1992年にリリースされ、『Oranges & Lemons』に続いてUK28位、ビルボード総合チャートでも28位にランク・イン、セールス的には彼ら最大のヒット作となったアルバム。特にここ日本においては、レコード会社主導で雑誌メディアを巻き込んだ「XTC来て来てキャンペーン」が大々的に実施され、大いに盛り上がった。 あまりの日本のファンの熱心さに、皮肉屋Andyもさすがに心を動かされたのか、遂には単独来日を果たすに至る。至ったのだけど、文字通り単独での来日のため、ライブは行なわれず、ちょっとしたトーク・ショーとサイン会が催されただけで、複雑な心境のファンも多かったはず。
そんな中途半端だったら最初っから来んなっ、と胸中をくすぶらせたファンも多かったんじゃないかと思われるのだけれど、そこをグッと呑み込んで口に出さないのが日本人の特性である。黒船襲来のご時世から、異国の人間に対しては、取り敢えずへり下ってしまうことが、DNAレベルで刷り込まれてしまっている。
そんな日本人の真意を汲み取ってくれればよかったのだけれど、侘び寂びなんて感情とは無縁の英国人、「こんなマイペースな僕でも受け入れてくれるんだ♡」とポジティヴに受け止めてしまうのが、まためんどくさい男である。
長い間まともにライブを行なわず、特別キャラの立ったメンバーがいるわけでもない。だけど変態ポップ・センスに魅かれるニッチなファンたちに支えられて、まぁ次のレコーディング契約が継続できる程度には収益をもたらしていたXTC。にもかかわらず、当時の所属レーベルVirginとの関係は、日に日に悪化していった。
そしてこのアルバムのレコーディング〜プロモーション期間中、両者の決裂はもはや修復不可能となり、結局メジャーとしてはこれが最後のオリジナル・アルバムとなってしまった。
そしてこのアルバムのレコーディング〜プロモーション期間中、両者の決裂はもはや修復不可能となり、結局メジャーとしてはこれが最後のオリジナル・アルバムとなってしまった。
離合集散が頻繁なニュー・ウェイブ系のバンドが多い中、XTCは、細かなメンバー・チェンジはあれど主力メンバーはほぼ一定しており、よって歴代のアルバムの完成度も安定していた。ヒット・チャートの常連ではなかったけど、日本やEU諸国においては、そこそこの知名度を保っていた。
アメリカ進出が遅れたおかげで総合チャートのアクションは地味だったけど、ラジオが中心となるカレッジ・チャートでは、”Dear God”のヒットが引き金となって、以来そこそこの実績を維持していた。
アメリカ進出が遅れたおかげで総合チャートのアクションは地味だったけど、ラジオが中心となるカレッジ・チャートでは、”Dear God”のヒットが引き金となって、以来そこそこの実績を維持していた。
なのに、Virginにおける彼らのポジションはいまだ不安定なものであり、キャリアや実績に見合うほどの待遇を受けることはできなかった。
Andy曰く、アーティスト契約がバンドにとって、めちゃめちゃ不利なものだった、悪徳マネージャーによって搾取されまくった、とのこと。『Skylarking』のレビューでも書いたのだけど、歴代プロデューサーとの衝突も多く、Todd Rundgrenとの衝突は今でも語り草になっており、あまりに互いが互いを罵倒しまくった挙句、今では2人とも定番の持ちネタとして、何かにつけエピソードを披露しまくる事態となっている。インタビューの度にいつもネタ振りされるので、近年では、そのトークに一層磨きがかかっている。
実際『Nonsuch』においても、大御所プロデューサーGus Dudgeonと衝突を起こしている。ミックス・ダウン作業のイニシアチブをどちらが握るかについて意見が分かれ、最終的には完パケ寸前にGus 解雇という、なんとも後味の悪い結末に終わっている。
Gusとしてはレーベルの意向に沿って、売れ線重視のコンテンポラリーな仕上がりをシミュレートしていたのだろうけど、あくまで自分の感性にこだわるAndyとしては、最終段階で他人の手によって、手塩にかけた作品が自分の意に沿わない方向へ歪められるのを、黙って見ているわけにはいかなかったのだろう。 まぁ自意識の強いアーティストなら、当然なのだろうけど。
