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 レキシというのはユニット名であり、キーボーディスト池田貴史(通称池ちゃん)を中心として、彼の趣味である日本史をネタに、様々なアーティストとコラボしたりフィーチャーしたプロジェクトの総称。コンセプトに賛同する人たち、もとから気の合う人たちを呼び集め、ファンクや70年代ディスコ、ストレートなロックやヒップホップなど、特定のジャンルに捉われず、自分たちが楽しめる音楽をクリエイトしている。

 1997年にスーパー・バター・ドッグという、ミクスチャー系ファンク・ロック・バンドでデビュー。何となく名前は知っていたのだけど、ちょうどこの頃、日本はCDバブルの真っ只中。当時は俺も洋楽ばかりでなく、普通にB’zやglobe、ミスチルなども聴いてたので、この辺のマイナー・シーンはほとんどチェックしていなかった。で、バンドについて調べていたら、あのハナレグミがヴォーカルだったということを、ついさっきYoutubeで知った。そのくらい、興味がなかったのだ。

 仲違いや音楽性の相違など、ネガティヴな理由ではなく、どちらかといえば発展的解消による解散のため、その後もメンバー間の不和というのはあまりなく、ゆる~い繋がりでお互いにコラボしたりされたりで、各メンバーは音楽業界で生き残っている。
 特に池ちゃん、その特異なルックス(今どきアフロ)と、いとうせいこうにも絶賛された抜群のトーク・スキルによって、メディアに取り上げられることも多い。でもその取り上げられ方は、「音楽「も」やってる人」的扱いのため、深夜バラエティやトーク・メインの音楽番組で重宝されている。それが池ちゃん自身の本意に基づくものなのかどうかはわからないけど、知らず知らずのうちにお茶の間に浸透しつつあることは間違いない。

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 で、デビュー・アルバムから4年のインターバルを経てリリースされたのが、このセカンド・アルバム。70年代のディスコ/ファンクからインスパイアされたサウンドに乗せて、日本史の定番キャラクターを現代的な目線から描く手法は新鮮で目新しく、俺的にはめちゃめちゃツボにはまってしまった。カーステを聴きながら爆笑する俺を見て、隣りの車の人は、何を思っただろう。

 安藤裕子とのデュエット”林檎殺人事件”が、俺とレキシとのファースト・コンタクトだった。最初はもちろん男として、もちろん安藤裕子目当てで彼女のアルバム『大人のまじめなカバーシリーズ』を入手したのだけど、PVで怪しげに映るこの男が気になってしょうがなくなってしまった。ていうか、結局リピートするのはこの曲だけになってしまい、安藤裕子への興味は薄れていった。
 次に出会ったのが、BSで放映していた密着ドキュメント。もうタイトルも忘れてしまったくらいなので、特にこれを見ようと思ってたわけではない。最初はザッピングの流れで何となく、「何だこのアフロ?」と適当な感じで眺めていたのだけど、結局最後まで見てしまい、それでついつい気になってYoutubeで見て聴いて…、といった次第。

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 池ちゃんの作る音楽、そして彼を中心に巡るレキシ・プロジェクトを見ていると、あぁ技術的な才能というのは、それほど大した問題ではないのだな、とつくづく思う。
 凡人より秀でたスキルによって、熱烈な信者を引き寄せることは可能かもしれないけど、共に何かを成し遂げるための仲間を引き寄せることはできない。信者はあくまで対等の立場ではなく、出会った時点から上下関係が発生してしまうため、共同作業はできないのだ。
 レキシの持ち味として、見て聴いてわかるように、特別秀でたスキルやカリスマ性があるわけではない。もちろんプロのミュージシャンだからして、それなりに同業者を納得させるだけの演奏力は持っているだろうけど、それよりも彼が長けてるのは人柄であり、また彼によって提供される『場』の求心力だ。
 池ちゃん自身が触媒となって、多くのアーティストが寄ってたかって曲作りを行ない、演奏する。彼らもまたレキシの一部であり、参加した者はすべてレキシ・ネームを与えられる(または勝手に自称する)。レキシという『場』『コンセプト』を面白がり、時にはレキシ以上にのめり込むことによって、通常のテンションでは成しえないクオリティの作品が出来上がることも多い。
 もし池ちゃんがプライベートではとんでもない奴だったとしても、このアーティスティックな空間を創り出す才能に長けていることは、誰にも否定できないはずだ。


