好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Rolling Stones

80年代ストーンズをちゃんと聴いてみようじゃないか - Rolling Stones 『Undercover』

 1983年にリリースされたRolling Stones17枚目のオリジナル・アルバム。売り上げデータ的にはUS4位プラチナ獲得、UK3位ゴールド獲得とアベレージはクリア、日本でもオリコン12位にチャートインしている。
 特に日本ではこの当時、Beatlesは再評価ブーム前につき過去の遺物、Led ZeppelinはJohn Bonhamの不慮の事故によって解散、同じくKeith Moonの不慮の事故によって迷走していたWhoは最初から人気がなかったため、現役で活動していた大物ロック・バンドといえばStonesしかいなかったのだ。この時期、Stonesのチャート・アクションが良かったのは、そんな外部要因も大きかったわけで。

 『Dirty Work』のレビューでもちょっと書いたけど、80年代以降のStonesは単なるロック・バンドではなく、下手な東証一部上場企業よりずっと優良な企業体である。活動していない時もバック・カタログが確実な収益を生むし、その運用益もハンパない。彼らがちょっとアクションを起こすたびに収益が発生してしまうため、税務対策上、活動ペースを落とさなければならないくらいである。
 例えKeithやRonnyが良いリフやフレーズを思いついたとしても、すぐに発表することはできない。ビジネス面を統括するMick Jaggerのゴーサインを待たなければならないのだ。あぁめんどくせぇ。

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 アーティスト自らマネジメントやレーベル運営を担うことによって、これまで何かと搾取されがちだったレコード会社との関係性は大きく変化した。大手レーベルとの直接契約ではなく、自主レーベルからの販売委託という形を取ることによって、アーティスト側の取り分は増える結果となった。中間搾取を減らすことによって粗利を増やすのは、ビジネス的には基本中の基本である。そういったビジネス・モデルの先鞭をつけたのが、Stonesである。
 彼らの成功事例をベースとして、同規模のセールスを有するアーティストらも後に続いたけれど、Stonesほどの収益を上げた者は数少ない。単なる大量販売だけでは、安定した企業経営は維持できない。そこにはアーティストとしての毅然たるポリシー、さらにバランス感覚に優れたビジネス・センスが必要となる。

 ロック・セレブとして不動の地位に君臨するMick Jaggerは、もはや単なるカリスマ・ヴォーカリストではなく、グローバル企業Rolling Stonesの最高CEO である。ステージで激しいダンスを踊りながら歌うより、大量の企画書や決裁書に細かく目を通し、ビジネス・パートナーや弁護士を囲んで会議している時間の方が長いのだ。
 古き良きロック・スターから、着実に枯れたブルース・マンの風情を身につけつつあるKeithもまた、一見あんな風だけど最高幹部会の一員である。彼の場合、Mickと違ってビジネス面は丸投げな部分が多いけど、彼の奔放なライフ・スタイルは、Stonesが単なるビジネス・バンドではない、というイメージ戦略における重要な役どころを担っている。何も考えずに、ヘベレケでギターをいじってるわけではないのだ。それはきちんと長期展望に基づいてシミュレートされたヘベレケである。まぁRonnyにとっては素だろうけど。
 数年前のリーマン・ショックの余波で、彼らの所有する資産価値が大きく目減りした、という、ホントか嘘か出所不明のニュースが流れたり、そんな話題がYahooニュースに取り上げられるのも、彼らならではある。

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 前作『Tattoo You』が新録ではなく、過去のアウトテイク集という形になったのは、主にMick とKeithの感情的な衝突によるものが大きい。
 レコーディング開始にあたり、いつも通りにリハーサルを兼ねたミーティングが行なわれたのだけど、MickとKeithの作業方針がかみ合わず、両者スタジオ入りをキャンセル、レコーディングは中止となった。とはいえ発売スケジュールは決まってしまっているため、発売中止というわけにもいかない。彼らクラスだと違約金だって膨大になる。なので苦肉の策として、膨大なアウトテイク素材を現場サイドに丸投げ、どうにかこうにか繋いだり切ったり貼ったりして無理やり完パケさせ、ピンチを乗り切った。
 で、それから2年ほど経過。さすがに2度続けてお蔵出し放出というわけにもいかず、それなりの心構えでメンバーはレコーディングに参加する。ただやっぱり、肝心の2人のわだかまりは解消されず、雰囲気は終始悶々としていた。
 バンド・メンバー以外の周辺スタッフが多くなりすぎて、ダイレクトな意思疎通が取りづらくなったことも、要因のひとつである。2人だけでまとまった時間を取って打ち合わせをすることができず、さらに加えて人づてで互いの悪口を言い合ったりなど、まぁ陰湿だこと。
 -何かとやりづらく、雰囲気の悪いレコーディングだった、とはRonnyの弁。まぁ彼自身、2人にどうこう言える立場じゃなかったしね。

 そもそも『Undercover』 というアルバムは、前向きな動機で作られたものではない。むしろビジネス上の要請に基づいて作られたアルバムである。
 この時期、Stonesはアトランティック・レーベルとの契約終了を控え、新たな提携レコード会社CBSとの契約交渉を進めていた。契約金は当時史上最高の2800万ドル。この10年後、Princeがワーナーと契約更改した際の契約金が1億ドルなので、そう考えると隔世の感だけど、どっちにしろわけわからん数字だわな。
 そのアトランティックとの契約枚数をクリアするため、Stonesサイドはベスト・アルバム『Rewind』をリリースする作業を進めていた。いたのだけれど、まだ1枚足りない。何かしら作っとかなくちゃ、といった事情である。
 『Steel Wheels』以降のStonesは、「レコーディング→アルバム・リリース→世界ツアー→ライブ・アルバムリリース→休養→最初に戻る」というローテーションが確立されているのだけれど、この時代のリリース・システムは「ベスト・アルバム→契約更改かネタ切れ」「ライブ・アルバム→来日記念かネタ切れ」と相場が決まっており、そう頻繁に大盤振る舞いするものではなかった。『Still Life』も出たばっかりだったしね。

