folder 2015年リリース、今の時点で8枚目のレイテスト・オリジナル・アルバム。2001年デビューよりコンスタントな活動ぶりで、日本ではBaker Brothersと双璧を誇る人気のジャズ・ファンク・バンドという位置付け。前回のBakerのレビューでも書いたけど、そもそもセールス規模が小さいので、いちおう大物扱いではあるけれど、実売数的には大したことはない。その辺がイマイチ知られていない要因である。
 ほぼ定期的に何かしらのアクションがある安定した活動のため、日本でもそれなりに人気が高く、独自編集盤もリリースされているくらいである。この手のバンドにしてはアルバム中心のリリースとなっているのも、シングルの入手が難しい日本においては好条件である。

 近年のアーティストの世界的な収支傾向として、従来の音源販売にとって代わり、ライブ動員・グッズでの収益が主流になっている。積極的なメディア露出よりもむしろ、地道な草の根的ロードでも食っていけるようになったことは、本来喜ばしい傾向なのだけど、生演奏主体のバンドにとっては痛しかゆしでもある。
 テクノ/レイブ系のEDMスタイルならば、トラックメイカーともう1人、賑やかし担当がいればそれで済むけど、一般的なオーソドックス・スタイルのバンドでは、それなりの頭数が必要になる。ましてやジャズ・ファンクのバンドだと、サウンドの性格上、ホーン・セクションを常設するケースも多く、そうなると10人前後の大所帯になってしまう。当然、ギャラを各自等分してゆくと、微々たる分け前になってしまう。
 ジャンルの性格上、ロック系と比べると大規模な動員は期待できないので、一般的なロック・バンドと比べるとギャラは少なくなる。だからと言って、メンバーをリストラしてサウンドを弱体化させてしまうのも、本末転倒である。
 結局は収益の分母を増やすしか方法がないので、単純にライブの本数を増やすのが一番なのだけど、そうそうスケジュールが埋まるわけでもない。各メンバーもまた、趣味と実益を兼ねた他バンドへのヘルプもあって、なかなか全員顔をそろえることができない。収入を補填するための副業が忙しすぎて、メインの本業に支障をきたすのは、実はよくあること。
 どうにか都合をつけて短期ツアーくらいは行なうことができても、何かと手間と経費のかかるレコーディングにまで時間を割くのは、もっと難しい。現代ジャズ・ファンクのリリース・スケジュールがシングル中心になっているのは、こういった理由もある。

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 その点、New Mastersoundsはホーン・セクションなしの4人編成、ほぼベーシックなバンド編成のみでできるオーソドックスなサウンドが特徴である。少数精鋭なので多国間の移動も最小限で済み、それだけ取り分も多くなる。バンドのネーム・バリューも安定しているので、オファーもそこそこ途切れずにいる。定期的なライブ開催によってブランクが空かない分だけ、アンサンブルも安定している。
 コンパクトで小回りが利く。なんか軽自動車のCMみたいだな。

 Eddie Roberts (G)
 Simon Allen (D)
 Pete Shand (B)
 Joe Tatton (Key)
 の4名が基本メンバーで、レコーディング時にはホーン・セクションを呼んだりヴォーカリストをフィーチャーしてるけど、大体はこのメンツで固定している。コンスタントな活動を継続してる分だけ、そんなに時間的な余裕もないはずなのに、リーダーのEddieは合い間を縫ってサイド・プロジェクトに勤しみ、こちらでも同じようなペースでライブだレコーディングだと活動している。それが本体の活動を圧迫することなく、しかもそれぞれで得た知識・経験やスキルを双方にフィードバックしているので、気持ち悪いくらいの好循環となっている。
 ここまで行っちゃうと、ワーカホリックじゃないんだよな。ただただ、好きでやってるだけなんだよ。

 このジャンルの中ではメジャー・クラスに位置するNew Mastersounds、いわゆるニッチなところを追求しているのではなく、極めてオーソドックス、ファンクというよりはジャズ、特にNu Jazzのテイストが強い。もう一方の雄であるBaker Brothersはロックやファンクのミクスチュアに加え、ヒップホップのイディオムも導入している分だけ、クラブ・シーンには滅法強い。その辺で彼らとはうまく棲み分けができているのだけど、逆に言えばクセの少ないマイルドな音楽性が仇となる場合もある。
 このジャンルのビギナーならともかくとして、少し聴く幅が広がってゆくと、ブルースやファンクなどの「濃い」味を知ってしまい、ちょっと食い足りなくなってしまうのも事実。限りなく4ビートに近づくとラウンジ・ジャズと見分けがつかなくなるし、ヴォーカル・トラックになると、まんまアシッド・ジャズである。
 そういったクセのなさが物足りなく感じる人もいるだろうけど、右も左もわからないビギナーにとっては、ある意味敷居の高い「ジャズ・ファンク」という音楽にスムーズに入って行けるサウンドがここにある。

