好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Culture Club

歳食ったって?顔デカいからや。 - Culture Club 『Life』

folder 2018年リリース、前作『Don't Mind If I Do』から19年ぶり、5枚目のオリジナル・アルバム。本国UKでは最高12位、他のEU諸国ではトップ40にも入らず、あまり話題に上らなかった。
 近年の傾向として、彼ら80年代組の全盛期を知っているアラフィフ世代の購買力によって、CDなどフィジカルの売り上げは良いはずなのだけど、その恩恵は届かなかったようである。ていうか、あまり積極的にプロモーションも行われなかったのか、俺自身もリリースを知ったのは、だいぶ後になってのことだった。
 ただでさえCDが売れない時代、配信限定じゃないアルバムを製作できたことだけでも、充分賞賛に値することではある。あるのだけれど、一時は世界規模で栄華を極めた彼ら、クオリティだって決して低くないアルバムが知られていないのは、ちょっと悲しい。

 近年の再結成事情として、今回の彼らのような「新録アルバム・リリース → ツアー」というケースは減っている。大抵は新規ユーザーを取り込むための「オールタイム・ベストをリリース → そこから世界ツアー」という流れ。ちなみに、日本を含むアジア圏は大抵あと回し、終盤でチャチャっと済まされるのが、これまたセオリーとなっている。
 滞りなく世界ツアーを終えることができれば、最後にライブ映像か音源をリリースして、一連のプロジェクトは終了、最後まで「ファン・サービス」という名の債権回収に余念なく励む。
 または、「欧米の有名フェスにいくつか出演 → 配信限定で新曲リリース →それを含めたベスト・アルバム → EUまたは全米ツアー」という流れもある。
 ニュー・アイテムがある分、こっちの方がもう少し良心的かもしれないけど、シングル程度で収めるのが無難である。ヘタに内輪で盛り上がってアルバム制作にまで発展しちゃうと、大抵ロクなことがない。ストーン・ローゼスがこのパターンにはまって撃沈した。
 なので、ヘタにニュー・アルバムに手を出さないよう、プロジェクト関係者はアーティスト・サイドにたびたびクギを刺す。やるんだったら、プロジェクトを終えてから、個人としてやってくれ。俺たち巻き込まれたくないし―。
 これまでリリースされた再結成アルバムは、かなりの高確率で駄作が多い。実際の売り上げも含め、これは紛れもない事実である。
 それもあって、なかなか完成させる気ないんだろうな、X Japan。

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 普遍的なメッセージをわかりやすく届けるために作った「The War Song」がネタ扱いされたあたりから、彼らの人気は下降線を辿ってゆく。能天気な「センソーハンターイ」のインパクトが強すぎて、まともな評価はいまだ下されていないけど、マジメに向き合えば、シリアスなメッセージ性をポップにコーティングした優秀なヒット・ソングなのだ、と言いたいのだけど、やっぱダメだ、お手軽なウケ狙いにしか聴こえない。
 クイーンもポリスもキング・クリムゾンも、日本語バージョンは黒歴史として、ほとんどのケースで封印されてしまっている。若き日の過ちというか気の迷いというか、とにかくヤっちまった感が強い。
 その後は気を取り直し、再度キャッチ―なポップ・ソング路線へ回帰したカルチャー・クラブだったけど、一度踏み外した路線を修整するのは、なかなか難しい。一時は隆盛を極めた第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンのブームも収束し、連動して彼らのチャート・アクションも地味になってゆく。
 さらに加えて、バンド内の人間関係もギスギスし始める。職場内恋愛進行中だったジョージとジョン・モスとの痴話喧嘩が決定打となり、グループは解散してしまう。
 解散後、各メンバーは一旦表舞台から消え去ったけど、フロントマンであるジョージはスキャンダラス面も含め、何かと話題に事欠かなかった。とはいえ、純粋にアーティストとしてフィーチャーされることはほんのわずか、ドラッグに溺れたり激太りしたり痴話喧嘩で逮捕されたり、ゴシップ・ネタで取り上げられることがほとんどだった。
 ソロ・デビュー作の『Sold』は、話題性も手伝ってそこそこヒットしたけど、その後はリリースするたび、セールスは尻すぼみしていった。UKハウス〜テクノの盛り上がりに乗じて、DJに転身したことがちょっと話題になったけど、ほんと話題になっただけ、売り上げに直結するものではなかった。
 アーティスト的には「すでに終わった懐メロ歌手」というのが、世間一般の彼の評価だった。もはや搾り出しても新たなアイディアは出なさそうだし、そもそもそんなニーズも少なかった。

