Marlena-Shaw-The-Spice-of-Life-L602498818695 この人の代表作は、Roberta Flack作のスタンダード・ナンバー”Feel Like Makin’ Love”収録の『Who is This Bitch Anyway?』なのだけど、ここはあえて定番を外して、その前にリリースされた本作を紹介。
 
 ブルー・ノートと契約していた時期もあったため、ジャンル的にはジャズ・ヴォーカルの人として分類されているけど、一般的にイメージされているジャズ・シンガーとは一線を画し、エモーションあふれるソウルフルな歌いっぷりが特徴である。それだからか、純粋なジャズ・ファンよりもソウル系からのリスペクトが高く、特にレア・グルーヴ、ヒップ・ホップ系の世界では、サンプリング・ソースとしての需要がめちゃめちゃ高い。
 
 若い頃なら誰でも当てはまりそうな話だけど、例えばラジオ番組をエアチェックして、あとでまとめて聴いた中で、気になる曲があった、昔のFM雑誌なら、特にNHKならオンエア・リストがほぼ完全に載っているので、そこを取っ掛かりに雑誌やレンタル・レコードで情報を集める。PoliceやCostelloやPrefab Sproutだって、最初はそうやって見つけていった。
 情報源の少ない80年代は、自分で能動的に、しかも限られた予算の中でやりくりしながら、LPレコードを買い、そして何度も、ほんとに針が飛んでしまうくらいまで、一枚のレコードを舐めるように聴きまくっていた。時間だけはたっぷりあったので、クレジットや歌詞、訳詩や解説まで、ほんと何度も何度も目を通していた。

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 これが20代になると、ちょっと様相が変わってくる。少し自由になる小金を持ち、月に何枚もアルバムを買えるくらいの余裕ができてくる。すると、次から次へと欲しいアルバムが出てきて、何しろ札幌だとタワーで輸入盤が安く買えるので、ついつい吟味もせず大量購入してしまう。そうなると、一枚のレコード・CDにかける時間と思い入れが薄くなってゆく。
 ロックも十年以上聴いていると、実際に聴かなくても、ある程度、サウンドの予想ができるようになってくる。雑誌レビューやジャケットを見て、こんな感じのアルバムなら、多分DylanっぽいヴォーカルにR.E.M.系のアコースティック・サウンドだろう、と大よその予想がついてしまう。実際、聴いてみると、確かにその通りだ、個性的なヴォーカルも堅実なバンド・サウンドも良い。
 
 でも、ただそれだけだ。
 
 新しい音楽を耳にした時のかつての感動はもはや薄れ、ただの確認作業になってしまう。彼らが悪いのではない。こちらの受け入れ態勢が、もう既存のロックでは響いて来ないのだ。
 
 それでもロック周辺しか選択肢がなかったため、その界隈であれこれ嗅ぎ廻る状態が何年も続いたけど行き詰まり、とうとう仕方なく、といった体で、ほぼノーマークだったソウル系に手を出したのが始まり。
 ラップに興味を持とうとした時期もあったのだけど、言葉の壁はあまりに高くてすぐに挫折、その後ちょっとした冷やかし半分でレア・グルーヴ系のコンピレーションに手を出してみた。気になる曲があった、他にこういった傾向の曲はないか?いろいろググってみると、海外のMixcloudやSoundcloudに、ソレ系のMix Tapeがあった、しかも大量。そこからまた気に入った曲をiphoneアプリで検索、Youtubeで探し出す。サイド・バーに他のおすすめ曲が並んでいる。そこからまたYoutube検索&アルバム購入の無限ループ…。
 …あれ?俺のやってることって、昔と変わんないんじゃね?

