folder ほぼ日本では知られてないけど、海外のミックス・テープ・サイトやSoundcloud、Mixcloudなどではサンプリングの定番音源として使われまくっているLeroy Hutson 3枚目、1975年リリースのアルバム。このジャケットだけ見るとイカついオラオラ系ラッパーのルーツっぽく見えるけど、実際音を聴いて見ると全然そんな雰囲気の人ではないので、ちょっと誤解を招くかもしれない。ギロッポンでチャンネーとイチャイチャするような人ではなく、もっとソフトでムーディーなサウンドの人である。
 こういったレア・グルーヴ系の音全般に言えることだけど、どこでもBGMで流れていて気軽に見つけられる種類の音楽ではない。リスナーが能動的になって、自ら探し求めないと巡り会えないので、ここで紹介。

 彼とよくセットで語られるのが、こちらはもうちょっと知られているCurtis Mayfield。自ら作詞作曲した”People Get Ready”は後にJeff Beckによってカバーされ、かつての盟友Rod Stewartのヴォーカルによってスマッシュ・ヒットした。ていうか俺自身、最初に聴いたのがこのBeckヴァージョン。で、当時所属していたImpressionsを脱退してソロ活動に移ったCurtis が、自分の後釜として、メイン・ヴォーカルとして指名したのがLeroy。ちなみにこのImpressions、彼ら2人以外にも、こちらもレア・グルーヴ方面では安定した人気を誇るJerry Butlerもかつて在籍しており、ソウル・グループとしてはTemptationsと並んで、有能なソロ・シンガーを次々に輩出しているグループ。まるで続々メジャーへ人材放出を続けてる日ハムのような存在である。
 で、そんなLeroyがImpressionsに在籍していたのは3年程度、そこそこ名前を売った後、彼もまたCurtis同様、ソロ活動を開始する。ただLeroyもCurtisも義理堅い面があったのか、所属レーベルはCurtis運営によるCurtom、しかも脱退したはずのImpressions本体もいつの間にかCurtomに移籍してきて、一同顔を揃えてツアーを行なったりしている。今で言えばEXILE一族のような結束力の固さである。

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 そのソロ・デビューだけど、Impressions在籍時からそれなりのビジョンを持っていたのか、ほぼ独力で作詞・作曲・アレンジ・プロデュースまでこなし、処女作にしてはバランスが良く、クオリティの高い作品に仕上げている。多少はレーベル・オーナーであるCurtisの助言もあったのかもしれないけど、ミュージシャン・クレジットを見る限りでは、ほぼLeroyの仕切りで進行したようである。
 実際聴いてみると、新人の作品としてはかなりの高レベルな仕上がりになっている。相応の下積みもあってこそのクオリティではあるのだけれど、小さくまとまり過ぎちゃったかな?というのも事実。あまり端正な出来栄えより、粗削りでエネルギッシュなルーキーの方が結局は長続きする、というのはどこの世界でも言えること。破綻のない新人は打たれ弱い、ってのも付け加えとく。

 Curtisにも当てはまるのだけど、このLeroyもまた、一般的なイメージのソウル・シンガーにありがちな、力強く声を張り上げるヴォーカルではない。どちらかといえばジャズ・ヴォーカルより、Marvin Gayeの系譜に近いウィスパー・ヴォイスのタイプである。時々過剰に甘いバラードが入るのは、ルーツのひとつであるノーザン・ソウルの流れ、また時代的にスウィートなフィリー・ソウルが隆盛だったこともあって、まぁ避けられなかったところ。
 なので、80年代以降の山下達郎のサウンドとテイストが近く、実際、そこら辺から流れてきたファンも多い。チェックはしてないけど、達郎自身もその辺は自覚していて、ラジオでオンエアしたこともあるんじゃないかと思われる。実際、ネット通販のショップ・サイトのコメントにも、「クールな山下達郎」という形容詞が使われることが多い。
 ただ、”Bomber”や“Funky Flushin’”などのディスコ/ファンク路線を追求してきた達郎が『Melodies』以降、歌詞やアンサンブルを重視したソフト・サウンド路線にシフトしてからは、しばらく地味な活動になったように、Leroyもまたキラー・チューンを生み出すことができず、終始苦戦を強いられた。
 次々に傑作アルバムを連発、ニュー・ソウル・ムーヴメントの波に乗ってチャート的にも健闘したCurtisに対し、Leroyはシングル/アルバムとも思うようなチャート・アクションを残すことができず、70年代までに数枚のアルバムをリリースすると、80年代を迎えることもなく、表舞台からフェード・アウトしてしまった。

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 70年代前半はカリスマ的なファンク・マスターとして知られたCurtisもLeroy同様、ディスコ・ブームの到来によって淘汰されてしまい、同じく80年代は活動も断続的になってしまうのだけど、レア・グルーヴ・ムーヴメントの勃興によって再評価が高まり、見事復活を果たすことになる。ステージ中のアクシデントによって、半身不随に陥る悲劇もあったものの、若手からのリスペクトは絶えることなく、アーティストとしては幸せな晩年だったと思う。
 そういった再評価の影響もごく僅かだったのが、Leroyの最も大きな悲劇である。
 当時のLeroyのチャート・アクションは、どのアルバムもビルボード最高70~80位のところで推移しており、とてもヒットしたとは言い難い。メロウ・ナンバーはいつの時代でも需要はあったはずなのに、なぜLeroyは大きな支持を得ることができなかったのか。
 Curtisなら”Move on Up”という、チャート的にも健闘した必殺キラー・チューンがキャリアの初期にあったため、その印象が強くファンを引き付けたのだろうけど、あいにくLeroyにはそういったヒット・チューンがない。
 ただ、それだけが要因でもなさそうだけど。