Gusとしてはレーベルの意向に沿って、売れ線重視のコンテンポラリーな仕上がりをシミュレートしていたのだろうけど、あくまで自分の感性にこだわるAndyとしては、最終段階で他人の手によって、手塩にかけた作品が自分の意に沿わない方向へ歪められるのを、黙って見ているわけにはいかなかったのだろう。 まぁ自意識の強いアーティストなら、当然なのだろうけど。
以前からの疑問、XTC、まぁ主にAndyなのだけど、彼とVirginとはなかなか方向性が合わず、契約解消まで終始平行線だった、という見解になっている。ただしピックアップされているのは、ほぼAndyサイドの発言ばかり、Virginの言い分はほぼ聞いたことがない。概ねAndyの主張通りなのか、それともVirgin側の「金持ちケンカせず」の余裕っぷりなのか―。
どちらにしろ、互いの意見を聞いてみない限りは、一方の主張ばかりに肩入れするのも、大人としてはなんだかね、という気になってしまう。
どちらにしろ、互いの意見を聞いてみない限りは、一方の主張ばかりに肩入れするのも、大人としてはなんだかね、という気になってしまう。
じゃあ、他のVirgin所属アーティストはどうだったのかといえば、Andyほど過剰に反応する者は、あまり聞いたことがない。XTCを除いたすべてのアーティストの契約条件が良かったのかといえば、それも考えづらいし、他のアーティストが「資本主義の犬」としてすっごく従順だったり、またはアーティスト契約条項にもの凄く秀でたビジネス・パーソンばかりだったのかといえば、それももっと考えづらい。
典型的な英国病を患っているAndyの場合、その都度、仮想敵という存在を設定しておかないと、表現意欲の維持がままならなかった面もある。そんなとばっちりを受け入れたのが、一アーティストのいちゃもん程度では揺るぐことのない、磐石とした会社組織Virginである、という対立構造。
適度なストレスは人を成長させる。ある意味、そんなネガティヴなパワーが彼らの創作意欲を掻き立てていた側面もあるんじゃないかと思われ。
そして現在、自主レーベル運営によって、悠々自適とまではいかないまでも、マイペースな活動ぶりのAndy。かつての盟友DaveもColinも去ってしまって今は独り、メンバーやレコード会社との衝突からも解放され、ストレスとは無縁の生活を送っているのだけれど、それに比例した作品のつまらなさと言ったら、そりゃあもう。いつまでもアーカイブものばっかやってんじゃねぇよ、とまで言いたくなってしまう。
『Nonsuch』まとめ作業に伴うライナー・ノーツやインタビューにおいて、いまだAndyはブツクサ言っているようだけど、ライブ演奏を前提としない、密室空間で練り上げられたポップ・ソング集にしては、バンドとしての躍動感がある。曲順構成もしっかりしており、後に小出しに勿体ぶってリリースされた『Apple Venus』シリーズよりも、ずっと高い完成度で仕上がっている。
多分Andyは絶対認めたがらないだろうけど、手練れのプロデューサーGusによる初期段階の仕切り、アイディア提供やコンセプト設定の賜物だろう。ただ好きなようにダラダラ作詞・作曲して、ただ思いのまま独りよがりにレコーディングして、他人の忠告に耳を貸さずにミックス・ダウンしているだけでは、こういった出来栄えにはならない。
商品として売ってゆくためには、明確なユーザー像とニーズを想定しておかないと、ただの自己満足でしかないのだ。
商品として売ってゆくためには、明確なユーザー像とニーズを想定しておかないと、ただの自己満足でしかないのだ。
1. The Ballad of Peter Pumpkinhead
「まぬけなピーターのバラッド」。直訳したタイトルからは想像もつかない、この頃のXTCとしてはソリッドでストレートなロック。相変わらず歌詞は暗喩や言葉遊びを交えた多重構造なので、いちいち解釈を加えると、はっきり言ってめんどくさい。Peterというのが誰なのか、昔の宗教家なのか政治家なのか、いろいろな受け取り方はあるけど、どちらにしろ大した意味はない。
一流のポップ職人として、緻密なガラス細工のような小品ばかりを量産していたAndyだったけど、ここではノリ一発のロックン・ロールをシミュレートして、完璧なパワー・ポップ・ソングを作り出した。やればできるじゃん。
Stonesのようなギター・リフのオープニング、本人曰く、Mick Jaggerを揶揄したようなハープなど、聴きどころは満載だけど、XTCだけあって小技もいろいろ効かせており、俺的にお気に入りなのは、ほんと終盤のBeach Boysのようなコーラス。