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 シーンの第一線からは弾き出されたものの、単発的に行なわれた再結成ライブは盛況だった。ランダムに盛り上がる80年代リバイバルの中で、彼らは間違いなくスターだった。
 1998年、彼らはヒューマン・リーグとハワード・ジョーンズと合同で欧州ツアーを行なった。単独では難しいけど、複数アーティストによるショーケース形式なら、動員も見込めるし、収益もそこそこのまずまずだし。
 どの国・どの地域でも、懐メロショーというのは手堅い需要がある。みんながみんな、最新ヒット・チャートばかり聴いているわけではないのだ。そんな中、カルチャー・クラブの出番になると、客席の盛り上がりはピークに達し、実際、レビューの反応も好意的だった。
 そこでどうおだてられちゃったのか慢心しちゃったのか、世間のニーズに応じるつもりで彼ら、渾身のニュー・アルバム『Don't Mind If I Do』をリリースしてしまう。これが間違いだったんだな。
 再結成事情のセオリー通り、同時期リリースのベストはプラチナ認定の大ヒットだったけど、『Don't Mind If I Do』はUK最高64位と、玉砕する結果で終わった。その後、彼らは暫し沈黙に入ることになる。

 そして、もう何度目かになるリユニオン・プロジェクトは、用意周到に行なわれた。2014年、オフィシャル・サイト開設と同時に、長期ワールド・ツアーと新録スタジオ・アルバムのリリースが告知された。そこには、シーンの第一線にこだわるバンド側の強い意志が汲み取れる。
 アルバム・タイトルは『tribes』、スペインで2週間、集中的にセッションを行なう予定も決まっていた。事前準備の仕切りは、完璧のはずだった。
 ただほとんどのメンバーは、長くレコーディングから遠ざかっていたこともあって、作業は思い通りに進まなかった。加えて、ジョージが喉にポリープを患ってしまい、さらに工程は遅延。最終的にプロジェクトは頓挫、一旦仕切り直しとなってしまう。
 そんなこんなでツアー日程が先に決まってしまい、レコーディングは無期延期となる。どこかのタイミングで長期バカンスを取り、その一部をスタジオ・ワークに充てる方法もあったのだろうけど、彼らが再びスタジオに入ることはなかった。

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 思えばカルチャー・クラブ、ニューロマ出身ということもあって、「流行りモノ狙いの泡沫バンド」という位置付けが長く続いていた。ただ四半世紀を経て、フラットな視点で見れば、ポップ・センスに長けた高性能UKファンク・バンドだった、というのが近年の評価である。
 全盛期は、シンセ中心の音作りと、ジョージのバイセクシャル性ばかりがクローズアップされていたけど、装飾を取り払ったリズム・セクションは、レゲエやファンカラティーナ、16ビートまで、自由自在にこなしている。リズム・カッティング主体だったギター・プレイも、キャッチーでツボを押さえたオカズを入れてきたり、基本はファンク・マナーに忠実なバンドである。
 モータウンやグラム・ロックをルーツとしたジョージの楽曲も、当時は刹那的な使い捨てポップと思われていたけど、21世紀にも充分通用する大衆ポップ性によって、今ではスタンダード化したものも多い。
 さらに、彼らの音楽がティーン向けのバブルガム・ポップで収まらなかった要素として挙げられるのが、案外ドスが効いているジョージの声質。バラードからダンス・チューンまで難なく歌いこなせるヴォーカル・テクニックと併せて、同時代のバンドの中では図抜けていた。
 確かな技術に裏付けされたサウンド・メイキングと、自身の声質を理解したソング・ライティング。ビジュアルだけに頼らない、ミュージシャンとしての基本スペックの高さが、彼らをエヴァーグリーンな存在に押し上げた。
 ビジュアルったって、セックス・アピールはないしね、ジョージ。顔デカイし。

