好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Speedometer

世界のジャズ・ファンク・バンド巡り:ちょっと寄り道 - Martha High & Speedometer 『Soul Overdue』

folder アメリカが産んだファンク・ゴッドねえちゃんMartha High、フィーチャリング扱いで参加したSpeedometerのアルバム『Shakedown』が好評だったため、今度は自身がメインとして、往年のソウル・ファンク・ナンバーを取り上げたカバー・アルバム。
 日本の音楽シーンで例えれば、近年、石川さゆりが若手ロック・アーティストとコラボしてたケースと近いのだけど、積極的な新陳代謝が行なわれないジャンルである演歌というカテゴリーでは、積極的な異ジャンル交流が難しい面もある。抵抗感だけならまだしも、今ではむしろ無関心の方が先立ってしまい、イマイチ盛り上がりには欠けている。
 そこら辺、英米においてはエンタテインメントとしてうまく機能しているのは、ちょっと堅苦しい言い方なら、ベテランに対する若手の敬意、過去の資産に対するリスペクトの度合いによるものなんじゃないかと思う。日本の芸能界だと、年功序列がキッチリし過ぎて、事に至るまでの手続き、根回しの方でエネルギーが使われちゃうしね。

 で、今回のMarthaのアルバム、セレクトされたのは比較的メジャーな曲、特に帝王James Brownの息のかかったナンバーが多いのだけれど、ほぼバック・バンド的スタンスであるSpeedometerも、存在感を出すためなのか、自作のリメイク・ヴァージョンを2曲収録している。ここら辺は現役バンドとしての意地もあるのだろう。じゃないと、ほんとコラボじゃなく、ただのバック・バンドで終わってしまう。

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 60年代初頭に無名のコーラス・ガール・グループでデビュー、当時からすでに俺様状態だったJBに見初められてからは、基本裏方に専念、かなり長期間に渡ってバック・コーラスを務めていた。まぁJB的にもスランプだ拘留だといろいろあったせいもあって、断続的ではあるけれど、その関係は30年もの長きに渡っている。それだけ声質の相性が良かったこと、またJB的には使い勝手が良かったのだろう。

 Lyn Collins、Vicki AndersonらJBコーラス3人娘の中において、Marthaの知名度がイマイチ薄いのは、やはり決定的なヒット曲・持ち歌がない点が一番大きい。ヴォーカライズ的な面で言えば、Marthaも他の2人と比較して、特に劣るわけではない。ていうかさほど変わりはない。長年JBに鍛えられただけあって、ステージ・パフォーマンスは一流だし、ディーヴァとしての存在感も充分ある。
 ただLynが”Think”、Vickiに”Message From A Soul Sister”という必殺キラー・チューンがあるにもかかわらず、Marthaにはコレといった代表曲がない。
 シンガーのタイプとしては3人とも大差がないにもかかわらず、何ゆえこれだけソウル/ファンク史においての扱いが違うのか。
 一番の要因として、ソロ・デビューの時期の問題が大きい。

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 前者2人が70年代初頭、ファンクの全盛期にソロ・デビューした事によって注目度も高かったことに対し、Marthaのデビューは70年代も終盤のディスコ・ブーム全盛期、つまり、ソウル/ファンク・ミュージック的には暗黒時代である。しかも所属レーベルがサルソウル、マイアミ・ソウル系を得意とした、傾向的にディスコ/ダンスに強いのが特色であり、ディープ・ファンク系寄りであるMarthaのキャラクターとは、微妙なズレがある。
 満を持してのソロ・デビューということもあって、Martha自身のキャラクターを活かしたサウンドに仕上がって入るのだけれど、レーベルの特性上、そこを充分活かしたプロモートを行なっていたかといえば、それはちょっと微妙。

