folder ガンコ親父英国代表であるPaul Weller、思い立ったら後先考えず突っ走るその性格は、デビューの頃から終始一貫している。JAM→Style Council→ソロ、どのキャリアにおいても大きな成功を収めたにもかかわらず、あまりそういったことに関心はないらしく、次のキャリアをスタートさせるのに躊躇するのを見たことがない。一旦活動に区切りをつけ、新たな形態で再スタートを切る時も、ほんと潔く行なっている。それまでにさんざん試行錯誤などして確立した音楽スタイルにもかかわらず、いとも簡単にリセットしてしまうのは、なかなかできることではない。
 特にJAM、ほんと人気絶頂の時に解散を宣言するなど、よほどのポジティヴ・シンキングか独裁者でしかありえない。まぁこの時もそれほど大事に考えていたわけでもなく、ただ単に純粋に新しい音楽がやりたかった、という極めてモッズ・スタイルに則っての行動である。

 そういったわけもあって、常に前向きの人であるがゆえ、過去のヒット曲は頑なにプレイしなかった人だったのだけど、ここ数年はさすがに丸くなったのか、ベスト盤やライブにおいても頻繁に過去の曲を取り上げることが多い。
 21世紀に入ってからのWellerの音楽的傾向としては、「進化」というよりは「深化」、斬新な未知なるサウンドの追求ではなく、これまで培ってきたクオリティの磨き上げの方に興味が向かっている。キャリアの長いミュージシャンなら誰でもそうなのだけれど、今さら目先の流行に惑わされるほどのキャリアではないし、また年齢的な点から見ても、残された時間が潤沢にあるわけではないことも、無意識の中にあるのだろう。

stylecouncil_ae810

 で、リリースされた当時、往年のJAMファンからは酷評され、アーバンでトレンディでスタイリッシュでスノッヴな連中からは大絶賛された、通称スタカンの本格的なファースト・アルバムが、これ。。実際はデビュー時にミニ・アルバムを発表しているので、デビューというには微妙なスタンスのアルバムでもある。そういった事情があったにもかかわらず、純正パンク・モッズ・ファン以外の幅広いユーザーを獲得したことによって、UK最高2位、ゴールド・ディスクに輝いている。
 ほぼ同時期に出てきたEverything But The Girlあたりのファン層と被ることが多く、ちょうどパンクの刺激的な音に疲れた層が、癒しのサウンドを求めてこの方面に流れて来たものだろう。

 パンク~ニュー・ウェーヴの流れでデビューし、WhoやSmall Facesから連綿と続く正統派モッズ・スタイルの3ピース・バンドとして、特にイギリス国内では絶大な人気をキープしていたJAM。Wellerの音楽的成長、方向性の変化によって、後期はモッズよりさらに遡った、60~70年代ソウル・ファンク系のサウンドに傾倒してゆく。音楽に対してシリアスな純正モッズ・バンドとしては当然の流れなのだけれど、あくまでパンク・バンドという枠組みの中で認知されているJAMという大看板では、音楽的冒険にも限界がある。メンバー間との実力・人気の格差による確執はもちろんのこと、彼らを取り巻く環境は巨大になり過ぎて、小回りが利かない状態になっていた。
 そういった現状に甘んじて、過去のレパートリーの拡大再生産に努めれば、Rolling Stones的スタンスでの活動スタイルもアリだったんじゃないかとも思えるけど、それを潔しとしなかったWeller、ほんと人気絶頂の最中に解散宣言を出す。そうすることが、彼には必要だったのだ。

cafebleu 3

 で、一回すべての活動をリセット、JAM後期から構想のあった、ソウル・ファンク路線に加えて雑多なジャンルをミックスした音楽を実現するため、以前より交流のあったDexys Midnight RunnersのキーボーディストMick Talbotを迎えた新バンドStyle Councilが始動する。
 大方の予想は、それこそ後期JAMの延長線上、ソウル・ファンクをベースとした硬派なダンス・ミュージック系だったのだけれど、蓋を開けてみるとあらビックリ、微妙に別の方向性だったことに世間は当惑した。一応、ソウル・ファンク系のテイストやリズムはベースとしてあったのだけれど、彼らの雑食性はその範囲にとどまらず、ボサノバやジャズ、エレクトロ・ポップまで入ると、思惑とはかなり違ってくる。