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 で、話は戻って『Life』。ファンはもちろん、もしかして本人たちも忘れてたんじゃないかと思えるくらい、長いインターバルを置いてリリースされた。企画倒れで終わっちゃっただろうな、と思っていた人が大多数だったはず。
 正確なアーティスト・クレジットは「Boy George and Culture Club」と、ジョージのソロ・プロジェクトのニュアンスが強くなっている。ここだけ見るとジョージ以外は参加してないんじゃないかと思ってしまうけど、楽曲クレジットを見ると、ほとんどの曲がメンバーとの共作となっている。
 多分、イギリスでは「あの」ボーイ・ジョージといった風に、それなりにネームバリューが生きているのだろう。でも、売れなかったけどね。
 すっかり野太さに磨きがかかったジョージのヴォーカルは、年輪の渋みが加わり、味わいが深くなった。紆余曲折と二転三転を経てエモーショナルさが増すというのは、演歌のメンタリティにも通ずるものがあるな。
 多くの同世代アーティストが懐メロ化してゆくか、はたまたセミ・リタイアすることが多い中、常に第一線のサウンドを追求し続けていたのが、ボーイ・ジョージである。バンド解散後のハウスやDJプレイなど、その多くはジョージがやる必然性を感じなかったけど、少なくとも、前へ進む姿勢を崩さなかったことは否定できない。
 過去の拡大再生産だけにとどまらず、常にアップデートした最新型を提示しようとする姿勢は、音楽に対して真摯な姿勢のあらわれなのだろう。
 ちょっとは見習えよ、アクセル・ローズ。


LIFE
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1. God & Love
 ダークな味わいを持った、ゴスペル調のバック・ヴォーカル&コーラスが時々入るオルタナ・ブルース。久方ぶりのメジャー作の一発目がこれとは、冒険を通り越してもはや無謀。いや過去に囚われたくないのはわかるんだけどさ、出だしはもうちょっとアッパー系のポップ・チューンでもよかったんじゃね?というのは余計なお世話か。
 
2. Bad Blood
 なので、ちょっと地味なグルーヴィー・ファンクが展開されたこのチューンの方が、俺的には好み。ていうか、「成長したカルチャー・クラブ」、ファンが望んだ形は、正しくこれなんじゃないかと思う。ほど良く抑制されたファンクネスとポップ・センス。サビがクラプトンの「Bad Love」ソックリ、というのは目をつむろう。

3. Human Zoo
 全盛期を思わせる、ちょっとカリブっぽさを漂わせたポップ・チューン。いまのジョージの声域に合わせて、キーはかなり低め。昔だったら、もっとリズムが跳ねてたのだろうけど、やはりそこは寄る年波、しっとり聴かせてスタイルで仕上げている。

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4. Let Somebody Love You
 ちょっとお気楽なレゲエ・チューン。無理にポップに寄せず、ほんと気楽なビートに身を任せるジョージの姿が見えてくる。そう、もはや最前線にはいないのだから、ほどほどのファン・サービス、そして自分の好きなペースでやればいいのだ。

5. What Does Sorry Mean? 
 続いてもレゲエ2連発、今度はラヴァーズ・ロック。さらにシフトダウンしたビートは、ゆったりした楽園の世界。でもジョージの声が野太いため、空はどこか曇り気味。そりゃそうだ、だって英国人だもの。ピーカンは似合わない。

6. Runaway Train
 王道のフィリー・ソウル。完全にリスペクト状態、ほぼそのまんま。リズミカルなストリングス、ツボを押さえたサビメロ、完璧なポップ・ソウル。俺的にもこのアルバムのベスト・トラック。
 新しいサウンドではない。むしろノスタルジー満載の音である。でも、みんなが新しいモノばかり求めているわけではない。新機軸と言えるのはもちろん「God & Love」だけど、いや余計だなやっぱ。



7. Resting Bitch Face
 70年代ニュー・ソウルを彷彿させる、シリアスなファンク・ロック。ギターのリフとホーンの絡みは、レア・グルーヴ好きにはたまらない好物。ジョージの声質も趣きが変わっており、いろいろな技を持ってるんだな、というのが窺える。疾走感を求めるのなら、間違いなくコレ。彼らにそう言ったのを求める人が少ないのが残念だけど。

8. Different Man
 どの曲もそうだけど、このアルバムでのジョージは過去のアーカイヴへのリスペクトを強く打ち出している。この曲もサム&デイブあたりにインスパイアされたスタックス・ソウルなのだけど、ほぼそのまんま。どうせならご本人登場、といった風にデュエット企画にしてもよかったんじゃないの?と余計なお世話を焼きたくなってしまう。

