-On behalf of his family, it is with deep and profound sadness that we share the news of Jeff Beck’s passing. After suddenly contracting bacterial meningitis, he peacefully passed away yesterday. His family ask for privacy while they process this tremendous loss.
「家族を代表して、ジェフ・ベックの訃報を深く深く悲しみます。突然、細菌性髄膜炎に感染し、昨日、静かに息を引き取りました。彼の家族は、この大きな喪失を処理する間、プライバシーを守ることを求めます」。
ほぼ70年代あたりから、見た目が変わってなかったため、いくつか知らなかったけど、78歳だったんだ。ロックミュージシャンにつきものの、酒やドラッグや女関係のトラブルもそれほど聞かず、比較的ヘルシーな生活ぶりだったはずだけど、寿命ばかりは避けられない。
もう何十年も、イギリスの片田舎で車いじりとギターいじりのルーティンを満喫していたジェフ、ストレスを溜め込まず、比較的節制した生活のおかげで、同世代のミュージシャンと比べて老いは感じられなかった。染めてたのかズラだったのかは不明だけど、あの豊かな黒髪は年齢を感じさせない。
「この機会に」っていうのは適当じゃないかもしれないけど、日本で言えば喜寿、1944年生まれで存命のアーティストを調べてみた。
ロッド・スチュワート (1/10)
ロジャー・ダルトリー (3/1)
ボズ・スキャッグス (6/8)
レイ・デイヴィス (6/21)
ピーター・セテラ (9/13)
ジョン・アンダーソン (10/25)
一時はアメリカン・スタンダードばっかり歌ってラウンジ歌手みたいになっていたロッド、ここ数年はロックに回帰して、ジェフとは2019年、一夜限りのライブで共演したばかりだった。まとまった作品を残せなかったのが惜しまれる。
去年亡くなったウィルコ・ジョンソンとのコラボがまだ記憶に新しいロジャー、今のところはザ・フーの稼働待ち。要はピート・タウンゼントのやる気とメンタル次第なんだけど、もう彼もアーカイブいじる気力すら残ってなさそう。どれだけ作ったんだろうか、『トミー』や『Live at Leeds』のエディション違い。
ここ数年のAOR再評価の流れで、ちょっとだけ話題になったボズ、もともとグローバル展開の野心を持った人ではなく、もっぱらアメリカ国内で、ジャズ/R&B/ブルースをベースとしたマイペースな音楽活動を続けている。そう考えると、全盛期70年代の音楽性と何ら変わっていないわけで、ブレずに初志貫徹している。
80年代に解散以降、弟デイブとの兄弟ゲンカでしか話題にならなかったデイヴィス兄弟、近年は和解して、目下キンクス再編に向けて鋭意準備中らしい。とはいえ2人とも70オーバーのため、何をやるにも遅々と進んでおらず、それもいつになることやら。だから若いうちに仲直りしておけって、ギャラガー兄弟。草葉の陰で母ちゃん泣いてるぞ。
全然興味なかったので知らなかったけど、ずいぶん昔にシカゴを脱退していたピーター・セテラ。2020年、シカゴがロックの殿堂入りした時も、頑なに出席を固辞、ライブも行なっておらず、いまはどうやら引退したらしい。過去の栄光に囚われないって言ったらカッコいいけど、偏屈なジジイになっちゃったのかね。
同じく啖呵を切ってイエス脱退後、同世代プログレ系界隈をフラフラしながら、「ほぼイエス」関連でしのぎを削っているジョン・アンダーソンは、どうやら健在。いまも黄金期イエスの名曲をメインに、精力的にライブも行なっている。本家を挑発するように「正調」イエス・サウンドを主張するジョン、あんまり調子に乗りすぎてスティーヴ・ハウを本気で怒らせたら、法的手段に訴えられて楽曲差し止めにもなりかねないのだけど、今のところそんな雰囲気もない。多分、プロレスなんだろうな、あの界隈の仲違いって。
ちなみに日本に目を移すと、該当するアーティストはグッと少なくなり、せいぜい小椋佳くらい。この世代は坂田明や日野皓正・元彦兄弟などジャズ系が多く、ロック系となるとGS残党で故人が多くを占めている。内田裕也ももういないしね。
ヤードバーズでデビュー以降、半世紀に渡る活動歴を誇るため、ファン層も多種多様である。多くのベテランアーティスト同様、キャリア全体を網羅しているユーザーは少なく、各期・各時代に嗜好が点在している。
