好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Leroy Hutson

無難で面白みのない男は損しやすい - Leroy Hutson『Hutson 2』

folder 1976年リリース5枚目のソロ・アルバム。前作『Feel the Spirit』まではどうにかトップ200圏内に入っていられたけど、遂にチャートから脱落、どうにかR&Bチャートで46位に入るのが精いっぱいだった。いくら盟友Curtis Mayfieldがオーナーを務めるカ―トム所属だったとはいえ、なかなか結果を出せぬ期間が続き、居心地が悪くなってきた頃である。
 もともと業界ウケが良い、通好みの作風だったため、身内での評価は高かったのだけど、どうにも実績が追いついて来ないことに、周辺スタッフも歯痒かったんじゃないかと思われる。

 以前、「ちゃんとしている」ソウル・アーティストとして紹介したLeroyだけど、この時期も特別積極的な新基軸を打ち出したわけではなく、ただひたすらクオリティの純化に特化しており、キャッチーな路線を狙ったようには思えない。どれだけクオリティが高くとも、それを世に広く知らしめなければ理解ある人にも届かないので、それ相応の販売戦略や外部アピールが必要になる。
 ただこの時期、稼ぎ頭の不在によって、カ―トム自体が業績悪化となっており、とてもとても彼のプロモーションに割く余裕も時間もなかった。取り敢えず流通はしたけど、これじゃ売れるものも売れるはずがない。

 コンセプトはしっかりしていて、バランスも取れてはいる。でも、だからと言ってみんながみんな、ヒットするわけではない。不特定多数の興味を引くためには、多少の綻びさえ凌駕してしまうインパクト、また、うまく時流に乗るためのタイミングと時の運が必要なのだ。
 なので、もしカートムが万全の営業体制を取っていたとしても、『Hutson 2』がヒットしたかといえば、それはちょっと…、と口ごもってお茶を濁してしまう。「破綻は少ないけど面白みがない」「つるんとクセがなくてつまらない」。いわゆる「いい人」止まりで終わってしまう人である。
 悪くはないんだけど、これといった所も見当たらない。どちらにしろ、軽く見られがちなポジションである。

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 ほんのささやかではあるけれど、80年代のレアグルーヴの恩恵で再評価され、サンプリングでの引用やミックス・テープで使われることもそこそこ、クラブ・シーンでは、名前は知らなくても曲は聴いたことがある人も多い。多いのだけれど、同時代のCurtisやMarvinほどのインパクトを残せたわけではないし、はっきり言って一般的な知名度はほとんどないと言っていい。
 ディスコ以前のメロウ・グルーヴ系ではチラホラ耳にするポジションではあるけれど、その方面はJames IngramやLeon Wareらを擁するQuincy Jones 勢が強いし、曲調もルックスも、彼らに比べてちょっと地味である。
 そんな地味な立ち位置を反省してなのかLeroy、サウンドからアーティスト・イメージから、思いっきりブラコンっぽい方向へ軌道修正したアルバム『Closer to the Source』を、後年リリースしている。ただ、その路線もシングルがR&Bチャートをちょっぴり賑わせたくらいで、アルバム・セールスには繋がらなかった。

 ここまでかなりネガティヴな論調で書いてしまったけど、実は俺、この人のことは嫌いではない。いや、むしろ好きな方だ。知名度的には遥かに凌ぐCurtisより、聴く機会はずっと多いくらいである。
 アーティストは作品で語るべきであって、そのパーソナリティに誠実さを求めているわけではないのだけれど、クオリティの追及のため、真摯に音楽に向き合うその姿勢はメロディやサウンドの構成にも表れており、その朴徳さ・不器用さに、ついつい惹きつけられてしまうのだろう。
 始終ヘビロテするほどではないけれど、時々思い出したように引っ張り出し、集中的に聴いちゃうとまたしばらく忘れちゃう、で、また何かのフイに聴きたくなって、の繰り返し。なので、そう安易に売っ払っちゃったりできない類のアーティストなのだ。
 だいぶ整理はしちゃったけど、Leroyもまた、処分できないアーティストの1人である。