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 で、そういったビジネス面の契約交渉は、もっぱらMickを中心として行なわれた。Keith以下のメンバーにとって、レーベル移籍とは「レコード会社のロゴが変わる」程度の認識しかなかった。そういっためんどくさいことは、みんなMickに押しつけていた。
 いたのだけれど、Stones本体の契約と並行してMick、CBSとの裏交渉で、ちゃっかり自分のソロ契約も併せて進めていた。別に隠してたわけじゃなかったかもしれないけど、きちんと契約書に目を通す者は誰もいなかったので、マスコミ報道を通じて知ったメンバーは、微妙な雰囲気となった。Bill Wymanあたりは知ってて知らんぷりしてたかもしれないけど。
 そりゃバンドに直接関係あるわけじゃないけど、でもひとことくらいあってもいいんじゃね?と憤ったのがKeithである。例えば、Bill Wymanがソロ活動したとしても、みんな「ふ~ん、で?」くらいの反応だけど、Mickはバンドのヴォーカルであり、フロントマンだ。脇役と主役とでは、その重みは全然違ってくる。
 「そんな大事なことを、この俺にひとことも相談なく決めやがって」というのが、その後数年に渡る遺恨試合の端緒となる。

 70年代のKeithが、ドラッグやら裁判やらスキャンダルやら、まぁ全部自分が蒔いた種だけど、何かといろいろ振り回されていた、というのは有名な話。「最も早死にしそうなアーティスト」のトップに長く君臨し、Stonesの活動に専念できなかった。
 で、1977年のカナダでの逮捕拘留→裁判を経て、本格的にドラッグと手を切ることを決意、治療を受けることになる。「全身の血を入れ替えた」というエピソードが、ホントか嘘かは不明だけど、まぁ当時から金は唸るほど持ってたはずなので、人体改造にも匹敵する荒療治を行なったのだろう。だってKeithって不死身のはずだから。
 ほぼクリーンな体にビルドアップした後は、司法交渉の条件であるチャリティー・ライブを開催、晴れて本格的にシーンに復帰することになる。ブルース以外の多様な音楽性を披露した『Some Girls』『Emotional Rescue』も、セールス・内容とも高い評価を得た。
 続けて80年代も、その勢いで活動するはずだったのに。

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 Keithがグダグダだった70年代、度重なるバンド存続の危機を乗り越え、Stones運営の舵取りを行なっていたのがMickである。泥臭いブルース・ベースのロックンロールが飽きられつつあることを察して、徐々にサウンドの洗練化を進めていた。ディスコ時代に即した「Miss You」や「Emotional Rescue」のような、ディスコやニューウェイヴがなければ生まれ得なかったシングル・ヒットは、主にMickの手腕に負うところが大きい。
 オーソドックスなロックンロールやブルース・ナンバーを収録することによって、固定ユーザーやKeithらへの配慮を忘れず、ディスコやレゲエなど、当時の最新トレンドの導入によって、同世代ロートル・バンドとの差別化を図った。こういった一連の施策は新世代パンク・バンドへの対抗策となり、Mick Tylor脱退後に訪れた自己模倣からの脱却にも成功した。
 何しろKeithがあんな状態だったため、Mickが率先して、ビジネス/音楽両面において仕切らざるを得なかった。その気になればStonesを活動休止させて身軽なソロ活動もできたのに、Mickは敢えて苦難の路を選んだ。
 バンド存続に尽力していたのは、単なるビジネス上の損得だったのか、それとも純粋にKeithにとってのプロミスト・ランドを守りたかったのか。

 そんなMickの奮闘もあって、Keith復帰後のStonesは短い安定期に突入する。エンタメ性を追求したライブ演出を志向したMickは、これまで偶発性に左右されがちだったライブ・セットのパッケージ化を推し進める。冗長になりがちだったインプロビゼーションを最小限に抑え、その日の気分次第だったセット・リストも、入念なリハーサルによってタイム・スケジュールや曲順を細かく設定した。
 スタジアム・クラスの会場中心のツアーでは、演奏上のニュアンスより大掛かりな舞台セットの方が、観客に与えるインパクトは大きかった。大画面オーロラビジョンやド派手な花火演出は、その後のロック・バンドのライブ演出における基本フォーマットとなった。
 寸暇を惜しんでStones運営に没頭し、Keithも復帰して軌道に乗せることができた。
 -そろそろ俺も、自分のやりたい事やってもいいんじゃね?というのがMickの主張である。

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 ただそうなると、ヘソを曲げてしまうのがKeith。
 「完全復帰したからには、Stonesを世界最強のブルース&ロックンロール・バンドにするんだ」と決意を新たにしたのに、なんだあの野郎、ディスコやニューウェイヴなんかに色目使いやがって。こんなデカいハコじゃなくて、もっとこじんまりしたライブハウスの方が、俺たちのサウンドが伝わるっての。第一なんだあの花火、ドッカンドッカンうるさくて、俺のギターが聴こえねぇじゃねぇかっ。
 「そういうてめぇこそ何だ、いつまで経っても変わり映えしねぇ、同じブルース・スケールばっか弾きやがって。そんなの今どき流行んねぇんだよ、編集でどうにか一曲にまとめてるだけじゃねぇか。第一お前、俺があれこれ段取り立ててる時、現場にいなかったじゃねぇかっ」

