近年の傾向として、彼ら80年代組の全盛期を知っているアラフィフ世代の購買力によって、CDなどフィジカルの売り上げは良いはずなのだけど、その恩恵は届かなかったようである。ていうか、あまり積極的にプロモーションも行われなかったのか、俺自身もリリースを知ったのは、だいぶ後になってのことだった。
ただでさえCDが売れない時代、配信限定じゃないアルバムを製作できたことだけでも、充分賞賛に値することではある。あるのだけれど、一時は世界規模で栄華を極めた彼ら、クオリティだって決して低くないアルバムが知られていないのは、ちょっと悲しい。
近年の再結成事情として、今回の彼らのような「新録アルバム・リリース → ツアー」というケースは減っている。大抵は新規ユーザーを取り込むための「オールタイム・ベストをリリース → そこから世界ツアー」という流れ。ちなみに、日本を含むアジア圏は大抵あと回し、終盤でチャチャっと済まされるのが、これまたセオリーとなっている。
滞りなく世界ツアーを終えることができれば、最後にライブ映像か音源をリリースして、一連のプロジェクトは終了、最後まで「ファン・サービス」という名の債権回収に余念なく励む。
または、「欧米の有名フェスにいくつか出演 → 配信限定で新曲リリース →それを含めたベスト・アルバム → EUまたは全米ツアー」という流れもある。
ニュー・アイテムがある分、こっちの方がもう少し良心的かもしれないけど、シングル程度で収めるのが無難である。ヘタに内輪で盛り上がってアルバム制作にまで発展しちゃうと、大抵ロクなことがない。ストーン・ローゼスがこのパターンにはまって撃沈した。
なので、ヘタにニュー・アルバムに手を出さないよう、プロジェクト関係者はアーティスト・サイドにたびたびクギを刺す。やるんだったら、プロジェクトを終えてから、個人としてやってくれ。俺たち巻き込まれたくないし―。
これまでリリースされた再結成アルバムは、かなりの高確率で駄作が多い。実際の売り上げも含め、これは紛れもない事実である。
それもあって、なかなか完成させる気ないんだろうな、X Japan。
普遍的なメッセージをわかりやすく届けるために作った「The War Song」がネタ扱いされたあたりから、彼らの人気は下降線を辿ってゆく。能天気な「センソーハンターイ」のインパクトが強すぎて、まともな評価はいまだ下されていないけど、マジメに向き合えば、シリアスなメッセージ性をポップにコーティングした優秀なヒット・ソングなのだ、と言いたいのだけど、やっぱダメだ、お手軽なウケ狙いにしか聴こえない。
クイーンもポリスもキング・クリムゾンも、日本語バージョンは黒歴史として、ほとんどのケースで封印されてしまっている。若き日の過ちというか気の迷いというか、とにかくヤっちまった感が強い。
その後は気を取り直し、再度キャッチ―なポップ・ソング路線へ回帰したカルチャー・クラブだったけど、一度踏み外した路線を修整するのは、なかなか難しい。一時は隆盛を極めた第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンのブームも収束し、連動して彼らのチャート・アクションも地味になってゆく。
さらに加えて、バンド内の人間関係もギスギスし始める。職場内恋愛進行中だったジョージとジョン・モスとの痴話喧嘩が決定打となり、グループは解散してしまう。
解散後、各メンバーは一旦表舞台から消え去ったけど、フロントマンであるジョージはスキャンダラス面も含め、何かと話題に事欠かなかった。とはいえ、純粋にアーティストとしてフィーチャーされることはほんのわずか、ドラッグに溺れたり激太りしたり痴話喧嘩で逮捕されたり、ゴシップ・ネタで取り上げられることがほとんどだった。
ソロ・デビュー作の『Sold』は、話題性も手伝ってそこそこヒットしたけど、その後はリリースするたび、セールスは尻すぼみしていった。UKハウス〜テクノの盛り上がりに乗じて、DJに転身したことがちょっと話題になったけど、ほんと話題になっただけ、売り上げに直結するものではなかった。
アーティスト的には「すでに終わった懐メロ歌手」というのが、世間一般の彼の評価だった。もはや搾り出しても新たなアイディアは出なさそうだし、そもそもそんなニーズも少なかった。
シーンの第一線からは弾き出されたものの、単発的に行なわれた再結成ライブは盛況だった。ランダムに盛り上がる80年代リバイバルの中で、彼らは間違いなくスターだった。
1998年、彼らはヒューマン・リーグとハワード・ジョーンズと合同で欧州ツアーを行なった。単独では難しいけど、複数アーティストによるショーケース形式なら、動員も見込めるし、収益もそこそこのまずまずだし。