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 「Live Music Archive」という海外サイトがあり、そこではアメリカを中心としたプロ/アマ問わず、ほとんどフルセットのライブ音源がアップロードされている。無名アーティストの音源なら珍しくないけど、このサイトは日本でも名前の知られているメジャーどころも積極的に参加している点が強み。怪しげな会員制海外トレント・サイトが一時ブームとなり、無許可・流出音源の違法アップロードが盛んに行なわれていた時期があったけど、ここではすべてアーティスト公認となっている。なので、オーディエンス録音によるブートまがいの音質のモノは少なく、きちんとミックスされたサウンドボード音源が主体となっている。商品として販売できるレベルの音源が、堂々とダウンロードできる。サーバー維持のため、たまにDonateするのが良心だけどね。
 90年代のジャム・バンド隆盛によって自然発生的にできたサイトのため、多くは有名無名のジャム・バンドが多勢を占めている。ていうか、「アメリカにバンドって、こんなにいるのかよっ」と突っ込んでしまうくらい膨大な量なので、アーティスト名だけ眺めていても時間が過ぎてしまうくらいである。
 有名どころでは、ジャム・バンドといえばこの人たちがルーツのGrateful Dead。60年代からカセットテープのコピー音源が全世界を飛び交っていた伝説のバンドのアップ数、なんと10000超‼。絶対、一生かけても聴き通せないほどの物量である。しかも、これに各メンバーのソロ・プロジェクトも含めると…。まぁいいや、俺は多分聴かないし。考えるだけで胸焼けしそう。
 Disco BiscuitsやString Cheese Incidentなど、俺でも知ってるアーティストが1000を超えるライブ音源をアップしてくれているのだから、このジャンルが好きな人にとっては毎日がパラダイスである。ジャム・バンド以外にも、Smashing PumpkinsやJack Johnson、日本でもジェイク・シマブクロが音源アップしてるので、ぜひ一度覗いてみてほしい。
 で、New Mastersoundsもここに参戦しており、2016年4月現在の登録数は291。 Deadはもう別格なのでレジェンドとして、300弱というのは中堅どころといった具合。しかも現役バリバリのライブ・バンドのため、その数はこれからも増えてゆくこと必至。ほとんどがフルセットのため、全部聴くとなるととんでもない分量になる。しかも、そのアーカイヴは現在もままだ増え続けている。

ダウンロード

 物理メディアを収益の柱とするのではなく、ライブ音源の拡散によって評判を集め、さらにライブの集客を増やしてゆくというビジネスモデルは、前述したDeadによって確立されたものである。小まめなロードに出ると、優に3年はかかると言われている国土の広さが、彼らのような活動スタイルを成立させていると言ってよい。
 こうした音源<ライブ重視の流れは全世界的なものになっている。ここまでは音源のみの話題だったけど、海外のライブではでスマホの持ち込み・撮影が当たり前になっており、HDクラスの映像がほぼリアルタイムで観ることができる時代になってきている。昔、画質の粗いブートVHSに高い金を出して買った覚えもあるけど、今ではそんな話も聴かなくなった。
 今のところ「Live Music Archive」、アメリカ発ということもあって、どうしてもジャム・バンドの音源に偏りがちだけど、この流れがEUにも広がってくれれば、もっと多様なジャンルを楽しむことも可能になる。そりゃもちろん、いろいろ条件が整備されないと難しいのだろうけど、そんな諸々がクリアになったら、ジャズ・ファンクという些末なジャンルの認知も、もうちょっと深まるんじゃないかと思われる。
 日本じゃ無理だろうな、JASRAC強すぎるし、レコード会社のしがらみキツそうだし。


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1. Made For Pleasure
 オープニングを飾る、オーソドックスなジャジー・インスト。ジャズ・ファンクのオープニングと言えば、この手のインストが定番となっている。ヴォーカル・ナンバーで始まることはまずない。ここがバンドのアイデンティティを発揮する重要なポジションになっている。
 終盤の変拍子、こういうのってそんなにリハーサルもせず、空気感一発なんだろうな。そういったことが手軽にできるほどのテクニックの持ち主揃いだということ。