 一方のSpeedometer、前回フィーチャリング参加してもらった恩返しなのか、今回はハウス・バンドの如く手堅いバッキングに徹している。もともとクセのないプレイ・スタイルが持ち味だけど、そのフラット感が今回はMarthaの個性をより一層浮き立たせ、絶妙のコラボとなっている。
 実はMartha、彼ら以外にも若手バンドからのラブ・コールが多く、フランスのジャズ・ファンク・バンドShaolin Temple Defendersともコラボしており、ガッツリ濃厚なライブ・アルバムをリリースしている。Speedometerとのスタジオ・アルバムとは一味違って、臨場感あふれる演奏、リミッターが外れたようにグルーヴしまくるMarthaといい、こちらもオススメの一品。


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01. No More Heartaches
 オリジナルはVicki Andersonが1970年にリリースしたシングル。ちなみにJB制作によるもので、共同制作者であるBobby Byrdは、JBのバック・バンドだったFamous Flames出身、しかも当時のVickiの旦那でもある。
 オリジナル・ヴァージョンと聴き比べてみると、まんまストレートなカバー。この頃のJBファンクは完成の域に達しており、ほとんど構造的にいじれないことがわかる。



02. Trouble Man
 オリジナルはもちろんMarvin Gaye。彼のオリジナル・ヴァージョンはサントラ中の1曲という性質上、インストの比重が強く、当時のMarvinの作風が色濃いジャズ・テイストが強いのだけれど、Speedometerはソリッドなソウル寄り、ギターもルーズに響く。Marthaもこの有名なナンバーを自分のフィールドに力技で引き込み、まるで最初っからの持ち歌であるように、奔放なディーヴァを演じている。
 後半でブルース・スケールを多用するのは、Speedometer的に珍しい。やはりMarthaのアーシーなヴォーカルが、彼らからそうしたプレイを引き出したのだろう。

03. Never Never Love A Married Man
 作詞作曲がBerndt Egerbladh & Francis Cowanという、初めて聞いた名前。一応ググってみてヒットしたのが、1970年代スウェーデンで活動していたプログレッシヴ・ジャズ・ロック・バンドHeta Linjenのメンバーによるナンバーらしい。「らしい」というのは、どれだけ検索してもそれ以上の情報も見当たらないし、第一俺自身、ヨーロッパのプログレにはほぼ興味がないので、それ以上突っ込んで聴く気がないため。
 とは言っても、このトラックだけ聴いていると、とても小難しいジャズだプログレをベースにしているとは思えない、強力なファンク・チューンである。こういった曲を発掘して来れるのが、やはりバンドとしての地力の強さ、知識量のハンパなさであり、そしてこれもまた自分のスタイルに引き込めてしまうMarthaのポテンシャルの高さである。

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04. I'd Rather Go Blind
 アメリカの有名なR&B・ブルース・シンガーEtta James1968年のスマッシュ・ヒット。ビルボード最高23位ということで、ロック全盛だった60年代末期にしては、そこそこ売れたポピュラー系のヒットである。
 一聴してカントリー系のブルース・ナンバーであり、R&B臭はほとんどない。Etta James自体、今回初めて聴いてみたのだけれど、何ていうか平凡なバラードを歌うRay Charlesの作風に近い。これも特別悪い意味で書いてるんじゃないけどね。
 俺的にはオリジナルより、ベースがブンブン効いているSpeedometerヴァージョンの方が好き。
 プレイ的に特筆すると、終盤のエレピ・ソロは絶品。



05. No Man Worries
 2007年リリースSpeedometerの3枚目『Four Flights Up』収録曲のリメイク。こちらに収録されたヴァージョンは、オケを少し引っ込ませてMarthaのヴォーカルを前面に出した、アナログっぽいミックス。
 ジャズ・ファンク・シーンでは引っ張りだこのRia Currieのヴォーカルはメリハリがあり、ちょっと硬質なテイストだけど、これはまぁ好みの問題。おれはどっちもアリかな。

06. Sunny
 オリジナルはBobby Hebbというソウル・シンガー1966年のヒット曲だけど、俺が知ってたのはStevie Wonderの方。奥田民生もカバーしてたのも、今回初めて知った。もともとゴリゴリのソウル・ナンバーではなく、ちょっとジャズ・テイストの入った曲なので、ここでもしっとり、スタンダード・ナンバーっぽいヴォーカルを聴かせている。Speedometerもラウンジっぽい、ムーディーなプレイ。