 実際、そんなやり取りがあったのかどうかは知らないけど、とにかく何かと噛み合わなかったのは確かである。で、そんな状況下で制作されたのが、この『Undercover』というわけで。
 スキャンダラスな話題性を狙いすぎたがゆえ、却ってダサくなってしまうアルバム・ジャケットや歌詞はいつものこととして、当時流行っていたArthur baker を意識した、ダンス・ビート寄りのタイトル・ナンバーなど、かなりの部分でMickが主導権を握っている。古臭いブルースだけじゃなくて、新規客獲得にはこういった最新の小技も取り入れなきゃならないんだ、と言わんばかりに。
 時代背景的に見ると、テクノロジー機材の劇的な進歩に伴い、アタック音の強いダンス・ビートがチャートを席巻していた時代にあたる。ベテラン・アーティストもその例に漏れず、多分レコード会社からの要請も強かったのか、猫も杓子もシンセ機材やダンス・ミックスの導入を図っていた。
 ただ、そんな戦略が作品クオリティ/セールス両面において成功したのはDavid BowieかYesくらいで、この時代のベテラン・アーティストの作品は、大方が黒歴史化している。この頃のDylan なんて、特にぎこちなかったしね。

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 Stonesは自主レーベルだったため、親メーカーからの過干渉も少ない方だったけど、まったく世の流れを無視するわけにもいかなかった。「時代に合わせたヒップな音じゃなきゃダメなんだ」というMickの現場感覚が反映されているのだけど、正直、彼らにそういったニーズがあったかといえば、多分なかったはず。
 ガッチガチのStones原理主義者からの拒否反応は予想できていたはずだけど、だからといってDuran DuranやCulture Clubのファンが『Undercover』に飛びついたかといえば、それもありえない。すでにこの時期、Stonesは強固なブランド・エクイティを確立していたのだから。Stonesのブランドを使いながら、Stonesからかけ離れたサウンドを模索していたのが、彼らの80年代といえる。
 Rolling Stones というバンドの性格上、話題性が先行して肝心の中身について論ぜられるのは後回しになりがちである。特に80年代のアルバムについては、MickとKeithの主導権争いがメインとなり、特に『Undercover』 は彼らのディスコグラフィの中でも存在感が薄い。
 ただ、そういった先入観を抜きにしてきちんと対峙してみると、個々の楽曲自体はしっかり作り込まれ、Bob Clearmountainによるメリハリのあるミックスは、各パートのインタープレイがくっきり浮かび上がる構造になっている。「80年代サウンドに毒されて云々」といった悪評は逆に的外れで、シーケンスに頼らないバンド・サウンドは今の耳で聴くと逆に新鮮でもある。前評判だけでスルーしてしまうには、あまりに惜しいアルバムだよな、これって。周辺情報が多すぎる分、何かと損してるアルバムである。
 まぁ、そういったゴシップも全部引っくるめて、Rolling Stones というバンドのアイデンティティではあるのだけれど。
 なんだかんだ言ってKeithだって、「しゃあねえな」という苦虫顔で付き合ってるし。



1. Undercover of the Night
 先行シングルとして発売され、US9位UK11位のスマッシュ・ヒット。スキャンダラス性を煽ったPVやタイトルといい、何かと先入観で聴かず嫌いの人も多いと思われるけど、ちゃんと聴いてみると同時代のロートル・ミュージシャンと比べても現場感覚をしっかり意識して古びていない。「ダサい」と思われていたダンス・ビート中心のアレンジは、逆に時代の趨勢に飲み込まれず、いま聴くとStones流のダンス・ナンバーとして機能している。
 Sly & Robbyによるダヴ・ビートは彼らにとって新機軸だけど、Keithもレゲエ繋がりなら納得しているのか、オーソドックスなロック・ギターとの相性は良い。ダンスフロアでのリスニング・スタイルを想定して、エフェクトをたっぷり効かせた騒々しいサウンドは、普通なら音が潰れそうなところだけど、構成楽器のひとつひとつの粒立ちは意外なほどはっきりしている。その辺の仕事はやっぱりBob Clearmountain。ちょっと上品だよな、やっぱ。



2. She Was Hot
 こちらは第2弾シングル。パブリック・イメージとしてのStonesなら、むしろこちらの方が「いかにも」といった感じ。王道ロックンロールが飽きられていた時代もあって、US44位UK42位はまぁ妥当なところ。こういった数値で見てみると、やはりMickの先見性が見事ハマった結果になっている。
 それ以外にも前述したように、ミックスが上品なので、このようなガレージ・ロック・スタイルではクリア過ぎる感がある。こういったサウンドではむしろコンプがかかったようにちょっと潰れ気味の方が風情が出るのだけど、きれいに分離しすぎて聴き流れてしまうとこがちょっと惜しい。ライブ映えする曲なので、スタジオ・ヴァージョンじゃない方がいいのかも。

3. Tie You Up (The Pain of Love) 
 彼らのもう一つの持ち味である、ジャンプ風のブルース・ナンバー。MickのヴォーカルとKeith のギターとの掛け合いが、このアルバムのハイライトのひとつ。80年代の特徴として、人工的なドラムの音が興醒めしてしまう部分もあるのだけれど、彼のクセの強いオブリガードはサウンドに埋もれることを拒否している。ていうか、「俺は俺さ」ってか。
 中盤のブレイク、ビートとMickのみのパートが、ものすごくダサい。普通にモダン・スタイルのブルース・ナンバーで通せばよかったものを、この辺は多分Mickの横やりだな。