 70年代前半の意識高い系のソウル・アーティストにとって、前述したニュー・ソウル・ムーヴメントの影響は避けては通れない。
 公民権問題やベトナム戦争、ニクソン・ショックなど、ありとあらゆる社会問題が渦巻いていたこの時期、ソウル/ファンクのカテゴリーにおいても、能天気なポップ・ソングとは対極的な、メッセージ性の強い曲/アーティストが頭角を現していた。CurtisやMarvinのように、緩やかなリズムのファンク・サウンドに乗せてアメリカ国内の惨状を憂う者もいれば、Stevie Wonderは最新楽器ムーグを入手、問答無用でオンリー・ワンのサウンドを展開していた。
 反社会的なブラック・ムービーのサウンドトラックを多く手掛けていたIsaac Hayesらだけでなく、旧世代に当たるJBやAretha Franklinまでもが、新世代のサウンド/メッセージに重点を置いた作品をリリースしていた時代である。誰もが音楽を通して、自分なりの意思表明、アイデンティティを強く訴えること、それが最高にクールな時代だったのだ。

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 そうなると、あまりクセのないLeroyの作品というのは、どうしてもインパクトが薄い。サウンド/ヴォーカルとも、ほとんど破綻がないのだ。かといって売れ線を意識したポップ・ソウルでもなく、きちんとクオリティを意識して作られた「ちゃんとした」ソウル・ミュージックである。ちゃんとしてるからこそ、逆に印象に残りづらい。
 音楽と社会情勢との流れがまだシンクロしていた時代、彼のようなサウンドは「ちゃんとしてる」ことが仇となってリスナーからも積極的な支持を得ることができず、時代に埋もれてしまう結果となった。多分、今の時代ならメッセージ性とか思想を抜きにしてフラットに聴けるため、純粋にクオリティの高さを堪能することができる。


Leroy Hutson
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1. All Because of You
 ビルボードR&Bチャートでは最高36位、まぁそこそこ。
 従来のソウルと違って浮遊感のあるメロディ・ラインが、ニュー・ソウル世代の特徴。ゴリゴリの黒さだけではなく、ロックやジャズなど別ジャンルからインスパイアされたアイディアも分け隔てなく取り入れている。特に冒頭イントロのストリングスの使い方。ピアノとのユニゾンはロック的な要素も感じさせる。7分もの大作なのに、あまり長さを感じさせないのも、アクはないけどきちんとメリハリのある「ちゃんとした」構成だからか。破綻はないけど、それを求めなければメロウで居心地の良い音楽。
 ちなみに俺が彼のサウンドを聴いて真っ先に連想したのがRobert Palmer。



2. I Bless the Day
 こちらはストレートなスウィート・ソウル。中盤のモノローグもやや憂いのあるシルキー・ヴォイスで、耳元で囁かれたら、大抵の女はメロメロだったことだろう。くっきり浮き出るようなミックスのストリングスとLeroyの多重コーラスの間を縫うような、メロウなアルト・サックスもまた、ムードを盛り上げる。

3. It's Different
 サビが”Sexual Healing”に似ていることだけで、俺の中ではポイント・アップ。ストリングスの使い方がうまいよな。
 ポピュラー音楽の中でストリングスを効果的に使った初期の例がT.Rexなのだけど、メロディを奏でるのではなく、リズムを刻むために用いているのが、Leroyとも共通している。ただ荘厳とした雰囲気作りだけに使うだけでは芸がない。リズム楽器的な使用法によって、このようにストリングスでも充分グルーヴ感が演出できることを実証した好例。



4. Cool Out
 本格的なソウル・ジャズ。アドリヴ感の薄いホーン・セクションは熱い演奏なのだけど、まぁブリッジと考えてもらった方が良い。

5. Lucky Fellow
 不思議なメロディ、コード進行を持つ曲。全体的に不安定な構成の曲なのだけど、そこに伴う聴きづらさがギリギリのところで中和され、逆にそのアラの目立ち加減が、ニュー・ソウル方面とのリンクに成功している。
 終盤の混沌としたセッション具合もMarvin Gaye ”I Want You”を連想させ、実際、ミックス・テープ方面での引用も多い。



6. Can't Stay Away
 2.同様、メロウなモノローグが曲全体を支配している。ビルボードR&B最高46位。
 ニュー・ソウルのアーティストなら、政治や社会問題をぶち込んで「静かな憤り」を表現するのだろうけど、あいにくLeroy、そこまで器用な男ではない。ただ単純なラブ・ソングである。ただストレートにムーディーさを演出したいのなら、これ。

7. So Much Love
 タイトル・コール以外はそれほど明確な歌詞のない、スキャットやアドリヴが中心のナンバー。その分、アルト・サックスがうねることうねること。
 アルバム・ラストを敢えて自分の声だけで埋めず、女性コーラスも含めた大団円で終わらせるのが、この人のほんと性格のいいところ。まぁいい人で終わっちゃうんだけどね。




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