好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Style Council

80年代ホワイト・ファンクを見つめ直そう - Style Council 『Cost of Loving』

folder 1987年リリース、3枚目のオリジナル・アルバム。日本でも好セールスを記録した前作『Our Favorite Shop』から2年、第1期の総決算的なライブ・アルバム『Home & Abroad』 を挟んでのリリースになっている。UK2位でゴールド・ディスク獲得といった成績はほぼ前作並みだけど、”Shout to the Top”や”Walls Come Tumbling Down”などのわかりやすくキャッチーなシングル・ヒットが収録されていないため、印象としてはちょっと地味である。
 ちなみにUSでは最高122位と低迷しており、ブリティッシュ・インベイジョン真っ只中の80年代中期にしてはちょっと低い数字。ていうかPaul Weller、この作品、またはスタカンに限らず、全キャリアを通してアメリカ市場とのマーケットとの折り合いが悪いことで有名である。あれだけクセの強いCostelloやJoe Jacksonでさえ、ビルボード・チャートの上位に食い込んでいるのに、その無視されっぷりはどうにも謎である。
 その辺が気になったので、ジャム、スタカン、そしてソロのビルボード・チャートを調べてみたところ、まぁひどい扱いだこと。ジャム時代は『Sound Affects』が72位、スタカンでは『Cafe Bleu』の56位、それでやっと最高位である。微妙に音楽性は違うけど、ClashやらTears for Fearsやらがトップでブイブイ言わせてる中、彼らにもチャンスはあったはずなのだけど、頑固な英国気質が災いしたんだろうか。
 それにも増して、ソロ時代に至ってはデビュー以来、チャートインすらしない状況が続いている。すっかり大御所ポジションを確立した本国UKでは、今もアルバムが出ると上位に入るくらい安定しているというのに、この落差は極端過ぎる。まぁ今さら本格的なアメリカ進出しようだなんて、思ってないだろうし。

 これまでの第1期は、固定メンバーがPaulと鍵盤担当のMick Talbotのみ、ライブではサポート・メンバーを導入、レコーディング時は曲ごとにコラボを変えるフレキシブルな構成だった。多彩なジャンルを幅広く取り扱うよろず屋的な体制は、モッズ・パンクのイメージに囚われて息苦しさを感じていたジャム時代の反省から来るものだった。勝手に固定されたアーティスト・イメージをなぞる安定路線よりむしろ、それまで培ったキャリアをかなぐり捨てて新体制で臨むその潔さは、賛否両論を巻き起こした。普通に考えるなら、別プロジェクトや変名を使って異ジャンル交流を図るのが安全策なのだけど、そういった中途半端を許さないのがこの男である。
 とは言っても、多分2人でやれる事はやり尽くしたのか、それともよっぽど新メンバー2人が気に入ったのか、このアルバムからのスタカンはもう少しバンドっぽい4名編成になる。

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 1人はドラマーのSteve White。スタカンが解散して以降もPaulとは長らく行動を共にしており、よほど相性が良かったと思われる。デビュー以来、ほぼずっとPaul関連でしか名前を見なかったのだけど、近年はお互いマンネリ気味なのか、ソロ・ワークも多くなっている。とは言ってもその別バンドにはMickもおり、しかもPaulとの親交も続いているので、三者の関係は程良い距離感を保っている、といったところ。
 で、もう1人がバック・ヴォーカル兼時々メインに立つこともある女性ヴォーカルDee C. Lee。Wham! のバック・コーラスとして名が知られるようになったところをPaulがスカウトし、前作から準メンバー扱いで加入している。スタカンだけでなく、Paulの全キャリア中、1、2を争うクオリティの大名曲”Lodgers”での名演が注目を浴びることになり、正式加入に至った次第。
 そのソウル・ディーヴァの降臨にPaulはたちまち虜になる。あまりに気に入ってしまったため、彼女のために自らソロ・デビューの段取りに奔走すると共に、なし崩しのようにイチャイチャして入籍までしちゃったくらいの惚れ込みよう。まぁ解散後の音楽性の変化もあって、10年後には離婚してしまうのだけど。