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07. You Got It
 再びEtta Jamesのナンバー。オリジナルは1968年、チェスからのリリース、加えて作曲がDon Covayということで、かなりAretha Franklinを意識した作りになっている。04.のようなまったり感は薄く、もっと前のめりでガツガツした印象。これはこれでカッコイイ。
 で、ここでのMarthaは80%くらいの出力具合。勢いだけでなく緩急をつけ、曲と演奏を楽しんでいる。Speedometerも往年のアトランティック・ソウルを意識しているのか、ホーンを前面に置いたアレンジメント。

08. Save Me
 で、ここでそのAretha。1967年有名曲のカバーだけど、昔から俺、Arethaはちょっと苦手である。これまで何度もトライしているのだけれど、イマイチしっくり来ないのだ。ソウルの歴史的にArethaの存在はかなりデカいし、彼女をフロンティアとする女性シンガーも好んで聴くのだけれど、思い入れは薄い。好みの問題なんだけどね。
 MarthaもSpeedometerもここではかなり気合いが入っており、そのリスペクト具合、MarthaならArethaに、Speedometerならマッスル・ショールズの面々への想いが伝わってくる。
 俺的にも、ちょっとモッサリしたオリジナルより、こちらのヴァージョンの方を好んで聴いている。

09. You Got Me Started
 再びSpeedometer、今度は2005年リリースの2枚目『This Is Speedometer Vol. 2』から。オリジナルは05.同様、Ria Currie。
 かなりブルース要素の強いナンバーで、ルーズな音色のギター・ソロの導入部が、アメリカ南部の香り、07.08.と続いてマッスル・ショールズ系のサウンドで構成されている。
 こちらはしっとり、チーク・タイムっぽさを連想させるムード、とここまで書いてみて、そういえば今どきの人って、チーク・タイムって言葉知ってんのかな、と思い直してみた。伝わるのかな。

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10. Mama Feelgood
 JB3人娘より、今度はLyn Collins1973年のシングル・ヒット。この辺はミックス・テープやサンプリングでも頻繁に使用されているので、断片的なフレーズくらいは聴いたことがある人は多いはず。あのヤカンが沸騰したようなホーンの嘶きとかは特徴的。
 基本、演奏はオリジナルに則った印象だけど、円熟のヴォーカルにリードされることによって、いつものクールなSpeedometerとは違い、どファンキーなマジックが働いている。これをライブで目の当りにしたら、熱狂の渦なんだろうな、きっと。
 しかし、どの映像を見ても変わらぬゴッドねえちゃん振り、やっぱ日本で対抗できるのは和田アキ子くらいだな、こりゃ。それかSuperflyに十年くらい海外武者修行させるか。



11. Dragging Me Down
 前回レビューしたSpeedometer『Shakedown』収録曲。ていうかそのまんま。CDでしか聴いてないけど、アルバム全体のテイストに合わせて、初出よりも音が太く、アナログっぽい響きのミックスになっている(と思う)。
 煌めくほどの名曲の中でも遜色ないオリジナル・ナンバーであり、そこがMarthaとの相性の良さもあるのだろう。普通にカッコイイし、多分JBレビューの中で歌われても、違和感ないだろう。



 年齢は非公表だけど、多分70歳前後のはず、それでも世界中からオファーが絶えず、どこかのクラブやどこかのフェスで存在感を見せつけている。JB3人娘の中では比較的遅咲きだったけど、未だ現役で歌い続けていられるというのも、シンガーとしては、幸せなことだろう。
 Speedometerもこれ以降、シングルと単発的なライブが中心となっており、まとまった形のアルバムはリリースしてないけど、まぁちょこちょこ元気な顔を見せてくれてはいるので、そのうち何かやってくれるんじゃないかと思われ。




