Police-album-zenyattamondatta 3ピース・バンド・サウンドの可能性を最大限まで追求した初期の名作『Reggatta de Blanc』と、大幅なサポート・メンバーの増員によって、サウンドが劇的に変化した『Ghost in the Machine』に挟まれているため、いくぶん影の薄いPolice3枚目のアルバム。
 Policeは俺が洋楽で初めて興味を持って聴き始めたアーティストのため、個人的に思いれが強い。基本どのアルバムにも愛着があるのだけれど、『Zenyatta Mondatta』は今のところPoliceの全アルバム(といっても5枚しかないけど)中3位という位置づけになっている。ちなみに1位は、最初に買った『Reggatta de Blanc』、次に『Synchronicity』といった感じ。

 もともと各メンバーのポテンシャルが高かったため、サウンド的・技術的にはデビュー当時から完成されていたバンドである。そんな彼らのデビュー当時のテーマとしてあったのが、ギター・ベース・ドラムという最小限のユニットにおいて、パンク・ビートを基調としたホワイト・レゲエをどこまで深化できるか、が一つの課題であったはず。
 パンク以降を席巻したニュー・ウェイヴ・ムーヴメントの潮流に乗ってデビューしたPolice、本来なら、これまで培ってきた三者三様の技術スキルを駆使すれば、いくらでも高度なサウンドを展開できたはずなのに、時代が時代なだけあって、卓越した技術や経験などは、逆に足かせとなった。なので、デビューに当たっては、ニュー・ウェイヴ・バンドとしては障害となる、経験値や演奏テクニックを敢えて封印、素人に毛の生えた程度のメンツに混じり、素知らぬ顔で新人ヅラして活動していた。
 当初は若干毛色の違う、ニュー・ウェイヴにしては平均年齢の高いバンドとして位置づけられていた彼らだったけど、基本スペックが他のバンドと比べて飛びぬけていたため、2枚目『Reggatta de Blanc』リリース時には、ニュー・ウェイヴ出身という看板が要らなくなっていた。

 前回のレビューでさんざん触れたのだけど、ジャケットの悪趣味さ(オレンジと黒!!)は言うまでもないが、それ以上に、なんだゼニヤッタモンダッタって。
 当時、バンドの主導権を握っていたStewartによる命名ということで、確かに彼の趣味を反映した、エスニック風味満載のタイトルなのだけど、ほんと誰か忠告する奴が居なかったのか、と当時の関係者がいれば、30分ほど問い詰めてみたくなるようなタイトルである。

 もともと音楽的な接点がほとんどないメンツであるため、感情のもつれ・音楽的な意見の対立によって何かともめ事も多く、ステージ裏では流血寸前の取っ組み合いになることもしばしばだった、とのこと。年長者ゆえ、基本は静観の構えのAndy 、兄貴がマネジメントを行なっていることを楯にして、リーダー面であれこれ独断専行のStewart、メインのソングライターであり、フロント・マンであるにもかかわらず、一番年下というだけで、バンド内カーストにおいては最下層に位置するSting。

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 ほとんどリハーサルの必要もなくレコーディングに突入した、とのことだけど、当時は殺人的スケジュールでの全世界ツアーが組まれていたため、練習する時間もなかったのだろう。とは言っても、個々の演奏スキルが相当高いレベルであったため、単純なミス・テイクはほぼ皆無、粛々と進行したらしい。まぁ下手なイージー・ミスでも起こそうものなら、途端に取っ組み合いにもなり兼ねなかったため、スタジオ内は張りつめた緊張感でいっぱいだったことだろう。
 逆に、同じ空気を吸っているのもイヤなので、とにかく一刻も早くレコーディングを終わらせるため、システマティックにビジネスライクに事を進めてたのかもしれないけど。

 まぁそんなこんなで色々ありながら、バンド内の均衡は辛うじて破裂寸前のレベルで抑えられていたものの、ちょっとした弾みやボタンの掛け違いによって、簡単に決裂する恐れも何度かあったはず。そんな中、バンドのほぼ実権を握っていたStewartが、半ば腕ずくで二人を服従させていたのだろうと思われているけど、実際のところ、Stingからすれば好きにプレイさせてくれればどっちでも良かっただろうし、 Andyも自由にギターを弾かせてくれるのなら、いちいち揉め事を作りたくなかったのだろうと思われる。
 そういった面、彼らの大人の対応、悪く言えばビジネスライクな人間関係が、人によっては好き嫌いが別れるのだろう。

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 三者三様の思惑が複雑に錯綜する中、唯一結びつける共通項はたった一つ、音楽のみだった。
そんなコンディションの中で生まれた意欲作である。
 何度も言う。ジャケットと邦題の悪趣味さで嫌いにならないでね。


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Police
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1. Don't Stand So Close To Me
 Stingの高校の教育実習生体験をモチーフに書かれた歌詞なので、邦題が『高校教師』。まぁ確かにその通りだけど、何だか投げやりなネーミング。こんな風に何十年後も残るのだから、もうちょっと何とかならなかったの?と言いたくなるのだけど、当時はこの程度の扱いだったのだろう。
 不穏に薄く被さるシンセ音がこれまでと違うミステリアスなイメージだが、本編が始まれば、やっぱりいつものPolice。やはりこの頃までのPoliceはStewartのバンドである、と断言できるほどのリズムの奔放さ。リズム感の切れがハンパない。
 


