無記名の音楽として、時代に埋もれて音沙汰なしと思っていたJames Mason、なんと38年振りの新譜リリース。肝心の内容は新録ではなく、名作『Rhythm of Life』に続くアルバム・リリースのために用意されていたデモ音源と、80年代に行なわれた単発セッションを併せて収録している。まぁデモ・テープの保存状態も決して良好ではなかったとのことで、音質的にはかなり聴き苦しい点もあるのだけれど、プレイ内容はファンキーでグルーヴ感満載、脂の乗り切ったバンドの最高の瞬間がパッケージされている。
すでに今年の春に発売されており、その界隈では大騒ぎだったらしいけど、俺が知ったのはほんとつい最近。そんな動きがあっただなんて、まったくのノーチェックだった。だってまさか、こんなの発売されるだなんて思いもしなかったので。
てことは、地味ながらも活動していたのか?それも気になったので、完全に後追いでいろいろ調べてみたところ、前から気になっていた雑誌『Wax Poetics』のバック・ナンバーに彼の特集があったので、早速購入。今の時代、ネットでもある程度の情報は拾えるのだけれど、やっぱこういう時、紙媒体は強い。
インタビュー記事を読んでみると、まぁ知らなかったことばかり。音源リリースもなく、レーベル契約も結んでなかったものの、創作活動は行なっていたらしく、音楽業界の周辺で生活の糧を得て、言ってしまえば趣味の範囲程度で継続はしていたらしい。90年代に入ってから、レアグルーヴの流れで再注目されてからは単発的にライブを行なっていたけど、21世紀に入ってからは、ほぼセミ・リタイア状態、セカンド・キャリアとして大学に入り、なんとMBAの資格も取った、とのこと。
結構年齢が行ってからの転職がどこの世界でも難しいのは共通してるけど、これまでのキャリアに見切りをつけて、まったく別のジャンルへ転身するのは、相当な覚悟がいったんじゃないかと思われる。
インタビューによると、大きく影響を受けたのはWeather Reportや電化Milesなど、どちらかといえばジャズ・ファンク/フュージョン系へのリスペクトが強く、実際このアルバムも従来のジャズに捉われず、今まで聴いてきたあらゆるジャンルの音楽をミックスしている。なので、いわゆるストレート・アヘッドなジャズ一筋という人ではない。それにもかかわらず、レーベル側がお仕着せのジャズとしてカテゴライズしてしまったところに、彼の悲劇がある。
もともとキャリアのスタート自体、リズム&ブルース系のバッキングであって、スタンダード・ジャズへのこだわりは少なかったはず。ただ、メジャーで名前が出始めたのがRoy Airsのバンドだったため、「お前の担当はジャズね」とレーベルに言われてしまうと、実績のない立場としては、従う他にない。
本人としては、ジャズというお仕着せのジャンル分けにこだわらず、ジャズからファンクからロックからディスコから、あらゆるジャンルを網羅した新しい音楽をやりたかったところなのだけど、レーベル側の立場からすると、プロモーションの方向づけのため、取り敢えずは何かしらのジャンルづけはしておきたいところ。すると、一番フィットしそうなジャンルと言えば、結局一番わかりやすいジャズという結果になってしまう。
Weldon Irvine 『Sisters』の時にも書いたけど、彼らのようにカテゴライズしにくい音楽をやる場合、レーベル側の理解は重要になる。ジャズ専門レーベルにこだわらず、もっとソウル/ファンク系に強いレーベルを選べば、今頃George Dukeぐらいのポジションには行けたと思うのだけど。
実際、James本人としても、ジャズっぽくあろうとした意識はないのだけれど、レーベル的には「新世代のフュージョン」として売り出す方向性だったし、周囲にいたミュージシャンもジャズ寄りのプレイヤーばかりだったため、そういった傾向になるのは避けられない。
なので、多くのフュージョン系アーティストと違って、基本ベースがソウル/ファンクで、そこにジャズのテイストを加えた、と考えた方がスッキリする。
ジャズにしてはファンキー過ぎるし、ファンクにしては複雑過ぎる―、そんなジャンルレスな音楽の創造はJamesの当初の構想通りだったのだけど、逆に言えば、ジャズでもなければファンクでもない、どっちつかずなサウンドとも言える。ジャンルごとにきっちりカテゴライズされているアメリカのラジオではオンエアしづらくなるし、レコード店もどの棚にセッティングすればいいか、ちょっと悩んでしまう。