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世界のジャズ・ファンク・バンド巡り:UK編 - Speedometer『The Shakedown』

folder 好評かどうかは不明だけど、半分意地で続けているこの「世界のジャズ・ファンク・バンド巡り」シリーズ。フランスのElectro Deluxeから始まり、思い起こせばオーストラリア、オランダ、ドイツと、ポピュラー音楽の中では決してメジャーではない国の紹介が続いているので、今回はもう少し大きなマーケット、イギリスで活躍するバンドのご紹介。

 イギリスはもともと、アシッド・ジャズやレアグルーヴ・ムーヴメントの発祥の地、純粋なロックやポップスばかりが大きくフィーチャーされてるけど、それに限らず、他ジャンルとのクロスオーバー、ミクスチャーされた新しい音楽も日々生まれている。
 ていうか、もともと日本と同じで島国で、資源が少ない代わりに輸入加工文化が発達したため、アメリカ南部のディープ・ブルースをコマーシャルに消化してBeatlesやRolling Stonesが世に出たように、ざっくりした素材を加工して世界中に発信することに長けている。メジャー・シーンでの影響力はだいぶ薄れたけど、それでもテクノ・ハウス・ダブステップ・アンビエント・エレクトロなど、あらゆる分野で活躍するアーティストを数多く輩出しているのは、さすがかつての宗主国である。

 で、UKジャズ・ファンクの特徴として、これまた裾野は幅広く、レアグルーヴ系やファンクをベースとしたソウルフルなアーティストもいれば、前述のエレクトロ系とのコラボによって、むしろジャンルレスとも言える音楽を生成しているアーティストもおり、それはもう人さまざま。今回紹介するのは、ジャズとファンクの混合比がほぼ同じくらい、ヴォーカル・ナンバーもあれば純粋なインストもありという、現代ジャズ・ファンク・バンドの基本フォーマットにカテゴライズされるバンド。

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 で、ここからSpeedometerのご紹介。2004年デビュー、 これまで5枚のオリジナル・アルバムをリリースしている。ライブ・アルバムや他アーティストとのコラボ、日本限定のベストも含めると、結構なアイテム量になる。細々とフットワークの軽いバンドである。
 それなりに長い経歴のバンドなので、メンバーの入れ替えもそれなりにあるのだけど、現在のメンバー構成としては、
 Leigh Gracie (G)
 Rich Hindes (B)
 Chris Starmer (Dr)
 Andy Fairclough (organ/key)

 が主要メンバー。
 他にホーン・セクションとして、
 Simon Jarret (sax)
 Matt McKay (sax/flute)
 Neil Penny (trumpet)
 Matt Wilding (per)

 らが控えている。
 さらにヴォーカル隊として、Ria CurrieMyles Sankoが加わると、総勢10名の大所帯となる。書くだけで疲れるな、こりゃ。

 もともとはジャズ好きの同好の士が集まって、日々小さなクラブで小ぢんまりとしたセッションを行なっていたのが、徐々に評判を得ていつの間にデビューにつながったという、ある意味理想的なサクセス・ストーリ―、身の丈に合った過程を踏んでいる。大規模な世界ツアーや、とにかくitunesでダウンロードされまくられたい、など熱い野望を密かに胸に抱いている、といった感じでもなさそうなので、このまま息の長い活動を続けてもらえたら、と思ってしまうのはリスナーの勝手かも。
 でも、このままのポジションをキープしながら、音楽一本で食っていける状況だったら、それはそれで満足したミュージシャン人生じゃないかと勝手に思ってしまう。

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 HPやFacebookの様子では、オリジナルのアルバム・リリースはどうやら今年後半か来年辺りになりそうだけど、それでも不定期ながらライブのお知らせ、ヴィンテージ・ファンク・マザーMartha Highとのコラボ、最近ではあのPharrell Williams『Happy』のラウンジ・ミュージック風カバーのシングル・リリースなど、地味に話題は尽きない。
 この『Happy』を、どういった経緯でカバーするに至ったのか、メロディ自体そのまんまのストレートなカバーなのだけれど、特別レコード会社が強制したとも思えないし、まぁ半分シャレみたいなものだと察する。狭いジャズ・ファンク村の中だけに納まらず、一応それなりに流行の目利きもあるのだけど、それが変な売名行為やイヤミに映らないのが、このバンドのいいところでもある。
 