レキツ
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レキシ
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01. そうだレキシーランド行こう feat. MC末裔・MC四天王
 スチャダラパーのボーズ、アニによる作詞、もちろんラップにも参加。スチャダラはしばらくまともに聴いてなくて、もう90年代の残り香だけで食ってるんだろうな、と思ってたら、とんでもない勘違いだった。決して平穏ではなかった日本のヒップホップ/ラップ・シーンを生き残ってきただけあって、この言語感覚・ライムのセンスはハンパない。
 タイトルにあるように、某テーマ・パークのエレキテルカル・パレード(微妙に本家と呼び名が違っている)を、ロックとファンクとのハイブリット・サウンドで表現している。
 とにかく日本史の型苦しい出来事を、当時のリア充目線で活写した歌詞が最高に笑わせてくれる。「千利休のティーパーティ」「パイレーツオブ玄界灘」「竪穴住居でHold Me Tight」など、ほんと印象的なフレーズがバンバン出てくるのだけど、俺の一番のお気に入りは「風林火・マウンテン」
 


02. きらきら武士 at. Deyonna
 「歌姫」椎名林檎参加作品。タイトルは言わずもがな、有名な童謡と掛けて。ちなみにDeyonnaというレキシ・ネームの由来は、「出女」をBeyonceっぽく言い換えたもの、とのこと。
 もう8年も前の曲なのだけど、レキシのレパートリーの中ではキャッチーでフックの効いたサビ・メロディーから、今でも代表曲として紹介されることが多い。何しろ林檎ちゃん参加なので、メディアとしても紹介しやすいのだろう。
 ダンス/エレクトロ系のバック・トラックは大抵、DTM系のアーティスト特有のヴォーカルを埋没させるミックスが多いのだけど、ここはさすがバンド出身、きちんと林檎ちゃんのセクシーなハスキー・ヴォイスを引き立たせている。終盤のハモンドがなかなかカッコよく、あぁやっぱり生粋のミュージシャンなんだなぁ、と思わせる。
 


03. ペリーダンシング feat. シャカッチ
 怪しげなモノローグの後、モロEW&F ”Boogie Wonderland”の世界。ここまでリスペクトしちゃうと、もう何も言えないし、それに何しろ曲に対する愛情が深い。間奏のギターなんてPrinceやIsleyっぽいファンクだし。
 タイトルは歌詞通り、あの黒船ペリーの開国要求を焦らしに焦らす内容。まぁくだらないけど面白い。ちなみにシャカッチとは、かつての盟友ハナレグミのレキシ・ネーム。

04. どげんか遷都物語 feat. 織田信ナニ? 
 今でこそCMに映画に引っ張りだこのハマケンこと浜野謙太、当時はまだ一般ではほぼ無名だったはず。在日ファンクの売りであるファンクっぽさはほとんどなく、メロウなナンバーに彼を起用した池ちゃんの先見の明は見事だったと思う。
 彼の細い声質は、実のところファンクにはあまり向いていない。線の細さをカバーするほどのステージ・アクションやダンスはもっと評価されるべきだけど、むしろこの路線のサウンドで行った方が向いてるんじゃないかと思われ。Curtisみたいにファルセットで歌うファンクもあるのだけれど、多分彼がやりたいのは、そういうことじゃないのだろう。

