今年に入ってからリリースされた、Mocamboレーベル主宰のバンドMighty Mocambos、単独名義では2枚目のアルバム。これまでは地元EUを拠点としたライブやらサポートやら、日本からは動向が掴みづらい活動が多かったのけど、昨年あたりからLee FieldsやAfrica Bambaataaらレジェンドとのコラボ・シングルが続々リリースされた。それがアルバム1枚分くらい溜まったので、今回こういった形でまとめられた次第。
特にBambaataaとの共演が話題になったけど、その関心はむしろ「まだ生きてたの?」という反応が多かったのが正直なところ。wikiで調べてみると、決して引退してたわけではなく、断続的ながらもコンスタントな活動ペースなのだけど、ヒップホップ系には今でもそんなに興味がない俺の認識不足。日本ではあまり情報が入って来ないのと、どうしてもヒップホップ創世期に活躍してたイメージが強いので、それ以降の活動状況が見えづらいのだ。
とはいえ業界内においては最古参の部類に入るレジェンド扱い、サイクルの早いこのジャンルにおいては別格扱いなのだけど、まだまだ日和ったりせず現役感が漂っているのは、やはりフロンティアならではの証。
で、Mighty Mocambos、主要メンバーは
Sascha Weise(ds)
Victor Kohn(b)
Sebastian Nagel(g)
Bjorn Wagner(g)
Bernhard Hummer(bs、as)
Sebastian Drescher(tp、flh)
Philip Puschel(tp、flh)
Ben Greenslade-Stanton(tb)
Pascal Dreckmann(per)
Hank Dettweiler(key)
という10名による布陣。 この手のバンドによくあるように、メイン以外のバンドを掛け持ちでやってる者も多く、特にギターのSebastian とチューバのBen は複数のバンドにもよく顔を出しているようだけど、それを全部追ってゆくのはとても不可能。その他にもMocambo レーベル所属アーティストのレコーディングにもたびたび参加しているおり、その辺はさすが生真面目なドイツ民族、精力的な活動ぶりである。
そりゃ自分たちのレコーディングも落ち着いてできないわけで。
ドイツのアーティストで俺が連想するのがKraftwerkとTangerine Dreamくらい。いずれも60年代から活躍しているクラウト・ロックの流れのアーティストである。Bonny Mもドイツだったのは今回初めて知った。まぁ聴いたことないけど。あと80年代でみると”ロックバルーンは99”でビルボードで唯一ドイツ語でチャート・トップに立ったNENAがいる。
そんなわけで、ほんと近年のドイツのポピュラー音楽についてはさっぱりわからないというのは、多分俺だけじゃないはず。大抵の洋楽ファンも、ほとんど似たような知識しかないんじゃないかと思う。
あとはせいぜいScorpions。これも70年代だ。
なので、いま現在のドイツのヒット・チャートがどうなってるのか、主にYoutubeを回って調べてみた。ほんとつい最近のチャートなので、Adeleが1位というのは鉄板として、続く国内アーティストはどれもダンス系ばかり。EDMやオートチューンが中心のビート・メインのサウンドが人気を博しているのは、何もドイツが特別なわけじゃなく、今世紀に入ってからの世界的な流れの主流。で、海外組といえば、他国と変わらずEnya やColdplay が上位に入っており、ざっくり見ると国内/海外が半々といった印象。こうした割合というのも世界的にほぼ変わらず、海外の新しい音楽が輸入されることによって国内アーティストのモチベーションも高まり、相乗効果によって活性化が計られる。
そう考えると、すっかりガラパゴス化してしまった日本の異常さが際立っている。別に過度な情報統制がされてるわけでもないのに、欲しい音楽は自ら能動的に動かないと見つけることができない。
そういった音楽市場のため、どう好意的に見ても彼らのような音楽がバカ売れする状況ではないのだけれど、ドイツを含むEU 圏というのは人の行き来がしやすい分、日本と比べてニッチなニーズのバンドが活動しやすい利点がある。さすがにアメリカのマーケットには及ばないけど、何しろ国の数が多いので、各国単体の市場を集めると、どうにか食って行けるくらいの稼ぎにはなる。
特にライブ・シーンにおいて彼らのような生演奏主体のバンドは、ビジュアル的には地味だけど、大所帯でのグルーヴィーなセッションは観客のウケも良くフェス映えするので、常に一定の需要がある。各国の大小フェスを順繰りに回って、さらにそれに合わせて会場周辺のクラブを回っていると、それだけで夏のツアーは成立してしまう。
なので、彼らの夏はあっという間に過ぎてゆく。
そんな風に忙しいにもかかわらず、可能な限りあちこちに顔を出す世話焼きの彼ら、おかげで自分たちの活動にまでなかなか手が回らず、リーダー・アルバムとしてはこれがやっと2枚目。レーベル運営だって決して順風満帆ではないはずで、細々した事で忙しいのだろう。
多忙のおかげでなかなかバンド活動に専念できないんだろうなと思っていたのだけど、なんと彼ら、バンド本体とは別名義でBacao Rhythm & Steel Bandというカリビアン風味のファンク・バンドも並行して行なっている。半分シャレでやっているようなものだけど、こちらはこちらでマジメにやってるらしく、コンスタントにシングルもリリースしている。本業だって手が足らないはずなのに、何やってんだと言いたくもなるけど、こういったのは好きでやってることなので、あまり真面目に怒っちゃいけない。ジャズ・ファンク・バンドがいろいろ仕事を掛け持ちしてるのは、至極普通のことである。