 英国ロック・シーンにおいて不動の地位を確立したジャムに自ら終止符を打ったPaul、その後スタカンを結成した理由というのは、どれだけ多様な音楽性を展開しようとも、「The Jam」のクレジットでリリースするアイテムは、すべてモッズ・サウンドにカテゴライズされてしまうことにストレスを感じていたためである。
 Policeもそうだけど、ソウルやファンク、ボサノヴァまで幅広いジャンルをカバーしてゆくのに、トリオ編成ではどうしても無理が生じてくる。第一、メイン・ソングライターのPaulがいくら頑張ったとしても、他の2人はオーソドックスなロック以外への興味が薄いのだ。Policeと違ってリズム隊の2人とも、コンセプトに応じた柔軟なプレイもできそうにないし。
 そういったしがらみや制約の中で新たなサウンドを追求してゆくことに限界を感じ、もっと自由なメンバー構成で、バラエティに富んだ音楽をやってゆくために始めたのが、Style Councilというプロジェクトだった。
 デビュー・アルバム『Cafe Bleu』ではTracy thornがまるまる一曲ヴォーカルを取っていたり、ジャム時代には考えられなかったピアノ・バラードなど、ポスト・パンクの今後、イコール従来のロック・サウンド以外の方向性を示した楽曲が多く収録されていた。どの曲もコンセプトがバラバラでトーンが統一されていないため、一聴するととっ散らかった印象が強いけど、もともと初期はシングル中心のリリース戦略を強く打ち出していたため、ある意味狙い通りである。
 2枚目の『Our Favorite Shop』も基本は同様のコンセプト、それぞれ方向性の違うサウンドを持つシングルを集めたスタイルで構成されている。ここではほぼオリメン2名・新メン2名が中心となって音作りがされており、事実上バンド形態に近いものになっているけど、サウンドは当初のコンセプト通り、バラエティを持たせている。
 彼らが日本で知られるようになったのがこの頃、カフェ・バー文化から派生したシャレオツな音楽がもてはやされた時代である。ていうかPaul Wellerという存在自体、一般ロック・ファンにも認知されるようになったのが、この頃である。日本ではジャムの知名度なんてたかが知れていたし。

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 で、この3枚目、実はリリース当時から、そして今をもって評判は芳しくない。数々のシングル・ヒットが収録された前2作と比べて、キャッチーでわかりやすい曲が少なく、正直言って地味である。これまでのスタカン・サウンドが、色とりどりの多ジャンルなバリエーションを揃えていたのに対し、このアルバムはハードな質感のホワイト・ソウル一色で統一されている。従来のスタカン・ファン、そしてPaulの変節を受け入れられなかったかつてのジャム・ファン、どちらにもコミットしないサウンドである。
 そういった視点で見ると、いまだまともな再評価がされていない、かわいそうなアルバムでもある。

 後期ジャムでもその傾向はあったのだけど、少年期のPaulにとってのアイドルだったCurtis Mayfieldを始めとする、ソウル/ファンク系のアーティストへの溢れんばかりのオマージュを込めた楽曲が多くを占めている。それらを単なるオールド・スタイルで再現するのではなく、当時ダンス・フロアを席捲していたハウス・ビート、特にJam & Lewisからインスパイアされたサウンドが強く打ち出されているのが、大きな特徴。
 これまではトップ40ヒットを軸としたユニット運営だったのが、ここではダンス・シーンへ大きく舵を切っているため、まだ少し残っていたロック的要素がここでは完全に切り捨てられている。こういった潔さはジャム時代から変化がない。思い切ったことを平気でやる人なのだ。
 リリース当時はロック中心のリスナーだった俺、ほんの2、3回流して聴いたくらいで長らく忘れていたけど、あれから四半世紀が流れ音楽的嗜好も変化、レアグルーヴを通過した耳で聴くと、オイシイ所だらけのアルバムである。いま聴くといろいろと気づかされる部分も多い。あんまり聴いてなかった分だけ、新鮮な感覚で聴くことができるのは幸せだ。

 なので俺的にはこのアルバム、80年代のブルー・アイド・ソウル/ホワイト・ファンクの中ではマスターピース的な扱いになっている。
 年を経て、経験を積むことでしか見えてこないものだってある。前評判や世評だけに捉われず、フラットな耳で聴けば、面白い音楽はまだまだいっぱいある。
 あんまり頑なになって、同じ音だけ聴いてても損だよ。
 俺も気づくのは遅かったけど。


The Cost of Loving
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1. It Didn't Matter
 これまでの路線とは色合いの違う、クールなホワイト・ファンクでスタート。一応、日本ではマクセル・カセットテープのCMソングとして起用されて、そこそこ認知度があった。モノクロ・タッチの粗い画質のPV風映像はシャレオツ感満載だった。
 いまになって聴いてみるとサウンドはエレクトロ・ファンク、肝心のPaulのヴォーカルは変わらぬロック・テイストのため、このミスマッチ感が80年代を想起させる。普通にカッコいいのにね。
 シングル・カットされてUK最高9位。ちょっと地味過ぎたか。



2. Right to Go
 モデル・チェンジはさらに続き、ここではラップ・パートの導入。ここではほとんどPaulもLeeも出番は少なく、メインを張るのはオールド・スクール系のthe Dynamic Three。正直存在すら知らなかった人たち。Paul思うところの、いわゆるロック畑の人がイメージするラップ像を忠実に再現しているのが彼ら。これなら無理やりPaul自身でで無理やり叩きつけるようなヴォーカルをとっても面白かったんじゃないかと思うけど、そこを狙ったんじゃないんだろうな。
 「よりよい未来のためだ。権利を行使しろ。さあ、投票だ」とアジテートする内容は、直接的なラップという手段が必要だった。

3. Heavens Above
 メロウなサックスの調べが印象的な、このアルバムのハイライト・チューン。ファンク色を抑えた軽快なフィリー・ソウルは、あ、こんな曲も書けるんだ、と再発見してしまった。と言っても、気づいたのは20年くらい経ってからだけど。
 同じハスキーな声質のLeeとのデュエットは相性バツグン、演奏もまた、甘いソウルだけに流れずに、ギターの音はロックの響きになっており、ドラムもいい感じに走っている。後半アウトロの長くカオスなコーダが気持ちよくて、ここだけずっと聴いていたいくらい。ある意味、ここが最終形だったんだろうな。



