アメリカが産んだファンク・ゴッドねえちゃんMartha High、フィーチャリング扱いで参加したSpeedometerのアルバム『Shakedown』が好評だったため、今度は自身がメインとして、往年のソウル・ファンク・ナンバーを取り上げたカバー・アルバム。
日本の音楽シーンで例えれば、近年、石川さゆりが若手ロック・アーティストとコラボしてたケースと近いのだけど、積極的な新陳代謝が行なわれないジャンルである演歌というカテゴリーでは、積極的な異ジャンル交流が難しい面もある。抵抗感だけならまだしも、今ではむしろ無関心の方が先立ってしまい、イマイチ盛り上がりには欠けている。
そこら辺、英米においてはエンタテインメントとしてうまく機能しているのは、ちょっと堅苦しい言い方なら、ベテランに対する若手の敬意、過去の資産に対するリスペクトの度合いによるものなんじゃないかと思う。日本の芸能界だと、年功序列がキッチリし過ぎて、事に至るまでの手続き、根回しの方でエネルギーが使われちゃうしね。
そこら辺、英米においてはエンタテインメントとしてうまく機能しているのは、ちょっと堅苦しい言い方なら、ベテランに対する若手の敬意、過去の資産に対するリスペクトの度合いによるものなんじゃないかと思う。日本の芸能界だと、年功序列がキッチリし過ぎて、事に至るまでの手続き、根回しの方でエネルギーが使われちゃうしね。
で、今回のMarthaのアルバム、セレクトされたのは比較的メジャーな曲、特に帝王James Brownの息のかかったナンバーが多いのだけれど、ほぼバック・バンド的スタンスであるSpeedometerも、存在感を出すためなのか、自作のリメイク・ヴァージョンを2曲収録している。ここら辺は現役バンドとしての意地もあるのだろう。じゃないと、ほんとコラボじゃなく、ただのバック・バンドで終わってしまう。
60年代初頭に無名のコーラス・ガール・グループでデビュー、当時からすでに俺様状態だったJBに見初められてからは、基本裏方に専念、かなり長期間に渡ってバック・コーラスを務めていた。まぁJB的にもスランプだ拘留だといろいろあったせいもあって、断続的ではあるけれど、その関係は30年もの長きに渡っている。それだけ声質の相性が良かったこと、またJB的には使い勝手が良かったのだろう。
Lyn Collins、Vicki AndersonらJBコーラス3人娘の中において、Marthaの知名度がイマイチ薄いのは、やはり決定的なヒット曲・持ち歌がない点が一番大きい。ヴォーカライズ的な面で言えば、Marthaも他の2人と比較して、特に劣るわけではない。ていうかさほど変わりはない。長年JBに鍛えられただけあって、ステージ・パフォーマンスは一流だし、ディーヴァとしての存在感も充分ある。
ただLynが”Think”、Vickiに”Message From A Soul Sister”という必殺キラー・チューンがあるにもかかわらず、Marthaにはコレといった代表曲がない。
ただLynが”Think”、Vickiに”Message From A Soul Sister”という必殺キラー・チューンがあるにもかかわらず、Marthaにはコレといった代表曲がない。
シンガーのタイプとしては3人とも大差がないにもかかわらず、何ゆえこれだけソウル/ファンク史においての扱いが違うのか。
一番の要因として、ソロ・デビューの時期の問題が大きい。
前者2人が70年代初頭、ファンクの全盛期にソロ・デビューした事によって注目度も高かったことに対し、Marthaのデビューは70年代も終盤のディスコ・ブーム全盛期、つまり、ソウル/ファンク・ミュージック的には暗黒時代である。しかも所属レーベルがサルソウル、マイアミ・ソウル系を得意とした、傾向的にディスコ/ダンスに強いのが特色であり、ディープ・ファンク系寄りであるMarthaのキャラクターとは、微妙なズレがある。
満を持してのソロ・デビューということもあって、Martha自身のキャラクターを活かしたサウンドに仕上がって入るのだけれど、レーベルの特性上、そこを充分活かしたプロモートを行なっていたかといえば、それはちょっと微妙。
満を持してのソロ・デビューということもあって、Martha自身のキャラクターを活かしたサウンドに仕上がって入るのだけれど、レーベルの特性上、そこを充分活かしたプロモートを行なっていたかといえば、それはちょっと微妙。