9. Oil & Water
 ビリー・ジョエルかエルトン・ジョンを連想してしまうピアノ・バラード。リズム主導のポップ・チューンだけではなく、こういったバラードもまた、彼の本質のひとつである。全盛期も「Victims」のような王道バラードを歌っていたけど、声に深みが加わったことによって、説得力が増したよなぁ、という感想。演歌もバラードも、人生の紆余曲折を経ないと、重みが出ないのだ、という好例。

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10. More Than Silence
 「Be My Baby」(コンプレックスじゃないよ、ロネッツの方)のオマージュとも受け取れるリズム・パターンに乗せて歌われる、スケール感あふれるロック・チューン。U2みたいになるんだろうけど、そこまで下世話にはならないんだな、別の意味で。ベテランのまっとうなロック・チューンとしては、秀逸の出来。

11. Life
 多分、ジョージ的には最もヴォーカルに力を入れたゴスペル・チューン。年齢に合った曲調、といった見方とは別に、こういった歌を歌えるようになるため、紆余曲折と七転八倒を重ね、経験を積んできた、という見方もできる。
 若いうちにこれを歌っても、浮き足立ちばかりが目立って消化不良で終わっていたかもしれない。この曲だけじゃなく、ポップという最強ツールを使わずに、虚飾を取り払った姿勢で取り組んだのが、この『Life』だったのだろう。ようやく納得した。





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80年代のお茶の間洋楽、これも第1位 - Culture Club 『Colour by Numbers』

folder 1983年リリース2枚目、キャリアのピークに発表されたアルバム。
 この時期に活動していたバンドの例に漏れず、彼らもまたポスト・パンク以降の系譜に分類される。デビュー以前はもっとハードなニュー・ウェイヴ系パンクをやっていたのだけど、80年代に入ってからのファンカラティーナ?ニュー・ロマンティックの隆盛に乗っかって、もともとの資質だったモータウン?フィリー・ソウルのエッセンスを導入、これまでのキャリアをチャラにしてのデビューだった。ただメンバー中に美形キャラ担当がいなかったため、もともとパーリーピーポー的ゲイ・ファッションに適性のあったヴォーカルBoy Georgeを前面に立て、他バンドとの差別化を図った次第。他のメンバーは至ってノーマルな出で立ちだったけど、その極端なコントラストが逆にGeorgeの特異性を引き立たせていた。
 ただそのGeorge、メイクは確かにうまいのだけど、そもそもの作りがマッチョ系のゴツゴツした骨格で、しかも身長のわりに頭がデカかったため、他のニューロマ系バンドのような美形キャラで押し通すには、ちょっと無理があった。その異形さはむしろ嘲笑の対象になることが多く、彼のイラストやポートレートはいつも顔面が大きくデフォルメされ、さながらピエロ的な扱いだった。

 前年にリリースしたシングル”君は完璧さ”の大ヒットによって火がついてからは、破竹の勢いでスターダムを駆け登り、その人気は”Time”で決定的になった。この時期のシングル攻勢は神曲を連発しており、バンドの勢いが窺える。
 山のようなライブや取材、TV出演をこなしながら、そんな過密スケジュールだったにもかかわらず、丁寧なスタジオ・ワークで作り上げたのがこのアルバム。UK1位US2位だけじゃなく、前回レビューしたWham!同様、日本でもオリコン・チャート1位を獲得したのだから、その勢いがわかっていただけるはず。
 1984年のオリコン年間チャートは1位がMichaelの『Thiriller』で2位が映画『フラッシュダンス』のサントラのワンツーフィニッシュ、洋楽勢が上位独占している。ほかにもVan HalenやDuran Duranも50位以内に食い込んでいる。別にこの年だけが強かったわけではなく、80年代までのアルバム・チャートは洋楽が結構な割合でランクインしていた。輸入盤を取り扱う店がまだ少なく、国内プレスしか選択肢がなかったこの時代、ラジオでも有線でもテレビでも、あらゆる場所で音楽があふれていた。