4. Wanna Hold You
 Keithヴォーカルによる、ちょっとキャッチーなロック・ナンバー。思えばKeithがブルースやレゲエ以外の曲でリードを取るのは珍しい。彼の場合、実際は何が何でもブルース原理主義というわけではなく、地味ではあるけれどアルバム毎に小さな範囲で新機軸を打ち出している。彼だってStonesの一員、ちょっとは新しいサウンドにも手を付けてみたいのだ。
 タイトル通り、Beatles「I Wanna Hold Your Hand」にインスパイアされており、そんなテーマからも軽快さを志向していることが窺える。

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5. Feel On Baby
 本格的なレゲエ、と言いたいところだけど、実のところはレゲエのフォーマットを使ってStones的な猥雑さを演出した、本質的な部分ではもっともStonesらしい作品。普通にロックンロールやブルースでお茶を濁すこともできたものを、敢えてここで実験的なナンバーを入れてしまうところが、チャレンジ・スピリットと言える。考えてみれば、方向性は全然違うけど、MickもKeithも新しいサウンドに貪欲という点においては一緒なんだよな。楽しそうにコーラスやってるし。

6. Too Much Blood
 で、そんなレゲエのエッセンスを消化して、ロックンロールのイディオムとサンバのリズムを付け加え、ギターのファンクネスをぶち込んで怪しげに仕立て上げたのが、これ。第3弾シングルとしてUSではメインストリーム・チャート38位にランクインしたのだけど、UKでは音沙汰なし。もったいないよな、いま聴くと、「Thriller」を意識したかのようなギター・プレイやシャウトがモロで笑えるし、でもカッコいいんだよな、ホーンの音色なんかも。
 ちなみにリリース当時話題になったのが、パリで起こった日本人による人肉食殺人事件を歌った歌詞。世界中で騒がれて間もない頃だったため、どちらかといえば批判的な論調だったことを覚えている当時中学生の俺。



7. Pretty Beat Up
 スタジオ・ライブっぽく奥行きある響きのMickのヴォーカルが炸裂する、ソリッドなロックンロール。アクセントとしてDavid Sanbornがエモーショナルなサックスを披露している。ミックスとしては全体的に分離が良すぎるのだけど、Davidのプレイが熱く昂ぶっている。クレバーなプレイでまとめてしまう彼にしては珍しく白熱のプレイ。でもそれだけかな、楽曲としては普通の出来。

8. Too Tough
 なので、下手な小細工を使ってないこれは、Stonesの本質をうまく掬い取っている。リフを中心としたギター・サウンド、わかりやすいサビ。同じロックンロールでも、テイストがまるで違っている。こういった曲は古くならないんだよな。

9. All the Way Down
 Mick Tylor時代を彷彿とさせる、やや土臭いブルースっぽさが充満したロック・チューン。いやいいんだけどさ、これを80年代にリリースするのはちょっと時代性を無視してない?といった感じ。古参ユーザーへの配慮で入れたのかもしれないけど、果敢に挑戦する姿勢を見せたA面と比べると、保守的なナンバーが並んでるのがB面の特徴。ここら辺が若い層には受け入れられなかったのかな。

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10. It Must Be Hell
 続いて、「Honky Tonk Women」の別ヴァージョンと言われたら信じてしまいそうな、原理主義者向けのスワンプ・ロック・ナンバー。まぁキャッチーなA面と保守的なB面に分けたのかな。いいんだけどね、でも前向きではない。「抑え」的な楽曲としては優秀だけど、メインに出すべき曲じゃない。その辺がわかっててラストに入れたんだろうな。もともとフィナーレで盛り上げるアルバムを作る人たちじゃないし。



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言われてるほど悪くない、ちゃんとしたロックンロール - Rolling Stones 『Dirty Work』

folder 大多数の、またはStonesファン歴の長いユーザーほど毛嫌いする傾向が強い、1985年にリリースされた、もう何枚目なのかよくわからないオリジナル・アルバム。
 さすがにこれだけの歴史を持つバンドなだけに、その時代によって推奨アルバムが激変しているのも彼らならでは。例えば10年くらい前までは「ルーツ回帰したブルース・ロック」として、『Beggars Banquet』や『Let It Bleed』が必聴盤として紹介される機会が多かったのだけど、ここ最近では、60年代の迷走期の作品として長らく日の当たらなかった『Their Satanic Majesties Request』の評価が高まりつつある。進研ゼミのCMで” She's a Rainbow”が流れる時代になるとは、まさかBryan Jonesも思わなかっただろう。

 本人たちでさえも『Sgt. Pepper’s~』のパクリ・便乗という認識だったため、ほんとつい最近までまともに顧みられなかった『Satanic Majesties~』、今ではネオ・サイケのルーツとしてリスペクトされまくっているというのに、いまだそんな気配すら感じられない80年代の仇花、それが『Dirty Work』である。シンプルで良質なロックンロール・アルバムでありながら、いまだまともに音楽性について語られないのは、むしろその制作背景、はっきり言ってしまってバンド内の確執の話題の方が大きかったからである。

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 今では結構知られた話だけど、このMick Jaggerという人物、凄まじく爛れたロックンロール・ライフの渦中にいたにもかかわらず、もとはロンドンで経営・経済学を学んでいた、大胆さと聡明さをあわせ持ったキャラクターの持ち主である。バンド活動をひとつの企業体として捉え、実質的なCEOとしてビジネス面において辣腕を振るっているのがMick、サウンド・コンセプトなどの実務面、またバンドの盤石たる精神的な支柱を担っているのがKeithと考えれば、もう少しわかりやすいと思う。
 これまで興味がなかった人にとって、Rolling Stonesとは「Beatlesと同世代の、ロックンロール一筋のバンド」というイメージが一般的だろうけど、実のところ、そんな単純な話でもない。他の同世代バンドが、次々に解散か自然消滅、もしくは懐メロバンドとして辛うじて生き伸びている状況を見ると、時代の動向を見据えた彼ら独自の経営方針が見えてくる。