最も人気が集中しているのが70年代のジャズ・フュージョン期で、多分、そこに異論はないと思われる。ギターを「メインとした」ロックサウンドを追求した結果、ギターを「主役にする」ため、ヴォーカルを取っ払ってしまった一連のインスト作品は、ロック/フュージョンファン双方に好評を得た。テクニック至上主義ではあるけど、根っこにあるロックテイストは、程よいポピュラリティを生み出した。
ロックバンドのギターアンサンブルが好きな層には、ジェフ・ベック・グループの人気が高い。ロッドとロン・ウッドという花形プレイヤー2名を擁したブルースベースの1枚目と、メンバーチェンジによってR&Bに路線変更した2枚目とでは、まるで別のサウンドではあるけど、どちらも根強い人気がある。別バンドだけど、ベック・ボガート&アピスもほぼ同じ括りで、こちらも日本では人気が高い。ここまでが70年代。
その後、時代は大きく飛んで21世紀、すっかり過去の人、またはセミリタイアを満喫中と思われていたベックは突如復活する。あまり積極的ではなかったライブ活動も活発となり、加えて1999年の『Who Else!』以降、5枚のスタジオアルバムをリリースしている。
ほぼ5年に1枚だから、このキャリアにしてはかなりのハイペースである。この他にもライブアルバムも8枚リリースしてるし。
ほぼ孫世代の若手ミュージシャンを積極的に起用し、ライブで鍛え上げてアンサンブルを固め、頃合いを見てスタジオ入りしてアルバム制作という、理想的なロックバンドのルーティンが展開されていた。普通の70代なら手元もおぼつかず、難易度高いプレイはイキのいい若手に任せるものだけど、ギタープレイは以前にも増して手数は増えるわトリッキーな奏法に磨きはかかるわ、むしろ進化している。
図らずも遺作となった最新作は、なんとジョニー・デップとの共演で、ここでも俺様節が炸裂している。ロウソクの最後の輝きなんてものじゃない、アイディアと奇想のぶつかり合い。
なんでこの年齢で、こんなアクティヴなの?ちょっとは見習えよ、3大ギタリストの残り2人。
そんな毀誉褒貶の激しい波乱万丈なキャリアを築いてきたジェフだけど、80年代から90年代はパッとしない。フュージョン期最後となる80年『There & Back』以降から99年『Who Else!』 直前までは、あまり話題にのぼることがない。
まだ70年代のフットワークの軽さが残っていた80年代はまだしも、90年代となると、まとまった作品と言えるのは、ロカビリーのカバーアルバムと雰囲気重視のモヤっとしたサントラの2つくらいで、いずれも前向きな仕事ぶりとは言いづらい。もしかして表に出ていないだけで、実は中途半端で投げ出されたデモテイクの山が残されているのかもしれない。今後、発掘されるのかね。
ほぼニートみたいな活動ぶりだった90年代は置いといて、80年代を振り返ってみるとジェフ、結構手広く働いている。オリジナルのアルバムリリースは3枚、当時の同世代アーティストと比べると少なめだけど、ミック・ジャガーやティナ・ターナーのレコーディング参加など、少ないけど強いインパクトを与える仕事を残している。
で、80年代にリリースされたのは『Flash』と『Guitar Shop』の2作だけど、一般的に後者の評価が高い。リリース当時の反応も、ギターをメインとした全編インスト作品であったことから、「ついに復活!」的なニュアンスで取り上げられることが多かった。
対して『Flash』、「取ってつけたアーサー・ベイカーとは相性最悪」だの「People Get Ready以外はイマイチ」だの「ていうか、歌ってるの初めて聴いたけど声が微妙」だの、当時からネガティブな意見が多かった。前作から5年ぶり、満を持してのリリースだったにもかかわらず、肩透かし感が強かった。
名前と存在くらいは知ってた当時の俺も、そんなロキノンレビューを真に受けて、実際に聴いたのはずいぶん後だった。
① 時代に迎合してパワーステーション・サウンドや大味なアメリカンロックを演じてみたけど、ミスマッチ感が失笑を買った『Flash』。
② 時代に迎合し過ぎた反省を活かし、っていうか「そんなの関係ねぇ」と言わんばかりに開き直り、轟音パワーで押しまくるパワートリオの直球ロック『Guitar Shop』。
おおよそこんな対比と思われるけど、でもちょっと待ってほしい。「時代に迎合」って書いちゃったけど、そもそもベックが時代性を意識しないことなんてなかったか?