2. Driven To Tears
 邦題が『世界は悲しすぎる』。世界の貧困問題を取り上げた内容なので、このタイトルはうまくはまっている。
 ギター・シンセも併用した、スペイシーなAndyのサスティン・ギターの音色が心地よい。ここでの主役はもちろんAndy。ややプログレッシヴな響きの間奏ギター・ソロに本気度がうかがえる。後半のStewartのハイハット乱れ打ちも最高。

3. When The World Is Running Down, You Make The Best Of What Is Still Around
 『君がなすべきこと』という邦題がしっくり来る。それほどアップテンポでもないのに、妙に疾走感のある曲。普通の8ビートなのに、肝はStingのベースだった。リード・ヴォーカル兼任のため、通常ベース・ラインはシンプルになりがちだけど、Stingの場合、かなりの割合で印象深いフレーズをぶち込んでくる場合が多い。特にこの曲においてはランニング・ベースというのか、手数は多いのだけれど、曲を壊さない絶妙のバランスでフレージングしている。
 


4. Canary In A Coalmine
 1980年時点でもそれなりに流行っていた、スカ・ビートの疾走感溢れる曲。勢い一発ではあるが、実はよく聴いてみると、結構複雑なアンサンブルで演奏しているのがわかる。あっという間の2分間。

5. Voices Inside My Head
 時々Stingによる「Cho!!」というシャウトが入る、ほぼインスト・ナンバー。前回の『Reggatta de Blanc』でもあったように、最初からインストのつもりで作ったのか、それとも歌入れが間に合わずに止むを得ずインストになったのか、それは不明。でもサウンド構成としてはヴォーカルを入れること前提で作ったように思われる。
 Andyの細かなフレーズのリフとStewartの複雑なリズムとが延々と続いているように思われるけど、そこはさすが手練れのメンツが揃ってるだけあって、ミニマル・ミュージック的な反復から徐々に細部が変化し始め、最後はクールな盛り上がりを見せている。

6. Bombs Away
 Stewart制作による、このアルバムの中では比較的ストレートなロック・ナンバー。PoliceといえばどうしてもStingのワンマン・バンドだと思われがちだが、実のところ演奏に関して言えば3人ともほぼ対等、ていうか誰もがほか二人を喰ってしまいそうな勢いでプレイしていた。この曲も3人それぞれの見せどころがあり、そのせめぎ合いがバンドに程よい緊張感を与えていた。
 そのバランスが崩れたのが第三者の介入、すなわちシンセサイザーの大幅な導入である。

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7. De Do Do Do, De Da Da
 レコードで言えばB面トップ、当時のヒット・チャートを知るものなら誰もが知っている、完璧なヒット・ナンバー。何しろメロディ・演奏・そして歌詞が完璧。特に歌詞の内容が徹底的に無内容なのが最高。ある意味ヒット・ソングの条件をすべて満たしていると言える。
 Andyのナチュラルなサスティンからスタート、珍しくドラム・アンサンブルもシンプル。この曲のサウンド面においては、何と言ってもAndyが主役。
 ちなみにこの曲、来日記念盤として日本語歌唱ヴァージョンが存在する。邦題は『ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ』と、まぁそのまんま。一応日本でもオリコン50位と、それなりには売れた模様。珍品としてしばらくCD化されていなかったのだけど、1997年になって初めてベスト・アルバムのボーナスCDとして、ひっそりリリースされた。日本では、大槻ケンヂによる失笑カバーによって、ごくごく一部では有名である。
 


8. Behind My Camel
 Andyによる、ギター・メインのインスト・ナンバー。これこそ純粋に、インスト前提で作られたと思われる。やはり経歴が長いだけあって、サウンド的にもどこか風格があり、後にデュオ・アルバムをリリースすることになるRobert Fripp色、イコールKing Crimsonっぽい瞬間が垣間見える。

9. Man In A Suitcase
 ちょっぴり能天気なスカ・ナンバー。なんか語呂が良いだけのサビで、7.同様、内容がありそうで、実はそれほどない歌詞。全体的にPoliceはリズムが立っているため、時として続けて聴くと重苦しく感じる場合がある。そう言った中での箸休めとして、こういった曲も必要なのだ。

10. Shadows In The Rain
 久々のレゲエ・ビート、ダブ・サウンドを前面に押し出しているが、この曲だけはどうにも退屈。どうしても後年のStingのセルフ・カバーと比べてしまうと分が悪い。それほどStingヴァージョンが秀逸なのだ。

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11. The Other Way Of Stopping
 ミステリアスな疾走感のあるオープニング。久々にニュー・ウェイヴ的サウンドを展開する。こちらも主役はStewart。なんだこのドラム。これも歌入れ前提だったと思われるインスト・ナンバー。
 当時のPoliceはワールド・ツアーの真っ最中、多分に充分アイディアを練り上げる暇もないままレコーディングに及んだことも多々あったはず。3人とも演奏スキルは充分過ぎるくらいあったので、スタジオに入って短時間でまとめることはた易かったかもしれないが、アレンジの更なる追求にまでは、とても手が回らなかったのだろう。




 そういったジレンマもあったのか、ワールド・ツアー終了後、もっとじっくりした環境でとことんサウンドを練り上げるため、彼らはカリブ海に浮かぶモンセラット島へ向かう。リゾート地に立つスタジオゆえ、半ば休養も兼ねてのレコーディングだったのだけど、スケジュールに追われない音作りは、結果、これまでにない緻密なサウンドとして結実した。それが次作『Ghost in the Machine』である。
 細部まで作り込んだサウンドは好評を得、さらに次作の『Synchronicity』への重要な橋渡しとなるのだけれど、それと引き換えるように、初期のエモーショナルなサウンドは次第に失われてゆく。


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