4. Fairy Tales
 サウンドはダンサブルなファンクなのだけど、メロディやコード進行が結構動いてフレキシブルなので、楽曲自体は前作『Our Favorite Shop』期に通ずるものを感じる。ある意味ファンクとは力技なので、こういった技巧的な曲調とはちょっとマッチしづらい。ミスマッチ感を楽しむという考え方もある。
 と思ってたら、この曲だけなぜかCurtis Mayfieldがプロデュース兼ミキサーを務めている。なんで?

5. Angel
 このアルバム唯一のカバーで、1983年Anita Bakerのデビュー・アルバムに収録、US最高5位にチャートインした出世作。オリジナルはジャジーなばらーどだったのを、ここではサウンドのボトムを太く、Leeが主役だけど、Paulも時々デュエットに参加している。しっかし合わねぇなPaulの声、こういったシットリ系のナンバーだと。
 シングルで切ってもよさそうなものだったのに、1.のチャート・アクションがイマイチだったせいもあるのか、そのままに終わった。もったいない。



6. Walking the Night
 これも1、2枚目のアルバムのテイストに近いジャジー・ナンバーなのだけど、やっぱりリズムのボトムが太くなった分だけ、シャレオツ感よりはライブ感覚を重視した音作りになっていることが窺える。ホーン・アンサンブルもそれ風だしね。
 なので、ソウル/ファンクっぽさを追求したこのアルバムの中ではちょっと浮いている。俺的にもファンキーさがない分だけ思い入れは薄い。ここではPaulがほぼソロで歌ってるけど、この曲こそLeeも入れればぴったりだったと思うのだけど。でもそれじゃ出すぎか。

7. Waiting
 イントロがほとんど”Long Hot Summer”なミディアム・バラードは、一応2枚目のシングル・カットなのだけど、UK52位と大幅に順位を落としてしまったため、印象が薄い。あまりに露骨に”Long Hot Summer”なため、別にこれじゃなくてもいいんじゃね?感が強い。自家中毒の始まりだったのかもしれない。

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8. The Cost of Loving
 タイトル・ナンバーは、Mickのオルガン・プレイが冴えるクールなファンク・ロック・チューン。Paulよりはむしろリズム隊中心で作られたようなナンバーで、この時期のバンドの絶好調さが見えてくる。シャッフルを多用したサビ、一聴してMickとわかる決め異性の強いオルガンの音色。

9. A Woman's Song
 ラストはLeeによるドライな響きのソウル・バラード。シンプルなバッキングに乗せて、Leeの抑えたヴォーカル、そしてそれに応えるように歌を邪魔せず、それでいて効果的なフレーズを繋ぐMickの鍵盤プレイ。派手なハモンドだけじゃない、メロウな一面を見せている。




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80年代ロキノンでは正義の象徴だった - Style Council 『Cafe Bleu』

folder ガンコ親父英国代表であるPaul Weller、思い立ったら後先考えず突っ走るその性格は、デビューの頃から終始一貫している。JAM→Style Council→ソロ、どのキャリアにおいても大きな成功を収めたにもかかわらず、あまりそういったことに関心はないらしく、次のキャリアをスタートさせるのに躊躇するのを見たことがない。一旦活動に区切りをつけ、新たな形態で再スタートを切る時も、ほんと潔く行なっている。それまでにさんざん試行錯誤などして確立した音楽スタイルにもかかわらず、いとも簡単にリセットしてしまうのは、なかなかできることではない。
 特にJAM、ほんと人気絶頂の時に解散を宣言するなど、よほどのポジティヴ・シンキングか独裁者でしかありえない。まぁこの時もそれほど大事に考えていたわけでもなく、ただ単に純粋に新しい音楽がやりたかった、という極めてモッズ・スタイルに則っての行動である。

 そういったわけもあって、常に前向きの人であるがゆえ、過去のヒット曲は頑なにプレイしなかった人だったのだけど、ここ数年はさすがに丸くなったのか、ベスト盤やライブにおいても頻繁に過去の曲を取り上げることが多い。
 21世紀に入ってからのWellerの音楽的傾向としては、「進化」というよりは「深化」、斬新な未知なるサウンドの追求ではなく、これまで培ってきたクオリティの磨き上げの方に興味が向かっている。キャリアの長いミュージシャンなら誰でもそうなのだけれど、今さら目先の流行に惑わされるほどのキャリアではないし、また年齢的な点から見ても、残された時間が潤沢にあるわけではないことも、無意識の中にあるのだろう。

