folder オランダという国は、EU諸国の中でも日本人にとって馴染みの薄い国のひとつであり、関心がない人も多いと思うけど、かく言う俺もその1人。これまでの人生でオランダにまつわる出来事があったかといえば、正直思い出せない。今後も多分、それほど深く関わることはないと思う。悪気はないので、オランダ関係の人、もし読んでたらごめんなさい。
 まずは真っさらの状態で、「オランダ」と聞いて思いつくワードを片っぱしから並べてみると、「チューリップ」「風車」「干拓地」といったところ。ほぼ中学の教科書に載ってるのと同じレベルである。ちなみに首都はアムステルダムとなっており、このワードが出てくると、もうちょっと話に広がりが出てくる。
 アムステルダムと聞いて連想するモノはと言えば、LSDやら怪しげなドラッグやらが完全合法な上、国家が管理してきちんと整備された売春スポットがあるなど、なんだか家族連れで行きづらそうなイメージが強い。もちろんオランダ全体がそういった淫靡さに包まれているわけではなく、アムステルダムだけ特別扱いなだけである。アムステルダム以外に住む多くのオランダ人は、至ってマジメな国民性である。
 ほんとオランダの人、ごめんなさい。

 干拓地という土地の特殊性もあって、EU他国と比べて早くから港湾関係が発展していたオランダ。昔から海外貿易が盛んだった土地柄ゆえ、他国の文化を取り入れることにも積極的で、特に音楽ビジネスに関しては、EU諸国の中心的役割を担っている。一般向けのライブ・イベントやフェスティバルだけじゃなく、業界人向けのメーカーの見本市やセミナーも盛んに行なわれている。世界中の音楽関係者がオランダを拠点として、新鮮な情報を発信しているのだ。
 とは言っても、あまりに英米音楽偏重の日本では、ほとんど伝えられていないのが現状である。ネット時代になって、わざわざ足を運ばなくても世界中の情報が手軽に入るようになったけど、まだまだ日本でも紹介されていない情報はいっぱいある。
 その筋の人にとっては結構有名らしいけど、オランダは世界有数のレイヴ大国という側面も持ち、国境を飛び越えてボーダーレスに活動するDJを続々輩出していることでも知られている。オランダという国家は、前述の売春の例もあるように、とにかく金になるものならすぐ管理下に置きたがるところがある。ただし一方的に搾取するだけでなく、きちんとその事業に適切な投資をして育成を試み、結果的に双方に大きな利潤をもたらすよう取り計らってるのが、どこかの国と違うところ。事実、日本ではほんとひと握りの特権でしかない、DJ専業で生計を立てているクリエイターも珍しくない。1億円プレイヤーもボコボコ誕生しているくらいで、ここら辺でも日本とはかなりの格差を感じてしまう。

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 じゃあダンス・ミュージック以外、普通のオランダ人は一体何を聴いているのか。ということで調べてみたのが、オランダの最新アルバム・チャート。当然、地元のアーティストで俺が知ってる名前はまったくない。馴染みがあるのはやはり英米のアーティスト、Justin bieber やAdeleなど、その地元アーティストに挟まれるようにチャートインしている。
 そんな中、俺がつい声を上げてしまったのが、9位にランクインのCharles Bradley 。以前何度か紹介したSharon Jones同様、ニューヨークのレトロ・ソウル専門レーベル「Daptone」に所属、派手な売れ方はしないけど、手堅く地道にキャリアを積み上げてきた人である。何十年かの下積み修行を経てデビューした、50代の新人演歌歌手と例えるのが一番近いんじゃないかと思われる。日英米どの国でも、彼がこんな上で健闘しているのは考えづらい事態である。そういったアーティストがトップ10に入っちゃっているのだから、なかなか侮れない国民性である。
 他に俺が気になったところでは、16位にアメリカのブルース・ロッカーJoe Bonamassa、Bowie亡き後、オルタナのゴッドファーザーになりつつあるIggy Pop が40位にランクインしている。これも本筋とはまったく関係ないけど、ベビメタが71位だって。
 Bob MarleyのベストとBuena Vista Social Clubのサントラがロング・セラーとしてチャートインしていることから、音楽の裾野が広いお国柄であることが窺える。