 Rolling Stonesレーベルという自前のレコード配給会社を作ろうとしたのは、もちろんMickの提案である。レーベル設立時の70年代初頭、すでにStonesにはかなりの市場価値があったため、そのブランド・イメージの保持並びに音楽・映像など、ありとあらゆるStones関連の権利の管理・独占を目的とするものだった。
 BeatlesのAppleの前例があるように、大抵のミュージシャンにとって著作権管理や収益の管理はめんどくさいものである。ミュージシャン自身がデスク・ワークを取り仕切ってゆくのは限界があるため、どうしても外部の事務方が必要になる。どれだけ信頼できるブレーンだったとしても、人間、大きな金が自分の前を流れていると、つい手をつけてしまいたくなるのが本音である。そういった連中が金の臭いを嗅ぎつけてワラワラと集まり、多くのマージンが搾取される。本来、最も取り分が多いはずのミュージシャンが気づいた頃には、おいしい所はあらかた持ち去られてしまい、手元に残るのは微々たるもの。それだけならまだいい方で、中にはマイナスの財産、負債までおっ被せられてしまった者も珍しくない。

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 そういった前例をあちこちで見てきたMick、それらを反面教師として、緻密な経営戦略のもと運営された株式会社Rolling Stonesは、数々のトラブルを乗り越え、時代のトレンドを先読みしながら、音楽シーンを生き残っていった。
 ディスコが流行れば”Miss You”、ニュー・ウェイヴが流行ると”Undercover of the Night”など、もちろんMickなりのトレンド導入なので、ほんとの最先端のサウンドとはいまいちズレてはいるのだけど、取り敢えず話題作りとしては充分なので、それなりにヒット・チャートには食い込むことはできた。
 創立メンバーであるBryan Jonesの死後も、新しい血の導入ということで、Mick TaylorやRon Woodなど、随時メンバーの新陳代謝を図りながら、株式会社Rolling Stonesのブランド・イメージを守り続けるため、理性的な判断を下していたのがMick、そして経営理念を頑固に守り通していたのがKeith、という構図になる。

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 で、当時「バンド内の人間関係が最悪の状態でリリースされた」というのがこの『Dirty Work』なのだけど、そう単純な話でもないんじゃね?というのが本題。
 幼少時からの長い長い付き合いであるこの2人、これだけ長く顔を突き合わせていると、何かと衝突は免れないだろう。ちょっとした小競り合いは何度もあったそうだし、それが特に深刻になったのが、ちょうどこの時期である。Mickとしても、ルーティン・ビジネスと化していたStonesの活動を一旦リセットして、他のミュージシャンとルーティン以外の音楽をやってみたかった、というのが正直なところだろう。ただそこはもちろん商売人であるMickのこと、Jeff BeckやBernard Edwards、Herbie Hancockまで、とにかく思いつく限りの豪華なメンツを集めて、話題作りを行なったわけだけど。

 で、結局のところ、このトップの確執も大げさに報道されてはいたけど、実情はそこまで深刻なものでもなく、ただ単に話題作り、ゴシップネタの提供によるプロモーションの一環だったんじゃないの?という推論。Stonesの活動を疎かにしてソロへ走ったMickに対し、「しょうがねぇな」と苦虫を噛み潰すKeithの渋顔が想像できる。
 そう考えると、メディアを通した2人の舌戦や、いかにも一触即発を煽った”One Hit”のPVも納得できる。
 戦略としての内部対立の演出の裏側で、にやけながら賃借対照表や財務諸表の報告を聞き流すMickとKeith。
 やはり一筋縄では行かない2人である。


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1. One Hit (To The Body)
 前述したように、お互いを突き飛ばし合うMickとKeithの対立姿勢が有名なPV。確かに純粋なStonesファンなら、この先2人はどうなってしまうんだろう…、と気が気でなかったはず。結局はオヤジ同士の痴話喧嘩的ハッピーエンドを迎えることになるのだけど、まぁそれは後日の話。
 Ronも作曲に関わってるおかげか、ソリッドかつシンプルなギター・ロック。Mickのヴォーカルも粗野でラフなのだけど、それがまたサウンドにマッチしている。ゲスト参加としてクレジットされているBobby Womackのバック・ヴォーカルはわかるのだけど、Jimmy Pageがどこで何をしているのかよくわからない。終盤のうねり狂ったソロ?
 


2. Fight
 80年代に入ったあたりからロック・コンサートの規模は巨大化し、特にStones、もはやアリーナ級では収まらず、スタジアム・クラスでのツアーが通常となっていた。そうなると、それ向きのナンバーが必要になる。過去のヒット・ナンバーをリアレンジしたとしても、タマが足りなくなる。数万クラスの収容人数へインパクトを与えるには、やはりそういったタイプの曲が必要なのだ。
 広大なスタジアムで心地よく響き渡る状況を想定して作られた曲だと思うのだけど、この時期はまともにライブをやってないので、いわゆるライブ・ヴァージョンがほぼ存在しない。ぜひ再演してほしい曲のひとつである。

3. Harlem Shuffle
 1964年Bob & Earlによる、US44位というマイナー・ヒットのため、多分オリジナルはほとんど知られていないし、俺も聴いたことない。こちらもMTV時代、ルーニー・テューンズ・タッチのアニメPVが好評を博したのか、US5位UK13位という、80年代Stonesとしてはかなりの好セールスを記録。曲調に合わせてMickもソウルフルなヴォーカルを披露、裏で雄たけびを上げるBobby Womackに煽られたのか、かなり気合の入った演奏となっている。
 アルバム・リリース時のリード・シングルなのだけど、オリジナル主体のバンドとしては、最初のシングルがカバー曲、しかもそこそこヒットしてしまったというのは、ちょっと微妙なところ。よほどMickのチェック機能が働かず、選曲やレコーディングがKeith主導で行なわれたことの証だろう。こういうのって下手こくと、そのまま懐メロバンドに落ちぶれてしまう危険性も孕んでいる。それくらいカバーというのは危険なのだ。
 まぁKeithがそんなこと考えるわけもない。やはりMickが悪いのだ。
 