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 で、リリースされた当時、往年のJAMファンからは酷評され、アーバンでトレンディでスタイリッシュでスノッヴな連中からは大絶賛された、通称スタカンの本格的なファースト・アルバムが、これ。。実際はデビュー時にミニ・アルバムを発表しているので、デビューというには微妙なスタンスのアルバムでもある。そういった事情があったにもかかわらず、純正パンク・モッズ・ファン以外の幅広いユーザーを獲得したことによって、UK最高2位、ゴールド・ディスクに輝いている。
 ほぼ同時期に出てきたEverything But The Girlあたりのファン層と被ることが多く、ちょうどパンクの刺激的な音に疲れた層が、癒しのサウンドを求めてこの方面に流れて来たものだろう。

 パンク~ニュー・ウェーヴの流れでデビューし、WhoやSmall Facesから連綿と続く正統派モッズ・スタイルの3ピース・バンドとして、特にイギリス国内では絶大な人気をキープしていたJAM。Wellerの音楽的成長、方向性の変化によって、後期はモッズよりさらに遡った、60~70年代ソウル・ファンク系のサウンドに傾倒してゆく。音楽に対してシリアスな純正モッズ・バンドとしては当然の流れなのだけれど、あくまでパンク・バンドという枠組みの中で認知されているJAMという大看板では、音楽的冒険にも限界がある。メンバー間との実力・人気の格差による確執はもちろんのこと、彼らを取り巻く環境は巨大になり過ぎて、小回りが利かない状態になっていた。
 そういった現状に甘んじて、過去のレパートリーの拡大再生産に努めれば、Rolling Stones的スタンスでの活動スタイルもアリだったんじゃないかとも思えるけど、それを潔しとしなかったWeller、ほんと人気絶頂の最中に解散宣言を出す。そうすることが、彼には必要だったのだ。

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 で、一回すべての活動をリセット、JAM後期から構想のあった、ソウル・ファンク路線に加えて雑多なジャンルをミックスした音楽を実現するため、以前より交流のあったDexys Midnight RunnersのキーボーディストMick Talbotを迎えた新バンドStyle Councilが始動する。
 大方の予想は、それこそ後期JAMの延長線上、ソウル・ファンクをベースとした硬派なダンス・ミュージック系だったのだけれど、蓋を開けてみるとあらビックリ、微妙に別の方向性だったことに世間は当惑した。一応、ソウル・ファンク系のテイストやリズムはベースとしてあったのだけれど、彼らの雑食性はその範囲にとどまらず、ボサノバやジャズ、エレクトロ・ポップまで入ると、思惑とはかなり違ってくる。

 俺の世代にとって、彼らとのファースト・コンタクトはJAM解散後であり、単純にオサレ・バンドとして、そして通好みのバンドとして、一定の評価は得ていた。特に日本において彼らの評価は高く、あのロキノンでも一目置かれていた。今じゃ信じられない話だが、マクセルのカセット・テープのCMにも起用されていたくらいだったので、お茶の間での認知度もそこそこあったのだ。

 多分Wellerのコンセプトだったと思われるのだけれど、初期の彼らはシングル中心の活動であり、よってリリースのペースも早かった。当時は特にリミックスを施した12インチ・シングルが全盛で、彼らに限らず無数のバージョン違いが世にはびこっていた。当時、輸入盤をマメにチェックしていた者がどれだけいたのかは不明だけど、すべてのアイテムをコンプできた日本人は、ごく少数だったはず。
 
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 速報性が一つの利点であるシングルをハイ・ペースでリリースし、ある程度曲が溜まったらアルバムとしてまとめる、という流れ、これが次作『Our Favourite Shop』まで続く。こういった理想的なサイクルと、バンドとしてうまくまとまっていた状態とは、ちょうどシンクロしている。Wellerのビジョンと世間とのニーズがうまく一致していた、幸福な時代である。
 ただ、こういったサイクルはシステムとしては完成され過ぎているため、一度走ると簡単に止めることはできない。マグロの回遊と同じで、止まる時は死ぬ時なのだ。
 その後、彼らも2枚目以降は循環システムがうまく機能しなくなり、紆余曲折を繰り返した挙句、自家中毒のジレンマに陥ることになるのだけれど、このアルバム『Café Bleu』は、そういった杞憂もない頃、幸せな時代の作品である。


カフェ・ブリュ
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1. "Mick's Blessings" 
 カテゴリー的にはロックなのに、オープニングはMickによる軽快なブギウギ・ピアノのインスト。当初のコンセプトとして、Style Councilとは既存のバンド・スタイルとは違って、今で言うユニット形式、既存メンバーにとらわれない、幅広い音楽性を強調していた。軽いジャブとしては有効。

2. "The Whole Point of No Return" 
 で、次もロックとはかなり真逆のベクトル、柔らかなセミ・アコを奏でるWellerの、これまたソフトなヴォーカル。リズムを抜いたボサノヴァ・タッチの曲なのだけれど、終盤に向かうに連れて、次第にヴォーカルに熱がこもって行くのがわかる。

3. "Me Ship Came In!" 
 次はラテン・ナンバー。こちらもインストで、まるでキャバレーのビッグ・バンドのよう。いくらロックから遠く離れたいからといって、ちょっと極端じゃね?って気がする。無理やり幅広いジャンルを網羅しようとしてねじ込んだようなナンバー。う~ん、まぁブリッジ的な曲だけれど、このアルバムはとにかくブリッジが多い。