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 60年代のシカゴは、デトロイトやメンフィスと並ぶブラック・ミュージックの拠点のひとつとして、活況を呈していた。モータウン発祥の地となったデトロイトや、スタックスの本拠地だったメンフィス同様、シカゴにもチェスやヴィージェイなど、リズム&ブルース色の濃い様々なレーベルが群湯割拠していた。
 70年代に入る頃になると、次第に泥臭さは洗練されて、ゴスペル色を薄めた繊細なシカゴ・ソウルが新勢力として台頭し始めた。その中で一段抜きん出ていたのが、カートム勢である。看板アーティストでもあるCurtisを始めとして、Leroy やDonny Hathawayら古典ブルースに捉われない若い世代が、同時代のニューソウル・ムーヴメントの一角を担っていた。
 路線は微妙に違うけど、彼らと同じカレッジで学んでいた同窓にRoberta Flackがいた。4人そろっての表立っての活動はなかったけど、彼女のセカンド・アルバム『Chapter Two』では、3人そろって共作(「Gone Away」)したりなど、緩やかな絆で結ばれていた。
 Leroy はDonnyとは特に親しく、一時はルーム・シェアして共同生活を送っていた。大学時代は彼らを中心としたヴォーカル・グループMayfield Singersを結成、Curtisの手引きによってデビューを果たした。グループ解消後も彼らの交流は続き、そこで起こった化学反応は、Donnyのデビュー・アルバム『Everything Is Everything』収録「The Ghetto」として結実した。
 「The First Time Ever I Saw Your Face」「Killing Me Softly」「Feel Like Makin' Love」という超ド級スタンダード曲の連発によって、3人より上のステージへ行ってしまったRobertaだったけれど、繊細なリズムと流麗なメロディ、内に秘めたる熱いソウルは、彼らと共通していた。
 4者4様であったけれど、みな独自のパーソナリティでそれぞれの音楽性を広げていった。

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 そんな彼らの行く末の分岐点となったのが、70年代中葉からのディスコ・ブームである。彼らだけでなく、多くのアーティストがこの時期、迷走したり道を誤ったり新境地を開いたりしたのだ。
 前述3曲によってR&Bバラード路線を確立したRobertaは、安直なダンス・ビートに飲み込まれるのを回避、晩年のDonnyの救済を兼ねてデュエット・アルバムを作る余裕さえ見せた。そのDonny はディスコに巻き込まれることはなかったけれど、深刻な精神衰弱を克服するには至らず、1979年、自ら命を絶つという、悲劇的な結末を迎えた。
 Curtisもまた、 出来不出来の落差の激しいアルバム・リリースによってセールスが安定せず、その煽りを食って1980年にカートムを閉鎖、一時はほぼリタイア状態だった。彼もまた再評価を得るまでに、暫しの時間を要した。

 で、Leroy だけど、R&B路線がコケた後、遅ればせながらディスコ路線へ転向、魂を売ってまで生き残りをかけたはずだったのだけど、まぁ予想通り、いまいちパッとしなかった。
 そんなわけで、契約も切れちゃったのでそのまま引退したと思っていたのだけれど、今世紀に入ってから前線復帰、ライブも行なっていたことを、ついさっき知った。
 2009年に27年ぶりのソロ・アルバムをリリース、さらに次回作も準備中であることが、オフィシャル・サイトで発表されている。とは言ってもこのサイト、2012年で更新が止まっちゃっているので、進捗状況はどうなってるんだか。企画倒れに終わっちゃったのかな。
 どうやら休業中はハウス・ハズバンドに専念していたらしく、子育てがひと段落したので、セカンド・ライフ的に復帰した、とのこと。なんだそれ、中年アマチュア・バンドみたいな動機だな。
 で、その彼の息子が音楽業界入りしており、JR Hutson としてJill ScottやLalah Hathaway らのプロデュースを手掛けたりしている。Lalahとの仕事は二世代に渡る運命のリンクを想起させる。


Hutson II/Closer to the Source
Leroy Hutson
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1. Love The Feeling
 ヴォーカルだけ抜き出すと結構安直なディスコだけど、バック・トラックがしつこく練り上げられている。ベースとハイハットの響きがヌケが良く、この辺は録音にもこだわったんじゃないかと思われる。ストリングスとコンガのアンサンブルも絶品。



2. Situations
 前曲から続く、荘厳としたストリングスをメインとしたインスト。アルバムは始まったばかりなのに、ここでもうインタールード?小休止にしては出番が早すぎる。構成としては、もっと後に入れた方がしっくり来る。なので、シャッフルして聴こう。1ピン程度であることだけは救い。

3. I Do, I Do (Want To Make Love To You) 
 ちょっとだけテンポを上げたフィリー・ソウルっぽい仕上がり。こういったスウィートなバラードだってできるのだ。器用すぎるんだよな、この人。なので、アルバムとしてはフォーカスがボヤけてしまい、コアとなるキラー・チューンがないのが難点。
 とは言っても、なんだかんだ言って聴いてしまう自分がいるけど。3分程度とコンパクトにまとめているのもクドくなくて良い。