4. Hold Back
 Charlie Wattsのドラム・サウンドが急に80年代調になる。ギターも少し大味になり、ラフな演奏やオブリガードが目立つ。Mick、これは…、なんかヤケクソだよな、これ。80年代アメリカン・ハード・ロックのようなサウンドなので、やはりこちらもスタジアム向きの曲、Stonesの歴史の中では、他の同時代サウンドに似過ぎるがあまり、彼らのレパートリーの中では浮いて聴こえる曲である。
 でも改めてだけど、Charlieってドラムうまいよな。だってすぐCharlieってわかってしまう、特徴のある響きを出している。この頃は深刻なアル中だったとのことだけど、全然そう感じさせないプレイである。

5. Too Rude
 またまたカバー曲、今度はジャマイカのミュージシャン(もちろんレゲエ)Half Pintという人のカバー。すまん、オリジナルはもちろん、この人のことも初めて知った。かなりマニアックな所を突いてくるのは、さすがKeith。もちろんMickは不参加、ほぼソロと言ってもいいくらい、通常Stonesとはかけ離れた本格的なレゲエ・トラック。

6. Winning Ugly
 ギター・リフの音色といいバスドラの響きといい、これぞ80年代。やはりスタジアム・ロック系の音作りになっている。せっかくMickのヴォーカルもいい感じだというのに、やはりサウンド自体がショボい。あんまり音をいじらなければよかったのに、やはりKeithでも時代性を考慮していたのだろうか?
 
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7. Back To Zero
 ファンク風のライトなカッティングが、Stones色を抑えている。間奏のリズムは一瞬面白くなり、Mickもアフロっぽいフェイクを入れているのだけれど、ただそれだけで終わってしまう。まぁMickのソロにでも入れてたら、しっくり来てたかと思う。

8. Dirty Work
 疾走感溢れる8ビートが気持ちいいタイトル・トラック。レイドバックしてブルース色ドロドロのStonesが古参マニアには受けがいいのだろうけど、俺的にはこのように、老体に鞭打つように急かされたリズムの方が好みである。クレジットにRonが入っているのと、手数とオカズの多いCharlieのハイハット、久しぶりに気合いの入ったMickのシャウト、どれも80年代通してでは最高のプレイ。

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9. Had It With You
 Bill Wyman不参加ということで、イコール、ベースレスのトラック。曲調は思いっきりブルースだというのに、妙に軽いのは多分そこ。この頃からグループ内での立場が微妙になっていたBill、レコーディングにお呼びすらかからなかったこともしばしばあった、とのこと。MickとKeithとの確執をよそに、自ら出資したレストラン事業や女遊びにうつつを抜かしていたのだから、まぁ身から出たサビとも言える。
 
10. Sleep Tonight
 Keithヴォーカルとしては珍しくストレートでシンプルなバラード。出だしから何となく”Knockin’ on Heaven’s Door”を連想させてしまうけど、その雰囲気がそのまま最後まで続く。Dylanを模したようなヴォーカル、過剰にエモーショナルなバック・コーラス。どれもそっくりだ。
 とは言っても、最後まで聴き進んでいくと、うまくはないが味のある声質がクセになってくる。ヘタウマ・ギターもすでに『芸』の領域に達している。

11. Untitled (Key To The Highway)
 ブルース・ナンバーの定番らしいけど、これもよくわからん。
 アルバム・リリース直前に亡くなった「6人目のStones」Ian Stewartによるブギウギ・ピアノ。ほんの30秒ほどなので、エクストラ・トラック的なおまけ扱い。ほんと裏方仕事に長けた人で、バンド内の人間関係の調整も行なっていたのだけど、彼の不在によって、一時バンドは空中分解寸前にまで陥ってしまう。
 



 という演出だったのかどうかはもはや不明だけど、とにかくMickは通常アルバムに伴う世界ツアーを拒否、このアルバム・レコーディング後、自分のソロ・ツアーを行なった。それがMickの初来日となり、日テレでゴールデン・タイムでのライブ放映が行われたりなど、大きな盛り上がりを見せた。俺もテレビで見た記憶がある。
 Mickは2枚目のソロ制作に入り、そして遂にKeithもStones再開の見通しが立たないことに痺れを切らし、遂にソロ・アルバムをリリース…、というのが和解までの流れなのだけど、まぁそこまで深刻だったのか、今となっては怪しいものである。Keithもどこかでソロのきっかけを探していたのかもしれないし、またMickもバブルの真っ最中で浮かれていただけなのかもしれない。
 それすらもMickの経営計画に組み込まれていたのだとしたら…。