どの国・どの地域でも、懐メロショーというのは手堅い需要がある。みんながみんな、最新ヒット・チャートばかり聴いているわけではないのだ。そんな中、カルチャー・クラブの出番になると、客席の盛り上がりはピークに達し、実際、レビューの反応も好意的だった。
そこでどうおだてられちゃったのか慢心しちゃったのか、世間のニーズに応じるつもりで彼ら、渾身のニュー・アルバム『Don't Mind If I Do』をリリースしてしまう。これが間違いだったんだな。
再結成事情のセオリー通り、同時期リリースのベストはプラチナ認定の大ヒットだったけど、『Don't Mind If I Do』はUK最高64位と、玉砕する結果で終わった。その後、彼らは暫し沈黙に入ることになる。
そして、もう何度目かになるリユニオン・プロジェクトは、用意周到に行なわれた。2014年、オフィシャル・サイト開設と同時に、長期ワールド・ツアーと新録スタジオ・アルバムのリリースが告知された。そこには、シーンの第一線にこだわるバンド側の強い意志が汲み取れる。
アルバム・タイトルは『tribes』、スペインで2週間、集中的にセッションを行なう予定も決まっていた。事前準備の仕切りは、完璧のはずだった。
ただほとんどのメンバーは、長くレコーディングから遠ざかっていたこともあって、作業は思い通りに進まなかった。加えて、ジョージが喉にポリープを患ってしまい、さらに工程は遅延。最終的にプロジェクトは頓挫、一旦仕切り直しとなってしまう。
そんなこんなでツアー日程が先に決まってしまい、レコーディングは無期延期となる。どこかのタイミングで長期バカンスを取り、その一部をスタジオ・ワークに充てる方法もあったのだろうけど、彼らが再びスタジオに入ることはなかった。
思えばカルチャー・クラブ、ニューロマ出身ということもあって、「流行りモノ狙いの泡沫バンド」という位置付けが長く続いていた。ただ四半世紀を経て、フラットな視点で見れば、ポップ・センスに長けた高性能UKファンク・バンドだった、というのが近年の評価である。
全盛期は、シンセ中心の音作りと、ジョージのバイセクシャル性ばかりがクローズアップされていたけど、装飾を取り払ったリズム・セクションは、レゲエやファンカラティーナ、16ビートまで、自由自在にこなしている。リズム・カッティング主体だったギター・プレイも、キャッチーでツボを押さえたオカズを入れてきたり、基本はファンク・マナーに忠実なバンドである。
モータウンやグラム・ロックをルーツとしたジョージの楽曲も、当時は刹那的な使い捨てポップと思われていたけど、21世紀にも充分通用する大衆ポップ性によって、今ではスタンダード化したものも多い。
さらに、彼らの音楽がティーン向けのバブルガム・ポップで収まらなかった要素として挙げられるのが、案外ドスが効いているジョージの声質。バラードからダンス・チューンまで難なく歌いこなせるヴォーカル・テクニックと併せて、同時代のバンドの中では図抜けていた。
確かな技術に裏付けされたサウンド・メイキングと、自身の声質を理解したソング・ライティング。ビジュアルだけに頼らない、ミュージシャンとしての基本スペックの高さが、彼らをエヴァーグリーンな存在に押し上げた。
ビジュアルったって、セックス・アピールはないしね、ジョージ。顔デカイし。
で、話は戻って『Life』。ファンはもちろん、もしかして本人たちも忘れてたんじゃないかと思えるくらい、長いインターバルを置いてリリースされた。企画倒れで終わっちゃっただろうな、と思っていた人が大多数だったはず。
正確なアーティスト・クレジットは「Boy George and Culture Club」と、ジョージのソロ・プロジェクトのニュアンスが強くなっている。ここだけ見るとジョージ以外は参加してないんじゃないかと思ってしまうけど、楽曲クレジットを見ると、ほとんどの曲がメンバーとの共作となっている。
多分、イギリスでは「あの」ボーイ・ジョージといった風に、それなりにネームバリューが生きているのだろう。でも、売れなかったけどね。
すっかり野太さに磨きがかかったジョージのヴォーカルは、年輪の渋みが加わり、味わいが深くなった。紆余曲折と二転三転を経てエモーショナルさが増すというのは、演歌のメンタリティにも通ずるものがあるな。
多くの同世代アーティストが懐メロ化してゆくか、はたまたセミ・リタイアすることが多い中、常に第一線のサウンドを追求し続けていたのが、ボーイ・ジョージである。バンド解散後のハウスやDJプレイなど、その多くはジョージがやる必然性を感じなかったけど、少なくとも、前へ進む姿勢を崩さなかったことは否定できない。
過去の拡大再生産だけにとどまらず、常にアップデートした最新型を提示しようとする姿勢は、音楽に対して真摯な姿勢のあらわれなのだろう。