4. I Think I'm Falling In Love
 フリー・ソウル周辺のレアグルーヴ界隈ではよくピックアップされる、軽快なミディアム・チューン。サウンドのヌケがもうちょっと良ければ良質のAORとしても通用するくらい、キャッチーなメロディが展開されている。また気持ちよさそうに歌ってるんだよね、この曲。中盤でエコーが深くなるところなど、センスの良さがさく裂している。泥臭さを払底しながらも熱いソウルのお手本。



5. Love To Hold You Close
 こちらもオムニバスやミックステープで使用頻度の多い、爽やかささえ漂うミディアム・チューン。こういった洒落たチューンがいっぱいあるのに、なかなかメジャーになり切れなかったのは、やっぱり自身なさげでナルシストなルックスにあるのか。セクシーさがないと、R&B系は受け入れられないのだ。

6. Flying High
 バンプっぽいテイストを注入したインストから、EW&Fみたいなコーラス、お手本を忠実になぞったディスコ・チューン。まぁこんなのも一曲くらい入れてみようかな?的な、力の入ってなさがあからさま。ほとんどタイトル連呼するだけで、トラック自体もフォーマットそのまんまだもの。
 営業政策上、入れなければならなかったのか?彼の通常の作風とあまりに違いすぎるので、正直、思い入れはない。

7. Blackberry Jam
 こちらもFunkadelicっぽさをトレースした、やや下世話なファンク。まぁLeroyがやるとどこか上品になっちゃうのだけど。中盤のラップ・パートがBootsyっぽいのはご愛嬌。無難にそれなりにタイトにまとめているけど、これだったらP-Funk聴いちゃうよな。

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8. Sofunkstication
 続くこちらも、ファンク寄りのディスコ・チューン。途中でTemptationsみたいになる。で、長い長いイントロの後、歌が始まるのかと思って聴いていると、結局歌なしで終わる。最初からインストで作ったのか、それともヴォーカルがうまく乗らなくて歌なしになったのか。ストリングスの使い方がリズミカルで、この辺はやはり才気を感じさせる。

9. Don't It Make You Feel Good
 ラストは持ち直して、通常運転のLeroy。ちょっとモータウン風味も入れたハッピー・エンド。こういった曲がもう1、2曲、これをシングル・カットすれば、もうちょっとチャート的に健闘したかもしれない。いくらご時勢だったとはいえ、7.のような曲で勝負しようとしたって、本家ファンクには太刀打ちできるはずがない。


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「ちゃんとしてる」のは、時に損することも多い - Leroy Hutson 『Hutson』

folder ほぼ日本では知られてないけど、海外のミックス・テープ・サイトやSoundcloud、Mixcloudなどではサンプリングの定番音源として使われまくっているLeroy Hutson 3枚目、1975年リリースのアルバム。このジャケットだけ見るとイカついオラオラ系ラッパーのルーツっぽく見えるけど、実際音を聴いて見ると全然そんな雰囲気の人ではないので、ちょっと誤解を招くかもしれない。ギロッポンでチャンネーとイチャイチャするような人ではなく、もっとソフトでムーディーなサウンドの人である。
 こういったレア・グルーヴ系の音全般に言えることだけど、どこでもBGMで流れていて気軽に見つけられる種類の音楽ではない。リスナーが能動的になって、自ら探し求めないと巡り会えないので、ここで紹介。

 彼とよくセットで語られるのが、こちらはもうちょっと知られているCurtis Mayfield。自ら作詞作曲した”People Get Ready”は後にJeff Beckによってカバーされ、かつての盟友Rod Stewartのヴォーカルによってスマッシュ・ヒットした。ていうか俺自身、最初に聴いたのがこのBeckヴァージョン。で、当時所属していたImpressionsを脱退してソロ活動に移ったCurtis が、自分の後釜として、メイン・ヴォーカルとして指名したのがLeroy。ちなみにこのImpressions、彼ら2人以外にも、こちらもレア・グルーヴ方面では安定した人気を誇るJerry Butlerもかつて在籍しており、ソウル・グループとしてはTemptationsと並んで、有能なソロ・シンガーを次々に輩出しているグループ。まるで続々メジャーへ人材放出を続けてる日ハムのような存在である。
 で、そんなLeroyがImpressionsに在籍していたのは3年程度、そこそこ名前を売った後、彼もまたCurtis同様、ソロ活動を開始する。ただLeroyもCurtisも義理堅い面があったのか、所属レーベルはCurtis運営によるCurtom、しかも脱退したはずのImpressions本体もいつの間にかCurtomに移籍してきて、一同顔を揃えてツアーを行なったりしている。今で言えばEXILE一族のような結束力の固さである。