4. "Blue Café" 
 こちらもスロウなジャズ・ギター的なインスト。同時代で行けば、Durutti Columnの路線にとても近いものがある。ポール・モーリアのようなベタなストリングスに乗せて、これまたロックと正反対のベクトルへ無理やり向かおうとするWellerのスノッブ振りが、今となっては何か微笑ましい。

5. "The Paris Match" 
 前年に先行シングル的に、”Long Hot Summer”との両A面でリリース済み。今思えば最強タッグである、初期スタカンではなかなかのキラー・チューン。これまたスローなジャズ・ヴォーカル・タッチで、ヴォーカルもご存じEverything But The Girlの歌姫Tracey Thornが担当。こういったタッチの曲は、やはりWellerのスタイルに合わず、それを自覚してもいたのだろう。
 JAM時代にこの曲をやろうとしても、ヴォーカルが自身であるという縛りから抜け出せず、ここまでのクオリティでは仕上がらなかったはず。ここが、何でもフロント・マンがメインを張らなくてはならないバンドの宿命から解き放たれ、適材適所にメンバーを配置できる、フレキシブルなユニットとしての利点。
 あまりにアンニュイでトレンディな世界観ゆえ、日本でもこの曲に影響を受けて同名のバンドが結成されたのは、有名な話。
 


6. "My Ever Changing Moods" 
 引き続きキラー・チューン、UK5位、USでも自己最高である29位にチャート・インした、こちらも初期スタカンを象徴する名曲。ピアノのみを配したシンプルなバッキングに、エモーショナルなWellerのヴォーカルが乗るのだけれど、落ち着いた曲調にもかかわらず、こめかみに血管を浮き出させたWellerの横顔が思い浮かぶよう。
 本人的にも会心の楽曲だったらしく、後にアップテンポのロック・ヴァージョン、また映画のサントラ用にリアレンジされたビッグ・バンド・ヴァージョンも存在する、様々な表情を見せる曲でもある。



7. "Dropping Bombs on the Whitehouse" 
 タイトルだけ見るとやたら攻撃的で不穏なイメージがあるが、実際のところは軽快なジャズ風のインスト。ほぼギターの出番は皆無なので、こんな時、Wellerが何をしていたのかが、ちょっと気になる。多分、スタジオ・セッションを横目で見ながら、ブースの隅っこ辺りで邪魔にならないように踊っていたのだろう。

8. "A Gospel" 
 テクノとファンクとラップとをグッチャグチャにミックスして、いびつな形のまんま仕上げた曲。ちなみにここでWellerは珍しくベースを担当、ヴォーカルを取っているのは、Dizzy Hiteというラッパー。今にして思えばスタカンとしてリリースする必然性を感じないのだけれど、やはりWellerの意向で、幅広い音楽性をアピールしたかったのだろう。Council(評議会)というからには、一つのジャンルに固執するのではなく、グローバルな視点が求められるのだ。

9. "Strength of Your Nature" 
 こちらはWeller、Dee C. Lee共にヴォーカル参加、前曲同様、ジャンルを飛び越えたダンス・ミュージックなのだけれど、ノリとしてはこちらの方が良い。特にファンク色の強いナンバーなので、これはプレイしている方も楽しいはず。
 この路線はWellerも気に入っており、このサウンドをもっと深化させたのが、完成直後はレコード会社よりリリース拒否、10年以上経ってからようやくリリースされた『Modernism: A New Decade』に繋がってくる。ハウス・ビートの要素が従来ファンには拒否反応を示したらしいのだけれど、俺的にもこのくらいのファンク加減がしっくり来る。

10. "You're the Best Thing" 
 夜景を望むこじゃれたバーにも、また延々と続く海岸線のドライブにも、柔らかな木漏れ日の差し込むオープン・カフェにもフィットする、それでいてきちんとロックを感じさせる、まったりとはしているけれど、不思議な感触の曲。UK5位は妥当だけれど、USでも76位まで上がったのは純粋に、そんな曲自体の魅力によるもの。



11. "Here's One That Got Away" 
 10.同様、Wellerのファルセットとフィドルが印象的な、軽めのネオ・アコ・タッチの小品。この手のソフト・サウンドのわりには、意外にドラムがドスバスしてリズムが立っている。この辺がJAMのアコースティック・ヴァージョンといった趣きで、旧いファンにも受け入れられやすい。

12. "Headstart for Happiness" 
 この頃のスタカンは要所要所でDee C. Leeをフィーチャーしており、特にこの曲ではコーラスにとどまらず、Wellerと五分でのデュエット。初期コンセプトに則って、Wellerのワンマン・バンドではなく、曲調に合わせたサウンド設定、メンバー配置を行なうことによって、バラエティを持たせている。言うなれば、Style Councilという大きな枠組みの中で組まれたコンピレーション・アルバムが、この時期には実現している。

13. "Council Meetin'" 
 最後はMickのハモンドを大きくフィーチャーした、グル―ヴィーなインスト。JAMでは実現できなかった構成であり、凝り固まった現状を打破するという意味では、このアルバムは充分パンク・スピリットに満ち溢れている。