 日本でもP-Vineの頑張りによって、独自のコンピレーション・アルバムもリリースされており、このジャンルの中でもファンは比較的多い方なのだけど、やっぱりP-Vine単独の力だけでは、どうにも大きなムーヴメントを興せそうにもないのは確か。
 P-Vineが悪いわけではない。気づくことのできない俺たちの怠慢なのだ。


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1. Again and Again featuring Natasha Watts
 NatashaはUKソウル・シーンで頭角を現わすディーヴァの一人。オープニング・ナンバーはまんまMarlena Shawの"Woman of the Getto"へのリスペクト。ここまでやってしまうと、もはやパクリではなく、ほんと愛情あるインスパイアと言っていいはず。間奏のフルートが独自性を演出しているが、あの「ガンガンゲンゴガンガンガガゲゴンゲンゴン」(ほんとにこう歌っている)のフレーズも忠実に再現。
 


2. La Nueva Manera featuring Snowboy
 ラテン・フレーヴァーあふれる、それでも基本リズムはファンクの軽快なインスト・ナンバー。SnowboyはUKを拠点として活躍する、アフロ・キューバン系のパーカッショニストで、本名はMark Cotgrove。

3. You've Made Me So Very Happy featuring Ria Currie
 正規メンバーRiaもまた、ソロとしてもUKで活躍する白人ソウル/ファンク・シンガー。ずっしり太い声質だが、写真を見るときれいで上品な奥さん、といった風情。元のヴァージョンはBrenda Hollowayというモータウンの女性シンガーだが、リリース当時はパッとせず、むしろ後にカバーしたBlood, Sweat & Tearsの方が有名になった。このトラックもBS&Tのヴァージョンをベースにしており、ファンキーながらもポップな仕上がりになっている。

4. Lover and a Friend featuring Myles Sanko & Ria Currie
 ヴォーカル隊二人による男女ツイン・ヴォーカル。何となく出だしがSam & Daveを思い起こさせる、60年代スタックス風味のディープ・ソウル・ナンバー。ギターやホーン・セクションもそれを意識しているのか、どこか泥臭く聴こえる。

5. Orisha (Bata Interlude) featuring Snowboy

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6. Orisha featuring Snowboy
 Snowboyによるアフロ・ビート・テイスト満載のパーカッション・ソロの後、ラテンとファンクとをごちゃまぜにしたノリノリのインスト。多くのジャズ・ファンク・バンドとの大きな違いは、やはりこういった曲でのホーン・セクションの使い方の上手さにあると思う。特にSpeedometerは自前でホーン隊を抱えているため、意思疎通なども図りやすいのだろう。こういったイレギュラーなナンバーでも、充分安心して聴くことができる。

7. The Shakedown (Say Yeah) featuring Martha High, Myles Sanko & The Stilhouettes
 のちにアルバム丸ごと一枚コラボすることになる、ソウル/ファンク界のレジェンド的ディーヴァMarthaを迎えたタイトル・ナンバー。
 これはもう、ただただ圧巻。激動の時代を生き抜いてきたシンガーのダイナミックなオーラのほとばしりが生々しい。これはMarthaにバンドが圧倒されている、という意味ではなく、Marthaのパワーに引き込まれたバンド全体が、持てるパワー以上の力を発揮している、ということを言いたいのだ。
 


8. Rubberneck
 UKファンクの特徴が良くも悪くも現われている曲。ギターが流暢で、ホーン・セクションも統制が取れている、リズム隊もすごくノッテいる。破綻もない。でも、それが仇となってしまう場合もある。あまりにアクが少なすぎて、下手するとただの「ファンクっぽいフュージョン」として扱われてしまう危険性も孕んでいる。
 New Mastersoundsなんかもそうだけど、どうも小さくまとまりすぎてしまう場合があり、そこがいまいち本格的なブレイクに繋がらない一因では、と思ってしまう今日この頃。