セカンド・シングルとしてカットされ、UKでは最高71位だったけど、アメリカのModern Rock Tracksチャートでは、なんと1位を獲得。一聴すると普通のスタジアム・ロックに聴こえるけど、普通のアメリカ人はスタジアム・ロックの要素をわざわざXTCに求めたりはしない。アメリカにもなかなかめんどくさい奴が多かったらしく、「あのXTCが普通のスタジアム・ロックをやった」ということで興味を示したのだろう。当時のアメリカ人にもサブカルかぶれ、中二病的な者も多かったと思われる。
2. My Bird Performs
Colin担当のトラック。比較的オーソドックスなポップス。少なくともロックの文脈で語れるようなメロディや歌詞ではない。昔のA&M的ソフト・ロック・サウンドを目指しているのだろうけど、それをXTCに求めるのは、何か違うんじゃないかと思う。ただソフトに流れ過ぎてしまうサウンドを、ちょっと武骨な響きのギターがうまく全体を締めている。
3. Dear Madam Barnum
メロディとコーラスがちょっとサイケっぽくなっている、ポップ寄りのロックはAndy作。『Skylarking』に入っててもしっくり来そうだけど、ここではもう少しリズムが立って、疾走感が出ている。
4. Humble Daisy
Beach Boys、ていうか『Pet Sounds』期のBryan Wilsonのデモ・テープを発掘して現代風に蘇らせたような印象。ちょっとミスマッチなドゥー・ワップ風のコーラスなども、ちょっとアバンギャルド。趣味的な小品だけど、俺は昔から結構気に入っている。
5. The Smartest Monkeys
Colin作、ちょっと怪しげな雰囲気の漂うゴシック・ロック。それにしても不思議なのは彼のメロディ・ライン。普通の定番コード進行とは外れたところで音が構成されているため、何というかメロディの「揺れ」のようなものが感じられる。ふわふわして揺れ動き、音符の終着点が凄く曖昧なままに終わる印象が強い。
そこが独特の浮遊感を演出しており、なので地味だけどColinのファンも多い。純粋なポップ・ソングの作り手としては、Andyよりも勝る部分も多い。
6. The Disappointed
すごくモダンなサウンド、キャッチーなアレンジ、かなり気を使って録られたAndyのヴォーカル。なのに、歌詞は「失望」について。これぞまさしく英国人、してやったりである。
一応、アルバムのリードとして最初にシングル・カットされてるけど、UK最高33位。Stephen LillywhiteがBeach Boysをプロデュースしたようなサウンドは、英国人にはイマイチ受けなかった。
7. Holly Up on Poppy
“Dear God”をもう少しメジャー・コードに展開したようなフォーク・ロック。Andyの弾くアコギはなかなかいい響きなので、地味だけど味わいのある一品。でもこれって、やっぱGusのアイディアなのかな、きっと。
8. Crocodile
XTC流パワー・ポップのお手本的作品。軽快なエレキのアルペジオ、いい感じに軽快に響くバスドラ、ロック・サウンドなのに統率のとれたコーラス。でも、テーマは鰐。
このタイプの曲がもう2,3曲入っていれば、もう少しVirginとしても力を入れやすかったろうし、アルバムのフックとして、まとまった力になっていただろう。でも、それをしないのがXTCでもある。
9. Rook
タイトルに反して、彼らとしてはこれも珍しくドラマティックなバラード。荘厳としたストリングスはAndyのアレンジ。アルバムのバラエティを考えると、こういった曲もあって良かったんじゃないかと思えるけど、この後に控えている『Apple Venus』シリーズの前哨戦的サウンドとして捉えると、ちょっと複雑。これを全編でやられてもちょっと、って感じだし、第一誰もXTCにはそれ求めてないし。
10. Omnibus
よく聴くとリズムがラテン。まさかXTCでラテンなんて、と思ってしまうけど、まぁこれもアルバムの一曲として、アリッちゃアリ。どちらかといえばリズム主体の曲なので、Andyの曲なのに、ついつい耳が行ってしまうのはColinのベース・ライン。やはりソングライターの弾くベースだけあって、メロディアスかつリズムのリードもしっかりしている。