ちょっとは見習えよ、アクセル・ローズ。
BOY & CULTUR GEORGE
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1. God & Love
ダークな味わいを持った、ゴスペル調のバック・ヴォーカル&コーラスが時々入るオルタナ・ブルース。久方ぶりのメジャー作の一発目がこれとは、冒険を通り越してもはや無謀。いや過去に囚われたくないのはわかるんだけどさ、出だしはもうちょっとアッパー系のポップ・チューンでもよかったんじゃね?というのは余計なお世話か。
2. Bad Blood
なので、ちょっと地味なグルーヴィー・ファンクが展開されたこのチューンの方が、俺的には好み。ていうか、「成長したカルチャー・クラブ」、ファンが望んだ形は、正しくこれなんじゃないかと思う。ほど良く抑制されたファンクネスとポップ・センス。サビがクラプトンの「Bad Love」ソックリ、というのは目をつむろう。
3. Human Zoo
全盛期を思わせる、ちょっとカリブっぽさを漂わせたポップ・チューン。いまのジョージの声域に合わせて、キーはかなり低め。昔だったら、もっとリズムが跳ねてたのだろうけど、やはりそこは寄る年波、しっとり聴かせてスタイルで仕上げている。
4. Let Somebody Love You
ちょっとお気楽なレゲエ・チューン。無理にポップに寄せず、ほんと気楽なビートに身を任せるジョージの姿が見えてくる。そう、もはや最前線にはいないのだから、ほどほどのファン・サービス、そして自分の好きなペースでやればいいのだ。
5. What Does Sorry Mean?
続いてもレゲエ2連発、今度はラヴァーズ・ロック。さらにシフトダウンしたビートは、ゆったりした楽園の世界。でもジョージの声が野太いため、空はどこか曇り気味。そりゃそうだ、だって英国人だもの。ピーカンは似合わない。
6. Runaway Train
王道のフィリー・ソウル。完全にリスペクト状態、ほぼそのまんま。リズミカルなストリングス、ツボを押さえたサビメロ、完璧なポップ・ソウル。俺的にもこのアルバムのベスト・トラック。
新しいサウンドではない。むしろノスタルジー満載の音である。でも、みんなが新しいモノばかり求めているわけではない。新機軸と言えるのはもちろん「God & Love」だけど、いや余計だなやっぱ。
7. Resting Bitch Face
70年代ニュー・ソウルを彷彿させる、シリアスなファンク・ロック。ギターのリフとホーンの絡みは、レア・グルーヴ好きにはたまらない好物。ジョージの声質も趣きが変わっており、いろいろな技を持ってるんだな、というのが窺える。疾走感を求めるのなら、間違いなくコレ。彼らにそう言ったのを求める人が少ないのが残念だけど。
8. Different Man
どの曲もそうだけど、このアルバムでのジョージは過去のアーカイヴへのリスペクトを強く打ち出している。この曲もサム&デイブあたりにインスパイアされたスタックス・ソウルなのだけど、ほぼそのまんま。どうせならご本人登場、といった風にデュエット企画にしてもよかったんじゃないの?と余計なお世話を焼きたくなってしまう。
9. Oil & Water
ビリー・ジョエルかエルトン・ジョンを連想してしまうピアノ・バラード。リズム主導のポップ・チューンだけではなく、こういったバラードもまた、彼の本質のひとつである。全盛期も「Victims」のような王道バラードを歌っていたけど、声に深みが加わったことによって、説得力が増したよなぁ、という感想。演歌もバラードも、人生の紆余曲折を経ないと、重みが出ないのだ、という好例。
10. More Than Silence
「Be My Baby」(コンプレックスじゃないよ、ロネッツの方)のオマージュとも受け取れるリズム・パターンに乗せて歌われる、スケール感あふれるロック・チューン。U2みたいになるんだろうけど、そこまで下世話にはならないんだな、別の意味で。ベテランのまっとうなロック・チューンとしては、秀逸の出来。
11. Life
多分、ジョージ的には最もヴォーカルに力を入れたゴスペル・チューン。年齢に合った曲調、といった見方とは別に、こういった歌を歌えるようになるため、紆余曲折と七転八倒を重ね、経験を積んできた、という見方もできる。
若いうちにこれを歌っても、浮き足立ちばかりが目立って消化不良で終わっていたかもしれない。この曲だけじゃなく、ポップという最強ツールを使わずに、虚飾を取り払った姿勢で取り組んだのが、この『Life』だったのだろう。ようやく納得した。
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