9. Dragging Me Down
 Martha再び登場。やはりこの姐さんが出てくるだけで、バンドの雰囲気が一変する。もうすべてがMarthaの世界、バンドのプレイもMarthaによって実力以上に煽られている。逆に返せば、そこがバンドとしての越えられない壁だったんだろうけど。
 


10. Take Me On
 アルバムの曲順としては地味な位置だけど、あまりファンクっぽさを感じさせない、ミドル・テンポの疾走感が気持ちいい。これまでMarthaの影に隠れていたRiaのベスト・トラック。変にMarthaスタイルを追うよりも、彼女にとってはこういったロッカ・バラード風の曲が合ってるんじゃないかな、きっと。

11. Dragging You Down
 9.のアンサー・ソングをMylesのヴォーカルで。まぁまともに立ち向かっても勝ち目があるはずもないので、こちらもミドル・テンポのスタックス・スタイルのソウル・ナンバー。内輪のメンバーのため、バンドもリラックスしたムード。それでもカッチリ構成しているのが、UKファンクならでは。

12. Kool To Be Uncool
 最後はジャズ・テイストを強くしたインスト・ナンバー。最後にこれを聴いてみると、アルバム全体がひとつのショーとして、きちんと構成されていることに気づく。
 例えば真夏の野外フェスの夕暮れ時、メイン・アクト前の登場で、まだそれほど会場もあったまっておらず、比較的のんきな空気が漂ってる頃。缶ビール片手にまったり、そしてたまに立ち上がってフラフラ体を揺らしながら聴いていたい、そんな曲。
 



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世界のジャズ・ファンク・バンド巡り:UK編 - Speedometer feat James Junior『No Turning Back』

_SL1500_ 最近音沙汰ないけど何してんのかなぁ、と思ってたら、何の前触れもなく突然リリースされたSpeedometerの新作アルバム。前回レビュー時には、ユルいラウンジ風カバーのPharrell Williams 『Happy』がリリースされて、まだ本気出してないよなぁ、と思ってた矢先の出来事である。もしかすると、ただ単に俺がチェックしてなかっただけなのかもしれないけど、突然の急展開と思ってしまったのは、多分俺だけじゃないはず。

 前回のMartha Highとのコラボ同様、今回も単独名義ではなく、若手黒人男性シンガーJames Juniorとのコラボ作というスタイルになっている。これまで単独名義アルバムの構成パターンとして、ほぼ半数がインスト、もう半分で複数のゲスト・ヴォーカリストをフィーチャリングしてのヴォーカル・ナンバーという流れだったのだけど、今回はMartha同様、インストは2曲のみ、Jamesがほぼ出ずっぱりで歌っており、ちょっと泥臭いネオ・ソウル系、バラエティ色あふれたソウル系のヴォーカル・アルバムに仕上がっている。
 ナショナル・チャートのサウンドと比較しても、何ら引けを取らない作りになっており、「もしかしたら売れちゃうんじゃないか」とも思ってしまったけど、相変わらずのマイペースは変わらず、チャートの隅っこにすら顔を出す気配はなさそうである。ま、しょうがないか、レーベルがFreestyaleだし、日本じゃP-VINEだし。日本盤が出るだけ良しとしなくちゃな。