一方のSpeedometer、前回フィーチャリング参加してもらった恩返しなのか、今回はハウス・バンドの如く手堅いバッキングに徹している。もともとクセのないプレイ・スタイルが持ち味だけど、そのフラット感が今回はMarthaの個性をより一層浮き立たせ、絶妙のコラボとなっている。
実はMartha、彼ら以外にも若手バンドからのラブ・コールが多く、フランスのジャズ・ファンク・バンドShaolin Temple Defendersともコラボしており、ガッツリ濃厚なライブ・アルバムをリリースしている。Speedometerとのスタジオ・アルバムとは一味違って、臨場感あふれる演奏、リミッターが外れたようにグルーヴしまくるMarthaといい、こちらもオススメの一品。
ソウル・オーヴァードゥー
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マーサ・ハイ・ウィズ・スピードメーター
Pヴァイン・レコード (2012-10-03)
売り上げランキング: 305,149
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01. No More Heartaches
オリジナルはVicki Andersonが1970年にリリースしたシングル。ちなみにJB制作によるもので、共同制作者であるBobby Byrdは、JBのバック・バンドだったFamous Flames出身、しかも当時のVickiの旦那でもある。
オリジナル・ヴァージョンと聴き比べてみると、まんまストレートなカバー。この頃のJBファンクは完成の域に達しており、ほとんど構造的にいじれないことがわかる。
02. Trouble Man
オリジナルはもちろんMarvin Gaye。彼のオリジナル・ヴァージョンはサントラ中の1曲という性質上、インストの比重が強く、当時のMarvinの作風が色濃いジャズ・テイストが強いのだけれど、Speedometerはソリッドなソウル寄り、ギターもルーズに響く。Marthaもこの有名なナンバーを自分のフィールドに力技で引き込み、まるで最初っからの持ち歌であるように、奔放なディーヴァを演じている。
後半でブルース・スケールを多用するのは、Speedometer的に珍しい。やはりMarthaのアーシーなヴォーカルが、彼らからそうしたプレイを引き出したのだろう。
03. Never Never Love A Married Man
作詞作曲がBerndt Egerbladh & Francis Cowanという、初めて聞いた名前。一応ググってみてヒットしたのが、1970年代スウェーデンで活動していたプログレッシヴ・ジャズ・ロック・バンドHeta Linjenのメンバーによるナンバーらしい。「らしい」というのは、どれだけ検索してもそれ以上の情報も見当たらないし、第一俺自身、ヨーロッパのプログレにはほぼ興味がないので、それ以上突っ込んで聴く気がないため。
とは言っても、このトラックだけ聴いていると、とても小難しいジャズだプログレをベースにしているとは思えない、強力なファンク・チューンである。こういった曲を発掘して来れるのが、やはりバンドとしての地力の強さ、知識量のハンパなさであり、そしてこれもまた自分のスタイルに引き込めてしまうMarthaのポテンシャルの高さである。
04. I'd Rather Go Blind
アメリカの有名なR&B・ブルース・シンガーEtta James1968年のスマッシュ・ヒット。ビルボード最高23位ということで、ロック全盛だった60年代末期にしては、そこそこ売れたポピュラー系のヒットである。
一聴してカントリー系のブルース・ナンバーであり、R&B臭はほとんどない。Etta James自体、今回初めて聴いてみたのだけれど、何ていうか平凡なバラードを歌うRay Charlesの作風に近い。これも特別悪い意味で書いてるんじゃないけどね。
俺的にはオリジナルより、ベースがブンブン効いているSpeedometerヴァージョンの方が好き。
プレイ的に特筆すると、終盤のエレピ・ソロは絶品。
05. No Man Worries
2007年リリースSpeedometerの3枚目『Four Flights Up』収録曲のリメイク。こちらに収録されたヴァージョンは、オケを少し引っ込ませてMarthaのヴォーカルを前面に出した、アナログっぽいミックス。
ジャズ・ファンク・シーンでは引っ張りだこのRia Currieのヴォーカルはメリハリがあり、ちょっと硬質なテイストだけど、これはまぁ好みの問題。おれはどっちもアリかな。