 これだけハイ・ソサエティさに満ちて、シャレオツ業界人に消費され尽くされたアルバムを作りながら、ライブでは一転、これまでのJAM時代と変わらずシャウトしギターを弾きまくり汗を掻き唾を飛ばしシャウトしまくっていたWellerの潔さは、同世代のアーティストの中でも群を抜いていた。
 ClashとPILが自家中毒を起こして袋小路に嵌まりつつあるのを横目で見ながら、逆にパンク・スタイルにこだわることはダサいことであると一蹴し、敢えてロック以外の可能性を追求するその姿勢は、反語的にロックな姿勢でもあるのだ。

 なんか最後、ロキノンの原稿みたいになっちゃったな。


Greatest Hits
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The Style Council: Classic Album Selection
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俺はいつだって、怒れる若者 - Style Council 『Our Favourite Shop』

51KQnRGfZkL 1985年リリース、UKチャート最高1位を獲得。バンドとしてのアルバムは2枚目(厳密には、ミニアルバム『Introducing』が最初だが、まぁ曲数の多いシングルのようなもの)。

 Steely Dan『Aja』レビューの際、リリース当時のUSチャートを調べてみたら、新しい発見もあって、今回もそれに倣って何となくUKチャートを調べてみると、これがなかなか面白い。
 国土が広いアメリカの場合、情報の伝播が今ほどスピーディではなく、地道なライブやラジオ・オンエアなど緩やかに広がってゆくので、瞬間的に売れるケースは少ない。ほんと時間をかけてじわじわと言った感じなので、いわゆるロング・セールスが多い。火が点くまでは長いのだけど、一度ブレイクすると、演歌じゃないけどそれこそ10年くらいはライブで食っていくことができる。レコード・セールスも大きな変動は少なく、ブレイクの度合いによっては、何か月も上位チャートをウロウロしてることだってある。Pink Floydの『The Darkside of the Moon』が延々10数年に渡ってチャート・インしていたというのも、人口の多いアメリカならではの現象だ。
 それとは逆に、アメリカと比べて国土はめちゃめちゃ狭く、人口も4分の1程度のイギリス。狭い分だけ情報の伝達度、例えばたった一度のテレビ出演によって、スターが生まれるというのは、大英帝国ならではの現象である。レコード・セールス自体も少ないので、絶対的な購買層は少なく、パイの奪い合いは熾烈で、チャート・アクションも一週ごとに結構変化がある。
 
 この年を代表するアルバムとして挙げられるのが、Bruce Springsteen『Born in the U.S.A.』、Phil Collins『No Jacket Required』、Dire Straits『Brothers in Arms』などといったところ。どれも全世界で1千万枚以上を売り上げたモンスター・アルバムだけど、こういった強豪たちの合い間を縫って、Style Councilが一週だけではあるけれど、イギリスでNo.1を獲得している。
 日本で言えば、AKBや3代目JSBらに挟まれて、KANA-BOONあたりがオリコンNo.1を獲るようなものである。前述した通り、UKチャートはほんと混沌としており、この年はほかにもSmithが1位になってるし、かと思えばMadonna『Like a Virgin』も大きくセールスを上げている。なんというか、いろいろと懐の深いチャートである。

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 歌詞の内容、思想、発言、メッセージが思いっきり左寄り、実際、出自も労働者階級系のアーティストであるからして、本来はもっとアングラな立場の人のはずである。それなのにこのPaul Weller、JAM時代からのへヴィー・ユーザーから、音楽番組と言えば「Top of the Pops」くらいしか見ないライト・ユーザーまで、幅広く支持され続けている。英国王室のゴシップネタが、普通にテレビのコンテンツとして機能している英国人気質、体制への反抗・揶揄自体が、ファッションや生活の一部となっている国民性から起因するものなのだろう。また、その生粋の英国気質をコンポーザーの立場から保持し続けている、Wellerの自己プロデュース能力にも起因する。
 
  根っこはモッズ・バンドの人である。
 正確には、パンク・ムーヴメントから派生したニュー・モッズの流れを汲んでいるので、ブラック・ミュージックへの造詣も深い。デビュー当初こそ、比較的パンクのフォーマットに則ったサウンドを披露しているのだけれど、、"Batmanのテーマ"、Kinksの"David Watts"のカバーなど、いわゆる色モノ系ソングをソリッドに自分たち流にリ・アレンジしている。この辺は持って生まれたセンスの問題と思われる。
 
 まだレパートリーの少ない若手バンドのHPのチェック基準として、カバー曲のセンスがよく用いられる。ただ通好みの楽曲だけでなく、例えばベタベタのスタンダード・ソングの調理の仕方、、「おっ、こう来たか」というアレンジの妙によって、その曲に新しい価値観が吹き込まれ、それに伴ってバンド総体のセンス・イメージも好意的に評価される。
 当然、そのためには特定のジャンルに偏らず、様々なジャンルの音楽を聴いていなければならない。すべてが当てはまるわけではないけど、「有能なミュージシャン」になる前に、「有能なリスナー」になる、耳を養う勉強はとても重要だ。いまどきまったく一からオリジナルを作り上げることは、不可能に近いのだから。
 
