲にも手を出したのか。まぁいいんだけど、俺的にはそれほど印象に残ってなかった曲。
11. Got the Time
冒頭のベース・ソロがおどろおどろしさを醸し出し、ヴォーカルも何かにせっつかれるような、テンポの速い曲である。一番わかりやすいフォーマットのパンク・ロックである。これも定番なんだよな、ライブの。特にこの曲、パートごとの見せ場がうまく設定されている曲なので、メンバー紹介に使われることも多い。
USカレッジ・チャートでは11位まで上昇。
デビューから『Beat Crazy』までは、ほぼブレることもなく、この路線を邁進してゆくのだけれど、しばらくすると他のジャンルに色目を使い始めるのは、これまたアーティストとしては致し方ないこと。ジャズやラテンなど、ポピュラー音楽の枠組みで貪欲に吸収しているうちはいいものの、時代を追うに連れて、バックボーンであるクラシックや現代音楽にも足を突っ込むようになる。
そうなると音楽性と商業性との緩やかな乖離が進行し始め、下降してゆくセールスと共にJoeの精神状態も思わしくなくなり、遂には90年代に入ってからの活動は地味になって行く。
そうなると音楽性と商業性との緩やかな乖離が進行し始め、下降してゆくセールスと共にJoeの精神状態も思わしくなくなり、遂には90年代に入ってからの活動は地味になって行く。
この時代はまだそんなことも頭にない、純度100パーセントの純粋なロックンロールである。
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