 我々は結局、MickとKeithの市場操作に踊らされているだけなのかもしれない。



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最近のStonesだって悪くない - Rolling Stones 『A Bigger Bang』

folder 2005年に発売された、前作からは8年ぶりのオリジナル・アルバム。通算で行くと…-、ちょっとわかんない。
 以前、Stevie Wonder『Hotter Than July』のレビューでも書いたのだけど、音楽業界が黎明期だった1960年代デビューのアーティストは、どれもきちんとした出版管理が為されていなかった。とにかくあらゆる組み合わせで、各国独自編集のアルバムが乱発されていたため、ディスコグラフィーというのがあまり意味を成さないのだ。
 Rolling Stonesレーベルが設立された70年代に入ってからは、そういったリリース・ラッシュも落ち着いたけど、逆にビジネスマンMickの独裁的マネジメントが裏目に出て、アイテム数が絞られ、怪しげなコンピレーションが一掃されてしまったのは、それはそれでちょっと淋しい。
 ところが近年になってから、頑固なMickの方針が変わったのか、ネット限定ではあるけれど、過去のライブ・アーカイブを惜しげもなく、結構なハイ・ペースでリリースしている。
 この心境の変化が何なのか、そろそろ年齢を自覚して、キャリアの総決算モードに入ったのか、それとも金融資産の目減りが著しい、特に最近何かと踏んだり蹴ったりのRon Woodへの救済措置なのか。
 勘繰る事はいろいろあるけど、何かと話題の尽きない人たちである。

 ドラム・ループや派手な外部コーラスを導入した90年代を経て、新世紀に入ってからリリースしたベスト・アルバム『40 Licks』に収録された新曲群では、ほぼメンバーのみのシンプルなナンバーを披露したStones、そのセッションで手応えを掴んだのか、続くこのアルバムでは、原点回帰的なストレートなロック・サウンド一本で押し通している。
 前作『Bridges to Babylon』 がMickの仕切りによって、時代に則したテクノロジー機材を導入、まぁそれなりには売れたのだけど、はっきり言って「これじゃない感」を持ったStonesファンは多かったはず。彼らの活動状況はファンだけでなく、世界中のオールド・ロック・ファン、日本ならレココレ購読者も注目する一大イベントだったため、その消化不良な出来栄えは微妙な賛否両論を巻き起こした。

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 ここまで書いてきてなんだけど、正直な話、彼らくらいのキャリアにまでなっちゃうと、今さらニュー・アルバムのコンセプトがどうしたサウンドがどうしたなど、そんなのはもう瑣末なことであり、重要ではなくなっている。もはや存続すること自体が目的化しており、とりあえずメンバー4人が揃っていれば元気でやってくれていればそれで満足、という状態になっている。
 外部から見れば、いつも安定した品質、いつまで経っても変化のないゴキゲンなロックンロールをやってくれれば満足なのだろうけど、バンド運営の視点で見れば、そういうわけにもいかないのだろう。単なる懐メロ・バンドのレッテルを貼られぬよう、その辺は経営者であるMickが率先して、旬のミュージック・シーンとの接点作りに尽力している。
 かといって、彼もほんとに好きでTaylor Swiftなんかとコラボしているとは思えず、ミュージック・シーンへの話題提供としてのパフォーマンスというのが見え見えである。昔から時代のトレンドを追うことが好きな人ではあったけど、さすがに御年70も過ぎれば、無理やり感は拭えない。まぁその辺も重々理解の上、図々しさ丸出しでないと、ここまで長いことエンタメ・シーンで生き残れてるはずもないのだけど。

 90年代のアルバム2枚はどちらもMick主導、これまでのルーティンだった、延々と続くジャム・セッションから産み出される偶然の産物ではなく、きっちりプロデュースされブラッシュ・アップされたサウンドだった。トップ40ヒットと比較しても見劣りしない、重厚でエンタメ感もプラスしたモダン・サウンドは、すっかりスタジアム公演が定番となった彼らのスケールにフィットしたものだった。
 だったのだけどしかし、ファンの誰も、そういった進歩は求めていないのだった。バンド名のごとく、生きている限りは転がり続けることもまた、バンドの宿命ではあるけれど、ここまでのキャリアになってしまうと、革新的なサウンドを求めるのは酷だろうし、第一バンドの成り立ちからして、変幻自在なキャラクターではない。
 もはやとどまり続けること、老害だと何と言われようと、定番の味を出し続けることこそが、最も期待されていることなのだ。

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 そういった空気を悟ったのか、このアルバムでは久し振りにKeithが制作サイドに復帰、彼のカラーが強く出た作品に仕上がっている。
 前回レビューした『Dirty Work』もそうだったけど、Keithが出しゃばってきた場合は、ベーシックなロックンロールが中心となり、ファンや評論家の受けも良くなる傾向にある。特にこの時期は、Ron Woodがアル中やら何やらの体調不良で使い物にならず、MickとKeithが膝を突き合わせて作り込んだ曲も多い。それが結果的に一体感が生まれ、Keith望むところのゴキゲンなロックンロール作に仕上がっている。
 今どき古色蒼然としたロックンロールなんて真っ平ゴメンだぜ、という発言の多いMickもまた、最初は嫌々ながらも、結局は同じ穴のムジナ、Keithの迫力に押し切られたのか、自分の声質にフィットした、ブルース色の濃いナンバーを書き下ろしている。

 来年には久し振りにレコーディングを始めるらしく、新作に向けて各メンバーの動きが慌ただしくなってきている。こちらも久し振りのKeith新作、Ronnie参加のFaces再結成など、まぁ話題には事欠かない。
 あとは誰も欠けることないよう、ただ祈るばかり。
 多くは望まないよ、やっててさえいてくれたら。


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1. Rough Justice
 普通にカッコいい。ただそれだけ。ていうか、それ以上の賛辞が思いつかない。誰もが思い浮かぶようなStonesソングの完成形。直球ド真ん中のハイパー・ロックンロール。Charlie Wattsのドラムが全然衰えを感じない。こういったアップ・テンポ・ナンバーを聴いてると、やはりバンドの要は彼なのだな、ということに気づかされる。