 俺の世代にとって、彼らとのファースト・コンタクトはJAM解散後であり、単純にオサレ・バンドとして、そして通好みのバンドとして、一定の評価は得ていた。特に日本において彼らの評価は高く、あのロキノンでも一目置かれていた。今じゃ信じられない話だが、マクセルのカセット・テープのCMにも起用されていたくらいだったので、お茶の間での認知度もそこそこあったのだ。

 多分Wellerのコンセプトだったと思われるのだけれど、初期の彼らはシングル中心の活動であり、よってリリースのペースも早かった。当時は特にリミックスを施した12インチ・シングルが全盛で、彼らに限らず無数のバージョン違いが世にはびこっていた。当時、輸入盤をマメにチェックしていた者がどれだけいたのかは不明だけど、すべてのアイテムをコンプできた日本人は、ごく少数だったはず。
 
Style-Council-A-Solid-Bond-In-Y-42557

 速報性が一つの利点であるシングルをハイ・ペースでリリースし、ある程度曲が溜まったらアルバムとしてまとめる、という流れ、これが次作『Our Favourite Shop』まで続く。こういった理想的なサイクルと、バンドとしてうまくまとまっていた状態とは、ちょうどシンクロしている。Wellerのビジョンと世間とのニーズがうまく一致していた、幸福な時代である。
 ただ、こういったサイクルはシステムとしては完成され過ぎているため、一度走ると簡単に止めることはできない。マグロの回遊と同じで、止まる時は死ぬ時なのだ。
 その後、彼らも2枚目以降は循環システムがうまく機能しなくなり、紆余曲折を繰り返した挙句、自家中毒のジレンマに陥ることになるのだけれど、このアルバム『Café Bleu』は、そういった杞憂もない頃、幸せな時代の作品である。


カフェ・ブリュ
カフェ・ブリュ
posted with amazlet at 16.02.06
Universal Music LLC (2007-07-26)
売り上げランキング: 39,593




1. "Mick's Blessings" 
 カテゴリー的にはロックなのに、オープニングはMickによる軽快なブギウギ・ピアノのインスト。当初のコンセプトとして、Style Councilとは既存のバンド・スタイルとは違って、今で言うユニット形式、既存メンバーにとらわれない、幅広い音楽性を強調していた。軽いジャブとしては有効。

2. "The Whole Point of No Return" 
 で、次もロックとはかなり真逆のベクトル、柔らかなセミ・アコを奏でるWellerの、これまたソフトなヴォーカル。リズムを抜いたボサノヴァ・タッチの曲なのだけれど、終盤に向かうに連れて、次第にヴォーカルに熱がこもって行くのがわかる。

3. "Me Ship Came In!" 
 次はラテン・ナンバー。こちらもインストで、まるでキャバレーのビッグ・バンドのよう。いくらロックから遠く離れたいからといって、ちょっと極端じゃね?って気がする。無理やり幅広いジャンルを網羅しようとしてねじ込んだようなナンバー。う~ん、まぁブリッジ的な曲だけれど、このアルバムはとにかくブリッジが多い。

4. "Blue Café" 
 こちらもスロウなジャズ・ギター的なインスト。同時代で行けば、Durutti Columnの路線にとても近いものがある。ポール・モーリアのようなベタなストリングスに乗せて、これまたロックと正反対のベクトルへ無理やり向かおうとするWellerのスノッブ振りが、今となっては何か微笑ましい。

5. "The Paris Match" 
 前年に先行シングル的に、”Long Hot Summer”との両A面でリリース済み。今思えば最強タッグである、初期スタカンではなかなかのキラー・チューン。これまたスローなジャズ・ヴォーカル・タッチで、ヴォーカルもご存じEverything But The Girlの歌姫Tracey Thornが担当。こういったタッチの曲は、やはりWellerのスタイルに合わず、それを自覚してもいたのだろう。
 JAM時代にこの曲をやろうとしても、ヴォーカルが自身であるという縛りから抜け出せず、ここまでのクオリティでは仕上がらなかったはず。ここが、何でもフロント・マンがメインを張らなくてはならないバンドの宿命から解き放たれ、適材適所にメンバーを配置できる、フレキシブルなユニットとしての利点。
 あまりにアンニュイでトレンディな世界観ゆえ、日本でもこの曲に影響を受けて同名のバンドが結成されたのは、有名な話。
 