プレイスタイル自体はずっと異端ではあったけれど、70年代のロック期もフュージョン期も、時代の要請に導かれたサウンドである。ベック自身の感性とベクトルは、各時代ごとのトレンドとシンクロしており、類似作はあっても逆行はしていない。
そういった時系列で見てゆくと、『Guitar Shop』はベック・ボガート&アピスのリベンジマッチであり、93年の『Crazy Legs』もロカビリー懐古のコンセプト作であって、前向きとは言い難い。こんなのは別に気張らなくても、片手間にできてしまうのだジェフ・ベックというアーティストは。
なので『Flash』、いまだ空気みたいな扱いのアルバムだけど、先入観なく聴いてみると、思ってるほどの駄作ではない。ひとつのプロダクションで一気呵成に作られたのではなく、複数のセッションから構成されているため、ギターサウンドが物足りない楽曲もあるのは事実だけど、ある程度の商業性、メインストリームを視野に入れたサウンドコンセプトは、決して的はずれではない。
当時、ヒットメイカーとして名を馳せていたナイル・ロジャースとアーサー・ベイカーの2大巨頭を擁しながら、US39位・UK83位とチャートは低迷した。一見すると、この時代のベテランアーティストにありがちな「時流に踊らされて大恥かいちゃった」パターンだけど、少なくとも前向きではある。
ややオケと噛み合わなってないトラックもあるけど、インスト曲はアベレージを充分満たしている。もっとデジタルっぽさを強調すれば、トリッキーなギタープレイとマッチしていたはずだけど、ちょっと時代を先取りし過ぎた。テクノロジーが追いつくには、世紀を跨がなければならなかった。
ヴォーカルパートも、いっそ全部ロッドに振っちゃった方がレベル上がったんだろうけど、それじゃどっちが主役かわかんなくなっちゃう。やっぱ、これでよかったんだな。
1. Ambitious
ナイル・ロジャース作による典型的なパワステ・サウンドで、ジェフのギターを抜けば凡庸なコンテンポラリーロック。こんな風に書いてるけど、ギターソロの存在感が前に出ているため、案外悪くない。
バンドのヴォーカルオーディションを模したPVは様々な有名人がカメオ出演しており、代わる代わるマイクに立って実際に歌っている。おそらくアフレコだろうけど、みんなそこそこ巧い。この辺が、アメリカのエンタメ界の裾野の広さなんだろうな。
やたらオーバーアクションで演奏するジェフも笑顔を見せており、そこそこ楽しんでたんじゃないかと思われる。あんまり映ってないけど、フィンガーピッキングも見ることができる。
2. Gets Us All in the End
デフ・レパードかヨーロッパを連想させる、繊細さも色気も何にもないハードロック。冒頭の気合入ったギタープレイ自体はいいんだけど、ていうかジェフである必要性がまるでない。
アルバムセールスの好調を見越して、のちのちシングル向けの楽曲として用意して、実際その通りになったんだけど、結果はビルボードのメインストリームチャートで最高20位。あれ、そこそこ評判良かったんだ。大味なサウンドなので、サバイバーあたりと勘違いして聴かれていたのかもしれない。
3. Escape
以前もコラボしていて、相性の良いヤン・ハマーのプロダクションによるインストチューン。ジェフの、というよりほぼハマーの世界観にゲスト参加したみたいな感じなので、安心して聴ける。他のトラックと比べて、ギターはそれほど暴走していないため、安定感はある。
従来ファンへの抑えとしては有効。当時のハリウッド映画って、こんなサウンド一色だったよな。「ビバリーヒルズ・コップ」や」「マイアミ・ヴァイス」やら。