プロモーション的にもターゲットが定まらないため、渾身作『Rhythm of Life』はセールス的に微妙な結果に終わってしまい、レコーディング契約の更新もウヤムヤに終わってしまった。なので、その後の彼の活動が停滞してしまったのは、致し方ないことである。
セカンド・キャリアもひと段落してリリースしたと思われるこのアルバム、取り敢えず過去アイテムの総ざらえは終わり、今後の展開が注目される。
明言はしていないけど、徐々に演奏活動も再開しているようだし、このアルバムのセールス如何によっては、完全新作も期待できそう。
ほんとはオリジナルメンバーでのプレイが聴きたいところ。Clarice Taylorさえ大丈夫なら、何とかなりそうだとは思う。Narada Michael Waldenはちょっと無理そうだけど。
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James Mason
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1. The Love Song
『Rhythm of Life』収録”Sweet Power Your Embrace”の続編的ナンバー。ていうか、ほとんどそのまんま。ここでのClariceは声が太く、リズム隊も少し強め。全体的にボトムの低いサウンドを想定していたと思われ、きちんとブラッシュ・アップすれば、ダンス・チューンとしてクールにまとめられたんじゃないかと思われる。
音質の難によって聴き取りづらいけど、ドラムのDwayne Perdueが健闘。
2. Angel Eyes
こちらも前作収録”Funny Girl”のアンサー・ソング的ポジションのナンバー。Clariceに加えて、前作から引き続き参加の女性シンガーM’bewe Escobalとのダブル・ヴォーカル。
デュエットとしてはあまり相性は良くないのか、ユニゾンでもコーラスでもフィットしない、双方キャラクターが濃すぎるのが、ちょっと難点。まぁデモ・テイクだから、人選はこれから考えようと思ったのかもしれない。
3. I've Got Your Love
これはちょっと新機軸だったのか、効果的にリズム・マシーンを使用、R&B的アプローチによるメロウ・サウンドが展開されている。こちらもダブル・ヴォーカルなのだけど、こちらはほぼ本チャンのつもりで録ったのか、完成度はずっと高い。
Sadeの先駆け的な雰囲気も感じさせる、ムーディながらスロウ・ファンクのテイストも感じさせる、俺的にベスト・テイク。
4. Cool Out
3.と同様、こちらもドラム・マシーンをスリリングに演出したナンバー。マイナー感バリバリのピアノの響きがまた、『Night & Day』期のJoe Jacksonを連想させる。やっぱ好きなんだよな俺、こういうのって。
YMO的なシンプルな打ち込みパターンはきちんと練り上げられており、インスト・ナンバーながらも飽きさせることがない。
5. Up Jump
幻となったセカンド・アルバム『Urban Bush Music』の核となる予定だったナンバー。これまでのジャズ・ファンクとはまるっきり面影が違い、James本人と思われるヴォコーダーの呻きと、チル・アウト的テクノ・サウンドがループして、時々生楽器が絡んでくるという、十年は早すぎたサウンド。
辛うじてファンキーという側面は失っていないけど、狭義のファンクとはまるで違っているし、ジャズからはずっと遠い所で、この音は鳴っている。当時のレコード会社にこのサウンドの革新性を理解させることは、ちょっと不可能だったはず。
6. The Dance Of Life
こちらはまだ『Rhythm of Life』と地続きのサウンド。いきなりサウンドがゴージャスになり、シンセ・エフェクトもキラメキ感が復活、天に昇るようなメロディ・ラインとコード進行。様々なリズムが昇華した結果が、この7分という大作の中にすべて含まれている。
この曲のみドラムにBernard Purdieが参加しており、そのせいなのか、全トラック中、もっともハネたダンス・チューンに仕上がっている。Clariceのヴォーカルも、多分キャリア中でも最高の仕上がり。
7. Space Walking
再びテープの保存状態が悪くなり、全体的に音はこもりがち。ただし、楽曲は『Rhythm of Life』の進化発展系と言い切っちゃってもよいほどのクオリティ。ここではJames自身もコンポーザーとしてだけでなく、プレイヤビリティを前面に押し出して弾きまくっている。自分の曲なんだから、遠慮せずにもっと弾けばよかったのに。
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