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 そのソロ・デビューだけど、Impressions在籍時からそれなりのビジョンを持っていたのか、ほぼ独力で作詞・作曲・アレンジ・プロデュースまでこなし、処女作にしてはバランスが良く、クオリティの高い作品に仕上げている。多少はレーベル・オーナーであるCurtisの助言もあったのかもしれないけど、ミュージシャン・クレジットを見る限りでは、ほぼLeroyの仕切りで進行したようである。
 実際聴いてみると、新人の作品としてはかなりの高レベルな仕上がりになっている。相応の下積みもあってこそのクオリティではあるのだけれど、小さくまとまり過ぎちゃったかな?というのも事実。あまり端正な出来栄えより、粗削りでエネルギッシュなルーキーの方が結局は長続きする、というのはどこの世界でも言えること。破綻のない新人は打たれ弱い、ってのも付け加えとく。

 Curtisにも当てはまるのだけど、このLeroyもまた、一般的なイメージのソウル・シンガーにありがちな、力強く声を張り上げるヴォーカルではない。どちらかといえばジャズ・ヴォーカルより、Marvin Gayeの系譜に近いウィスパー・ヴォイスのタイプである。時々過剰に甘いバラードが入るのは、ルーツのひとつであるノーザン・ソウルの流れ、また時代的にスウィートなフィリー・ソウルが隆盛だったこともあって、まぁ避けられなかったところ。
 なので、80年代以降の山下達郎のサウンドとテイストが近く、実際、そこら辺から流れてきたファンも多い。チェックはしてないけど、達郎自身もその辺は自覚していて、ラジオでオンエアしたこともあるんじゃないかと思われる。実際、ネット通販のショップ・サイトのコメントにも、「クールな山下達郎」という形容詞が使われることが多い。
 ただ、”Bomber”や“Funky Flushin’”などのディスコ/ファンク路線を追求してきた達郎が『Melodies』以降、歌詞やアンサンブルを重視したソフト・サウンド路線にシフトしてからは、しばらく地味な活動になったように、Leroyもまたキラー・チューンを生み出すことができず、終始苦戦を強いられた。
 次々に傑作アルバムを連発、ニュー・ソウル・ムーヴメントの波に乗ってチャート的にも健闘したCurtisに対し、Leroyはシングル/アルバムとも思うようなチャート・アクションを残すことができず、70年代までに数枚のアルバムをリリースすると、80年代を迎えることもなく、表舞台からフェード・アウトしてしまった。

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 70年代前半はカリスマ的なファンク・マスターとして知られたCurtisもLeroy同様、ディスコ・ブームの到来によって淘汰されてしまい、同じく80年代は活動も断続的になってしまうのだけど、レア・グルーヴ・ムーヴメントの勃興によって再評価が高まり、見事復活を果たすことになる。ステージ中のアクシデントによって、半身不随に陥る悲劇もあったものの、若手からのリスペクトは絶えることなく、アーティストとしては幸せな晩年だったと思う。
 そういった再評価の影響もごく僅かだったのが、Leroyの最も大きな悲劇である。
 当時のLeroyのチャート・アクションは、どのアルバムもビルボード最高70~80位のところで推移しており、とてもヒットしたとは言い難い。メロウ・ナンバーはいつの時代でも需要はあったはずなのに、なぜLeroyは大きな支持を得ることができなかったのか。
 Curtisなら”Move on Up”という、チャート的にも健闘した必殺キラー・チューンがキャリアの初期にあったため、その印象が強くファンを引き付けたのだろうけど、あいにくLeroyにはそういったヒット・チューンがない。
 ただ、それだけが要因でもなさそうだけど。