4. People Get Ready
最近も車のCMで起用されて耳にすることが多いけど、昔も何かのCMで使われたよな。すぐに思い出せないけど。
オーティス・レディングで言うところの「The Dock of the Bay」みたいな、ロッド・ジェフ双方にとってベタな選曲で一般的な人気も高い曲だけど、そういった先入観を抜きにしても、やっぱりいい。当時の2人のいいところが全部詰まっている。
もともとロッドのソロアルバムにジェフがゲスト参加して、そのお返しで参加した、という流れなのだけど、ここでそのままユニット結成ってわけには行かなかったのが惜しまれる。
何度も繰り返し見たけど、思いっきりセンチに振ったPVもいい。
5. Stop, Look and Listen
前述のヤン・ハマーをもっと下品に展開した、これ見よがしなオーケストラヒットから始まるロックチューン。ロックアーティストが不慣れなダンスチャートに食い込むため、いわばエクステンデッド・ミックスしやすいトラックを組んだナイル・ロジャース。考え方は間違っていないのだけど、イヤやっぱヴォーカルがきついわ大味すぎて。
ジェフのギターソロもトラックに準じたプレイで独創性が少ない。もうちょっと自由にエキセントリックに、リズム無視するくらいで弾かせてあげればよかったのに。
6. Get Workin'
ジェフ自身のヴォーカルによる「エレクトリック・ダンス・ポップ」って形容したらいいのか、まぁとにかくそんな曲。「あぁこんな声してるんだ」っていう印象。
くり返すようだけど、デジタルビートと予測不能なジェフのギタープレイとの相性は、決して悪くない。ドラムンベースやテクノみたいなアプローチがまだなかった時代ゆえ、ここまでが限界だったのだ。おそらくジェフの中では、曖昧ではあるけれどビジョンは見えていたはずで、ただ前例がなかったしシンセ使いでもなかったから、そんな意図をナイル・ロジャースには伝えきれなかった、ってわけであって。
7. Ecstasy
普通にビートの効いたエレポップとしても出来が良い、このアルバムの中では比較的成功しているんじゃね?と思わせてしまうトラック。クレジットを見ると、作曲クレジットにサイモン・クライミーの名が。
日本でもCMに起用されたりで、やや名の知れていたエレポップユニット:クライミー・フィッシャーの人だった。キャッチーでツボを心得たメロディは、前述のジミー・ホールが歌っても大味に聴こえない。やっぱプロダクションって大事なんだな。
8. Night After Night
再びジェフ・ヴォーカルによるエレポップチューン。おそらく「Let’s Dance」みたいにしたかったんだろうけどハマらなかった、そんなミスマッチ感が惜しい。スカしたヴォーカル・スタイルは大目に見るとして、曲芸的なアクロバット・ギタープレイは悪くない。
要は当時のシンクラヴィアやDX7では、ジェフのギターサウンドに対してマシンスペックが足りなかった、っていう結論。
9. You Know, We Know
この次の『Guitar Shop』で組むことになるトニー・ハイマスのプロダクション。適度なセンチメンタリズムを織り交ぜたプレイは、クラプトンっぽく聴こえるため、「らしくない」んだけど、でも弾いてるジェフは楽しそう。
後半からシンセの音圧が高くなって、ギターとのバトルみたいな展開になるのが面白い。フュージョンとはまた違う、ロックの文法を使ったインスト作品は、ひとつの可能性を見出したんじゃなかろうか。
ここまで書いてきてなんだけど、『Guitar Shop』聴きたくなってきちゃったな。続けて聴いて、また次回に書こう。