06. Sunny
オリジナルはBobby Hebbというソウル・シンガー1966年のヒット曲だけど、俺が知ってたのはStevie Wonderの方。奥田民生もカバーしてたのも、今回初めて知った。もともとゴリゴリのソウル・ナンバーではなく、ちょっとジャズ・テイストの入った曲なので、ここでもしっとり、スタンダード・ナンバーっぽいヴォーカルを聴かせている。Speedometerもラウンジっぽい、ムーディーなプレイ。
07. You Got It
再びEtta Jamesのナンバー。オリジナルは1968年、チェスからのリリース、加えて作曲がDon Covayということで、かなりAretha Franklinを意識した作りになっている。04.のようなまったり感は薄く、もっと前のめりでガツガツした印象。これはこれでカッコイイ。
で、ここでのMarthaは80%くらいの出力具合。勢いだけでなく緩急をつけ、曲と演奏を楽しんでいる。Speedometerも往年のアトランティック・ソウルを意識しているのか、ホーンを前面に置いたアレンジメント。
08. Save Me
で、ここでそのAretha。1967年有名曲のカバーだけど、昔から俺、Arethaはちょっと苦手である。これまで何度もトライしているのだけれど、イマイチしっくり来ないのだ。ソウルの歴史的にArethaの存在はかなりデカいし、彼女をフロンティアとする女性シンガーも好んで聴くのだけれど、思い入れは薄い。好みの問題なんだけどね。
MarthaもSpeedometerもここではかなり気合いが入っており、そのリスペクト具合、MarthaならArethaに、Speedometerならマッスル・ショールズの面々への想いが伝わってくる。
俺的にも、ちょっとモッサリしたオリジナルより、こちらのヴァージョンの方を好んで聴いている。
09. You Got Me Started
再びSpeedometer、今度は2005年リリースの2枚目『This Is Speedometer Vol. 2』から。オリジナルは05.同様、Ria Currie。
かなりブルース要素の強いナンバーで、ルーズな音色のギター・ソロの導入部が、アメリカ南部の香り、07.08.と続いてマッスル・ショールズ系のサウンドで構成されている。
こちらはしっとり、チーク・タイムっぽさを連想させるムード、とここまで書いてみて、そういえば今どきの人って、チーク・タイムって言葉知ってんのかな、と思い直してみた。伝わるのかな。
10. Mama Feelgood
JB3人娘より、今度はLyn Collins1973年のシングル・ヒット。この辺はミックス・テープやサンプリングでも頻繁に使用されているので、断片的なフレーズくらいは聴いたことがある人は多いはず。あのヤカンが沸騰したようなホーンの嘶きとかは特徴的。
基本、演奏はオリジナルに則った印象だけど、円熟のヴォーカルにリードされることによって、いつものクールなSpeedometerとは違い、どファンキーなマジックが働いている。これをライブで目の当りにしたら、熱狂の渦なんだろうな、きっと。
しかし、どの映像を見ても変わらぬゴッドねえちゃん振り、やっぱ日本で対抗できるのは和田アキ子くらいだな、こりゃ。それかSuperflyに十年くらい海外武者修行させるか。
11. Dragging Me Down
前回レビューしたSpeedometer『Shakedown』収録曲。ていうかそのまんま。CDでしか聴いてないけど、アルバム全体のテイストに合わせて、初出よりも音が太く、アナログっぽい響きのミックスになっている(と思う)。
煌めくほどの名曲の中でも遜色ないオリジナル・ナンバーであり、そこがMarthaとの相性の良さもあるのだろう。普通にカッコイイし、多分JBレビューの中で歌われても、違和感ないだろう。
年齢は非公表だけど、多分70歳前後のはず、それでも世界中からオファーが絶えず、どこかのクラブやどこかのフェスで存在感を見せつけている。JB3人娘の中では比較的遅咲きだったけど、未だ現役で歌い続けていられるというのも、シンガーとしては、幸せなことだろう。
Speedometerもこれ以降、シングルと単発的なライブが中心となっており、まとまった形のアルバムはリリースしてないけど、まぁちょこちょこ元気な顔を見せてくれてはいるので、そのうち何かやってくれるんじゃないかと思われ。
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