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 多分、ほとんどがWellerの趣味、と言い切って間違いないと思うけど、彼らも初期から積極的にカバーに取り組んでおり、前述の曲だけでなく、Wilson Pickett、James Brown、Small Faces、Curtis Mayfieldなど、ベタな定番から隠れ名曲まで、あらゆる角度から挑戦している。若気の至りのような、荒削り・強引なアレンジもあるけど、経験値を積み重ねることによって、次第にMPも上がっており、それが後期の傑作群"Precious"や" Town Called Malice"として結実する。
 そのうち3ピースでは限界が来たのか、それと同時に自らの音楽的ルーツ・嗜好が、ギター・ドラム・ベースのトリオ構成だけでは賄いきれなくなってきたことが要因で、人気絶頂の中、Wellerは潔く解散の道を選ぶ。

 後年の経緯を見てもらえればわかるけど、決して戦略的な人ではない。ただ、その時その時の自分の感情に素直なだけなのだ。
 今の自分がやりたいことをやる。やりたくないことはしない、とはっきり意思表示する。
 ある意味、パンク・ミュージシャンの基本スタンスであり、潔い考えなのだけど、共同作業・バンド運営という面で見れば、決して正しい選択ではない。せっかく商業的にも安定してきたところなのだから、と助言する者も少なからずいたと思われる。
「取りあえず1,2年休業すれば…」
「サイド・プロジェクトでソロ・アルバムでも出せば…」
 まぁ、多分言っても聞かなかったら、この結果になったのだと思う。

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 もともとフロント・マンであるWeller一人で持っていたようなバンドなのだから、しょうがない。彼がルールなのだ。
 とにかく、彼は一旦、すべてをリセットすることを決め、解散に伴う事後処理的ツアーを行ないながら、並行して次のステップの準備を進めてゆく。旧知の仲であり、気の合ったMick Talbotを仲間に引き入れ、2人組ユニットStyle Councilを結成した。

 それだけの情熱を持って始めたのが、これまでの純正JAMのファン層からは最も遠い音楽、トレンディーでシャレオツなソフト・サウンドの構築である。
 こじゃれた細身のスーツ(まぁこれはある意味モッズ・アイテムのフォーマットとも被るけど)か、時には業界人を思わせるサマー・セーターを身にまとい、ピッカピカに磨き上げた革靴は捨てて、カジュアルなローファーに履き替えた。
 ギターの音からは歪みが消え、Wellerのヴォーカルからも破裂音、シャウトは少なくなった。ピアノ、時にはストリングスを主体とした、ジャズ、ソウル、ボサノヴァなど、ロック・ビート以外をベースにしたサウンドは、80年代という時流とうまくマッチして、バブル景気に湧きつつあった日本でも大きな支持を受けた。
 
 一聴すると、思いっきり大衆に迎合したイージー・リスニング、耳当たりの良いポップ・サウンドが主流なのだけど、サウンドに反して歌われる内容はかなり重く、当時のサッチャー政権への批判に始まり、鬱屈とした労働者問題などを積極果敢に取り上げることによって、一時はソッポを向いた旧JAMファンの支持も次第に回復した。


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1. Homebreakers
 まるでスパイ映画のようなオープニング。街中の喧騒から始めり、70年代ソウルっぽいサウンドに乗せて、サッチャー政権によって失業・貧困の被害を被った家族の悲劇を、Weller 朗々と歌い上げる。低音のCurtis Mayfieldと例えればわかりやすい。
 
2. All Gone Away
 さわやかな昼下がりを思わせる、ネオ・アコ風味の軽いアコギが奏でられる曲だけど、寂れた商店街とブルジョア階級との対比を皮肉る、やっぱり政治批判を込めたナンバー。
 
3. Come To Milton Keynes
 2.同様、ネオ・アコ路線にちょっぴりノーザン・ソウルのエッセンスを加えたナンバー。
 ベッタベタなストリングスとホーンの響きが、一歩間違えれば無難なムード音楽っぽくなってしまうところを、Wellerのヴォーカルがうまく締めている。
 UKシングル最高23位。
 
 

4. Internationalists
 間奏でMickのオルガンが全開する、アルバムの中では極めてセッション的な曲。かなりファンク成分を強くしたギター・カッティングといい、JAMファンでもとっつきやすくなっている。Wellerのヴォーカルも破裂音が多く、かなりシャウトしまくっている。
 タイトル通り、歌詞もやたらと政治的。彼らに限らず、この時期のUKアーティストのサッチャー政権アレルギーは、相当なものだ。
 