 ついでにもうひとつ、オランダ出身で著名なアーティストって誰だろう?と思って調べて見ると、真っ先に出てきたのがEdward Van Halen。まぁ…、まぁそうなんだろうけど、これは生まれがオランダというだけで、彼の音楽性がお国柄に反映されているとは言いがたい。なので、もう少し遡って調べてみると、あのダンス・クラシック「Venus」のオリジナル・ヴァージョンを歌っていたShocking Blueがオランダ出身だった。これもそんなにオランダっぽくない。次にごく一部で有名なハード・プログレのFocus、80年代ヘヴィメタ・シーンを席巻したAdrian Vandenbergがいる。どちらもオランダという国を象徴しているわけではないけど、EU諸国でのハード・ロック/ヘヴィメタの浸透具合は有名である。
 もうちょっと有名どころはいないものかと、ジャズ方面まで手を広げてみると、いたよ、Candy Dulfer。女性サックス・プレイヤーの第一人者として、彼女あたりが最も有名なオランダ出身ミュージシャンかもしれない。
 異論があれば、どうぞどうぞ。

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 EDM系をバリバリ使用した、ビート重視のダンス・ミュージックがメインストリームになっているのは、ほんと日本を除いた世界的な傾向。売り上げ規模は全然違うけど、現代ジャズ・ファンクの世界もまた、ボーダーレスな展開という点においては同じと言える。ほんと、どの国のバンドもほとんど同じ傾向のサウンドであり、特にインスト中心になると、誰が誰だか見分けがつかない。ジャズ寄りだファンク寄りだヴィンテージ・ソウル寄りだと、一応多種多様ではあるのだけれど、何しろほぼすべてのバンドのバックボーンにあるのが60〜70年代のJBサウンドなのだから、根っこはどれも同じである。多かれ少なかれ、直接・間接はあれど、みんなが皆、有機的な16ビートに対してリスペクトを表明しているので、大きな差別化が図れないのだ。
 いわゆるショーマン・シップ、前面に出て俺が俺がという、超絶ソロをやりたがる人も極めて少ない。どちらかと言えばリズム重視、延々と16を刻んでいられりゃそれで幸せ、という人が多い。基本、バッキングなどの裏方志向を持つ人の方がこのジャンルには向いているため、、分不相応な野心とは程遠い人が多い。

 Ton van der Kolk - Bass/Guitar/Keys/Percussion
 Phil Martin - Drums/Guitar/Keys/Percussion
 Ron Smith - Guitar
 Bas Uijdewillegen - Hammond Organ
 Thomas Streutgers - Tenor Sax
 Tjeerd Brouwer - Trombone
 Ruud Kleiss - Trumpet
 Curtis T. - Vocals
 Jimi Bellmartin – Vocals
 というメンバー構成のオランダのジャズ・ファンク・バンド、Soul Snatchers。
 オランダのニュー・ジャズ・シーンのけん引役として、レーベルSocial Beatsを主宰しているのが、ドラムのMartin。ドイツのMocamboもそうだけど、アーティスト自らレーベルを立ち上げて後進や仲間のバンドを呼び寄せ、シーンの相互活性化を図るケースが、このジャンルでは世界的な傾向になっている。単独での集客がキツイ新進バンドのために合同でのショーケース・ライブを企画したり、シングル・リリースのみのバンドが多勢を占めるこのジャンルを紹介してゆくため、サンプラー的なコンピレーション・アルバムでひとまとめにしてしまったりなど、何かと相互扶助の精神が強い。
 今どきメジャーのレーベルが世話を焼いてくれる時代じゃないし、しかも制約が多すぎるなど、デメリットの方が多い。ある程度好き勝手、自己責任で動ける方がお互いのためにも良い。売れすぎちゃっても、管理が面倒だしね。

 これまで2枚のフル・アルバムをリリースしてきた彼ら。他バンドへの客演やらヘルプやら各自サイド・プロジェクトが忙しくて全員顔をそろえる機会が少なく、ほぼ事前インフォメーションもなく突然リリースされた『Where Y'At』、これでやっと3枚目。これまではインスト主体でやってきたところを、今回は何かしら世間の手ごたえを感じたのか、ほぼ半数がヴォーカル入りのナンバーとなっている。この辺に、バンドとして「攻め」の姿勢が窺える。
 俺個人としてはジャズ・ファンク・バンドの場合、パワフルな女性ヴォーカルの方が好きなのだけど、ビート感の強い彼らのサウンドには、豪快な男性ヴォーカルの方がフィットしている。細かなニュアンスもへったくれもない、敢えて一本調子のブルース・タッチが似合っている。
 しつこいようだけど、さすがCharles Bradleyが上位にランクインするお国柄だけはある。


Where Y'at
Where Y'at
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Soul Snatchers
Social Beats (2016-03-03)