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 で、今回抜擢された謎のシンガーJames、詳細な情報がほとんどない。P-VINEはもちろん、この手のジャンルに強そうなネット・ショップのインフォメーションも、「新進シンガーである」という以上の事は書かれていない。
 なので自力でいろいろ調べてみると、10年くらい前からMyspaceに音源をアップして地道な売り込みを行なっていたようだけど、まぁアマチュアに毛が生えた程度の活動状況。もちろん、パッケージとして音源がリリースされるのは、これが初めてである。もしかすると、あまり公表されていないだけで、ほんとは実績のあるアーティストなのかもしれないけど、わかったのはこれくらいである。
 こうして書いてると、何か大したシンガーじゃないように思われてしまいそうだけど、いやいやジャズ・ファンク界はめちゃめちゃ裾野が広いため、無名でも熟練のテクニックを持つ者は、それこそ腐るほどいる。ましてやUK有数のジャズ・ファンク・バンドSpeedometerに見込まれたくらいだから、相応のポテンシャルはある。
 実際、聴いてもらえばわかってもらえるはずだけど、バンドと一歩も引かず渡り合い、曲によっては充分主導権を握っているものもある。

 数多あるUKファンク・バンドの中でも、Speedometerは極めてオーソドックスなスタイルのバンドである。全体的にファンク・テイストが濃いUKにおいて、正統派のジャズ成分が多いサウンドを展開しているので、へんなクドさや独特のクセも少なく、比較的ビギナーでも抵抗なく受け入れやすいのが特徴である。
 なので、ヘヴィーからライト・ユーザーまで幅広く支持を得ており、このジャンルの中ではセールスも安定している。そこまで大ヒットとまでは行かないけど、バンド運営的には余裕があるので、無理なプレッシャーも少ない。よって、マイペースな活動ができている。
 いるのだけれど、逆に言えば安定しすぎ。
 破綻が少ないのは結構だけど、それがサウンドにまで現れてしまっては、ちょっとまずいんじゃないかと思う。時にはベタな定番もいいだろうけど、そればかりじゃ飽きが来るのも早くなる。川の流れは止まってしまうと水は澱み、そして腐ってゆくのだ。

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 セールスの上昇に伴って、バンドのサウンドが予定調和なジャズ>ファンクに偏りつつあり、あのまま何の手立ても講じなければ、単なるラウンジ・ジャズ・バンドになってしまったことだろう。そういったヌルい状況に危機感を覚えたのか、前回行なった荒療治が、他の血を大々的に導入すること、それが大御所ソウル・ファンク・ディーヴァMartha Highとのセッションだった。
 彼女とは、そのまた前作『Shakedown』で共演済みだったのだけど、そこではひいき目に見たとしても、ディーヴァのド迫力に圧倒され、完全に気合負け・迫力負けしていた。バンドのHPを上げていかないと、とても太刀打ちできない相手である。そこで尻をまくって路線変更という安易な道には逃げず、敗北を糧として態勢を立て直し、ガチの再戦を挑んだことが、結果的にバンドとしては良い方向へ向くことになった。
 サシでぶつかり合ったコラボ作『Soul Overdue』は、Marthaのパワーに振り回されるギリギリのところでバンドが踏み止まり、拮抗したセッションとなった。前回はディーヴァの迫力に圧倒されてしまうところを、ねじ伏せるとまではいかないけど、なんとか五分の闘いにまでは持っていくことができた。自分たちのサウンド・ポリシーをゴリ押しするのではなく、Marthaの間合いに合わせ、時にはMarthaの勢いを利用して、全体的なグルーヴを創り出せるまでに至り、これが多分自信になったんじゃないかと思う。

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 前回が五分五分の真剣勝負だったのに対し、今回のSpeedometerのエンジン出力は8割くらい、イキのいい若手に胸を貸すといった感じである。Marthaの時のような緊張感はないけれど、自分たちの自己主張はしつつ、極力Jamesに花を持たせるようなプレイを見せている。
 どちらもエゴが強すぎると散漫になるし、お互いが譲り合い過ぎても、漫然としたプレイになってしまうのだけど、ここではヴォーカルと演奏がイイ感じでバランスが取れている。
 きちんとしたコンテンポラリー・サウンドながら、アルバム1枚を中だるみさせことなく聴き通させてしまうのが、今のSpeedometerの実力なのだろう。