2. Let Me Down Slow
 Stones風カントリー・ロックの、こちらも完成形。70年代のスワンプ・ロックはもっと泥臭くかったけど、リズムが立つことによってモッサリ感がなくなり、21世紀でも十分鑑賞に堪えうるクオリティ。

3. It Won't Take Long
 テンポを少し落としたミディアム・ナンバー。
プロデューサーのDon Wasの腕もあるのだろうけど、ヴォーカルとギターの聴かせ方がほんとうまい。音がダンゴになることなく、それでいてかっちり分離してるのでもなく、ミックス加減が絶妙。特にこのアルバム、近作と違って音数は少ないため、一つ一つの音を太くミックスしないとスカスカになってしまうところを、うまくまとめている。

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4. Rain Fall Down
 こうしたファンク風味はやはりMickの真骨頂。これがKeith主導になると、レイド・バックし過ぎてこの味が出ない。やはり2人でひとつなのだな、このコンビは。
 地味なナンバーだけど、なぜかシングル・カットされており、UK33位US21位にランク・イン。

5. Streets Of Love
 すっごいベタなバラードだけど、俺的にはStonesのバラードの3本の指に入るほどのお気に入り。ここでの主役は何といっても、めっちゃソウルフルなヴォーカルのMick。ここまで熱いパフォーマンスは久し振りなんじゃないかと思われる。ここ数年は特に、もっとクレバーなイメージだったので。
 キャリアも最終コーナーに入っていることを意識しているのか、ここでここまでわかりやすくエモーショナルなナンバーを出してきたことに、彼らの気概が感じられる。もっと評価されてもいい。



6. Back Of My Hand
 ゴリゴリのブルース・ナンバー。Mickは滅多にやってくれないけど、ブルース・ハープを持たせたら、多分世界で1,2を争う名手であることは案外知られていない。ブルース・シンガーと呼ばれるのを嫌ってる人なので、なかなか見せてはくれないけど、やればできる人なのだ。やっぱKeithがケツを叩いてくれないと。
 とはいっても俺、ブルース・ソングはあまり興味なし。なかなか聴かせるナンバーなんだけどね。

7. She Saw Me Coming
 譜割りで追うと、”Start Me Up”を連想してしまう、こちらもサビ一発のナンバー。歌詞もそれほど内容はないけど、Stonesに意味を求めちゃいけない。あくまで歌詞なんて付け足しだから。

8. Biggest Mistake
 カントリー・ロック・テイストのミディアム・ナンバー。ちょうどMickがJerry Hallとうまく行かなくなっていた頃で、それに合わせてリリースされたことで話題になったはず。まぁこういったMistakeも逆手にとってプロモーションに使ってしまうのは、彼らの思惑通りなのだけど。

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9. This Place Is Empty
 アルバムで1、2曲は定番のKeithヴォーカル・ナンバー。Keithが歌ってるのだから、ほとんどKeithが作っているのだけれど、この渋い声質は誰にも真似できない。相変わらず地味なナンバーなのだけど、薄くフィドルを絡めているのが、やはりKeithの味。

10. Oh No, Not You Again
 まったりしたテンポがしばらく続いた後、久し振りにアップ・テンポ・ナンバー。やっぱりこういうのが好きなんだろうな、この人たち。Mickはもっとダンスサブルなものが好きだと公言してるけど、やっぱり横ノリよりも縦ノリの方が良く似合ってる。わかってはいるんだろうけど、Keithへの手前、認めたくないんだろうな、きっと。



11. Dangerous Beauty
 貫禄十分のスタジアム・ロック。広い会場が似合いそうなナンバー。基本、リフだけで作られたようなナンバーなので、Mickがやりたい放題。カッチリしたビートよりも、こうした人力ハイパー・リズムが良く似合ってる。
 変にプロデュースし過ぎちゃうと、この勢いが消されてしまうのは、近作で思い知ったはずなので、どの音もあまりいじられていない。その辺、Don Wasもわかってる。まぁMickがいつも横やりを入れて、台無しにしてしまうのだろうけど。

12. Laugh, I Nearly Died
 今どきのバンドなら、もっとドラマティックで浮遊感あふれるサウンドに仕上げてしまいがちだけど、ここはさすが大御所、ギミックは最小限に抑え、Mickの歌を最大限に活かす音作りに徹している。
 Mickのヴォーカルがうまくなったと思うのは、俺だけだろうか?

13. Sweet Neo Con
 このアルバム最大の話題作。ブッシュ政権への強烈な皮肉と批判という論調で語られがちだけど、時事ネタを取り上げるのは、この人たちは昔からよくあること。湾岸戦争の時もそれで騒がれたしね。
 サウンド的にはラウドなブルース・ナンバー。サビはどことなくアジアン・テイストなので、日本人にとっては覚えやすくなじみやすいメロディ・ラインになっている。

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14. Look What The Cat Dragged In
 このアルバムの中では最もモダン・サウンドに近づいたナンバー。多分、Mick主導。まぁKeithにはこんな曲、逆立ちしたって無理だな。でも、こういった二面性がバンドのフロントマン2人で分かち合ってることによって、バンドのサウンドが一枚岩でなく、バラエティ感が出る。そういったことも、バンドが生き永らえる秘訣なのだ。

15. Driving Too Fast
 Mickのヴォーカルがちょっとフラット気味。キーが高いのかな?ここはリズム・キープに徹した演奏陣の力が強く働いており、なぜかしら調子の悪いMickには分が悪い。なので、80年代Stonesをなぞったようなサウンド。まぁ往年のファンなら安心する音作りだけど。

16. Infamy
 ラストはやはりMick主導、と思ったらKeithだった。ドラム・ループを使うKeithはちょっと予想の範囲外だった。彼としては実験的な要素が強いのだけど、これでアルバム1枚作られたら、ちょっとキツイ。アルバムのラストを飾るのには、ちょっと地味だけど、まぁ続きは次のアルバムで、ということなのだろうか。




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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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