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 80年代初頭の日本のアーティストのほとんどが、フォークやニュー・ミュージックを引きずっていることによって、どこか垢抜けなかったのに対し、彼らを含むブリティッシュ・インベイジョンの連中は、どれもスタイリッシュに洗練され、当時の日本人ではなし得ないキラキラしたオーラをまとっていた。
 その代表格がDuran DuranやSpandau Balletらのニュー・ロマンティック勢で、特に「ミュージック・ライフ」での支持が厚く、毎号何かにつけては特集記事やグラビアで露出が切れずにいた。もともとミーハー層のユーザーを対象にした雑誌なので、その辺はニーズが合致してたのだけど、少女マンガに出てくるような美形キャラがどこでどう捻れていったのか、「絶世の美少年にデフォルメされた彼らが同性愛に走ってメンバーとイチャイチャする」といった内容の同人誌が出回るようになり、それが今に繋がる腐女子のルーツになったのは、また別の話。

 「シンセ・サウンドをベースとして、のちのユーロビートにも繋がる性急なBPMビートに乗せて、小粋なステップを踏みながらプレイする」という基本フォーマットのサウンドのため、一部のヒット曲を除いてはあまり顧みられる機会も少ないニューロマ勢だけど、まだ洋楽コンプレックスの強かった日本においての人気は絶大だった。後になって聴いてみると、ダイナミック・レンジの狭いチープなサウンドにはアラが目立つことも多いのだけど、当時はこれが最先端とされていたのだ。
 そのDuran Duranも、全盛期は嬉々としてお子様向けポップ・ソングを垂れ流していたのだけど、サイド・プロジェクトのPower StationとArcadiaでの活動を経て、本格的なロック・サウンドを目指そうと覚醒した。メンバー・チェンジや脱退が相次いだことを契機として、ヒット・シングル中心の活動からオーソドックスなロック志向へと大きくシフト・チェンジした。すぐに結果は出なかったけど、地道な活動がバンド・イメージの変化に寄与し、いまでは安定したポジションを手に入れている。でもこの頃はそんなことには無自覚な、ただのチャラ男集団に過ぎなかったけど。

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 「全世界を相手にするにはちょっとムリがあるけど、まだ洋楽コンプレックスが根強く残ってる日本だったら、なんとかなるんじゃないか」と踏んだのか、80年代は日本での活動に大きくウエイトを置いたバンドも少なからずいた。すでに世界を相手にしていたはずのPoliceも日本語ヴァージョンのシングルを出していたし、特にほぼ日本での活動がメインだったG.I.Orangeなんて、しょっちゅう来日していた。外タレのくせに「夕焼けニャンニャン」にも出演していたりして、実に幅広い活動ぶりである。
 ていうかお前ら、何がしたかったんだ。

 後に日本語を交えた”戦争のうた”という、まんま脳天気なプロテスト・ソングをリリースしたり、あのDavid Bowieも出演していた『焼酎・純』のCMに出演するなど、日本での露出も高かったCulture Club、てかGeorge。
 奇妙かつコミカルにデフォルメされたイラストは、マンガや週刊誌でも取り上げられることが多く、音楽に興味のない小学生でも存在くらいは知られているくらいだった。興味がなかったとしても、”カーマは気まぐれ”のフレーズ「カーマカマカマカマ」は気軽に口ずさめるチビッ子は多く、それだけお茶の間への浸透度は高かった。
 ロックの世界ではBowieをルーツとした「男のお化粧文化」は浸透していたけど、80年代初頭において、男のメイクはまだキワモノ的扱いだった。YMOや忌野清志郎らに顕著なように、爬虫類的な物珍しさ、どこか腫れ物に触るような態度で接するのが一般的だった。
 そんな中Georgeのファッションは、自身ではスタイリッシュにキメているはずなのだろうけど、そのアンバランスな体型とのコントラストがどこか滑稽で、スキが多かった。身近にいればキモいけど、傍目で見る分には親しみやすくわかりやすいという、ある意味貴重なキャラクターを有していた。