ノー・ターニング・バック
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1. Don’t Fool Yourself (feat. James Junior)
 60年代スタックス・ソウルの伝統を汲んだ、キャッチーなメロディ・ラインのソウル・ナンバー。すっかり歌モノのバッキングが手慣れたバンドの面々だけど、それにひるまずオリジナリティを前面に出したヴォーカルを披露している。

2. Bad Note (feat. James Junior)
 ホーン・セクションがもろソウル・レビュー・スタイルなので、ちょっと気づかないけど、メロディ・ラインは正統なR&B。もっとムーディに仕上げれば、スムース・ジャズでも通用するクオリティなのだけど、そうはしないのがこのバンドの肝の据わったところ。まぁ似合わないしね。ヴォーカルはねっとりしたスロウ・ファンク・スタイルで、このミスマッチ感が絶妙。

3. No Turning Back (feat. James Junior)
 タイトル・ナンバーで、しかもスウィング・ジャズ・スタイル。新人とはいえ、今回のフロントマンを務めているくらいだから、テクニックの幅の広いヴォーカルを聴かせている。中盤のブレイクの軽さもまた、レンジの広さを見せつけている。
 でも、このスタイルでアルバム1枚なら、ちょっとキツイ。やっぱり1、2曲程度のスパイス的な使い方なら、アリ。



4. Just the Same (feat. James Junior)
 かなり泥臭いディープ・ソウル。これはちょっと思ったのだけど、案外女性ヴォーカルの方が映えるナンバーだったんじゃないかと思う。それこそ前回のMartha、またはSpeedettesを呼び戻すとか。
 でも、曲とマッチしないから別のヴォーカルを呼ぶ、という態度なら、それはバンドではないのだ。敢えて若いJamesに課した試練、そしてそれをきちんとバッキングするメンバーたち、それによって信頼関係が生まれるのだ。

5. Orisha's Party
 少しBPMを速くした、バンド全体のグルーヴが感じられるインスト・ナンバー。若いヴォーカルに刺激されたせいもあるのか、ここはみんな良いところを見せようと必死。若手に胸を貸す、なんて余裕ばっかりぶっこいていられない。ミュージシャンなのだから、やっぱり目立ってナンボである。

6. Troubled Land (feat. James Junior)
 アフロ・ジャズっぽいオープニングに、ホーン・セクションが気合が入るナンバー。長い長いイントロの後、スロウ・ファンク・スタイルで肩の力を抜いて歌うJames。ここはバンドの力が強い。ビッグ・バンドでのJBスタイルのファンクは、やっぱり強い。しっかしゴチャ混ぜだな、この曲。Metersも入ってるし、イイとこどり。
 LPでは、ここまでがA面。
 


7. Middle of the Night (feat. James Junior)
 爽やかなフルートの調べから始まるオープニングに乗せて、70年代っぽいニュー・ソウルのウィスパー・ヴォイスからスタート。この曲もそうだけど、シャウター・スタイルの人ではない。微妙な陰影を表現する人なので、ファンク色の強いバンドではなく、Speedometerにはよくマッチしていると思う。

8. Mirage (feat. James Junior)
 ファンク・マナーの則ったギター・カッティングがカッコイイ。こういったシンプルな音をきれいに聴かせられるLeigh Gracieを始めとした、バンドの底力が垣間見えてくる。こういった疾走感、Jamesはすごく歌いやすそう。メロディもすごく立ってるし。

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9. I Showed Them (The Ghetto) [feat. James Junior]
 ここでボサノヴァが登場。ジャズの素養があるので、バンドはこういったことも全然できると思うけど、あくまで自分のスタイルを崩さず、世界観に溶け込んでいるJamesもナカナカ。”Do it Again”なんか歌ってくれたら、結構サマになるんじゃないかと思う。

10. Homebreaker (feat. James Junior)
 今度はノーザン・ソウル。オルガンと、アクセント的に使われてるプリセット音源のストリングスが、チープでありながら逆にソウル・スピリッツを感じさせる。ドラムやベースが前面に出てなくても、充分にファンキーに演奏できることを証明したナンバー。






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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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