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05. ほととぎす feat. 聖徳ふとこ
 なぜか相性の良い安藤裕子とのデュエット。前述の『大人のまじめなカバーシリーズ』とほぼ同時期にリリースされているので、多分レコーディングも被ってたんじゃないかと思われる。
 どちらかといえば安藤裕子カラーの強いサウンド、ていうか彼女のエキセントリックなヴォーカルが入れば、どんな曲も彼女の色に染められてしまう。それでもそんなオーラに負けないレキシ・サウンド、レキシ・ワールド。
 歌詞は一見ラブソングっぽいのだけど、ちゃんと読めば「泣かぬなら…」のホトトギスのことをムードタップリに歌っているだけなのがわかる。

06. かくれキリシタンゴ ~Believe~ feat. MC母上
 このアルバムの中で、最もサウンド的にぶっ飛んでいるナンバー。この長い音楽の歴史の中で、ラップとタンゴとキリシタンをミックスしてひとつの曲の中に収めようとしたアーティストがいただろうか?ある意味偉業だと思われる。だって、どうやったって噛み合うはずがないのに、普通にカッコよく聴けるし。
 ちなみにラッパーMummy-DはRHYMESTER。宇多丸だけじゃないんだな、このグループ。

07. レキシ ト ア・ソ・ボ
 ダブとチル・アウトが融合した、レキシと遊びたいだけのインスト・ナンバー。まぁスタジオで遊びたかったのだろう。

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08. 妹子なぅ feat. マウス小僧JIROKICHI
 さわやかで疾走感あふれるロック・ナンバーと言えばこの人、堂島孝平。キーボードの入り方もE Street Bandっぽい。ストレートなストリート・ロック・サウンドに乗せて、小野妹子についてこれ以上ないというくらい、そりゃもう爽やかに歌い上げている。
 やはりこういったパロディ的なサウンドというのは、この曲に限らず、ボトムがしっかりしていないと成り立たない。多少揶揄した内容とは言え、きちんと作り込まないと、安っぽくなってしまい、オリジナルにも失礼になってしまうのだ。

09. 狩りから稲作へ feat. 足軽先生・東インド貿易会社マン
 のっけからのサビが、「縄文土器、弥生土器、どっちが好き?」。こうやって書き出してみると、ほんっとくっだらねぇ歌詞だけど、これにサウンドが被さると、つい口ずさんでしまうくらいハマってしまう。実際俺、しばらく鼻歌のレパートリーだったし。
 ここで心の師匠いとうせいこうが、Jackson Viveというスカ・バンドのグローバー義和 を伴って参上。原始時代のリア充よろしく、「どんぐり拾って食べた あの日の夕陽赤かった」「仮の寝ぐらで狩する 係はかがり火燃してる」など、つい笑っちゃうフレーズがバンバン飛び出してくるのだけど、やはり一番はコール&レスポンスの「稲作中心!」
 最後まで聴くと、歌詞は結構切なげな内容なのだけど、それは聴いてのお楽しみで。
 
 

10. 歴史と遊ぼう
 教育TV番組っぽいピアノ伴奏と薄く被さるコーラスのみで構成される、可愛らしいラスト・ナンバー。歴史を勉強ではなく、興味のある事柄を楽しく覚えていこうという、ある意味メッセージ・ソングとなっている。どんなことでもそうだが、楽しみながら自分で探求してゆくというスタンスは、すごく大事だと思う。
 軽い曲だと侮ってはいけない。これが池田貴史が最も訴えたい事、ただ声を大にするのではなく、こうやってちょっと恥ずかしげにハニカミながら訴えるのが、分別のある大人の所作でもある。
 



 いま現在においてもレキシ・ネームを賜った者、勝手に自称する者は後を絶たず、増殖中である。曲によってはほぼゲストがメイン、池ちゃん本人はほとんど目立ってない曲も多々あるのだけど、まぁそれも「場」の提供には大きく貢献している。
 ちなみにレキシのライブ、それはもう細部まで趣向を凝らして面白いのだけど、今のところDVD発売の予定はなく、実際に足を運ぶしか手段はなさそう。曲間で様々なアーティストのオマージュやパロディを連発しているため、著作権の問題がうんたらかんたらで、なかなか話が進まない、とのこと。
 こういったところも含めて、人徳の為せる業なのだろう。


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