1. Humpin' & Bumpin'
 まずオープニングを飾るのは、今回のアルバムを象徴するインスト・ブラス・ファンク。ジャズ・ファンク・バンドはまずテーマ曲が大事である。オルガンをリード楽器に据えた軽快なダンス・ファンク。

2. Foolishness
 専属シンガーJimi BellmartinによるAOR的ソウル。70年代のミディアム・ソウル・バラードは現代なのに、すでにダンス・クラシック的な雰囲気を醸し出している。声から想像できるように、アメリカの大御所ソウル・シンガーのような風貌のJimi、この人も結構なバンドでの客演が多く、あちこちのバンドで名前を聴くことができる。

3. Little Love
 続くこちらも男性ヴォーカル・ナンバー。歌うはCurtis T.。ちょっとPharrell Williamsっぽい軽見のあるヴォーカルが特徴で、バンド・サウンド的にも硬軟取り混ぜたヴァリエーションが演出できる。このタイプの曲ならうまく展開すればシングル・ヒットも狙えそうな気もするのだけど、難しいものなのか。Bamboosのようにレコーディングとライブとのスタイルをはっきり分けてしまえば、結構いいところまで行きそうなのだけど、まぁやりたがんねぇだろうな。



4. How Ya Do It
 再びJimiによる熱いソウル・ナンバー。ちょっぴりジャジーなバッキングに乗せてシャウトするスタイルは、どっぷりサイケに浸かる以前のTemptationsっぽく聴こえるのだけど、そういった過去のシンガーへのリスペクトが熱いナンバー。

5. Use It up
 再びCurtisによる軽みのあるシカゴ・ソウル調チューン。ポップ・ソウル・タッチの親しみやすいナンバーは、この手の硬派ジャズ・ファンクにしては珍しいこと。やっぱBambbosみたいな方向性を目指してるんだろうか。

6. So Natural
 Jimiによる熱い熱いソウル・バラード。レトロとモダンの狭間を自在に行き来するスタイルは、自然とサウンドにバラエティが生まれるけど、逆に言えばフォーカスが定まりづらいのも確か。俺的にはCurtisのチャラい路線の方が好きなのだけど、オランダではこういったのがウケるんだろうな。何しろDaptoneが幅を利かせちゃう土地柄だし。

7. What Ya Gonna Do
 CDではちょうど折り返し、幕間と表現できるインスト・ナンバー。ライブだと、この時間はヴォーカル・パートは休憩中。呼吸を整え水分を取り、時に衣装を着替える時間。

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8. Keep Workin'
 女性コーラスを従えた、「Workin’」でのコール&レスポンスが印象的なスタックス調ソウル。ヴォーカルはともかくとして、サウンド自体ファンキー成分は少なめ。Jimiにしては明るく軽快なポップ・チューンで、案外芸の幅の広い人なんだという特徴が窺える。そりゃそうだよな、年期入ってそうだもの。

9. Just Like Sly
 ここから一気にファンク臭くなる。ミディアム・テンポで通していたところを、ここではギアが一気にトップに入る。やっぱりホーン・セクションが前面に出ると音圧がまるで違ってくる。ファンキーでありながらジャズの要素も貪欲に取り込み、ヴォーカル・サウンドともいい感じで拮抗している。俺的にはベスト・チューンのひとつ。

10. Hold on
 Jimiによるソウル・バラード。ファンキーというよりはソウルフル。オランダではこういったのが全般にウケているのか、それとも国民の平均年齢が高いのか。まぁすそ野が広いのは何かと過ごしやすい。かなり濃いヴォーカルを利かせているのだけど、3分程度で終わるのでしつこくなり過ぎない。血管キレそうだもんね。



11. Stop Fightin'
 セカンド・ラインの入ったJimiの軽快なソウル・ナンバー。なんだ、こんなのもできるんだ。女性ヴォーカリストYolanda Kalbとのデュエットなので、ソフトな声質の彼女に合わせて軽快なポップ・ファンク。シングルでもアリじゃないかと思う。

12. Is It Your Love
 ラストはCurtisと謎の女性シンガーYoYoとのデュエット・ナンバー。多分、友人知人のシンガーに適当な名前を付けたんじゃないかと思われる。何しろインディーズなので、その辺のクレジットは結構適当である。まぁほとんどワンフレーズだし、主役は演奏陣なので。
 ソウル・レビューもこれで終了、「蛍の光」的な悠然としたスロー・ファンク。




Scratch My Itch
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Unique Records/Social Beats (2012-02-10)
THE DUTCH NU-JAZZ MOVEMENT
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