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 そんな彼らの音楽性が注目されたのは、もっと後の話。ティーンエイジャー向けのお手軽ダンス・ポップが主流だったニューロマ勢の中では、ソウル/ファンク・テイストが強かったため、うるさ型のリスナーでもCulture Clubだけは別格という人も多かった。とは言ってもちょっと恥ずかしさもあって、堂々と公言する者は少なかったけど。
 実際、このアルバムもしっかり練られたサウンドを展開しているのだけど、当時はビジュアルの奇抜さばかりが先行して、そこまで論じられなかったのが実情。普遍的なポップスとして優秀なのはもちろんだけど、ほぼバンド自身によるサウンド・メイキングの妙はもっと評価されてもよい。
 彼ら同様、現役当時は「売れ線狙いのお子様ポップ」と揶揄されてたけど、後にリスペクトするアーティストが続々名乗りを上げたことで再評価の機運が高まったのが、T.Rex。彼ら、ていうかMarc Bolanも全盛期はシングルがバカ売れしたことによって「ガチャガチャしたグラム・ポップ」の烙印を押されていたけど、彼の死後は「伝説のポップ/ロック・アーティスト」としての評価が決定的となり、今でもコアなファンが増殖し続けている。当時はティーンエイジャー向けの他愛のないポップ・ミュージシャン的扱いだったけど、その影響を受けたティーンエイジャー達が楽器を手に取るようになってアーティストとなり、Bolanをリスペクトした作品を聴いたリスナーがそこからまた影響を受けて、さらにルーツを遡ってパイオニアであるBolanに行き着き…。好循環による連鎖によってエッセンスが脈々と受け継がれてゆくことは、個人としてのリターンは少ないだろうけど、アーティストとしては幸福な状況である。
 でも今のところ、「Culture Clubに影響を受けてバンドを始めました」というアーティストは聞いたことがない。俺世代のDNAには確実に残っているはずなので、有形無形でも影響は受けているはずなのに。
 やっぱ言いづらいのかな?

 どれだけ絶頂のアーティストでも必ずピーク・ハイのポイントがあり、誰もがみな永遠の右肩上がりではない。ブリティッシュ・インベイジョンによる追い風の影響もあって、この時期の彼らが抜きん出た人気と実力をを併せ持っていたのは事実。他のニューロマ系アーティストと比べても、楽曲のクオリティがハンパないレベルである。キャッチーで売れ線にもかかわらず、しっかりとスタンダードとして残っているのは、やはりこの時期の彼らのポテンシャルがMAXだった証拠である。
 多分10年後20年後でも充分通用する、永遠のポップ・チューンたち。
 誰だ、「80年代は空白だ」って言ったのは。


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1. Karma Chameleon
 初期モータウンをイメージさせるポップ・ソウル・ナンバー。いい感じでハーモニカも入ってるし。US・UKともにチャート1位を獲得。他16カ国でもナンバー1を記録している。トップ10ヒットまで集計したら、それはもう星の数ほど。アメリカでは年間チャート1位を獲得している。
 見かけによらずGeorge のヴォーカルはマニッシュな声質なのだけど、ソフトなコーラス・アレンジとのコントラストが絶妙にマッチングしている。
 当時、猫も杓子も導入していたシンセ機材をほぼ使わず、バッキングは手堅くドラムの音色もオーソドックス、ムダなオカズも入れずタイトなリズムに徹している。そんなサウンドの中でGeorgeはクールかつ丁寧に歌っている。
 80年代が産んだ良質のマスターピース。



2. It's a Miracle
 大ヒット・シングルに隠れがちだけど、これもニュー・ウェイヴとモータウンとの幸福な巡り合わせによるナンバー。ちょっと軽めのファンク・ビートが重くなくて心地好い。Jon Mossのドラムはアタック音が強いので、変に技巧を凝らしてしまうと、逆にクドくなってしまうので、このくらいのリズム・アレンジがちょうど良い。
 『Colour by Numbers』からは5枚目のシングル・カットだったため、チャート的にはUS13位UK4位とスマッシュ・ヒットで終わったけど、それでもリリースから1年も経ってからのシングル・カットでもここまでチャートに食い込んでいるのだから、当時の人気のほどが窺える。
 この曲に限らず、アルバムに全面参加しているのが女性バック・ヴォーカルのHelen Terry。めっちゃソウルフルなその歌声は、時にGeorgeを凌駕するほどで、グルーヴィー感ハンパないレベル。Incognitoよりはるか前にアシッド・ジャズの世界観を創り上げている。
 ポップ路線からこのサウンドにうまくシフトしてゆけば、大ヒットは望めないけど息の長い活動を続けられたんじゃないかと思う。

3. Black Money
 こちらはメロウなR&B調ナンバーに仕上げている。しっとりムーディーな隠れキラー・チューン。前曲同様、Helenが随所で吠えまくっている。
 こういった曲を聴いていると、80年代UKアーティストの多くがIsley Brothersの影響を色濃く受けているのがわかる。Wham! もそうだけど、70年代のIsleyのまんまじゃんこれも。ただ以前も書いたと思うけど、Isley特有のファルセットが苦手な人にとっては、男要素が強く野太いGeorgeの声の方がメロディ・ラインに説得力が出て聴こえる。