6. "My Ever Changing Moods" 
 引き続きキラー・チューン、UK5位、USでも自己最高である29位にチャート・インした、こちらも初期スタカンを象徴する名曲。ピアノのみを配したシンプルなバッキングに、エモーショナルなWellerのヴォーカルが乗るのだけれど、落ち着いた曲調にもかかわらず、こめかみに血管を浮き出させたWellerの横顔が思い浮かぶよう。
 本人的にも会心の楽曲だったらしく、後にアップテンポのロック・ヴァージョン、また映画のサントラ用にリアレンジされたビッグ・バンド・ヴァージョンも存在する、様々な表情を見せる曲でもある。



7. "Dropping Bombs on the Whitehouse" 
 タイトルだけ見るとやたら攻撃的で不穏なイメージがあるが、実際のところは軽快なジャズ風のインスト。ほぼギターの出番は皆無なので、こんな時、Wellerが何をしていたのかが、ちょっと気になる。多分、スタジオ・セッションを横目で見ながら、ブースの隅っこ辺りで邪魔にならないように踊っていたのだろう。

8. "A Gospel" 
 テクノとファンクとラップとをグッチャグチャにミックスして、いびつな形のまんま仕上げた曲。ちなみにここでWellerは珍しくベースを担当、ヴォーカルを取っているのは、Dizzy Hiteというラッパー。今にして思えばスタカンとしてリリースする必然性を感じないのだけれど、やはりWellerの意向で、幅広い音楽性をアピールしたかったのだろう。Council(評議会)というからには、一つのジャンルに固執するのではなく、グローバルな視点が求められるのだ。

9. "Strength of Your Nature" 
 こちらはWeller、Dee C. Lee共にヴォーカル参加、前曲同様、ジャンルを飛び越えたダンス・ミュージックなのだけれど、ノリとしてはこちらの方が良い。特にファンク色の強いナンバーなので、これはプレイしている方も楽しいはず。
 この路線はWellerも気に入っており、このサウンドをもっと深化させたのが、完成直後はレコード会社よりリリース拒否、10年以上経ってからようやくリリースされた『Modernism: A New Decade』に繋がってくる。ハウス・ビートの要素が従来ファンには拒否反応を示したらしいのだけれど、俺的にもこのくらいのファンク加減がしっくり来る。

10. "You're the Best Thing" 
 夜景を望むこじゃれたバーにも、また延々と続く海岸線のドライブにも、柔らかな木漏れ日の差し込むオープン・カフェにもフィットする、それでいてきちんとロックを感じさせる、まったりとはしているけれど、不思議な感触の曲。UK5位は妥当だけれど、USでも76位まで上がったのは純粋に、そんな曲自体の魅力によるもの。



11. "Here's One That Got Away" 
 10.同様、Wellerのファルセットとフィドルが印象的な、軽めのネオ・アコ・タッチの小品。この手のソフト・サウンドのわりには、意外にドラムがドスバスしてリズムが立っている。この辺がJAMのアコースティック・ヴァージョンといった趣きで、旧いファンにも受け入れられやすい。

12. "Headstart for Happiness" 
 この頃のスタカンは要所要所でDee C. Leeをフィーチャーしており、特にこの曲ではコーラスにとどまらず、Wellerと五分でのデュエット。初期コンセプトに則って、Wellerのワンマン・バンドではなく、曲調に合わせたサウンド設定、メンバー配置を行なうことによって、バラエティを持たせている。言うなれば、Style Councilという大きな枠組みの中で組まれたコンピレーション・アルバムが、この時期には実現している。

13. "Council Meetin'" 
 最後はMickのハモンドを大きくフィーチャーした、グル―ヴィーなインスト。JAMでは実現できなかった構成であり、凝り固まった現状を打破するという意味では、このアルバムは充分パンク・スピリットに満ち溢れている。




 これだけハイ・ソサエティさに満ちて、シャレオツ業界人に消費され尽くされたアルバムを作りながら、ライブでは一転、これまでのJAM時代と変わらずシャウトしギターを弾きまくり汗を掻き唾を飛ばしシャウトしまくっていたWellerの潔さは、同世代のアーティストの中でも群を抜いていた。
 ClashとPILが自家中毒を起こして袋小路に嵌まりつつあるのを横目で見ながら、逆にパンク・スタイルにこだわることはダサいことであると一蹴し、敢えてロック以外の可能性を追求するその姿勢は、反語的にロックな姿勢でもあるのだ。

 なんか最後、ロキノンの原稿みたいになっちゃったな。


Greatest Hits
Greatest Hits
posted with amazlet at 16.02.06
The Style Council
Polyd (2000-09-18)
売り上げランキング: 25,850
The Style Council: Classic Album Selection
Style Council
Universal UK (2013-07-23)
売り上げランキング: 126,220