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 昔よりも探す選択肢が増えたため、飛躍的に効率化は進んだ。当然ファイルは日増しに増大しているけど、かつての脳内インプットの流れ作業ではなく、新たなフィールドでの未知への好奇心は、とどまるところを知らない。そうやって、俺のitunesには大量のジャズ、ソウル、ファンク系のファイルが常時稼働し、そして増殖し続けている。


The Spice Of Life
The Spice Of Life
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Marlena Shaw
Verve (2005-07-26)
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1.Woman of the Ghetto
 クラブ系の人気も高い、導入部のベースがクールな、ミドル・テンポのバラード。ジャズよりむしろ、ブルース・シンガー系統のパフォーマンスだけど、中盤のフェイクが絶品。スパイス的に織り込まれるカリンバの音色が効いている。
 これ以降の曲はせいぜい2~3分程度なのだけど、この曲だけ6分超、群を抜いてスケールが大きい。

 
 
2.Call It Stormy Monday
 冒頭のハープからして、完全にシカゴ・ブルース。そりゃブルース・スタンダードだから当たり前か。
 かなり抑制された歌声が、他のカバーとは一線を画す。1.と違い、こんな表情もあるんだ、というところが、彼女の幅の広さ、テクニックの多彩さを窺わせる。
 
3.Where Can I Go?
 ややジャズ寄りになってきたけど、それでもブルース臭が残るヴォーカル・スタイル。演奏はブルース、リズムは基本4ビートという、なんか変な曲。
 
4.I'm Satisfied
 今度はソウル寄り。Aretha Franklinあたりが歌っててもおかしくない、ポップなR&B。

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5.I Wish I Knew (How It Would Feel to Be Free)
 ハモンドの響きが時代を感じさせる、同じくソウル寄りの曲。モータウン・ポップとアトランティックのサザン・ソウルとの融合といったところか。
 普通にシングルで切っても、当時なら売れたんじゃないかと思う。
 
6.Liberation Conversation
 Marlena代表曲の一つ。
 ゲンゲンゴゴンゴン…(字で書いたら、なんか冗談みたいだが、ほんとにこんな感じ)と延々続くフェイクが主役。はっきり言って、他の歌詞はおまけに過ぎない。
 ほんの2分足らずの小曲だけど、強烈なインパクトを残した傑作。後年、こぞってクラブの連中がリスペクトしまくった気持ちもわかる。エンドレスでずっと聴いていたくなる、ほんと良い意味でノリ一発の曲。

 
 
7.California Soul
 ヴォーカル・スタイルはジャズだけど、演奏は何というか国籍不明の、これまた名曲。壮大なストリングスが、スケールの大きい超大作映画を思い起こさせる。
 この曲を聴いていると、スタンド・マイクの前に凛と佇むMarlenaの堂々とした歌唱が目に浮かぶ。もちろん、ステージ衣装は襟口の大きく開いた、妖艶なドレスでなければならない。

 

8.Go Away, Little Boy
 一転して、正統派のジャズ・スタイル。ほぼ抑え気味なヴォイシングで、サビ部分だけシャウトを強調。
 次第に興が乗ってきたのか、ブルース・スタイルになってゆく。
 スタンダードなホーン・セクションもMarlenaを盛り立てている。
 
9.Looking Thru the Eyes of Love
 ポピュラー・スタンダード寄りの曲。7.同様、壮大なストリングス・セクションが映像的効果を強調する。
 昔の録音なので、音の厚みがハンパない。
 ダビングを重ねた厚みではなく、ミュージシャン一同揃えて「せーの」で一発録音といった趣きが、このサウンドに重層的な深みを演出している。
 
10.Anyone Can Move a Mountain
 ラストはしっとり、ミディアム・バラードで。
 1.6.7.とアッパー系のサウンドとバランスを取る意味で、後半3曲は大人しめにまとめている。




 『Who is This Bitch Anyway?』の時代になると、多分ジャズではなく、フュージョン系のミュージシャンの参加が多いせいもあるのだろうけど、ここではもう少しメロウに、かつベタっぽいサウンドに仕上げている。
 ミックス自体もヴォーカルをやや奥に配置させているので、純粋にヴォーカルを堪能したい人には、こちらの方が向いていると思う。クラブ、ヒップ・ホップ系を通過してきた人なら、多分知ってる人も多いだろうけど、かなりのオススメ。



フリー・ソウル/クラシック・オブ・マリーナ・ショウ
マリーナ・ショウ
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The Blue Note Years
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