5. A Stones Throw Away
 一転して、弦楽四重奏をバックに、Wellerが朗々と歌い上げる佳曲。革命勢力を唄った、相変わらず左寄りの歌詞。
 
6. The Stand Up Comics Instructions
 Style CouncilはPaul Wellerのソロ・プロジェクトと思われがちだけど、なぜこのバンドにMick Talbotが必要だったのか、それを思い知らされる一曲。
 まるまるアルバム一枚を一から作り上げる技量はないけど、ちょっとしたエッセンスの投入、サウンド・メイキングについては、一流のセンスを持っている。全体の枠組みを俯瞰して、ここにひと味添える、ということができる、決して自分から前には出ないけど、コンポーザーとしてはWeller以上の時がある。
 最後はちょっとDoors"Strange Days"っぽく終わる。
 
7. Boy Who Cried Wolf
 シンセ・サウンドをベースに作られた、同時代のa~haやHoward Jonesなどと比較しても引けを取らない、傑作ポップ・ソング。
 バンドとしては珍しいくらい、センチメンタルなラブ・ソング。なのにどうして、UKではシングル・カットされなかったのかが不思議(ニュージーランドでは最高21位)。

 

8. A Man Of Great Promise
 サウンドとしては比較的珍しく,正調8ビートのネオ・アコだけど、内容は故郷の亡くなった友人の苦悩について。
 
9. Down In The Seine
 バンドネオンをバックに、おフレンチなワルツだけど、内容は中二病。
 
10. The Lodgers (Or She Was Only A Shopkeeper's Daughter)
 彼らの全レパートリーの中でも、俺が一番好きな曲。
 とにかく、Dee C. Leeのヴォーカルが気持ちよく、しばらくヘビロテになっていた時期がある。
 ごく初期のアシッド・ジャズを少しハード目にしたサウンド、ややハスキー気味な声質がちょうど好みに合うせいか、彼女のコーラスが聴けるナンバーなら、自分的にハズレはほとんどないくらい。
 これもいわゆる格差社会についての歌なのだけど、そんなめんどくさいのは抜きにして、後に公私ともにパートナーとなる、WellerとLeeのダブル・ヴォーカルを堪能してほしい(でも別れちゃうんだけどね)。
 
  

11. Luck
 ノーザン・ソウル・スタイルの、バンド・セットでの佳曲。親しみやすいポップ・ナンバーで、歌詞もサウンドも及第点ではあるのだけれど、あまり印象には残らない。悪い曲じゃないんだけどね。どこか一つ惜しい気もする。
 
12. With Everything To Lose
 元曲は、後日サントラの一曲として発売される"Have You Ever Had It Blue"、歌詞とアレンジが別バージョンになっている。スイング・ジャズ風アレンジの元曲に比べ、こちらはボサノヴァ風味。
 灼熱の夏のコテージの涼しい日陰を思い起こさせる、浮ついてこじゃれた感じ、バブル時代を通過してきた俺としては、結構好きな世界観。
 
13. Our Favourite Shop
 Mickのオルガンがたっぷり堪能できる、SpeedometerやNew Mastersoundsなど、現代ジャズ・ファンクの先駆け的な曲である。
 この人に関しては、ほんとメインを張るより、誰かのバックで弾いてる方が、すごくセンスが映える。インストだとスパイスだけ目立ってしまって、満腹感が出ないのだ。
 
14. Walls Come Tumbling Down
 UKシングル・チャート最高6位。ファンの中でも1、2を争う、「Style Council’s Soul Music」とでも言うべき傑作。
 イントロのハモンドから、高らかに響き渡るホーン・セクション、眉間に皺を寄せて「壁を崩せ!!」とがなり立てるWeller。ここまで大人しくしてたのは、ここで一気に爆発させるためだ!!、とでも言わんばかりに、こめかみの血管の青筋がうねり捲っている。
 同じく、ここぞとばかりにバカスカ叩きまくるSteve White。そして、そんな彼らを見守るかのように包み込む、Leeのバック・ヴォーカル。ここでは誰もが、アルバム中で一番の仕事をしている。
 ただ、このアルバムによって、Style Councilの基本フォーマット並びにバリエーションは完成されてしまい、この後の新展開はグッとレベルが下がる。バンド継続のため、サウンドの細分化に走ることによって、Style Council、そしてWeller自身も迷走状態に入る。

 

15. Shout To The Top
 多分、彼らの全楽曲において、日本での認知度は一番高いはず。聴けば、「あぁ、あれ」と思い出させる、しばらく平日朝8時のオープニング・テーマとなっていたナンバーである。佐野元春との同時代性(類似性)はよそでさんざん語り尽くされているので、ここではUKシングル・チャート最高7位とだけ付け加えておく。




 前述したように、この後彼ら、特にWellerは、JAMの時同様、拡大再生産の道は取らず、新しいサウンドを求めて探求者の道を選ぶ。
 突然ハウス・ミュージックに目覚めて気張って作ったはいいけど、あまりのキャラクターの変化にレコード会社が発売拒否、アルバム丸ごと1枚ボツにされたり(『Modernism』)、多分復活したBryan Willsonに影響されたのか、ピアノ・オーケストレーションなアルバム(『Confessions of a Pop Group』)を作り、あまりの地味な内容のため、大幅にセールスを落とすなど迷走し、結局6年あまりの活動期間で解散する。
 
 その後、ソロになってからのストーリーも、いかにもWellerらしいのだけれど、それはまた後日。



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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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