11. That Wave
ちょっとダウナーなゴシック・ポップといった趣き。この曲もAndy作なのに、ベースがうまい感じで重心の低さを演出している。こういったテイストの曲はギターの歪みが目立つものなのに、あいにくAndyもDaveも音が軽く性急な運指によって、重厚さがしっかり出ていない。
やはりこのバンド、Colinの存在は大きかったことがわかる。曲は軽いのに、ベースは重いという、珍しいタイプのプレイヤーである。
12. Then She Appeared
ややカントリー・タッチの、やはり”Dear God”タイプのフォーク・ロック。あそこまで重苦しくないのは、Beach Boys風のコーラスがうまく中和してることによる作用。
13. War Dance
久しぶりにColin作が登場。オープニングが怪しげなスパイ映画のような、木管楽器の音色から始まる。
ブリティッシュの風味が漂う曲、というのが俺の印象。午後の芝生の上でお茶を楽しみながら、社交界の動向や噂話に興じる紳士たち。低く垂れこめる雨雲は黒く、今にも振り出してきそうな気配だ。
14. Wrapped in Grey
一度はシングル・カット候補になりかけたけど、Virginの独断によってそれがボツとなり、契約解消の導火線となった曲。基本Beach Boysサウンドの踏襲なのだけど、色々な暗喩やダブル・ミーニングを内包した歌詞世界は、ちょっと抽象的かつAndyの人生哲学も孕んでいるため、ちょっと高尚なイメージが強い。
ただサウンドだけに耳を傾ければ、良質のポップ・ソングであることは間違いない。
15. The Ugly Underneath
AメロとBメロとでまるでムードが違うため、”A Day in the Life”的に何曲かをくっつけ合わせたかのような、一曲で何度も楽しめる曲。そんなに長い曲でもないのに、わざわざ違う曲調を一つにまとめてしまった意図がよくわからないのだけど、なんかスタジオでいじくり回してるうち、できあがっちゃったのだろう。
16. Bungalow
久しぶりにColinメイン。『Nonsuch』では4曲しか採用されていないのだけど、それとも提供を出し渋ったのか、それは不明。モッサリした声質のColinのヴォーカルは好き嫌いが分かれるところだけど、まぁ俺的にはあんまり興味がないので、どっちでもいい。
17. Books Are Burning
ラストは(多分)第2次世界大戦時のナチスが行なった焚書からインスパイアされた、強大な力を持った権力に対し、屈することなく立ち向かってゆく、Andyの強力な意思表明が描かれている。強大な権力がVirgin なのかと邪推するのは、子供じみた詮索なので、ここでは保留。
ある意味、これがXTCとしてのSwan Songともいうべき出来となっており、そのすべての音が美しく、強い意志を持って響いている。アウトロでフェード・アウトしてゆく、DaveとAndyのギター・ソロも、これまでにないストレートなインプロビゼーションとなっている。
海外ファン・サイトでは、比較的人気の高い曲でもある。
『Nonsuch』リリース当時、ここ日本では初回限定の特典で、中世の視力表を模したミニ・タペストリーを貰ったのは、もう昔の思い出。
また、これは輸入盤のみだったけど、CDのプラケースにジャケットと同じ宮殿のイラストが金色に直接プリントされていたことも、かつてのファンなら鮮明に覚えているはず。
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コメント
コメント一覧 (1)
この「XTC来て来てキャンペーン」、応募しました!で、特製のXTC腕章をもらい、横浜のトークショーに持参、アンディからサインをもらいました。今でも大切に持っています。サインしてもらうときに日本の印象をきいたら「人はすごくいいけど、architectureが最悪」と言ってましたw
いかにもって感じですね
Aztec CameraやPrefab Sproutなどいろいろなレビューを楽しく拝読しました。が、私の好きな人たちは、いろいろとこじらせてる人が多いみたいだと感じましたw
でもUKロックはそこが魅力でもあるように思っています。これからも興味深いレビューを楽しみにしています。