残業や休日出勤とはまったく無縁であるはずのゲルマン民族がこれだけ精力的なのは、仕事だと思っていないからなのだろう。どれほど少ない観客の前でも全力で演奏したり、連日レコーディングだセッションだと駆けずり回っていられるのは、好きでやってることだからであって、ビジネスは的には二の次と考えているフシがある。
もちろんレーベルだって慈善事業じゃないから、採算合わせに事務方がいろいろ頭を巡らせているのだろうけど、まぁスケベ心が前面に出過ぎない程度にがんばってほしい。
なので彼等、日本に行く暇などない。EU圏内での活動で手いっぱいである。
ザ・マイティ・モカンボス
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01. Road To Earth (With Peter Thomas)
良くありがちな名前のPeter Thomas、調べてみるとドイツ映画音楽界では伝説級のアレンジャー/コンポーザーで今年でなんと御年90歳。そんな大御所がチンピラ・ファンク・バンドとのコラボを快諾するとは、なかなか懐の深いお方。日本で言えば服部克久がゲスの極み乙女とコラボするようなもので、そのあり得なさがわかっていただけると思う。
妖しい60年代のSFかスパイ映画のようなオーケストレーションをバックに、いつも通り通常営業のMocambo達。このミスマッチ感を狙ってくるとは、なかなかの余裕。
02. It's The Music (With Afrika Bambaataa, Charlie Funk, Hektek & Deejay Snoop)
このアルバム最大の話題作がこれ。Bambaataa率いるZulu Nation一派が参加して、見事にMocambo達を自在に操っている。こういう人力ヒップホップって、近年のビッグビート一色になっちゃったラップ界よりも俺は馴染みやすくて好きなのだけど、あまりやってくれる人たちがいないのが現状。
03. In The Dark (With Nichola Richards)
イギリスの新人シンガーらしいけど、詳しい情報があまりない。Vicki Andersonあたりが歌ってそうなシスター・ファンクなナンバーだけど、そこまでダイナマイト・ヴォーカルといった感じではなく、このアクの少なさが逆にバンドとの親和性を高めている。でも、ソロだとちょっと個性が薄いのかな。俺的にはそのサッパリ感も好きなのだけど。
04. The Spell Of Ra-Orkon
今回はインストとヴォーカル・トラックを交互に挟んだ曲構成になっており、こちらはインスト・ファンク。アーシーなギターの響きとハモンドとの絡みが絶妙。ホーン・セクションにもきちんと見せ場を作っているのだけど、これをたった3分に凝縮している見事さ。これがライブだと、延々続けるんだろうな。
05. Political Power (With Afrika Bambaataa, Charlie Funk & Donald D)
再びBambaataa一派登場。タイトルからもわかるように、結構メッセージ性の強いナンバーで、これはMocamboとZulu Nationとのガチのぶつかり合い。どちらも引かず音でのバトル振りは手に汗握ってしまう迫力。ちょっと大げさだけど、そのくらいスリリング。かつ勝手に腰が動いてしまうダンス・チューン。
06. Drifting Stars
激しい攻防の後はひと休み、スロー・ファンクでペース・ダウン。レコードではここでA面終了。
07. Not Get Caught (With DeRobert)
アメリカはテネシー州を拠点として活動するディープ・ソウル・シンガーをフィーチャー。洗練さとは無縁なファンキー・ヴォーカルはMocamboとは高いシンクロ率。このまま40年前のStaxのレコーディング・スタジオに連れていったら、とんでもない傑作が仕上がったんじゃないかと思う。このアルバムの中では、Mocambo的に一番相性がいいんじゃないかと思う。
08. Locked & Loaded
09. Catfight
インスト・ファンクが2曲続く。特にこの09ではあのマルチ・プレイヤーShawn Leeが参加しており、摩訶不思議なエフェクトが飛び交う泥臭いスペース・ファンクを披露。これまでとちょっと毛色の違うアーティストとのコラボは、バンドとしての度量の深さを感じさせる。
10. Hot Stuff (With Afrika Bambaataa, Charlie Funk & Deejay Snoop)
3たび登場のBambaataa一派。今回はこのコラボにて、あのStonesをカバー。ヴォコーダーの使用によって妖しさ満載のスペース・ディスコに仕上がっている。ラップ・パートはほとんどなく、とにかく「Hot Stuff」と言いたいだけのヴォーカル陣。そして、それを盤石に支えるMocambo達。ごく一部でだけどヒットしたのが頷ける。
11. The Showdown
タイトル・トラックはインスト。オープニングとループするようなシネマライクなサウンド。俺の想像したのはマカロニ・ウエスタン。
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