2. High & Wide
 サンフランシスコを拠点に活動するWest Coast Horns参加による、ブラスを中心に据えたインスト・ナンバー。といってもメンバー2人のサックス&トランペットのコンビなのだけど、掛け合いも息の合わせ方もピッタリ。ライブで鍛えられた人たちなので、音の厚みも充分表現されている。たった2人なのにね。

3. Enough Is Enough
 今回の歌姫 Charly Lowry はネイティヴ・アメリカンのシンガー・ソングライターで、自らギター片手に歌うショットもちらほらネットに転がっている。ディーヴァというにはシュッとしたシャープな顔立ちの女性だけど、そのヴォーカライズはなかなかパワフル。
 彼女に引っ張られたのか、バンドもホーン・セクションも、いつもはないスタックス系のオールド・ソウル・スタイルのプレイを披露。バンドに特定のクセがなくテクニックも折り紙付きということは、ほんとレンジの広いジャンルを網羅できるということを教えてくれるナンバー。公式サイトに載ってるEddieの解説によると、MetersをバックにしたLee Dorseyを狙った、とのこと。Lee Dorseyはちゃんと聴いたことないけど、Metersは納得。



4. Fancy
 2014年にリリースされた、オーストラリア出身の女性ラッパーIggy Azaleaによる、全米7週連続1位を獲得した大ヒット・ナンバーのカバー。日本で言えば、Indigo jam Unitが「恋するフォーチュン・クッキー」をカバーするようなもの。なんだ、そりゃ。でも、ジャズ・ファンクでは時々、敢えてこういったベタなナンバーを捻った形でカバーすることがある。Speedometerも「Happy」カバーしてたしね。
アッパーな原曲とは一線を画すために、ここではEddieのギターをメインとしたオーセンティック・スタイル、しかもダブになってる。MCのSpellbinderはデンバー在住のラスタ・マン。どっから見つけてくるんだ、こんな男。

5. Cigar Time
 Eddieいわく、Grant Greenをモチーフとしたソウル・ジャズを狙った、ということで、意図はしっかり表現されている。中盤のハモンドもイイ感じのラウンジ・ジャズに仕上がっている。タイトルといい、大人の聴く音楽。若いうちはムリして聴いてたけど、こういうのがスンナリ受け入れられちゃうこと、人はそれを「大人になった」というのだろう。

6. Joy
 ストレートなオールド・スタイルのソウル・ナンバー。Ann Peeblesっぽく仕上げたということだけど、こちらも見事ハマっている。
 多くのジャズ・ファンク・バンドの特徴として、そのジャンルの性質上、スネアの音がやたら強調されることによって、逆にヴォーカル・ナンバーだと互いの良さが損なわれてしまうケースが多々あるのだけれど、彼ら、ていうかSimonは俺が俺がと前に出るタイプではないので、歌姫の良さをうまく引き出している。バランスって大事だよな。



7. Sitting On My Knees
 5.同様、ギター・メインのインストだけど、時々アクセントでエフェクトを利かせた音を鳴らしているので、ちょっぴりハード目。テンポも速くて気合が入りまくっている。あらゆる技とテクニックを入れまくっているので、ギター・インストでも聴いてて飽きないのは、俺的にZappaと肩を並べてほど。

8. Let’s Do Another
 Eddie抜き、ほぼリズム隊によるインスト・ナンバー。ライブ・セットで言えば幕間的なポジションの箸休めサウンド。オーディエンスも一旦休憩といったところか。

9. Pho Baby
 Eddie再び登場。こういったスタイルのナンバーを聴いていると、この人はやっぱり根っこがブルースなんだなぁ、ということがありありとわかる。
 このバンド、一応イギリスのバンドだけど、Eddieだけがアメリカ人という構成になっている。そんな彼のヤンキー体質が、マイルドに振れ過ぎる傾向にあるUK勢のストッパーになってるんじゃないかと思われる。

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10. Just Gotta Run
 なので、こういったストレートなソウル・ナンバーも無理やり感が少なく、しっかりグルーヴ感を出すことができる。インスパイアされたのがBettye LaVetteという大御所ソウル・シンガー。俺も知らなかった人だけど、実際、Youtubeで観てみたところ、パワフルなオバちゃん。まだ若いCharlyがその域に達するまでは先のことだけど、そのソウルは充分継承されている。

11. Tranquilo
 ラストはマッタリとしたジャジー・インスト。エピローグ的なスロー・チューンは、夢中になって観た映画のタイトルバックの如く、至福の余韻を味わわせてくれる。
 
 もう帰って寝る時間だ。
 でも、ちょっとどこかで一杯、
 昂りを鎮めてからにしようか。




Re: Mixed
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