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4. Changing Every Day
 鍵盤主体で作られたベーシック・トラックを発展させて作られたと思われる、ミドル・テンポ・ナンバー。こうしたジャジー・テイストのサウンドは、Style Councilに代表されるように、一時UKで大流行していた。この辺が後のアシッド・ジャズ・ムーヴメントに流れてゆくのだけど、それはもうちょっと後の話。
 歌謡曲テイストも入ってるマイナー・コードは、日本人にも馴染みやすいサウンド。ちょっと切ない間奏のサックスが郷愁を誘う。アップ・テンポでもなくバラードでもない、こういった難しい曲もきちんとまとめてしまえるのは、やっぱバンド・コンディションが良好で、脂が乗っていた証拠。

5. That's the Way (I'm Only Trying to Help You)
 A面ラストということで、ここは敢えてベタなバラード。ほとんどHelenとのデュエット状態。
 後に彼女もソロ・デビューを果たし、最初こそいいスタートを切ったのだけど、次第に影も薄くなり、リリ-スも途絶えてしまった。サポートではイイ味出してはいても、ソロ・メインで活動するというのは、やはり具合がちょっと違ってくる。やはりGeorgeとのコンビネーション、それと当時のCulture Clubの作り出すサウンドが一番相性が良かったのだろう。

6. Church of the Poison Mind
 B面トップはソリッドなドラムがリードするアップ・テンポ・ナンバー。アルバム先行シングルとしてリリースされ、UK2位US10位の好発進。こちらもアシッド・ジャズのルーツ系とも言えるほどソウル・テイストが濃く、よってHelenも大活躍。レアグルーヴ好きの人ならツボにはまるだろうけど、売れ過ぎちゃったせいもあって、そこまでの再評価に至っていない。通ぶってWorking Weekに「イイね! 」するより、素直にこちらを聴いてみてほしい。あまりのクールなグルーヴ感にぶっ飛ぶから。



7. Miss Me Blind
 USでは6位まで上昇したのに、なぜかUKではシングル・カットされなかった、ニュー・ウェイブの香りの残るポップ・ロック・ナンバー。間奏でエフェクトの聴いた重いギターが入ったり、彼らの中ではソウル色が薄く、ややロック寄り。ギターのカッティングはファンク入ってるけど。日本でもシングル・カットされてるので、俺世代には馴染みが深い。
 この曲でバック・コーラスを担当しているのが、かつてJody Watleyと活動を共にしていたJermaine Stewart。Shalamarのオーディションに落ちて一時は腐ってたけど、ここで一気に脚光を浴び、ソロ・デビューを果たすまでに至った。エイズによる短命が惜しまれるシンガー。



8. Mister Man
 かなりポップ寄りだけどレゲエ・ナンバー。メロディはマイナーなので、その対比はちょっと面白い。バンドとしてのポテンシャルは最高潮だったため、いろいろなサウンドを試してみたくなったのだろうけど、まぁこのアルバムの中ではちょっと地味。曲順的にもあまり注目されないポジションだしね。Culture Clubというブランドを抜きにすれば、良質の80年代ポップ。

9. Stormkeeper
 再びレゲエ・ナンバーが続く。ニュー・ウェイヴ~ポスト・パンクの連中はダヴ~レゲエとの相性が良いので、特にリズム隊はこういったサウンドに傾きがち。こればっかりだとヒット性が薄くなるので、アシッド・ジャズの原型的なサウンドの方がヒット性は強く、バンド運営としては正しい判断。
 ただこういったプレイヤビリティの強いナンバーもやりたくなってしまうのは、ミュージシャンとしては避けられない。ラス前の息抜きとしては最適な曲順。

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10. Victims
 3枚目のシングル・カット。ここだけ急に音が分厚くなり、同年代サウンド的にドラマティックなサウンド。UKでは3位まで上昇したけど、USではシングル・カットされなかった。こういった大味なバラードはUKアーティストには向かず、アメリカ勢の方がうまい。俺的にも彼らにこういった方向性は求めていないので、正直「ふ~ん」といった印象。一体、何がしたかったのか。




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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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