 70年代前半の意識高い系のソウル・アーティストにとって、前述したニュー・ソウル・ムーヴメントの影響は避けては通れない。
 公民権問題やベトナム戦争、ニクソン・ショックなど、ありとあらゆる社会問題が渦巻いていたこの時期、ソウル/ファンクのカテゴリーにおいても、能天気なポップ・ソングとは対極的な、メッセージ性の強い曲/アーティストが頭角を現していた。CurtisやMarvinのように、緩やかなリズムのファンク・サウンドに乗せてアメリカ国内の惨状を憂う者もいれば、Stevie Wonderは最新楽器ムーグを入手、問答無用でオンリー・ワンのサウンドを展開していた。
 反社会的なブラック・ムービーのサウンドトラックを多く手掛けていたIsaac Hayesらだけでなく、旧世代に当たるJBやAretha Franklinまでもが、新世代のサウンド/メッセージに重点を置いた作品をリリースしていた時代である。誰もが音楽を通して、自分なりの意思表明、アイデンティティを強く訴えること、それが最高にクールな時代だったのだ。

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 そうなると、あまりクセのないLeroyの作品というのは、どうしてもインパクトが薄い。サウンド/ヴォーカルとも、ほとんど破綻がないのだ。かといって売れ線を意識したポップ・ソウルでもなく、きちんとクオリティを意識して作られた「ちゃんとした」ソウル・ミュージックである。ちゃんとしてるからこそ、逆に印象に残りづらい。
 音楽と社会情勢との流れがまだシンクロしていた時代、彼のようなサウンドは「ちゃんとしてる」ことが仇となってリスナーからも積極的な支持を得ることができず、時代に埋もれてしまう結果となった。多分、今の時代ならメッセージ性とか思想を抜きにしてフラットに聴けるため、純粋にクオリティの高さを堪能することができる。


Leroy Hutson
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1. All Because of You
 ビルボードR&Bチャートでは最高36位、まぁそこそこ。
 従来のソウルと違って浮遊感のあるメロディ・ラインが、ニュー・ソウル世代の特徴。ゴリゴリの黒さだけではなく、ロックやジャズなど別ジャンルからインスパイアされたアイディアも分け隔てなく取り入れている。特に冒頭イントロのストリングスの使い方。ピアノとのユニゾンはロック的な要素も感じさせる。7分もの大作なのに、あまり長さを感じさせないのも、アクはないけどきちんとメリハリのある「ちゃんとした」構成だからか。破綻はないけど、それを求めなければメロウで居心地の良い音楽。
 ちなみに俺が彼のサウンドを聴いて真っ先に連想したのがRobert Palmer。



2. I Bless the Day
 こちらはストレートなスウィート・ソウル。中盤のモノローグもやや憂いのあるシルキー・ヴォイスで、耳元で囁かれたら、大抵の女はメロメロだったことだろう。くっきり浮き出るようなミックスのストリングスとLeroyの多重コーラスの間を縫うような、メロウなアルト・サックスもまた、ムードを盛り上げる。

3. It's Different
 サビが”Sexual Healing”に似ていることだけで、俺の中ではポイント・アップ。ストリングスの使い方がうまいよな。
 ポピュラー音楽の中でストリングスを効果的に使った初期の例がT.Rexなのだけど、メロディを奏でるのではなく、リズムを刻むために用いているのが、Leroyとも共通している。ただ荘厳とした雰囲気作りだけに使うだけでは芸がない。リズム楽器的な使用法によって、このようにストリングスでも充分グルーヴ感が演出できることを実証した好例。



4. Cool Out
 本格的なソウル・ジャズ。アドリヴ感の薄いホーン・セクションは熱い演奏なのだけど、まぁブリッジと考えてもらった方が良い。

5. Lucky Fellow
 不思議なメロディ、コード進行を持つ曲。全体的に不安定な構成の曲なのだけど、そこに伴う聴きづらさがギリギリのところで中和され、逆にそのアラの目立ち加減が、ニュー・ソウル方面とのリンクに成功している。
 終盤の混沌としたセッション具合もMarvin Gaye ”I Want You”を連想させ、実際、ミックス・テープ方面での引用も多い。



6. Can't Stay Away
 2.同様、メロウなモノローグが曲全体を支配している。ビルボードR&B最高46位。
 ニュー・ソウルのアーティストなら、政治や社会問題をぶち込んで「静かな憤り」を表現するのだろうけど、あいにくLeroy、そこまで器用な男ではない。ただ単純なラブ・ソングである。ただストレートにムーディーさを演出したいのなら、これ。

7. So Much Love
 タイトル・コール以外はそれほど明確な歌詞のない、スキャットやアドリヴが中心のナンバー。その分、アルト・サックスがうねることうねること。
 アルバム・ラストを敢えて自分の声だけで埋めず、女性コーラスも含めた大団円で終わらせるのが、この人のほんと性格のいいところ。まぁいい人で終わっちゃうんだけどね。




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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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